ローダン公式サイト&フォーラム、リニューアル

えーと……明日予定だったんじゃ……もう更新されてるな、勘違いか(笑)
ローダンの公式サイトとメンバーズフォーラム Galaktisches Forum がリニューアルされた。

前回が2500話刊行と合わせてだったので、ほぼ3年ぶりになる。
銀河フォーラムは、「マルチメディアラウンジ」の一環として以前よりシームレスに閲覧が可能。

うん、前も書いたけど、今回はさらにいっそうブログっぽくなったw
個人的に、以前の更新一覧はわかりやすくて好きだったのだが、これはこれで、すっきりしている。
でも、これ、フォーラムいったら、元のページに戻ってこれないじゃんか(笑)

ペリー・ローダン公式サイト

ドイツSF大賞とは&受賞作リスト

ごやてん(跡地)の記事でよく取りあげるドイツSF関連三賞のひとつ、ドイツSF大賞。
いったいどんなものなのか、いい機会なので、簡単にまとめておこう。

ドイツSF大賞(Deutscher Science Fiction Preis)は、ドイツSFクラブ(SFCD)――ダールトンが創設に一枚噛んだとゆー、ドイツ最大のSFファンクラブ――が、ドイツにおいて前年出版された商業SFのなかで、最も優れた作品を表彰するもの。商業ベースで刊行されたものに限るところが、ラスヴィッツ賞等とは異なる。

創設当初は、SFCD文学賞といったような記憶があるが、ちょっと確認できなかった。
選考は毎年招集される選考委員会(現在は10名)によっておこなわれ、授賞式は毎年のSFCD年次総会を兼ねたコンヴェンションにて執りおこなわれる。2012年の賞金は1000ユーロ……って、いま何円だっけ。

歴代の受賞作品は以下のとおり:

長編部門 Bester Roman:

1985: Herbert W. Franke / Die Kälte des Weltraums / 大宇宙の冷気
1986: Thomas R. P. Mielke / Der Tag an dem die Mauer brach / 壁の崩れた日
1987: Claus-Peter Lieckfeld & Frank Wittchow / 427 – Im Land der grünen Inseln
     / 427――緑なす島々の国
    Friedrich Scholz / Nach dem Ende / 終末の後
1988: Gudrun Pausewang / Die Wolke / 雲
1989: Fritz Schmoll / Kiezkoller / キーツ熱
1990: Maria J. Pfannholz / Den Überlebenden / 生きのびる者たちに
1991: Herbert W. Franke / Zentrum der Milchstraße / 銀河系の中心
1992: Christian Mähr / Fatous Staub / ファトウの塵
1993: Herbert Rosendorfer / Die Goldenen Heiligen / 黄金の聖者たち
1994: Dirk C. Fleck / GO! Die Ökodiktatur / いけ! エコ独裁者
1995: Gisbert Haefs / Traumzeit für Agenten / 工作員には夢のような時代
1996: Andreas Eschbach / Die Haarteppichknüpfer / 髪織絨毯職人
1997: Andreas Eschbach / Solarstation / ソラー・ステーション
1998: Robert Feldhoff / Grüße vom Sternenbiest / 星獣からの挑戦
1999: Andreas Eschbach / Das Jesus Video / イエスのビデオ
2000: Matthias Robold / Hundert Tage auf Stardawn / スタードーンでの百日
2001: Fabian Vogt / Zurück / 遡行
2002: Oliver Henkel / Die Zeitmaschine Karls des Großen / カール大帝のタイムマシン
2003: Oliver Henkel / Kaisertag / 皇帝の日
2004: Andreas Eschbach / Der Letzte seiner Art / その型式、最後のひとり
2005: Frank Schätzing / Der Schwarm / 群体(邦題:深海のYrr)
2006: Wolfgang Jeschke / Das Cusanus-Spiel / クザーヌス・ゲーム
2007: Ulrike Nolte / Die fünf Seelen des Ahnen / 祖先の五つの魂
2008: Frank W. Haubold / Die Schatten des Mars / 火星の影
2009: Dirk C. Fleck / Das Tahiti-Projekt / タヒチ計画
2010: Karsten Kruschel / Vilm. Der Regenplanet / Vilm. Die Eingeborenen
     / VILM(雨の惑星/現住種族)
2011: Uwe Post / Walpar Tonnraffir und der Zeigefinger Gottes
     / ヴァルパー・トンラッフィルと神の人差し指
2012: Karsten Kruschel / Galdäa – Der ungeschlagene Krieg
     / ガルデーア――終わらない戦争

短編部門 Beste Kurzgeschichte

1985: Thomas R. P. Mielke / Ein Mord im Weltraum / 宇宙空間殺人事件
1986: Wolfgang Jeschke / Nekyomanteion / ネクヨマンテイオン
1987: Reinmar Cunis / Vryheit do ik jo openbar / 我、汝らに自由を布告するものなり
1988: Ernst Petz / Das liederlich-machende Liedermacher-Leben
     / 自堕落な作曲家の人生
1989: Rainer Erler / Der Käse / チーズ
1990: Gert Prokop / Kasperle ist wieder da! / カスパール再び参上!
1991: Andreas Findig / Gödel geht / ゲーデルが行く
1992: Egon Eis / Das letzte Signal / 最後のシグナル
1993: Norbert Stöbe / 10 Punkte / 10のポイント
1994: Wolfgang Jeschke / Schlechte Nachrichten aus dem Vatikan
     / ヴァチカンからの凶報
1995: Andreas Fieberg / Der Fall des Astronauten / とある宇宙飛行士の件
1996: Marcus Hammerschmitt / Die Sonde / ゾンデ
1997: Michael Sauter / Der menschliche Faktor / 人的要因
1998: Andreas Eschbach / Die Wunder des Universums / 大宇宙の奇跡
1999: Michael Marrak / Die Stille nach dem Ton / 音のち無音
2000: Michael Marrak / Wiedergänger / 再行者
2001: Rainer Erler / Ein Plädoyer / ある弁論
2002: Michael K. Iwoleit / Wege ins Licht / 光への道
2003: Arno Behrend / Small Talk / スモール・トーク
2004: Michael K. Iwoleit / Ich fürchte kein Unglück / 不幸なんてこわくない
2005: Karl Michael Armer / Die Asche des Paradieses / 楽園の灰
2006: Michael K. Iwoleit / Psyhack / サイハック
2007: Marcus Hammerschmitt / Canea Null / カネア・ゼロ
2008: Frank W. Haubold / Heimkehr / 帰郷
2009: Karla Schmidt / Weg mit Stella Maris / さよならステラ・マリス
2010: Matthias Falke / Boa Esperança / ボア・エスペランサ
2011: Wolfgang Jeschke / Orte der Erinnerung / 思い出の場所
2012: Heidrun Jänchen / In der Freihandelszone / 自由貿易地域にて

※日本語タイトルは、基本的にすべて仮訳である。内容と異なる場合もあるのでお含み置きを。

……と、まあ、並べてみると、わが国への紹介度合いの低さにため息が出てしまう。長編『イエスのビデオ』と『深海のYrr』だけである。
これが、ラスヴィッツ賞やファンタスティーク大賞の海外部門、英語圏の作品だとほとんど紹介済みなのは、やはり言語の壁か。はたまた作風や質的に商業ベースにかなうか否か、なのかは、ちょっと判断に苦しむところ。
かく言うわたしも、エシュバッハとフェルトホフの作品以外、ほとんど読んでないしねえ(汗)
ま、まあ、それはさておき(爆)、残る2賞(ラスヴィッツ、ファンタスティーク)についても、近々にまとめてアップする予定である。日本版Wikiにもないし、誰かの役に立た……なくても、それなりに意味はあるだろう。

■ドイツSF大賞公式サイト:www.dsfp.de

ドイツSF大賞2012年受賞作発表

本年のドイツSF大賞の受賞作品が発表された。
(ノミネート時の記事はこちら

授賞式は7月21日、キールで開催されるドイツSFクラブの年次大会を兼ねた UrlaubsCon und Meer にて執り行われる。賞金はそれぞれ1000ユーロだそうな。

■長編部門 Bester deutschsprachiger Roman:

1. Karsten Kruschel / Galdäa – Der ungeschlagene Krieg
   / ガルデーア――終わらない戦争

2. Andreas Eschbach / Herr aller Dinge / 森羅万象の王
3. Simon Urban / Plan D / D計画
4. Michael Marrak / Black Prophecy: Gambit / ブラック・プロフェシー:ギャンビット
5. Charlotte Kerner / Jane Reloaded / ジェーン・リローデッド

以前dinfoでもちらっと紹介されたが、『ガルデーア』は同作者の『VILM』と世界観を共にしている。実際には『VILM』と同時期に、遠く離れた別の世界で生じたできごとが語られる。
ガルデーア戦争が残した影響に関する論文を作成中の学生マイケル・サンダーストームが、偶然つかんでしまう陰謀の影。惑星ペンタVのガルデーア総督ヤナ・ハコンの本国への逃走の旅路。そして権力の中枢ガルデーアでは……。錯綜する事態と、再燃しかねない戦争。はたしてサンダーストームは真実を知ることができるのだろうか。

エシュバッハ二冠はならなかったかー、というヤジウマ的感想と、『ジェーン・リローデッド』ってどんな話なんじゃろー、という疑問が残った。うん、これだけ調べてないもんなあ(笑)

■短編部門 Beste deutschsprachige Kurzgeschichte:

1. Heidrun Jänchen / In der Freihandelszone / 自由貿易地域にて
2. Frank W. Haubold / Das Paradies des Jägers / ハンターの楽園
3. Nina Horvath / Die Duftorgel / 芳香オルガン
4. Karla Schmidt / Auf dem Wind. Allein. / ただひとり。風に乗り。
5. Ernst-Eberhard Manski / Zeitlupenwiederholung
   / スローモーションでもう一度
6. Florian Heller / Das Ende der Party / パーティの幕切れ
7. Uwe Post / Träumen Bossgegner von nackten Elfen?
   / ボスキャラどもは裸エルフの夢をみるか?
8. Nadine Boos / Kryophil / クリオフィル
9. Holger Eckardt / Das letzte Taxi / 最後のタクシー

※以前マガンからの指摘もあったのだが、カーラ・シュミット作の原題は “Allein. Auf dem Wind” が正しい(作者のブログでもこちら)。ただ、DSFPのサイトではノミネート時も今回も前後逆になったままである。念のため。

ちょw ジョーイ君まさかの受賞かよw
(『自由貿易地域にて』の内容についてはこちらの記事を参照のこと)
男って悲しいよなー、という感想は、たしかエシュバッハの『ハロウィン』を取りあげたときにも書いた気がするのだが……まあ、今回はそういう主旨の話じゃないか(笑)

■ドイツSF大賞公式サイト:www.dsfp.de

SF短編集『分子音楽』 (Wurdack社)

手持ちの本を、ちまちま紹介していこうというこの企画2回目は、前回とおなじくWurdack社の短編集 Molekularmusik である。『エモシオ』の2年前にあたる2009年の刊行。
実は2冊のあいだに『オーディエンス』があるのだが、こいつは未入手なので。

この本も、過去取りあげたドイツのSF関連三賞のノミネート作、受賞作を輩出している。内容解説も、そのへんを主に抽出してみた。

表題:Molekularmusik / 分子音楽
出版:Wurdack-Verlag, 2009
判型:四六判、226p
編集:Armin Rößler & Heidrun Jänchen

収録作品(掲載順):
V. Groß / Molekularmusik / 分子音楽
Niklas Peinecke / Klick, klick, Kaleidoskop / 万華鏡かしゃり 【KLP6、DSFP2】
Birgit Erwin / Diskriminierung / 差別
Frank Hebben / Machina / マキナ
Heidrun Jänchen / Wie ein Fisch im Wasser / 水の中、魚のように
Uwe Post / Vactor Memesis / ヴァクター・メメシス 【KLP5】
Benedict Marko / Wie man sich ändern kann / 人はいかに変われるか 【KLP10】
Ernst-Eberhard Manski / Das Klassentreffen der Weserwinzer / ヴェーゼルヴァイン農家の同窓会 【KLP1、DSFP6】
Antje Ippensen / Knapp / 刹那
Uwe Hermann / Robter vergessen nie! / ロボットは忘れない!
Arno Endler / Ebene Terminus / 最終面
Kai Riedemann / Lasset die Kinder zu mir kommen / 子どもたちはお任せください
Karina Čajo / Der Klang der Stille / 静寂の音色 【DPP1、KLP3】
Bernhard Schneider / Schuldfrage / 責任問題
Christian Weis / Eiskalt / 氷のように冷たく
Bernd Wichmann / Rückkehr ins Meer / 海へ還る
Arnold H. Bucher / Den Letzten frisst der Schredder / ポンコツは破砕機に喰われる
Andrea Tillmanns / Der blinde Passagier / 密航者
Armin Rößler / Die Fänger / 狩猟者たち 【DPP5、DSFP7】

DPP:ドイツ・ファンタスティーク大賞
DSFP:ドイツSF大賞
KLP:クルト・ラスヴィッツ賞
数字は最終選考における席次

V・グロース 「分子音楽」

開幕にあたる表題作は、もと異星生物学者ミュラーによる、美しくも悲しい告白である。
東部保安星域を経めぐっていた異星生物学者ミュラーは、本来の予定にはない、惑星リマIIを訪れた。見知らぬ生命体との遭遇を予期していたミュラーは、思いもかけないことに人類と――孤高の音楽家オスカー・ベーレンバウフに出会う。気密ドームに暮らす音楽家にして科学者は、奇妙な音楽を創造していた。「分子音楽」を。
ベーレンバウフのピアノが奏でる奇怪な音色に合わせて、ドーム内を漂う分子がその姿を変える――そこには、世界が創造されていた。コバルトブルーの平原、炎のような草がなびき、畏怖を呼び起こす石像の群れ、森には太陽の光が踊り――。その美に魅せられたミュラーの胸中に、ある願望が浮かんだ。それが、かれの望む美を永遠にうしなわせることに気づかぬままに……。

ニコラス・ペイネッケ 「万華鏡かしゃり」

2010年度ドイツSF大賞中短編部門で次席を獲得した、ペイネッケの作品。
リックス・ヤンネンはベッドで目をさました。なぜだろう、わたしは追われている気がする。隣りで寝ている、一夜をともにした女性――ルースという名だ――を揺り起こして、早くここから逃げなければ、と告げる。わたしは、とある世界的な市民運動のメンバーで、スパロウホーク社の人体実験――大脳インプラントで人格を変え、行動を支配する――を暴こうとしたため、追われる身である、と。彼女はしばし思案して、ともに行こうと言ってくれた。シビックに乗って、わたしたちは逃走をはじめた。
かしゃり――と、頭のなかで万華鏡の揺れる音がした。そう、そうだ、ルースには言っておかなくては。あれはスパロウホーク社が開発したものではない。あんなものを、いまの人類につくれるはずがないではないか? UFOがもたらしたテクノロジーなのだ。あきれるルースを説得しようとしたとき、サイドミラーに映った車には灰色のフードをかぶった男の姿が……追っ手だ!
かしゃり――ところで、きみは誰だったか? わたしたちは何をしている? 政府のプロジェクトだかなんだかで、脳にインプラントを埋め込まれて行動制御がどーたら言ってたのはあなたじゃない。証拠? あなたよ、あなた! もう、こうなったら、医者よ、医者でそのインプラントを除去してもらうのよ!
そして、駆け込んだ医者のもとで、ついにふたりは追っ手――灰色のフードをかぶった男に追いつかれるのだが……。

物語は大まじめに進行していくのだが、正直、ルースさんの忍耐心と適応力には拍手w

ウーヴェ・ポスト 「ヴァクター・メメシス」

翌年刊行の長編『ヴァルパー・トンラッフィルと神の人差し指』でラスヴィッツ賞を獲得したポストの作品。この短編もラスヴィッツ賞にノミネートされた。
ジェームスマーは、『木星の悪魔のナメクジ』で一世を風靡した、チャイネシア最高の映画監督とされる。だが、いまの彼は絶望していた。ヴァクター(ヴァーチャル・アクター、思考するMMDモデルみたいなもんかw)たちが一斉にストライキをはじめたのだ。いまいましいアメリカ製のウィルスめ! おりしも、大書記長の半生を描くフィルムの進捗状況を確認に、党委員会からワンデンの2人が訪れて……。

dinfo等で上記長編の紹介を見たことがあれば想像できるかもしれないが、コミカルとゆーか、ハチャメチャである。主人公が相談におもむくと、パソコンに詳しい息子はキャプテン・フューチャーのコスプレといういでたちで、いきなり、「ふむ。銀河を救ってほしいのかな?」「いや、撮影を救ってくれるだけでいいです……」てな具合。
表題のメメシスは、ネメシスの誤植ではなく(笑)、ミームとかけてあるようだ。

ベネディクト・マルコ 「人はいかに変われるか」

えーと、昨年の夏だっけ? マガンのもとへメールを送ってきて、来日ついでに日本SF大会に顔を出したマルコの作品(笑)
保険会社のお客様相談センターに、1本の電話がはいる。ひとりの男が受話器をとると、「誕生日おめでとう。いや、独立記念日おめでとう、かな? きょうがその日だ。きみの待ち焦がれていた、自由になる日だ」
いぶかる男に、ボイスチェンジャーを使ったと思われる機械的音声はつづける。送った書類を見てみたまえ。18歳で死亡した少女の経歴……家族には「しわくちゃ子ネズミちゃん」と呼ばれ、半年間のフランスとの交換留学を経験し、プリクラが1000枚以上あり、フライドポテトとセーラームーンが好きで……。書類の末尾には、最初の保険鑑定人が謎の失踪をとげたことが備考として記されていた。フレダー・ダスト。かつての彼の親友の名前が。
職場を抜け出し、声――デウス・エクス・マキナ――との待ち合わせ場所に急ぐ男を追う謎の影。フレダーはなぜ消えた? レアは――男の最愛の恋人は、なぜ消えた? 人格をわずか7項目で機械に保存できるというのはほんとうか? 誰が……誰が、いったいそんなことを?
いくつものポイントを経て、たどりついた森で、男は機械仕掛けの神と、かつての親友に対面するのだが……。

えーと、ごめんなさい。正直、難解でよくわかんなかった(笑) ので、無駄に説明が長くなって2倍ごめん。冒頭で、トラックの運ちゃんがヒッチハイクを拾う場面とか、どこにつながるのかさっぱりだし。読解力足りなくってすんません……orz

エルンスト=エーベルハルト・マンスキ 「ヴェーゼルヴァイン農家の同窓会」

2010年度クルト・ラスヴィッツ賞、中短編部門で大賞に輝いたマンスキの作品。
いわゆるオルタネート物で、この世界では第二次世界大戦が1943年に終結し、ブダペスト会議の結果、ドイツは19世紀初頭の小国家乱立状態に戻されている。数十年が経過したいま、欧州連合に加盟したドイツ同盟の圧迫が、小国、東ヴェストファーレンにも及ぼうとしていた。
ハイケはバスケットの朝練に学校へ向かう途中、ぱったり祖父に出会った。おじいちゃん、こんな早くにどこいくの? うむ、ちょっと駅まで……職業訓練校時代の同窓会でな。ふーん、クラス会かあ。うむうむ、ポストに入っていた郵便物は配っておいたからな。了解、いてらー。
帰宅すると、内務省勤務の母が青い顔をしている。ハイケ、あなた、おじいちゃんを見なかった? おばあちゃんが来るのよ! 離婚した祖母は、ドイツ同盟で外交関連の仕事についていた。昨今の政情からして、だいぶヤバ目――というか、そもそも夫と幼い息子を捨ててから、とんと戻ってきたためしのない祖母が、である。えーと、おじいちゃんなら、今朝、同窓会にいくって……おじいちゃん、さては逃げた!?

……おじいちゃんはワイン用ぶどうを栽培している農家である。そして、本作中、同窓会の場面はいっさい登場しない。おばあちゃんが帰国するまでおじいちゃんも戻ってこない(笑) 実は「同窓会」という言葉に夫婦間の過去にまつわるとある事情があって、おじいちゃんは大国の圧力にたちむかう必殺仕事人なのだ(だいぶ語弊のある表現)。いや、殺しはしないと思うけど。たぶんきっと。

カリーナ・カオ 「静寂の音色」

2010年ドイツ・ファンタスティーク大賞短編部門を受賞、ラスヴィッツ賞でも第3席を獲得した作品。

およそ1世紀前に地球にあらわれた異星人たち――その外観から「ゴールデン」あるいは「輝きはなつ者」、身体を震動させて音波を出す会話方法から「シンガー」とも呼ばれる――は、さまざまなテクノロジーを提供して、科学技術の飛躍的な発見をうながし、また飢餓を世界から追放した。だが、本来無性である彼らが、学術的探求心からか、人間と交わり子を成したことは、後世にわたりずっと忌み嫌われてきた。
セト・ホクワンは、いわゆるゴールデンチャイルド、ゴールデンを父に、人間を母に持つ。だが、彼は言葉を発することができなかった。歌えない、シンガーの息子。お笑い種だ。あちこちと彷徨い、検問にひっかかったりするたびに、手話でなんとかそのことを伝えようとするが、警官たちにすら信じてもらえないありさまだ。
見知らぬ町にたどりついたセトは、とうに廃棄された地下鉄に迷い込み、そこでゴールデンチャイルドの人権をもとめる地下組織に邂逅するが……。

アーノルト・H・ブーヒャー 「ポンコツは破砕機に喰われる」

ロボット工場で働く433-285-911-3は、ある疑問にとらわれていた。なんで俺は、自分をスクラップにする――居場所を奪い、破砕機へと追いやるだろう新世代のロボットなんかつくらなきゃならんのか……。無線でグチられる相方は421-829-546-7。421型なので、433-285-911-3より少しだけ旧式である。いまコンベアに並んでいるのは613型なのだが、433-285-911-3のメモリ内では、依然、自分が現行機種なのだ。実際は、ほぼ全自動のこの工場くらいしか働き場すらないのに。
俺はおまえさんとちがって現行機種だから、いろいろ考えるんだよ。疑問を抱く能力があるんだ。……いや、別にぼくらより性能は劣る人間だって、疑問は抱くだろ。ええい、やかましいやつだな。俺は哲学想念を追っているんだ。魂とはなんぞや? おーい、考えごともいいけど、仕事しごとー……って、アッーw

――と、いう作品である。ロボットを人間に置き換えてみると、しごくドイツ的・哲学的な内容に見えるわけで。まあそのへん関係なく、すごく短いけど、なんだか好きだ(笑)

アルミン・レースラー 「狩猟者たち」

ある夏の日に、妹を奪われた。惑星コモンにあらわれた、見たこともない宇宙船は400名の人間をさらっていった。あの日、ヨルド・ヴィンセンツは誓ったのだ。ヨラ――妹を、いつか必ず取りもどすことを。

見知らぬ場所で目ざめたヴィンセンツは、過去をふりかえる。長じて戦闘機パイロットとなり、コモンも属す連邦世界のためにチグリ同盟と戦った。そして、ツルメオン星系での戦闘の際、宙域に突然出現した船を発見した。偶然か、それとも運命か。あの、妹をさらった「狩猟者」の船を。即座にヴィンセンツは機首をその船へむけた。脱走と思われたか、味方の艦船からも砲火を浴びたが、なんとか回避した。そして、あの船に肉薄し――奇妙なことになんの反応もないままに、外壁に係留することができた。しかし、そこで奇妙な雲につつまれた存在に遭遇し……以降の記憶は、闇に包まれている。
目の前にあらわれた少女は多くは語らなかったが、ヴィンセンツには自分がどこにいるのかがわかった。狩猟者の船! 少女のように見えるが、彼女もその実体は、あの雲につつまれた存在なのだ。だが、語りかける少女と、無慈悲な狩猟者とが頭の中でうまくつながらない。少女は言う。わたしたちはあなたたちの人生の物語を聞きたいだけ――長い永い旅路には、気分転換が必要なの。話終えたあとも、役に立つようならこの船で働いてもらうこともあるし――そう、あなたは妹さんのためにここまでやってきたのね。まったく驚きだわ。ええ、驚いたわ……。

狩猟者の船で、ヴィンセンツはひとつの仕事を与えられる。冷凍睡眠キャビネットの保守……最初、ヴィンセンツ自身も眠っていた、あの装置の機能確認作業である。ひょっとしたら、ヨラがいるのではないか……ほとんど一縷の望みにかけて、ヴィンセンツはその作業をひきうけた。日々が過ぎ去り、幾百、幾千ものキャビネットを確認し、当然のごとく妹はみつからない。やがてヴィンセンツの脳裏で、いまはいつなのか、という疑惑がじわじわと大きくなっていく。連邦世界は、コモンはまだ存在するのか? もしヨラを見出したとして、彼らは故郷へ帰ることが、はたして可能なのか?
そして、ヴィンセンツの足が、ひとつのキャビネットの前で止まる……。

Wurdack の短編集はもう1冊手元にある(Lotus-Effekt)のだが、ここらへんで矛先を変えて(笑) Shayol の Visionen シリーズも取りあげてみたい昨今であるw こっちもおもしろいぞっと。

マルゴールの能力について

PSI-Affinität / プシ親和性、プシ相性
PSI-Kräfte / プシ力、プシ・エネルギー

なんだか素敵な訳でわかりづらいようなので(笑)
 6/25 若干の修正・追加

原書23頁:

原文:
Schon oft in seinem Leben hatte der Mutant Menschen getroffen, zu denen er eine PSI-Affinität besaß.

試訳:
 その人生においてミュータントは、自分とプシ的親和性のある人間にしばしば遭遇していた。

なじむ 実に! なじむぞ フハハハハハ(by DIO様
能力が効きやすい相手、である。ハミラーは良いカモなんであって、別に、マルゴールが親近感とかシンパシー感じちゃうわけではない。

原文:
Boyt Margor hatte die Fähigkeit, PSI-Kräfte anzupeilen, sie danach in sich zu sammlen und zu speichern, bis er sie benötigte. Wenn er sich danach auf einen Menschen konzentrierte, mit dem eine spionische Identifikation möglich war, strahlte er diese Energie wieder ab – und erzeugte damit ein willenlosen Opfer, einen Menschen, der ihm völlig ergeben war. Boyt Margor bezeichnete sich selbst als parasensiblen Motivlenker.

試訳:
 ボイト・マルゴールにはプシ・エネルギーを感知し自分のなかに集め、後に必要とするまで蓄えておく能力があった。そのあとで、本人に悟られぬまま個体確認した人物に向け、そのエネルギーを再放出すると――意志なき犠牲者、かれに心酔しきった人間の誕生である。ボイト・マルゴールは自分のことを、パラ感覚・動機誘導能力者と呼んでいた。

要するに、ヒュプノ? 暗示能力者? とか言われていたものである(笑) >マルゴール
parasensibler Motivlenker は「パラ的に感性鋭敏に動機を導く人」。ぶっちゃけ、「あの世から御身に集めた超自然パワーで、人知れず人々の内を照らし、人々の思いを導くパラ教祖さま」である。だから、導かれちゃった人々は、尊師(笑)がありがたく見えてしかたがないのだ。
ハミラーも、だから、マルゴールの姿に驚いたわけではない。前に会ったことあるし。そうではなくて、前との受ける印象のちがいに驚いているのだ。おっと話がいきすぎた。
動詞 anpeilen は「方向をさだめる、方位測定する」。名詞 Kraft(これも Mächtigkeit と同じく「力」の意だ)の存在する方向を測定することなので、感知する、としておいた。照準をさだめるとかじゃないよ?
#解放もしないし、ましてや当節はやりの「再生可能エネルギー」能力者でもないよ?w

ただ、感知したプシ・エネルギーを吸収する能力があることは、後日、マルゴールの運命を決定的にさだめることになる……ので、ちゃんと訳しておいてほしかったな、ということだ。
以前にも、プシ・リフレクターを精神反射装置と訳す(850-851話)とか、いまいち、プシってものに関する認識が甘いんじゃなかろか。

超能力とかプシオンとか、しょせん虚構の産物なわけだけど、そこをそれらしく見せるために作者がつくしたあの手この手を、これまたそれらしく訳せるか否かで、見せ場を見せ場として読者に提供できるかという、商品のできばえが変わってくると思うのだ。でも、馬の耳に念仏釈迦に説法かこれは。尊師だけにw

ローダンNEO、第4部刊行発表

公式サイト、クラウス・フリック執筆のLogbuchによると、ペリー・ローダンNEOの第4部の準備が進行中とのこと。8月末からのスタートを予定しているというから、おそらく第3部からシームレスに、25巻が8/31刊行と思われる。

ローダンNEOは、Taschenheft形式、日本でいう新書あたりに相当する判型で出版されている。
1巻あたりの紙数も多いせいか、従来の「サイクル(Zyklus)」ではなく、8巻ごとのStaffel(段階、リレーの区間等の意味)でおおよそのテーマが区切られる。

草案作家はフランク・ボルシュだが、本国での感想スレとか見ていると、ヴィム・ファンデマーン色も相当強いみたい。
いい機会なので、以下にタイトル・リストを挙げよう。

Perry Rhodan NEO

第1部

1. Frank Borsch / Sternenstaub / スターダスト
2. Christian Montillon / Utopie Terrania / 理想郷テラニア
3. Leo Lukas / Der Teleporter / テレポーター
4. Wim Vandemaan / Ellerts Visionen / エラートのヴィジョン
5. Michael Marcus Thurner / Schule der Mutanten / ミュータント・スクール
6. Frank Borsch / Die dunklen Zwillinge / 闇の双生児
7. Arndt Ellmer / Flucht aus Terrania / テラニア脱出
8. Hubert Haensel / Die Terraner / テラナーたち

第2部

9. Frank Borsch / Rhodans Hoffnung / ローダンの希望
10. Christian Montillon / Im Licht der Vega / ヴェガの光を浴びながら
11. Michael M. Thurner / Schlacht um Ferrol / フェロル攻防戦
12. Marc A. Herren / Tod unter fremder Sonne / 異星での客死
13. Hermann Ritter / Schatten über Ferrol / フェロルを覆う影
14. Wim Vandemaan / Die Giganten von Pigell / ピゲルの巨船団
15. Bernd Perplies / Schritt in die Zukunft / 未来への一歩
16. Christian Montillon / Finale für Ferrol / フェロルのフィナーレ

第3部

17. Frank Borsch / Der Administrator / 執政官
18. Michelle Stern / Der erste Thort / 初代トルト
19. Marc A. Herren / Unter zwei Monden / ふたつの月の下で
20. Hermann Ritter / Die schwimmende Stadt / 泳行都市
21. Alexander Huiskes / Der Weltenspalter / 世界を裂くもの
22. Wim Vandemaan / Zisternen der Zeit / 時間貯水庫
23. Christian Montillon / Zuflucht Atlantis / 避難地アトランティス
24. Frank Borsch / Welt der Ewigkeit / 永遠の世界

第1部では、西暦2036年、大幅な予算削減に苦しむNASAの起死回生の一手として打ち上げられた、地球・月往還宇宙船《スターダスト》のパイロット、ペリー・ローダンが、月面でアルコン人の宇宙船《アエトロン》を発見、その超技術を借りて地球統一をめざす……と書くと、なんだ時代が変わっただけかよと言われそうだが、金星に不時着したトーラが旧アルコン植民者の基地でリコというロボットに遭遇したり、アメリカの秘密組織ホームランド・セキュリティのクリフォード・モンタニー率いるミュータントたちがローダンの前に立ちはだかる……とか、意外と盛りだくさんである(笑)
ちなみに、月面にはアームストロング基地(有人)とかあるんで、月面初着陸の栄誉は奪われてしまっている(というか、奪回されている)w >ローダン

第2部では、表面上テラ連合(Terranische Union)として地球統一の礎を築いたローダンだが、国家間の暗闘はやまない。その一方で、破壊された《アエトロン》に代わり、金星で発見された60m級搭載艇《トソマX》――《グッド・ホープ》と改名――のテスト飛行でヴェガ星系を訪れたローダンらは、ヴェガのフェロン人と、侵略してきたトプシダーの間の戦いに遭遇。そして、1万年前にテラ(ラルサフIII)のアルコン植民地を統治していた、謎の(笑)「司令官」のシュプールが……。
ローダン不在の地球では、リコの行動をめぐって、アゾレス海溝の海底ドームが発見されたり、沈没したアルコン戦艦《トソマ》が発見されたり、なにかと忙しいところへもってきて、ファンタン人ご一行様があらわれて、原住民の意向におかまいなく、物珍しいもの(ゴールデンゲート・ブリッジとかw)を片っ端から強奪しはじめる。対抗する手段のないテラナーだったが、パウンダー将軍は、《トソマ》のサルベージを計画し……。

そして現在進行中の第3部(19巻まで刊行済)では、トプシダーと平和条約を結んだ(!)ローダンが「永遠の生命の星」探索にのりだす……というか、クレストの独断専行にまきこまれる(爆)
アゾレス海底ドームの転送機に姿を消したクレスト、タチアナ・ミハロヴナと元トプシダー司令フレクト・オルン。シュプールを追ってヴェガ系にむかったローダン。両パーティとも、すったもんだのあげく、1万年前のヴェガにすっとばされて、初代トルトの惑星統一戦争に関係していく……のだが。タイトル見ると、ワンダラーの発見はともかく、あのアルコン人が今度こそ出てきやしないかとヒヤヒヤするのだった(笑)

第4部は、スプリンガー編になるのか、それともアルコンまでちょっぱやで進出するのか。
ヘフト本編の方のストーリー進行がもにょもにょしているので、NEOの方がおもしろい!という本国ファンも多いらしい。まあ、シェール御大がいないせいか、往年の“タフな”テラナーたちはいまいちいないっぽいんだけど……。ローダンあっさりトプシダーに降伏したりするし……。
第4部がおもしろそうなら、そろそろ手ェ出してみてもいいかなあ。

■公式Logbuch:Die vierte NEO-Staffel ist in Arbeit (リンク切れ)

また850話・バルディオク裁判

一段落ついたし、今回はもういいか、と思ったら、ロルヴォルクの城よりどでかい墓穴を掘る音がどこかから聞こえてきたので、もうちょっとやろうか(笑)

さすがにこの分量の「引用」はまずいので、基本、わたしの試訳だけである。ご了承のほどを。
太字にしてある箇所について、原文と解説(笑)を付記している。
誤訳っぷりをより堪能したい方は、ハヤカワ版と併せてご覧いただきたい。
6/16 ケモやん関連・結び等、追加修正
6/17 対比元の文章追加とか、いろいろ微調整

超知性体バルディオクの成立

10. 処罰

 ケモアウクとバルディオクが物質化した地点では、“平面”はもはや断片にすぎなかった。ギザギザに崩れおちた縁をさらした鋼鉄のかけらである。

すでに“平面”関連はだいたい紹介済だが、前の記事を見直していて、ありゃ、と思った。141pのバルディオクの物質化シーン。「“平面”のなかに」in der Ebene だった。auf der Ebene (平面上に)でない時点で、人工物内部であることに気づくべきであった。……と、最初の時点で書いていれば格好よかったんだけどね(笑)

 象徴だ! バルディオクは身震いした。これほど象徴的なことはない。
 七強者の時代は終焉をむかえた。“召喚”をもたらす、物質の泉の彼岸に住む連中は、プロジェクトを打ち切ったか、あるいは使命を与えるべき別の存在を探すのだろう。

原文:
Jene, von denen der RUF ergangen war und von denen man annahm, daß sie jenseits der Materiequellen lebten, hatten ihr Projekt abgeschlossen, oder sie würden sich sie nach anderen Wesen umsehen, denen sie Aufträge erteilen konnten.

直訳すると、「~打ち切ったのだ。それともこれから後任を探すのかもしれないが。」後半は、例によって接続法未来。ハヤカワ版のように「探したのかもしれないが(≒過去)」では、後任見つからなかったので打ち切り、になってしまう。探した結果は、エピローグで明かされる。

「見ろ!」ケモアウクが命じる。「これが残されたすべてだ。あるいはもっと外部にはほかの破片もあるのかもしれないが、きっとここよりましとはいえまいよ

原文:
aber das sieht dann bestimmt nicht besser aus als dieses hier.

ハヤカワ版は「ここからは見えない」としているが、分離動詞 aussehen 「~のように見える」が読めていない。das (それ=ほかの破片)は、nicht besser (よくない状態)に見える、ここにあるこの破片より(比較級 besser + als で比較級)。

「ホールは?」
「もはや存在しない」
「では……きみたち、別の集合場所を探さなくては」バルディオクが慎重にいった。

原文:
“Ihr… ihr werdet einen anderen Treffpunkt suchen müssen”, sagte Bardioc behutsam.

セリフ中の主語は二人称複数の ihr である。つまり、今後集まるメンバーにバルディオクが入っていないことを想定している。そこんとこを「慎重にいった。」のだ。原文は、大事なことなので2回いっている(笑)のに、まるまる削除するとか、わかってないんかい。

「そうだな」応じるケモアウクの瞳は、虚空へと向けられていた。
 バルディオクは他の者の姿をもとめて周囲を見まわしたが、明らかにふたりが最初に到着したようだ。ひょっとしたら、だれも来ないのでは。バルディオクはそう望みたかった。そうなれば、問題はケモアウクとだけで解決すれば済む。

原文:
Vielleicht, hoffte Bardioc, würden die vier anderen nicht erscheinen, dann konnte er die Sache mit Kemoauc allein austragen.

ハヤカワ版には最後の一文がない。単に冗長だということで削除されたのだろうか。
他の連中こないといいなー。そうすりゃ、(自分に同情的な)ケモアウクとだけ話せばいいんだもんなー、である。
バルディオクは、この時点でまだ事態を甘く見ているのだ。ずっと頼れるリーダーだったケモアウクが、ちらりと見せたやさしさに、情状酌量くらいなら勝ちとれる、と。
実はケモアウクもまた、深く静かに壊れかけているのだが……

わたしを発見した、と報告すればいい」と、提案する。「わたしは隠遁し、二度とあらわれない」

原文:
“Du könntest sagen, daß du mich gefunden hast”,

ハヤカワ版は「発見しなかったことにしてくれないか?」(うやむや)だが、「みつけて、ナシつけてきたぜい」(ミッションコンプリート)が正解である。
ケモやんがダメなら俺が俺が……と、なる、のかな? いまの強者連中でw

 ケモアウクの顔が、はじめて、わずかにこわばった。
「だめだ!」と、拒絶する。
 バルディオクはそれ以上詰め寄らなかった。意味のないことはわかっていたのだ。他の兄弟たちが、かれを罰するだろう。それで正しいのだ。今後再び、心をおなじくして行動すると約束したところで、どうしてバルディオクがそれを守ると信じてもらえようか。

原文:
denn wie konnten sie sich darauf verlassen, daß er ein Versprechen, in Zukunft wieder ihrem Sinn zu handeln, auch einhalten würde?

ハヤカワ版だと「ここを去ることができた場合も、自分が将来にわたって約束を守れるとは思えなかった……」と、バルディオクが意志の弱い子になってしまっている。
動詞 verlassen は確かに「離れる、立ち去る」だが、再帰動詞 verlassen sich (auf) には、「~を大丈夫だと思う、信頼する」の意味があるのだ。「できるか?」と訊かれたときの回答に、「まーかせて!」的に、わりと見かける用法だ。
そして、主語が sie 「彼ら」である。つまり、彼ら=ケモアウクら他の兄弟たちが「(バルディオクを)信頼できないだろう」と、書いてあるのだ。

 アリオルクが物質化して、バルディオクの思索を断ちきった。
 虚栄心に満ちた強者はあらたな衣服をまとっていた。幻想からとりだしたような、狂った装飾と唾棄すべき色彩の制服めいたやつだ。両腕の肘から先だけ持ちあげて、踊るようにバルディオクに歩みよった。
「親愛なるバルディオク」と、慈愛に満ちた声で、「いったいどうして、こんなことになったのだ?」
「そのなりを見てみるがいい!」バルディオクは侮蔑をこめて、「一目瞭然だろうが!」

原文:
“Wie hatte es nur dazu kommen können?”
“Sieh dich an!” antwortete Bardioc verächtlich. “Dann weißt du es!”

アリオルクの質問「なぜ?」を「なにが起こったのだ?」と誤訳した時点でアウト。
バルディオクの返答は、分離動詞 ansehen「正視する、見てわかる」で、「自分(のイカレた服装)を見てみろ!」となる。俺も、おまえも、今の仕事に疲れてブッこわれちまったんだよ、ということ。

 アリオルクは一瞬たりと動じなかった。バルディオクの周囲をぐるりとまわる。まるで観察に値する珍獣だとでもいうように。

原文:
für keinen Augenblick

一瞬だけは、für nur einen Augenblick である。言わせんなよ恥ずかしい。

「どこで見つけた?」と、ケモアウクに訊ねる。
「どこでもよかろう」ケモアウクは曖昧な身ぶりをして、「それが何の役に立つ? わたしはかれを見つけ、ここへ連行した。重要なことは、それがすべてだ」

原文:
Spielt das eine Rolle?

ハヤカワ版だと「なにを演じているのだ?」と、ケモアウクがアリオルクを無駄に揶揄している。アリオルクがイカレていることは、ケモアウクにとり既定事実なので、いちいち反応しない(参考:ムルコンの登場シーン)。
主語が du なら、まだわからないでもない。しかし、主語は「それ」 das ――この場合、前のアリオルクの質問「どこで(バルディオクを)見つけた?」とイコールだ。「どこだっていいだろ」というケモアウクの返答の文脈から、わかりそうなものだ。

「で、かれをどうするのだ? 物質の泉に突き落とすのか?」
正気か?」ケモアウクはぴしゃりといった。「かれは処罰されるが、そんな方法ではない」

原文:
Bist du von Sinnen?

「それにどれほどの意味がある?」(ハヤカワ版)って……その訳文は、さっきのとこで使おうぜ。
名詞 Sinn には「意味」という意味(笑)があるけれど、前置詞付きの熟語で von Sinnen sein 「正気をうしなっている」というのが、ちゃんとうちの独和にも載っている。

 その瞬間、バルディオクは気づいた。ケモアウクも、もはやかつてのかれではないのだと。兄弟が自分をリーダーとみなしているというのが、ケモアウクにとっても、これまで暗黙の了解だった。どうやら、その自信が揺らいだらしい。

原文:
In diesem Augenblick erkannte Bardioc, daß auch Kemoauc nicht mehr der alte war.

ハヤカワ版の「ケモアウクはまだ老けこんではいないらしい」というのは、どこから出てきたんだろ。alte を「老人」Alte のタイプミスと見たのかね……。ただ、auch 「~もまた」があるから、他に前例がなければこの解釈は成り立たないのだ。「ケモアウクもまた、もはや老人ではなかった」……だと、変だよね?(パルトクの登場はもっと後だし、元来かれらは不老不死だ)
ここは der alte Kemoauc 「昔のケモアウク」の省略とみなすべき。「今のケモアウク」は自信が揺らいでるから、高圧的な物言いになった……と、バルディオクは思ったということだ。
バルディオクは、まだわかっていない。何百万年にもわたり、つねに冷静沈着な頼れるリーダーだったケモアウクが、史上はじめてキレかけているのだ。

 アリオルクが、差しのべた自分の両手をじっと見て、
「まあ待つさ」それから、瓦礫の上空に生じた発光現象を指して、「どうやらムルコンが来たようだ」
 しかし、あらわれたのは、いかついロルヴォルクだった。かれはアリオルク、バルディオクと視線を移し、それからケモアウクに向かい、
「どちらだ?」と、吠えるように、「アリオルクか? バルディオクか?」
「どちらだと思う?」ケモアウクが反問でこたえた。
「アリオルクだな」と、ロルヴォルクは躊躇なく、「こいつが裏切ったのだ」
 ケモアウクが笑みを浮かべた。
「わたしだ!」と、バルディオク。
 ロルヴォルクは肩をすくめた。
さっさと済ませてしまおう。あとの連中はいつ来るかわからん。裁判官が、五人から三人になったところで変わるまい」

原文:
“Wir wollen die Sache hinter uns bringen”,

ハヤカワ版だと「では、問題解決だな」と、ロルヴォルク超せっかちさんである。
ここは、「われわれ、この案件を過去のものにしたいのだ」が直訳。
一部の北米先住民の神話だと、未来は後ろからくるものみたいだけど(笑) 後にしてきた、といえば、だいたいは「済ませてきた」=「過去にした」だろう。
主語が wir なのを、「みんなー、この問題を過去にしたくないかー?」という某大陸横断ウルトラクイズのりでとらえてみたのが、上記試訳になる。

「いや」ケモアウクが反駁した。「待つのだ」
 ロルヴォルクは悪態をつくと、瓦礫の上にあがり、うろつきはじめた。
まるで先延ばしにできない仕事を中断された労働者のようだ。バルディオクは憐憫とともに思った。だが、そんなことはありえない。
 おそらくロルヴォルクは、今回の危機を兄弟のなかで最もたやすく乗り越えるだろう。いかつい風貌は、その魂の表出といえた。
 しばらくすると、ムルコンがあらわれた。あるいは謎めいた客人たちを連れてきたりしないかとバルディオクは案じていたが、さすがに杞憂だったようだ。
「想像できるかね」と、ムルコンは挨拶代わりにいった。「わたしは宇宙の城をうしなうだろう

原文:
Ich werde meine kosmische Burg verlieren.

ハヤカワ版では「うしなった」とかなっているけど、接続法ですらない、単純な未来形である。I will lose my castle. だ。まだ、うしなってない。(後述)
また、単純な未来形であることは、「城をうしなう」という事実が、ムルコンにとって確定的、あるいは希望的な、素直な未来であることを意味する。(これまた後述)

「なんだと?」ちょうど戻ってきたロルヴォルクが、「何をばかなことをいっている?」
 ムルコンは両手をひろげた。いかにも快活なようすで、
「城をうしなうだろう、といったのだ。招待していた者たちが、わがもてなしを悪用してな。叛乱を計画し、城の占拠を宣言した。わたしは内部エリアへの撤退を余儀なくされ、いまはそこで暮らしている。内部エリアも現在包囲され、陥落も、もはや時間の問題だ

原文:
Sie belagern mich, und es ist nur noch eine Frage der Zeit, dann fällt auch dieser Teil meiner Burg.

ハヤカワ版「客たちはわたしを包囲しており、いずれ城の一部を破壊するだろう」って……。
「この部分」dieser Teil =「内部エリア」がわからなかったのだろうか。
それ以前に、Frage der Zeit を「時間の問題」って読めないんかね?

「この件が片づきしだい、われわれも同行しよう」と、ロルヴォルクが申し出た。「ごろつきども、銀河間の虚空に放逐してくれる」
「やめてくれ」ムルコンは拒絶して、「これはわたしと客たちの間の問題だ。つまるところ、かれらを招いたのはわたしだしな

原文:
Schließlich habe ich sie zu mir geholt.

ハヤカワ版曰くのように「解決できる」とは、ひと言もいっていない。そもそも、次のセリフを見ればわかるとおり、ムルコンは解決など望んでいない……けど、なんか解決するっぽく訳してるなあ(笑)

「もどってはいかん!」と、アリオルク。
 ムルコンは顔をなでた。表面的に快活をよそおっているが、バルディオクには、かれがいまにも崩れおちそうに見えた。
「いや、もどる」と、きっぱり宣言する。「叛乱に成功したあと、客たちがわたしをどう遇するか想像すると、胸が躍るのだ。あるいは、今度はわたしがもてなされる側にまわるのかもしれない――おのが城の虜囚として」

原文:
Ich bin gespannt, was sie mit mir anstellen, wenn die Revolte erfolgreich beendet sein wird.

ハヤカワ版は「わたしを捕まえれば、反乱も終わると期待している」だが、wenn「もし~だったら」の位置関係が絶対的におかしい。原文後半は「もし、反乱が成功裏に終結したら」である。
gespannt は「切迫した」あるいは「今か今かと待ち受ける」の意味だが、わかりやすい例をあげると、ネタバレ掲示板等で、「おもしろくなってきた! 次をわくわくしながら待ってるぜ!」てな形で用いられることが多いのである。
したがって、このセリフは「負けてつかまったら、いったい何されるのかなあ(ゾクゾク)」なのだ。ここで、ムルコンもまたブッこわれていることが判明する。
MはムルコンのMだったというオチである(をひ

 バルディオクは身震いした。ふと見ると、ケモアウクもまた同様だった。だが、これまでケモアウクはまだひと言も口をきいていなかった。ムルコンに帰還を思いとどまらせようとも、援助を申し出ようとさえしない。ケモアウクには、かれら全員がどういう状況にあるかわかっている。だからこそ、沈黙を守っているのだ。
「きみが宿を貸している客とは何者なのだ?」ロルヴォルクが訊ねる。「ことこの状況にいたれば、教えてくれてもよいだろう。だれを最初に招いたのだ?」

原文:
Unter den gegebenen Umständen könntest du uns einweihen.

ハヤカワ版は「どういう状況にあるのかはわかった。だが、」。
動詞 einweihen の意味は「伝授する、落成する、(秘密等を)打ち明ける」。「状況を(われわれに)打ち明けた(わかった)」って読んだのかなあ。かなり好意的(強引)な解釈だけど。
素直に考えれば、「与えられた状況下では/きみはわれわれに einweihen できるだろう/(だれを最初に招いたのかを)」となる。状況「を」 einweihen するわけじゃないのだ。

実はこの文章には前段があって、149pの「裏切ったわけではないが」が、「他にだれがいるのか、ムルコンはけっして明かさなかったが」の誤訳なのだ。前回書いた、verraten ×「裏切る」、○「吐露する」の実例なわけ。前提がないから、正しく訳せないわけである。

「いつか訪ねてきてくれ」と、ムルコン。「そうすればわかる」
 そこへ青白いエネルギーの微光とともにパルトクがあらわれた。陰気な男の姿があらわになると、その場の全員を衝撃が襲った。

原文:
Als der Düstere daraus hervortrat,

ハヤカワ版は「どんよりした空が明るくなる。」……。
daraus は「それ(微光)から」。Düstere は、düsterer Mann 「陰気な男」で、実際ハヤカワ版でも前の章ではパルトクをそう形容していた。
だいたい、“平面”の空は、いつも星空じゃろが……って、その前提が成り立ってなかったんだっけ。

 パルトクであることは見違えようがない。だが、かれは“老いて”いた。
「なにをそうまじまじと見る?」と、パルトクは挑むようにいった。
 ケモアウクがかれに歩み寄り、その手をとると兄弟たちのもとへ導いた。
「何が起きた?」と、おだやかに訊ねる。
「見てのとおりだ」パルトクがうなるように、「不死性を放棄した。まだここへやってこられたとは、奇跡だな」
 バルディオクは気が狂いそうだった。兄弟のひとりの変わりはてた姿を見るのは耐えがたかった。
「放棄した?」アリオルクはどもった。「理性をなくしたのか? その喪失にひきあうものなどないのだぞ! なにひとつ!」
 そういうと、アリオルクはパルトクに歩みより、その胸をこぶしで殴りつけた。パルトクは人形のようになすがままであったが、顔をゆがめ、咳き込みはじめた。
「やめるんだ!」ケモアウクが命じた。
「なぜだ?」アリオルクは吐き出すように、「なぜ、そんなことを?」
 パルトクの遠い視線はアリオルクを見ていなかった。その双眸に熱病のような輝きが宿る。バルディオクは、陰気な男の胸中を悟った。その心は、すでにここにはない。
死すべき女を愛したのだ」と、パルトク。

原文:
Einer Sterblichen zuliebe.

ハヤカワ版は「死すべき者のためなのだ」……うん、正しい。正しいよ、独文和訳としては。zuliebe は「(III格と)~のために」だからね。でも、そこに「愛(Liebe)」があることを、ちょっと考えてほしい。
独独をみると「jemand zu Gefallen」(Gefallen は「好意」、 zu Gefallen で「~のため」)とか「weil es jemand gern möchte」(その人が好きだから)とか、要するに「好きな人のため」なのだ。
そして、問題のIII格の名詞は……これ、女性形である。
女で身を持ちくずした」ことがわかんなくっちゃダメだろうwww
だから、アリオルクの質問が「では、きみは自分の城で生きるのだな?」(ハヤカワ版)とか、「彼女と」をとっぱらって意味不明になっちゃうのだ。

 アリオルクがびくりと身を縮め、
「城でいっしょに暮らしているのか?」
「兄弟よ」と、パルトクは泰然と、「きみは何もわかっていない。わたしは彼女のもとで暮らしている。別の世界で、幾百万の死すべき者たちとともに」
「正気の沙汰じゃない!」アリオルクが叫んだ。
「死すべき者の人生は」と、パルトクは夢見るように、「短く、めくるめく陶酔のようだ。美酒に満たされた杯を傾けるのにも似ている。ひといきに飲み乾せば、すべて終わってしまう。狂ってはいないよ、アリオルク。わたしは選択をしたのであって、その結果に満足している」
 ロルヴォルクが兄弟たちの間に歩み出て、パルトクを指さし、
かれが――死すべき者が――不死者を裁けるのか?

原文:
Kann er – ein Sterblicher – über einen Unsterblichen richten?

ここでいう「死すべき者(単数)」はパルトクで、「不死者(単数)」はバルディオクである。こんな単純な比喩表現がわからないのでは、小説なんて訳せるはずがない。
ハヤカワ版では「かれら……死すべき者を、不死者が導くのか?」としている。しかし、「かれら」に相当する位置にあるのは er 「かれ(単数!)」だ。いったいどこで人数が増えてしまったんだろうか。

あと関係ないけど、以前から思っていることだが、ハイフンはハイフン、三点リーダーは三点リーダーとして訳そうよ。使い分けで「溜め」の雰囲気が、がらっと変わるんだからさー。

「わたしはそんなことに価値を見出さない」と、パルトクはいった。「ひょっとして、裏切り者の追放先に、わたしのもとを選ぶ気か? かれを死すべき者たちのもとへ伴うことには、異存ないが」

原文:
“Vielleicht verdammt ihr den Verräter dazu, mit mir zu kommen. Ich bin bereit, ihn mit zu den Sterblichen zu nehmen.”

ハヤカワ版では「もしかすると、きみはそれを裏切りと解釈するかもしれないが……わたしは進んで死すべき者のなかにはいっていくのだ。」となっている。原文中の「裏切り者」、「かれ」が、どちらもバルディオクを指していることさえわかっていないのだ。
前半を直訳すると……「あるいは、君たちは裏切り者に呪いをかける(罰をくだす)かもしれない、わたしとともに行くという」くらいかなあ。

パルトク的には、バルディオクに同情を寄せるところもあり、「死すべき者の世界も、よかとこじゃよ?」みたいな申し出なのかもしれない……バルディオクは冷や汗たらしてる可能性大だが(笑)

「パルトクは依然われわれの一員だ」と、ケモアウク。「ゆえに、かれも評決に参加する」
 “かれを”裁くために集まったことは、すっかり忘れ去られてしまったな、とバルディオクは皮肉に考えた。裏切り者の処罰が問題だったはずなのに、ほとんど話題にすら昇らない。これでは、無罪を告げる以外、選択の余地はないのではあるまいか。とはいえ、そんな幸運が訪れるはずもないこともわかっていた。

原文:
Fast schien in Vergessenheit geraten, daß sie seinetwegen gekommen waren, dachte Bardioc.

ハヤカワ版では、わざわざ強調までかまして「それも、ほとんど〝ケモアウクのため〟の決定ではないか……」とかやっている。おまけに「忘れ去られた」ことが、忘れ去られたようだ(笑)
かれらが(sie)来たのは(gekommen waren)、かれのため(seinetwegen)、なのだ。はて、6人の強者がここに集ったのは何のためであったろうか……。
ケモアウクを賛美するためじゃないだろう?

 不屈のケモアウク、伝統を決してないがしろにしない男が、頑固なロルヴォルク同様、無罪への道に立ちはだかる。この二票に対するのが、ムルコンとパルトク。すなわち、決着をもたらすのはアリオルクということだ。アリオルクは、疑う余地なく、ケモアウクやロルヴォルクと同じ決断を下すだろう。

原文:
Der unbeugsame Kemoauc, der die Traditionen niemals verleugnen würde, stand einem Freispruch ebenso im Wege wie der harte Lorvorc. Diese beiden Stimmen gegen die von Murcon und Partoc, das bedeutete, daß Ariolc die Entscheidung herbeiführen mußte. Ariolc, daran bestand kein Zweifel, würde so entscheiden wie Kemoauc und Lorvorc.

ハヤカワ版では、「ケモアウクは(中略)ムルコンとパルトクを〝無罪〟とした」、「アリオルクは(異議を唱えた)」、「ケモアウクとロルヴォルクの合議で決定とする」って……もう現場で何が起きているのか、読者には皆目わからない。ドイツ語の単語の上に日本語の意味を書いて、意味が通じるように並び替えてみた……という、語学初心者的な訳文だ。
余分な修飾をとっぱらって考えれば、そんなに難しくないのに。Kemoauc stand im Wege / wie Lorvorc. 「ケモアウクが道に立ちふさがる、ロルヴォルクと同じく。」だ。
この本文がわからないまま、「伝統」と「無罪」をどこにあてはめたらいいか迷ったあげく、次の文章と“合体”してしまっている。さらにあぶれた gegen が、アリオルクの方へくっついて……。
機械翻訳ならば、翻訳ソフト買い換えた方が良いよー、と助言するところだが、そうでないのだとしたら、いったい何を買い換えてもらえば良いのだろうか。
die (Stimmen) von Murcon und Partoc. と補うだけで、だいぶわかりやすいと思うけどなあ。

「兄弟よ」と、ケモアウクはバルディオクに、「きみには発言する権利がある。罪を軽減するかもしれない、あらゆることを」
 耳を傾けるものなどいるのか? バルディオクは自問した。
 極刑を決定事項とみなすロルヴォルク?
 おのが城での決定的敗北を熱望するムルコン?
 屍も同然で、心は死すべき女への愛でいっぱいのパルトク?
 自分の見せ場をつくることしか頭にないアリオルク?

原文:
Ariolc, der nur daran dachte, sich selbst um jeden Preis in Szene zu setzen?

これまた名詞 Szene の項に、「sich in Szene setzen 《俗語》自分をひけらかす」とある。ハヤカワ版の「どのようなことがあっても動じない」って、その訳は251pのアリオルクの説明に使うべき(爆)
とゆーか、ここは、壊れてない兄弟の無神経っぷりと、壊れた兄弟たちのダメっぷりを列挙して、バルディオクがあらためて不安かつ悲しい気持ちになっていくシーンである。そういう小説としてあたりまえの表現技法も読み取れないのかなあ。

 聞く耳を持っているのはケモアウクだけではないか。
 そしてケモアウクは全員の行動原理を、おのれのもの同様に承知している。ケモアウクには説明など必要なかった。
「いや」バルディオクはいった。「話したくない」
 ケモアウクは兄弟のサークルを見まわして、
「だれか、バルディオクを弁護しようというものはいるか?」
 だれひとり反応しない。
「では、わたしが弁護しよう」驚いたことに、ケモアウクはそう告げた。「かれの蒙昧を、先見の無さを語ろう。かれに責務を負わせることがゆるがせにされてきたことを語ろう。かれ、不死なる者が、同じ動きしかくりかえさぬ一種の機械たらしめられ、その尊厳が貶められてきたことを

原文:
Ich werde von seiner Blindheit sprechen, von seiner Ahnungslosigkeit. Ich werde davon sprechen, daß man es versäumt hat, ihn in die Verantwortung zu nehmen. Man hat ihn, einen Unsterblichen, zu einer Art Maschine herabgewürdigt, die immer ein und dieselbe Bewegung ausführen muß.

原文中に出てくる主語 man は、「人間一般」を意味する、翻訳の際に取扱いがめんどーな単語のひとつだが、この場合、「世の中(世間一般)」で良い。「バルディオクは悪くない。世の中がみんな悪いんや」である。敢えていうなら、かれら七強者に使命をあたえた「委託者」――後に云うコスモクラート――を指す代名詞と思えばいい。少なくとも man =バルディオクということはありえない。
永遠の生命とか与えられて、あとはただひたすらボタン押すだけの仕事をさせられてたんだから、同情の余地はあるよね? という弁護である。
ここを、ハヤカワ版みたいに「この者は不死者の権威を(中略)貶めたのだ」と誤訳したら、弁護でなくなってしまう。嫌味ですらなく、直球の糾弾である。これに感動して感謝するバルディオクは、言葉責めにもだえるムルコンM2号ということになってしまう(笑)

 バルディオクはそれ以上、耳を傾けなかった。ケモアウクはもう一度、どのようにこの裏切りにいたったかの詳細を語った。その言葉の端々には、理解と――バルディオクにとってはいっそう驚くべきことに――七強者へ使命を与えた者に対する、かたくなな憎悪がにじんでいた。
 よりによって、伝統主義者にして最も忠実なケモアウクが!
ここで問題とされるのは、物質の泉の意味や“召喚”の正当性ではない。それらすべてに異論の余地はない。問題は、われわれが無慈悲に使いつぶされてきたことだ。おのれの城で意識を得て、生きはじめた瞬間から、われわれは利用されていた。われわれにチャンスなどなかった。バルディオクにもだ」

原文:
Es geht hier nicht um die Bedeutung der Materiequellen oder um die Berechtigung des RUFs”, sagte Kemoauc. “Das alles ist unumstritten.

es geht um ~ 「~が問題だ」は、 es handelt sich um ~ 「~である」や in der Lage sein ~ 「~できる」と並んで、翻訳するのに厄介なドイツ語の慣用表現。
ただ、次の文章を含めた段落全体で見てみると、案外単純な構造が見えてくる。最初に Es geht nicht um… 「~は問題ではない」と表現し、次の文章で Es geht um… 「~が問題なのだ」と表現している。段落規模の、nicht A (sondern) B (AじゃなくてB)である。
ハヤカワ版みたいに「語られたことはない」んじゃなくて、いまそれを語る必要はない、のだ。

「兄弟よ」バルディオクは感動していった。「感謝する」
「ではあるが」と、ケモアウクは動じることなくつづけた。「バルディオクはおのが意志の主人であった。自分のしたことを承知していた。かれは、われらが兄弟ガネルクが、監視者カリブソとして追放の生を送らなければならないことに責任がある。もしいま、時知らざる者の同盟の瓦解がはじまるとしたら、それもまたバルディオクの咎だ。そのために、そのためだけに、かれは処罰されねばならない」
 胞子船の濫用や“大群”の操作は不問にされたわけだ、とバルディオクは理解した。だが、兄弟への裏切りは別だ。
「評決をとる」と、疲れた声でケモアウクが告げた。「かれのいったことを、皆よく考えてほしい。わたしは、有罪に票を投じる」
 ロルヴォルクが両のこぶしを握りしめ、一歩前へ出ると、
「有罪!」
「無罪だ!」と小さな声でムルコン。
「うむ。無罪!」と、パルトク。
 アリオルクは決定権を行使するのを楽しんでいた。背筋をのばし、幻想から生まれた制服のすそをつまむ。吐き気がして、バルディオクは目をそらした。

原文:
Bardioc sah angeekelt weg.

これだけ、独立した文章である。主語はバルディオク。
それが、どうしてハヤカワ版は「(アリオルクは)バルディオクに軽蔑の視線を向け」になるんかね。
ちなみに、バルディオクのとった行動の結果を思うと、ひょっとして、ここで目をそむけずにアリオルクの服を誉めたら、無罪だったんじゃなかろうか?(笑)
泥をかぶっても(笑)の気概がないバルディオクには、この期に及んで、まだ事態の深刻さが理解できていない。だから、ケモアウクの判決を聞いて、がーん、となるわけだ。

「有罪だな」と、ついにアリオルクがいった。
「きみは時知らざる者の同盟を裏切った」ケモアウクが宣告する。「兄弟を裏切った咎により、有罪となす。バルディオクよ、知ってのとおり、われわれにきみを殺すことはできない。だが、可能なうちで最も重い量刑が科される」
 バルディオクは顔を殴られたように、よろめき後ずさった。頭に血がのぼり、
「うそだ!」と、必死に叫んだ。「そんなこと、できるはずがない」
 ケモアウクの顔に生気はなかった。瓦礫の上空に渦巻く星団の光を浴びて、まるでいわおのようであった。

原文:
Kemoaucs Gesicht war ohne Leben. Im Licht der wirbelnden Sonnenmassen über dem Bruchstück wirkte es wie ein Stein.

原文、かっこいいんだけどねえ……。
いろいろこみあげるものを、意志の力でおさえつけてる顔だろう。
ハヤカワ版「ケモアウクは顔面蒼白で」、って、いまにも貧血で倒れそうにしなくてもよさそうなもの。

「判決は、肉体剥奪だ」

-*-

 ひとりまたひとりと、互いに見知らぬ者同士のように去っていった。それぞれがすでに自身の問題で頭がいっぱいなのだ。結局、“平面”の残滓に残ったのは、ケモアウクとバルディオクだけだった。バルディオクはすすり泣いた。
「わたしに丸投げだな。だが、まあ、承知しておいてしかるべきだった」と、ケモアウクが嘆いた。

原文:
aber das hätte ich wissen sollen.

自信喪失したリーダーが、おのおの勝手なことをはじめた仲間たちについて、馘になったメンバーに向かってぼやくの図。
どこぞのプログレバンドにでもありそうな、イヤなシーンである。削除されたのもむべなるかな(をひ

(中略)
 脳髄をおさめたカプセルを適当な洞窟に設置すると、ケモアウクはおのれの城へと戻った。バルディオクのことを思考から閉め出す。
 ほかの強者たちのことも忘れた。

原文:
Auch die anderen Mächtigen vergaß er.

ハヤカワ版は「ほかの強者も同様に、裏切り者のことは忘れたようだ。」。
たしかに、die anderen Mächtigen 「ほかの強者たち」だけでは、主語(I格)か目的語(IV格)かわからない。しかし、vergaß が、動詞 vergessen 「忘れる」の過去形であり、対応するのは主語が一人称単数ないし三人称単数である場合なのは、ちょっと調べればわかるはず。複数形なら、vergaßen でなくてはならない。
er が三人称単数I格であることは、いまさら言うまでもないこと。
したがって、主語は er (ケモアウク)である。
ひるがえって、「ほかの強者」はIV格の目的語であることがわかるので、「同様に(auch)他の強者たち“を”、かれ(ケモアウク)“は”、忘れた」のだ。
こんな短い文章の、小学生の国語レベルの初歩文法を、説明されなきゃわからんのか?

 いつか、数千年を経てから、かれは城を封印し、立ち去った。
 ケモアウクはいずことも知れない目標へと姿を消し、以後、その姿を見たものはなかった。

……。
前から書いてることだけど、格と性と数と時制はちゃんと訳せ……というのも詮無い、文章構成の基本すら放り出したような例が多いのには驚かされる。
主語くらい、ちゃんと確認しようよ。
知ってる単語だけで文章ねつ造しないでね?
わからない単語は、ちゃんと辞書引こう?
カンマで区切られた文章は、どこがどこの修飾か切り直してね?
とか、大学の第二外国語の教師でさえ言わんよーなこと、言いたかないよ。わたしだって。
超訳をきどっているのかもしれないが、原意のかけらもないこんなの、ただの誤訳だ、誤訳。

正直、これは訳者の問題だけでなく、編集者の問題でもあると思う。
ローダンのためだけにドイツ語なんて勉強してられんだろーし、原語がわからないのはしょうがない。でも、現状だと、日本語として読んで、おかしなところをチェック・指摘するという、編集者として最低限の作業がなされているとは、とうてい思えない。
しょせんローダン・シリーズなんてドイツの週刊低俗読み物だから、適当に書きなぐった文章の寄せ集め……だから、訳者がいくらがんばっても意味不明な文章にしかならないとこもあって当然、とか、原文(ドイツ語)読めるやつなんて、そうそういないから、文句つけてくることもないだろし、適当に読み流してりゃいいや……なんて、バカにしていないだろうか?
もし、そんなことないというのなら、日本語として意味の通らない文章にOKが出ているのは、いったいなんでだ?

『バルディオク』の著者であり、当時のシリーズの草案作家でもあったフォルツは、ローダンに心血注いで(そのために、まちがいなく生命を縮めて)46歳で亡くなったのだ。力及ばぬところはあったとしても、手抜き仕事なんてしていない。
そのかれの、最高傑作のひとつが、邦訳として多くのファンに読まれることは、一ローダン・ファン、一フォルツ・ファンである自分にとって、快哉して慶ぶべきことだったはず。

なのに、これでは、ちっともうれしくないのだ。

うちの辞書2012

「誤訳天国」をはじめた当初、ネタのひとつとして手持ちの辞書類をとりあげようと、「辞書」カテゴリをつくったはいいが、結局gdgdで最初の記事以降、立ち消えとなった。6年余が経過して、それじゃあ今はどうしてんだということで、ひとつ。

《独和》

前回「切れはじめた」と書いたマイスター独和辞典(大修館)は、その後ご臨終となり、『木村・相良』を除いた現行のラインアップは以下のとおり:

  • 新現代独和辞典(三修社) 見出し語数110000語
    現在のメイン辞書。1994年2月発行。総革装版でお値段6,320円。
    なんとゆーか、結局最初の辞書に戻ってきた感がすごく投げやりだ(笑)
    とはいえ、「新~」になって収録語数も1割増しだし、手に馴染んだ使い勝手も悪くないので、まいっか。
  • アクセス独和辞典(三修社) 見出し語数54000語
    サブ辞書といいつつ、実はあんまり使っていない。1999年3月発行。4,000円
  • ドイツ語ポケット辞典(研究社) 見出し語数 独和30000語 和独3000語
    2005年9月第2刷。2,600円。独和・和独の両用だし、カバンに入れておでかけするにはよさそーだ、と購入。……でも、俺、かなりインドア派なんだorz
    しかも木村・相良も相当ハンディなので、本棚のこやし状態。

独和の使用頻度は、6年前より格段に低下しており、辞書の寿命も延びそうな感じ。これは、わたしの学力が飛躍的に向上したわけではなく、主にインターネットのおかげである。
いや、Google翻訳じゃないよ?(笑) Google検索、Wikipedia の他言語転送や、Wiktionary あたりは超便利。基本、独独ないし独英になるが、単語検索→さらに用例検索していけば、だいたい理解可能な文例があるものだ。前回話題にした Malessen とかも、そう。多少の手間はかかるが、実にありがたい。
他にも お世話になった(なっている)サイトはいくつかあるが、これはまた別の機会にでも。
そういえば、結局買い直してないなあw >独和大辞典(小学館)

《その他和書》

  • ヴァーリヒ現代独独辞典(駿河台出版社)
    1992年6月第2刷。6,500円。
    いわゆる「ドイツの国語辞典」なので、意味というより、実態を理解するのによさそうと購入。便利は便利……だが、文字のポイントがめっさ小さいため、そろそろ読むのがたいへーん。
    い、いや、乱視なんじゃよ。老眼ではない……はず。まだきっとたぶん。
  • ドイツ語類語辞典(三修社)
    1995年2月発行。9,500円。
  • ドイツ語語源小辞典(同学社)
    1995年3月第3版。2,800円。
    類語・語源とも、微妙に用法が異なる複合動詞や分離動詞の探究に。
    語源はマメ知識にしかならないかもしれないが、意外と楽しい。まあ、個人的には、白川静先生のまとめておられる、金印や甲骨文字に見る漢字の源とかのおもしろさには、ちとかなわないと思うけど。そのへんは、まあ漢字使ってる日本人だし(をひ
  • 羅和辞典(研究社)
    1997年6月(第30刷)。4,700円。
    ラテン語である。欧米じゃ素養があって当然なのかもしれないが、こちとら日本人だし。ローダンでたまに登場する、怪しいテクニカルタームがラテン語由来でも、どんな機能だかさっぱりわかんねーものなあ(汗)
    この手の辞書で30刷ってすごいと思ったら、初版1952年、増補改訂版1966年だった。
    余談だが、まさか、『テルマエ・ロマエ』とか漫画(映画)のタイトルでラテン語をどかーんと見る日がこようとはw
  • ロワイヤル・ポワッシュ仏和・和仏辞典(旺文社) 見出し語数70000語
    2005年(2刷)。2,200円。
    いわずと知れた、某放蕩息子が原因ではある。
  • 翻訳語中心日本文化紹介小和独辞典(朝日出版社) 見出し語数2300語
    2008年6月発行。2,300円。
  • ドイツ・西欧ことわざ・名句小辞典(同学社)
    1994年4月発行。2,800円。
  • 図説ドイツ民俗学小辞典(同学社)
    1986年6月再版。2,000円。

このあたりは、まあ、雑学だねえ。

《変わりダネ》

  • おいしく食べて楽しいドイツ語(三修社)
    2003年1月発行。1,400円。
    辞書じゃないし、別にわたしゃドイツ料理とかもしないけどw
    料理器具や調味料の名前とか、まとめておぼえられるよー(を
    ……そういや、工作員のコードネームを「砂糖」とか訳した御仁がおられたな……。
  • ビール祭りで乾杯だ!(幻冬舎)
    ヘタリア Axis Powers 旅の会話ブック ドイツ編。
    2012年3月発行。1,000円。
    『ヘタリア』本編は読んでないんだけど(笑)
    随所に挿入される、ヘタリア4コマ(日独対訳つき)にそそられて、つい……。
    いや、でも、ローダンばっか読んでると、日常会話とか身のまわりの品とか、そういったボキャはすこーんと抜けてるから……でも、日常か、これ?w > 4コマ
  • インデックス式ドイツ文法表(白水社)
    2003年4月第10刷。1,500円。
    昔の誤訳天国(ファンジン版)で書いたけど、第二外国語以降、文法の勉強ってちゃんとしたことないから……たまには……でも、あんま開いた形跡がないなorz
    まあ、独和巻末には、たいてい必要最小限の文法は書いてあるけどねえ。冠詞の格変化とか接続法とか動詞の語尾変化とか。

《洋書》

うん。値札はがしちゃったら、いまさら購入価格とかわかんねえ(笑)
一部 Amazon で買ったやつは、履歴を探れば載ってるだろうけど……いいよね?w

  • LEXIKON A-Z (DUDEN)
    2001年発行。見出し語数45000語。卓上百科事典である。いろいろ便利。
  • Das Herkunftswörterbuch (DUDEN)
    1989年発行。語源辞典。
  • Die sinn- und sachverwandten Wörter (DUDEN)
    1997年発行。見出し語数82000語。類語辞典。
  • Latenisch-Deutsch (DUDEN)
    1986年発行。見出し語数30000語。羅独辞典。
  • Die Geographhie (DUDEN)
    1991年発行。地理辞典。
  • Wörterbuch der Abkürzungen (DUDEN)
    1999年発行。略語辞典。
    ローダンの原書だと、おそらく意図的に、極力使用しない(まあUSOとかSolAb――太陽系秘密情報局――とか、ないことはない)のだろうが、一般には略語が超多いのである、ドイツ語。なので、ローダン以外を読むとき、非常に助かる。
    『労働者階級の手にあるインターネット』は、これがなかったら訳せなかったかもしれない。
  • Lexikon der bedrohtn Wörter (Rowohlt)
    2005年発行。死語辞典……じゃないな。絶滅危惧語辞典、ドイツ語のレッドデータブックか。
    まあ、ほとんど使われない言葉の辞典だから、翻訳にはさほど関係なさそうだが(笑)
  • LEXIKON DEUTSCH Kinder- und Jungendliteratur (Stark)
    1998年発行。児童文学事典。
  • MEYERS KLEINES LEXIKON Literatur (Meyers)
    1986年発行。文学小辞典。
  • Lexikon der Science Fiction Literatur (Heyne)
    1988年発行。SF百科。
    rlmdi.関連の話題でたまに取りあげるが、実にありがたい本。収録された内容は特にドイツに限定されないのだが、ドイツのSFヘフトとか追いかける身としては、シリーズ解説やタイトルリスト等、まさに宝の山。
    これ、確か改訂版が出ているはずである。
  • Lexikon der deutschsprächigen Krimi-Autoren (der Criminale)
    2005年発行。ドイツ語圏犯罪小説作家レキシコン。
    いや、だってツィークラー掲載されてるんだよ?(笑)
  • Lexikon der Fantasy-Literatur (Fantasy Productions)
    1988年発行。ファンタジー文学レキシコン。
    いや、だって(ry
    出版元は、先頃までアトランのペーパーバック版シリーズを刊行していたファンプロである。

あと、Was ist was? (子ども向け図解百科事典)が1冊あったと思ったんだけどなー。でかくて取りまわしメンドイから処分しちゃったかなあ。人体各所の名称とか、ひと目でわかって便利だったんだけどな……。

……。
以上、まあ、『シンボル辞典』とか『神話・伝説辞典』の類は、辞書という観点から今回ははずしわたけだが。わたしが「辞書フェチ」を(やや自嘲をこめて)称するのも、故なきことではない。
#「持っていれば安心」なわけでもないのにね(笑)

費用対効果を考えると、役に立っているか疑問を禁じ得ない本も、相当数混じっているのは否めない。それでも、Every dog has his day. って言うじゃない? 『こんなこともあろうかと!』と、真田さんばりに叫べることも、それぞれの本に、ちゃんと1回くらいはあるのだ。(だれが聞いているわけでもないがw)

そもそも、辞書は「道具」である。使うべき時とところをまちがわないためには、道具をそろえただけでなく、使う側の研鑽も欠かせない。これら大量の「道具」は、はたして今後も、ちゃんと持ち主に使われてくれるだろうか。

続^3 850話・脳髄☆ねっとわぁく

またまた(まだまだ)850話『バルディオク』の翻訳について。
今回のテーマは、前回書いたとおり「脳」。
というより、4章にて登場する脳髄ネットワーク構造の話である。

さて、とりあえず以下の画像をごろうじろ。
PR0850tibi
© Pabel-Moewig Verlag GmbH, Rastatt

850話『バルディオク』の表紙イラストである。ホラ、BARDIOC。
ご確認いただいたら、次へ進もう。

ローダン・ヘフトをン十年も描きつづけた故ジョニー・ブルックは、あからさまな手抜き絵(内容と無縁な絵、コラージュっぽい流用絵)も散見されるが、多くは本文の描写を忠実に再現している。今回、遠景に「城」が描かれているあたり、「宇宙の城」を連想させるご愛嬌……かもしれない。

(1) 消えたストラクチャー

いきなり、今回最悪の誤訳(?)である。

■175p

ハヤカワ版:
 しかし、植物におおわれた地上のほうが、はるかに幻想的であった。球体の着陸した台地から平地にかけて、奇妙な森がつづいている。森林と藪はありとあらゆるところで成長し、見わたすかぎりグリーン一色におおわれていた。
原文:
Aber noch viel phantastischer war das bewachsene Land. Von dem Plateau, auf dem die Sphäre zur Landung ansetzte, erstreckte sich ein merkwürdiger Wald bis weit in die Ferne. Die Bäume und Büsche, die dort dicht nebeneinander wuchsen,wurden von einer Struktur überwuchert, die fast überall zu sein schien und die Perry Rhodan an irgend etwas erinnerte.

試訳:
 しかし、植物におおわれた地上のほうが、はるかに幻想的であった。球体が着陸しようとしている台地から、奇妙な森がはるか彼方までひろがっている。みっしり生い茂る樹木と下生えは、いたるところで、ペリー・ローダンに何かを思い出させる構造体におおわれていた。

はい、バルディオクのネット構造の記念すべき初登場、すっぱりカットぉ。
……って、うぉいぃいいいっ!!
だから! 無分別に! 原文を削除するなってば!
しかもグリーン一色ってなんやねん。あ、関係ないけど着陸すんの9行後だからっ。

翻訳をまちがえることは、誰しもあるだろう。それは、いい。下訳を読みかえして、つじつまの合わない箇所に「?」と疑問をいだき、正解をたぐりよせればいい。だが、消してしまったら、もうどうしようもなかろうに。しかも上書きつき。

そして、この後始末が、またひどい。

(2) ローダン、白昼夢を見る

どうやってごまかしたかとゆーと――

■176p

ハヤカワ版:
 すると、脳裏に異質なヴィジョンが浮かんだ。
 奇妙な構造物だ。植物すべてをおおうネットだろうか? それがはてしなく蛇行し、分岐している。
 これがバルディオクのコミュニケーション・システムなのか?
原文:
Rhodan sah noch immer das fremdeartige Bild vor seinem geistigen Auge.
Was war das für eine seltsame Struktur, die sich wie ein Netz über fast alle Pflanzen erstreckte? Ein Netz schier endloser Windungen und Verästelungen.
Handelte es sich vielleicht um ein Kommunikationssystem BARDIOCs?

試訳:
 ローダンの脳裏から、いまもあの異様な光景が消えなかった。
 ネットのようにあらゆる植物をおおうあの奇妙な構造体はなんだ? ほとんど無限に曲がりくねり、枝分かれした網は?
 あるいは、あれがバルディオクのコミュニケーション・システムなのか?

いきなり脳内にヴィジョンが送り込まれてきた!……ことにしたぞハヤカワ版!(爆)
見てるよ、それさっき実物見てるー!
そりゃさっきの場面では「構造体」としか、ろくに説明してなかったけどー。

ココロの目の前には、いまなおさっき(定冠詞なので)の映像が、である。私的「einとderの法則」にしたがっても、定冠詞のついたこの映像は以前に登場しているはず(笑)なのだ。
したがって、ここでは「少し前に見たあの場面を思い出してる」だけである。なのに、その「少し前に見たはずの場面」を削除した(あげく、それがどこだかも忘れた)から、ローダンがいきなりありもしない白日夢を見たことになってしまう。

原書だと、おなじ見開きにある文章なんだけどねぇ……。

(3) 動物のことも忘れないで

■177p/178p

ハヤカワ版:
 台地に降りたち、振り返ると、球体は見えない。甘ったるい匂いが鼻をつく。数歩はなれた藪のあいだに、アンテロープに似た動物が立ち、こちらを油断なく見つめていた。
 あたりに目をやると、頭上がネット状構造物におおわれているのがわかる。これはどこまでも、果てしなく伸びているのだろうか?
 動物に視線をもどし、近づこうとした。そのとたん、相手はくるりと半回転して、急斜面を駆けおりると、やがて林のなかに消える。
原文:
Das Plateau fiel nach der Seite, die Rhodan on der Sphäre aus nicht hatte sehen können, steil ab. Süßlicher Duft stieg Rhodan in die Nase. Ein antilopenähnliches Tier stand ein paar Schritte von dem Terraner entfernt zwischen niedrigen Büschen und äugte mißtrauisch zu ihm herüber.
Rhodan beobachtete es. Täuschte er sich oder trug es auf seinem Rücken ein Stück jener netzartigen Struktur, die sich fast überall ausgebreitet hatte?
Rhodan machte einen Schritt auf die Kreatur zu, doch sie warf sich herum und floh den Steilhang hinab, wo sie wenig später zwischen den Bäumen verschwand.

試訳:
 台地は球体からでは見えなかった側が、切りたった急斜面になっていた。甘い匂いが鼻をつく。数歩はなれた潅木の茂みから、アンテロープに似た獣がテラナーを警戒するように見上げていた。
 ローダンは動物を観察した。見まちがいでなければ、あたり一面にひろがっている、あのネット構造をしたものの一片が、背中についている。
 一歩近づいたとたん、獣はさっと向きをかえると急斜面を駆けおりて、またたくうちに樹木のあいだに消えてしまった。

ローダンが観察している代名詞 es = Tier (中性名詞)。この点を理解しないから、「全動植物相と共生する」(179p)の動物側の具体例が登場しないという珍妙なことになる。「あたりに目をやり」「視線をもどし」と、2回も原文にない動作描写を創作している余裕があるなら、少しは変だと思ってもらえないものかね?

そして、「頭上がネット構造におおわれている」という部分。
空に何かがあるのは、テルムの女帝の惑星ドラクリオホである。クリスタル構造のコンピュータが、球殻のように惑星を包んでいた。
バルディオクの惑星では、ネット構造の生体細胞(脳)が“地上を”を覆っているのである。

……と、ここで冒頭の表紙イラストを思い出していただきたい。
鹿アンテロープの「背中に」「ネット状構造体」――まさにこの場面である。ジョニーの表紙絵を「これどんな場面かなあ?」と、読者として当然の興味をもって眺め、それから本文にとりかかるならば、こんな誤訳はそもそもあり得ないと思うんだけど……表紙やイラストなんか見てない? ひょっとして。

なんというか、「ドロドロの脳髄(超人のなれのはて)に覆われた惑星」……というこのイメージ。
これがちゃんと伝わっていたら、たとえば426巻の工藤さんの表紙イラストも、まるでちがってたんじゃないかと思うと、ちと残念。えらいリアルな惑星バルディオクの情景を描いていただけたかもしれないのに……。

摘出されたまんまのキレイな脳は、強者バルディオクの脳かもしれないが、超知性体バルディオクの脳は、そうじゃないのだ。

■182p

ハヤカワ版:
 なんとか小川にたどりつき、両手を水につっこんで、思わずからだを震わせる。見たところ、飲んでも問題なさそうだ。あたりを眺めまわすと、反対側の岸には、バルディオクの“枝”が繁茂して、水生植物をおおっている。魚の群れがあらわれたが、その外見が“脳”に似ていても、もう驚かない。
原文:
Schließlich erreichte er den Bach und tauchte beide Hände hinein. Als er den Kopf über das Ufer beugte, erschauerte er bei dem Anblick, den ihm das klare Wasser bot. Von der anderen Seite des Bachs wucherten Ausläufer BARDIOCS bis auf den Grund ihnab, wo sie die Wasserpflanzen überzogen. Rhodan hätte sich nicht gewundert, wenn Fische aufgetaucht wären, die ebenfalls kleine Klumpen der gehirnähnlichen Struktur auf ihren Köper trugen.

試訳:
 ようやく小川にたどりつき、両手を水にひたした。岸から身を乗りだすと、透明度の高い水底にあらわれた眺めにぞっとする。小川の向こう岸から伸びたバルディオクの匐枝が水草をおおっていたのだ。ここに、脳に似たこぶをもつ魚の群れがあらわれたとしても、もうローダンは驚くまい。

外見が脳に似た魚……それどこの水棲アリシア人だよwww
せめて接続法II式であることがわかっていれば、もうちょい傷は浅かったのだが……あらわれちゃったもんなあ、もうすでにorz

鹿のとこでもちゃんと訳せなかったものが、魚なら訳せるはずもないのだけど。“共生”のしくみ、理解できてる? >中のヒト
テルムの女帝のクリスタル球殻を脳細胞に置き換えただけとか…思ってないよね?
もっとも、魚には、思いもよらぬ形状のやつもいたりするから、案外実在するかもしれないけどねえ >脳魚
#あ、金魚かもね(笑)

(4) バルディオク≠バルディオク

以下は、おまけ的に。

■178p

ハヤカワ版:
 そこで、あらたな動きがあった。
 ネット状構造物のあちこちで、大きな根茎状の隆起が生じたのである。宙航士たちは注意深くその大きな塊りを持ちあげ、コンテナに運んでいく。
原文:
Dort begannen sie zu arbeiten.
An verschiedenen Stellen der netzartigen Struktur waren große knollenförmige Auswüchse entstanden. Die Raumfahrer begannen damit, sie vorsichtig von der übrigen Masse zu lösen und in mitgeführte Behälter zu legen.

試訳:
 そこで作業がはじまった。
 ネット状構造体の各所に、大きな根茎状の突起が育っていた。宙航士たちはそれを注意深く大元の塊から切りはなし、携行した容器におさめていく。

まさに 茶摘 である。まあ摘んでるのは、空飛ぶ黒毛皮なわけだが……。
小陛下の“芽”だが、過去完了形なので、「生じて、いた」。別に、ローダンが見守る目の前で、にょきにょきと元気よく成長したわけでもなんでもない。
あと、コンテナは携行(mitgeführt)しないと思うんだ……。

■179p

ハヤカワ版:
 同時に、このすべてをおおう密な組織の正体もわかった。
 何度も否定しようとしたが、そのたびに事実だと思いしらされる。
原文:
Nun wußte er auch, woran ihn dieses Struktur erinnerte, die alles wie ein wucherndes Gewebe bedeckte.
Er hatte die Wahrheit die ganze Zeit über geahnt, sie aber immer wieder verdrängt.

試訳:
 また、すべてを生い茂る組織のようにおおうこの構造が、何を連想させるのかもわかった。
 ずっと真相を察知していながら、そのたびに押さえ込んでいたのだった。

この部分は、最初に抹消された「何かを思い出させる」を受ける部分である。
当然、正しい訳にはならない……が、まあ、うまくごまかせた部類だ。

ハヤカワ版:
 一惑星の全動植物相と共生する、惑星規模の脳あるいは脳に似た有機体……それがバルディオクなのだ。
 ブルロクから示唆は得ていたが、ありえないと思っていた!
原文:
Ein grobal Gehirn oder ein gehirnähnlicher monströser Organismus, der die gesamte Fauna und Flora dieses Planeten zu einer gigantischen Symbiose vereinigt hatte – das war BARDIOC.
Das war nicht der Bardioc aus BULLOCS Erzählung, das konnte er nicht sein!

試訳:
 全動植物相を巨大な共生体として統合した、惑星規模の脳、あるいは脳に似た有機体――それがバルディオクなのだ。
 こんなものは、ブルロクの物語に出てきたバルディオクではない、ありえない!

174pでも、「人類がこれまで戦ってきた超知性体と、話に出てくるバルディオクって、なんかちがう」と、ローダンは考えている。まあ、強者バルディオクはヒューマノイドだし、この脳みそでろーんと、うまく結びつかないのもやむを得ない。
ただ、ナウパウムの話とかも挿入して、そのバルディオクが「脳だけの存在」になることは、くりかえし暗示されているのだけど。

そういえば、851話にあった、

  Bardioc war BARDIOC geworden.

……だったかな(原書が発掘できてないのでうろおぼえ)、「バルディオクはバルディオクになったのだ。」な文章は、「超越知性体になったのだ。」と超シンプルに訳されていた。

(5) バルディオク≒テルムの女帝

■184p

ハヤカワ版:
 とはいえ、あらゆる超越知性体がすべて、このような方法で進化したとは思えない。すくなくとも、“それ”は例外だ。結局のところ、自分はバルディオクと女帝の例しか知らないわけである。
 その背景には、超越知性体同士の対立がかくされているのか……?
原文:
Rhodan durfte nicht annehmen, daß dieser Entwicklungsprozeß für alle Superintelligenzen charakteristisch war (zumindest ES bildete darin eine Ausnahme), aber nach allem, was Rhodan von BARDIOC und der Kaiserin von Therm wußte, waren sie sich in vielen Dingen ähnlich.
Lag darin der Grund für den Konflikt der Superintelligenzen voerborgen?

試訳:
 すべての超知性体が、こうした発展プロセスで特徴づけられると思ってはなるまい(少なくとも“それ”は例外だ)。だが、ローダンが知るかぎりにおいて、バルディオクとテルムの女帝は、多くの点で似通っている。
 二体の超知性体間の紛争の原因は、そのあたりにかくされているのではないか?

似ているから喧嘩する、とローダンは考えたわけだ。
対立しているから、しだいに似通ってくることがないとはいわないが、この場合は逆なのである。要するに、どちらも無条件に領域を拡張しつづけるシステムと化しているから、激突は必至かつ不可避ではあったのだ。

しかし、この、「似ているから」という点が、最後の解決策を導くわけだから、大宇宙よのなかわかんないよねえ(笑)

……。
『バルディオク/宇宙の悪夢』は脳みその物語である。
テルムの女帝という、コンピュータが超知になったような敵と、まさに対蹠的に生身の脳が超知性体に成り上がる、というか、寝ているうちに成り上がってしまう話なのだ。
それなのに、嗚呼それなのに……というのが、今回のすべてである。
まあ、エピローグのあれと、今回のこれに文句つけられれば、後はもう小物ばかりと言ってもいいくらいだし。もういいや。

それにつけても、誤訳どころか、翻訳すらしてねえなあ……orz
「ローダン愛」なんかないのは、わかってるけど。
でも、ローダンだってSFでしょ? SF文庫なんだし。
SF訳すのに、わざわざSF的なギミックを殺す方針とは、おそれいったぜ。

続々850話・影を投げかける誤訳

werfen Schatten voraus…..って、1250話あたりで巻末記事のタイトルで頻出してたなあ。
ぶっちゃけ「将来に影を落とす」くらいの意訳が正解なんだろうけど。
850話『バルディオク』関連、3回目である。
今回は、1章を中心に、「後に影響を及ぼす誤訳」をテーマとしたい。まあ、それ以外のも混じっちゃうけど。

個人的に、なんでこの原文が……という誤訳はもっと大量にあるけれど、気づいたらもう、1章、10章、エピローグと、2割前後訳してしまって、それでも全然先に進まない。テーマは「脳」の次回くらいまでは、さっさと紹介してしまわないとケリがつかないしー。

(1) ひらけてない視界と物質化マテリアライズ

■141p

ハヤカワ版:
 視界が開けた。ライレの姿がある。隻眼のロボットの“からだ”を構成する鋼はやわらかい。不可触の台座のそばにかがみ、すばやく顔に手をやると、空洞になった一方の眼窩を指でたどっている……“肉体”が不完全であることを、恥じるように。
 バルディオクが実体化したのは、青い水蒸気の雲につつまれた平原であった。孤独なロボットが数歩はなれてしゃがみこんでいるのが見える。バルディオクが立案した、不条理で実行不可能な計画が、すべて実現したのだ。
 水蒸気が完全に気化し、さらに視界が開ける。すると、ライレの暗色の外被に光沢がよみがえり、一瞬、新品にもどったような輝きをはなった。
原文:
  Der Anblick war vertraut: Laire war da, der einäugige Roboter mit seinem Körper aus weichem Stahl. Er kauerte neben dem Sockel der Unberührbarkeit und hielt die Hand mit den viel zu kurzen und ausgeblühten Fingern vor die Höhle mit dem Zerstörten Auge darin, als schäme er sich seiner körperlichen Unvollkommenheit.
  Bardioc, der in einer Wolke aus blauem Wasserdampf in der Ebene materialisierte, sah die einsame Gestalt des Roboters ein paar Schritte von sich entfernt dahocken, und mit einemmal erschien ihm alles, was er in letzter Zeit geplant hatte, absurd und undurchführbar.
  Bevor der Wasserdampf sich völlig verflüchtigte, schlug sich ein bißchen davon auf Laires dunkler Außenhülle nieder und verlieh ihr den vorübergehenden Anschein glänzender Neuheit.

試訳:
 見なれた光景だ。ライレがいる。やわらかい金属製のボディをもつ隻眼のロボット。“不可触の台座”のそばにしゃがみこみ、寸づまりの、焼きなまされたような指をした手を、破壊された“眼”のあった、うつろな左眼窩にあてがっている。身体が不完全なことを恥じるかのように。
 青い蒸気につつまれて“平面”に物質化したバルディオクは、うずくまるロボットの孤独な姿を、数歩の距離からみつめた。急に、長いこと練ってきたプランのすべてが、ばかげていて、実行不可能に思われた。
 気化しきる前の蒸気がほんのわずか、ライレの暗色の外被をしめらせ、つかのま新品のような光沢をあたえた。

冒頭の一文からまちがっている、と書いた部分。正確には、「見なれた光景だ:」とあって、コロン以降がその光景の説明。但し、こわれた“目”が左なのは、ここでは述べられていない、先読み情報からとなる。まあどこかでライレのイラストを見ればわかる話だ。
指の修飾である「短すぎる」 zu kurz を、「すばやく」と副詞みたいに訳しているせいで、ライレがバルディオクの出現に反応したように読めてしまう。後述のとおり、座ったまんまが常態である。

で、問題は次の「青い水蒸気につつまれた平原」。
本来バルディオクを修飾している部分を、die Ebene の修飾と考えたせいで、「平原」という訳語の因ともなり、平原をおおう水蒸気が気化して「視界が開ける」という、本来この段落にない表現を生んだ。諸悪の根源である。
おそらく、最初の一文がうまく訳せなかったところに、水蒸気の誤訳から生まれた「視界が~」を入れ込めばいいや、と考えたのではなかろうか。

この「水蒸気」だが、物質化 Materialisation の付随現象で、ケモアウクが金色のオーラ、アリオルクが黒雲、ムルコンが光のカスケード……とそれぞれ特徴がある。どれも、物質化からまもなく消滅するのだが、ハヤカワ版ではそのへんがご理解いただけてない。

■147p

ハヤカワ版:
 雲はすばやく移動し、アリオルクはライレに近づいた。
原文:
  Die Wolke fiel schnell in sich zusammen, während Ariolc zu Laire ging, um sich zu identifizieren.

試訳:
 アリオルクがライレのもとへ認証にむかうと、雲はたちどころに収縮して消えうせた。

まあ、雲から「滑るように歩み出た」 glitt aus … を「“降臨”した」とか訳してる時点で、ギミックを理解しようという努力自体、感じられないのだけど。

以下はおまけ的扱いだが、

  • バルディオクの計画が実行されるのは、これから(仮定法)。
  • 「視界が開けた」だけでライレが新品に見えたら、それは目医者にいった方がよかろう。

(2) “平面”拾遺

■147p

ハヤカワ版:
 大宇宙からくる、恒星凝集体の圧力を感じる。その重力フィールドが平原に襲いかかり、かつて名も知れぬ存在が権力を築いた場所を、虚無にひきよせようとした。
原文:
  Bardioc fühlte den Druck der unvollkommenen Sonnen draußen im Weltraum, ihre Gravitationsfelder umtosten die Ebene und zerrten an ihr, doch sie hing unverrückter im Nichts, dort, wo sie einst von einer Macht errichtet worden war, von der Bardioc nicht einmal den Namen kannte.

試訳:
 バルディオクは、外の宇宙空間、生まれかけの恒星団のもたらす圧力を感じた。その重力場は“平面”の周囲で猛り狂い、引きずり寄せんとする。だが“平面”は不動そのもので、バルディオクのいまだ名も知らぬ勢力によって設置された、虚空のただなかにとどまっていた。

ここが、「最初の時点でちゃんと書いてある(訳せてないけど)」という、“平面”の所在が述べられた箇所である。
「それら(恒星)の重力場が“平面”をとりまくように荒れ狂い、それら(恒星)の方へひっぱろうとする。しかしそれ(“平面”)は虚空にひっかかって動かない。そこ(虚空)は、それ(“平面”)が、ある勢力によって設置されたところである。それ(勢力)について、バルディオクは名前さえ知らない。」が直訳。

女性単数の sie と、複数の ihr が入り乱れているが、読解はそれほど難しくないはずだ。
ハヤカワ版は、そのへんをごっちゃにしていて、「ひきよせようとした」のはいいが、方向が変だし、結果はどうだったのか訳せていない(笑) まあ、結論の部分を一部別の文章へ編入しちゃったので、やりようがないのだが。すでにこの時点で、訳者の脳内では「平原」=惑星上の場所(不動)という属性がインプットされてしまったようだ。

ところで、先読み等であらすじを知っていた読者の方は、今回おや?と思ったかもしれないが、バルディオクたちは、自分たちが仕えている存在が「秩序の勢力」「コスモクラート」と自称していることさえ知らないのだ。
#基本、このあたりの先読み情報では「物質の泉の彼岸の勢力」とだけ表現されている……はずだよなあw

■142p

ハヤカワ版:
 そして……平原は恒星凝集体の放射、重力嵐、熱の洪水により、一日ごとに崩壊が進み、腐食していった。それでも、ライレはずっとここにとどまっている。片目を失ったロボットは孤独で、沈黙したまま、破滅の光景をじっと見つめつづけた。
 この“滅亡”に、おのれの出自の秘密を反映させているのだ。
原文:
  Und doch würde die Ebene eines Tages zerfallen, zernagt und zermürbt von den Gewalt der nahen Sonnen, von ihren Strahlenschauern, ihren Gravitationsstürmen und ihren Hitzefluten.
  Laire würde dann immer noch hier sein, zum robotischen Krüppel verstümmelt, einsam und schweigend, das eine Auge auf das Bild der Zerstörung gerichtet.
  Und er würde das Geheimnis seiner Herkunft mit in den Untergang nehmen.

試訳:
 それでいて、やはり“平面”とて、いつかは崩れ落ちるのだ。近隣の星々の暴虐――放射線、重力嵐、灼熱――に噛み砕かれ、朽ち果てる日が訪れる。
 そのときになっても、ライレはなおもそこにいるのだろう。なかばスクラップとなり果てて、孤独に、口をつぐんで、隻眼を破壊の情景へと向けて。
 そうして、その素性の秘密を抱いたまま、滅びに呑みこまれるのだろう。

これまた、前々回に取りあげた部分の詳細である。片目をかくしたライレがぼーっと座り込んでいるさまを、バルディオクがやけに詩的に観察している。
最後の行は、「秘密を墓場(滅び)まで抱いていってしまう」だろう、なのに。
ここをしつこく取りあげたのには、もうひとつ意味がある。実は接続法仮定部分で話は一区切りついているのだ。

(3) 七強者の人間関係

強者の強は「強いられているんだ!」の強みたいだよなあ……(笑)
それはともかく、かなり強引に話が転換しているせいで、ハヤカワ版ではそのままつながっている。

ハヤカワ版:
 自分には、とてもまねができない……。
 たぶん、自分だったら実際に断念していただろう。ほかの六人がそうであったように。
 いまは自分ひとりだけだ。
 ほかの六人は“召喚”にも、もうほとんど応じない。バルディオク自身は通常の生命領域をあとにして、この平原にやってきた。要求に応じて、急いで到着するために。
原文:
  Ich kann es nicht tun! dachte Bardioc.
  Wahrscheinlich hätte er tatsächlich aufgegeben, wenn einer der sechs anderen bereits vor ihm dagewesen wäre.
  Doch er war allein.
  Kaum, daß der RUF an ihn und die sechs anderen ergangen war, hatte Bardioc seinen normalen Lebensbereich verlassen und war zur Ebene aufgebrochen. Er hatte gewußt, wie ihm nach seiner Ankunft zumute sein würde, und sich entsprechend beeilt.

試訳:
〈わたしにはできない!〉バルディオクは思った。
 もし他の六人のだれかが先に到着していたなら、おそらく本当にかれは計画を断念していただろう。
 だが、かれはひとりだった。
 七人に宛てて“召喚”が発されるなり、バルディオクは通常の生活空間をはなれ、“平面”へと出立した。到着後、自分が弱気になることはわかっていたので、それゆえの性急さであった。

未来に思いを馳せる空想が終わって、バルディオクが計画のことを考える様子へと、話題が変わる。うん、フォルツの原文も、ちょっと唐突すぎる気は、たしかにするわ(笑)
弱気になる(わたしにはそれ(プランの実現)ができない!」)ので、自分を鼓舞する時間が必要、という流れである。まあ、es を「ライレみたいに滅びに呑まれること」と読みたくなるのも無理はない。……けど、「反映している」なんだよね、ハヤカワ版だと。

しかし、ここで、「いまこの場に来ていない」を、「過去、“召喚”に応じていない」という設定に「創作」してしまったことは、後に尾をひく。

■148p

ハヤカワ版:
だれも事情は知らなかったが、こうした“会合”に、何度となく“欠席”してきたのである。また、召喚を尊重することもない。
原文:
Niemand wußte, ob er unter diesem Umstand litt, aber erhatte als einziger jemals bei einem Treffen gefehlt und nicht auf den RUF geachtet.

試訳:
ガネルクがそれを苦にしているかはわからないが、これまで一度だけとはいえ、“召喚”を無視し会合を欠席したことがあるのは、かれひとりである。

本来“召喚”を無視することは大事件なのに、「前例」があるため、インパクトがなさすぎる。そこで、「何度となく」という追加要素がプラスされてしまったわけだ。
あと、ガネルクがちっちゃいのを気にしてるんじゃないの~? という部分も、エピローグに絡んでいないこともないのだが(後述)。

■143p/144p

ハヤカワ版:
 バルディオクのからだに手を触れる。バルディオクもそのコンタクトに応じた。もしかすると、ライレの思考を読めるかもしれない!
「あなたはバルディオク。識別できます」ロボットは作法どおりにいった。
 バルディオクはうなずいたものの、昔の習慣にもとづいた対応はしない。それにより、些細なミスやうっかり本性を見せたくなかったから。それに、今回の“召喚”に対する、ライレやほかの勢力の反応には、とても関心があった。
 “ほかの勢力”については、はっきりわからない。自分もそれに“奉仕”しているのだが。その勢力は“物質の泉”の向こうにのみ存在し、自分も、ほかの六人も、そこにはぜったいに到達できないのだった。
原文:
  Er legte eine Hand auf Bardiocs Körper. Unwillkürlich zuckte Bardioc bei dieser Berührung zusammen. Vielleicht konnte Laire Gedanken lesen!
  “Du bist Bardioc. Ich habe dich erkannt”, sprach Laire die Begrüßungsformel.
  Bardioc nickte, ganz gegen seine frühere Gewohnheit versuchte er nicht, den Roboter in ein Gespräch zu verwickeln, denn er fürchtete, daß er sich durch eine winzige Kleinigkeit verraten könnte. Dabei hätte es ihm auch jetzt noch interessiert zu erfahren, ob jene, die den RUF ergehen ließen, Laire und die Ebene selbst erschaffen oder nur von einer anderen Macht übernommen hatten.
  Bardioc wußte nichts über die Macht, der er diente, vielleicht existierte sie sogar nur jenseits der Materiequellen und würde für ihn und die sechs anderen immer unerreichbar bleiben.

試訳:
 バルディオクの身体に手をあてる。思わずバルディオクはびくりとした。まさか、ライレは思考が読めたりしないだろうな!
「バルディオクだな。識別完了」と、ライレが定型どおりに挨拶する。
 バルディオクはうなずいた。常とは異なり、ロボットを会話にひきこもうとはしない。ごく些細なことから露見しないとも限らないから。“召喚”をもたらす存在が、ライレと“平面”を自ら創造したのか、あるいは他の勢力から接収したものか、その点にはいまだに変わらず興味があったのだが。
 バルディオクはおのが仕える勢力についてまるで知らなかった。それは“物質の泉”の彼岸にのみ存在し、かれら七人には永遠にたどりつけないままなのかもしれない。

わざわざ「“ほかの勢力”」と強調しておいて、まちがいとか……まじ勘弁。
ごくあたりまえの Macht(力、勢力)によけいな修飾をつけるから、「“”」なんて余計なモノをつけないと落ち着かない文章になるのだ。

あと、訳文のバルディオク、突然厨二的才能が開花したの?(爆)

(4) バルディオクの憂鬱

■144p

ハヤカワ版:
 ほかの六人が住まう宇宙の城については、ほとんど知識がない。それに言及することが、ほとんどなかったから。しかし、ほかの六人から見ると、自分が“劣る者”とみなされているような印象はあった。
原文:
  Im Vergleich zu den Heimtätten der sechs anderen war Bardiocs kosmisches Burg ziemlich armselig, und wenn auch nie darüber gesprochen wurde, so hatte Bardioc doch oft den Eindruck, daß er bei den sechs anderen deshalb als minderwertig galt.

試訳:
 他の六人の居城に比すと、バルディオクの宇宙の城はすこぶるみすぼらしい。けっして話題にあがることはないが、他の六人からそのせいで見下されているという印象をうけることが、しばしばあった。

鬱屈の原因がはっきり書いてあるのに、すこーんと訳が抜けている(まちがえている)。
原文に「知識」に該当する語があるなら、「知識が貧相」→「知識がない」でもいい。ないのに、なんで知識の話になってるんだろうね? 「他のに比べて/バルディオクの城は貧相/(以下、劣等感からくるヒガミw)」というのが端的な訳になる。

だから城にいるのがイヤ(144p)なのだし、エピローグでもカリブソが言及している……のに、訳しちがえている。

■265p

ハヤカワ版:
 内なる衝動にしたがって、次はバルディオクの城に向かう。ほかの者とくらべれば、それほど重要ではないように見えるし、あの男なら孤独な新参者を迎えてくれるだろう。
原文:
  Einer inneren Eingebung folgend, hatte er Bardiocs Burg aufgesucht. Sie sah im Vergleich zu den anderen tatsächlich unbedeutend aus, und der einsame Ankömmling konnte sich vorstellen, wie sehr Bardioc das zu schaffen gemacht hatte.

試訳:
 直感にしたがい、バルディオクの城へ向かう。他の城に比べると、実際あまりぱっとしない。それがバルディオクにどれほどこたえたか、孤独な客にはわかる気がした。

おそらく、外見が兄弟たちとちがうガネルクには、それを苦にしていた(148p)からこそ、理解できる気がしたのではなかろうか。まあ、住まいがボロアパート(四畳半、バス・トイレなし)なのを豪邸や高級マンションに住む兄弟に嘲笑されたのがグレた理由というのは、超知性体誕生の遠因としては、ちょっとすごく情けないかもしれないが(笑)

にしても、3箇所ともちゃんと訳せていなくては、その情けない理由もまるで伝わらないのだった。

(5) 胞子船と播種船

■145p

ハヤカワ版:
 あの宇宙の領域に向けて、バルディオクとその同僚六人が建造した強力な播種船が、まもなくスタートするのだ。
原文:
  In ein kosmisches Gebiet ähnlich wie dieses würden Bardioc und seine sechs Artgenossen demnächst aufbrechen, jeder für sich an Bord seines mächtigen Sporenschiffs.

試訳:
 やがて、ここに似た宙域へとバルディオクと六人の仲間は出動することになる。おのおのが、強大な胞子船に乗って。

播種船、という訳語そのものが悪いとは言わない。昔、ポスビを開発したトカゲ種族のベーコン苔船・ラボタックスIIの場合は原語が Saatschiff(字義どおり、“種子船”)じゃん、という反論も、それほど説得力がない。
しかし、“播種船”と訳すことによって、「胞子船」という、ローダン宇宙特有のギミックであることを忘れてもらっては困る。胞子船はコスモクラート技術のかたまりで、通常の意味では「建造」できない(ずっと後に、一例だけ判明するが、それも「育成」している)し、「宇宙の城」同様、コスモクラートからの借り物にすぎない。そもそも今回の話のどこにも「オレらが建造した」という描写はない。

だいたい、7隻しかない(強者1人につき1隻と書いてある)のに、「時間超越者の同盟の一員として無数の播種船を操作し」(426巻127p)とか訳してどーするよ?

以下、余談:
直径1126km(㌔である)の球殻は、他のコスモクラート技術の産物に、しばしば流用される。〈法〉付与機、銀河点火弾、〈インシャラム〉……。今後、そのたびに、「播種船と同サイズ」と連呼することになるのだ。

(6) ケモアウク 嗚呼ケモアウク ケモアウク

■146p

ハヤカワ版:
その指示がなかったら、播種船の積荷を物質の泉に運ぶことはなかっただろう。
原文:
Tiefer als Kemoauc, sagten die anderen, war noch keiner bei der Beladung der Sporenschiffe in die Materiequellen eingedrungen,

試訳:
ケモアウクは胞子船への荷積作業の際、他の誰よりも深く物質の泉に潜行した、と囁かれている。

「その指示」という名詞も代名詞もないんだが……。むしろ tiefer als (≒deeper than)という比較級はどこいったんだか……。

851話で残されたメッセージ「物質の泉には近づくな」ともども、ローダンたちがどこでケモアウクに遭遇することになるかを考えても、ケモアウクの背景設定の一番大きい点なんだけどな、物質の泉深く潜った、ってのは。

■247p

ハヤカワ版:
「たぶん、だれかが物質の泉の向こうに進出し、大宇宙のために貴重な認識を得るべきなのだろう」と、ケモアウクがつづける。「だが、きみはそのリズムを決定的に乱してしまった」
原文:
  Kemoauc fuhr fort: “Wahrscheinlich kann nur jemand, der wie ich tief in eine Materiequelle vorgedrungen ist, den unschätzbaren Wert dieser Naturphänomene ermessen, kann erahnen, was sie für das Universum bedeuten. Und du hättest fast den Rhythmus gestört.”

試訳:
 ケモアウクはつづけて、「おそらく、わたしのように物質の泉の奥深く進入した者だけが可能なのだ。この自然現象のはかり知れない価値を推し量り、大宇宙にとっての意味を予感することは。そして、きみはあやうくそのリズムを乱すことろだった」

と、まあ、一種ケモやんの自信の源にもなっているわけだ。
なんでこー、「キャラ描写」を片っ端から切って捨ててるのかねえ。

(7) 先入観・疑いのまなざし

■146p

ハヤカワ版:
 まず最初に、この平原の現状と危険性を指摘するとは……バルディオクは緊張が耐えがたいほど高まるのを感じた。
「それとも、われわれの道をさらにひろげるため、わたしをあざむいているのか?」と、ケモアウク。
「だれもあざむく気はない」バルディオクは内心の動揺をかくし、平然をよそおって、「しかし、道の長さと、そこにいたる速度については、問題がある。とくに、速度は行動の動機づけになるだろう」
原文:
  Erst dann kam er auf Bardiocs frühes Hiersein zu sprechen, ein Umstand, der seine Gefährlichkeit nur noch unterstrich und Bardiocs Wachsamkeit in unerträgliche Spannung steigerte.
  “Täusche ich mich oder hast du den weitesten Weg von uns allen?” fragte Kemoauc.
  “Du täuschst dich nicht”, erwiderte Bardioc gelassen, obwohl er innerlich vibrierte. “Aber die Länge des Weges sagt nichts über die Geschwindigkeit aus, mit der man sich bewegt. Und Geschwindigkeit ist motivierbar.”

試訳:
 それからようやく、バルディオクの一番乗りについて口にした。危険性の強調される状況に、バルディオクの警戒心はほとんど耐えがたい緊張にまで高まった。
「わたしの思いちがいかな、たしかきみの城が一番遠かったのではないか?」と、ケモアウク。
「思いちがいではないさ」バルディオクはさりげなく応じた。内心は震えあがっていたのだが。「だが、距離の長さは、移動に際しての速さを告げるものではなかろう。速度は動機しだいで変わるものだしな」

今回、いちばん失笑/落胆した誤訳。
登場早々、バルディオクを犯罪者扱いかよw >ケモアウク

9章あたりの述懐を読んだうえで振りかえると、この時点でケモアウクがすでに「あー、他の連中同様、こいつもいろいろイヤになってんだなー」と、生ぬるい目つきをしていたであろうことが推測できる。変な理解のある微笑みともども、実はこの後の事件の伏線になっているのだ。

動詞 täuschen には「(4格を)だます、あざむく」の意味がある。この文章だと、あざむく対象は mich となる。「わたしがわたしをあざむいた」と考えても、なんとかなるのだが(なってないが)……。
ドイツ語には、再帰動詞とゆーものがあって、明確な使い分けがされている。täuschen sich で「思いちがいをする」となる。原文中では、主語 ich、du にあわせて目的語も mich、dich と変わっており、まちがいなく「自分に帰る」再帰動詞なのだ。したがって、翻訳も「わたしが思いちがいをしているか(疑問文)」「きみは思いちがいをしていない(回答)」でなければならない。
訳文は詰問調で、どう見ても「(きみは)わたしをあざむいているのか」だよね。

似たケースでは、動詞 verraten の意味「(1) 裏切る (2) (秘密等を)吐露する」を、ハヤカワ版では必ず「裏切る」としか訳さない。800話でも、850話(149p)でも、「吐露する、白状する」が正しい。翻訳以前に、辞書ちゃんと引けてないんじゃないの?

ハヤカワ版:
 バルディオクははじめて、この仲間から孤立し、見捨てられていると感じた。すでに、心のなかでは、ほかの者とわかれる準備ができているのだが。
 いま、その時間がきたのだ……肉体と空間から分離する瞬間が。
原文:
  Zum erstmal fühlte Bardioc sich in diesem Kreis einsam und verlassen. Das zeigte ihm, wie sehr er sich innerlich bereits von den anderen getrennt hatte.
  Und nun war die Zeit gekommen, diese Trennung auch köperlich und räumlich zu vollziehen.

試訳:
 バルディオクははじめて、兄弟の輪のなか孤独で見捨てられていると感じた。それはすでに心のなかでは他の者と隔たりが生じていたことを浮き彫りにした。
 そしていま、その隔たりを肉体的、空間的にも実現すべき時がやってきたのだ。

単に、♪どこか遠くへいきたい、のである。

あれやね……カリブソの超自我話に引きずられてるんかね。つーか、どうにも「バルディオクは超知性体になることを企んでいる」と思ってないか >ハヤカワ版の中のヒト
自分で読んでて、なんのこっちゃと思わないのだろうかこの文章。脈絡とか脈絡とか。
翻訳以前に、国語力を疑わざるをえないぞ。

(8) 委託元についての情報

■150p/151p

ハヤカワ版:
「哲学的な問題だな。しかも、われわれ全員が長いあいだ考えてきたものだ」と、ケモアウクが認める。「もしかすると、未知者は大宇宙のあらゆる場所に生命を運ぶことそのものに、意味を見いだしているのかもしれない。あるいは、そうすることで、ほかの勢力の進出を阻止しているのか……」
原文:
  “Das ist eine philosophische Frage, über die ich schon lange nachgedacht habe”, gestand Kemoauc. “Ich nehme an, daß die Unbekannten den Sinn des Universums darin sehen, daß es überall Leben trägt. Vielleicht handeln sie ihrerseits nur im Auftrag einer anderen Macht.”

試訳:
「哲学的な問題だな。それについては、わたしもずっと考えてきた」と、ケモアウクが認めた。「未知者は、いたるところ生命で満たされることにこそ、大宇宙の意義があるとみなしているのではないかな。あるいは、かれら自身、ほかの勢力の委託をうけているだけなのかもしれない」

哲学的に考えすぎである >ハヤカワ版
ほかの勢力の委託をうけると、進出が阻止できるらしい。難解すぎ。

■152p

ハヤカワ版:
「いずれにしても、われわれの船には積荷がある。その意味するところは明らかだ。ぐずぐずせずに、いつもの“事業”をくりかえすということ」と、アリオルクが口をはさんだ。
原文:
  “Trotzdem sollten jene, die unsere Schiffe beladen, uns nicht länger darüber im unklaren lassen, welcher Sinn hinter den sich stets wiederholenden Unternehmungen steckt”, sagte Ariolc.

試訳:
「いずれにしても、われわれの船に積荷を載せる連中、そろそろはっきりしてくれてもよさそうなものだ。ずっとくりかえされる事業に、いかなる意味があるのかを」と、アリオルク。

うーん……単語しか合ってねえ。
もはや単語でパズルをしているとしか考えられない。ドイツ語、読んでないよね?
こういった変な文章が散見されるから、機械翻訳なんじゃと言われるのだ。とゆーか、数年前からまるで進歩の見られない読解力ともども、私的にはもう疑念の余地がないけど。
某アインシュタインの伝記とか、某A県やN県のホームページは、他山の石にはならなかったみたいだなあ……。

……。
2章の「明るくなって、また明るくなる具象球体内部」「現実を認識しまくるローダン」あたりまではやろうと思っていたが、このへんでギブアップだ。
そのへんは、次回「脳」の話のついでに、できたら紹介しよう。