誰がフクセン殺したの?

私的脳内では、原典であるマザー・グースより、明らかにクック・ロビン音頭の方の比重が大きいのだが。そーれ、ぱぱんがぱんっ。
とはいえ、今回の話題は、「ご先祖っ」「子孫っ」がしっ――ではなく(笑)
ハヤカワ版431巻『脳搬送』後半「時の氷風」の、質問を受けて調べた結果、大爆笑した個所について。
いちおう、次巻以降のネタバレを含むので、おイヤな方はここでさようなら。
9/1 わかりにくいとのご指摘をうけ、後半大幅修正。
ハヤカワ版:P184参照のこと。

原文:
Eine Frau!
Zweifellos war es eine Frau, eine sehr schöne und junge Frau in einem weißen, fast durchsichtigen Gewande, das bis zum Boden reichte. Durch den Stoff hindurch schimmerte ihre Haut bronzefarben, und Hotrenor glaubte sogar feine Spiel ihrer Muskeln erkennen zu können, so deutlich war jetzt das Bild.

試訳:
女性だ!
まごうかたなく女性だ、それも非常に美しく若い。白く、ほとんど透明な服を着ており、裾は地面まで届く。素材を通して、彼女の肌がブロンズ色にきらめいた。筋肉の微細な動きまで見てとれそうだ、とホトレノル=タアクは思った。それほど今回の映像は鮮明だった。

女性だ! すけすけだ! ぴっちぴちやでぇ! ホトレノルさんあんたも好きねえ(笑)
……げふんげふんw おおよそ、そんな描写なわけだ。
ダールトン先生、異星人であるホトレノル=タアクの視点で語るにあたり、「テラナーじゃないけど美醜はわかる」とか、いろいろ手をまわしている。むろん、ラール人もヒューマノイドだから、そんなに造形が変わるわけではないのだけれど、あえてわざわざここまで露骨な描写をしてくれているわけである。だから、ホトレノルさん、ちょっと変態さんぽいくらいに、連呼しているのだった。

さて、ここでお手元のハヤカワ版P184を開いていただきたい。
「女性だ!
まちがいなくテラナーの女だった。」と、訳してある。
しかし、原文を見れば、ドイツ語を知らなくともわかる。「テラナーの女」なんてどこにも書いていない。そもそも、書くはずがないのだ。
そりゃそうだ。だって、この女の人、テラナーじゃないのだもの。
ヴィング人女性デメテルさんの、本邦初公開シーン……なんだけど。
訳者さんがよけいな単語がつけくわえたおかげで、なんの伏線にもならないのであった。

そもそも、「訳者さんは、nicht(英語でいう not ……「でない」)をうっかり翻訳し忘れたんではないかな? “まちがいなくテラナーの女ではなかった”なら話が通じるんだけど」という質問をうけて、原書をひもといてみたのだった。
しかして、その真相は……そんな単純なうっかりじゃなかった。
事態は、あまりに予測の斜め上すぎる方向へ進んでいたのであった。

いくらダールトン御大だからといって、日に焼けた美少女のグラビアシーンを、意味もなく挿入しているわけじゃないのだ。
ここでブロンズの肌の女性、すなわち異星人がテラの遠い過去にいたと語る。そうして、この異星人女性が、すぐ次の巻で登場する……そういう流れなのである。
しかも、この「時の氷風」後半でも、「難破した異星人」「デメテル! デメテル! と連呼する現住種族」とか、いくらでも「テラナーの女」を否定する要因は存在するのだ。

よもやこの段階で、「デメテルがライレの〈目〉探索のためアルグストゲルマート銀河から派遣されてきたヴィング人女性である」ことが、翻訳チーム内で情報として周知徹底されていないとは、言わないよねえ。
訳者さんも、チェックした編集さんも、少しは連想……というか、日本語の読解力を働かせてちょうだいな。

アームストロング船長、死去

ニール・オールデン・アームストロング (Neil Alden Armstrong)
1930.08.05 – 2012.08.25

すでに各種メディアで報じられているが、人類初の月面着陸に成功した宇宙船アポロ11号で船長を務め、はじめて月面を踏んだ際の「1人の人間にとっては小さな1歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」という言葉で有名なニール・アームストロング氏が、心臓のバイパス手術後の合併症のため亡くなった。享年82歳。

月着陸という偉業が成されたとき、わたしはまだ物心つく前なので、リアルタイムで見ていたという記憶はない。それでも、人類が宇宙へ乗り出していく道のりで氏の果たした役割の大きさを思うと、謹んでご冥福を祈りたい。

遺族のコメントがまた、ふるっている。

「ニールへの敬意を示すには何をしたらよいかとお尋ねの方々に、ごく簡単なお願いがあります。彼のおこなった奉仕、業績、そして謙虚さに敬意を払ってください。それから、次の晴れた夜に外を歩いていて、月があなたに微笑んでいるのを見たなら、ニール・アームストロングのことを想ってください。そして彼にウインクを」
NASA, FAMILY STATEMENT REGARDING THE DEATH OF NEIL ARMSTRONG

ウインクの練習、しなくっちゃ。

■Wikipedia(日本語版):ニール・アームストロング

ザモラ1000話記念コン in ヴェツラー

オンライン情報誌 Zauberspiegel によると、Bastei社のダークファンタジー・ヘフト『ザモラ教授』が9月25日刊行分で1000話を迎えるのを記念して、9月29日、ヴェツラー幻想文学図書館を会場としたコンヴェンションが開催されるとのこと。

『超常現象探究者 ザモラ教授(Professor Zamorra – Der Meister des Übersinnlichen)』は、1974年6月にスタートしたBastei社のヘフトシリーズ(隔週刊)。原案は、やはり同社から刊行中のホラー・シリーズ『ゴーストハンター ジョン・シンクレア』の作家ジェイソン・ダーク。

共同ペンネーム、ロベルト・ラモントの名前で複数の作家が執筆する一話完結シリーズは、111話『彼岸から呼ぶ声』から加入したヴェルナー・クルト・ギーザによって、ホラー、ファンタジー、SFの要素が混在する世界観をもったストーリーへと収斂され、好評を博した。200話から600話の大半をひとりで書きあげたギーザだが、他プロジェクトへの参加や、主に健康上の理由から、後に作家チーム制へと回帰。現在では、クリスティアン・モンティロンやアキム・メーナートらローダン関係者も含む、多数の作家が参加している。

2008年にそのギーザが亡くなり、後継者と目されたフォルカー・クレーマーも昨年9月に死去。ストーリー的には、地獄の消滅に伴い崩れた善悪のバランスを補うように地球上(および宇宙の各地)に次々と新たな〈悪のホットスポット〉が出現。霧につつまれ音信のとだえたロンドン、魔の跳梁するニューヨーク、ザモラたちの本拠地モンタギュー城さえも無事ではなかった。その背後に、地獄残党の領袖アスモディスが集める〈ルシファーの涙〉の存在があることを突き止めたザモラたちだったが……と、めっさ盛り上がっているところである。ここで迎える1000話は、シリーズの今後を占う試金石ともいえるだろう。期待したいところだ。

で、それを記念したコンヴェンション(やっと話が戻ったw)だが、

 日 時: 2012年9月29日 10時-17時
 会 場: ヴェツラー幻想文学図書館
 入場料: 10ユーロ

内容の方は――詳しくは Zauberspiegel をご覧頂くとして(下記リンク参照)、会場となる幻想図書館への1000話謹呈式みたいなものを除けば、要するに、「お宝映像を見ながらシリーズの過去に思いを馳せつつ一杯やろうゼ」みたいな?(笑)

アキム・メーナートは「ザモラと私 あるいは いかにして私は教授を愛するようになったか」というお題で講演……というか、舞台裏の話など一席ぶつようである。これは、ちょっと聞いてみたいような……。とはいえ、わたしゃヒアリングなんてさっぱりなんだけどorz

ヴェツラーは、ドイツ中西部、ヘッセン州の歴史のある都市で、神聖ローマ帝国の時代には自由帝国都市として栄えたという。カメラで有名なライカ社発祥の地でもあるそうな。
また、会場となる幻想図書館は、1987年から蒐集をはじめた20万冊を超える蔵書(SF、ファンタジー、ホラー、ファンタスチカ、メルヘン、神話伝説、冒険小説、etc.)を誇り、各種シンポジウムやセミナー会場としても利用される研究施設でもある、という。

このあいだの、ラスヴィッツ賞を獲得したモンマースのヴィラ・ファンタスティカといい、ドイツ人ってこういうのに実に熱心だ。わが国だと、人が対象のような気がする。東山魁夷記念館とか手塚治虫記念館とか……そのあたりも国民性の差であろうか。
#わたしが知らんだけとゆー気も、多分にするけれどw

■Bastei社公式サイト:Proffesor Zamorra
■Zauberspiegel:Zamorra-Con am 29. September in Wetzlar (リンク切れ)
■幻想文学図書館公式サイト:Phantastische Bibliothek Wetzlar

バジスバジス亀の子バジス (3)

というわけで、亀の子バジス最終回は、《ソル》に次いでシリーズで最も長期にわたりメインをはった巨艦《バジス》の形についてである。
なお、試訳では、ルナ緊急オペレーションのリーダーを英語読みに直してある。同姓のSF作家の邦訳が、このあいだ当のハヤカワ文庫から出ているのだが(笑)
閑話休題。

バジスのカタチ

先日、コミケ会場でrlmdi.のブースを訪れた、あるファンの方が、「《バジス》の形がわからないんですが……」とおっしゃっていたそうな。それは、そうだろう。そもそも前回の質問の発端が、《バジス》の描写は原文じゃどうなってる? という点から遡ってのものだったのだ。本来形状を知っている古株のファンが首をひねる表現で、はじめて《バジス》に接する読者が思い描けるわけはないのである。

ハヤカワ版 (p166-168)
 パーツ群は同一平面上に集まりだし、やがて直径十キロメートルを上まわる円盤を形成。さらに数分すると、円の外周部に赤道環のような構造物が見えるようになる。
「なんという怪物!」と、ルナ緊急オペレーションのリーダーがあきれて、「人に聞かれたら、これをどう描写すればいいんだ?」
「わたしなら、カメに似ているというな。それも、救命浮き輪にはまりこんで、うごけなくなった」と、ハミラーはからかうようにいった。「甲羅のうしろがドーム状に、高くつきだしているな。極端なカーブを描く構造物ではないが。からだが浮き輪にはまってしまい、おびえたカメが、だれかに助けられるのを待っている感じか……とにかく、捕まったカメのイメージは、これにぴったりだ」
 レドフェーンはすっかり興奮し、ひとさし指をつきだして、
「だが、あれはなんだ?」と、どなる。「あいつはカメとは似ても似つかないぞ!」
 テラ評議員は友がさししめす方向に目を向けた。月面ボートはハミラーが“救命浮き輪”と呼んだ赤道環をぬけ、なにかの構造物を回避したところだ。
「危険はなさそうに見えるな」と、応じる。「どういうものか、調べてみよう!」
     
 レス・レドフェーンとペイン・ハミラーは、不吉な前兆に満ちた三五八六年一月二十二日の午前十時半から十二時までのあいだ、ネーサンがバジスと名づけた構造物を、至近距離から観察しつづけた。
 月面ボートはゆっくりとバジスの周囲を飛び、やがてその全容が明らかになってくる。
 深さの違うふたつの皿状構造が、バジスの中核を形成していた。皿は一方が深く、一方がたいらで、縁が重なりあっている。この“縁”の部分を、切断面が半円形の赤道環がとりまいているのである。皿は直径が九キロメートル、赤道環は太さが千五百メートルで、全体の直径はあわせて十二キロメートルに達した。
 べつの構造物がふたつ、ちょうど皿状構造物を両端からはさむかたちで、向かいあっている。一方は赤道環から数キロメートルつきだしており、皿との接合部は断面が平行六辺形になっていた。六辺形は先端にいくほどひろがっていき、真横から見ると開いた漏斗、あるいは台形に見える。
 その反対側、バジスの前縁と思われる部分の構造物は、円錐状の基部で接続された、たいらなプラットフォームだった。赤道環の湾曲部から、ほぼ一キロメートル伸び、赤道環と同様の孤を描いている。
 ボートはつづいて、ハミラーがとりあえず“上面”と名づけた、湾曲した皿の表面にそって飛んだ。表面には、円形のプラットフォームが五つあり、この円内には湾曲がなに。プラットフォームはさいころの五の目状に配置されており、中央のひとつは直径が三千メートル、あとの四つは千二百メートルほど。
「こいつが着陸プラットフォームじゃなかったら」と、ハミラーはいった。「学位を返上するぞ!」
 さらに上面の構造物をいくつか見たあと、こんどは“下側”にもぐりこむ。こちら側では、長く伸びるチューブ状の湾曲を見つけた。長さは十キロメートル、チューブの高さは八百メートルに達するが、用途はまるでわからない。

原文:
  Die Masse der Teile formte sich zu einem flachen Gebilde, dessen Durchmesser mehr als zehn Kilometer betrug. Es war kreisförmig, und wenige Minuten später ließ sich erkennen, daß sich entlang der Kreisperipherie eine Art Wulst bildete.
  “Mein Gott, was für ein Mostrum?” stöhnte Redfern. “Wie würdest du das beschreiben, wenn dich einer danach fragte?”
  “Ich würde sagen, es gliche einer Schildröte, die in einem Rettungsring steckengeblieben ist”, antwortete Hamiller belustigt. “Hochgewölbter Rückenschild, nicht ganz so stark gewölbter Bauchschild. Das verängstigte Tier hat natürlich den Kopf eingezogen. Dann kam jemand und hat den Rettungsring darüber gestülpt. Er paßt genau. Die Schildkröte ist darin gefangen.”
  Voller Aufregung stach Resu Redfern mit dem Zeigefinger durch die Luft.
  “Aber dahinten!” rief er. “Da ist etwas, das mit deiner Schildkröte nicht so ganz zusammenpaßt!”
  Hamiller blickte in die Richtung, in die Redfern zeigte. Auf der dem Boot abgewandten Seite des Gebildes entstand etwas, das den Ringwulst, den Hamiller als Rettungsring bezeichnet hatte, durchbrach und überragte.
  “Die Sache scheint ungefährlich genug”, sagte er zu seinem Freund. “Laß und nachsehen, was es ist.”
     
  Zwischen 10:30 und 12:00 an diesem schicksalsträchtigen 22. Januar 3586 wurden Resu Redfern und Payne Hamiller die ersten, die das Gebilde, das NATHAN die BASIS nannte, aus nächster Nähe zu sehen bekamen.
  Als das kastenförmige Boot die BASIS langsam umrundete, wurde folgendes offenbar:
  Das Kernstück der mächtigen Konstruktion bildeten zwei metallene Schalen unterschiedlicher Wölbung, die wie zwei Teller – der eine tief, der andere flach – mit den Rändern aufeinandergesetzt worden waren. Um den Rand dieses Gebildes zog sich ein Wulst von kreisförmigem Querschnitt. Die Schalen hatten bereits einen Durchmesser von neun Kilometern. Der Wulst, dessen Durchmesser fünfzehnhundert Meter betrug, fügte weitere drei Kilometer hinzu, so daß die Gesamtkonstruktion einen Durchmesser von zwölf Kilometern besaß.
  An zwei Stellen, die einander gegenüberlagen, war die Symmetrie des Gebildes unterbrochen. An einer Stelle ließ der Wulst eine mehrere Kilometer breite Lücke für einen Einsatz, der zunächst die Form eines Quaders hatte, sich nach außen hin jedoch in einen riesigen Trichter verwandelte, der weit über die Rundung des Gebildes hinausstach.
  Auf der gegenüberliegenden Seite ragte eine Art Schürze aus der BASIS hervor. Sie bildete eine ebene Plattform von konischer Natur. Ihr vorderer Rand, der rund einen Kilometer jenseits der Rundung des Ringwulstes lag, war wie ein Kreisbogen gekrümmt.
  Sie flogen über die steiler gewölbte Mittelfläche, die Hamiller willkürlich als “oben” bezeichnete, und stellten fest, daß es in der Schale insgesamt fünf kreisförmige Plattformen gab, die aus der Wölbung ausgespart waren. Die großte lag genau in der Mitte des Gebildes und hatte einen Durchmesser von drei Kilometern. Die andern vier waren näher dem Rand hin symmetrisch angeordnet und hatten jede einen Durchmesser von zwölfhundert Metern.
  “Wenn das keine Landeplattformen sind”, sagte Hamiller, “dann gebe ich meinen Diplom zurück!”
  Das Boot kreiste mehrmals um die riesige Konstruktion. Auf der “Unterseite” entdeckten die Männer zwei langgezogene, röhrenförmige Ausbuchtungen, von denen jede eine Länge von zehn Kilometern besaß. Die Höhe der Röhren betrugn achthundert Meter. Ihr Funktion war nicht ohne weiteres ersichtlich.

試訳:
 パーツ群は直径十キロ以上ある平たい構造体を形成。円盤状で、数分足らずのうちに、外周部に沿った環状構造も確認された。
「神よ、なんたる怪物だ!」レッドファーンがうめくように、「だれかに質問されたら、あんた、なんて描写する?」
「そうだな、さしずめ、救命浮き輪にはまり込んだ亀、かな」と、ハミラーがおもしろそうに応じた。「高く突き出した甲羅、あまり湾曲していない腹部。おびえた亀は、むろん頭はひっこめているな。そこへ通りかかった誰かが、救命浮き輪を上からかぶせた。サイズはぴったり。あわれ亀は身動きもならず、というわけさ」
 すっかり興奮したレス・レッドファーンは、人差し指でびしりと指し示して、
「じゃあ、後ろのあれは! 亀にはそぐわない代物があるぞ!」
 ハミラーはレッドファーンの指した方向に目をむけた。物体の、ボートから見て反対側に、ハミラーが救命浮き輪と呼んだリング構造をさえぎるように突き出す何かが形成されつつあった。
「たいした危険はなさそうだ」と、友人にむかって、「見てみようじゃないか、あれが何なのか!」
     
 運命をはらんだ三五八六年一月二十二日の十時半から十二時にかけて、レス・レッドファーンとペイン・ハミラーは、ネーサンが《バジス》と呼んだ物体を至近距離から見た最初の人間となった。
 箱状ボートでゆっくりと《バジス》を周回した結果、次のようなことが判明した。
 強大な構造体の中核は、湾曲度の異なる二枚の合金殻。向かい合わせに縁をくっつけた二枚の“皿”――深皿と平皿――のようだ。合わせ目に沿って、断面が円形のチューブが構造体をとり巻いている。合金殻だけですでに直径九キロメートル。そこへ千五百メートル径チューブによって三キロが加算され、全構造体の直径は十二キロに達する。
 物体のシンメトリーは、互いに向かい合う二ヵ所で断ち切られていた。一方では、チューブの数キロにわたる間隙に、外部へと漏斗状に広がる方錐台がはめこまれ、物体外周から大幅にはみ出していた。
 反対側では、一種のエプロンが突き出していた。コーン状の平たいプラットフォームで、先端は環状チューブの外周からさらに一キロ、アーチを描いて突出している。
 ハミラーが便宜上“上”とした、大きく湾曲した円盤部付近を飛ぶと、外殻には五つの円形プラットフォームが確認された。むろんそこは湾曲していない。最大のものは中央にあり、直径三キロ。あとの四つは外周近くに均等の間隔をおいて設置され、直径はどれも千二百メートルであった。
「あれが着陸プラットフォームでなかったら、学位を返上するぞ!」と、ハミラー。
 ボートは巨大構造体を幾度も周回した。“下”側では、二本の細長い管状隆起を発見した。どちらも長さは十キロメートル。高さは八百メートルに達するが、それだけではどんな用途を果たすかはわからない。

……。
ここで、図面をご覧いただこうか。1100話『フロストルービン』付録の《バジス》断面図解ポスターである:

BASIS (Poster)

収録サイトはMateriequelle ……rlmdi.では通称「ぶっせん」。
デザイナーは、オリヴァー・スコール。後にアメリカ版『ゴジラ』や『インディペンデンス・デイ』のプロダクション・デザインを手がけた人物である。一応、これがオフィシャルな《バジス》のカタチだと思ってほしい。

以下、順を追ってハヤカワ版のおかしなところを見てみよう。
「同一平面上に集まりだし」は、明らかに蛇足。推進部ブロックとか、想像以上にでかいぞ。
Ringwulst……「環状隆起」を「赤道環」としたのは、松谷先生の名訳だと思うが、あくまで球形船の話であって、ディスク型艦艇で赤道環はどうよ?――と書こうとしたら、ブルー族の円盤船にも Ringwulst があるそうな。うーん。

「甲羅のうしろ」と訳すと、なんだか甲羅の高さが前と後ろで異なる、非対称なものを連想してしまう。ハヤカワ版だと、「背中の甲羅」と「腹部の甲羅」を区別していないから、そんなおかしなことになってしまう。これについては、後半でも「深さのちがう平皿」と、大事なことだから2回言っているのに。

「ぴったり」なのは、男性代名詞 er で、これは「救命浮き輪」der Rettungsring をあらわしている。イメージなんて、どこにも書いていない。文章の前後まで操作して、理解力の及ばなかったことをごまかしているようにしか見えない。首と手足をひっこめたところに、サイズが丁度の浮き輪をはめられて、亀は捕らわれ(=gefangen)て身動きとれない状態なのだ。助けてほしいかもしれないが、そんなことは、形の描写には含まれていない。

「月面ボートは(中略)なにかの構造物を回避したところだ。」は……正直、ひどい。ハミラーが何を見たのか、訳せていない。ちょっとカンマで文章が区切られていると、すぐ主語も目的語も見失ってしまうのは『バルディオク』の時と同様だ。
「物体の月面ボートから見て反対側で、何かが生じている。その何かは、環状構造(ハミラーの曰く救命浮き輪)を突き抜け、突出している。」
ボートは、あくまで位置関係を示すものであって、何も能動的動きはしていない。ここでハミラーとレッドファーンは、円盤構造体から大きく張り出した後部駆動ブロックの生成を目撃したのである。

リングの断面は「円形」kreisförmig と書かれている。これを「断面は半円形」と訳したのは、「赤道環」と球形艦と同じ訳語にした弊害としか考えられない。後述するが、訳者さん、いちおう資料(イラスト)にはあたっているようだが、この断面図解を見ていなかったようだ。これさえ見ていれば、格納庫リングの断面が円形なのは一目瞭然なのだが。
少し計算すればわかるが、1500メートル径チューブのリングが、艦本体と接する側のない断面半円形なら、全体の直径は1.5キロしか増えないはずである。半円の隆起が上向いてたりしたら、ものすごいカタチだよ?

さて、続いては、問題の「六辺体」である。原語は、ない。日本語としても、はじめて目にした。
実はジョニー・ブルックによる《バジス》のイラストには、何種類かのバージョン(笑)があって、艦首操船ブロックが球形船になっていたりするものまで存在する。
後部駆動ブロックも、上記図面のように方形から裾が広がっているもの、方形に、円形漏斗が付属したもの、(今回、実例をまだみつけられなかったが)方形ではなくスカート断面が六角形のもの、などがある。訳者さん、どこかでこの最後のパターンを目にしたことがあったのだろう。

にしても、「六辺体」はなかろう。六角錐、くらいがせいぜいではないか。そもそも、該当する位置にある原語が Quader 「直方体」なのだ。他の資料を探してみるくらいのことが、どうしてできなかったのだろう。

……あとは、まあ、大同小異である。
おおよそこれで、後々長くローダンの旗艦となる《バジス》の形状はご理解いただけたのではなかろうか。……だといいなあ(笑)

「SFはやっぱり絵だねえ」とは、わたしの敬愛する野田大元帥の弁だ。最近だと、「ラノベは絵ありき」と混同されてしまいそうだが(をひ)、古今SF関係者は、その空想世界をもっともらしく「絵」にすることに腐心してきた。
ローダン・シリーズの場合は、4話に1回掲載される「断面図解」がその典型だろう。様々な種族の宇宙船や技術が、数百葉の図面となってシリーズを陰から支えている。
訳者さんたちも、たまにはそんなものに触れてみるのも、理解度を深める意味で必要なんじゃないだろうか。

いや、まあ、中には「ありえねえだろ!」とツッコミ入れたいようなものも、ないとは言わないけどね?(笑)

■Perrypedia:Die BASIS
■Perrypedia:Risszeichnungen der Perry Rhodan-Heftserie

バジスバジス亀の子バジス (2)

前回から、だいぶ間が空いてしまった。
正直、内容確認・精査のためにページをめくるたびに誤訳の山で遭難するのに心身の危険を感じたのもある。よくもまあ「マールは大好物」とか書けるものだと思うわ。いやマジで。

謎の「宇宙船一万隻」

該当箇所は、基本はこのあたり:

ハヤカワ版(p140/141)
「あの物体の質量をご存じですか?」とハミラーがたずねた。
「巨大だとしかわからない。三十秒前に報告がとどいたばかりだ」とティフラーは、「だが、計画の全容がわかりそうだな!」
「一ギガトンあります!」
 首席テラナーは息をのみ、とっさには答えられない。
「ギガトンというと……十億トンか!」
 ハミラーがうなずく。
 ティフラーはすばやく暗算した。つまり、あの物体の総重量は、宇宙船一万隻にひとしいということだ。それが意味するところは……ハミラーがいった数字は、たんに外被と構造材の質量だけで、機械装置や燃料はいっさいふくんでいない。最新型高性能船のイオン化・凝集された燃料を搭載すると、質量はその数倍になるだろう。
 空虚質量で一ギガトンとは……!
 二千五百メートル級の中規模艦隊に匹敵するではないか!

で、この文章(実際に質問をうけた時点では「一ギガトンあります!」から)に関する質問は、
 A) 「空虚質量」って、空(カラ)重量じゃないの?
 B) 「宇宙船一万隻」って、原文なに?
問Aについては、ほどなく解決した。原語が Leermasse なので、そもそも誤訳ではない。とゆーか、ちょっと好奇心でネットにあたってみたら、ミリタリー系は空重量、航空機系は空虚重量、自動車業界が乾燥重量で、宇宙飛行関連が空虚質量だった。無重力だからね(笑)

ただ、これはもう完全に趣味の領分ではあるのだが、正しければいいのか、とゆー考え方もある。似たような例に、「空虚空間」Leerraum や「ハイパー空間」Hyperraum が挙げられる。「虚空」や「超空間」では何故いけないのか。いまのマニュアルだと、『超空間からの殺人鬼』も『虚空のルクシード』も存在しえないのだ。閑話休題。

問題は、問Bである。

原文:
  “Wissen Sie, was für eine Masse das Zeug hat?” fragte er.
  “Ich habe die feste Absicht, es in etwa dreißig Sekunden zu wissen”, antwortete Julian Tifflor. “Dann nämlich, wenn Sie die Katze aus dem Sack lassen!”
  “Rund eine Gigatonne!”
  Die Zahl verschlug selbst dem wortgewandten Ersten Terraner für einen Augenblick den Atem.
  “Eine Gigatonne!” brachte er schließlich hervor. “Eine Millarde Tonnen!”
  Hamiller nickte.
  In Tifflors Verstand tanzten Dutzende von Ziffern einen verwirrenden Reigen. Er ging von der Annahme aus, daß aus den mehr als einhunderttausend Einzelteilen einst eine Art Raumfahrzeug entstehen würde. Das bedeutete: Die Einzelteile stellen lediglich die Außenhülle und einen Teil der stützenden Struktur dar. Die Masse, die Hamiller ihm genannt hatte, enthielt keinerlei Beitrag von Einrichtung und vor allen Dingen nicht von Treibstoff, der bei modernen Hochleistungsschiffen, da er in ionisierter, dicht gepackter Form transportiert wurde, ein Vielfaches der Leermasse des Fahrzeugs ausmachte.
  Eine Gigatonne nackte Leermasse!
  Das entsprach einer mittleren Flotte von Giganten der 2500-Meter-Klasse!

試訳:
「あれがどれだけの質量かご存じですか?」
「三十秒後なら知っていること間違いなしだな」と、ティフラー。「きみが秘密を開陳してくれればの話だが!」
「およそ一ギガトンです!」
 この数字には、さしも能弁な第一テラナーも瞬時ことばを失った。
「一ギガトン!」と、ようやく口にする。「十億トンだな!」
 ハミラーがうなずいた。
 ティフラーの脳裏で、一ダースもの数字が乱舞する。まず、十万を超えるパーツ群が、やがて一隻の宇宙船を構成するという前提に立ってみよう。すると、パーツ群は外殻と支持材の一部でしかない。ハミラーが告げた質量には、艤装や、なにより燃料が含まれていない。近代的高性能艦艇では、燃料はイオン化され、高密度に凝縮された形態で搭載されるため、艦それ自体の空虚質量の何倍にもなるはずである。
 空虚質量だけで一ギガトン!
 二千五百メートル級巨船の中規模艦隊に匹敵するではないか!

……。
相変わらず、自分の思い込みで決めた訳語にひっぱられて文章ができあがっている感がある。
この段落を通して、ティフラーは頭の中でちょっとしたパニックを起こしながら、それでも真面目な優等生ぶりを発揮して、がんばって考えるのである。
 1ギガトンだしー
 えーと、前提がアレだしー
 あーなるしー
 こーなるしー
 ……え、1ギガトンっ?
と、最後に「えっ」と口をあんぐり開けて、「ウルトラ戦艦中規模艦隊分じゃないの!」なる結論にいたる。そうした思考のプロセスを順に描写しているのだ。

ハヤカワ版だと、暗算はじめた直後に、計算結果が出たみたいな文章になっている。どうしてこうなったかというと……
単語を読みちがえているのである。Einzelteile(他のページでは「パーツ」と訳してる)が、なんでかしらんけど「宇宙船」になってしまっている(しかも、数字の桁が減っている)。

パーツ10万個 ≠ 宇宙船1万隻

「宇宙船一万隻」……って、どこからきたんだろ? Einzelteile (個々のパーツ【複数形】) を Flottille (小艦隊) と読み違えた? いや、Einheiten(艦艇群)と勘違いしたのか?
そして「宇宙船何隻分」と誤解した時点で、「十万隻じゃ多すぎるし、一万隻にしとこうか」と勝手にいじってしまったのだろうか。「あとがきにかえて」でも、“ありそうな数字”に調整すべきとかのたまってるし。

原文を見てもらえばわかるとおり、ここでは 100000 とか 10000 と書いているのではない。
hunderttausend(十万)と書いてあるのだ。
zehntausend(一万)とは書いていないのだ。
どうして原文の間違いと決めつけて訂正してしまうのだろう。まず自分が単位を間違っていないか確認しようよ? 辞書をもう1回引くだけで済む話だと思うのだが。

で、これまた「あとがきにかえて」で、いろいろと「推測」しているが、例えばPerrypediaには、

ウルトラ戦艦の質量:およそ600メガトン

という記載が、ちゃんとあったりする。約6億トンである。

空虚質量+燃料その他で数倍になるそうだが、この項目が艤装前・済どちらかは明記されていない。折衷案として、単純に半分として3億トン。これで計算すると、総量1ギガトンだと、ウルトラ戦艦3~4隻、という数字が算出される。
個人的には、十万隻単位の艦船が繰り出されるローダン世界で、3~4隻が「中規模」か否か、判断に苦しむところだと思う。しかし、それを決めるのは、わたしでもないし、訳者でもあるまい。

また、これはもう余談に類するが、同じくPerrypediaに、

改装後の《ソル》の総体積は176億立方メートル、質量は36億7000万トンとなる。

出典:2400話

という解説がある。

たしかに上記は中央船体が全長3000メートルに延長された2000話の頃の数字だし、バルディオク・サイクル時代とは素材が異なる(インコニットからカーライトになっている)。だが、「目安」にするならこういう「ローダン宇宙にある数字」に頼るべきではないか。探せば、作家チーム(主にマールやシェール)の考えたデータが、実はいくらでもあるのだ。

Perrypediaはあくまでもドイツのファンダムが主催する企画で、二次資料だからあてにならない、とゆー立場をとるのなら、まあそれはそれでいい。だが、だったら自分の常識(巻末で述べている数字は、結局どれも訳者個人の常識であるし、「現実の地球上にある数字」に基づいている)を立脚点にするなんて手抜きなコトをしちゃ、まずかろう。
とゆーか、重量を問題視するなら、同時にもう片方の、意味不明なうえに訂正を入れた数字「一万隻」の説明も、きっちりしてもらいたいものである。

あと、トランスフォーム砲でギガトン爆弾をバンバン撃ちまくる戦闘の指揮をとった経験もあるティフラーが、ギガトンという単位に目を丸くするのが、個人的にはむしろ驚きである……と言ったら、マガンに「ダイナマイトも原爆も太陽も、適当な距離をおいて見たら、どれも爆発してる火の玉にしか見えないんじゃない?」と反論された。
そうか、【TNT火薬1000】ギガトン【相当】爆弾だから、これまた脳内数字だけってことか……。実物(パーツ群)が目の前にあるのとでは、感ずるところは違うのかもしれないやねえ。

あと、熟語 die Katze aus dem Sack lassen 「猫を袋から出す(秘密を明かす)」の意図するところくらいはちゃんと理解してほしい。計画の全容は、いまだネーサンのメモリのうちである。「あれの質量、知ってる?」のクイズの答えでしかないのだ。
閑話休題。

ハヤカワ版P130でも「大型艦船百隻ぶんと同等の規模」と推測された《バジス》の質量が、どうして「宇宙船一万隻」になってしまったのか。意地悪いかもしれないが、もう少し調べてみた。
1章~3章あたりを探してみたが、Metalteile とか、そのもの Teile とかはあるのだが、Einzelteile は3個所しか見つけられなかった。しかも内1つは訳していないので参考にならない。
とはいえ、「パーツごと」「“パーツ”の群れ」という訳が確認された。

以下に、前者を抜粋する:

ハヤカワ版(p143-145)
「礼をいうのはこちらだ。それで、“外”がどうなっているか、知っているか?」
 首席テラナーはそういいながら、制御コンソールのスイッチ類を操作した。次の瞬間、室内が暗くなり、壁一面にルナ表面がうつしだされる。正確には、その上空……星々をちりばめた宇宙空間が。やがて、その一画を移動していく、怪物じみた巨大な堆積物に焦点があった。
 ケルシュル・ヴァンネはしばらくそれを見つめたあと、
パーツごとに浮遊する物体……あれがネーサンのいう“バジス”でしょう。ただし、まだ完成していないのは明らかです。さらに追加のパーツが必要で……たとえば、上部構造があれば、もっと完全なものになるはず……それをどう呼ぶかは、おまかせしますが」
 ティフラーは立ちあがって、数歩行ったりきたりしたあと、ヴァンネを見てほほえみ、
「わたしの疑問を、すべて一瞬で解消してくれたな」と、いった。「そのとおりだ。まちがいない。で、ネーサンは“バジス”でなにを意図していると思う?」
「ただの予想ですが」と、コンセプト。
「きみはラヴァラルから、人類への任務を持ち帰った。“それ”は大規模遠征部隊の派遣をもとめたわけだ……“パン=タウ=ラ”という名の、謎に満ちたなにかを発見するために。だが、わたしはそれを拒否した……現時点では、人類にそのような遠征部隊を組織する余力がないから」
 振りかえって、巨大スクリーンを見上げ、
「思うに……あれはその決定に対する反応ではないか」と、いった。「いずれにしても、なにが欠けているのか、興味があるな!」

原文:
  “Dafür danke ich Ihnen”, erwiderte Julian Tifflor. “Und jetzt zu der Frage, die Sie eigentlich erwartet hatten: Wofür halten Sie das dort draußen?”
  Er betätigte einen Schalter an der Kontrollkonsole seines Arbeitstischs. Im selben Augenblick wurde der Raum dunkel, und an der Wand erschien ein Ausschnitt der Mondoberfläche mit viel sternenbesätem Weltraum darüber und der monstrosen Ansammlung von Einzelteilen genau im Fokus der Aufnahmegeräte.
  Kershyll Vanne sah das Bild eine Zeitlang an. Dann sagte er:
  “Das Ding, das in Einzelteilen dort schwebt, nennt sich nach NATHANS eigenen Worten die BASIS. Eine BASIS an sich ist unfertig. Sie braucht etwas: einen Überbau, eine Vervollständigung – nennen Sie es, wie Sie wollen.”
  Julian Tifflor ging ein paar Schritte, kehrte um und kam wieder zurück. Als er Kershyll Vanne anblickte, lächelte er.
  “Sie sind meiner Frage geschickt ausgewichen”, sagte er. “Sind Sie sicher, daß Sie keine Ahnung haben, was NATHAN mit der BASIS bezweckt?”
  “Eine Ahnung habe ich schon”, antwortete Kershyll Vanne.
  “Ich auch”, erklärte Julian Tifflor. “Sie kamen von Lavallal mit einem Auftrag für die Menchheit zurück. ES wollte uns auf eine großangelegte Expedition schicken. Wir sollten ein geheimnisvolles Etwas suchen, das sich PAN-THAU-RA nennt. Ich antwortete ihnen, daß die Menschheit im Augenblick weder die Mittel noch das Interesse habe, eine solche Expedition in die Wege zu leiten.”
  Er wandte sich um und wies auf das großflächige Bild.
  “Die Sache mit den Mitteln hat sich anscheinend soeben erledigt”, schloß er. “Was uns jetzt noch fehlt ist das Interesse!”

試訳:
「感謝する。さて、それでは先刻きみも予期していた質問といこう。外にあるあれは、いったい何だと思う?」
 ティフラーが執務卓備えつけの制御コンソールのスイッチを押した。同時に部屋が暗くなり、月面の一角が壁に映し出された。上空は満天の星におおわれている。カメラの焦点がぴたりと合わされたのは、パーツ群の怪物的な堆積である。
 ケルシュル・ヴァンネは、しばしその映像をみつめてから、
パーツ群の形で浮遊するあれこそ、ネーサンのいう“バジス”でしょう。バジスそれ自体は未完成。まだ何かを必要としています。上部構造なり、パーフェクションなり……お好きなように呼んでください」
 ジュリアン・ティフラーは数歩行きつ戻りつし、ヴァンネに向かいあうとほほえんだ。
「うまく質問をそらしたな。ほんとうになんの考えもないのか? ネーサンが“バジス”で何を意図しているのか」
「予感ならば、ひとつ」ケルシュル・ヴァンネがこたえる。
「わたしもさ」と、ジュリアン・ティフラー。「きみはラヴァラルから人類への使命をもちかえった。〈それ〉が、われわれに大規模遠征隊を派遣させたいという。パン=タウ=ラという名の、謎めいた何かをみつけだせと。だが、わたしは、人類には現状そんな遠征隊を送り出す手段も興味もない、と回答した」
 ふりむいて、壁の大画面を指し示すと、
「手段の問題は、どうやら解決したようだ」と、結んだ。「あと足りないのは、興味だけだ!」

……。
そして興味(関心)は、クレタ島方面からデメテルさんの格好でやってくるわけだが。
ああ、いや、Einzelteile の話だった(笑) ここではちゃんと訳しているので、意味がわからなかったわけではないらしい。じゃあ、訳語も数字も原文と異なっている「宇宙船一万隻」は、いったいどこから侵蝕してきたのだろうか。

いや、時々心配になるのだ。わかった部分だけで日本語にしてるんじゃなかろうかと。上記の抜粋が必要箇所に比してやたらと長いのは、ティフとヴァンネの会話が、今回あっちでもこっちでも遭遇した、原文無視の誤訳のいい例だからでもある。
こういう「仕事」を見るにつけ、P296で訳者さんの主張している、

“ありそうな数字”に調整すべきだと思っている。

には、(うちの掲示板でのレスとは違う表現になるが)わたしは賛成できない。そもそも“ありそう”という判断を下す前の段階で、単位や、桁や、前提条件や、話の展開が信用できないからだ。ストーリーや前提を無視して、単位や桁を間違っている人に、これは少なすぎる、これはおかしいといじり回されたら作者は涙目である。

……どんどんgdgdになってきた。
ここは無理くり切り上げて、第3回「バジスのカタチ」につづくとしようorz