1000話「テラナー」について (4)

1000話「テラナー」について、第4回である。

ウィリアム・フォルツことヴィルヘルム・カール・フォルツは1938年1月28日生まれで、ちょうどローダン(1936年生)やブル(1938年生)と同年代である。第二次大戦中、徴兵をうけた父は補給船の乗組員として出征しており、作中ローダンがカール叔父にあずけられたように、ウィリー少年も戦況の悪化にともなう疎開を経験している。故郷オッフェンバッハからわずか10数キロの避難先ハインハウゼンは、今日では人口密集地帯だが、当時はのどかな田舎であったらしい。

5歳の頃にはふつうに読書できたというから、作中でペリー少年がカール叔父にあきれられ、また1177話「ケース・マウンテンの少年」で母マリーに「本ばかり読んで!」と叱られていたのも、あるいはフォルツの実体験(※)からきているのかもしれない。
(※)話はちがうが、“グリーンホーン”ピンサーが色盲のせいで太陽系艦隊の審査をハネられたのは、フォルツ自身が徴兵時検診で色盲が発覚した体験からきているらしい。

さて、本シリーズの主人公ペリー・ローダンは、不時着していたアルコン船と偶然に遭遇し、宇宙への道を踏み出したものだと思っていたら、今回、実は文字通り〈それ〉と“旧友”であったことが判明する。

第3部 その男、ペリー・ローダン

ペリー・ローダン。西暦1936年6月8日、コネティカット州マンチェスター生まれ。Perrypediaによると、ファーストネームはペレグリヌス(Peregrinus)――「巡礼」ないし「放浪者」――の略称にあたるという。

父ジェイコブ・エドガー・ローダンは、第一次世界大戦末期にドイツのオーバーバイエルンから両親とともにアメリカに移り住んだ移民、19世紀に移住したティーボ家出身の母マリーも先祖をたどるとロートリンゲンに行き着くらしい。
ひとつ年下の妹デボラが生まれるも、1941年、母が車のハンドブレーキをかけ忘れたことが原因の事故で死亡している。ローダンの鼻梁の傷痕も、この時のもの。
※ローダン家については1177話「ケース・マウンテンの少年」と1178話「第四の英知」に詳しい。1948年、12歳のローダンが宇宙飛行士になるため空軍パイロットをめざす契機となる事件が再現されている。

第二次世界大戦末期には両親そろって出征し――マリーは看護婦だったと思うが、いまいち記憶がさだかでない――、9歳のペリー少年は農場を営む父の弟、カール叔父のもとへとあずけられた。
そして1945年5月、ドイツが降伏し、西部戦線が終結をむかえた頃……。

ハヤカワ版(p192)
「また嵐になりそうだから」

原文:
≫Es ist möglich, dass wir heute noch ein Gewitter bekommen.≪

試訳:
「どうやら、もうひと雨きそうだからな」

Gewitter には嵐の意味もあるが、一般的には「雷をともなう(強い)雨」であり、呑気にお茶へお呼ばれしているところを見ると、時間的には「夕立」になる。
嵐がきそうなら、遊んでないで帰ってこい、じゃないかと思うのだが。

ハヤカワ版:
「こんど叔母さんが町へ行くとき、図書館で探してくれるそうだ」要領をえない顔で少年を見る。「自分の家でも本を読んでいたのか?」

原文:
≫Sobald deine Tante in die Stadt fährt, wird sie versuchen, diese Bücher in einer Bibliothek zu bekommen.≪ Er sah den Jungen unsicher an. ≫Hast du zu Hause auch solche Lektüre bevorzugt?≪

試訳:
「今度、叔母さんが車で町に出たら、図書館から借りてきてくれるとさ」落ちつかなげに少年を見て、「おまえ、家でもあんな本ばかり読んでたのか?」

動詞が fährt なので、叔母さんは車で出かける。まあアメリカの農村はどこも広そうだから、当然のことは言わないかも。あと原文は「手に入れることを試みる」で、図書館にもない本かもしれない(笑)ので、探す、の方が適当かもしれない。

セリフの後半、本を読むこと自体はおかしくもなんともない。動詞 bevorzugen は「好む、贔屓する、優先権を与える」、Lektüre は「読書(する行為、する内容)」であり、どんな分野をペリー少年が要望したのかは、p193で書かれている。“宇宙旅行だの、異星世界だの、ばかけた本ばかり(all diesen Unsinn über Weltraumreisen und ferne Welten)”なのだ。SFファンは理解されない(ぁ

ハヤカワ版(p193)
これからもっとひどいことが起きるんだ」

原文:
Es werden noch schreckliche Dinge passieren, weit weg von hier.≪

試訳:
まだ、おそろしいことが起きるんだ、ここからずっと遠いところで」

夢で見た、遠い場所で起きる、ドイツ敗戦後のおそろしいできごと……。あえて言うと、広島・長崎への原爆投下のことを予言している。後の「大人はそんなことありえないといい」あたりへつながるのだと思われる。
たぶん、ホントにただの夢の話と判断したのだろう >ハヤカワ版

ハヤカワ版(p194)
母屋が稲光に浮かびあがると、

原文:
Drüben im Haus gingen die Lichter an,

試訳:
母屋では明かりが灯り、

Drüben は「あちら、向こう、海外」で、次の文章で“世界がふたつに分断”されたようだ、という前フリに近い。
im Haus なので、光が灯ったのは家の中。だいたい、カーテンごしに奥さんのシルエットが浮かびあがっているのだから、それは稲妻のためではないのだ。

あぷだくしょーん。
こうして、ペリー少年は人工惑星ワンダラーへと招かれる。コスモクラートの用意した細胞活性装置の、潜在的携行者として……。

ハヤカワ版(p198)
子供たちは植物や動物が自分に話しかけてくるのを知っている。

原文:
Die Kinder wüssten gerne, auf welche Weise eine Pflanze oder ein Tier zu ihnen sprechen kann,

試訳:
子供たちは草木や動物がどうやって自分に語りかけるか知りたがるが、

たぶん、本当に知りたいのはお返事する方法じゃないのかと思われる。語りかけてくるのは子供たちにとって当然のことなのだろう。

ハヤカワ版(p199)
もうひとりがどう反応するか、予想がつかない。

原文:
Es macht uns Sorgen, wie deine Artgenossen sich verhalten.

試訳:
心配なのだよ、きみの仲間たちがどう反応するのか、とね。

「きみの同類」deine Artgenossen をハヤカワ版はアトランのことと読んだ(“もうひとり”)ようだが、複数形なので大ハズレである。子供の不死者とかあらわれたら、人類がどんな対応するかは火を見るよりも明らかだよなあ、である。

ハヤカワ版:
「ぼくはいつ大人になるの?」少年がたずねた。
「いつ大人になるのか、とは?」“それ”は理解できずに問いかえした。

原文:
  ≫Wann werde ich erwachen?≪, erkundigte sich der Junge.
≫Erwachen?≪, echote ES verständnislos.

試訳:
「いつになったら目がさめるんですか?」少年がたずねた。
「目がさめる?」と、オウムがえしに〈それ〉。

「成長する(大人になる)」erwachsen と「目がさめる」erwachen の読み違え。

5章に入ってから連呼される“大人”が Erwachsenen(複数形)だし、〈それ〉のセリフ「いつかきみが大人になったら」も、この会話の後でカルフェシュが「いつか大人になるとは信じられない」と述懐するところも erwachsen なので、そのまま全部おなじ単語と読み流したのだろう。

しかし、2回も言っているのだし、この後で「だって、これは夢なんでしょう?(≫Dies ist doch ein Traum, nicht wahr?≪」と続くあたりで、もうちょい考えてほしい。〈それ〉やカルフェシュの言う“いつか”は eines Tages で、ペリー少年の“いつ”は質問なので Wann(英:When)と異なっている。
#テクマクマヤコンとかミラクルキャンディーはペリー少年とは方向性がちが(ry

ハヤカワ版(p200)
「これは夢だ。きみを自分の世界に帰す前に、しっかり記憶させる必要がある。だが、その前に、宇宙の窓を開けて見せてやろう」

原文:
≫Dies ist ein Traum, an den ich dir die Erinnerung nehmen muss, bevor ich dich zu deiner Welt zurückbringe. Doch bevor dies geschieht, werde ich das Fenster zum Kosmos für dich aufstoßen.≪

試訳:
「これは夢で、きみの世界へともどす前に、その記憶は取り去らねばならない。だが、そうする前に、きみのために宇宙への窓を開いてあげよう」

動詞 nehmen 「取る」には、取り去る、奪うの意味もある。
まあ、前段の「胸の炎がけっして消えないように」から、おぼえこませる方向へ訳がシフトしてしまったのだと思われる。にしても、真逆の意味に訳すのはどうだろうか。

ハヤカワ版(p201)
「説明しにくいんだけど……調和のとれた光の波。なにか不思議なものがあって、自分がその一部みたいに感じた」

原文:
≫Es ist schwer zu beschreiben≪, sagte er. ≫Eine … harmonische Woge aus Licht. Und das Eigenartige war, dass ich mich als Teil davon fühlte.≪

試訳:
「うまく言えないよ。あれは……光の波の、ハーモニーだった。それで、変なんだけど、ぼくもその一部だって、感じたんだ」

第2回冒頭で取りあげた部分である。私家版、“調和のとれた”は、いくら読書家でも9歳のコドモの使う言葉じゃないよなあとこんな感じにしたのだが。ソースは自分w
#「本ばかり読んで」は、小学生の頃よく言われたものだ(爆)

最後のセリフは、「そして、それは奇妙なことだった/自分がその(光の波の)一部だと感じたことは」で、dass 以降は主語 das とイコールである。Eigenartige は形容詞 eigenartig 「独特な、奇妙な」の名詞形。
続く〈それ〉のセリフも、変じゃない? と暗にたずねられたことへの「それでいい(Es ist alles in Ordnung)」、だいじょぶオールOKである。

そして、つかのまの出会いの記憶は失われ、ただ、胸の奥に消えない星々への憧憬だけが残った。

その道しるべにしたがい、US空軍、さらには宇宙軍の本番パイロットとなったローダンは、第6章「宇宙への道」のような経緯をたどって、ひとつのゴールへと到達する。
生命・知性の播種を司る七強者、ネガティヴな存在と戦う深淵の騎士団。宇宙に秩序をもたらすためにさまざまな組織を指導する、未知の高次存在コスモクラートの足跡を追って、〈物質の泉〉にまでたどりついた。コスモクラート自身との対面はかなわず、代わりに友アトランはロボット・ライレとともに〈泉〉の彼岸へと姿を消し……そこでローダンは、進むべき道を見失う。

これはある意味、当然のことなのだ。なぜなら、ローダンは、もう何ひとつ持っていないのだから。

銀河系に帰還した《バジス》とローダンを、人々は歓呼をもって迎え入れる。コスモクラートの使者と接触し、局部銀河群を襲った宇宙震の原因を突きとめこの未曾有の災害を停止させた、まさに英雄として遇した。
だが、人々は忘れている。銀河系に居場所をうしなったローダンが《ソル》で旅立ったのは、わずか5年前でしかないことを。

そもそも、アルコン宇宙船と接触したペリー・ローダン少佐が、故国を捨てて第三勢力を設立したのは、対立する三大ブロック(米露中)が保有する核の脅威から人類を解き放ち、統一された種族として星々の世界へと導くためだった。
その行為をして、アルコン人クレストにローダンを“最初のテラナー(Der erste Terraner)”と呼ばしめたのだ。

その目標は、太陽系帝国として結実する。とはいえ、ロボット摂政の管理下に置かれながらもなお強大なアルコン帝国や大小さまざまな星間勢力とのせめぎ合い、アンドロメダの島の王やマゼラン星雲の時間警察、20万年前からの因縁をひきずるグルエルフィンのカピン緒族との接触もあって、軍事国家としての道を歩まざるをえなかったことはローダンとしては苦渋の決断であっただろう。
その過程で、植民者たちが離反し、ダブリファ帝国・カルスアル同盟・中央銀河ユニオンの三大星間帝国をはじめとする多数の利害同盟が誕生し、テラと敵対する施策を取ったことも大きな挫折感をもたらしたはずだ。

ローダンの夢は後退を余儀なくされ、ただ「太陽系人類の福祉」のみがかろうじて残された。胸に抱く理想は、人々の無理解にさらされながらも、なお消えることなく、彼は職務を忠実に果たしつづける。
(→不可視の境界 -1-

しかし、その太陽系帝国すら、多銀河連合体〈公会議〉の侵攻によって滅び去り、テラは一旦、故郷銀河からはるか遠い宙域へと脱出したが、ここでもアフィリー禍のためローダンは母星を追われ、世代宇宙船《ソル》とともに“放浪者”となる。

銀河系をめざす長い旅路のうちに、《ソル》で生まれた世代はローダンらの郷愁を理解せぬ“ソラナー”となり、ついには彼らの“故郷”たる《ソル》をもって道を分かち、宇宙の深淵へと去っていく。
銀河系への帰還――120年の不在による、身の置きどころのなさを痛感した――後、あらためて探索に向かった地球にも、彼の人類はもう存在していなかった。200億の人々は〈完成のプラン〉の名のもとに〈それ〉に吸収されてしまったのだ。

さらに、友の多くが〈それ〉の一部となる道を選び(968話)、不死者ならぬ身の3人目の妻オラナ・セストレにも去られ(999話)、ローダンはただひとり取り残される。彼にはもう、何ひとつ残されていない。おのれ自身という、ただ一個の人間以外には。

なのに人々は彼を英雄と讃え、さらなる行動を期待する。
次に自分は何をすればいいのか。何をすべきなのか。何ができるのか。
懊悩する彼の前に、“旧友”からの使者があらわれる。

ハヤカワ版(p225)
ペリー・ローダンがその店にくるきっかけとなった内なる不安は、三杯めの合成ワインを飲みほすころには消えていた……とはいえ、周囲の人やものを見ると、かんたんに思いだしてしまうのだが。

原文:
Die innere Unruhe, die ihn überhaupt erst veranlasst hatte, hierher zu kommen, legte sich auch nicht nach dem dritten Glas Synthowein – aber sie ließ sich nun leichter auf Personen und Dinge in der unmittelbaren Umgebung projizieren.

試訳:
彼がそもそもこんなところへやってくる発端となった内なるざわめきは、合成ワイン三杯を干しても静まらなかった――だが、周囲の人々やものを観察するのがたやすくはなった。

ワイン3杯で片づく問題なんだねローダンの悩み(笑)
再帰動詞 legen sich で「衰える、弱まる、静まる」。で、nicht があるから、静まらないのである。
要は、酒が入るまで周囲のこともろくすっぽ目に映らないくらい、ぐるぐると考え込んでいたのだ。

ハヤカワ版(p226)
脱色処理をうけているらしく、肌は柔らかな黄色にきらめいていた。

原文:
Zweifellos hatte er eine Pigmentmanipulation durchführen lassen, denn seine Haut schimmerte in sattem Gelb.

試訳:
肌が濃い黄色にきらめいているのは、明らかに色素調整をほどこしたもの。

Pigmentmanipulation でグーグル検索したら、一番上にPerrypediaのMironの項がひっかかったのには失笑した。Pigmentは「顔料、染料」。そして形容詞 satt は、エルトルス人の挨拶「食って太れ」の“食って”の部分。満腹とか、色の場合は「濃い」である。
真っ黄色なので一目瞭然、という流れなのだが。肌の色を調整している→脱色という先入観コースまっしぐらで、色が薄くなっているから柔らかという、原文まるで無視なのはいかがなものか。

あと、ミロンくん、わりと普通の言葉遣いだが、彼は「思春期のアルコン人(ein halbwüchsiger Arkonide)」――青年と訳しているが、テラナー換算でティーンエイジャーと思われるので、もっとはすっぱな言い回しの方がらしかろう。「お気に召したかい?」みたいな。ハヤカワ版だと、挑発してないよね。
口座がないのは……親の許可がないと課金できないゲーマー少年みたいだな(笑)

ハヤカワ版(p227)
ふたりの女の片方がカウンターに近づいてきた。その顔の表情をみれば、現実感をすくなくとも半分はなくしていて、

原文:
Eine der beiden Frauen kam den Kontaktbalken entlang. Ihrem Gesichtsausdruck war deutlich zu entnehmen, dass sie sich mindestens für einen halben Realitätsentzug entschieden hatte

試訳:
女たちの片われがカウンター沿いに近寄ってきた。顔つきから、少なくとも半ば以上の現実逃避を決め込んでいるのがありありとみてとれた。

Eine der beiden Frauen kam den Kontaktbalken entlang. Ihrem Gesichtsausdruck war deutlich zu entnehmen, dass sie sich mindestens für einen halben Realitätsentzug entschieden hatte

ふたりの女性は、最初からカウンターにいる(p225)。

Entzug は「抜き去ること、取り消し」と手元の辞書にあるが、自分でそれを決め込んでいることから、おそらく「現実逃避」。“半分”とは、1日の半分、すなわち一晩となる勘定か。一夜のアバンチュール希望であるw

ハヤカワ版(p228)
まったく知らされていない理由により、進化から排除されてしまったのではないか、という不安だ。

原文:
die Furcht, von der Entwicklung ausgeschlossen worden zu sein, aus Gründen, die man ihm nicht einmal mitteilte.

試訳:
誰も教えてはくれない理由で展開から取り残されていくという不安。

Entwicklung は、例えば前回取りあげたp186の事例のように「進化」の意味もたしかにあるのだが、ローダンでは一般的に事態ストーリーの「展開」である。
置いてけぼりだから、ものごとの動きが止まって見えるのかな、という不安なのだ。

ハヤカワ版:
「あなた、いらいらするわね」

原文:
≫Du irritierst mich≪,

試訳:
「なんだかふしぎな人」

試訳は2004年私家版そのままである。
動詞 irritieren には「イライラする」の意味がたしかにあるが、他に「迷わす、惑わす」もある。この後で、「ツアー客じゃないしここの市民でもないし」とイロイロ品定めしていた部分が列挙されるので、そのどれにも当てはまらない、(判断を)迷わせる人、と考えて試行錯誤した結果、上記のようになった。超訳で申し訳ない。

でも、逆ナンする相手にいきなりこのセリフはないだろうw >ハヤカワ版
#いまだったら、「よくわからない人ね」だろうか。それでも超訳か。

ハヤカワ版(p229)
もっとあなたのことが知りたいわ。きょうは憂鬱な気分なの。

原文:
Ich würde dich gern näher kennen lernen. Ich mag melancholische Männer.

試訳:
もっとお近づきになりたいわ。カゲのある男性って好きよ。

いやもう、これ何がなんだか……(笑)
「男性」Männer を「マナー」とでも読み違えたのだろうか。せめて、憂鬱な男性の気分なの、だったらまだわかるんだけどねえ(肉食系かw

まあ、日本語の“陰のある”って、本来もうちょいポジティヴな意味合いなのだが。
……いま気づいた。憂い顔の男性って好きよ(はあと)にすればよかったのだ。

ハヤカワ版(p232)
流線形で、テラニアはじめテラの多くの都市の建設現場で見かける、ありふれたマークが描かれている。

原文:
eine Maschine, die Tropfenform besaß und neutrale Embleme trug, wie sie bei vielen Konstruktionen in Terrania und anderen Städten Terras üblich waren.

試訳:
涙滴状で、エンブレムにもこれといった特徴はない、テラニアはじめテラの諸都市でごくありふれた設計のマシンだ。

自家用グライダー(Privatgleiter)と言っているのだから、建設現場はないだろう。
正確には、テラニア他の都市で見かける多くの設計(型式)のグライダーで普通に見かけるエンブレム、ということになるのかな。ニ●サンとかト△タとかw
私家版訳はそのへんの修飾関係がごっちゃになってはいるのだが。

ハヤカワ版:
操縦するロボットが現地の交通管制にしたがっているということ。それだけを見ても、この誘拐は不可解だ。

原文:
ein sicheres Zeichen dafür, dass der robotische Pilot keine Schwierigkeiten mit den lokalen Gegebenheiten hatte. Alle diese Beobachtungen machten die Entführung um so rätselhafter.

試訳:
ロボットに土地勘がある、確かな証拠だ。観察すればするほど、この誘拐はいっそう謎めいてくる。

現地の交通管制にしたがわなかったら、白バイおっかけてきちゃうのでダメだろう(笑)
ローカルな諸事情についてロボット(パイロット)は問題点を持たない→よく知っている、という判断で上記試訳に。

ハヤカワ版(p233)
念のため、ロボットに声をかけるのはやめておいた。

原文:
aber er hütete sich, zu den Robotern zu sprechen.

試訳:
ロボットに話しかけるのはやめておいた。

誤訳ではない。ここではちゃんと訳してるんだなあ、と > hüten sich。
p188の事例ではgdgdだったのに。

ハヤカワ版:
「そのとおり」柔らかい声がレンタル・ルームのなかから聞こえた。「わたしだ」

原文:
≫Tatsächlich≪, klang eine sanfte Stimme aus der Kabine heraus, ≫er ist es.≪

試訳:
「これはこれは」やわらかな声がキャビンから響いた。「ほんとうに、彼ですね」

試訳はほぼ2004年私家版のまま。
いまだったら、「ほんとうに」(中略)「彼なのですね」、くらいだろうか。
ああ、あの貧弱な少年がほんとうにオトナになったのだなあ(慨嘆)。みたいな表現なのだと思われる。それこそ、よくもまあ、である。

ハヤカワ版だと、カルフェシュがテレパスみたいになっている。だいたい、なんでこの原文で「わたしだ」になるのかな? 彼とそれだよ? わたしじゃないよ?

ハヤカワ版(p235)
だが、そのことにともなう悲劇についてはわかっていない」

原文:
und ES verkennt nicht die damit verbundene Tragik.≪

試訳:
それにともなう悲劇についても理解している」

誤認していない、である。まあ、(キミは)わかっていない、のつもりかもしれないが、ちょっとそうは読めない。
私家版では、前の文章の“予見している”にオンブにダッコで、「そして、それに結びついた悲劇も」でごまかしていた。

ハヤカワ版(p240)
なにひとつうまくいってないって、だれもがあなたを非難してるんですぜ」

原文:
An allem kritisierst du herum, nichts kann man richtig machen.≪

試訳:
まわり全部にかみついて、まるで誰もまっとうな行動をとれないみたいに」

誰も何にもちゃんとできない、と皆を非難している、のはあなた(ローダン)である。
さっきまで、山積する問題をかたづけてほしいとローダンに懇願していたのだ。そんな問題児みたいな言いがかりはよくないだろう(笑)

ハヤカワ版(p241)
「信じられないほど巨大な罠に。思いきって脱出しようとしないかぎり、けっして脱出できない」

原文:
≫In einer unglaublichen und gigantischen Falle, aus der wir nur entrinnen können, wenn wir uns immer weiter aus ihr herauswagen.≪

試訳:
「信じられぬほど巨大な蟻地獄にな」

直訳すると、絶えず脱出を試みつづけた時だけ脱出できる罠。→絶えず脱出を試みつづけていないと呑み込まれてしまう罠→蟻地獄。という連想である >私家版

ハヤカワ版:
無間隔移動

原文:
einen distanzlosen Schritt

試訳:
無間歩

誤訳ではない。
ディスタンスレス・ステップ(Distanzloser Schritt)は、ファンダムでは長いこと“無限歩”で通用していた。
距離を伴わない移動手段、という意味ではハヤカワ版で何ら問題ないのだが、絶対移動(Absolute Bewegung)とかとは原語が異なるので、“歩”を使ってみたいとゆーそれだけの話ではある。

ライレなどコスモクラートのロボットの他に、ATLANシリーズの次元エレベーター〈プトール大陸〉の魔術師が使用したとされる。これはバルディオク・サイクルと同じ頃である。
850話でバルディオクたち強者が宇宙城と《平面》の間を移動した〈物質化(Materialisation)〉も同種の技術かと思われるが、詳細は不明。ただしケモアウクが無間歩を用いたのは〈目〉を持っていた時だけのようだし、別モノだろうか。

ハヤカワ版(p243)
「気にいらない事実でも、うまく折りあいをつけたほうがいいってこともあるよ」

原文:
≫Es kann sein, dass ich auf Dinge stoße, die dir nicht gefallen≪, gab er zu bedenken. ≫Manchmal ist es besser, so etwas mit sich selbst auszumachen.≪

試訳:
「望ましくないものをみつけちゃうかもしれないよ」と、指摘する。「こういう問題は、たいていは自分で解決した方がいいんだ」

ふたつの文章をひとつにしてしまっている。まあ、翻訳にはありがちなことかもしれないが。それにしても略しすぎではなかろうか。グッキーが行動する部分がすっぽり抜け落ちている。

ハヤカワ版:
「頭では理解してるけど、それは間違いだって感じてるのさ。

原文:
Du hast das auch erkannt, legst es aber falsch aus.

試訳:
そこまではあなたも気づいたけど、解釈をまちがえてるんだ。

不死者であることを間違い(falsch)だと感じているわけではない。不死者である自分は、そうではない普通の人々と交わることはできない、と考えていて、グッキーはそれが逆だと言っている。ローダンが苦痛に感じているのは、下々(笑)への道ではなく、上位存在(の一部)となる道が閉ざされている(責任感的な意味で)ことなのだ。

ハヤカワ版(p244)
「ぼくらの前からいなくなるんだね」イルトがローダンに聞こえないよう、小声でつぶやいた。「むずかしい決断が待ってると思うよ。それがどう転ぶかは、あんたがいつかもどってくるかどうかにかかってる」

原文:
≫Du wirst uns jetzt verlassen≪, sagte der Ilt so leise, dass Rhodan ihn nicht hören konnte. ≫Eine schwere Entscheidung steht dir bevor. Davon, wie sie ausfällt, hängt ab, ob du jemals wieder zu uns zurückkommst.≪

試訳:
「いくんだね」グッキーの声は、ローダンには聞こえないほどかすかなもの。「重大な決断が、あなたを待ってる。帰ってくるもこないも、その決断しだいなんだ」

ob は「~するかどうか」。「それに(どう決断するかに)かかっている/あなたがいつかぼくらのもとへもどってくるかどうか」である。
重大な決断とは、〈それ〉を構成する意識内容のひとつになるか否か。前者を選べば、当然、ローダンは帰ってこないのだ。

こうして不死者にしてなお人間であるペリー・ローダンは、数々の疑問を抱いたまま、エデンIIへと跳躍する。

彼はアルコン技術を元手に、相争う三大ブロックを牽制しつつ第三勢力を、ひいては太陽系帝国を築きあげ、統一された人類を宇宙へと導いた。
〈それ〉の配置した“銀河の謎”を解き、人工惑星ワンダラーを発見し、細胞シャワーの使用許可を得て相対的不死者となった。これはやがて――約束された――細胞活性装置へと引き継がれる。
数々の敵を撃退し、あまたの銀河を訪れ、幾多の謎に直面し、そのいくつかは解明され、この宇宙を形づくる秘密についての知見を得るも、それは壮大な秩序維持機構の片鱗にしかすぎなかった。
振りかえれば、もう彼には自分という個しか残されてはいなかった。

どれだけ長い時間を生き、どれだけ多くの偉業を成し遂げようとも、ローダン自身は一個の人間でしかない。第7章のタイトル「その男(Der Mann)」には、そんな含みもあるのだと思う。
だってまだあなたは人を愛することができるんだから――というグッキーの言葉は、けだし名言である。

そして、次章〈それ〉との対話の後に訪れる新時代とは、すなわち、人間ペリー・ローダンの新たなスタートでもあるのだ。

「第4部 フォルツ宇宙の進化モデル(仮)」へと続く。
鬱屈した日々を後にしてワンダラーを訪れたペリー・ローダン。これを迎えた超知性体〈それ〉が開陳した秘密とは。

今回がんばった分、次回は未定(笑) でも、ここさえ過ぎれば、最終回の分はもうほぼできあがってるので……。

1000話「テラナー」について (3)

1000話「テラナー」について、3回目である。

いきなりローダンと関係ない話でアレだが、わたしが高校生の頃、エルリックの翻訳目当てで買い始めた漫画誌WINGS(現在はウイングス)で、当時から唯一掲載が続いている大河シリーズ〈パーム〉。現在最終章『TASK』が絶賛連載中だが、それはさておいて(笑)
シリーズ中期の名作『星の歴史』中での主人公のセリフを以下に引用する。

「それは道具だ」
「見て聞いて考えて作れて移動できる便利な……」
「好きなところへ行って好きなことをやるがいい」

ムショ仲間の青年の抱える将来への不安。夢を抱いている自分は、ちっぽけで前科者で黒人ブラックで……という述懐を受けてのこのセリフ、超前向きポジティヴである。
人のからだを「それは道具だ」と言い切っているものの、表面的なところに囚われずに、内に宿した何かを理解して発された言葉であるから、実に暖かい響きだ。

一方――と、ここでいきなり話を元に戻すと――1000話「テラナー」冒頭、W・マクドゥガルの作品からの引用文は、“道具”という言葉をすこぶるネガティヴに用いている。

第2部 抗う歯車たちの肖像

「若者たちは人間が文字通り道具にすぎないと信ずることを学ぶ――その用途にかかわる、いかなる影響力もない、と。高みをめざすあらゆる希求を破壊し、すべての努力を損なうこの宿命論的ドグマに対し、わたしはおのが小さな領分において執筆をはじめて以来、一貫して抗いつづけてきた」

上記は2004年の私家版訳を少し手直ししたもの。最終回でも俎上に載せるので、原文等はその際に付記する。
ともあれ、ここで言う“人間は道具にすぎない”という表現には、人は運命の定めるところに従うしかない、という諦念のようなものを感じる。
それは、前回たどったローダンの道筋において、より高次段階の知性や機構の存在を知ったローダンが、絶えず抱いてきた疑念でもあっただろう。自分は、人類は……〈それ〉やコスモクラートの定めた道筋をなぞるだけの“道具”ではないのか――と。

そして、本書の前半、活性装置の適合者をめぐる永いながい探索においては、無数の生命が文字通り“道具”として使い潰されていたはずだ。その中では比較的“幸運”に恵まれたともいえる、2組の探索者たちの物語が中心となる。
もっともその前に、やはりコスモクラートの“道具”として、ひとりのソルゴル人がワンダラー……アムブルを訪れる。

ハヤカワ版(p140)
ジャングルを横断して村はずれまでたどりつき、そこをこえれば食料とかくれ場が見つかると期待した。

原文:
Sein Weg führt quer durch den Dschungel auf eine Grenze zu, hinter der er sich Nahrung und Sicherheit erhofft.

試訳:
ジャングルをつっきって国境をめざす。そのむこうになら、食料と安全があるはずだった。

1000話が刊行された1980年は、長期にわたったベトナム戦争が終結(75年)し、今度はそのベトナムの支援を受けたヘン・サムリン政権によってカンボジアのポル・ポト派が首都を追われ(79年)、凄惨な内戦が展開されていたころである。
村の中なら安全なんてことはない。その向こうに安全があるはずの目標(境界)で、ジャングルを横断して村々の焼け跡やら戦闘やらやりすごした先にあるので、どう考えても「国境」。

ハヤカワ版(p142)
きらめく青大理石を思わせるふたつの目は、

原文:
Die Augen waren zwei strahlende Murmeln von tiefem Blau,

試訳:
両目は輝く濃紺のビー玉のようで、

「(遊戯用の)ビー玉」 Murmel と「大理石」 Marmor の読み違え。

昔見たカルフェシュのイラストは、出目金っつーかなんつーか……ペリペやぶっせんも探してみたけど、みつからなかった。
大理石の玉は、父の実家の近くに秋芳洞とかあるので、土産物として売られているソフトボールよりちょい大きめの磨き上げたやつとか連想して、わかりやすくはあったのだけど(笑)

ハヤカワ版:
カルフェシュにとっては、物質の泉の彼岸からこちら側に“派遣”されるのは、これが二度目だった。前回は二個の無調整の細胞活性装置をとどけにきた。

原文:
Carfesch war sozusagen die zweite “Sendung”, die von jenseits der Materiequellen hier ankam. Die erste hatte aus zwei neutralisierten Zellaktivatoren bestanden,

試訳:
カルフェシュは、物質の泉の彼岸からここへと到着した、いわば二回目の“送付物”だった。初回の内容は未調整の細胞活性装置二基で、

荷物のやりとりは2回目だが、カルフェシュは初物。
Die erste (Sendung) は活性装置、とあって、配達者は不明。小包だけ届いたのかもしれない。

ハヤカワ版(p143)
それをかこんで高さ千メートルにもなる、見た目は華奢な塔が何本もそびえている。

原文:
an dessen Rand ein über eintausend Meter hoher, zerbrechlich wirkender Turm stand.

試訳:
そのはずれに千メートルを超える、いまにも折れそうな高塔がそびえていた。

ein (…) Turm 単数なので1本。

というか、考えてほしい。アンブル=人工惑星ワンダラーである。アンブル=カルブシュは円盤世界中央の機械都市……そこにそびえるのは、ヒュジオトロンの塔である。

ハヤカワ版:
奇妙だ、と、カルフェシュは思った。この精神的統一体がどういうかたちでアンブルに存在しているのか、ティリクにたずねてみようと考えたことは一度もないが。

原文:
Seltsam, überlegte Carfesch, ich bin nie auf den Gedanken gekommen, Tiryk danach zu fragen, auf welche Weise sich das Leben dieser geistigen Einheit auf Ambur manifestieren kann.

試訳:
おかしなものですね、とカルフェシュは考えた。この精神統合体がどんな形でアムブルにあらわれるのか、ティリクにたずねることに思いいたらなかったとは。

いたるところに知性ある生命(単数)の存在が感じられる、のが奇妙じゃない。ティリクに「〈それ〉ってどんなんでっかー?」と質問するという、ある意味、事前情報として当然のことを自分が忘れていたことが、おかしい……といってごまかしているのだ(笑)
#私家版訳のカルフェシュはつねに敬語でしゃべる。あしからず。

ハヤカワ版(p144)
「あなたのお世話をいたします、使者。好きな名前をつけてください」
(中略)
「おまえのことは随伴者と呼ぶ」
(中略)
「“それ”のところにご案内します」

原文:
≫Ich stehe zu deiner Verfügung, Bote. Du kannst mir einen Namen geben.≪
(…)
≫Ich werde dich Begleiter nennen.≪
(…)
≫Begleite mich zu ES.≪

試訳:
「ご用命を承ります、使者よ。わたしの呼び名についてはご随意に」
(中略)
「きみを《同行者》と呼ぶことにします」」
(中略)
「〈それ〉のところまでご同行願います」

実は気に入らなくて皮肉言ってるんじゃないかと思うくらい、同根の名詞/動詞なんである(笑) できれば活かしたい。
まあ、ご同行願いますだと容疑者みたいなので(笑)、案内人/ご案内します、でもよかったよーな。

以下はヨタ話:恋愛シミュレーションのキャラ命名シーン、「好きな名前をつけてね(はあと)」とゆーのを連想した(ぁ
ゲーム開始直後だとお互いの好感度は最低なので、こんな感じに:
「おまえのことは金魚のフンと呼ぶ」
「〈それ〉のとこまで金魚のフンになりやがれこの野郎」

ハヤカワ版(p145)
“それ”の形態は、その存在のあり方から考えて、もっともむだのないものだった。

原文:
ES umschloss in knapper Form noch am ehesten das, was man hinter dieser Existenzform vermuten konnte.

試訳:
〈それ〉という名は、その存在形態について人の想像するところを、もっとも端的な形で表現しているのだ。

直訳すると――〈それ〉(という名称)には、世の人がその存在形態について想像できることが、もっとも短く、かつ最も簡単な形で、含有されているのだ、かな。なんせたった2文字だけである。日本語でもドイツ語でも(笑)

ハヤカワ版:
「出入りするだけです」曖昧な答えが返ってきた。「それも、いつもいるわけではありません」

原文:
≫Sie kommen und gehen≪, lautete die wenig informative Antwort. ≫Außerdem müssen Gebäude nicht immer bewohnt sein.≪

試訳:
「訪れては、去っていきます」と、いまひとつ答えにならない返答。「付け加えますと、建物につねに居住者がいる必要もございません」

誤訳とは言えないが、p152でこの発言がもう1回繰り返されることを考慮すると、こうしておいた方が理解しやすい。そこではカルフェシュは、〈わたしは前者(einer von der ersten Sorte)ですね〉と理解している。“訪れて”、さしあたり逗留するのだ、と。

そして、精神集合体に吸収されて“つねに居住者がいる必要も”なくなり、やがて現在時のパートで“去って”いくのだ。

ハヤカワ版(p148)
「それでおまえが派遣されたのか?」

原文:
≫Sie sollen also eingesetzt werden?≪

試訳:
「つまり、あれを使う予定だと?」

あれ(複数)が投入されるべきだということか、である。あれとは活性装置を指す。
使い道が確定したのか、という問いかけなわけだ。

さらに、本書において、2人称はすべて duzen 「du呼び」なのだ。したがってこの主語(sie)がカルフェシュを指すことはありえない。

ハヤカワ版(p149)
自分の勢力圏内に住む種族を指導し監督することはできるだろうが……それは種族全体を対象としたものだ。その一員が、わたしを助ける?」

原文:
Gewiss, ich weiß, dass ich die Völker des von mir behüteten Sektors beaufsichtigen und lenken kann – und dies ganz in meinem Sinne. Aber Individuen?≪

試訳:
確かに、庇護下にある宙域の種族を監督し、導くことは可能だ――意のままにな。だが、個人だと?」

心理歴史学をもってしても、集団は扱えても個人の行動までは予測できないのだぞ、である(口虚)

過去年表において、カルフェシュの来訪は180万年前頃と想定されている。騎士アルマダンの銀河系防衛はまだずっと先のことなので、深淵の騎士という個人がなしうる業績を知らない、と考えることもできる。
まあ、200万年前に騎士ペルマノチが火星でアインディを撃退しているとか、〈それ〉の誕生にからむ時間ループとかイロイロ考慮すると、このへんの会話が超うさんくさく見えてくるので、本書以降のネタは置いておこう(笑)

ハヤカワ版(p152)
もしかするとそのふたりは、コスモクラートが絶望的な戦いのなかで夢に見ただけの、架空の存在かもしれないのだ。コスモクラートが戦っている相手のことはほとんど知らないが。

原文:
  Vielleicht waren diese Wesen nur eine Fiktion, ein absurder Traum der Kosmokraten in ihrem offenbar verzweifelten Kampf um Dinge, von denen Carfesch zum größten Teil nicht einmal etwas ahnte.

試訳:
あるいはその存在は虚構にすぎないかもしれない。カルフェシュには大半が理解もおよばぬものをめぐる絶望的な闘いの中で生まれた、コスモクラートの不条理な夢なのかも。

わからないのは、相手ではなく、戦いの争点である。Kampf um Dinge で「モノをめぐっての戦い」で、そのモノについて、カルフェシュは予想もつかない、ということ。

現時点では、コスモクラートと対等な敵の存在すら描写されていないわけで。無限アルマダ編終盤に〈混沌の勢力〉側の尖兵が登場し、1200話で究極の謎のタネ明かしがされるまで、いろいろ不明瞭なままである。

なんとゆーか、運び屋兼メッセンジャーの仕事が終わったら、帰還(どこだか知らんが)する手段もなく、〈それ〉にパックンされるしかないというのは、あまりにひどすぎないかい(笑)
ともあれ、こうしてカルフェシュという見届け人を得た、永遠の時をかけた探索に、無数の人材が送り出される。目指すのは、いつ・どこにいるとも知れない活性装置の潜在的保持者の固有振動を探知すること。どう見ても、ハズレの方が激高確率である。

それらの中の1チームが、鳥類から進化したと思われるガルガマン人、ベリッツとチャルタである。彼らがどのような経緯でこの探索船に乗り込んだのかは不明だが、すでに長期間にわたる単調な作業のくりかえしに倦み、精神的に病みかけている。

ハヤカワ版(p155)
(前略)こんな仕事はほうりだして、自分の種族のためになることをしてはいけないのか?」
「それは敵前逃亡だ!」
「どこに敵がいる? 味方の軍勢は? 敵も指揮官も見たことがない」

原文:
(…) Warum, so frage ich dich, verschwinden wir nicht von hier und machen uns auf die Suche nach unserem Volk?≪
≫Das wäre Desertion!≪
≫Desertion wovon? Was ist das für eine Armee, der wir angehören? Wir bekommen weder sie noch ihren Anführer je zu sehen.≪

試訳:
(前略)なぜ、とそう言いたいのさ俺は。なぜここからおさらばして同胞を捜す旅に出ないのか、とね」
「脱走じゃないか!」
「脱走って、どこからのさ? 俺たちが所属する軍隊? そんなの見たこともないぜ、指揮官殿だっていやしない」

Desertion はそのまま「脱走、逃亡、職場放棄」。なにか(立場とか)を捨て去る行為のこと。“敵前”がくっついたのは軍隊(Armee)という単語が出たせいかもしれないが、2人がおこなっているのは調査であって、そこに“敵”の存在は前提ではない。
というか、チャルタのセリフ、「俺たち軍隊所属だったっけ?」くらいに訳してもいいくらいだ。

しかし、種族の所在地とか知ってたら、さっさと帰っちゃうかもしれないにしても、情報をシャットアウトして単身赴任(2人だが)とか、だいぶん外道なお話である。

ハヤカワ版(p159)
 捜索の最後でこの洞察にいたるとは! そんな想いがベリッツの頭をよぎった。
 自分にとって、捜索の旅はもう終わりだ……だが、同僚にとってはそうではない。

原文:
  Erst am Ende der Suche stand die Einsicht!, durchfuhr es Berritz.
  Und die Suche war nur für ihn zu Ende – nicht aber für seinen Partner.

試訳:
 探索が終わるとき、はじめてこの洞察にいたるのだ! そんな思考がベリッツをよぎった。
 そして、探索は彼にとってのみ終わるのであり――同僚にとっては、そうではないのだった。

たぶん、このヴィジョン(という語はハヤカワ版では消えているが)は、〈それ〉からのある種の報酬なのだろう。任を離れる者に、絶望と徒労だけでなく、自分はすごいこと(etwas Großartiges)をやってのけたんだ――という充足感を与える。別に、ベリッツに第三の目が開いたとかそーゆーのではないのだ。
そして、それが見えていないチャルタは、船を奪取して逃げるつもりではあるものの、捜索が終わることはない……という未来がベリッツには予見できたわけである。

ハヤカワ版(p160)
無理やり重層前線が形成され、そこから異宇宙のエネルギーが流れこんでいるのです」
(中略)
「重層ゾーン内では戦闘が起きています」

原文:
Es ist eine gewaltige Überlappungsfront entstanden, durch die Energien aus einem anderen Universum in das unsere eindringen.≪
(…)
≫Im Gebiet der Überlappungszone finden Kämpfe statt.

試訳:
巨大な重積前線が生じて、異宇宙からのエネルギーが流入しています」
(中略)
「重積ゾーンのエリア内で戦闘が起きています」

目くじらを立てるような誤訳ではない。最近のハヤカワ版では、重層 Überladung というよく似た単語が、主としてバリア関連で頻出しているので、ここでもそう訳したというだけのこと。
ただし、後でわかるように、これはアトランティス滅亡時点のドルーフ侵攻の描写である。バリアを複数枚重ねるのと、異時間平面が重なり合うのとは、似て非なるものなのだ。

ハヤカワ版(p162)
 チャルタはよろめきながら探知機に近づき、崩れるようにシートに腰をおろした。

原文:
  Charruta taumelte auf die Kontrollen zu und stützte sich schwer darauf.

試訳:
 チャルタはよろよろとコンソールにもたれかかった。

この時点ではシートには腰をおろしていない。だから、続く描写に「ふたたびぐったりとシートに沈み込む」とか本来ない描写を創作する必要が出てくる。「後ろざまにひっくりかえるようにシートに腰を沈めた。」なのに。

ハヤカワ版(p163)
よくもまあ、こんなに長いこと……」

原文:
Ausgerechnet wir haben es nach so langer …≪

試訳:
よりによってわれわれが、これほど長いことかかって……」

とぎれた言葉は、おそらく Zeit gefunden か geschafft. で、こーんな長い時間の後に、やりとげ(てしまっ)た、くらいだろうか。
Ausgerechnet 「よりによって、こともあろうに」が用いられているのは、この偉大な発見をなしとげたのが、探索から逃げようとした自分と、それを妨害した船のコンビであるから。あるいは、またベリッツがいないことを忘れているのかもしれない。

ハヤカワ版(p166)
「あなたに、細胞をつねに再生するマイクロ活性装置をとどけにきました」告知の第一節を読みあげる。カルフェシュは注意深く耳をかたむけた。「あなたの個体振動を細胞活性装置に転送します」
(中略)
「わたしの製造者は直接介入することができません。それゆえ、製造者の意図にそって活動できる機会を、あなたにあたえるのです」

原文:
≫Ich bin beauftragt worden, dir zum Zweck einer ständigen Zellkernregeneration einen Mikroaktivator zu überreichen.≪ Carfesch hörte aufmerksam zu, bis das Schiff den ersten Teil der Botschaft mit den Worten beendete: ≫Ich werde deine individuellen Schwingungen auf den Zellaktivator übertragen.≪
(…)
≫Mein Erbauer ist nicht befugt, direkt einzugreifen. Er gibt dir damit die Gelegenheit, in seinem Sinn zu handeln.≪

試訳:
〈わたしがうけた命令は、細胞核の常時再生のためあなたにマイクロ活性装置をわたすこと〉船がメッセージの最初のパートを次のことばでしめくくるまで、カルフェシュは注意深く耳をかたむけた。〈脳波その他を活性装置に記憶させる〉
(中略)
〈わたしの製作者には、直接介入する権限がない。かれの意を汲んで行動する機会をあなたにさずけるわけなのだ〉

訳としては正しいんだけど。手もとにあるテキスト(ハヤカワ版30巻『アトランティス要塞』)と照らしあわせるとえらくチガウのだ(爆)
つーか、このくらい、ちゃんと揃えようよ……。

かくして、第1の適合者の発見をもって、ガルガマン人の捜索の旅は終わる。
チャルタの最後の思考――候補者が活性装置を手にする前に死ねば、勝利の瞬間は敗北に転じる――は、そうなることを危惧するものか、あるいはそうなってしまえという暗い願望であったろうか。
逆境に置かれた人間が運命に抗い、夢破れて、それでも諦めきれない……というのは、フォルツの作品でしばしば見られるモチーフであるが、チャルタの生涯はどうであったろうか。“道具”にすぎない彼は、最後にその運命に一矢報いることができたのだろうか。

そして、なおも続く探索において、重要な役割を担うことになるのは、ドルイス人(※)の巨大な探索船《コルコオル=アアル》乗員唯一の生存者。「本来なら、格納庫責任者あたりがせいぜい」といわれたジンカー・ロオクである。

(※)単数はDruisで、M-87の基地のエンジニアと同じ綴りだが、複数形がそれぞれDruisen/Druisとなり、別の種族であることがわかる。まあ、ドルイサントにはしっぽも鉤爪もないか(笑)

ハヤカワ版(p171)
ファアデンワルン人

原語:
Faadenwarner

試訳:
ファアデンワルナー

元々は愛玩動物である。~人をつけて呼ぶとも思えない。
まして、ジンカー・ロオクはペットの蜂起時点の戦いの生存者である。知性があるから人間扱いとか、想像できないので。

ハヤカワ版:
ロオクはのろのろと除染シャワー室に向かい、最新の注意をはらってすべての保安装置をはずした。シャワー室はロオクが船内で制御できる唯一の場所だった。放射能にもまだ汚染されておらず、動きにくい防護服を脱ぐことができる。

原文:
Rook tappte schwerfällig zur Strahlendusche und schleuste sich unter sorgfältiger Beachtung aller Sicherheitsvorschriften ein. Das Duscheninnere war der einzige Platz in dem von Rook noch kontrollierten Teil des Schiffes, der noch nicht strahlenverseucht war und in dem der Kommandant den unbequemen Schutzanzug ablegen konnte.

試訳:
ロオクは足取りも重く放射能洗浄シャワーまで歩き、あらゆる服務規程を注意深く守ってハッチをくぐった。シャワールームはまだロオクのコントロール下にある区画で唯一、放射能に汚染されておらず、不快な防護服を脱ぐことのできる場所だった。

Strahlendusche。2004年に1000話を訳した際、最も苦慮した語のひとつがこれだった。
単語の字面だけ見れば「放射線シャワー」だが、実際にロークが浴びているのは、しめった蒸気(feuchte Dämpfe)……スチームである(だから温まる)。スーツを洗浄のため放り込むのも回転槽(Wirbelnanlage)で、ぶっちゃけ洗濯機にしか見えない。悩んだあげくに上記「放射能洗浄シャワー」としたが、全然納得はいっていなかった。

除染(Dekontamination)という言葉が日本でこれだけ市民権を得たのは、やはり東日本大震災以降のことだろう。欧米ではどうだろうか。チェルノブイリの事故が1986年であるから、1980年の時点ではまだそこまで頻繁に使用されることはなかったのではないか。
そして、放射能汚染についても、まだフォルツは認識が甘かったのかもしれない。洗えば落ちる、というものではないのである。防護服脱ぐ前になんかあるだろ、をひ。

まあ、ここが取りあげられたのは、「船内で制御できる唯一の場所」が誤訳だからなのだが。いろいろ単語を省略しすぎるから、こういうことになるのだ。
あと、それ以前に、なんで司令室にそんな設備があるんだという指摘もしておきたいw >フォルツ

ハヤカワ版(p174)
司令室にあらたに設置した防御装置を突破したにちがいない。

原文:
und sind in einer neukonstruierten Schutzvorrichtung in die Zentrale eingedrungen.

試訳:
新型の防護装備で司令室へ突入したのだ。

in die Zentrale はIV格なので、場所ではなく、進行方向を指す。
新設計の防御装備を身につけて(あるいは前面に押したてて)、司令室へ、突入した、のである。

ハヤカワ版(p176)
 報告する情報自体はわずかだが、

原文:
  Obwohl seine Informationen, die mit der Suche zusammenhingen, mehr als spärlich waren,

試訳:
 ロオクの持つ探索にかかわる情報はおそまつきわまりないが、

いま「艦長」でも、もともと下っぱなので、詳しいことは知らない。それでも、状況が厳しいことくらいは理解できる、ということだ。

ハヤカワ版(p177)
船体の表層部にある司令室からは三層階下にあるが、

原文:
genau drei Decks tiefer als die Zentrale an der äußersten Schiffshülle.

試訳:
司令室から三層階下の最外殻部にあるが、

カンマが打ってないのでわかりづらいかもしれないが、後述されているようにシャッターを開けると星空が見えるということは、観測室は船殻直下に位置するのだ。

ハヤカワ版(p178)
使えるものはなんでも使って、司令室から観測室までの距離を克服するつもりだ。自分自身の生命を犠牲にすることも厭わない。

原文:
Er fragte sich, ob er nicht unter Einsatz aller Mittel die Strecke von der Zentrale bis zum Bordobservatorium einmal bewältigen konnte. Diese Strategie kalkulierte das Opfer des eigenen Lebens ein.

試訳:
残る手段を全部つぎこめば、司令室から観測室までの行程を一度だけ・・・・ならこなせるのではないだろうか。自分の生命が失われることも計算のうえの戦略だ。

往路はあっても復路はない。ハヤカワ版、べつに何もまちがってはいないのだが。個人的に、原文でイタリックの einmal を活かしたいなあ、と思っただけだ。
あと、装備を並べつつ、いけるかな、生き延びること考えなきゃ、たどりつくだけはできるかな……と自問しているロオクはよりいっそう痛ましく見えるので。

ハヤカワ版(p181)
壁の裏にかくされた筋交いを乗りこえ、キャビンの床におりたった。

原文:
und kletterte über verbogene Verstrebungen und zerfetzte Wände auf den Boden des Raumes,

試訳:
ゆがんだ柱と裂けた壁とを足がかりに床へと這いおりた。

「歪んだ」 verbogen と、「隠された」 verborgen の読み違え。
まあ、位置的に元々は壁の裏にあった支柱=筋交いではあると思われる。

ハヤカワ版(p182)
マシン室を横切ると、その奥に非常用パイプ網のハッチのひとつがあった。
(中略)
マシン室をはなれ、船内に十二あるラボのひとつでパイプから外に出ると、ロオクはすこしほっとした。

原文:
Hinter dem Maschinenraum, den Rook nun durchquerte, lag eine von unzähligen Einstiegluken in das Notröhrensystem.
(…)
Rook war schon fast ein bisschen sorglos, als er den Maschinenraum verließ und das erste von insgesamt zwölf Schiffslabors betrat.

試訳:
横断中のマシン室を抜ければ、非常用パイプ網のハッチのひとつがある。
(中略)
マシン室を出て、全部で十二あるラボのひとつに踏みこんだとき、ロオクはわずかに気をぬいていた。

nun durchquerte 「いま横切っている」ので、まだハッチにはたどりついていない。マシン室の hinter 「後ろ」なので、通り抜けた先(ラボ)にハッチがある。そこで元ペットたちの封鎖部隊が待ちかまえていたのだ。

後の描写を見ると、このパイプ、移動は自由落下である(非常用だからか、機能停止されているのかは不明)。そして、3階層下へ移動するのに、まず1階層、次に2階層をこなしている。圧搾空気やフィールドを使用して横向きに移動できるかはともかく、必要量は2回の描写でじゅうぶん満たしている。

ハヤカワ版(p186)
〈おまえが進化を過小評価していたのは、ずいぶん昔の話だったな〉

原文:
≫Das ist lange her, du unterschätzt die Entwicklung, mein Guter.≪

試訳:
〈ずいぶん昔のことだ、きみは進化というものを過小評価している〉

「え、ここの連中原始人でしょ?」「おいおい、それずっと昔の話だから」である。だいたい、進化を過小評価していたエピソードって、ここまで訳して出てきたかい?

Guter は聖書等でいう「善き人」だが、ここではおそらく Mein guter Freund あたりと変わらない呼びかけ。シェールあたりがこういうの得意というか語彙豊富なのだが。

ハヤカワ版(p187)
〈いずれその者を呼びよせることになるだろう〉と、“それ”がいった。

原文:
  ≫Früher oder später≪, erwiderte ES, ≫werde ich dieses Wesen zu mir rufen.≪

試訳:
〈早かれ遅かれ、わたしはその存在をここに招くだろうがね〉

いずれ、というかこの後(結果的にだが)招くわけだ。
だいぶ前のめりになっているカルフェシュを揶揄していると思われる。

ハヤカワ版(p188)
カルフェシュが用心して、問題が起きないよう手をつくしたのだ……なにか起きるなら、できるだけ早く知りたかったから。

原文:
aber Carfesch hütete sich, nach den Schwierigkeiten zu fragen – er würde sicher früh genug davon erfahren.

試訳:
カルフェシュは問題点をたずねることを控えた――必要であればすぐ教えてもらえるはずだから。

直訳すると、「問題点をたずねることから、自分を守った(再帰動詞:警戒する)」、そして「まちがいなく、十分なだけ早く、そのことを知らされるであろう」。
要するに随伴者に対する信頼の証である。

かくして、第2の発見者の物語は、(読者以外の)誰にも伝わらずに幕を閉じる。
ジンカー・ロオクは、チャルタとは逆に、本来なら探索それ自体については何ら重要な役割を持たない存在であったが、“発見”という失われた同胞たちの目指した任務を、未知の“本部”へ報告できるのは彼のみという状況下において、おそらく自分自身でも想像しなかったであろう奮起を見せた。それは彼自身の生命を賭けたもので……たしかに彼は、その賭けに勝ったのだ。

“道具”……それも、本来の“用途”からは大きく逸脱した功をなしたジンカー・ロオク。彼もまた、フォルツの遺した愛すべきキャラクターのひとりである。
ちっぽけな存在が運命に抗い、やはりちっぽけな――第三者からすれば――勝利を得るというのは、フォルツの持ち味のひとつであり、やはりそういう意味でも、1000話はフォルツの集大成といえるだろう。

そして物語は、シリーズの主人公ではありながら、やはりちっぽけなひとりの人間にしかすぎない男に焦点を移す――第2の活性装置の潜在的保持者として発見された少年、ペリー・ローダンに。

「第3部 その男、ペリー・ローダン」へと続く。
GW明けあたりまでにはなんとかしたいが、ファンタスティーク大賞ノミネートとかもきそうなので、公開時期は未定ということで……。

1000話「テラナー」について (2)

1000話「テラナー」について、論じたりあげつらったり(笑)する本企画、2回目である。
まず、本来は第3部「その男、ペリー・ローダン」で扱う範囲だが、セリフをひとつ引用する。

ハヤカワ版(p201)
「説明しにくいんだけど……調和のとれた光の波。なにか不思議なものがあって、自分がその一部みたいに感じた」

原文:
≫Es ist schwer zu beschreiben≪, sagte er. ≫Eine … harmonische Woge aus Licht. Und das Eigenartige war, dass ich mich als Teil davon fühlte.≪

試訳:
「うまく言えないよ。あれは……光の波の、ハーモニーだった。それで、変なんだけど、ぼくもその一部だって、感じたんだ」

試訳はほぼ2004年に訳したそのまま。
円盤惑星でのつかのまの邂逅は記憶から消去される(※)が、“宇宙への窓”からのぞいた調和の世界へのあこがれは、少年ペリー・ローダンの胸の奥深くに刻み込まれた。
それは、約束された不死への、そしてその遥か先へといたる道程の切符だった。
しっかり記憶させる(p200)、は誤訳である。

第1部 大宇宙(の後継者)への道

通常、ローダン世界において「大宇宙」の意味で用いられるのは中性名詞 Universum (英:universe)、ウニヴェルズム級とかのアレである。あとは、映画『宇宙からのSOS』の「宇宙」は Weltall、“世界万有”だ。
宇宙船を Raumschiff と書くように、部屋・空間を意味する Raum も宇宙の語義で使われることもままあるが、だいたいは時空 Raumzeit のように“空間的広がり”の意がメインとなる。

さて、1000話での6章「宇宙への道」の原題は Die Straße zum Kosmos (英:cosmos)。この宇宙コスモスとは、ギリシア語の“秩序、宇宙、世界”に由来するもので、単に宇宙を意味するのではなく、秩序と調和のあらわれとしての宇宙……と書くと、ローダンのグラフィティを連想する方もいるだろう。
つまり、このあらすじは、調和ハーモニーを追い求めるローダンの、現時点でたどりついたひとつのゴールまでの道筋を述べたものだ。そして、その秩序コスモスとは、コスモクラートのコスモであり、コスミック・ハンザのコスモである。
#地に10本の聖剣があったり、オレの燃え上がったりするナニカではない。

以前マガンと話していた際、「Kosmische Burg って、訳は宇宙城でも意味的には“秩序の城”だよね」というネタがあった。コスミック・ハンザも同様の含みがあり、ローダンたちがコスモクラート陣営から離反した後は大方の役割を失い、最終的には解体されてしまう。フォルツ的にはもうちょい意味があったはずだと思うのだが、それはまた最終回で述べる。
あと、ハヤカワ版については、“宇宙”ハンザなのに“コスミック”・バザールなのも私的にポイント低い。どっちかに揃えようよ。

……超話題逸れたな(笑) 閑話休題。

第6章はこれまでのシリーズ999話のあらすじを、ハヤカワ版にしてわずか18ページに凝縮するという恐ろしいことを試みている。いきおい、アレコレとカットされているわけだが、それ以前のところで、フォルツが力点を置いているのが、ストーリーの大筋とちょっとズレているというか、単語の選択もかなりわかりづらい。むしろひどい(笑)
それを、ローダン読んでない人が訳せば当然、実際のストーリーとはかけ離れてしまうわけだが。

例えば、冒頭の「月までのはじめての飛行」は原語が zum ersten Mondflug で、字面を見ると正しい訳に思われるのだが、Mondflug von Apollo 11 と書くと「アポロ11号の月面着陸」であり、シリーズでは《スターダスト》以前に有人の月周回飛行がおこなわれていることを考慮すると、ここも月着陸と訳すべきだろう……しかし、原文見ちゃうと、一概に誤訳とも言い切れないのだ。合わせ技一本である、困った話。

今回は、まあ、シリーズの読者であれば違和感を感じたであろう箇所を中心に取り上げてみたい。

ハヤカワ版(p206)
そこには決定的な役割をはたす、大きな力を持ったなにかが存在するらしい。

原文:
in der es Mächte und Existanzformen gibt, die darin eine bestimmende Rolle spielen.

試訳:
そこには特定の役割をはたす勢力や存在形態がある。

そこ、とは“普遍的秩序(universelle Ordnung)”。人類世界を含むひとつの巨大な秩序体系の中に、そこにおいてある一定の役割をはたす諸勢力や(これまで見たこともない)存在形態(を持つものたち)がいる、のだ。
それは大群であったり、七強者たちであったり、超知性体であったりする。あるいは、クエリオン人(大群建造者たる36種族連合)や深淵の騎士。視点を変えれば、ロ……ルーワーやガルベッシュすらも、そうである。
カリブソの言う、「大宇宙にひろがるどんな種族も、特定の使命を得る」のだ。
(→ 時間超越 -10- part1

ハヤカワ版は勢力(Mächte)と力ある者(Mächtige)を読み違えたか、“存在形態”という漠然とした訳語を嫌ったか。でも後ろの方で使ってるけど。
あと、“特定の”とか“決定的な”を意味する bestimmend (bestimmen の現在分詞)は、最終回で取りあげる“天命(Bestimmung)”と同根の語。無理くり訳すと「天与の役割」とも読める。

ハヤカワ版(p207)
探検を指揮する瀕死の科学者クレスト

原文:
Crest, der todkranke wissenschaftliche Leiter der Expedition,

試訳:
死病に侵された、探検の科学的指導者クレスト

アルコン人には未知の死にいたる病、白血病のことである。まあ、実際瀕死でもあった(笑)

ハヤカワ版:
計画を実際に動かしている者たちも、その事実を遺憾に思ってなどいなかった。

原文:
eine Tatsache, die nicht zuletzt von den Teilnehmern dieses Mission zutiefst bedauert wurde.

試訳:
ミッションに参加するものたちこそが、誰よりも深くこころを痛めた事実だった。

nicht zuletzt は英語でいう not least、「特に、とりわけ」を意味する。原意的には、「一番最後じゃない」から転じて「一番最初に」みたいな。いちおー、ローダンたちは(とゆーか、宇宙開発を志す人々は)ゲドーじゃないよ、と言っているわけだ。
「ミッションの参加者」と「ミッションの運営者」的な意味の取り違えと思われる。

ハヤカワ版(p208)
人類の活力は宇宙開発に向けられ、すでに宇宙航行を開始していた、ほかのいくつもの文明の存在が明らかになった。

原文:
Es gelang ihm, die Aktivitäten der Menschheit auf die Erschließung des Weltraums zu lenken, Anstrengungen, die anderen Zivilisationen, die bereits Raumfahrt betrieben, nicht verborgen blieben.

試訳:
(ローダンは)人類の活力を宇宙開発へと向けることに成功するが、その努力は、既存の宇宙航行文明の注意をひかずにはおれなかった。

ハヤカワ版から消滅した「努力」とはその前段、「人類の活力を宇宙開発へと向ける」ことを指す。これを、隠しおおせなかった、というが文意。
宇宙航行文明(複数形)は、ファンタン人、IVs、トプシダーのこと。
まあぶっちゃけ、宇宙開発へと導かれた人類側の“冷たい”核融合爆弾によって破壊されたアルコン巡洋艦がSOSを発して、もろもろ露見してしまうわけだ。

ハヤカワ版:
異星種族の圧力の前に、ローダンは地球を破壊するとのブラッフを余儀なくされる。

原文:
Der Druck der außerirdischen Mächte wurde schließlich so stark, dass Perry Rhodan keine andere Wahl hatte, als mit einem Bluff die Vernichtung der Erde vorzutäuschen.

試訳:
地球外勢力の圧力は高まる一方で、ペリー・ローダンには地球破壊を装うというブラフしか選択の余地はなかった。

誤訳とは言わないが、なんとなく「それ以上近づくと、ち、地球破壊しちゃうぞ!?」的はったりに見えるのでw >ハヤカワ版

ハヤカワ版(p210)
さまざまな世界の宇宙航行種族が麻薬を求めて銀河系に蝟集してくる。

原文:
wurden viele Welten raumfahrender Völker in der Galaxis von Rauschgift überhemmt.

試訳:
(この銀河の)さまざまな宇宙航行種族の惑星が麻薬に席巻される。

リクヴィティフ禍の時点では、銀河間航行はまだ夢物語。in der Galaxis はIII格なので「その銀河(天の川銀河系)内の宇宙航行種族の惑星(世界)」。
ハヤカワ訳だと、あっちこっちの島宇宙から銀河系に集合しちゃいまっせー。

ハヤカワ版:
銀河系のなにもない空間で、

原文:
im galaktischen Leerraum

試訳:
銀河間の虚空で

まあ、ここはフォルツの選択した単語が特別ひどい。「銀河の虚空」だもんなァどう見ても。むしろハヤカワ版、最近の定番「空虚空間」にしてないだけ苦慮した訳という見方もある。
ただ、銀河と銀河の間の、という形容詞を想像しようとすると、galaktisch で正しい気もするのだ。

原文は、「銀河(のはざま)の虚空で荒れ狂う戦い(in eine im galaktischen Leerraum tobende Schlacht)」に巻き込まれるというもので、ポスビとローリンの暗闘の舞台は、やはり銀河間と考えるべきではある。

ハヤカワ版(p211)
銀河系に存在する非ヒューマノイド種族の帝国

原文:
eines zweiten galaktischen Imperiums,

試訳:
第二帝国

第二の銀河帝国……とやるよりは、固有名詞使った方がわかりやすいかな。
以下余談だが、Perrypediaを参照すると、ローダン宇宙におけるブルー族はヒューマノイド扱いである。皿頭だけど。まあ手足2本ずつだわな……。
つーか、1800話台でのフォーラム・ラグルンドの説明って、「テラ・アルコンに対抗する非ヒューマノイド種族中心の同盟」って言ってたよね!? ブルー族だけじゃなくてアコンもでかい顔してるのになあとか思ってたよ当時(笑)

ハヤカワ版:
数年をへるうち、人類は多くの植民惑星で自給自足できるようになっていく。

原文:
Im Verlauf vieler Jahre strebten immer mehr von Menschen gegründete Kolonien auf anderen Planeten nach Autarkie.

試訳:
数十年を経るうち、人類の植民惑星の多くで独立をもとめる動きが顕著になっていく。

autark はたしかに自給自足だが、大文字のAutarkieだと閉鎖経済(鎖国)とか自立とかの意味合いが大きい。どんどん、たくさん、自立にむかって、努力する、のだ。
だいたい、自給自足がいきすぎて犯罪行為ってなんやねん(笑)

このへんはプロフォス編以外、ヘフト本編ではあまり扱われないが、ATLANシリーズ第1部「人類の委託を受けて」後半(西暦2800年代が舞台となる)で繰り返しテーマとなる。

ハヤカワ版(p213)
アトランは決闘により、この権力に憑かれた、かつて愛した女性を倒した。

原文:
Atlan gewann das entscheidende Duell gegen eine machtbesessene Frau, zu der er bereits Zuneigung gefasst hatte.

試訳:
アトランは、権力に憑かれたこの女性を愛しながらも、決闘のすえ倒した。

誤訳っつーか……なんか、昔の女みたいなんだもの(笑)
その女性に対して・すでに・好意を・抱いていた、なので、現在進行形である(ぁ

ハヤカワ版(p214)
ローダンのドッペルゲンガーとしてあらわれた男のおかげでかろうじて踏みとどまった。

原文:
Ein Mann, der als Doppelgänger Rhodans auftrat, konnte schließlich den völligen Niedergang verhindern.

試訳:
ローダンの影武者となる男の登場が、かろうじて完敗を阻止したのだった。

まあドイツ発SFだから、ドッペルゲンガーでもええのかもしれんけど。ここはダブル(替え玉)の意味合いをわかりやすくした方がいいんじゃないかな。

ハヤカワ版:
超空間にある巨大ロボットの武器庫

原文:
das Arsenal der Giganten im Pararaum

試訳:
超空間にある巨人の武器庫

巨大ロボット(オールド・マン)のではなく、巨人たち(時間警察)の武器庫である。

ハヤカワ版:
《クレストIV》とその乗員はようやく救援に駆けつけるが、

原文:
gelang es schließlich, der CREST und ihrer Besatzung Hilfe zu schicken.

試訳:
《クレストIV》とその乗員へ援助を送ることにようやく成功した。

フラグメント船の決死隊のこと。
アルコン人Crestは男性だが、艦名CRESTは女性名詞なので、上記例文の der CREST はIII格。
なお、この時点で《クレストIV》は銀河系に戻ってこない。

ハヤカワ版:
その姿を見たウレブは、テラナーにハルト人を殲滅させる作戦を急遽変更し、直接介入してきた。

原文:
Ihr Auftauchen forderte das unmittelbare Eingreifen der Uleb heraus, die die Vernichtung der Haluter durch die Terraner verlangten.

試訳:
ハルト人の登場はウレブの直接介入を招き、テラナーによるハルト人殲滅が要求として突きつけられた。

関係代名詞 die がウレブ(複数形)のことで、彼らはテラナーによるハルト人の殲滅を望んだ、である。

ハヤカワ版(p215)
これらの勢力圏が地球と対立を深めたため、三四三〇年、太陽系は時間バリアのなかに姿をかくす。

原文:
Diese von Menschen gegründeten Machtblöcke schlossen sich zu einer Aktion gegen die Erde zusammen, doch die Angreifer stießen im Jahre 3430 ins Leere, als das Solsystem in einem Zeitfeld verschwand.

試訳:
これら人類が打ち建てた権力ブロックは地球攻撃のため手をむすぶが、三四三〇年、ソル星系が時間フィールドにかくれたため空振りに終わった。

歴史的にはまちがってないんだけど、原文と照らし合わせると、なんだかオブラートに包んだような訳になっている(笑)

ハヤカワ版:
だが、その後コレッロはローダンの味方になり、

原文:
Es gelang, Corello zu einem positiv handelnden Menschen zu machen

試訳:
コレッロをポジティヴな人間とすることに成功し、

まあ……洗脳ってポジティヴじゃないっスよね……(汗)
でも、この後、宇宙はポジティヴとネガティヴに満ち溢れてるんだよー、という話に持っていくわけだから、この単語を消去するのは得策ではないと思われ。

ハヤカワ版(p216)
予定から一ヵ月遅れで

原文:
Monate später als geplant

試訳:
予定から何ヵ月も遅れて

実際には、ほぼ丸3年である。えーと……2年と11ヵ月?

ハヤカワ版:
事態は急迫し、太陽系は地球ともども大群にのまれそうになる。

原文:
Die Entwicklung spitzte sich dramatisch zu, als das Solsystem mit der Erde ebenfalls vom Schwarm aufgenommen wurde.

試訳:
太陽系もまた地球ごと大群に併呑され、事態は急展開をむかえる。

のまれそう、ではなく、のまれてる。
だからこそ、以降、大群内部での作戦が可能となるわけで。

ともあれ、ローダンはここではじめて、大宇宙に存在する「特定の役割を果たす」何かの片鱗を体験する。大群と建造者(クエリオン人)・管理者(サイノス)については、アラスカ・シェーデレーアの(意図せざる)協力もあって、多少の知見を得るが、その全体像は依然闇の中である。

ハヤカワ版(p217)
多くの人々は、それまでの発想を捨てることができなかったから。

原文:
Andererseits konnte man nicht auf seine Einsicht in die Zusammenhänge verzichten.

試訳:
一方で、関連を洞察する彼の才能は不可欠なものとみなされた。

アイツ何言ってんだかわかんねーけど、困ったこと起きたときは便利だよなー、である。これでは政治危機を回避しても、一般大衆との溝は埋まらない。
英雄と言うより、学級委員を押しつけられたとゆーか。宇宙いいんちょ(はあと) ペリーヌ・ローダン…幸うすそうw

ハヤカワ版(p218)
新型エンジンの試験のため、ローダンは《マルコ・ポーロ》で並行宇宙に向かった。

原文:
Bei Experimenten mit einem neuen Antrieb wurde die MARCO POLO mit Perry Rhodan an Bord in ein Paralleluniversum geschleudert.

試訳:
新型エンジン実験の際、ローダンを乗せた《マルコ・ポーロ》は並行宇宙へはじきとばされる。

ニューガス=新型燃料対応エンジンであって、別に異宇宙間駆動じゃあないよね。
schleudern は、カタパルトで打ち出すイメージか。投げ出される、も可。

ハヤカワ版:
ゼロ時間デフォルメーターを使い、過去のローダンに警告することで、PAD病の発生は回避された。

原文:
Ein zweites Mal musste Rhodan das Paralleluniversum aufsuchen und seinen negativen Doppelgänger ausschalten.

試訳:
“再試行”時のローダンは、並行宇宙を訪れ、ネガティヴなコピーを自らの手で抹殺することを余儀なくされた。

「ネガティヴ」は残す形にしてほしかったのは、コレッロのケースと同じ。
正直、文章としてはハヤカワ版の方が遥かにわかりやすい。まあ、日本語で作文しているんだから、当然といえよう。原文にはゼロ時間デフォルメーターの名称すら出てこないので、時間修正がおこなわれたことすら明確ではない。

ただ、このあたりになると、フォルツが単純にストーリーのおさらいをしているわけではないことがわかってくると思う。キモは、ローダンの戦いなのだ。

ハヤカワ版(p222)
人類は古くから存在する宇宙的な力の争いに巻きこまれていることに気づかないまま、この対立を解消する道を模索する。

原文:
Ohne zu ahnen, dass sie sich damit endgültig in die Belange uralter kosmischer Mächte einmischten, suchten die Menschen nach positiven Lösungen dieses Konflikts.

試訳:
それにより、ついに太古からつづく宇宙的勢力の利害に踏みこむことを予感すらせぬまま、この紛争のポジティヴな打開策を探しもとめる。

今回ばかりは、巻き込まれるのではなく、自分から首を突っ込んでしまったんである。当初こそ失われた地球を探しあてるという理由があったし、超知性体〈バルディオク〉のもとへ誘拐されたあたりになると、巻き込まれたと言えなくもないけれど。
なお、ここでも「ポジティヴ」は不要として削られてしまっている。

ハヤカワ版(p223)
強者は物質の泉の彼岸という、謎めいたべつの時空連続体からきていた。そこにいる存在が、アインシュタイン宇宙の生命と知性の発展を操作しているらしい。

原文:
Die Terraner fanden heraus, dass Mächte aus einem anderen Raum-Zeit-Kontinuum, das hinter den geheimnisvollen Materiequellen lag, offenbar steuernd auf die Entwicklung von Leben und Intelligenz im Einstein-Universum eingriffen.

試訳:
テラナーたちは、謎に満ちた物質の泉の彼岸にあるという、別の時空連続体の勢力が、明らかに指導的立場でアインシュタイン宇宙の生命と知性の発展に介入していたことをつかむ。

またしても「勢力」と「強者」の読み違えである。
強者の製造工場はケモアウクによって発見されており、この宇宙の産であることは確実。

ハヤカワ版:
だが、めったにかれを裏切ることのない本能的直感は、宇宙的意味についての洞察が、これからますます深まるだろうと告げていた。

原文:
Sein Instinkt, der ihn selten getrogen hatte, sagte ihm jedoch, dass er mehr und mehr Einblick bekam in eine ursächliche Auseinandersetzung von universeller Bedeutung.

試訳:
とはいえ、めったにあやまつことのない彼の本能が、宇宙的意味を持つ根元的対決への洞察を今後も得ていくだろうと告げていた。

ursächlich は「原因の、因果の」。フォルツ宇宙においてもろもろの根源となっている、相反するものとは、すなわちポジティヴとネガティヴである。
神話においては、往々にして善神と悪神の対立の構図が見られる。これは後に、無限アルマダをめぐる抗争の中で、秩序と混沌の両勢力の争いとして顕在化する。

かくして少年は、かつて夢に見た調和の源――と思えるもの――へとたどりつく。まあ、最終的なところは、〈それ〉との対話を経ないと理解が及んでいないのだが。
この宇宙はポジティヴな力とネガティヴな力の係争の場であり、自分がどちらに与するかは自明でもある。しかし、ひとつのゴールに到達したことで、ローダンは目標を見失い、鬱屈した日々をすごすことになる……のは、第3部あたりに譲ろう(笑)

フォルツ宇宙は必ずしも厳格に二元化されたものではない。ポジティヴとネガティヴは、善悪とイコールではないからだ。
セト・アポフィスはローダンたちから見て「敵」ではある。しかし、彼女自身は、自分がどこでどうまちがえたのかわからないまま、溺れそうになってあっぷあっぷしているだけなのだ。

作中で positiv、negativ がどのくらい使用されているか数えてみたら、それぞれ8回と7回だった。意外と少ない……と思うかもしれない。しかし、1000話が出た1980年当時には、姉妹編ATLANシリーズが「暗黒銀河」サイクルのクライマックスを迎えようとしていたことを忘れてはならないだろう。
ネガティヴな超知性体としては、セト・アポフィスに先駆けて〈闇の伯父〉が登場し、それ自体がかつて存在した〈イェフェナス〉の負の側面……ネガティヴな断片であったことが物語られている。

シリーズにおけるポジティヴとネガティヴの闘いは、やがて秩序の勢力と混沌の勢力の主導権争いに場を譲るが、これもまた、善と悪との闘いでは、けっしてない。
それゆえに、ゴールと思われたものは淡くも夢のように消え去るのだが……それはまた、別の物語である。

「第2部 抗う歯車たちの肖像」に続く。
次回は、ちょっと間が空くと思われるが、巻頭に戻り「機械にすぎない(p139)」人々の探索についての予定。

1000話「テラナー」について (1)

今回のお題は、今更ながら1000話「テラナー」である。
2015年7月、ハヤカワ版ローダン500巻『テラナー』が刊行された。以前850話「バルディオク」を取り上げた際にも書いたが、ローダン・シリーズの流れ的に、フォルツ・ストーリーはここにひとつの集大成を迎える。次のクライマックスというべき、セト・アポフィスとの対決から無限アルマダ編の決着を見る前にフォルツが急逝してしまうため、あるいは、ここがひとつの終着点であるともいえる。

そんなわけで、一フォルツ・ファンとして、今回の翻訳と、「テラナー」それ自体について、いくつか述べてみたい。

はじめに テラナーへ贈る物語

1000tibi.jpg
© Pabel-Moewig Verlag GmbH, Rastatt

ローダン・ヘフト1000話の表紙には、こう書かれている。

Der Terraner
Die kosmische Bestimmung der Menschheit

人類の宇宙的天命、と、ここでは訳しておく。
1000話「テラナー」は人類の天命の物語である、とだけ憶えておいてもらいたい。その詳細については、最終回で述べる。

2004年にわたしが「テラナー」を翻訳した際の底本である原書第2版には、冒頭、2つの引用文と並んで献辞が置かれていた。

ウィリアム・フォルツより、
ペリー・ローダン読者と、
善意を抱くすべての人々へ捧ぐ

原文:
William Voltz gewidmet,
den Perry Rhodan-Lesern
und allen, die guten Willens sind.

電子書籍版では、なぜか“ウィリアム・フォルツより”の部分が省略されたが、ちゃんと1ページ使って掲載されている。
まあ、ぶっちゃけスペースが足りなかったのだろう、ハヤカワ版は。しかし、だ。

本書「テラナー」は、やや特殊な位置づけを持った巻である。〈コスミック・ハンザ〉(※)サイクルの第1話目でありながら、作中の時間は前サイクルを引き継ぎ、ハンザ創設と新銀河暦導入に象徴される新時代の到来を受けて、次の1001話(実質的には1007話)で420年の時間ジャンプをおこなっている。
(※)なぜ「宇宙ハンザ」でないかは、やはり後述する。

第6章「宇宙への道」が超駆け足ながらシリーズ999話分のあらすじであることから、前後と隔絶した本書は、単独でも読める。というより、フォルツはこの1話に、“彼にとってのベリー・ローダン”を凝縮したのだと思う。

各章間に挿入されるグラフィティは、最後のものを除いては、ローダン世界ではない、われわれの同時代人の人生の断片が描かれる。一部に実在の人物と同名の例もあるが、直接の関係はない。あくまで個々の“テラナー”だ。
彼らと、彼らの周囲の人々が直面する問題は、本書が出版された1980年当時も現在も変わらず人類の抱える命題である。

(1) 戦争・内乱(タウ・スン・ヘン)
(2) アパルトヘイト(クドロ)
(3) 先住民の強制移住(スタンディング・ベア)
(4) 人権弾圧(ペドロ・アルメンダリス)
(5) 死の商人(J・ウォーカー)
(6) 公害(ウォルター・ハンセン)
(7) 麻薬(ジョッド・ケラー)
(8) 家庭内暴力(ロジャー・マンド)
(9) マスコミによる情報操作(J・チャンドラー)
……最後のは、ちょっと苦しいか(汗)

フォルツがこのグラフィティ形式を取ったのは、理想と現実、あるいは空想フィクションと現実の境界を曖昧にするとともに、ペリー・ローダンがシリーズ当初から抱く理念――全人類を“テラナー”とし、宇宙への道を踏み出すことを、もう一度問いかけるためではなかったか。
以前書いたことと重複するし、最終回でも取り扱うので詳述は置くとして、胸に秘めた天命に焦がれる気持ちにしたがうことで、誰もが“テラナー”たりえると、そう訴えるためではなかったか。
(→ わしがテラナー、ペリー・ローダンであるっ

心に善を抱くすべての人々――そう、1000話「テラナー」は、すべての“テラナー”に贈られた物語、であるのだと思う。
そう考えると、この献辞は削除してはいけないものなのだ。
言い方を変えると、本書「テラナー」は、献辞・引用文・グラフィティ・本編のすべてが組み合わさって、独立したひとつの物語を構成している。粗末に扱ったらバチがあたるのだ(笑)

と、まあ、最初からヨタをとばしている感が半端ないが、ここから順を追って――いや、まずは主人公ペリー・ローダンのこれまでの道のりをもう一度ふりかえるところからはじめていこう。

「第1部 大宇宙(の後継者)への道」に続く。
次回はだいぶ、いつものごやてんらしくなっているはずであるw

クルト・ラスヴィッツ賞2017年ノミネート作一覧

3月31日付け、ラスヴィッツ賞の公式サイトで、ノミネート作品の公開と、投票権を持つSFプロパーな皆さんへの通知が完了した旨の公表があった。
受賞作の発表は6月近辺。授賞式は11月4-6日にドレスデンで開催されるSFシンポジウム・ペンタコンにて開催される。日程については、犬のライカ嬢がスプートニク2号で宇宙飛行してから今年が60周年に当たることを記念して、みたい。

ノミネート作品は以下のとおり:

長編部門Bester deutschsprachiger SF-Roman:

Arne Ahlert / Moonatics / ムーナティクス
Andreas Brandhorst / Omni / オムニ
Christopher Ecker / Der Bahnhof von Plön / プレーンの駅
Marc Elsberg / Helix – Sie werden uns ersetzen / 螺旋――我々を置き換えるもの
Horst Evers / Alles außer irdisch / 地球以外すべて
Matthias Falke / Sternentor – Enthymesis 5.3 / 星の門
Frank Hebben / Im Nebel kein Wort / 霧の中ことば無く
Jo Koren / Vektor / ヴェクター
Karsten Kruschel / Das Universum nach Landau / ランダウ後の宇宙
Jens Lubbadeh / Unsterblich / 不死
Gabriele Nolte / Blumen vom Mars / 火星の花
Karla Schmidt / Die Neunte Expansion 11: Ein neuer Himmel für Kana
    / D9E:カナの新しい空
Thomas Thiemeyer / Babylon / バビロン

アルネ・アーレルトの『ムーナティクス』は、ルナティックのもじりだろうが、月面のヒッピー文化がどうとかいうあたり、狂人というより変人たちを意味してるのだろう。
地球が異常気象やテロにより安全な場所とはいえなくなった近未来。親の遺産が転がりこんだウェブデザイナー、ダリアン・カーティスは、3週間の休暇を月ですごすことに。それは彼の人生で最大にして最狂の冒険のはじまりだった……。

ブラントホルストの『オムニ』は、カンタキ物ではない、独立した長編。
伝説の星・地球で1万年前に生まれたアウレリウスは、銀河系の超文明連合体〈オムニ〉へのアクセス権を有するわずか6名の人間のひとり。その彼が最後の任務として与えられたのは、超空間に座礁した宇宙船クリタニアにあった謎のアーティファクトがよからぬ者の手に渡るのを阻止することだった。
一方、その“よからぬ者”たちの方もすでに手を打っており、工作員フォレスターは娘のジノベルと共に、アーティファクト入手とアウレリウス誘拐という使命を授けられていた。
しかし事態は急展開を見せ、いつしか3人は全人類の未来を脅かす、先の見通せないゲームへと巻き込まれていく……。

ホルスト・エヴァースの『地球以外のすべて』は、なんかすごくB級の香りがする。
ベルリン・ブランデンブルク空港は延期を重ねたすえに、ついに開港した――7.34秒だけ。巨大な宇宙船が落下してきて、滑走路3本すべて押しつぶしたのだ。侵略者は、長い宇宙飛行を厭い、オンラインで指示を下して、形態可変カメレオン・ソルジャーを送り込んできた。さあタイヘン。
「おまえにもいいところが沢山あるのよ!」と母親だけは言ってくれる……即ちこれといって特長のない三十路男ゴイコ・シュルツ。なぜか彼が人類の最後の希望となった。気分屋のバイク便のおねーちゃんと、ロシア人のタイムトラベル研究家という珍妙な一行がめざすのは、惑星間消費者裁判所――もちろん、強大な敵はこれを阻止せんとするが。

マティアス・ファルケの『星の門』は、Enthymesis 5.3とあるように、エンテュメシス宇宙を舞台にしたシリーズ第5部3巻の意。ここまで三部作が5つと番外編が1冊。けっこーな長さである。昨年もノミネート作品を紹介していて、母船が《マルキ・ド・ラプラスIII》になっている、みたいなこと書いてるが、また新造艦がどーとかいっている。消耗率激しいなっ。

クルシェルの新作『ランダウ後の宇宙』は、Vilm宇宙を舞台にする連作短編集、なのかな。
バイオテクノロジーの事故から植物相が暴走したり。謎のパワーが惑星から惑星へ、乗っ取ったり破壊したりしながらやってきたり。いろいろな危機が人類を襲う……けど、なんとか生き延びていく人間たちの姿を描く……のか?(笑)

イェンス・ルバディーの『不死』は、VRインプラントによって人々の意識体が完全にコピーされ、擬似的不死を実現した未来のお話。この技術は過去の人間をも復元することに成功しているのだが、現代(作中の)にスターとして返り咲いたマレーネ・ディートリッヒが、ある日忽然と消え失せた。調査に当たった保険会社のアジャスター、ベンジャミン・カリは、いつしか自分が殺人的な、猫が鼠を弄ぶようなゲームへと踏み込んでいたことを知る……。

ティーメイヤーの新作『バビロン』は、ややホラー寄りっぽい内容。
人類の揺籃、メソポタミア地方――イラン・イラク国境地帯。億万長者ノーマン・シュトロームベルクによって送り込まれたハンナ・ピータースとジョン・エヴァンスの考古学者夫妻。彼女たちのチームが調査する遺跡は、ピラミッド状の構造物から、延々と螺旋を描いて地下深くつづいていた。その最奥で一行がめざめさせたものは、先史時代のメカニズムか、はたまた復讐に憑かれた神か。それは人類の終焉を告げるもの……。

短編部門 Beste deutschsprachige SF-Erzählung:

Dirk Alt / Die Stadt der XY / XYの都市 (Exodus34号収録)
Gabriele Behrend / Suicide Rooms / 自殺部屋 (Exodus35号収録)
Andreas Eschbach / Acapulco! Acapulco! / アカプルコ!アカプルコ! (Exodus34号収録)
Marcus Hammerschmitt / Vor dem Fest oder Brief an Mathilde
    / 祭の前 あるいは マチルデに宛てた手紙 (Nova24号収録)
Michael K. Iwoleit / Das Netz der Geächteten / 無法者のネット
    (『ゲーマー』Gamer 収録)
Hubert Katzmarz / Thuban / 蛇の頭トゥバン (Zwielicht Classic 10号収録)
Niklas Peinecke / Emukalypse / 模倣エミュ示録 (『ゲーマー』Gamer 収録)

ノミネート作品のかなりがドイツSF大賞と重複している。
あちらでは書かなかったが、「XY」は染色体のことかと思ったら、「くわしく描写されないけど、前の戦争で殲滅された敵のこと」らしい。敵を滅ぼし尽くして住む者のなくなった都市へと移住してきた人々のお話なのだ。まあ、序盤でそう書いておいて、グルッと回って染色体に戻ってたりするのかもしれないが(笑)

トゥバンとはアラビア語で“蛇の頭”……りゅう座α星を意味する。

「模倣示録(もほじろくw)は、アポカリプスのエミュレーション、とかそーゆーのを想像した訳題である……のだが。全宇宙が8bitゲームフィールドに組み替わっちゃったゾ! みたいな話らしい。ちょw ノリは懐ゲーか。模倣にエミュってルビ振らなくちゃw
ゲーマー・スラング満載なんだとか。後学()のために一度見てみたいもの。

海外作品部門 Bestes ausländisches Werk zur SF:

James L. Cambias / Meer der Dunkelheit / A Darkling Sea / 昏い海
Becky Chambers / Der lange Weg zu einem kleinen zornigen Planeten
    / The long way to a small, angry planet / 小さな怒れる惑星への遠い道
Peter Clines / Spalt / The fold / 折り目
Cixin Liu / Die drei Sonnen / The Three-Body Problem / 三体
Sylvain Neuvel / Giants / Sleeping Giants (Themis Files #1) / 眠れる巨人たち
Nnedi Okorafor / Lagune / Lagoon / 潟
Kim Stanley Robinson / Aurora / Aurora / オーロラ
Adrian J. Walker / Am Ende aller Zeiten / The End of the World Running Club
    / 世界の終わりの陸上部
Jo Walton / Das Jahr des Falken / Half a Crown
    / バッキンガムの光芒 ― ファージング3

劉慈欣(Liu Cixin)は中国のSF作家(本業はエンジニア)。2008年のSFマガジンに短編「さまよえる地球」が訳出されたことがある……らしい。『三体』は《地球往時》三部作の1作目で、英訳されて2015年ヒューゴー賞も受賞している。ネット記事を見ると、オバマ前大統領が休暇中にコレ持ってるとこを目撃されているとか変な話題もある(笑)
どんな話なのか、ネットの断片だけだとさっぱりわからんのだが(英語版Wikiに詳細なあらすじあるけど読んでない^^;)。文化大革命と並行して進行した極秘のエイリアン探査計画だとか。アルファ・ケンタウリ系(独題の“3つの太陽”とはこれのこと)の惑星トリソラリスの種族がこれによって地球侵略を思い立つとか。科学者の網膜に映る謎のカウントダウンとか。「地球の過去の記憶」とゆーテーマを聞くと、個人的には『僕の地球を守って』……じゃないw 『未来のうてな』を思い出すなあ。
#昨今だとRewriteであるべきなのだろーか。

『世界の終わりの陸上部』は――別に、部活動の話なわけではないのだが。
35歳のエドガー・ヒルにとって、世界はすでに終わったようなものだった。でぶでのろまで。夫としては並以下。父親としても落第点。そんなある日。隕石の落下に伴う大災害で、彼の世界は急にシンプルになった。
家財引き上げのためにシティへ向かい、エジンバラの被災地キャンプへ戻ったとき、エドはそこに家族の姿がないことを知る。多国籍救助隊とともに、南岸へと疎開したというのだ。すべてを失ったエドは、おのが足だけで、家族のもとへと走り出した……。
途上、さまざまな社会不適格者たちと出会い、自身の欠点と向き合い、やがて旅の終点でエドを待っているのは、いったい何なのだろうか。これ、舞台背景はとってもSFだが、主眼は英国縦断人間ドラマだよなあ。

■KLP公式:Kurt Laßwitz Preis