訃報:マリアンネ・シドウ

マリアンネ・シドウ (Marianne Sydow)
1944.07.24 – 2013.06.02

6月29日付け Phantastik-News 他の情報によると、6月2日、元ローダン作家マリアンネ・シドウ(本名:Marianne Ehrig)が急病のため、ブランデンブルク州ポツダム=ミッテルマルク郡クロスターレーニンのホスピスで、家族に囲まれ息をひきとったとのこと。

1944年、ブランデンブルク州アルトデーベルン生。そのあたりは戦後ソ連占領→東独建国一直線のあたりなので、西側にあたる地区まで避難していたのかもしれない。
母親が育児の息抜きの際、本棚の前のクッションに座らされたマリアンネは、適当な本をぱらぱらめくりはじめ、5歳の頃にはドイツ文字(ひげ文字)まで読めるように。いわゆる「未来小説」との出会いは11歳で、13歳のときには物書きになることを宣言して、母親に神経科まで連れていかれたこともあるとか。17歳の頃から出版社に投稿をはじめるが、なかなか結果は出ない。電話交換手や販売員の仕事のかたわら、執筆を続けていたようだ。

1967年、22歳のとき、はじめて売れた作品『蒸留管生まれの生物(Das Wesen aus der Retorte)』ともう1作がUtopia-Kleinbandから刊行。ただし、女性名はまずいということで Garry McDunn のペンネームが用いられた。
1972年、長男ラルフ誕生。正確な日取は不明だが、この前後に結婚して旧姓(Bischoff)からシドウ姓になっているはず。そして、育児にかかるおカネで困窮したこともあって、売り込みと執筆を再開。Zauberkreis-SF で1976年までに13篇が刊行されている。

そして、もっと数をこなしたい(稼ぎたい)というシドウと、女性描写が平板だという批判をどうにかしたいパベル社の原稿審査係クルト・ベルンハルトの意向が一致した結果、アトラン・ヘフト、ローダン・ヘフトへの参加が決定。アトラン・ヘフトは1975年刊行の178話から795話まで、ローダン・ヘフトは1976年刊行の795話から1992年に1588話をもってチームを脱退するまで続いた。担当話数はアトラン60篇、ローダン61篇。
また、アトラン・ヘフトでは、暗黒銀河サイクル後半、《ソル》の冒険サイクルの序盤、コスモクラートの委託を受けてサイクル中盤と、数度にわたり草案作家を担当している。

脱退の理由については、ベルンハルトの後継である原稿審査係ギュンター・M・シェルヴォカートとの確執であると、本人のサイトで書かれている。こっちに相談もなく内容いじられちゃやってられないわ――ということらしいが、理解者もいた一方、相当批判もされたようで、それ以降、独自の作品が(Webを除き)発表されていないのは、家庭内の問題もあったようだが、だいぶこたえたのだろう。関心がおありの向きは、後述のシドウのサイトをご覧いただきたい。

1980年に、SFファンでコレクターとしても名高いハインツ=ユルゲン・エーリヒ(Heinz-Jürgen Ehrig, 1942-2003)と再婚。彼が幼少時から集めてきた10数万点の書籍・雑誌・コミック・カタログ・原稿・写真・映像・録音等々、18世紀にまで遡れるSF関連の資料は、ブランデンブルク州ブッカウタルの《ヴィラ・ギャラクティカ》に収蔵されている、
2003年にハインツが急死した後、彼なしでは資料の価値が十全に発揮できないとの危惧も持たれたようだが、シドウは長男ラルフとともに地道に資料の目録化を進めていた。この一大事業はまだ完成していないが、ラルフが引き継ぐ意志を表明している。

亡くなる直前のシドウは、おそらくヴィラ・ギャラクティカの維持資金確保のためもあったろうが、1908年頃に刊行されたシリーズ『空中海賊と自在飛行船(Der Luftpirat und sein lenkbares Luftschiff)』のリプリント版に携わっていたらしい。
「読むだけでなく、書かずにはいられなかった」というシドウ。その最後の作品は、2004年から細々とWebで書き続けられた『小川氏の真珠(Ogawas Perlen)』であるが、これも未完のままとなった。

個人的には、シドウというとローダン・ヘフト1500話代のリング人サイクルを思い出す。主要キャラのひとり、リング人女性の調停者ドリナ・ヴァッサーのキャラクターは、まちがいなくシドウがいなければ作りえなかっただろう。
ドイツSFにおける女性不遇の時代に、彼女がひとつの役割をはたしたことは疑う余地がない。そして、彼女が書き続けられなかったことこそが、90年代にはまだ、不遇の時代が終わってはいなかったことを証明していたのかもしれない。現在は、はたしてどうだろうか。

■Villa Galactica: Marianne Sydow Startseite (Ehrig夫妻のサイト)
■Uschis Blog:Marianne Sydow ist gestorben
  (元ローダン作家Susan Schwartz/Uschi Zietsch のブログ)
■Wikipedia: Marianne Sydow
■Perrypedia: Marianne Sydow

ラスヴィッツ賞2013受賞作発表

6月15日付けクルト・ラスヴィッツ賞公式サイトで、2013年版受賞作品(2012年初版刊行物が対象)が発表された。受賞式は、11月9日にドレスデンで開催されるペンタ・コンにて執りおこなわれる。
今回も、ノミネート作一覧込み。括弧内の数字は得票ポイントである。

長編部門 Bester deutschsprachiger SF-Roman:

 1. Dietmar Dath / Pulsarnacht / パルサーの夜 (103)
 2. Andreas Brandhorst / Das Artefakt / アーティファクト (94)
 2. Oliver Henkel / Die Fahrt des Leviathan / リヴァイアサンの航海 (94)
 4. Frank W. Haubold / Die Gänse des Kapitols
   / カピトリーノの鵞鳥(神々の黄昏第1巻)(70)
 5. Chris Schlicht / Maschinengeist / 機械の魂 (54)
 6. Michael Marrak / Das Königreich der Tränen / 涙の王国 (53)
 7. Richard Dübell / Toufec / トウフェク(ローダン2659話)(39)
 8. Pia Biundo / Alle Zeit der Welt / 世界のすべての時間 (33)
 9. André Pilz / Die Lieder, das Töten / 唄と殺しと (32)
10. Markus Stromiedel / Die Kuppel / ドーム (30)
 X. 該当作なし(6)

短編部門 Beste Erzählung:

 1. Klaus N. Frick / Im Käfig / 檻の中 (114)
 2. Michael Marrak / Der Kanon mechanischer Seelen / 機械的魂のカノン (80)
 3. Michael K. Iwoleit / Zur Feier meines Todes / わが臨終祝い (79)
 4. Marcus Hammerschmitt / Der Ethiker / 倫理学者 (77)
 5. Heidrun Jänchen / Stadt in der Steppe / 草原の都市 (70)
 6. Karsten Kruschel / Teufels Obliegenheiten oder: Der gewaltsame Frieden
   / イビルス・オブリージュ あるいは 力任せの平和 (62)
 7. Matthias Falke / Der Bruch der nordwestlichen Stelze / 北西の竹馬の破壊 (49)
 8. Thorsten Küper / Rekonstruktor / 再建 (42)
 9. Carsten Steenbergen / Im Auftrag der Krone / 冠の命を受けて (39)
10. Dirk Röse / Mondpräsidentin / 月の女大統領 (16)

海外作品部門 Bestes ausländisches Werk:

Ted Chiang / Die Hölle ist die Abwesenheit Gottes
   / 地獄とは神の不在なり(オリジナル選集)(139)

今回は……前回とちがって、これといったご贔屓の作品があったわけではないので、ああ、やっと発表になったか、程度ではあったのだが。
短編部門。マラク、イヴォライト、ハマーシュミットら常連をさしおいて、ローダン編集部の長であるフリックが受賞って……どんなんや(笑)

■クルト・ラスヴィッツ賞公式サイト:www.kurd-lasswitz-preis.de