377巻『戦略家ケロスカー』…

原書、持ってないと思っていたら、あったよ(笑)
掲示板の方でご質問のあった3点について、確認するために、377巻を買ってきた(を

■35p

ハヤカワ版:
「了解。誘導ビームを設定。しかし、ウルトラ戦艦をここに格納できるのか?」
「当然だ。銀河系全体でも、これだけの大型船はほかにない。もっとも、ウルトラ戦艦はまだ発見できないわけだが」
原文:
“In Ordnung. Leitstralen stehen. Aber eine bescheidene Frage: Wollt ihr etwa mit einem Ultrariesen in Schlepptau in den Hanger einfliegen?”
“Blöder Witz. In der gesamten Galaxis scheint es keinen Kugelraumer dieser Größenordnung zu geben. Wir haben jedenfalls keinen zu Gesicht bekommen.”

試訳:
「了解。誘導ビーム発信。ときに、ささやかな疑問なんだが。ウルトラ巨艦に曳綱をつけて格納庫へとびこむつもりじゃあなかろうね?」
「ばかいうな。銀河系のどこにも、このサイズの球形艦はないみたいだな。ともかく、まだわれわれ、ご対面はしてないわけだが」

……あー。編者さん、SZ-1とウルトラ戦艦が同じ大きさだってこと、わかってないのかも? ジョークなことも……理解できて……ないかも……。

ともかく、この会話、巡洋艦の通信員とSZ-1の通信センターのあいだでかわされているわけだが、そこからわかっていない可能性もある。後半のセリフも、ウルトラ戦艦ない→少なくとも見てない(巡洋艦)→作戦失敗?(SZ-1) とつづくもの。ハヤカワ版でも、つづくセリフとの齟齬は生じてないけど、意味的にはちがってるね。

■45p

ハヤカワ版:
「そうだろうか?」と、ローダン。「ディメセクスタ・エンジンは、現状ではもっとも高性能だ。《ソル》もそれで銀河系からバラインダガル銀河に行ったし、メールストロームから脱出さえした」
原文:
“Was?” rief Rhodan dazwischen. “Der Dimesexta-Antrieb ist das höchstentwickelte Ferntriebwerk, das wir anbieten können. Die SOL ist auch damit ausgestattet – und wir haben nicht nur den Flug in die Milchstraße aus Balayndagar geschafft, sondern sogar aus dem Mahlstrom.”

試訳:
「なんだって?」ローダンが割ってはいった。「ディメセクスタ・エンジンは、提供しうる最高の遠距離駆動だ。《ソル》にも搭載されている――バラインダガルから銀河系への飛行はもとより、メールストロームからの脱出にもこれを用いたのだが」

……スタートとゴールが逆になってますねえ。
原文見てたらまちがえるはずないし、これも編集の問題? なんか、昔とあんま変わらないなあ。

■54p

ハヤカワ版:
(前略)対角線の最長部が三千メートルというのは、ポスビの船としては最大級だ。
原文:
doch mit einer Kantenlänge von 3000 Metern gehörte er zu den grölßten Posbi-Schiffen.

試訳:
一辺三千メートルというのは、ポスビ船としては最大級だ。

……Kantenlänge という単語は、「角と角のあいだの長さ」である。それを、「対角線」ととったのだろう。
ただし、Kante には「角」以外にも、「稜線、縁」という意味があるので、「辺」と考えてまちがいない。
これまでもフラグメント船の大きさについては「一辺~メートル」が通用しているし、対角線ってブラウン管じゃないんだからさ(笑)

以前にも書いたとおり、わたしは嶋田さんの訳書って、『ダーウィンの剃刀』(シモンズ)くらいしか読んだことがないのだが。あれ、読みやすかった記憶があるんだけどね……。

ああ、関係ないけど、こんな数字を挙げておこうか。
750-758、765、768、771、777、778、785、792-795、799。
アフィリー・サイクル後半の、いま手元にある原書の話数である。800以降は、1000話まですべて、ある。

シリーズ前史と製作背景 x2

公式Newsによると、本年9月に Hannibal-Verlagより『PERRY RHODAN-Chronik Band 1』が刊行予定とのこと。また、同出版社のサイトの刊行予定にもすでに掲示されている。

先読みを長くやっている身としては、上記タイトルは本国ドイツにおける要約紹介サイトの草分けであったThomas Rabenstein のHPを思い出させるが、今回はシリーズの前史や製作背景等を年代記的に編纂したものの第1巻であるという。網羅される年代は1960-1973年。邦訳を含む各国版にも言及されているらしいし、ちょっとそそられるものがある。
編者は元チーム作家のミハエル・ナグラ。ハードカバーで、320p前後。19.95ユーロを予定されている。

シリーズの裏話というと、25周年記念の一環として刊行された、Werkstattband(工房本)がある。これはホルスト・ホフマン編集で、各作家・イラストレーターや編集関係者がそれぞれ特定のテーマについて書いた記事の集成だった。
また、出版関連年表としては Perry Rhodan-Chronologie が公式サイトに掲載されており、こちらについては田舎都市氏のサイトにて翻訳もされている。
今回の企画が上記2点とどうちがう光をシリーズに当てるか、かなり楽しみだ。

また一方で、シリーズの50年をドキュメンタリーとして映像化する企画も進行中。ケルンの映像製作会社 Florianfilm が製作、映画館や西部ドイツ放送、第二ドイツテレビ等に、この秋から配信する予定。タイトルは『Perry Rhodan – Unser Mann im All(宇宙英雄ペリー・ローダン)』で、尺は90分前後。シナリオにはチーム作家ヴィム・ファンデマーンも関わっているようだ。

こちらの記事を見ていると、関係者のインタビューが、なんというか……作家の遺族の名前がずらりと並んでいて、ちょっとしんみりしないでもない。Heidrun Scheer(シェール未亡人)、Inge Mahn-Voltz(フォルツ、マール未亡人)、Bonnie Bruck(ジョニー・ブルック未亡人)、Robert Ernsting(ダールトン子息)……。いやはや、50年とは、そういう年数なのだ。

■公式News:PERRY RHODAN-Chronik im Hannibal-Verlag (リンク切れ)
■公式News:PERRY RHODAN-Dokumentation im Herbst 2010 (リンク切れ)
■Hannibal-Verlag公式サイト (NEUE BÜCHERに紹介有)

時間超越 その顛末

さすがに見かねたのか、「実際の翻訳体制はあんたの考えてる(憶測してる)のと、変わってきてるぞー」と、教えてくださった方がおられる。月2回刊ともなると、システム的にも早川サイドからのてこ入れがあったようだ。詳細はここでは述べないが、ご教示には感謝申しあげたい。

「多血症の疑いがあるから、献血でもした方がいいよ?」とは、かかりつけの医師からの、先月の血液検査結果におまけで付いてきたお言葉であるが。たしかに、昔から血の気は多かったように思うけど、タバコはやめらんないし(意志薄弱)、まじ瀉血でもせんとあかんかのぅ。クールダウン、クールダウン……。

ともあれ、一連の「時間超越」関連の記事では、問題点の指摘以外に筆がとびすぎて、関係ない部分で波紋を呼んでしまった。翻訳ソフト云々が、その最たるもの。関係各位及び、心配されて書き込みされた方々には、謹んでお詫び申しあげる。

このブログは、訳者をあげつらうことが目的ではない。(主に)ローダンの邦訳に存在する誤訳をとりあげ、訂正することが――元々の主眼ではないにしても――目的のひとつとなっている。実際、翻訳チームの面々にも目を通されている方がおられるようだし、「やっべ、こんなとこで槍玉にあげられちゃかなわん」と思っていただければ、なんらかの役には立つだろう。
そういう意味でも、期待していた話だけに「時間超越」については語調がきつくなりすぎたわけだが、明らかに失敗だった。これを反省点として、以降、同様の記事を書く際には、憶測を控え、冷静さを旨としていきたい。
#まあ、これだけ大量にやらかせば、当分はごめんだが(笑)

なお、ごやてんでは、訳文/原文/試訳と1セットにすることで、多少ともドイツ語の知識がある方には検証していただけるよう心がけている。これをして、一部だけ取りあげても、とか、同じ速度で訳してみせろ、などと言われても、それはできない相談である。そもそもいまのVPMは版権取得者を大事にするためファン翻訳はご法度だし、未訳分を全文アップされたら早川だって黙っちゃいまい。
速度の面でも、まあ入力等の手間(単純に、3倍)もあるにせよ、1話分の照合、誤訳のピックアップと試訳で1ヵ月半。不労所得者か在宅勤務にでもならないかぎり、これが現在のわたしの限界だ。その結果を見て、どう判断するかは、読者諸氏、各自の判断におまかせしたい。

時間超越 未来 (Reprise)

「もうちょっとだけ、つづくんじゃよ?」って書いとくべきだったかな(笑)

3月に上げた「未来」の記事が、あまりに投げっぱなしだったので、一応ちゃんとやることにした。
最後にgdgdと文句いってるけど、そこまでは、別に読まなくてもかまわないからw

■266p

ハヤカワ版:
 冷たい風がアルティプラノを吹きすぎていった。
 やつれた錆色の犬が、ティアワナコの見捨てられた通りを駆けていく。犬は休みながら、あたりの匂いを嗅ぎ、とても理解できない現実を無理やりにうけいれようとした……つまり、人間がいないという事実を。
原文:
Kalter Wind streicht über den Altiplano.
Ein abgemagerter rostfarbener Hund schleicht durch die verlassenen Straßen von Tiahuanaco. Ab und zu hält er inne und hebt witternd den Kopf, als müsse er sich immer wieder von der unglaublichen Tatsache überzeugen, daß keine Menschen in der Nähe sind.

試訳:
 冷たい風が、アルティプラノを吹きすぎていく。
 痩せこけた錆色の犬が、人影のないティワナクの通りをとぼとぼと歩いていた。ときおり脚をとめては頭をもたげ、においを嗅ぐ。近くに人間がいないという信じがたい事実を、くりかえし再確認するかのように。

動詞 schleichen は「這う、忍び歩く」で、けっしてタッタカ駆けているわけではない。だいたい、腹をすかした痩せ犬である。情景は想像がつくはず。
分離動詞 innehalten は「とまる、動きをとめる」。休みやすみ、は意訳としてありえるだろうが、やけに元気そうな(笑)訳文の犬にしては変な表現。直訳すると、「ときどきとまって、においを嗅ぎつつ頭をあげる。」くらいか。

als 以下の文節は、犬の動作……しきりにフンフンやってることの説明。英語でいう as if ――まるで~のように、として考えるとわかりやすい。まるで、犬(男性名詞なので代名詞は er )は何度も何度も自分を納得させなければならない、ようだ。そして納得する必要があるのは、信じがたい事実――人間が近くにいない――である。

ハヤカワ版:
 しばらく前から、食べ物を見つけるのがむずかしくなっている。
 鍵のかかった家に忍びこみ、生きるのに必要な物資を調達するのは、容易ではない。
 いずれ、次に近い町に移動して、食物を探さなければならなくなるだろう。唯一のなぐさめは、この高原に狩猟動物がほとんどいないことだ。
原文:
Seit einiger Zeit hat der Hund Schwierigkeiten, Nahrung zu finden.
Es ist nicht einfach für ihn, in die großenteils verschlossenen Häuser einzudringen und die Vorräte ihrer Bewohner zu plündern.
Früher oder später wird der Hund versuchen müssen, die nächste Stadt zu erreichen und dort nach Nahrung zu suchen. Fü die Jagd ist er zu klein, außerdem gibt es hier oben auf dem Altiplano nicht viel Jagdbäres.

試訳:
 しばらく前から、食糧の調達がむずかしくなっていた。
 大半は鍵のかかった家屋におしいり、備蓄をあさることは、犬にしてみれば容易ではない。
 いずれは近場の町へ移動して食糧をさがさねばなるまい。狩りをするには体躯が小さすぎ、アルティプラノ高原には、そもそも獲物となる小動物がほとんどいなかった。

動詞 eindringen は「押し入る、侵入する」。もともと、犬が「忍びこむ」という表現に、個人的には違和感を感じる。猫なら納得したかもしんないけど(笑) 犬が家屋に侵入する場合、ひそかに、というよりは、どかんどかん体当たりして入口こわして入るんじゃない?
動詞 plündern も「略奪する、荒らす」である。

die nächste Stadt は「一番近い町」……ぶっちゃけ、隣町である。次に近い町、という表現は、この犬が、すでに別の町から移動してきたことが前提になると思うのだが。

Jagdbäres は「狩ることができる対象、狩りの獲物」である。アンタッチャブルを「触ってこないもの」って訳す? これをまちがえたのみならず、前後で意味が破綻するからか、犬が狩猟をするには小型すぎることがすっぱり削除されている。おいおい。

ハヤカワ版:
 風の吠え声にぎくりとして、太古の本能がよみがえった。だが、それだけである。
やがて不規則な足音が聞こえた。
 耳が油断なく動く。
 わきの通りで、するどい発射音がとどろいた。
原文:
Über das Brausen des Windes hört der Hund plötzlich ein Geräusch, das er bereits fast vergessen hatte. Alte Instinkte erwachen in dem Tier. Mit zitternden Flanken bleibt es stehen und sieht sich um.
Der Hund hört unregelmäßige Schritte.
Seine Ohren bewegen sich aufmerksam.
Auf einer Seitenstraße kommt eine hagere hochaufgeschossene Gestalt.

試訳:
 猛りくるう風にのって、ふいに、ほとんど忘れかけていた物音が聞こえた。昔ながらの本能がめざめる。わき腹をふるわせつつ、立ち止まると周囲をうかがった。
 犬が聞いたのは、不規則な足音だった。
 注意深く耳が動く。
 横道のひとつに、ひょろりと背の高い人影があらわれた。

「だが、それだけである。」で、いったいどれだけの描写を切り捨ててるんだ? 必要なとこ、すっかり消えてるじゃないか。音が聞こえる→なんか本能が刺激される→足音だ!→どっちどっち?→わき道から誰かが……と、のっぽさんの登場につながっているのに。スタート地点でつまずいたうえに、ゴールがまた……。

aufgeschossen は、確かに動詞 aufschießen 「射撃・砲撃で破る、火などがぱっと散る」の過去分子だけどね。この動詞自体、「育つ、伸びる」の意味があるんだわ。さらに過去分詞 aufgeschossen だと、「ひょろ長い」姿 Gestalt が、横道にあらわれたわけだけど……。
これ、もう完全に、翻訳ソフトの弊害としか考えられないわ。主語が Gestalt で動詞が kommen なのに、発射音がとどろいた? 原文見てたらありえないだろう。つーか、見てこれなら、読解能力、Google翻訳以下じゃんか。
#ちなみに現在は「側の通りにリーンひょろっとした姿です。」になる。英語をはさむため hager が浮いたようだがw よほど大意をつかんでるじゃない(爆)

■267p

ハヤカワ版:
 犬は無心に尾を振る。
 一方、いきなり出現した異人は、通りを観察した。だが、すべてが塵におおわれていて、なにも察知できない。
 だが、犬はなにかをおぼえているようだ。尾を振って、なついてくる。
原文:
Der Hund beginnt mit dem Schwanz zu wedeln.
Der Fremde sieht die Hauptstraße hinauf und hinunter, als müsse er sich erst einmal orientieren. Er ist über und über mit Staub bedeckt.
Erinnerungen überwaltigen den Hund. Er wedelt mit dem Schwanz und windet sich hin und her.

試訳:
 犬はしっぽをふりはじめた。
 見知らぬ男は、メインストリートをきょろきょろと見回している。まるで、ここがどこかわからないようだ。頭からつまさきまで、すっかり埃まみれである。
 人間と暮らした記憶があふれかえり、犬はしっぽをふりつつ、じゃれついていった。

犬については、しっぽふる→じゃれつく、で徐々にグレードアップしてると思うのだが。まあそこまで考えんか。
で、「いきなり」は、登場シーンがすっぽぬけたからであって、普通に姿を見せた人物の描写である……が。これも、原文と比べると、切った貼ったしている。訳文最後の「何も察知できない」は、たぶん前半の「ここがどこかわからない」がお引越ししている。なので、たんに異人(アラスカ)がほこりまみれなのが、方角のわからない理由と化してしまった。

アラスカが汚れまくりなのは、(わたしの主観ではあるが)石像のある遺跡に存在した時間の井戸から、えっちらおっちら町まで歩いてきたためだろう。何度も何度も、このあとの場面のように、風のまきあげる砂塵をかぶってきたと思われる。

そうして、人類の下僕、卑しい哀れな犬っころなのか、チャッピーにはいい人がわかるんですのよかしらんが、とにかく犬は、人間様だあっ、とじゃれつくわけだ。しっぽふりふり、自分はぴょんぴょん、であるw

ハヤカワ版:
 奇妙なシチュエーションではあった。男がひとり、犬を連れて、ティアワナコの通りを歩いていくのだから。
 風が強まる。
 褐色の砂塵が、犬と男をつつんだ。
 両者の姿は一体化したように見える。
 すべてが現実とは思えない。人と犬は一体になって……
原文:
Es ist ein seltsame Bild: Ein Mann und ein Hund allein auf dieser verlassenen Straße von Tiahuanaco.
Der Wind wird heftiger.
Er wirbelt Staub auf und hüt Mann und Hund in dunelbraune Wolken.
Die beiden Gestalten scheinen sich darin aufzulösen.
Alles sieht ein bißchen unwirklich aus, und kein noch so scharfer Beobachter hätte mit Sicherheit behaupten können, überhaupt einen Mann und einen Hund gesehen zu haben…

試訳:
 奇妙な構図だ。見捨てられたティワナクの通りに、ただ男がひとりと、犬が一匹。
 風が強まった。
 まきあげられた埃が、男と犬を褐色につつむ。
 ふたつの姿は、砂塵にまぎれかき消えた。
 なにもかもが、どこか非現実的に見え、どんな鋭い観察者でも、しかとは断言できなかろう。はたしてそこに、男と犬がいたかさえ……

通りが verlassen ――見捨てられていなければ、別に異常でもなんでもないシチュだとは思わんかね(笑)

さて、問題の「一体化」だが。これ、なんでこうなるのか、さっぱりわからんわ。原文を直訳すると、「ふたつの姿は、その(砂塵の)なかに溶け(て消え)たように見えた。」となる。これを、溶けあわさってひとつになった、と読んだのかね。

つづく文章は、なおひどい。後半、まるっきり翻訳されてないのだから。直訳してみようか。「すべてがちょっぴり非現実的に見うけられる、そして(著者より)もっと鋭い観察者だって、確信をもって、そもそもあそこに男と犬がいたんだよ、と主張できるやつなんかいやしない。」だ。最初の一節しか生き残ってないじゃないさ。そこに、謎の超訳をリプライズさせて、かっこよく仕上げたつもりなのだろうか。

……。
反復までしたので、いちおう、総評めいたことを。
もはや翻訳じゃなくて創作である。しかもまちがってたら、単なる原作無視の誤訳じゃないの。

翻訳ソフト見直した方がいいよ? と言うべきか。それとも、独文和訳からやりなおせ、だろうか。前にも書いたけど、超訳なんて、原意が正しく汲みとれてこそだと思う。起承転結を、さらに盛りあげるために、起承転々々々結、とするにしたって、結末の内容までは変えられまい(少なくとも、話が連続してつづくローダンの場合は、だが)。その場だけ格好ついたらいいや、とか、まさか思ってないよね。
独文和訳と翻訳は異なるもの――それも重々承知している。しかし、ここまで取りあげた例で、実はわかりやすくていい訳、ってあっただろうか? 位置関係わかってない、時系列理解してない、何のこと言ってるのか脈絡あわない……。読者は混乱するばかりだ。
つじつま合わないな、というなら、大方、前の部分を訳しまちがえているのだ。遡って直そうよ。不整合な部分を削除したり改変して、よけい不明瞭な部分が増えるとか、どんだけ前しか見てないのかと思う。

コメントではすでに書いたが、正直、月2回刊は内容的には悪い方向にしか働かないように思われる。だれも翻訳チェックしてないよね? 五十嵐さんは、どうやら用語と言いまわし調整(と、創作?)で手いっぱいのようだし。本来、複数制は「うわ、今月の○○さんの担当、すごいなあ。よし、負けてられん!」とか、「あ、△△さん? 今回のアレ、もっとこうした方がよかったんじゃない?」とか、お互いの切磋琢磨があるべきだと思うのだが。年齢・キャリアとかバラバラなうえ、五十嵐さんでワンクッション入ってしまうので、そのへん難しいかな。少なくとも、担当外の分まで原書コピーもらって確認する酔狂な御仁はいらっしゃるまい……。

まあね、エモシオンの一件以来、色眼鏡で見てるところがあるのは、自分でもわかっているんだけどねえ。少なくとも、この照合見た読者の信頼度は、まちがいなく下がったってことだけは、理解してもらいたいな。翻訳チームの皆さんには。
別に、好感度下げたくてやってるんじゃないし。こんな大人げないこと、やらんですむなら、やりたかない。やる必要ないように、してもらいたい。頼むから、さ。

時間超越 -10- part3 【終了】

というわけで、これにてようやく完結(最後の部分は、すでに3月に「犬とはマズいだろ……w」じゃないやw「時間超越 未来」としてアップ済み)なわけであるが……。
一気呵成にやったから、タイプミスとかあるかもしらんが、もう、上げアップしてから直す(笑)

■253p

ハヤカワ版:
 うなだれて、重い息を吐くと、嗚咽を漏らす。
 しばらくしてから、気配を感じて顔をあげた。カリブソが彫像のあいだに立っているのを見て、
原文:
Alaska wälzte sich herum und lag schwer atmend auf dem Rücken.
Er hörte sich wimmern. Schließlich hob er den Kopf und sah Callibso zwischen den Statuen stehen.

試訳:
 アラスカは横ざまに倒れこみ、重い息をつきつつ仰向けになった。
 自分がすすり泣いているのがわかる。しばらくしてようやく顔をあげると、彫像のあいだに立つカリブソを見て、

最後に「顔をあげて」とあるから、反対に「うなだれて」としたのはわかる。わかるけど、これ、ひざまずいている体勢からごろりと仰向けになって、顔をおおって(仮面つきだけど)すすり泣いてるんでしょ。
まぁ、段落の区切りをいじるのは、とやかく言ってもしょうがないけど。「気配を感じて」って、カリブソはずっとそこにいただろう。単に、べそべそしてたのがおさまったから、ヤツアタリをはじめただけじゃないか。

■254p

ハヤカワ版:
 それがすべて消えるとは。それも、ただ消えたのではない。都市を観察したかぎりでは、住人が一瞬にしていなくなったように見えた。
原文:
Sie konnten doch nicht einfach verschwunden sein. Es hätte Anzeichen für ihren Verbleib erkennbar sein müssen. Die Städte hatten auf Alaska den Eindruck gemacht, als wären sie von einer Sekunde zur anderen entvölkert worden.

試訳:
 ひょいと消えてしまえるものではない。どこへいったのか、手がかりくらい残っていそうなものだ。なのに、都市の印象は、一瞬にして住人がいなくなったかのようだ。

なんか、おもしろい訳し方してるね(笑) 最初の文章を2回訳して、次の文章を削除してるわ。ちなみに最初の文章だけど、「(200億もいたんだから)そうあっさり消えてしまうことなんかできない」である。ぞろぞろどっかへ移動した痕跡が見あたるはずなのに、まるっきりないなあ、という流れなんだけど……。
「すっげー、一瞬にして消えてるぜ!」じゃ、話がつづかないじゃない。

ハヤカワ版:
 ふたたび、歴史上の出来ごとに思いをはせる。これまで、人類がこういうかたちで消失した事例はないだろうか?
原文:
Wieder drängten sich geschichtliche Vergleiche in Alaskas Überlegungen. Waren nicht auch in ferner Vergangenheit ganze Völker einfach verschwunden, ohne daß es eine Erklärung dafür gab?

試訳:
 またしても、史実との比較をせずにはいられない。遠い過去にも、民族まるごとがいきなり消失し、説明のつかない例がなかったろうか?

また、ということは最初があるのだが。おそらく彫像がティワナクのものと酷似している事実を指すのだろう。
とにかく、ここでアラスカは、マヤ文明の消滅とか、そうした事例を連想しているはず。あとは、それと現在との比較である。あ、比較(Vergleich)って、前半の文章で訳してないのか。
えーと、かなり強引だが、ないかなぁ、ではなくて、あったんじゃね? ということ。

ハヤカワ版:
 アラスカは起きあがると、急いで人形使いのあとを追った。あばら家にたどりつくと、
原文:
Alaska erhob sich und rannte hinter dem Puppenspieler her. Er holte ihn kurz vor der Hütte ein.

試訳:
 アラスカは起きあがると、人形使いを追って走った。小屋の手前で追いついた。
訳文だと、アラスカが戸口に仁王立ちしてそうだ(笑)
まあ今回は影響なかったけど、そうやって立ち位置をおろそかにすると、あとでまた辻褄合わせが必要になるかもよ?

ハヤカワ版:
異人の意識はこの人工の肉体を、完全にコントロールできるようになったのだろう。
原文:
Callibsos Bewußtsein schien diesen künstlichen Körper allmählich auch in dieser Beziehung zu beeinflussen.

試訳:
カリブソの意識は、人造ボディに、この点においてもしだいに影響をあたえつつあるらしかった。

訳文で、いいんだけどね……。原文、かなり抽象的だし。
ただ、個人的には、カリブソ(真)の意識が宿ると、人形のボディでも、ほら、こんなにエレガントに! ――という、TVショッピングめいたイメージがあるんだけどw

■255p

ハヤカワ版:
「また時間の井戸をぬけて、地球に行きたい。
原文:
“Ich muß sofort durch den Zeitbrunnen zur Erde.

試訳:
「いますぐ、時間の井戸をぬけて地球にいかなければ。

すぐ「~したい」と訳すクセは、どうにかした方がいいよ? müssen とか sofort とか、切迫感ある文章のはずが、「また行きたいなぁ」になっちゃってるじゃない。

ハヤカワ版:
だが、実効性はないな。
原文:
Sie ist undurchführbar.

試訳:
それは実行不可能だ。

じっこう違いかのw まぁ、誤訳というほどじゃないやね。

ハヤカワ版:
 嘘ではないらしい。なにより、異人はすっかり落胆している。ふだんは時間を超越できるのだろうが、今回は無人の地球に対してしか“門”が開いていないのだろう。
原文:
Alaska hatte den Eindruck, daß er die Wahrheit hörte. Er war völlig niedergeschlagen. Die ganze Zeit über hatte er gehofft, zu der Menschheit zurückkehren zu können, aber jetzt stand ihm lediglich das Tor zu einer verlassenen Erde offen.

試訳:
 聞いた感じでは、ほんとうのことらしい。アラスカはすっかり意気消沈した。ずっと人類のもとへ帰還できると期待していたのに、いまになって、見捨てられた地球への扉しか開かれていないとは。

カリブソに、がっかりする理由はない。この段落、ぜんぶアラスカが主語なのに、なんで時間超越とか、カリブソの話になっているんだろう。

ハヤカワ版:
次の日の深夜、
原文:
In der darauffolgenden Nacht

試訳:
その夜、

夜明けにカリブソが帰ってきて、そのままふたりで時間の井戸へ行っている。それにつづく(darauf-folgend)夜だから、きょうの夜のはず。

ハヤカワ版:
 寝床から起きあがっても、音は消えない。
原文:
Als der Lärm nicht nachließ, stand Alaska von seinem Lager auf.

試訳:
 音が鳴りやまないので、アラスカは寝台から起きあがった。

「音が静まらないとき、アラスカは寝台から起きあがった」である。順序が逆……というか、原因と結果が逆。

■256p

ハヤカワ版:
 丘の中腹で、たいまつが数百、列をなして揺らめいていた。
原文:
Hunderte von flackernden Fackeln bewegten sich den Hang herauf.

試訳:
 数百の揺らめく松明が、丘を登ってくる。

上にむかって動いている。別に、コンサート会場でウェーブしているわけではない。
アラスカのセリフまで、その情報が読者に伝わらないことになるのだが……。

ハヤカワ版:
 松明の列は巨大なイモムシのように動いている。
原文:
Die Fackeln bewegten sich wie ein leuchtender Riesenwurm den Hang herauf.

試訳:
 松明は輝く巨大なイモムシのように丘を登ってくる。

これも同じこと。なんとしても herauf を無視したいのか?
まあ、ここなら、すでに「登ってくる」とわかってはいるのだが……。

■257p

ハヤカワ版:
 もし人形たちが小屋を破壊したら、“待避所”を失うことになってしまう……
 しずかに考えながら、不気味な行進を見守りつづける。
原文:
Alaska begann sich Gedanken zu machen, wohin er sich zurückziehen konnte, wenn die Puppen damit beginnen sollten, die Hütte zu zerstören.
Während er noch überlegte, setzte die unheimliche Armee ihren Marsch fort.

試訳:
 人形たちが小屋を破壊しはじめたら、どこへ退避したらよいものか、アラスカは思案した。
 考えあぐねるうちにも、ぶきみな集団は行軍をつづける。

行軍を再開した、の方がわかりやすいだろうか。

ハヤカワ版:
 なんと、人形使いは外にいる。シェーデレーアは愕然とした。小屋を出たのは、あきらめたからだろう。だが、小人は向きを変え、あばら屋にもどってきた。もしかすると、気が変わったのかもしれない。
原文:
Bestürzt wandte Alaska sich der kleinen Gestalt zu. Er sah, daß Callibso sich von der Hütte entfernte. Das war das Signal, daß er sie aufgeben wollte. Plötzlich machte der Zwerg kehrt und eilte noch einmal zu seine Behausung zurück. Alaska hoffte bereits, Callibso hätte sich anders entschieden, doch ein paar Sekunden später befand der Puppenspieler sich wieder im Freien.

試訳:
 愕然として、アラスカは小人へと向きなおった。カリブソは小屋から遠ざかろうとしていた。放棄するつもりというシグナルだ。ふいに踵を返すと、もう一度住居へと駆けこむ。ひょっとして気を変えたかとアラスカは期待したが、数秒足らずで人形使いはまた表へとあらわれた。

えーと、最初に確認してほしいんだけど……アラスカの立ち位置、忘れた? ふたりは、小屋から走りだしていって、時間の井戸を見おろして――まだ、表にいるのだ。訳文、完全にアラスカが小屋の「中」にいるよね?

しかも、「カリブソが外にいる」ことに驚いているようだが。びっくりしたのは、人形使いが「デログヴァニアンを去る」ことを決意したからだろう。なにが、なんと、なんだか。

■258p

ハヤカワ版:
 人形のたてる音はますます近づいてくる。カリブソがどうやって人形を創造したのかわからないが、“悪意”を付加したとは思えない。
原文:
Alaska hörte den Lärm der näherkommenden Puppenmeute. Auf welche Weise Callibso diese künstlichen Wesen auch geschaffen hatte, er wollte offensichtlich nichts mehr mit ihnen zu tun haben, nicht einmal im Bösen.

試訳:
 人形の暴徒がたてる物音が近づいてくる。どうやってこの人造生命を創造したのかわからないが、明らかにカリブソは、もう関わりをもちたくないらしい。破壊することすらしたくないのだろう。

haben zu tun mit で「だれそれと関係がある」。ん、「付加した」って、まさか、この mit からか?!
im Guten wie im Bösen で「良きにつけ悪しきにつけ」。バラしても用いるようなので、ちょっと始末におえない熟語である(笑)
試訳では、上記2つの熟語から、「悪い関係=暴徒の撃退」と判断した。
しかし、ローダン読んでたら、上のやつは普通に頻出するはずなんだけどな……。

ハヤカワ版:
「だれも知らない場所だ」
原文:
“Wer weiß”,

試訳:
「だれにわかろう」

Who knows、である。オレだってわかんねぇよ、だ。ちょっと……これくらいはわかってよ。

ハヤカワ版:
いずれも棍棒など、原始的な武器を手にしており、それで小屋を解体しはじめる。あたりに破片が飛び散ると、こんどは松明を地面に投げた。炎がたちまち燃えあがり、まもなく建物全体に火がまわる。その明かりで、はじめて人形がはっきり見えた。どれも人間にそっくりだ。しかし、顔がない!
原文:
Sie drangen mit primitiven Schlagwerkzeugen darauf ein und begannen sie zu zertrümmern. Dann warfen sie Fackeln auf den Boden. Sofort loderten Flammen hoch. Alaska sah zu, wie die Trümmer Feuer fingen. Der gesamte Platz, auf dem das Gebäude gestanden hatte, war jetzt hell beleuchtet. Alaska konnte die Puppen sehen. Es waren menschenähnliche Gebilde, die kein Gesicht besaßen.

試訳:
原始的な槌や棍棒を手に押しよせると、叩き壊しはじめた。それが終わると、松明を投げる。たちどころに炎が高々とあがった。アラスカは火が残骸をなめるのを見つめた。小屋のあった敷地全体が、煌々と照らしだされている。人形たちが見えた。人間そっくりだが、顔がない。

Schlagwerkzeug で、「叩く道具」。打撃兵器というよりは、火かき棒とか麺うち棒を連想してしまうのはなぜだろう。あ、どっちも用途「叩く」じゃないやw
だいたい、試訳の方が直訳だと思ってほしい。内容的には変わらないのだが、いちいち原文と言葉がちがっている気がして、ちょっと取りあげてみた。

■259p

ハヤカワ版:
 時間の井戸に向かう途中、消えた松明の下に、薄いフォリオがはさんであるのを見つけた。風に飛ばされないように、わざとそうしてあるようだ。拾いあげて、調べる。
原文:
Auf dem Weg zum Zeitbrunnen war eine erloschene Fackel in den Boden gesteckt. Alaska sah, daß eine dünne Folie daran befestigt war, die sich leicht im Wind bewegte. Er löste sie von der Fackel und untersuchte sie.

試訳:
 時間の井戸への途上、燃えつきた松明が地面に刺さっているのをみつけた。薄いフォリオが留めてあり、かすかに風にそよいでいる。松明からはずして、調べてみた。

フツーに落ちてるだけだったら、見落としちゃうかもだ。目立つように、立ててある。

■260p

ハヤカワ版:
「わたしのからだをみつけたら、すぐ破壊してもらいたい」転送障害者は読みあげた。
原文:
Zerstöre meinen Körper, sobald du ihn findest, las der Transmittergeschadigte.

試訳:
『わたしのからだを見つけたら、すぐ破壊してもらいたい。

や、別に音読したとは書いてないし(笑) カッコもつけないイタリックで書いてあるだけだから、文面に目を通しただけでそ?

ハヤカワ版:
 では、異人は時間の井戸をくぐるさい、人形のからだをはなれ。超自我だけの存在にもどったのか?
原文:
Alaska runzelte die Stirn. Bedeutete das, daß Callibso nicht durch den Zeitbrunnen war, sondern lediglich sein Über-Ich aus dem Puppenkörper zurückgezogen hatte?

試訳:
 アラスカは眉をひそめた。これはつまり、カリブソは時間の井戸を使わず、人形のからだから超自我が脱けでただけということなのか?

超自我が時間の井戸を使った、という描写は1回もなかったはず。ダッカル次元泡でも星系から星系へ、ふつーに移動してたもの。また、最後にふらふら旅立っていくあたりからも、超自我が物理法則に縛られていないのは、ほぼ確実。

ハヤカワ版:
 カリブソは自分に、隠遁して生きる道を提供したのだ……理由はわからないが。
原文:
So rätselhaft wie Callibso in Alaskas Leben getreten war, hatte er sich auch wieder zurückgezogen.

試訳:
 あらわれたとき同様、謎めいたまま、カリブソはアラスカの人生から退場したのだ。

いや、そう読む方が、理由がわからないからっ。普通、誤訳って、読みちがいとか読み落としとか、それらしいミスがわかるもんだけどねえ。

原文は直訳すると、「アラスカの人生に歩みいってきたときと同じくらい謎っぽく、再び今度は引きさがった。」くらいだろうか。

■261p

ハヤカワ版:
 テラナーは注意深く近づくと、岩を振りかざし、人形の頭部をなぐりつけた。頭部はかんたんに割れ、四肢が痙攣すると、やがて動かなくなる。
原文:
Alaska schlich sich vorsichtig näher. Als sich eine günstige Gelegenheit bot, hob er den Arm und schmetterte der Puppe den Stein auf den Kopf. Sie brach zusammen. Ihre Arme und Beine zuckten, in ihrem Innern wurde ein Scharren hörbar.

試訳:
 アラスカは注意深く忍び寄った。機会をうかがうと、腕を振りあげ、相手の頭に石をたたきつけた。人形はくずおれた。四肢が痙攣し、その体内から、きしるような音が聞こえる。

えーと。性と数と格と時制がまちがってなければ、そうおかしな訳になりそうもない、と以前書いたわけだが。なぜかをしめす恰好の例が登場した。Sie brach zusammen. だ。

まず主語は Sie だが、文頭のため大文字なので候補が無駄に多い。Sie 「あなた、あなた方(ともに丁寧語)」、sie 「彼女、それ(女性名詞)、彼ら、それら」……。
一方、分離動詞 zusammenbrechen は「砕く、砕ける、崩れ落ちる、挫折する」等いろいろ意味があるのだが、文中の変化形は過去・一人称と三人称単数に対応する brach zusammen である。遡って、主語は単数の「彼女、それ(女性名詞)」ということになる。

アラスカが打擲にもちいたものは、石 der Stein。たたきつけた部位は、頭 der Kopf。どちらも男性名詞であり、代名詞は er になるはず。それでは女性名詞になりそうなものは、と見まわすと、人形 die Puppe がみつかった。

――という具合に、ちょっとパズルのようだが、この文章を構成する要素は追跡調査が可能となる。「頭がぱっくりいった」ではなく、「人形はくたくたっと倒れた」のだ。
なんでこうまで執拗に説明したかというと、ここで「頭がぱっくりいった」ために、次の段落も、不可能が可能になってしまっているからである。

ハヤカワ版:
 アラスカはしばらく躊躇したあと、人形の胴体をこじあけることにした。何度か岩をぶつけるが、意外に頑丈である。ようやく、一部がのぞけるようになったものの、ロボットのようなメカニズムがないとわかっただけである。
原文:
Alaska schlug noch ein paamal auf sie ein, dann rührte sie sich nicht mehr. Vergeblich versuchte er, ihren Körper gewaltsam zu öffen und einen Blick in ihr Inneres zu werfen. Sie war zu stabil. Er würde nie erfahren, ob sie ein Roboter oder irgend etwas anderes war.

試訳:
 さらに何度か殴ると、人形は動かなくなった。アラスカはそのボディをこじあけ、中身を見ようとしたが、あまりに頑丈すぎた。これがロボットなのか、もっと別のものなのか、わかることはないだろう。

vergeblich 「無駄に、いたずらに、むなしく」がある時点で、その試みは成功していないわけだが……。石で殴ったくらいで頭がぱっくりいくのに、ボディをこじあけられないわけがないと思ったのか、段落まるごと切った貼ったして、なんだか穴があいたみたいな結末になっている。実際には、頑丈すぎて、中身は見られなかったのだ。

ハヤカワ版:
 やがて、近くにシリンダー帽が落ちているのを見つけ、なかを調べた。だが、各種器具は消えている。
原文:
Alaska nahm der Puppe den Zylinder vom Kopf, aber die Instrumente, nach denen er suchte, waren verschwunden.

試訳:
 アラスカは人形の頭からシリンダー帽を取りあげたが、探してみても各種器具は消えていた。

石で殴りつけても、かぶったままだったのだ。ちがう意味で頑丈すぎる(笑)
あと、シリンダー帽 Zylinder だが、カリブソのイラストを見たことのある方はご存じだろう。まんまシルクハット Zylinder である。

■262p

ハヤカワ版:
 孤独な男はその後、たえず悪夢に悩まされるようになった。
原文:
Die folgenden Tage vergingen für den einsamen Mann wie ein Fiebertraum.

試訳:
 つづく数日は、孤独な男にとり、熱にうかされた夢のようにすぎていった。

夜見るのは悪夢かもしれないが、べつに昼間幻覚に悩まされてるわけじゃ(まだ)ないよね。

ハヤカワ版:
 あれ以来、都市は死にたえたようである。人形の姿は見えず、気配も感じなかった。また、カリブソが帰還した形跡もない。
原文:
In der Stadt rührte sich nichts mehr. Die Puppen schienen ihre Häuser nicht mehr zu verlassen. Es gab keinerlei Anzeichen für eine Rückkehr Callibsos.

試訳:
 都市には動きがまったくない。人形たちは家屋から出てこないようだ。カリブソの帰還をしめす徴候もない。

うん、ちょっとがんばりすぎかな(笑) 著者が小出しにしている分まで放出しちゃった感がある。「死にたえた」「気配がない」とまで書くと、あとでアラスカが、人形が「死滅」しているのを発見しても、驚かなくなっちゃうさw

■263p

ハヤカワ版:
 時間の井戸を使えば、いつでも逃げることができる。
原文:
Der einzige Ausweg aus dieser Situation war der Zeitbrunnen.

試訳:
 この状況からの唯一の脱出口は、時間の井戸だ。

まあ……言ってる内容は、おおよそ変わらないけどね……。

ハヤカワ版:
 それでも、たえず地球の運命について、考えてしまう。どのようなカタストロフィが二百億の住人を脅かしたのだろうか? それとも、そのカタストロフィはすでに“起こって”しまったのだろうか?
原文:
Alaskas Gedanken kreisten ständig um das Schicksal, das die zwanzig Milliarden Bewohner Terras bedrohte. Welche Katastrophe stand auf der Erde bevor? Hatte sie inzwischen schon stattgefunden?

試訳:
 200億のテラ住民を脅かす運命について、たえず考えてしまう。地球を待ちうけるのは、いかなる災厄? それはもう起きてしまったのだろうか?

訳文だと、どっちも「過去」じゃないかw いろいろいじりすぎなんだよ。

ハヤカワ版:
市内のほかの場所でも、状況は変わらなかった。
原文:
Der Terraner war sicher, daß es überall in der Stadt genauso aussah.

試訳:
きっと、市内いたるところがこのありさまなのだろう。

まだ、見てまわっていない。一軒目の状況からの推察である。

ハヤカワ版:
 ある日の寒い夕方、
原文:
Die Tage wurden kürzer, die Abende empfindlich kalt.

試訳:
 日が短くなり、夜は肌寒くなってきた。

いやー、これを「ある日の夕方」って訳せる胆力だけは見習いたいわ(笑)
……性も数も格も時制も比較級もどうでもいいんだな。

まあ、後の記述と照らし合わせると、アラスカは4月末にこの惑星に到着し、12月初頭にテラへむかう。半年以上、孤独にすごしているのだ。季節も変わるわけやね。

ハヤカワ版:
建築材料はいくらでも入手できたし、町にいけばたいていの日用品がそろっていたのである。
原文:
Baumaterial stand ihm genügend zur Verfügung, die gesamte Stadt gehörte jetzt praktisch ihm.

試訳:
建築資材なら好きなだけある。いまや都市全体が事実上かれのものなのだ。

zur Verfügung については、先だって書いたよね。好きにする――というのは、おそらく、万里の長城ばらして石材利用するようなもんだ(笑)

日用品? だれがそんな話してるんだっけ。

■264p

ハヤカワ版:
 ある朝、目ざめると、雪が降っていた。デログヴァニエンではじめての雪だ。あたりの風景が白い色に染まっていく。
 どうやら、すべてを失いたくなかったら、この惑星を去らなければならないらしい。
原文:
Als er eines Morgens erwachte und der erste Schnee des Jahres die gesamte Landschaft weiß gefärbt hatte, war Alaska sicher, daß er das Ende des Winters auf Dergwanien nicht mehr erleben würde.
Wenn er den Verstand nicht völlig verlieren wollte, mußte er diese Welt verlassen.

試訳:
 ある朝めざめると、初雪で風景がまっしろに染まっていた。このままでは、デログヴァニエンで冬の終わりを迎えることはあるまいと、確信があった。
 理性を根こそぎ失いたくなければ、この世界を離れなければならない。

まあ、凍死すると思ったのかはさておき。無駄に削除してる部分多すぎだろう、これ……。

ハヤカワ版:
 二百億の人間は、じつは消失しなかったのかもしれない。あるいは、あとでテラに帰還したか。ともあれ、そこに行けば、すべてが明らかになるだろう。
 勇気を持たなければ。
原文:
Zwanzig Milliarden Menschen konnten nicht einfach verschwinden, redete er sich ein. Sie würden zurückkehren. Alles würde sich als Irrtum herausstehen.
So sprach er sich selbst Mut zu.

試訳:
 二十億もの人間が、ぱっと消失するはずがない。きっと戻ってくる。なにもかも間違いだったと、明らかになる。
 そうやって、みずからを鼓舞した。

自分が到着の「時点」で、人間の姿がないことは、理解している。そのあと、戻ってくるにちがいない――と、嘘でもいいから自分を奮い立たせるために言いきかせている。なので、原文は仮定の未来なのだ。

ハヤカワ版:
 アラスカ・シェーデレーアはデログヴァニエンを去り、テラに向かうことにした。カリブソの調整を信じるなら、伝統的テラ暦で三五八一年十二月には、到達するはずである……
         
 時間の井戸をぬけると、雪原に出た。地表はすっかり雪におおわれている。
原文:
Dann, als man überall dort, wo Menschen lebten und die Zeit in herkömmlicher Weise maßen, den Dezember des Jahres 3581 erreicht hatte, verließ der Transmittergeschädigte Alaska Saedelaere Derogwanien.
Er benutzte den Zeitbrunnen, der unmittelbar nach dem Verschwinden des Terraners erlosch. Eine schneebedeskte Bodenfläche blieb zurück.

試訳:
 そうして、人類が暮らし、旧来の暦を用いるすべての場所で、三五八一年十二月をむかえるころ、転送障害者アラスカ・シェーデレーアはデログヴァニエンを離れた。
 使用された時間の井戸は、テラナーが通過してまもなく消失した。あとには雪におおわれた大地が残された。

なにが困ったって、段落どころか、*印までいじってることだ。しかも、話がつながっている個所に挿入して、訳がおかしくなっている。訳文だと、井戸使ったのはカリブソになっているわけだが……五十嵐さん、自分で原文読んでるか? まじで翻訳ソフト使ってない? 原文にない「カリブソによる調整」とか、ソフトが訳せてないところを原文にあたらないでいじっているとしか思えないわ。ひどすぎ。

■265p

ハヤカワ版:
 カリブソの超自我はあたりを観察し、愕然とした。アラスカ・シェーデレーアがいないのだ。
 テラナーはこの決定的段階を予想していなかったはず。
原文:
Callibsos Über-Ich, das ab und zu zu den alten Plätzen zurückkehrte, um sich umzusehen, wunderte sich, daß es Alaska nicht mehr antraf.
Eigentlich hatte es dem Terraner diesen entscheidenden Schritt nicht zugetraut.

試訳:
 観察のため、時折もどってきていたカリブソの超自我は、アラスカに遭遇しなかったことに驚嘆した。
 テラナーがこの決定的な一歩を踏みだそうとは思っていなかったのだ。

後の文の主語 es は、超自我が中性名詞なので。これも、そもそも何が主語なのか、ちゃんと確認できてないから、こんな変な訳文になる。「この決定的段階」って、なんなのか説明してほしいわ。

ハヤカワ版:
超自我は大宇宙で“新しい家”を探すため、捜索の旅に出た。
原文:
Sein Über-Ich wanderte durch die Räume auf der Suche nach einer besseren neuen Heimat.

試訳:
超自我は、幾多の空間をぬけて漂泊する。新たなる、よりよき故郷をもとめて。

……。
やっぱ300巻のころに、無理してでも全文照合やっとくべきだったか、とつくづく思うわ。だれもなんにも言わないから、悪化してるじゃないか。こんなん、わしだったら、冥土でフォルツに顔合わせられんぜ。
「月2回もあるんだから、そんなに時間かけられん」とか言うなら、月1に戻せばよろし。正直、こんな誤訳だらけの読まされてる日本の読者は悲惨だぞ?

ドイツSF大賞2010、ノミネート作

5/2付けで、2010年ドイツSF大賞のノミネート作が発表された。
選考はドイツSF大賞選考委員会により、授賞式は9/18にライプツィヒで開催されるSFCDの年次大会(エルスターコン)内にて執りおこなわれる。

■長編部門 Sparte Bester Roman:
Michael R. Baier / Coruum 3 / コルーム3
Jan Gardemann / Der Remburg-Report / レンブルク・レポート
Karsten Kruschel / VILM / ヴィルム
Selim Özdogan / Zwischen zwei Träumen / ふたつの夢のはざまで
Uwe Post / Symbiose / 共生
Frank Schätzing/ Limit / リミット
Heinrich Steinfest / Gewitter über Pluto / 冥王星の天気
Juli Zeh / Corpus Delicti – Ein Prozeß / “罪体”コーパス・デリクタイ――プロセス

■短編部門 Sparte Beste Kurzgeschichte:
Matthias Falke / Boa Esperança / ボア・エスペランサ
Jan Gardemann / Techne / テクネ
Ernst-Eberhard Manski / Das Klassentreffen der Weserwinzer
/ ヴェーゼルヴィンツァー校の生徒集会
Helmuth W. Mommers / Mutter Erde, Vater Kosmos / 母なる地球、父なる宇宙
Niklas Peinecke / Klick, klick, Kaleidoskop / くるくる万華鏡
Gero Reimann / Kalchas wie kotzende Hunde
oder Warum Iphigenie in Aulis nicht geopfert werden konnte
/ おくびする犬のようなカルカス または タウリケのイピゲネイアが生贄をまぬがれた顛末
Gero Reimann / Im Äquilibrium / 平衡状態
Armin Rößler / Der Fänger / 捕食者
Christian Weis / Schöpfungsliberalismus / 創世のリベラリズム

以前紹介した、ラスヴィッツ賞ノミネートと、かぶっている作品あり、はじめて見る名前あり。
そしてまた、タイトルだけだと内容を妄想できない(笑)ものが多い。コーパス・デリクタイとか、むしろミステリ向きの題名じゃないかろうか。
※いま調べたのだw 犯罪がおこなわれていることを証拠立てるもの(例:死体)のようである。

■公式サイト:www.dsfp.de (現在、SFCDのサイトに転送される)

時間超越 ヴィジョン

さて、おひさしぶり(笑)の「時間超越」。とうとう5月にまで食い込んでしまった。今回は10章内「ヴィジョン」である。

時間の井戸に首までつかった――は意味が逆だな(笑) 首つっこんだアラスカが見たヴィジョンとは!? なのだが。なにこれ、さっぱりわかんねーよっ、って読者さん、多そうだ。最初に言っておく。例によって、訳、gdgdなんである。というより、わざわざ、アラスカがいま、何時・何処にいて、どういう状況か、わかる描写をガンガン削ってしまって、自分でわからなくなっているように見うけられる。

なので今回は、「訳されていない」場所を比較してもらえるよう、最初に試訳全文を掲載する。

試訳
 いまいるのがどこで、この見なれない環境にどうやって自分が顕在しているのか、アラスカにははっきりわからない。かれは滑空していた。それとも、惑星地表がかれの下を通りすぎていくのか?
 しばらくのあいだ、理性的な思考は成りたたなかった。自分自身のことで手いっぱいだったのだ。それとわかる肉体もなしに観察しうるというこの現象は、まったく新奇なもの。まずは、これに慣れなくては。
 アラスカは、人気ひとけのない土地の上空にいた。まもなく、それがどこかに気づく。
 旧南米、アンデス山脈にある高原だ。
 ここはアルティプラノ上空だった。
 方角を見さだめようとするが、いまいる謎めいたポジションからでは不可能。すべてが動いていた。町、村、この地方には無数にある計測・制御ステーションが、みるみる通りすぎていく
 一度は、ティワナクの特別保護区域を認めたように思われた。
 地上ステーションの存在から、自分が“現在”にいることは確信していた。すなわち、メールストロームにある地球に。
 アフィリカーの地球だ!
 ティワナクは消え、終わりのない連鎖のように、チチカカ湖、そしてアレキパ、ワンカヨ、クスコ等々といった都市があらわれる。
 この地上の光景は、どこかおかしい、とアラスカは思った。なにかが、なにか決定的なものが変わってしまっている! 一心不乱に考える。おそらく、かれはすでに回答を知っている。それでいて、認めるを拒否しているのだ。
 地表の――それともアラスカの――動きがいっそう速くなった。あまりに目まぐるしく情景が移りかわるため、もはや肉体をもたぬ観察者には消化しきれない。
それから、すべてがおもむろに停止した。
 アラスカはとある大都市を見おろした。すぐにはどこだかわからない。
 その瞬間、自分がなにを認識し、かつ受けいれていなかったのか、理解した。
 都市は見捨てられていた!
 ひとりとして、人間がいないのだ。
 それは、ここまで見てきたすべての都市にもあてはまる。
 ひやりとした恐怖がアラスカをつつみこんだ。ピンでとめられた標本のような気分。
 情景が切りかわった。
 孤独な観察者の下、地球が自転している。大陸があらわれては消え、都市と大地がいれちがっていく。破壊の徴候はどこにも存在しなかった。なにもかもが、たったいま放置されたように見える。
 ヴィジョンから導きだされるのは、破滅的な結論
 地球には、もはや人類がいなかったヽヽヽヽ ヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ
 潜在意識と、デログヴァニエンに残された肉体との説明できない連携で、アラスカ・シェーデレーアは時間の井戸から頭をひきぬいた。ヴィジョンはたちどころに終了した。

……。
地名・都市名については、ティワナク同様、今回はWikipediaに倣うことにした。
一通り目を通していただいたら、各論(笑)に移ろう。

■251p

ハヤカワ版:
 ここがどこか、どうやってこのなじみのない場所にやってきたか、正確にはわからない。たんに“スライド”してきたのか? それとも、惑星地表を動きまわったあげくなのか……?
原文:
Alaska wußte nicht genau, wo er sich befand und auf welcher Weise er sich in dieser ungewohnten Umgebung manifestierte. Er glitt dahin. Oder bewegte sich die Oberfläche eines Planeten unter ihm hinweg?

動詞 manifestieren は、某党マニフェストなんて風にも使われるとおり、「宣言する、声明を出す、明らかにする」である。ただし、SFやホラーなんかだと、「(存在が)顕在する」という使われ方が多い。
動詞 gleiten は「滑る、滑走する」だが、ローダンの場合は、グライダーと同根、といった方がわかりやすいかと思う。「滑空する」である。この場合、さらに dahin 「(ここから)あちらへ」とくっついた分離動詞っぽいが、意味的にはいっしょ。

さて、アラスカはいまどこにいるのか? 訳文だと、まるで転送されてきたように書いているが(前の文章を「べつの環境にいた。」とも訳しているし)、要するにアラスカ、首だけ別の時空につっこんだ状態である。そして、これ、空にアラスカの首が浮かんでいる状態をイメージしてもらった方が理解しやすいはずだ。実際にはもうちょいちがうのだが……とにかく「地表を動きまわる」とか、論外w

ハヤカワ版:
 アラスカ・シェーデレーアはしばらくのあいだ、理性的な思考ができなくなっていた。おのれの置かれた状況を把握しようと、意識のすべてを動員していたから。だが、やがて新しい環境にも慣れはじめる。
原文:
 Eine Zeitlang brachte er keinen vernünftigen Gedanken zustande, denn er war allein mit sich selbst beschäftigt. Das Phänomen, ohne einen fühlbaren eigenen Körper beobachten zu können, war völlig neu für ihn. Er mußte sich erst daran gewöhnen.

意識、という単語は原文中にない。内容的には近いんだけどね。逆に、Phänomen「現象」とか、Körper「肉体」という単語は、訳文中に見うけられない。原文まんなかの文章は「感知しうる自分の肉体なしに観察するという現象」……つまり上記首だけ状態の説明である。首もないか(笑) 視覚だけが……「あなたの目はあなたの体を離れて」、滑空しつつ眼下の情景を見ているのだ――と、本来、読者はここまでに理解しているはず。
なんだが、なぜかバッサリやられている。なぜだ?

ハヤカワ版:
 地表のように見える場所を去り……しばらくして、自分がどこにいるか、ようやく認識した。
 “かなり昔”の南アメリカ大陸、アンデス地方の高原だ。
 アルティプラノにちがいない。
原文:
Alaska befand sich über eiem verlassen aussehenden Land. Wenig später erkannte er, wo er war.
Diese Hochebene lag in den Anden des ehemaligen Südamerikas.
Alaska befand sich über dem Altiplano.

befand sich は、前にも書いたが、「どこそこにいた」。前置詞 über は、場所関係に用いる場合、「~の上(接触していない)」。ぶっちゃけ、どこそこの上空にいた、である。大事なことなので2回言っているのに(笑) 2回とも無視されている。
verlassen は動詞 verließen「離れる」の過去分詞で「人気のない、無人の」なんだが……。befand sich があるのに、不定冠詞が前にある Land の修飾なのに、なんで動詞として訳すのかねえ。Land に見える(aussehen)場所を verlassen? verlassen に見える Land だよっ。

また、最近すぐ“”つけてごまかしてるけど、ehemalig を「“かなり昔”」って、どんな読み方やねん。前の章でも書いたけど、単に「旧南米」でしょ。「テラのアルティプラノ」じゃわかりづらいからという補足説明と見るべき。しかも、これを作中時間として想定すると、つづくアラスカの観察と矛盾してるよ?

ハヤカワ版:
 いまいるポジションを特定しようとするが、うまくいかなかった。町、村、あるいは地域の計測・制御ステーションが、近くにあるはずなのだが。
 一度、ティアワナコの特徴を認めたように思ったが、それだけだった。
原文:
Er versuchte sich zu orientieren, aber das war von seiner rätselhaften Positon aus nicht möglich. Alles schien in Bewegung. Stadte, Dörfer und die in diesem Gebiet sehr zahlreichen Meß- und Kontrollstationen huschten vorüber.
Einmal glaubte Alaska den besonders abgegrenzten Bezirk von Tiahuanaco zu erkennen.

動詞 oritentieren は、オリエンテーリングから推測できるように、「方向をさだめる、調べる」だが、原文だと「ポジション」は別の文節にある。右も左もわからないけど、そもそもいまいる位置が特定できないから基準がない、のだ。
そんでもって、次の文章「すべてが動いている」を削除したせいで、原因不明になって、動いているものを描写したはずの文章が、まるで原因のように訳されている。

動詞 huschen は「急いでいく」、 vorüber「通りすぎて」とくっついて、「さっと通過していく」くらいの意味になるわけだが。この動詞も消滅している。通りすぎるどころか、町も村もステーションも、訳文だと、みつかってすらいないようだ(笑)

besonders abgegrenzter Bezirk は、遺跡の保護区域と判断した。「特別に・しきられた・エリア」である。ただし、特別保護区、とは一致しないので、訳し方はまちがっているかもしれない。

ハヤカワ版:
 地表の風景を見るかぎり、ここが地球なのはたしかだ……ただし、メールストロームに“流された”あとの……
 アフィリカーの地球だ!
原文:
Der Anblick der Bodenstationen überzeugte Alaska davon, daß er sich in der Gegenwart befand. Das konnte bedeuten, daß er sich über jener Erde aufhielt, die im Mahlsrom stand.
Die Erde der Aphiliker!

ステーションがあるから現在の地球だ、とアラスカは判断している。なのに、上記でステーションがみつかっていないから、「地表の風景」とやってごまかしている。バックしろよ。まちがえたこと、ここでわかるだろ?

さらにいえば、もうちょっと前の「“かなり昔”」に、判断の材料がなにも書いてなかったことも思いだしてほしい。アラスカがヴィジョン中の時間について考えているのは、ここがはじめてなのだ。

ハヤカワ版:
 ティアワナコは消え、ティティカカ湖があらわれた。つづいて、アレクィパ、ワンカィヨ、クスコその他の都市が見えてくる。
 しかし、この風景はどこかおかしい。なにか重要なものが違うのだ! アラスカは緊張した。無意識下では、その原因がわかっているような気がするが、意識がそれを認めるのを拒否している。
原文:
Tiahuanaco verschwand, in einer endlosen Kette erschienen der Titicacasee, Ariquipa, Huancaya, Cusco und andere Städte.
Alaska erkannte, daß dort unten irgend etwas nicht stimmte. Es hatte sich etwas verändert, etwas Entscheidendes! Er dachte angestrengt nach. Wahrscheinlich kannte er die Lösung bereits, aber er weigerte sich, sie anzuerkennen.

名詞 Kette は「鎖、チェーン」。Kettenreaktion で「連鎖反応」。で、この場合、チェーンをたぐるように、都市が次から次にあらわれ(ては消え)るのだ。

angestrengt 「緊張した、真剣な、無理をした」は、動詞 anstrengen 「酷使する、(緊張させて)くたびれさせる」の過去分詞を、副詞として使用している……のだが。本来の動詞が消えてしまっている。nachdenken は「よく考える、思い返す、反省する」。ここでアラスカは、自分の見落としについて、真剣に「考え」ているのだ。

ハヤカワ版:
 ともあれ、動きが速すぎるのはたしかだ。動いているのが風景なのか、シェーデレーアのほうなのか、それはわからないが。とにかく、肉体のない観察者が、印象を消化できないほど速いのである。
 だが、次の瞬間、すべてが停止した。
原文:
Das Land – oder Alaska – bewegte sich jetzt schneller, die Eindrücke wechselten so schnell, daß der körperlose Beobachter sie kaum noch verarbeiten konnte.
Dann kam alles ruckartig zum Stillstand.

jetzt schneller ――「いま、もっと早く」だ。速度があがったのである。
これを、アラスカの思考に反応したとみるかはさておき、これまではなんとか、どこの都市だかわかっていたものが、ぐるんぐるんまわりはじめてさっぱりわからなくなった、と考えるべきだろう。

ハヤカワ版:
 気がつくと、正面に大都市がひろがっている。いままで見えなかった町だ。
 意識がうけいれを拒否していたのは、この都市にちがいない。
 町は見捨てられていた!
 だれも住んでいないのだ。
 そういえば、これまでに見てきた町も、すべて同じだった。
 氷のような恐怖の感覚が押しよせてくる。唖然として、移動できない。
原文:
Alaska blickte auf eine große Stadt, die er nicht auf den ersten Blick erkannte.
In diesem Augenblick begriff er, was er die ganze Zeit über registriert, aber nicht akzeptiert hatte.
Diese Stadt war verlassen!
Kein einziger Mensch lebte zwischen ihren Mauern.
Das traf für alle Städte zu, die er bisher erblickt hatte.
Ein eisiges Gefühl der Furcht hüllte Alaska ein. Er kam sich plötzlich wie festgenagelt vor.

blicken auf で「~の方向を見る」、再帰動詞 Aufblicken だと「~を見上げる、仰ぐ」。このあとでも、アラスカ(の目)は上空にいるのは変わらないから、いるとしても、正面ではなく「真上」である。

auf den ersten Blick は、「ひと目で、ぱっと見で」。むしろ、それまでの都市の方が、アラスカわかりすぎだと思うが(笑) なにか特徴的な建造物でも知っているのだろうか。
で、肝心なのは、この都市じゃなくて、中身なのである。気づいたことは、次の文章で説明しているのである。ビックリマークだってついている(笑) 勝手に補足して、話を破綻させるんじゃねーって。見たこともない、って自分で訳しといて、それをうけいれ拒否してた? 日本語としておかしいじゃないか。

Mauer は「壁」。いつの時代からの慣用句か知らないが、古代中国の城郭みたいなイメージなんだろか。「壁と壁のあいだ」が人の住むエリアというのは。日本人……というか、根っから平民のわたしにはわからないなあ。

動詞 einhüllen は「包む、くるむ」。押しよせて、というより、パックリのみこまれちゃったんじゃない? また動詞 festnageln は「釘で留める、釘付けにする、動きがとれない」だが、ここまで見たとおり、アラスカ自身には移動先の選択能力はない。試訳の方もたいがい意訳(超訳)だが、肉体がないのに「身動きがとれない」のも変だしねえ。

ハヤカワ版:
 風景が切り替わった。
 地球が孤独な観察者の下で回転している。大陸があらわれては消え、都市と広野が交互にすぎていった。どこにも破壊の痕跡はない。すべてがそのままの状態で、いきなり放棄されたように見える。
原文:
Das Bild wechselte.
Die Erde drehte sich unter dem einsamen Beobachter hinweg. Kontinente erschienen und verschwanden, Städte und Felder lösten einander ab. Nirgends gab es Anzeichen von Zerstörung. Alles sah so aus, als wäre es gerade verlassen worden.

この部分は、特にツッコミどころなし。
Anzeichen は、徴候つーより痕跡ってやった方が、たしかにわかりやすいよなあ。

ハヤカワ版:
 徹底的にうちのめされるようなヴィジョンだ。
 地球には、もはや人類がいなかった!
 いきなり、肉体を感じて、頭をあげる。潜在意識の説明できない作用で、デログヴァニエンの肉体にもどったのである。ヴィジョンは一瞬で消えた。
原文:
Das war die vernichtende Konsequenz der Vison:
Auf der Erde gab es keine Menschen mehr!
In einem unerklärlichen Zusammenspiel seines Unterbeweßtseins mit dem auf Derogwanien zurückgelassenen Körper hob Alaska Saedelaere den Kopf aus dem Zeitbrunnen. Die Vision endete sofort.

vernichtend は、これまで何度も見てきた、殲滅スーツと同根。動詞 vernichten 「破壊する、根絶する、消去する」の現在分詞で、「破壊的な、ぶちこわしの」。
名詞 Konsequenz は一連のシークエンスからたどりつく「結論」。文末がカンマでなくコロンなので、次の文章が、その結論の内容である。

名詞 Zusammenspiel は「合同競技、チームワーク、協力、相互作用」……と、辞書にはあるが、「連携プレー」だよなあ(笑) 潜在意識が肉体とタッグを組んだ、のである。また、肉体にもどった云々は、訳者の主観。首つっこんだだけなのだから、ひっこぬけば見えなくなるのが道理。

……。
と、いうわけで。わざわざ削除したとしか思えない描写が多すぎる。字数制限かなんか知らないけど、それで意味が通らなくなるとか、後ろの文章を改変するとか、タチ悪いよ。
それで辻褄が合わなくなってる個所があるのが、わかっていないのか、訳者のなかでは辻褄が合っているのか。前者だと困りもんだけど、まだ救いようがある……んだけどなぁ。