肉だか魚だか

Das war weder Fisch noch Fleisch. /
それは魚でも肉でもなかった。

サッカー日本代表監督のオシム氏は、キリンチャレンジカップ2007における対ペルー戦を評して、「肉でも魚でもない試合」と語ったそうな。あまりよくないということだ、と。
オシム監督は旧ユーゴ出身だそうだが、ゲルマン系の印欧語族には、もしかして共通して存在する熟語なのだろうか。英語でも neither fish nor flesh というフレーズは、テレンス・ダービーのアルバム名などに見うけられる。
で、手元の独和辞典をみると、魚(肉)でも(獣)肉でもない、は「どちらつかず」の意とある。オシム監督の表現とは微妙にニュアンスがちがっている。あるいは、「めりはりがつかない」と言いたかったんじゃなかろーか、なんて思ったりもするのだが。サッカー観戦しない人間が言うべきことではない。

ローダン1500話では、クローン同士の親をもってうまれたブルー人キュケレンが、自分のことをこう表現している。生粋のクローンでもなければ、インヴィヴォ(生胎誕生者)でもない、ということである。テラの言いまわしがぴったりだ、と。
暗黒の七世紀の後で、銀河系に残されたクローン問題を体現した者たちを、どう言いあらわすべきか――「どちらつかず」ではいまいち弱いし、いっそ「蝙蝠だ」とやってしまおうか……。いや、それだと「鳥でも獣でもない」だしなあ(笑)
かなり悩んだ個所だったのだが。マスコミは偉大である。

――あるがままで、良いのだった。

出典:エルンスト・ヴルチェク『不死を呼ぶ声』

恒星三角形の呪縛 -1-

ずいぶん、久々。もっともまだ、時間と根性が足りないので、1章のみ。
実際問題、クナイフェルの文章、すごいもんなあ。

■138p

ハヤカワ版:
隣のスクリーンには、疎開プログラムに関する統計データが表示されている。

原文:
Der nächste Schirm brachte statistiches Zahlenmaterial, das mit der Versorgung zusammenhing.

試訳:
隣のスクリーンには、物資供給に関する統計データが表示されている。
#物資供給 Versorgung も疎開プログラム Evakuierungsprogramm も前の文章で出てくる語だが、あえて逆にする意味が不明。

■140p

ハヤカワ版:
驚くべき内容だ。だが、客観的な報告書を読めば、この遠征がただの冒険ドラマでないとわかる。

原文:
Es war eastaunlich, was damals geschehen war, obwohl die nüchterne Meldung nichts von den Abenteuern und dem Drama dieser Reise erkennen ließ.

試訳:
実際のできごとは驚くべき内容だ。だが、無味乾燥な報告書には、この遠征がいかなる冒険ドラマであったかは記載されていない。
#形容詞 nüchtern には「客観的」以外に、「しらふの」「実用一点張りの」「味気ない」等、どっちかというとネガティヴな意味合いが多い。で、書かれてないことを、思い出すのだと思われ >ブリー

■141p

ハヤカワ版:
 二隻はつねに破滅と隣りあわせにあった……つまり、理性の混沌に陥る危機にさらされるということ。それは大きな賭けであった。
 だれにも予測できない。この無謀な任務をひきうけたレルク・モプロンにも……。

原文:
Sie flogen mit ihrem eigenen Verderben – oder der Möglichkeit, ins absolute Chaos des Verstandes gestürzt zu werden – um die Wette.
Auch das konnte niemand ahnen. Nicht einmal Lerg Mopron, der dieses verwegene Unternehmen leitete.

試訳:
 二隻の飛行は、おのが破滅との――それとも、理性が絶対の混沌に陥る可能性との――競争であった。
 それもまた、だれひとりとして予想しえぬこと。この無謀な任務を率いるレルク・モプロンでさえも。
#大群到来による痴呆化が迫りつつあるという意味かと。um die Wette は「競って」という熟語。ハイフンではさまれた部分を除外して考えると、試訳のようになる。
#4/1 ちょいと追加修正

ハヤカワ版:
こめかみから耳にかけて、グレイのあざが目立ち、

原文:
An den Schläfen und vor den Ohren sah man graue Stellen.

試訳:
こめかみからもみあげにかけては灰色のものが混ざりはじめている。
#たぶん、毛髪のことだと思うのだが。何ヵ所か灰色の場所がある、わけなので。

■142p

ハヤカワ版:
銀河中枢部をうつしだすスクリーンには、蛇行する二隻の航跡が表示されている。

原文:
Er starrte auf den Schirm, der diesen Teil der Galaxis zeigte, der direkt in der sich schlängelnden Flugbahn der zwei Schiffe zu sehen war.

試訳:
スクリーンには、蛇行する二隻の軌道から視認可能な星域が表示されている。

ハヤカワ版:
「なにごとにも動じない者は……」と、レルクが眉ひとつ動かさずに、「……なにがあっても理性を失うことはない。保証する、きみならやりとげるはずだ、ウォルデン」

原文:
“Wer über gewisse Dinge den Verstand nicht verliert”, bestätigte Lerg unbewegten Gesichts, “der hat keinen zu verlieren. Ich bin sicher, Ihnen geht es nicht so, Worden!”

試訳:
「何があっても理性を失わないのは」と、レルクが眉ひとつ動かさずに、「失うべき理性を持ち合わせないやつさ。きみはそうではないと信じてるぞ、ウォルデン」
#無表情に冗談をいう船長……。

■143p

ハヤカワ版:
「どうということのない航法上の問題だ。われわれ、候補生時代には、はるかに困難な課題を克服したもの」

原文:
“Es gibt schwierigere Navigationsaufgaben, die wir schon als Kadetten gelöst haben!” schränkte der Kommandant ein.

試訳:
「候補生のころだって、もっと難しい操船をさせられただろう?」
#疑問文ではないが、この方が原文のままでシンプル。

ハヤカワ版:
二隻はエクスプローラー船として、特殊な改造をうけ、擬装も通常の直径八百メートルのスターダスト級とはまったく違う。この信頼性に定評のある球形船は、秒あたり二十五万キロメートルの亜光速で、数千の恒星のあいだを進んだ。

原文:
Die zwei umgebauten Spezialraumschiffe, deren innere Konstruktion und Aufteilung stark von der eines Achthundert-Meter-Schlachtschiffes der STARDUST-Klasse abwich, besaßen die kugelförmigen Rumpfzellen dieser bewährten Schiffskonstruktion. Sie flogen mit rund zweihundertfünfzigtausend Sekundenkilometern zwischen den Tausenden Sonnen dahin.

試訳:
二隻のエクスプローラー船は、船殻については定評のあるスターダスト級と同じものを使用しているが、特別に改造された内部の設計や区分はまったく異なるのだ。およそ秒速二十五万キロメートルで、数千の恒星のはざまを飛ぶ。
#原文でふたつのセンテンスをくっつけるのはいいけど、区切る場所、ちがう。

来月はアラスカ仮面かあ……。