第2回フォルツ賞、受賞作決定

11/1、故ウィリアム・フォルツの名を冠したSF文学賞、第2回の受賞作が発表された。短篇で名を成したウィリーにちなみ、対象は短篇限定。また今回は「ロボット」というテーマが提示されていた。
最終選考委員は3名。アルント・エルマーとスーザン・シュヴァーツはローダン作家(シュヴァーツはすでに作家チームから脱退)。シュテファン・フリードリッヒは化学博士の肩書きを持ち、ケミカル企業デグサ(DEGUSSA)の研究員。ローダンのオンライン・ファンクラブ(PROC)の会誌TERRACOMの編集責任者。
受賞者・タイトルは以下のとおり:

第1席
Julia Blaschke »12 Minuten«
「十二分間」
第2席
Frank Hoese »Botch«
「ボッチ」
第3席
Gerhard Franz »Über den Tod hinaus«
「死を乗り越えて」
Damian Wolfe »Die perfekte Maschine?«
「完璧な機械?」

■William Voltz-Award 公式サイト

不可視の境界 -1-

ハヤカワ版:(p143)
 三四五六年、太陽系帝国はなお混乱していた。大群に勝利してから、十四年が経過しようとしているにもかかわらず。それでも、太陽系人類は活力をとりもどしたほうなのだ。銀河のほかの宙域では、依然として大群の傷跡がのこされていた。テラニア政府から離脱した植民者の星間国家は、ほぼ崩壊状態にある……新アルコン人の国家群や、アコン帝国も同様だ。こうした国家がいつ安定をとりもどすか、だれにも予想がつかない。したがって、国内がある程度まで安定した太陽系帝国……太陽系人類は他種族に対し、圧倒的に優位な立場にある。銀河所属の同盟関係は、はるか過去のものとなったのである。
 先見性のない者は、この運命の恩恵を認めようとせず、さらなる発展に利用する権利を放棄せよと叫んだ。しかし、ペリー・ローダンは近視眼的判断をくだす人間ではない。大執政官たる者、太陽系人類の福祉を第一に考え、あらゆる手段をつくしてそれを実現しなければならないのだ。太陽系帝国が銀河諸種族の頂点に立っている以上、大執政官には、原生人類の膨張願望を満足させる必要があった。さらには、他種族に先んじる願望も。

原文:
Das Solare Imperium des Jahres 3456 hatte die Wirren, in die es durch das Auftauchen des Schwarms vierzehn Jahre zuvor gestürzt worden war, überwunden. Dieser Umstand allein sprach für die Tatkraft und die Entschlossenheit des Erdenmenschen; denn in anderen Gegenden der Galaxis waren die Folgen des Schwarms noch immer deutlich zu spüren. Selbst solche Sternenreiche, die von terranischen Auswanderern gegründet worden waren, sich jedoch frühzeitig von der Bevormundung, wie sie es nannten, der Regierung in Terrania City losgesagt hatten, befanden sich immer noch im Zustand der Desorganisation – ebenso wie die neu-arkonidischen Staatsgebilde und das Reich der Akonen. Zwar war überall vorauszusehen, dass man eines Tages in nicht allzu ferner Zukunft den Zustand der Stabilität wieder erreichen würde. Aber innerhalb des Solaren Imperiums war das Gleichgewicht schon jetzt wiederhergestellt, und die terranische Menschheit befand sich damit den anderen Völkern der Galaxis gegenüber in einer Vorrangstellung, wie sie sie seit den längst vergangenen Tagen der Galaktischen Allianz nicht mehr innegehabt hatte.
Kurzsichtig wäre derjenige gewesen, der die Gunst des Schicksals nicht erkannt und darauf verzichtet hätte, diesen Vorteil zu nutzen und weiter auszubauen. Niemand aber hatte Perry Rhodan je kurzsichtig nennen können. Die erste Sorge des Großadministrators galt dem Wohl der solaren Menschheit, und auf keine Weise ließ sich diesem Wohl besser dienen als dadurch, dass er die Vorrangstellung des Imperiums unter den Völkern der Milchstraße stärkte und dafür sorgte, dass die Einflusssphäre des irdischen Menschen vor den Expansions- und Eroberungsgelüsten anderer Sternnationen sicher war.

試訳:
 三四五六年の太陽系帝国は、十四年前に大群の出現によって突き落とされた混乱を克服していた。この状況だけでも地球人類の活力と意志力を端的にあらわしている。銀河の他の宙域では、大群の後遺症が依然克明に残されているのだから。テラからの移住者によって建設され、かれらの言う「テラニア政府の干渉から早期に解放された」星間帝国ですら、いまだに無秩序状態にあった――新アルコン人の国家群やアコン帝国と同様に。そう遠くない将来に安定した状況までたどりつく兆候は、確かにそこかしこに見られた。だが、太陽系帝国の内部は現在すでにバランスをとりもどしているのだ。つまり、テラ人類は銀河の他種族に対するアドバンテージを占めたということ。これは、はるか過去のものとなった銀河同盟の時代から、たえてなかったことだ。
 この運命の恩寵を見落として、与えられた利点を活用することを怠るなら、先見に欠けるというもの。だが、ペリー・ローダンを近視眼的とそしる者はいまい。大執政官の関心はまず第一に太陽系人類の福祉にむけられており、それにあたっては、銀河諸種族の中における帝国の優位をいっそう強化し、他の星間国家の拡張志向や征服欲から地球人類の影響圏を安んじせしめる以上の良策はありえなかった。

原典:300巻『太陽系帝国の守護者』後半

2019/06/26 ハヤカワ版抜粋および原文を追加

一番下の指……?

die beiden untersten Finger /
試訳:薬指と小指を

笛吹きの授業で、「はい、そこでは両方の一番下の指を持ちあげてっ」と教えるシーン。辞書等にはまるで見あたらないが、どうやら「薬指と小指」のことであるらしい。笛をかまえた状態で、その2本が一番「下」に位置しているわけだ。ただ、原文の表現だと、どちらの手を意味しているのかがつまびらかではないのだが。

ネットで検索した際、「両方の一番下の指を閉じ、残りを伸ばして親指でささえ、持ちあげる」という表現に行きあたった。ある種の挨拶らしいのだが、これがどうも、人さし指と中指を立てて、ちょっとすかした敬礼というか……「スチャッ☆」ってやつ(笑) あれだっ、とイメージが湧いた。
これで、消去法でいくと、薬指と小指でいいのかな、と。

原典:『髪織絨毯職人』アンドレアス・エシュバッハ

無限からの警告 -1-

声が無限をつらぬいて流れていく。いたるところで、時空から乖離して。受容する感覚さえあるなら、誰にでも聞くことができる。けれど、何が起きたか気づくものは、そもそも宇宙に二体しか存在しなかった。
 “それ”と“反それ”である。
 その言葉は虚無中を、まるで時間流のように滑りゆく。
 かれらは互いのあいだに、幾多の銀河の知性体を四次元チェスの駒のように指し合う緊迫した戦場を築きあげていた。かすかに興じる気配とともに、互いを観察する。そればかりか、自立を勝ちとり、何が起こりつつあるかを知ろうとする知性体たちの努力をも追尾していた。
〈ほぼ決まりだな〉
〈そうかな?〉
〈ルールなら守っているぞ〉
〈その主張には反駁できないな〉
 押し殺した勝利感をともなう“反それ”の声。〈計画は順調だ〉
 “それ”はこたえない。少なくとも、明確な文章では。ただおもしろがっているような平静さが感じとれた。そうすることで、自分の観点ではまだ何ひとつ決してはいないと競合者に教えているのだ。
〈あれは――選ばれた無類の狩人は――すでに再び、ローダンの足跡をたどりつつある〉
 “それ”は黙ったまま。この新たな一手に異議のないことを意味する。
〈逃げられはしないぞ!〉
 “それ”は何もこたえない。事実として受けいれたのだ。

原典:316巻『無限からの警告』後半

地獄のまちがいじゃない?

%タイトル%――というのはさておいて。
ドメインまで取得しておきながら、もう3ヵ月放置している。もったいないオバケが出そうなので、ここらで見切り発車してしまおう。

むかーしむかし、PRFCの会誌でやった、自虐企画『誤訳天国』の延長線上にあると思っていただいて、さしつかえなし。むしろ、そんな昔のことをおぼえていただいてたら恐悦至極。
とはいえ、Blog形式で毎日書けるほどネタがあるわけでは――いや、ネタはあるが、あんなもん毎日書いてたら危険この上ないし、精神衛生上もよろしくないので、無限架橋NEWS同様、ブログの皮をかぶった雑記帳(掲示板ですらないのか?)になるはず。

例によって、「あー、こいつ、またこんなこと書いてやがるー」と、生暖かく見まもっていただければ幸いである。

09/02/14追記:ブログ「誤訳天国」は本来このエントリから開始された。

エシュバッハ『ソラー・ステーション』

今年でデビュー10周年というアンドレアス・エシュバッハ。9月には最新作、サスペンス巨編『ノーベル・プライス』が刊行されたばかり。
今回ご紹介するのは1996年刊行の第2長編『ソラー・ステーション』。近未来(というか、すでにパラレルだが)の宇宙空間を舞台にしたSFサスペンスである。

宇宙ステーション《ニッポン》は、NASDA開発の太陽発電実験衛星。衛星軌道上で広大な太陽セルを展開し、地上へとエネルギーを送信するテストをおこなっている。しかし、ここ数回、送信されるエネルギー流の照準がブレるというトラブルが続いていた。何者かによるサボタージュを確信する船長の森山は、保安・整備担当のレナード・カーに極秘調査を命じる。ステーションの乗員はわずか9名。誰が破壊工作者なのか? 疑心暗鬼にかられつつ調査を始めた矢先に、乗員のひとりが死体で発見された。ご丁寧にすべての通信機も破壊されている。これは、宇宙開発史上初の「密室殺人」だった。
しかも、犯人を追及する暇もあらばこそ、打ち上げ軌道をはずれた欧州のアリアン・ロケットがステーション直撃コースで接近中であることが判明。地上基地との連絡もとれないまま、レナードらソラー・ステーションの乗員たちは非常事態に立ちむかうことを強いられる……。

主人公レナード・カーは元US空軍の戦闘機パイロット。第一次湾岸戦争に従軍した過去を持ち、当時の通訳であった女性とのあいだに一子をもうけている(後、離婚)。1999年のNASA解体(!)に伴い、宇宙飛行の道を模索して日本へやってきた。専門家ぞろいの乗員たちのなかでは唯一の「門外漢」だが、地上との連絡が途絶した状態で立て続けにステーションを襲う危機のなか、「非・民間人」であるレナードだけが対処しうる事態が、やがてやってくる。

本作の作中年代は2015年。執筆から20年後、現在から10年後だが、展開される未来像はかなりシュールだ。
湾岸戦争とほぼ時をおなじくしてソビエト連邦が崩壊。強敵をうしなったアメリカは、徐々に衰退をはじめる。上述のNASA解体後、スペースシャトル3機は日本に売却された。いまでは、宗教的原理主義や狂信的環境保護主義に振りまわされた合衆国は無明の闇に沈み、わずかにLAやシアトルに文明の牙城が残されているにすぎない。
ヨーロッパではEU統合の試みが失敗。乱立した小国の小競り合いが続き、外の世界では「バビロンやアステカ同様、ヨーロッパは滅亡した」と論評される始末。
湾岸地域を含むアラブ世界では、世紀末にあらわれた「預言者」に率いられた狂信的《聖戦軍》により第二次湾岸戦争が勃発。北部アフリカを荒廃させ、ジハードは1年前から聖地メッカを包囲していた。
そして、現在の世界を主導するものは……環太平洋地域、なかんずく、アジアである。日本、韓国、中国、そしてシドニー・オリンピック以降、非アジア文化圏の旗手となったオーストラリア。
中でもわれらが日本は買い込んだシャトルを使って宇宙開発ではリーダー的存在であるようだ……ハワイも日本の領土みたいだし(笑)

とまれ、サボタージュに端を発した事件は、やがてソラー・ステーションを強奪し、地上へ攻撃をしかけようとするテロリストとの戦いに発展していく。占拠犯たちの標的・メッカには、レナードのひとり息子、ニールがいる……。このあたり、宇宙版ダイ・ハードで、かなり盛り上がる。
序盤、オルタネートな未来像がつかめるまでは、一部やや珍妙なものが混じる日本語に苦笑しつつ読み進んだのだが、一旦話が動きだすと、もはや逃げ場なし、ノンストップのジェットコースターである。これだったら、うまく宣伝すれば日本でもそれなりに売れるんではなかろうか。

個人的には、エピローグの描写から、レナードが木更津近辺に居をかまえているらしいことに親近感をおぼえたりおぼえなかったり。都心から袖ヶ浦あたりまで地下鉄でびゅーんて、某サイバーパンクでも思ったけど、千葉県は将来もそんなに発展しないだろう(爆)