ティトゥス・ミュラーにC・S・ルイス賞

公式サイトを見ると、ゲスト作家ティトゥス・ミュラーが執筆した、2319話『ヴルガタの植民者』が、2005年C・S・ルイス賞を獲得したことが報じられている。

ティトゥス・ミュラーがゲスト作家として参加することは、既報のとおり。Logbuchによると、ともに市民講座のSFワークショップの講師として同席したつてで、ローダン編集長クラウス・フリックの知己となり、その後コンヴェンションで紹介されたフェルトホフとも友人関係にあるらしい。

では、C・S・ルイス賞とは? まさか、イギリスの文学賞かと思ったら、ドイツの出版社ブレンドウ社が従来開催していた「真珠文学賞」がリニューアルされたものらしい。同社はルイスのナルニア国物語やペレランドラ三部作のドイツ語翻訳版を出版している。その関係で、ルイスの誕生日である11月29日に発表される文学賞にこの名を冠したようだ。ちなみに、今年がリニューアル第1回。受賞作家にはイギリスはワイト島40日の旅をプレゼント、クリエイティヴな時間をお過ごし下さい、というのは、なんというかリッチなのか何なのか。さらに受賞作は翌2006年にブレンドウ社から独自に出版される予定である。

ところで、このルイス賞、選考基準がちょっと意外。「ドイツ語圏で現在刊行される文学作品で、キリスト教的価値観を知らしめたもの、再確認したもの」というのだ。SFでも、幻想文学でもないのである。4名いる審査員も、よく見ると神学者とか、新聞でキリスト教関連の連載を持っているラジオのコメンテーターとかなお歴々。
ミュラー自身は、中世ヨーロッパなどを舞台にした歴史小説が主なので、そのあたりの作品が受賞するなら、まだわかる。しかし、今回受賞したのは、ローダンにゲスト参加した『ヴルガタの植民者』なのである。どんなストーリーなのか、今度は期待半分、不安半分になってしまう。ロボットやエイリアンへの偏愛はどうなったのだ(笑)

以下、余談:
あれ? 2319話って、来年発売じゃないの? と思ったあなた。あなたは正しい。今回の受賞は、原稿段階で送られた作品に与えられたものである。よく見ると、選考規約には「文学作品プロジェクトに与えられる」と書かれている。ラスヴィッツ賞や星雲賞とはちがうのだった。

■公式News: PERRY RHODAN-Roman 2319 schon jetzt ausgezeichnet! (リンク切れ)
■Brendow Verlag: C.S. Lewis-Preis

フルロックの聖域 -3-

なんか……むしろ長くなっているのはなぜだろう?(笑)
いや、必ずしも誤訳でないのまで混じってしまったからなのは、明白なのだが。

■42p

ハヤカワ版:
「ここなら、ステーションを覆う腐植土層もごくわずかだ。この近くなら、どこを掘っても、すぐ金属面が顔を出すはず。

原文:
“Wir haben eine Stelle gefunden, wo die Station nicht hoch mit Humusboden bedeckt ist. Vielleicht ist es auch nur eine Art Ausläufer, den wir entdeckt haben. Immerhin sind wir jetzt sicher, daß unter uns nicht nur Nährboden existiert.”

試訳:
「ステーションを覆う腐葉土がさほど厚くない箇所を見つけ出しましたな。ある種の突端であるかもしれませんが、とにかく、いまや足下にあるのが腐葉土ばかりではないことが確実になったわけです」

どこを掘っても、って、どこに書いてあるのさ。Wo immer とか見あたらないけど。

■43p

ハヤカワ版:
「たぶん、そうでしょう」と、ガイト・コールはにやりと笑い、

原文:
“Sie haben wahrscheinlich recht”, sagte Gayt-Coor zögernd.

試訳:
「たぶん、そうでしょう」と、ためらいがちにガイト・コール。

笑ってない、ない。

ハヤカワ版:
それだけじゃない。保安システムがまだ機能していた場合、通信を傍受されてしまう」

原文:
Außerdem besteht die Gefahr, daß die Botschaft von Fremden abgehört wird.”

試訳:
加えて、通信を傍受される危険性もある」

よっぽど保安システムにしたいらしいが……。結局、そんなシステムは出てこないのに。

ハヤカワ版:
 アッカローリーは腕をおろした。
「いずれにしても、もうすぐ日没だ。

原文:
Zeno schaltete das Geräte wieder aus. Er sah sich um.
“Die Sonne ist untergegangen. Es wird bald dunkel sein.

試訳:
ゼノは装置のスイッチを切った。あたりを見まわして、
「日も落ちた。じき、暗くなるぞ。

前の文章が、「スイッチを入れようとした。」ではなく、「スイッチを入れた。」である。時制については何をかいわんや。2章で、太陽を見て、「午後遅くだ」→「もうすぐ沈む」と来て、今回が「沈んだ」と順を追っているのに。

■44p

ハヤカワ版:
「さ、はいってみよう」と、ゼノがいった。

原文:
“Worauf warten wir noch?” fragte Zeno.

試訳:
「さ、なにをもたもたしてるんだ?」と、ゼノ。

どーでもいいが、ゼノの短気なようすがあらわれた科白だと思う。

■45p

ハヤカワ版:
黒い金属プレートがあらわれた。
「水滴ですよ」と、ペトラクツ人銀河学者は、

原文:
Er hinterließ eine dunkle Spur auf dem Metall.
“Schwitzwasser!” reklärte Gayt-Coor.

試訳:
金属プレート上に、黒っぽい跡が残った。
「結露ですな」と、ガイト・コールが説明する。

#結露して、白っぽくなっていた……と見るべきか。少なくとも、水滴で金属はかくれないだろう。

ハヤカワ版:
 ガイト・コールは腐食した金属部分をさししめし、
「錆が浮いている! まともにメインテナンスしているのであれば、こうなるまで放置するはずがない。つまり、ここにはだれもいないということ」

原文:
Gayt-Coor deutete auf ein paar Metallteile.
“Es gibt Anzeichen von Oxydation! Ich kann mir nicht vorstellen, daß Wesen, die um das Fortbestehen ihrer Station besorgt sind, solche Spuren hinterlassen würden. Wahrscheinlich war schon lange kein lebendes Wesen mehr in dieser Halle.”

試訳:
 ガイト・コールが金属部分をさししめして、
「酸化の兆候があります! ステーションの存続に配慮するものがいたら、こんな形跡を残すとも思えない。おそらく、もうずっとこのホールに生命体は訪れていないのでしょう」

原文にないのに、「錆びた部分をさした。『錆びている!』」はあんまりな日本語。酸化→錆は適度な調整だと思うけど。

■46p

ハヤカワ版:
「早くステーションにはいろう」(中略)
「ステーションかどうか、まだわからない」

原文:
“Wir müssen ins Innere des Raumschiffs vordringen.” …
“Es ist nicht bewiesen, daß es sich um ein Raumschiff handelt.”

試訳:
「宇宙船のなかへ入らないと」
「まだ宇宙船と決まったわけではないぞ」

どちらも原語は「宇宙船」である。たしかにステーションでも宇宙船でもかまわないと、上で書いた気がするが……。意味不明な変換。単に語呂優先か。

■47p

ハヤカワ版:
 アッカローリーは壁に開口部を発見する。内部には皿状の金属プレートがあり、金属棒で固定されているように見えた。

原文:
Zeno fand schließlich eine zweite Öffnung. Sie ruhte auf einer Metallscheibe, die durch eine Stange mit der Schachtwand verbunden war. Die Schale erinnerte Rhodan an eine flache Badewanne.

試訳:
 やがてゼノが第二の開口部を発見した。その下のシャフトには、壁とバーで接続された合金製の円盤があった。受皿部分は、平べったいバスタブを思わせる。

第二の開口部も、おそらくは床にあるはね蓋。バーの部分がアームになっていて、皿が上下するのだろうが……固定されてはまずいだろう。ちなみにバスタブなので、後でローダンが寝そべったりする(笑)

ハヤカワ版:
「それ以前に、どうやって動かすかが問題だろうな。もし、動けばだが……」と、テラナー。

原文:
“Das ist vorläfig nicht unser Problem”, sagte Rhodan. “Zunächst einmal müssen wir den Mechanismus finden, mit dessen Hilfe wir den Lift in Bewegnung setzen können – sofern er überhaupt noch funktioniert.”

試訳:
「さしあたり、それは問題じゃない」と、ローダン。「まず最初にリフトを動かすメカニズムをみつけなくては――そもそも、まだ動くとしてだが」

誤訳ではない。少し後で、なぜか友に冷たいローダンが「それも問題じゃない」と、さらに外道っぷりを発揮するので、そろえた方がおもしろいかな、程度である。

ハヤカワ版:
なんらかの合図

原文:
durch einen bestimmten Impuls

試訳:
特定のインパルスで

誤訳……というほどではない。ローダン世界のテクニカルタームということで。

ハヤカワ版:
 ローダンは思いきって、プレートに跳び乗った。すると、意外にもゆっくり下降しはじめる。なめらかな動きだ。すぐ跳び降りることもできたし、反重力プロジェクターを作動させてもよかったが、あえてそうしない。プレートがどこに向かうか、興味があったのだ。

原文:
   Entschlossen stieg Rhodan in die Schale. Zu seiner Überraschung begann sie sofort nach unten zu gleiten. Rhodan unterdrückte seine erste Reaktion, blitzschnell aufzuspringen und sich mit dem Antigravprojektor in Sicherheit zu bringen. Er blieb liegen und wartete, wohin ihn die Schale bringen würde.

試訳:
 意を決してローダンは受け皿に乗ってみた。意外にもすぐさま下降しはじめる。跳び降りて反重力プロジェクターを動かし逃れたいという衝動を、なんとか抑えこんだ。寝そべった体勢で、どこへ運ばれていくのかを待ちかまえた。

バスタブが泡でいっぱいなら鼻歌のひとつも出そうな感じ。友の手前、かっこうつけているみたいにも思える。誤訳というほどちがうわけではない。念のため。

■48p

ハヤカワ版:
 プレートは床に降りると、いったん停止し、ふたたび上昇を開始。ローダンはあわてて床に降りたった。

原文:
   Rhodan stieg aus der Schale, die lautlos wieder nach oben glitt.

試訳:
 ローダンが受け皿を降りると、リフトは音もなく上昇を開始した。

重しがなくなったから上がる、という機械的なものと思われる。関係代名詞ではあるが、それこそふたつの文として考えるべきかと。

ハヤカワ版:
 床も鐘状ドームと同様、ガラスのような物質製だ。ドームは高さが六メートル、直径二十メートルほどである。

原文:
   Das glockenförmige Gebilde aus glasähnlichem Material war etwa sechs Meter hoch und Durchmaß zwanzig Meter.

試訳:
 鐘状ドームはガラスのような物質でできており、高さが六メートル、直径が二十メートルほど。

床の話はどこにもない。

■49p

ハヤカワ版:
「乗り物というやつ、どこでも臆病者用に設計されているのでして」

原文:
“Wohin ich auch komme: Alle Transportmittel werden nur für Schwächlinge konstruiert.”

試訳:
「どこへ行っても、乗り物というやつは虚弱な者向けに設計されているものでして」

身体が「弱い」者用なので、屈強なガイト・コールだと……ということ。

ハヤカワ版:
「ペトラクツでは例外なのか? ヤアンツトロン人やデュイント人と違って……」

原文:
“Die Petraczer sind die Ausnahme”, erklärte Zeno. “Nicht etwa die Yaanztroner oder Duynter.”

試訳:
「ペトラクツ人が規格外なのさ」と、ゼノ。「ヤアンツトロン人やデュイント人と違って」

「ゼノがからかおうとするのを、」と付記するくらいなら、揶揄している内容くらい理解してほしいもの。

■50p

ハヤカワ版:
大声で歌っているが、どんなメロディーなのか、鐘状ホールの三人には聞こえない。

原文:
Die Männer, die ihn transportierten, sangen laut. Ihre Gesänge hörten sich unmelodisch an und wurden von den drei Raumfahrern innerhalb der Glocke nicht verstanden.

試訳:
男たちは大声で歌っているが、調子はずれなうえ、鐘状ホールの三人にはさっぱり理解できなかった。

「大声で歌っている」のは聞こえている。何を歌っているのかわからないのだろう。

ハヤカワ版:
「でも、殺人を見すごすのですか?」

原文:
“Sollen wir zusehen, wie sie ihr Opfer auf diese Weise quälen?”

試訳:
「捕虜をあんな風に虐待するのを見すごすのですか?」

苦しめるのであって、殺すとは書いていない。生贄であることがわかるのは、もっと後。

ハヤカワ版:
「いずれにしても、野蛮なのはたしかだ」ペトラクツ人がローダンに味方する。

原文:
“Aber es ist offensichtlich, daß sie primitiv sind”, ergriff Gayt-Coor Rhodans Partei.

試訳:
「だが、原始的なのは明白」ガイト・コールがローダンに味方する。

直訳した方が科学者っぽい。余談だが、この直後、捕虜虐待を非難したガイトが、捕虜にした神官をいたぶるありさまときたら……(笑)

ハヤカワ版:
「本題にもどろう」と、大執政官は話題を変えた。

原文:
“Das ist auch nicht unser Problem”, lenkte Perry Rhodan ab.

試訳:
「それも、われわれが問題とすべきことではない」と、ペリー・ローダンは話題を変えた。

47pに続き、ガイト・コールに冷たいローダンである(笑)

フルロックの聖域 -2- 後編

2章後半は、思ったほど多くない。代わりに、印級のものがほとんどだったりする。

■32p

ハヤカワ版:
ステーションも、地上施設か宇宙船か、まだはっきりしない。しかし、なにかがあるとしたら、地中だろう。

原文:
Auch Einzelheiten einer Station oder eines Riesenschiffs waren nicht zu rekennen. Wenn es überhaupt etwas gab, lag es unter dem Boden.

試訳:
ステーションだか巨大宇宙船だかの詳細も依然不明。何があるにせよ、地中である。
#ステーションでも宇宙船でもどっちでもいいのだ。何かあれば。

■33p

ハヤカワ版:
着陸脚の皿状先端が、でこぼこした地表でも艇体を水平にたもつ。

原文:
Seine Landebeine mit den großen flachen Tellern paßten sich den Unebenheiten des Bodens an, so daß das Schiff genau waagrecht stand.

試訳:
先端の皿状になった着陸脚が地表の凹凸にあわせて伸縮し、艇体を水平にたもつ。
#主語は皿ではなく脚(複数形)。だいたい、平らなものをでこぼこの上に置いたら、余計ぐらつく。……とはいえ、これはローダン世界宇宙船の「テレスコープ脚」を知らないとイメージ湧かんかもなあ。

■34p

ハヤカワ版:
そのまま、丘の稜線まで浮遊しながら、

原文:
und schwebte die Anhöhe zum oberen Senkenrand hinauf.

試訳:
窪地のへりと同じ高さまで浮上して、
#艇は窪地に着陸し、縁を越えると視界が届かないので、そこまで偵察している。その前の「直近の隆起まで」を「丘の周辺だけ」としたのに引きずられた形。

■37p

ハヤカワ版:
あるいは、藪のなかに動物がいるのか……? 高度を下げてみたが、それらしきものは見あたらない。

原文:
Einmal glaubte er ganz sicher zu sein, daß unter ihm ein paar stämmig aussehende Pflanzen hin und her liefen, aber als er sich tiefer sinken ließ, konnte er sie nicht mehr sehen.

試訳:
一回など、下方でずんぐりした植物が動きまわるのを確かに見たと思ったのだが、下降してみてもそれらしきものはみつからなかった。
#「動」く植「物」で、動物ー、とか言わんでほしい。あえて「蔓がのたくる」とかにする手もあるが、後のストーリーからして、実際に「植物が走りまわっていた」のだろう。

■38p

ハヤカワ版:
アッカローリーとペトラクツ人も降りてきた。

原文:
Rhodan, Zeno und Gayt-Coor formierten sich.

試訳:
ローダン、ゼノ、ガイト・コールの順で隊伍を組んだ。
#実際には、前の段落で「ローダンと同行者二名は」着地している。なお、試訳もけっこう恣意的である。原文は要するに「フォーメーションを組んだ。」としか書いてない。

ハヤカワ版:
その程度の偽装では、探知機はだませない。《プリント》のシステムも反応しなかったはずだ。

原文:
Kein Ortungsgerät, das hatten die Anlagen der PRYHNT bewiesen, ließen sich von Äußerlichkeiten täushcen.

試訳:
外見をとりつくろっても探知機はだませない。それは《プリント》のシステムが証明していた。
#「現に《プリント》のシステムには発見されているではないか。」とかやるとくどいかな……。

■40p

ハヤカワ版:
水がないのに成長しつづける植物とは……! この一帯が、ますます不気味に思えてくる。

原文:
Die Pflanzen wurden Rhodan immer unheimlicher.

試訳:
ここの植物のことがますます不気味に思えてくる。
#だから、水はこれから探すのだ。→42pの「湿った砂」参照。

誤訳部分というのは、日本語でのつながりが変になることが多い。なんとなく、それをとりつくろおうとして泥沼にはまっているような気が、ふつふつとしてきた。ともあれ、当初はこのへんでやめるつもりでいたのだが、ローダンとフルロックの対決シーンがえらいことになっている……ようなので、最後まで照合することにした。もう少し簡潔にしたいところだが、どうなるかは、またそのとき。

2019/06/10追記:結局、仕事が忙しくなって最後までできなかったのが悔やまれる。なんか、骸骨がひとりでにローダンの方へ転がってくる誤訳とか、ひどかったなぁ……。

うちの辞書:独和編

あんまりイタい話ばかりなのもナニなので……つーか、こっちの方が、実はもっとイタいかも(笑)
自称・辞書フェチ(爆)なわたしの家には、まっとうな百科事典とかはないくせに、ローダン読むため・SF訳すため、と称して、やたらと辞書・辞典の類が多い。いったいどのくらいあるものやら、そのうち整理しようと思いつつ、ほったらかしである。何かの参考……にはならないと思うけど、こんなものがありまっせ、というだけの話。

まず、ローダンを原書で読むうえで、どうしても必要な独和辞典。

一番最初に使った独和は、高校の図書室にあったもので、独和・和独が一冊におさまったハンディタイプのものだった。これは、もはや出版社すらわからない。現ソラー・フリートの井口氏の共同輸入に交ぜていただき、はじめて手にとった原書である400話『たそがれの人類』をテキストに、受験勉強のふりして図書室でレポート用紙に翻訳の真似事をしたのだが……結果は以前、FC会誌版の誤訳天国で書いたとおり。全面改訳のうきめにあった。いや、辞書のせいじゃなくて、文法をまるで知らなかったせいなのだが。

続いては、大学の第二外語のために購入した辞書。
●現代独和辞典(三修社) 見出し語数96000語
1984年に購入し、初期の原稿はこれ一冊でどーにかした。購入した理由は単純、学校指定だったから。教科書といっしょに並んでいたのだ。しかし、ぼろぼろになるまで使ったのは、当然というか、大学の授業ではなく、ローダン読むためである。その余禄は、『エスタルトゥへの道』等の要約集として結実した。最終的に、ページがずっぽり抜け落ちてしまい、ご臨終に。4000円。
現在は、後継である新現代独和辞典が書店に並んでいる。

●独和大辞典(小学館) 見出し語数160000語
1985年に出版されたバカでかくかつバカ高い辞書。当時、25000円というのは大金だった(今でもそうだけど)。確かパチンコの勝ち分をつぎこんだおぼえがある(笑) 語数の多さは伊達ではなく、複合動詞などを調べるのに役立った。大学中退して市川へ流れる際、そのバカでかさがアダとなり、古本屋行き。
いまは第2版、しかもコンパクト版が出版されている。値段もけっこうお手頃に……辞書コーナーに行くたびに、買い直そうかと手にとっては棚に戻している(笑)

●マイスター独和辞典(大修館) 見出し語数65000語
上記の現代独和辞典がお亡くなりになった後を受けて、現在も使用している。見出し語数は3分の2になっているが、実際の使い勝手はそんなに変わらない。3900円。
なぜこの本を選んだかというと、その少し前、カンターロ・サイクルで頻出した vernetzen 「ネットにつなぐ、ネットワーク化する」という動詞が載っていたのが、当時これだけだったから。実にローダン優先でわかりやすい理由である。
さすがに最近、これもページが切れはじめた。そろそろ買い換えどきかもしれない。先日遭遇した新語(?)、Malessen が載っているやつが欲しいのだが、みつからずにいる。ご存じのかたはご一報を。

あと、たまに使っているのが木村・相良のコンパクト版。元々はマガンが愛用しており、やや文語的な訳語……有り体に言うと少々古めかしい訳語が、最近の辞書には載っていない意味を教えてくれるので、結局自分でも購入してしまった。

さすがに20年もローダン読んでいると、大意をとるだけなら辞書がなくてもどーにかなる程度にはなったが、ちゃんと読むにはやっぱり辞書は欠かせない。いつかこれぞ!というのに出会いたいものだが……。
サイト「電脳独語教室」の統計を見ると、30種類以上出版されているという独和辞典。実際の本屋でそんなに並んでいるのにはまだお目にかかったことがない。至高(だか究極だか)の辞書にめぐりあう日は、やってきそうにないのだった。

フルロックの聖域 -2- 前編

すでにお腹いっぱいな気もするが第2章……。

■23p

ハヤカワ版:
涙滴型の搭載艇に、

原文:
auf das eiförmige Beiboot

試訳:
卵形の搭載艇に、
#卵→涙滴は1章にもあり。

ハヤカワ版:
「なんのつもりだ!」と、どなった。

原文:
“Um Himmels Willen!” entfuhr es ihm,

試訳:
「こいつはまた!」と、口をついて出る。
#「天意にかけて!」はびっくりしたときの常套句。まあ、あとで喧嘩してるから、ここで怒るのもありかなあ。

ハヤカワ版:
なんとかバランスをとって、ハッチに到達。

原文:
Irgendwie gelang es ihm, durch das Schleuse zu kommen, ohne das Gleichgewicht zu velieren.

試訳:
どうにかバランスを崩すことなくハッチをくぐり抜けた。
#通過したので、次の文章が船内になる。

■24p

ハヤカワ版:
そこで大声が聞こえ、立ち往生した。
原文:
Zeno hörte ihn im Innern des Beiboots rumoren, dann ertönten ein paar Flüche;

試訳:
船内でがたごと物音がした後、悪態をつくのが聞こえた。
#立ち往生というか、ローダンと口論してるのでわ。

ハヤカワ版:
もう荷物を置いたらしい。

原文:
(なし)

試訳:(削除)
#確かに前後から推測がつくことだが。

ハヤカワ版:
「そうは思わないが。一匹狼タイプだからな」

原文:
“Er ist eben ein Individualist.!”

試訳:
「まあ、かれは一匹狼タイプだからな」
#実は思ってたりして(笑) eben には「だからさ」という、半ば同意の意味があるのだ。

■25p

ハヤカワ版:
「そうじゃない!」アッカローリーはきびしい口調で、「もちろん、同行するさ。いまのは気の迷いだ。忘れてくれ。

原文:
“Naturlich nicht!” versicherte der Accalaurie mit Nachdruck. “Herz und Verstand sprechen oft eine verschiedene Sprache.

試訳:
「むろん、同行するとも!」アッカローリーは強い語調でうけあった。「感情と理性はしばしば相反するもの。
#ま、これくらいの意訳は許されると思うが。

ハヤカワ版:
「突拍子もない行動は、好きではないからな。それでも、友にはちがいない。かなり変わった男だがね」

原文:
“Weil ich ihn nicht verstehe. Trotzdem glaube ich, daß er unser Freund ist, wenn auch ein ziemlich merkwürdiger Freund.”

試訳:
「かれのことが理解できないからさ。それでも、友であると信ずるのだ。まあ、かなり変わった友人だがね」
#誤訳ではない……と思う。ただ、こうしておいた方が、この話最後のローダンの科白「われわれ、理解し合っているというわけだ」(これも試訳)が生きるはず。

■26p

ハヤカワ版:
「搭載艇を使わせない気か?」と、アッカローリーがたずねた。

原文:
“Sie wollen uns doch nicht aufhalten?” fragte Zeno bestürzt.

試訳:
「止めるおつもりではないでしょうね?」と、狼狽したゼノがたずねた。
#一応、ヘルタモシュはお偉いさんなので。ローダンは自分も国家元首だからともかく。

■27p

ハヤカワ版:
「直接視認飛行でいきます」と、ガイト・コールが報告。

原文:
“Direkter Zielflug!” kündigte Gayt-Coor an.

試訳:
「まっすぐ目標へ飛びます!」と、ガイト・コールが告げる。
#リニア飛行じゃないんだから。

■28p

ハヤカワ版:
いまは時間を稼がなければならない。

原文:
Sie mußten jetzt vor allem Zeit gewinnen. Jeder übereilte Entschluß konnte alles verderben.

試訳:
いまは何より時間を稼ぐ必要がある。性急な結論はすべてをだいなしにしかねない。
#削除する必要はない。なくても通じる文章だが。

■29p

ハヤカワ版:
旧種族の惑星への着陸を禁ずる法のことは、知っているはずだぞ」

原文:
Sie kennen unser Gesetz, das uns den Kontakt mit Planeten alter Völker verbietet.”

試訳:
旧種族の惑星との接触を禁ずる法のことは、知っているはずだぞ」
#だからゾンデもまずいんじゃないかとゆー(1章)

ハヤカワ版:
「はっきりしているのは一点のみ。諸君にはわたしの援助が必要だ……そういうことだな」

原文:
“Entscheidend ist, daß Sie ohne meine Hilfe Horntol niemals erreicht hätten.”

試訳:
「決定的なのは、わたしの援助なくして諸君がホルントルにたどりつくことはなかったという事実だ」
#だから俺にもたたり責任があるんだよ……ということ。

ハヤカワ版:
脳ハンター

原文:
Gehirn des Jägers

試訳:
ハンター(の脳)
#異脳者と書いてサイナックと読ませたい(をひ

■30p

ハヤカワ版:
ヘルタモシュとのやりとりで、すっかり影が薄くなっている。

原文:
Die Auseinandersetzung zwischen den beiden Ceynachs und Heltamosch ließ den Petraczer völlig unbeeindruckt.

試訳:
サイナックふたりとヘルタモシュとの議論にもまるで動じていない。
#無関心とか泰然自若でもいいと思うが。

ハヤカワ版:
マト・プラヴトがふたたびスクリーンにあらわれ、ローダンはそちらに視線をもどした。
原文:
Als Heltamosch sich abermals meldete, wirkt er ruhiger.

試訳:
やがて再びスクリーンにあらわれたヘルタモシュは、ずっと落ちついて見えた。
#余計なものを足さずに、必要なものを残してもらいたい。

■31p

ハヤカワ版:
水源があるとか、花粉が原因の可能性も、充分にある。

原文:
Ebenso gut können es Wasseradern oder Blütenstaub sein.

試訳:
水脈や花粉が原因ということも、同程度考えうる。
#Wasserader は(地下)水脈。

ハヤカワ版:
防御バリアは展開していないから、

原文:
Es war ungeschützt

試訳:
無防備な状態で
#意味的には同様だが、大気圏突入時に、という見方もあり。

ハヤカワ版:
かといって、バリアをはれば、探知システムの注意をひきかねない。
原文:
Rhodan wußte, daß das Risiko eines tödlichen Angriffs bei einem solchen Unternehmen nicht ausgeschaltet werden konnte.

試訳:
こうした作戦の際、致命的な攻撃をうけるリスクが排除しきれないことは、ローダンには承知の上だ。
#無理矢理バリアに話をもっていこうとするから……。

ハヤカワ版:
ガイト・コールは操縦に専念している。未知の探知システムが存在するものと仮定して、できるだけ目立たずに着陸する必要がある。

原文:
Wahrend des Landemanövers ließ Gayt-Coor sich auf Keine Experimente ein. Er steuerte das eiförmige Kleinstraumschiff direkt auf die Oberflaäche des Planeten zu. Das mußte eventuellen Beobachtern den Eindruck vermitteln, daß diese Landung eine selbstverständliche Sache war.

試訳:
着陸操作のあいだ、ガイト・コールは“実験”をさしはさもうとはしなかった。小型艇をまっすぐ地表へとむける。もし観察者がいたとしたら、この着陸はしごく当然のものに思えただろう。
#自分で創作した部分に引きずられてどーするね。

■32p

ハヤカワ版:
まもなく、予定した着陸地点が視界にはいってくる。

原文:
Das Beiboot sank langsam auf den ausgewählten Landeplatz hinab.

試訳: 搭載艇はゆっくりと、予定した着陸地点へと降下する。
#視点をローダンに統一した、ということか?

……えーと、これで半分か。
前の章よりも、なんというか、“主観的な”文章が多いような気がする。訳者か編者かはわからないが、他人の作品を紹介してるって意識、ないのか、もしかして?

フルロックの聖域 -1-

ハヤカワ版:(p10)
「どうしたのだ?」

原文:
“Man sollte Ihnen verbieten, unsere Sprache zu benutzen”, sagte Heltamosch.

試訳:
「きみにはナウパロの使用を禁ずるべきかもしれんな」

「われわれの言語」はナウパロと推測。

ハヤカワ版:(p11)
「今回も無私の援助に感謝しなければ。

原文:
“Ich wundere mich, daß Sie mir noch immer in einer solchen Form helfen”, sagte er. “Was ich für Sie getan habe, ist längst ausgeglichen.

試訳:
「なおも自ら援助していただけるとは。わたしがきみのためにしたことを埋め合わせてもすでにお釣りがくる。

原文「こうした形で援助」とはヘルタモシュが旗艦でローダンたちを運ぶこと。

ハヤカワ版:(p12)
「それでも、ユーロクには感謝している。じっくり話しあう時間がなかったのが、残念でならない。この銀河で最も謎の多い種族だったが……」
「ペルトゥスもいるがね」

原文:
“Ich schätze Torytrae trotzdem”, meinte Rhodan. “Es ist schade, daß ich keine Zeit habe, um mich mehr mit den Yulocs zu beschäftigen. Sie waren das interessanteste Volk dieser Galaxis.”
“Abgesehen von den Pehrtus!” sagte Heltamosch.

試訳:「それでも、トリトレーアのことは高く評価している。ユーロクという種族について調べる時間がないのが、残念でならない。この銀河で最も興味深い種族だよ」
「ペルトゥスを除けばな!」

原文 mit den Yulocs は複数形で種族全体を表している。

ハヤカワ版:
それにとっくに滅亡した種族だからな。いや、たんに噂だけの存在かもしれんぞ」

原文:
“Wir wissen nicht, ob sie noch existieren. Sie sind nur ein Gerücht.”

試訳:
いまも存在するかはさだかでない。まだ噂だけにすぎん」

いるかもしれないから、捜すわけで。

ハヤカワ版:
「われわれのような“失踪者”が、この大宇宙で出会うこと自体、奇蹟にひとしいのだ。それ以上はとても望めないね」
「いや、ふたりの邂逅は奇蹟でもなんでもない」と、マト・プラヴト。「きみらの捜しもとめるものが、ふたりを同じ場所へと導いたのだ」

原文:
“Es war ein unglaublicher Zufall, daß zwei Verschollene sich in einer großen Galaxis gefunden haben.”
“Das war kein Zufall” widersprach Heltamosch. “Ihre Ermittlungen mußten Sie beide früher oder später gleichzeitig gemeinsam an einem Ort auftauchen lassen.”

試訳:
「暗中模索するふたりが巨大な銀河の中で邂逅したこと自体が、そもそも信じがたい偶然なのだ」
「偶然などではないさ」ヘルタモシュが反駁した。「きみらの探求は、遅かれ早かれ、ふたりを同じ時、同じ場所へと導いたにちがいない」

ヘルタモシュの反論の方がIFの世界。あと、宇宙ではなく銀河(ナウパウム)。

ハヤカワ版:(p13)
《プリント》のポジションからは、惑星表面のほぼ三分の二が観察できた。

原文:
Bisher hatte man von der PRYHNT aus allerdings höchstens zwei Drittel der Planetenoberfläche beobachten können.

試訳:
とはいえ、《プリント》のポジションからは、惑星表面のせいぜい三分の二が観察できたにすぎない。

残り三分の一に文明の痕跡があるかもしれないし、というニュアンスを前後から読みとってほしい。

ハヤカワ版:(p14)
 ヘルタモシュは返事をせず、またタブーを恐れて、思いきった行動をとる決心がつかないのだろう。
「《プリント》は着陸しない」と、ゼノが言った。マト・プラヴトの態度を見て、やはり同様に判断したらしい。
「そのとおり。《プリント》は着陸しない!」と、ガイト・コールがくりかえす。(以下略)

原文:
Rhodan warf Heltamosch einen fragenden Blick zu. Der zukünftige Regierungschef schüttelte den Kopf. Heltamoschs Scheu vor den alten Völkern seiner Galaxis war so groß, daß er sich auch diesmal zurückhalten würde.
“Die PRYHNT wird nicht landen!” stellte Zeno fest. Er hatte den stummen Austausch von Frage und Antwort zwischen Rhodan und Heltamosch beobachtet und richtig gedeutet.
“Die PRYHNT wird nicht landen!” wiederholte Gayt-Coor.

試訳:
 ローダンはヘルタモシュに目線でたずねた。将来の政府首班がかぶりを振る。ヘルタモシュの太古種族に対する畏怖の念は強すぎるから、今回も後方にとどまるのだろう。
「《プリント》は着陸しないのだな!」と、ゼノ。ローダンとヘルタモシュの間に交わされた無言の対話を正しく理解したのだ。
「《プリント》は着陸しない、と!」ガイト・コールがくりかえした。(以下略)

ローダンとヘルタモシュが目と目で通じ合うのがキモかったのだろうか(笑) あと、ゼノもガイトも《プリント》における命令権はないはずで、一考の余地があるかと。

ハヤカワ版:
「いますぐに?」と、ゼノは驚いたふりをして、「もっとホルントルに接近したほうがいい」

原文:
“Jetzt schon?” entfuhr es Zeno. “Wir können noch viel dichter an Horntol herangehen.”

試訳:
「もうか?」と、ゼノが思わず、「もっとホルントルに接近できるのに」

動詞 entfahren は「(思わず)漏れる」なので、ふりではない。

ハヤカワ版:(p16)
「きみはこの銀河でも、もっとも高い知性を有する種族の一員だ。(以下略)

原文:
“Gayt-Coor gehört zu den Intelligenzen dieser Galaxis.

試訳:
「きみはこの銀河の知性体だ。(以下略)

ローダンとゼノはサイナックなのでこの銀河の禁忌に縛られない、という考え。Intelligenz はPRSでは「知性体」でほぼまちがいない。インテリゲンチャではない。

ハヤカワ版:
「あまり伝承やタブーに振りまわされるのは、いかがなものか。それに、部下の意志も尊重したほうがいいと思うが、ヘルタモシュ」
 デュイントの政府主席はしぶしぶ了承した。

原文:
“Sie dürfen die Legenden nicht überbewerten, Heltamosch.”
Heltamosch gab seine Zustimmung nur widerstrebend und wahrscheinlich auch nur deshalb, weil er die Entscheidungsfreiheit Gayt-Coors akzeptierte.

試訳:
「伝説を過大評価すべきではないよ、ヘルタモシュ」
 ヘルタモシュはしぶしぶ了承した。おそらくは、ガイト・コールの決断を尊重したがゆえのこと。

地の文を科白にくりこむ意味が不明。

ハヤカワ版:(p19)
そういう種族なのだ。

原文:
(なし)

試訳:
(削除)

der Accalaurie なので、ゼノ単体の話である。

ハヤカワ版:(p20)
 まもなく、探知スクリーンの映像が変わり、惑星地表がうつしだされた。

原文:
Wenig später wechselten die Bilder auf den Ortungsgeräten.

試訳:
 まもなく、探知スクリーンの映像が変わった。

「天国みたい」な風景が、拡大映像に変わっただけ。

ハヤカワ版:
「砂漠だろうか……」と、ガイト・コールがつぶやく。

原文:
“Es sieht aus wie Dünen!” stellte Gayt-Coor fest.

試訳:
「砂丘ですな!」と、ガイト・コールが確認。

デューンである。Wüste ではない。

ハヤカワ版:
とにかく、自然界のありふれた風景だ。人工物ではない」

原文:
“Was immer sich unter diesem Boden befindet, ist nicht natürlichen Ursprungs.”

試訳:
この下にあるのが何であれ、自然界のものではないな」

うちの原書は3版だが。そんなにちがうかね。

ハヤカワ版:
ロジック処理をほどこせば、もうすこし鮮明な画像が得られるだろう」

原文:
“Wir müssen die versiedenen Aufnahmen mit der Logikauswertung zusammensetzen, dann bekommen wir vielleicht ein vernünftiges Bild.”

試訳:
「さまざまな映像を論理分析してつなぎあわせれば、納得のいく全体像が得られるだろう」

「ロジック処理」は、プログラム関係の用語。

ハヤカワ版:
「なんだろう?」トカゲの末裔はいくらか鮮明になった映像を見て、考えこんだ。「砂に埋もれたステーションだろうか?」

原文:
“Was kann es sein?” sinnierte Gayt-Coor. “Eine verschüttete Station?”

試訳:
「なんだろう?」と、ガイト・コールが考えこむ。「埋没したステーションですかな?」

一連の「鮮明な画像」は、最初のゼノの科白「もっと外側の形はわからないのか?」をまちがえたことに起因する。単にデカすぎて全体像が見えないだけなのだ。

ハヤカワ版:(p21)
「全体像はよくとらえているはずだ。ロジック処理しても、全体像は変わらない」

原文:
“So etwas könnte der gesamte Landstrich aussehen. Es ist eine gestellte Aufnahme, von der Logikauswertung nach den vorliegenden Bildern zusammengestellt.”

試訳:
「全体像はそう見えるはず。これは、いままでの画像を論理分析によってつなぎあわせた合成映像だ」

ロジック処理という言葉に騙された感じ。ひとつの画像をいじっているわけではない。

ハヤカワ版:
砂漠らしき一帯に、巨大なカレイのような物体が、なかば埋もれている。

原文:
Das Dünengebiet in seiner Gesamtheit erinnerte Rhodan entfernt an eine überdimensionale Flunder.

試訳:
砂丘全体は、ローダンにどことなく、超巨大なカレイを連想させた。

これも最初に「砂漠」とやった後遺症だろう。

ハヤカワ版:(p22)
ペルトゥスの手がかりをついに見つけた……!

原文:
Hatte er eine Spur der Pehrtus gefunden?

試訳:
ペルトゥスの手がかりを見つけたのだろうか?

疑問文である。どうしてそんなに断定的なのか。

ハヤカワ版:
テラナー、ペトラクツ人、アッカローリーは、なお考えこむマト・プラヴトを見つめた。やがて、ナウパウム・レイチャトの次期統治者が顔をあげる。太古の遺跡を前にして、その意味をはっきりと認識したのだろう。

原文:
Zeno, Gayt-Coor und Rhodan sahen Heltamosch an, der den Kopf gesenkt hatte. Es war zu sehen, wie es in diesem mächtigen Mann arbeitete. Angesichts dieses uraltes Gebildes mußte auch Heltamosch die Relativität seiner eigenen Bedeutung erkannt haben.

試訳:
ゼノ、ガイト・コール、そしてローダンは、うなだれたヘルタモシュを見つめた。この強大な権力を握る男の考えが、見てとれそうだ。太古の遺跡を目の当たりにして、価値観の相対性に気づいたのだろう。

マト・プラヴトである自分がちっぽけに思えた、のかもしれじ。それにしても、個人名/種族名がかたっぱしから逆になっているのはどうしたことか?

……。
というわけで、第1章の目立った箇所だけ挙げてみた。印は、中でもちょっとひどいな、というもの。これ以外にも、微妙に「違わんか、コレ?」という程度なら、まだまだある。やたらと“「~……」とつぶやいた。”になっているが、原文は“「~!」と言った。”が大半(むしろ原文は!が多すぎだが)だし、探知担当を振り返ったり、またきびしい顔になったりと、本文にない描写が相当箇所追加されているなど、個人的には「修飾過多」と判断する。

ただし、以前『消えた仮面の男』正誤表をニフティでアップした際も書いたと思うが、これは訳者を個人攻撃するものではない。くりかえし念を押しておきたい。Intelligenz=知性体というテクニカルターム(笑)が訳せないのは、単なる経験不足だし、独文和訳→訳文単独で推敲、というシステムの構造的な問題の方が根深いと思われる。五十嵐さんに過労死されても困るが、やっぱり原文との照らし合わせは要るのではなかろうか。

318巻『フルロックの聖域』読了

ハヤカワ版318巻『フルロックの聖域』を読了した。著者は前半「フルロックの聖域」がウィリアム・フォルツ、後半「レイチャの後継者」がH.G.フランシス。訳者はそれぞれ増田久美子氏、青山茜氏。

前半は、ユーロクのトリトレーアから入手した情報をもとに、太古種族ペルトゥス(Pehrtus)の手がかりがあるという禁断惑星をローダンが訪れる。ローダン、ゼノ、ガイト・コールが降下した惑星には、砂に埋もれた巨大な宇宙船が存在し、その中では退行した蛮人たちが石の脳フルロックを崇めていた……。

後半では、ナウパウム・レイチャトの元首レイチャが死去し、後継者をめぐる争いが勃発する。次代レイチャ、マト・プラヴトの地位にあるヘルタモシュは、過激派の陰謀を信じようとしない。事態を重く見たローダンが、代わりに一計を案じ、単身レイト中枢への潜入をはかる……。

実は今回、非常に重要なポイントが誤って訳されてしまった。114p、ローダンと対話するペルトゥスの台詞「種族は異惑星に移住しようと……」であるが、原語は Galaxis。「異銀河」なのだ。直後のローダンの「かつてこの銀河を支配していたペルトゥス」も原文にない誤った修飾。ペルトゥスは、本来、異銀河の種族なのである。そうして、ヘルタモシュが温めている異銀河移住による人口爆発対処計画とからんで、物語の焦点は、次回以降隣接銀河カトロンへと移っていく……のだが。実に残念。
ローダンの伏線は、つねに新しいものが正なのだ。超訳もひとつの翻訳手法だが、それで伏線が消滅してしまってはシリーズ物は訳せまい。

あと余談:発売前にネタバレはないでしょうや(笑) >五十嵐さん

12/12追記 ×星域 ○聖域 ……orz
12/13追記 ネタバレ反転(をひ

だってわたしは異人だもの

ハヤカワ版:
「ヤアンツァルを滅ぼせばよいのだ」と、つぶやく。もちろん、許されることではないし、不可能だとわかっていたが……しかし、いい考えである。自分は帰り道を捜して迷いこんだ、よそ者にすぎないのだから。

原文:
“Jemand müßte Yaanzar zerstören”, murmelte Rhodan. Dieser Gedanke faszinierte ihn, obwohl er wußte, daß er zur Ausführung einer solchen Tat weder berechtigt noch fähig sein würde. Er war ein Fremder, der sich nur in die Angelegenheiten der naupaumschen Völker einmischen durfte, um seine eigenen Interessen zu wahren.

試訳:
「誰かがヤアンツァルを破壊しなければ」と、つぶやく。その考えは魅力的だった。とはいえ、わかりきったことだが、かれにはそんなことをする権利もなければ力もない。自分はよそ者で、おのが利益を守るため以外、ナウパウム種族の問題に介入すべきではないのだ。

――個々の訳文はまちがっていないし、「帰り道~」云々も理解を助けるための意訳として許容範囲だと思う。が、文章の順序立てが決定的におかしい。ハヤカワ版では完全に「旅の恥はかき捨て」状態で、ローダンとっても外道ちゃんである。原文が読めていないというより、翻訳後の編集で順序が入れ替わってしまったと思いたいのだが。
ティラノサウルスは最初から二足歩行だろうとかそんなことはさておき、ローダン氏の名誉のためにも、とりあえず弁護しておきたい。
#まあ、実権があったらやるのか、と考えると擁護したくなくなるが……(笑)

■原典:318巻『フルロックの聖域』p134

禍転じて……はポジティブ?

aus der Not eine Tugend machen /
試訳:怪我の功名

上述の熟語は諺で、「禍転じて福と成す」が通例。ちゃんと普通の独和辞典にも載っている。困窮から長所を作り出す、というのが直訳。

以前、この熟語に初めて遭遇したときに、その場面にどーもマッチングしないなあと思った。
ローダン1300話、銀河系を追放されたローダンたちが、旧友=アラスカ・シェーデレーアの呼びかけにしたがい、おとめ座銀河団の〈網を歩む者〉組織に合流。網歩者たちがレジスタンス闘争をくりひろげる相手こそ、それからまもなく銀河系をも陥落させる〈永遠の戦士たち〉であった。
数年後、「敵の本拠を討つことで、われわれは銀河系のために戦うことができる」と胸をはるイェン・サリクに、アトランの言うセリフが、「そーゆーのを、aus der Not eine Tugend machen と言うのだよ」だった。
当時は辞書どおりに訳したのだが、アトランのシニカルな論調というか、「銀河系を追い出されて、ここにしか居場所がないのが、たまたま敵との激戦区になっただけで、いばれた話ではない」という含み(があると思うのだ)が、訳文にはないように思えた。
禍転じて福と成す、というのは、ポジティヴシンキングというか、うまくしてやったりな感じがある。対してアトランの皮肉はややネガティヴっぽい。しっくりくる諺は……と考えた結果、現状では試訳のようになる。

「そういうのを、怪我の功名と言うのだ」

■原典:マール&ヴルチェク『網を歩む者たち』

銀本92巻『《モドゥル》』

ハードカバー版で進行中のアフィリア・サイクルもいよいよ佳境。11月刊行の92巻『モドゥル』では、失われた地球を捜す《ソル》のローダンたちが、超知性体間の戦争にまきこまれる。
星のメイルストロームの転送特異点に消えたテラとメダイロン系。その手がかりを知るという超知性体テルムの女帝の依頼を果たすため、ローダンと《ソル》は《モドゥル》捜索の途につく。直径220キロの衛星を分割して造られた巨大な可動ステーション《モドゥル》は、女帝と〈バルディオク〉の勢力圏“力の球形体”のはざまの情報を収集していた。あるいはそこに、メダイロン系の座標データも存在するのではないか……?
罠にかかり大破墜落した《モドゥル》で回収されたデータ処理自律端末〈コンプ〉は、ひとつのポジション・データを示すが、それをめざす《ソル》は、予期に反して、女帝の“力の球形体”奥深くへとわけいっていく……。

銀本はヘフトを再編集したものだが、このあたりも話の順序の変更がかなり細かくなされている。
《ソル》のテラ捜索に先行して、《モドゥル》を母艦とする“探究者”のひとり、ドウク・ラングルが記憶を失いテラに漂着している(88巻、91巻)のはヘフトどおりだが、ラングルやアラスカ・シェーデレーアの結成したテラ・パトロールが侵略者(=バルディオクの化身クレルマク)と戦うエピソードが、まるまる次巻『テラとの別離』にまわされている模様。
#というか、769話はいらない子なのか……(哀)

92巻では〈コンプ〉や女帝の親衛隊種族チョールク人の抱くクリスタル等、テルムの女帝の正体にまつわるエピソードが一括しておさめられている。1冊おいた94巻『テルムの女帝』(のはず)まで、謎解きはおあずけというわけだ。
そして次巻『テラとの別離』は、上述のように、テラに侵攻するクレルマクとの戦い、そして銀河系でのラール人の逆襲、〈遺伝子コード破壊フィールド〉編が収録される予定(のはず)。

今回収録されたヘフトは以下のとおり:
788. Peter Terrid / 《モドゥル》をかける罠
789. H. G. Francis / ギャンブラーと異人たち
790. William Voltz / 《モドゥル》の秘密
791. Kurt Mahr / 〈コンプ〉とサイバネティシスト
796. Ernst Vlcek / クリスタルを抱く者
797. Hans Kneifel / 親衛隊の惑星
798. H. G. Francis / 黒いクリスタルの呪縛

■公式サイト:Band 92 Das MODUL