NEO第3期はいよいよあの“島”へ

早川のサイトでイメージイラストが公開されたりして、ごやてん跡地にもNEOで検索してやってくる方が増えている昨今。やや【亀】マークの付きそうなネタであるが、本国ドイツでのNEO第3期についての告知をば。

NEO第1期(1-100巻)はフランク・ボルシュ草案、同第2期(101-150巻)はM・H・ブーフホルツとリュディガー・シェーファー草案。先ごろ亡くなったブーフホルツの後を受けて、ライナー・ショルム(Rainer Schorm)がシェーファーと新草案コンビを組むことになった。
1965年生まれというから、わたしと同い年なのだが、すでに10歳前後にはUTOPIA叢書のキャプテン・フューチャーの翻訳などをむさぼるように読んでいたというから、SF者としてのキャリアは明らかにあちらに軍配があがる(笑)
作家であり、グラフィック・デザイナーであるショルムだが、ビブリオグラフィーを見ると、ケルター社の女性向けサスペンス・シリーズ〈ガス灯(Gaslicht)〉やホラー・シリーズ〈鬼火(Irrlicht〉を主に手がけていたみたい。
ローダンNEOには70巻『ナート人の蜂起』からの参加で、以後およそ2割程度を執筆している。

そして、新草案コンビの構想による最初のシュタッフェルは〈第二の島(Die zweite Insel)〉……第一期人類であるリドゥーリの言語でアンドルミダ、ないし“第二の島”と呼ばれる島宇宙とは、すなわちアンドロメダである。
アルコン帝国を事実上支配していた〈摂政〉の正体が島の王レグナル・オルトンであったことは、過去の紹介記事でも書いたとおりだが、ようやくその伏線が回収される日がやってきたことになる。

NEO第2期のシュタッフェル(ヘフト版のサイクルに該当):
10. Die Methans / メタンズ (101-110巻)
11. Die Posbis / ポスビ (111-120巻)
12. Arkons Ende / アルコンの最期 (121-130巻)
13. Meister der Sonne / 太陽の支配者 (131-140巻)
14. METEORA / 〈メテオラ〉 (141-149巻)

150巻は形としてはメテオラ・シュタッフェルに属するが、草案作家シェーファーによるそのタイトルは『アンドロメダへの跳躍(Sprung nach Andromeda)』である。

メテオラ編は、〈それ〉によって射手座矮小楕円銀河へと誘拐されたローダン、アトラン、NEOオリジナルキャラであるテュイレ・シタレーの3人が、正体不明の〈メテオラ〉を探してグラドの巡礼と旅をするまったり展開みたいなのだが、どのへんで事態が急転直下するのだろうか(笑)

余談だが、24巻『永遠の世界』で〈それ〉から細胞活性装置を与えられながら、それを拒んだローダン(クレストに譲った)だが、アトランやシタレーら不死者たちとの交流を経て、ついに活性装置を身につけることを決意する……らしい(145巻)。
NEO宇宙では、細胞シャワーも活性装置も、第一期人類であるリドゥーリが開発したもので、彼らの許可を得て細胞シャワーを利用できるみたい。

■公式News:In PERRY RHODAN NEO startet »Die zweite Insel«
■公式News:PERRY RHODAN NEO zum Staffelwechsel
■Perrypedia:Rainer Schorm

ファンタスティーク大賞2017年ノミネート作一覧

すでに5月1日から本選がはじまっている(投票期限は6月15日)が、今年のファンタスティーク大賞のノミネート作品が公開された。サウンドドラマ部門とコミック部門が新設され、全10部門。
今年は9月2・3日にオーバーハウゼンで幻想文学大祭〈ファンタスティカ2017〉が開催されるのを踏まえ、表彰式は2日に2時間枠を取ってあるらしい。

ノミネート作は以下のとおり:
※例によって、全10部門中、長編・短編・翻訳・新人の4部門のみ掲載

長編部門 Bester deutscher Roman:

Kai Meyer / Die Seiten der Welt: Blutbuch / 世界の頁 <3>:血脈の書
Katharina Seck / Die silberne Königin / 白銀の女王
Carina Zacharias / Emba – Magische Wahrheit / エンバ <2>――魔力の真相
Tommy Krappweis / Ghostsitter, Band 03: Hilfe, Zombie-Party!
    / ゴーストシッター <3>:助けてゾンビー・パーティ!
Markus Heitz / Wédora – Staub und Blut / ヴェドラ <1>――砂塵と血

カイ・マイヤーの『世界の頁:血脈の書』は、世界の頁三部作の完結編。
一族の土地にある無限図書館で、自分の魂の書物を探していたフーリア・サラマンドラ・フェアファックス。ところが弟が誘拐され、その足跡をたどって〈失われた本屋の街〉リブロポリスへ、さらに〈夜の逃場〉との境界へと旅をつづけるうちに、放逐された女盗賊キャットや叛逆者フィニアンという仲間たちを得る。やがて3人は、書物占いの支配者たちと、あらゆる書物の消去をめぐる戦いに巻き込まれていく……というのが、第1巻(笑)
第2巻でフーリアたちが戦う、書物の魔法世界を統べる独裁者たちの〈聖域〉が滅び、めでたしめでたしかと思われたのもつかのま、世界の頁のはざまの黄金の奈落からわき出るイデアによって各地が呑み込まれていく。世界を救う唯一の方策、忘却の淵に沈んだ祖父カシウスの秘法を求め、フーリアは無限図書館の深淵に向かう……みたいな話になるらしい。

カタリナ・ゼックの『白銀の女王』は作者2作目の長編。この3月に開かれたライプツィヒ書籍見本市でセラフ幻想文学賞を受賞している(2年前には『世界の頁1』が受賞)。
冬の景観が美しい都市ジルベルグランツ。だが、この土地は、ここ何十年も冬“だけ”が続いていた。実際のところ、雪に埋もれて窒息しそうなのが現状である。そんなある日、24歳のエマがマダム・ヴェルトフレムトのチョコレート・ショップを訪れ、ひとつの物語を語りだした時から、すべてが変わりはじめた。それは、冬の呪いと、冷酷な国王と、そしてエマ自身の物語……。

カリナ・ザカリアスの『エンバ――魔力の真相』は、同名の少女を主人公とした2巻物の後編。
その世界には純粋なエネルギーから成る魔物〈ルナール〉が跳梁しており、人間社会を動かすエネルギーは彼らを狩ることでのみ得られた。ルナール・ハンターに憧れる18歳の少女エンバは幸運にもパントレアスのハンター学校の入学試験に合格する。だが、その直後大事故にまきこまれ……。
何者かの〈プラン〉の要となった少女が、すさんだ生活に身を落としつつ、その魔力の使い方を学んでいく――って、ファンタジーつーか改造人間ものか?

トミー・クラップヴァイスの『ゴーストシッター3:助けてゾンビー・パーティ!』はジュブナイル・ホラーファンタジー・シリーズの3巻目。モンスターを満載した幽霊列車を遺産として継承してしまった14歳の少年トムが主人公。3巻では、目前に近づいたゾンビーのウォンビーの誕生日――命日――のお祝いにアタマを悩ませる。ちゃんとした手順を踏んで儀式をおこなってやらないと、ウォンビーは二度と目をさまさなくなってしまうのだ! おまけに、唯一その儀式を知っている吸血鬼は、血の吸い過ぎでハムスターに変身してしまっているし……。
作者は90年代後半のドイツで一世を風靡したコメディ番組の脚本家であり出演者でありカメラマンでもあったという。ビー○たけしか(笑)

常連マルクス・ハイツの『ヴェドラ――砂塵と血』は新シリーズの第1巻。
広大な砂漠のまんなかに構えられた城塞都市ヴェドラ。砂の海をとりまく15の諸国からの交易路がこの一点で交錯する。キャラバンや商人、旅人が水と安全とを求めて集う。
しかし、いまヴェドラは戦さを目前にしていた。この地を一大交易地となさしめる要因となった、尽きせぬ泉の洞窟は、かつて砂漠の民の聖地であったという。どこからともなく再来した砂海の氏族が強襲をかけてきたのだ。
そんなヴェドラで出会った、ならず者リオタンと官憲側の女性トメイヤ。彼らは、たまたま持っていたある能力のため、あっという間に嘘と陰謀の網へ取り込まれる……。

短編部門 Beste deutschsprachige Kurzgeschichte:

Andreas Eschbach / Acapulco! Acapulco! / アカプルコ! アカプルコ!
Faye Hell / Cock Sucking Porno Vampires from hell
   / 地獄から来たコック・サッキング・ポルノ・ヴァンパイア (Fleisch 4 収録)
Thomas Finn / Meister Calamitas’ erstaunliche Kuriositäten
   / カラミタス師の驚嘆すべき好奇心 (Aus dunklen Federn 2 収録)
Nora Bendzko / Wolfssucht (Galgenmärchen 1) / 狼病
Jenny Wood / Zombie Zone Germany: Letzter Plan / ZZG: 最後のプラン

エシュバッハはドイツSF大賞、ラスヴィッツ賞につづくノミネート。結果や如何に。
またなんかB級どころかものすごいタイトルが……(笑) 昔、「rlmdi.のサイトが、ブラウザにブロックされてるんだけど……」って話があったよーな。
去年の新人賞作家ヘルだが、自分のサイトで「タイトルはまともに受け取らないでね? 読む前に、自分がギャグに理解のあるヒトか確認してね?」とか書いている。それほどか(笑)

トマス・フィンの「カラミタス師の~」は、実は2008年に他社から発売されたアンソロジーに、まったく同名の短編が収録されている。同じものなら選考対象外なので、リメイクでもしたのだろうか。

ノーラ・ベンズコの「狼病」は、おそらく最初は自費出版。作者自ら〈首吊りメルヘン〉と銘打った、童話をバックボーンにしたホラー物の1作目。今回の元ネタは『赤ずきん』である。
三十年戦争の時代――。イリーナは子供のころ、姉レオノールが殺害されるところを目撃した。狩人の息子スカンダーが駆けつけたので、彼女だけはかろうじて助かったのだ。大人になった今でも、彼女は悪夢の光景を忘れられない。事実上村八分のイリーナをスカンダーは自分のものにしようとするが、断られて逆上。スカンダーの暴力を避けて、イリーナは森へと逃げ込んだ。そう、森……レオノールを殺した“何か”は、イリーナのことを忘れてはいなかった。

〈ゾンビー・ゾーン・ジャーマニー〉はシェアード・ワールド物で、いまのとこ長編3冊、アンソロジー1冊を確認している。
2021年のドイツ。国境は高いベトンの壁に遮られ、近隣空域には戦闘機や武装ヘリが飛び交う。動くもの即射殺である。北海やバルト海にはNATOの艦隊が展開し、疫病の拡大を阻止するかまえだ。1年足らず前、2020年の5月にやつらは墓から這い出してきた。パニックと集団ヒステリー、避難民の発生で、連邦軍が効果的な殲滅戦をとれないうちに、この“病”は蔓延していった。ドイツは死んだ(tot)――いや、アンデッド(untot)と化したのだ……。
そんなドイツでわずかに生き残った人々の絶望的な戦いが描かれるみたい。

国際部門 Bester internationaler Roman:

Cassandra Clare, Sarah Rees Brennan u. a. / Die Legenden der Schattenjäger-Akademie
   / Tales from the Shadowhunter Academy / シャドウハンター・アカデミー
Cecelia Ahern / Flawed – Wie perfekt willst du sein? / Flawed / 欠陥
Cassandra Clare / Lady Midnight: Die Dunklen Mächte / Lady Midnight
   / レディ・ミッドナイト
Stephen King | Mind Control / End of Watch / 見張りの終わり
Mirjam H. Hüberli / Rebell: Gläserner Zorn / Rebell: Gläserner Zorn
   / 反逆者:ガラスの怒り

カサンドラ・クレア他の『シャドウハンター・アカデミー』は、『骨の街』他が邦訳されているシャドウハンター・シリーズのコラボ短編集。
同じくクレアの『レディ・ミッドナイト』は The Dark Artifices シリーズ第1作。

セシリア・アハーンは田中真理子訳『P.S.アイラブユー』他で本邦にも紹介済み。アイルランド出身で、父は2008年まで首相をつとめていた。
『欠陥』は17歳の少女セレスティンを主人公とするヤングアダルト小説で、続編にあたる『完璧』がこの4月に発売されている。
それまで完璧な優等生ライフを送っていた少女セレスティンが、ある日バスの中で〈フロウド〉――“欠陥人”――を手助けしたことで、社会的に罪を犯したとされ、投獄されてしまう。彼女もまた、欠陥ありと判断されたのだが……。

キングの『見張りの終わり』は、『ミスター・メルセデス』から続くビル・ホッジ物3作目にして(たぶん)完結編。6年前の事件がいま再び――ミスター・メルセデスことハーツフィールドが復讐を画策する一方で、ホッジの身に異変が!?

ミリアム・ヒューベルリの『ガラスの怒り』は反逆者シリーズの第1巻。この3月に2巻『ガラスの静寂』が刊行されたばかり。ちょっとした超能力を持った少女ウィロー・パーカーが、鏡の世界に囚われて、“反逆者”ボーと出会い、地球へ戻る方法をさがしていく。
……でもこの作者、スイス出身・在住で、ドイツ語圏のヒトなのに国際部門? と思ったら、長編部門が”Bester deutschsprachiger Roman”から”Bester deutscher Roman”にマイナーチェンジしていた。短編と新人に関してはドイツ語圏のままなのだが。

新人部門 Bestes deutschsprachiges Romandebüt:

Nadine Erdmann / Cyberworld / サイバーワールド
Nicole Gozdek / Die Magie der Namen / 名前の魔法
Matthias Teut / Erellgorh – Geheime Mächte / エレルゴル――秘密の力
Laurence Horn / Rodinia – Die Rückkehr des Zauberers / ロディニア――魔法使いの帰還
Jenny Karpe / Zwei Kontinente auf Reisen / 旅する二大陸

ナディーヌ・エルトマンはドイツ語と英語を学び、ロンドンへ留学後、ダブリンでドイツ語スクールをしていたり。ノルトライン=ヴェストファーレン州でギムナジウムの教師をしていたり。
『サイバーワールド』は電子ブックで去年3巻まで出ている(今月4巻発売)ので、すべてが対象なのかどうか不明。2038年のロンドンを発端に、某SAOみたいなお話が(笑)
ジェンマ、ジャミ、ザックはインタラクティヴRPGで遊ぶフレンド。だが、ある日、現実界の彼らの肉体がこん睡状態となり、意識だけが仮想空間サイバーワールドに閉じ込められてしまった! いったい何者のしわざなのか?

ニコル・ゴズデクは1978年生まれ。
『名前の魔法』:16歳の19号は、いつか大人になったらヒーローになって、すてきな意味もある名前をもらえる日を夢に見ていた。ところが、“名付け”の日がやってきて、彼が与えられた名前は、誰にも何の意味ももたない、ティラサン・パッサリオというものだった。首都〈天の門〉の〈名前の保管庫〉でなら、この名の意味を知ることができるはず。戦士ラスタン・ポリアンダーのパーティに潜り込み、彼らとともに遥かな首都をめざす旅に出る。
ところが、名前をもたぬ闇の追跡者が彼らをつけ狙い……。

マティアス・テウトの『エレルゴル――秘密の力』は、ファンタジー・シリーズ。エレルゴル三部作の1巻。今年になって2巻『エレルゴル――秘密の道』が刊行されている。
“大戦争”以来、ジュカーバジャーンの種族――人間、ドワーフ、沼人――は平和に暮らしていた。エルブとその大都市エレルゴルは神話にすぎず、〈霧の海〉の魔法にかくされていた。
だがある日、若き治癒術士アタルは、死に際の一族の大婆様から、霧の海へゆけ、世界のバランスが崩れかけている――と命じられる。同じ頃、牛飼いの娘セレナは奇妙な手紙をうけとって旅立ち、街の盗人ピツは追手から逃げまわっていた。彼らはまだ、どんな災厄が世界に迫っているか、エルブの都市エレルゴルがどんな役割を担っているかを、予感だにしていなかった……。

ローレンス・ホルンは1967年生まれ。
経歴を見ると、“史実再現の役者(Reenactor)”として15年以上活動しているらし。武田の武者行列再現とか、あーゆーのが欧米ではわりと事業として成り立っているのか? また一方で、どこぞのTRPGのゲーマスとしてシナリオ書いてたりもするという。
『ロディニア――魔法使いの帰還』:ロディニアを焦土と化した戦争が終わった。魔術師マギたちは魔法使いソーサラーの一党を世界の円盤の縁のかなたへ駆逐して凱旋し、世界の復興をはじめる。爾来1000年。ロディニアの浜辺にたどりついた一艘の船。それにはひとりの魔法使いが乗っていた……。
魔術師と魔法使いを別モノ扱いで訳すのは思いの外、難しい。Fateか(笑)

ジェニー・カーペは1996年生まれ、地方新聞社に勤務。
『旅する二大陸』:海のただなかのちっぽけな島が、キラとアーロンの故郷。星はめぐらず、日々大地は揺れ、この岩の塊がいつ海に沈むかと人々はおそれながら暮らしていた。2つの部族、ルアンとアメリカが敵対し、この小さな土地に境界線をひいたとき、キラとアーロンも離れ離れになる。2人は故郷を救うため、戻ることなどありえないと思える旅に出ることを決意する……。

【亀】ファンタスティーク大賞2016年受賞作一覧

昨年5月21日~6月12日の予選(Nominierungsrunde)の後、6月25日~7月17日が本選投票期間(オンライン・ニュースPhantastik-News.deの読者投票で決定される)だった。
授賞式はフランクフルト書籍見本市に併せて開催されるブーフメッセコンにて、10月22日に執り行われた。

ノミネート作および受賞作は、以下のとおり:
例によって、全8部門中、長編・短編・翻訳・新人の4部門のみ掲載。

長編部門 Bester deutschsprachiger Roman:

1. Susanne Pavlovic / Feuerjäger 1 – Die Rückkehr der Kriegerin
   / 女戦士の帰還(炎魔討伐団1)

2. J. H. Praßl / Chroniken von Chaos und Ordnung 3 – Bargh Barrowson
   / バーグ・バロウソン:混沌(混沌と秩序の年代記3)
3. Tom Jacuba / Kalypto 1 – Die Herren der Wälder
   / あまたの森統べる者たち(カリプト1)
4. Valerian Çaithoque / Amizaras 3 – Raphadona / ラファドナ(アミザラス年代記3)
5. Elisabeth Ruetz / Der Schattenkristall 3 – Das Blut der Wächterin
   / 守護女の血(影のクリスタル3)
6. M. H. Steinmetz / Hell’s Abyss 1 – 666 / 666(ヘルズ・アビス1)

スザンヌ・パヴロヴィクの『女戦士の帰還』は、今年の1月に完結編『女王の剣』が刊行された炎魔討伐団三部作の第1巻。
主人公クロナ・カラギンは輝ける英雄には程遠い、戦場の裏も表も知りつくした無骨者の傭兵だ。そもそも、平穏な時代に英雄などそういるものではない。筋金入りのいかれ剣士で、失うものなど何もないクロナだったが、アブランテス王国全土を突如あらわれた炎魔たちが蹂躙したとき、彼女は一団のドワーフや戦士、魔術師たちをまとめあげ、災禍に立ち向かう。それは世界の果てと、その先にまでいたる討伐の旅のはじまりだった。
パヴロヴィクにはアブランテス王国を舞台にした、先行する2冊の長編があり、その主人公・吟遊詩人ヴォルフラムとクロナは長年の腐れ縁――というか、クロナがまだ戦士になる前、皿洗いをしている頃からの知り合いなのだ。そして、完結編ではヴォルフラムもまた重要な役どころで登場するらしい。

トム・ヤクバの『あまたの森統べる者たち』は、カリプト三部作第1巻。森人の領主となった孤児ラスニク。母の死によって山の国ガロナの女王に就任したアイリン。それぞれまったく異なる境遇のふたりはやがてひとつの災厄に直面することになる。数千年の眠りからめざめた、滅び去った魔法王国カリプトの4人の斥候たち……彼らは、第二のカリプトを創造するための、奴隷となるべき種族を求めて旅立ったのだ――。

短編部門 Beste deutschsprachige Kurzgeschichte:

1. Oliver Plaschka / Das öde Land / 荒地 (『荒地』Das öde Land 収録)
2. Katharina Fiona Bode / Erasmus Emmerich und der zinnoberrote Zinnsoldat
   / エラスムス・エメリッヒと辰砂色のティンソルジャー
     (『スチームパンクの闇色極彩』Die dunkelbunten Farben des Steampunk 収録)
3. Anna-Katharina Höpflinger / Selig sind die geistig Armen
   / 心貧しき者は幸いなり (『封印事項』Verschlusssache 収録)
4. Georg Britzkow / Gesang der Kröten / 蛙の歌
     (『狂気の黒神』Der schwarze Gott des Wahnsinns 収録)
5. Carmen Weinand / Der große Stefano / 大ステファノ
    (『フライシュ3』Fleisch 3 収録)

オリヴァー・プラシュカの「荒地」は、短編集『荒地:その他の世界の果ての物語』に収録された14編で巻末を飾る。自らの行動によって滅びを運命づけられた世界に暮らす人々の物語……らしい。
歴史小説として評価の高い『マルコ・ポーロ――世界の果てまで』とか、世界の果て好きだな! と思っていたら、ローダンNEO作家でもあった(笑) >プラシュカ

カタリナ・ボーデの「エラスムス~」は、同主人公の短編2作目で、2016年7月に出版の長編デビュー作『エラスムス・エメリッヒとマダム・マラルメの仮面舞踏会』とも舞台を同じくするスチームパンク探偵小説……っぽい。19世紀末、《鉄血宰相》ビスマルクの時代のベルリン――ただし、機械のカニが川をうろうろしていたり、仙女が主人公につきしたがっていたり、いろいろチガウ世界みたい。

国際部門 Bester internationaler Roman:

1. Terry Pratchett / Die Krone des Schäfers / The Shepherd’s Crown / 羊飼いの宝冠
2. Patrick Rothfuss / Die Musik der Stille / The Slow Regard of Silent Things
   / 静かなるものの緩やかな視線
3. Kevin J. Anderson / Resurrection Inc. / Resurrection, Inc. / 復活株式会社
4. Ben Aaronovitch / Peter Grant 5 – Fingerhut-Sommer / Foxglove Summer
   / ジギタリスの夏
5. Jonathan Stroud / Lockwood & Co 3 – Die raunende Maske / The Hollow Boy
   / 空っぽの少年

プラチェットの『羊飼いの宝冠』は、2015年、作者の没後刊行されたディスクワールド物の最終巻。
ロスファスの作品は、先ごろ日本でも刊行のはじまったキングキラー・クロニクルのスピンオフ。

新人部門 Bestes deutschsprachiges Romandebüt:

1. Faye Hell / Keine Menschenseele / 心ない人々
2. Mona Silver / Verlorener Stern / 失われた星
3. Maja Loewe / Die Augen des Iriden / アイリスの双眸
4. Sandra Berger / Transformation am Feuersee
   / 炎湖のほとりのトランスフォーメーション
5. Luzia Pfyl / Cesario Aero – Kaiser der Lüfte / 空の皇帝ケサリオ・アエロ

ファイエ・ヘルの『心ない人々』は、どこにあるのか知れない、名もないホテルが舞台。そこに滞在する6人の男女――彼らがこのホテルを訪れたのは、単なる偶然ではなかった。だれもが暗い秘密を、罪を抱えている。特徴のないセールスマン、有名なTVスター、婚約間近のカップル、女流ベストセラー作家、見ばえのしない少女……。誰もが、長年の悩みに、忌まわしい記憶に、狂気に直面する。
サイコパスが紛れ込んでいたり、誰かが誰かの復讐を企てていたりと、全5章が複雑に絡み合っているみたい。芥川の「藪の中」みたいな感じかしらん(憶測
タイトル原文は「人っ子ひとりいない」の意味であり、おそらくは「人間らしい心のない(悪)人」とのダブルミーニング。

■公式サイト:Deutscher Phantastik Preis

ターミナス1話「時間跳躍者たち」

4月21日に第1話「時間跳躍者たち」が発売された、全12話のミニシリーズ〈ペリー・ローダン=ターミナス〉。
新銀河暦1523年、太陽系外縁カイパーベルトでの発見から、ローダンが過去の事件を回想する――とともに、現在時でもその〈ターミナス〉に関わる事件が発生しちゃうんじゃないかな? みたいな予告については、すでに紹介した。
(→ ミニシリーズ:ローダン・ターミナス

現在判明しているタイトル:
 1. Uwe Anton / Zeitspringer / 時間跳躍者たち
 2. Dennis Mathiak / Flucht durch Terrania / テラニアの逃走劇
 3. Roman Schleifer / Konfrontation auf Mimas / ミマスでの対決
 4. Susan Schwartz / Kampf um Merkur / 水星の攻防戦
 5. Dietmar Schmidt / Im Sonnenpalast / 太陽宮にて
※太陽宮はノスモにあるダブリファの宮殿

すでに5月5日に第2話も刊行済みであるが、今回は第1話の要約をお届けする。

プロローグは新銀河暦1523年9月5日。
エッジーワス・カイパーベルトからの急報を受け、ペリー・ローダンはマーズ級巡洋戦艦《アラン・D・マーカント》で冥王星族の太陽系外縁天体オルクス(Orcus)へと駆けつける。

より規模の小さい小惑星との衝突の際、接近した艦艇が報告したエネルギー探知に伴い、ジョナサン・フォス(Jonathan Voss)教授率いる発掘チームがオルクスに赴き、明らかに人為的につくられた地下空洞を発見していた。そして――。
いまローダンが目の前にしているのは、輪になって浮遊する9つのオベリスクだった。強い投光器の照明を浴びながら、それは影を落とさない。各々2メートルほどの結晶体は、明らかに死んだサイノスが変ずるオベリスクであった。
秘密のしっぽをつかんだ時の、肌がぴりぴりするような、この感じ。過去、幾度も感じてきたそれが、背後にある何かに警報を発していた。太陽系に、サイノスの墓所? いや、これには何かそれ以上の意味があるはずだ。

そして、ローダンがオベリスクのひとつに触れたとき、それは起こった。活性装置のインパルスか、騎士のオーラの名残か。何か、ローダンだけの持つものにオベリスクは反応したのだ。
ローダンは、眼下にひろがる平原に連なる無数のオベリスクを見た。そして、オルクスを見たときから感じていた、かつてここに来たころがあるという感覚とともに、記憶が押し寄せてきた。たそがれの人類が、奈落の縁をのぞき込んでいたあの時代の――。

そうして、物語は過去へと転じる。西暦3430年10月30日。

ジュキ・レアン(Juki Leann)は、対探知偽装に特化した宇宙艇《ウーガン=237》乗員で、ひそかに誘導された太陽系外縁天体の一群にまぎれ、ソル星系への潜入をもくろむダブリファ帝国の秘密諜報機関〈黒のガード〉の一員である。乗員はわずか3名。反テラ連合の攻撃にそなえ、ソル系全域にはりめぐらされる可能性が高いパラトロン・バリアの操作ステーションの所在をつきとめ、破壊すること。それが《ウーガン=237》の任務だった。
潜入は順調に進行していた。入国審査機関のある冥王星軌道をやりすごし、オルクスに最接近するまでは。艇を猛烈な衝撃が襲い――何が起こったのか。船が透きとおるような錯覚を目にして、レアンは意識をうしなった。

警報サイレンが鳴り響く中、目をさましたレアン。からだが動かない――艇内の気温は211度――防護服のバリアが自動的に起動されていなければ、とっくにおだぶつだった。同僚のダレン・ジタラ(Darren Zitrra)はそこにのびている――艇長は?――いた。やはり倒れている……!?
ヴロト・グリブセン(Wloto Gribsen)の肉体は、揺らいでいた。透きとおるように――溶けるように――そしてまた元に戻る。年賀式典のエフェクトみたいに、金と銀とに輝いて。
何が起きているのか。テラナーの新兵器にやられたのか? ようやく起き上がっても、グリブセンが発する放射性衝撃前線――と、防護服のポジトロニクスは言う――のため、近づくことすらできず、2人は上官のからだが完全に透きとおり、分解するまで見守るしかなかった。
シュヴァルツシルト反応炉も暴走しており、あと1時間も経ずして、2人の防護服のバリアも息をひきとるだろう。テラナーに救助を求めることも矜持が許さず、もはや死を待つだけと思われたとき、パッシヴ探知が1隻の宇宙船の接近を告げた。黒い球形船……憎きテラナーの同盟者、ハルト人だ!
ジタラはむしろ死出の道連れにしてやると意気込むが、戦闘服を身につけたハルトの巨人に対抗できるはずもなく、パラライザーの掃射を浴びせられた工作員2人はまたしても意識をうしなうのだった。

意識を取り戻したレアンたちは、見知らぬ部屋にいた。まちがいなく、テラナーたちにつかまったのだ。装備も取り上げられ、どれだけ時間が経ったのかもわからない。
兵士に連行された2人は、奇妙な仮面をつけた男の尋問を受ける。情報漏洩を阻止するため、工作員といえど侵攻のタイムテーブル等は知らされていない。無論、知っていることとて話すつもりなどこれっぽっちもなかったが。
仮面の男――アラスカ・シェーデレーアと名乗った――は、自白剤もヒュプノ銃もあるので、できれば自発的にしゃべってほしいとうながすが、激高したジタラはにべもない。肩をすくめたシェーデレーアは、拘束フィールドで動けないジタラに自白剤を投入。フェロル経由の偽装貨物船で太陽系に接近し、1週間ほど前に射出されてから、母船が牽引ビームで誘導した小惑星群にまぎれてオルクス近傍までたどりついたこと、3人目である艇長が不可解な状況下で分解したことなどを吐かされた。

尋問がひとまず終了し、独房へ戻されたジタラは奇妙な悪寒を感じた。自白剤の副作用か? 地面に沈み込むような感覚に抗いながら、工作員は気をうしなう。

インペリウム・アルファの一室で、シェーデレーアは尋問の結果を、直属の上司である太陽系帝国秘密情報局長官代行、テゼン・サディノハ(Tezen Sadinoha)へ報告をおこなっていた。工作員たちは知らないが、すでに反テラ連合の8万隻の艦隊はソル系攻撃を敢行し、謎の爆発とともに目標が消滅していたという事態にとまどっている。実際には、アンティテンポラル干満フィールドを張りめぐらしたソル系は、5分の未来へと逃れていたのだが。
そして、そう――《ウーガン=237》は、まさにATGバリアが起動されたその時刻に太陽系へと潜り込んできた。原因不明の現象は、これとなんらかの関わりがあるのだろうか?
そこへ駆け込んできた警備兵が、敬礼して報告した。捕虜が2名とも、独房から消えました――。

秘密情報局長官ガルブレイス・デイトン、そして太陽系帝国大執政官ペリー・ローダンが――護衛と噂される、ダークブルーに染めた髪を最新モードで整えた美女、国立贋造対策工房チーフのタカヨ・スクライ(Takayo Sukurai)を伴って――到着して、サディノハから状況報告を受けた。記録映像では、具合の悪そうな捕虜2名が、まったく同時刻に、空間へ溶けるように姿を消す様子が確認された。
このタイミングでダブリファ帝国の工作員に逃げられることはまずい。非常にまずい。ソル星系はローダンとともに滅んだと、まだ反テラ連合の連中が半信半疑である今は。
工作員2名を“救助”したハルト人イホ・トロトはすでにインペリウム・アルファに到着している。ATGフィールドにかかわる謎の解明には、第一科学評議員であるジェフリー・ワリンジャーの意見を求めたいところだが、彼はまだ水星で起動に成功したばかりのATGの微調整から手が離せない。代わりに6次元現象の第一人者レニア・ビーバー(Renier Bievre)を派遣すると伝えてきたところだった。

寒い――凍えそうだ。目をさましたジュキ・レアンは弱々しく周囲を見渡した。独房、なのはちがいない。だが、何かが決定的におかしい。……扉が開いているのだ。
罠か? 太陽系秘密情報局の偽装工作で、どこかへ誘導されているのか?
そもそも、ここはどこだろうか。おそらくは、インペリウム・アルファ。ソル星系でも最高の警備度を誇る、権力の中枢。……なのに、どうしてまるで人の気配がないのだろう。
ゆっくりと独房を出る。誰も阻止するものは現われない。監獄の出口にも、保安シャッターも閉まっていなければ、反撥フィールドもエネルギー・バリアもなかった。非常灯の明かりをたよりに進むと、やがて壁に案内板がみつかった。やはりインペリウム・アルファだ。なのに、本来何かあれば400万の市民を収容できるようになっていたはずのこの施設で、ここまで誰にも遭遇していない。警備ロボットもいなければ、ID確認すらない。
反重力シャフトは生きていた。地上部分まで出たところで、コミュニケーション端末を起動してみる。動いたが、データ回線が死んでいるのか何も表示されない。
駐機場にとまっていたグライダーを調べてみる。どうやら、動かせそうだ。何の保安措置も講じられていないのが、かえって薄気味悪かったが、思いきってスタートした。

テラニアは記憶の中のものとはまるで変わりはてていた。インペリウム・アルファ同様、人気がない。高層ビルの多くには、破壊の跡があった。道路には瓦礫が積もっている。
グライダーの探知機が、生命反応を告げた。数十人が一ヵ所に集まっているらしい。そっと接近したレアンは、なにやらひとりの男が演説をぶっているらしい現場に遭遇する。聴衆たちの服は破れ、どこかぼんやりとして、男の話の内容もよくわかっていなさそうだ。多くの者は武装していた……鋤や熊手を武器といっていいものならば。
「わたしは50人委員会のハーパー・プローム。1年前、真なる天命が銀河系に下り、われらを脅かす太陽系帝国も、ダブリファ帝国も中央銀河ユニオンもカルスアル同盟も、すべては昔話となった!」
男の声に、レアンは耳を疑った。これは現実、それともパラレル・ワールドに迷い込んだのか?
「われわれはホモ・スペリオル、真なる浄化の徒。攻撃的な科学から、おまえたちホモ・サピエンスを解放し、健全なる農耕へと戻して……」
男の語る内容を否定するのに気をとられ、いつのまにひとりの少年がすぐそばまで来ているのに気づかなかった。驚いて飛びすさった時、隠れ場所から出て群衆の前に身をさらしてしまったのを悟ったが、もう遅かった。誰かのパンチがこめかみにぶつかって、世界は暗転した。

つかまって、鞭打たれた。意識を取り戻した彼女を、男たちは車につなごうとする。まだバランス感覚が戻っていない。戦闘訓練を受けた自分が、こんなところで……そう思ったとき、あの寒気がまたやってきた。自分のからだが、グリブセンのように透きとおっていくのを見ながら、レアンの意識はとだえた。

ジタラは目を見開いた。意識は瞬時に覚醒し、周囲を確認する。呑気に頭を振っているヒマなど、ストリートファイトに身を委ねていたあの頃にはなかった。3秒後には死んでいたはずだ。彼は生き延びた。今回も、生き延びるのだ。
あえて横たわったまま、様子を見る。警報がない気配はなかった。そして……扉が半メートルほど開いている。反撥フィールドも消えていた。ストリートで生きていた頃なら、跳びおきて走り出していただろうが、黒のガードとしての訓練がそれを押しとどめた。
ソル系内で彼らを捕らえたハルト人、イホ・トロトなら、自分をインペリウム・アルファへ連行したのではないか。権力の中枢にして、誰ひとり脱走したことのない大監獄だ。だが、ここは何かおかしい。
立ちあがり、扉に近づく。警報は鳴らない。タラも来ない。
尋問薬が残っているのか、からだの芯がしびれているような感覚があったが無視した。房を歩み出るが、まだアラームは鳴らない。牢の大半は埋まっていて、中にいる男女がこちらを見て何か言っているようだが、反発フィールドのせいでこちらには聞こえない。
罠なら罠でいい。逃げるチャンスがあるなら、失うものなどなかった。

あるいは、反テラ連合艦隊の攻撃がはじまって、インペリウム・アルファは混乱状態にあるのか。それぐらいしか思いあたるところがない。
一度だけ、ライトグリーンの制服を着た兵士と遭遇した。猜疑心もあらわに囚人服を身につけたこちらを見てきたが、「テストだよ、テスト」と、ぬけぬけと言ってやりすごした。なんとかなるものだ。
寒気が抜けきらない。まずは服を調達しないことには、表に出られない。
と、物音が聞こえて立ち止まる。男ふたりの声、荒い息、叫び。聞きなれた、戦闘時の声だ。
インペリウム・アルファのど真ん中で、戦闘?
首をつっこまずトンズラしろという心の声に、にやりと笑ってこたえると、ジタラは音の源へと接近した。
やはり、2人の男が取っ組み合っていた。ただ、その顔が……なんというか、人間のマスクをかぶっているような感じがして、どこか不自然だ。
一方が相手の首を絞め、壁に圧しつけたとき、ジタラは目を疑った。劣勢にある男の肉体が膨れあがったのだ。エルトルス人かオクストーン人のような、環境適応人間のそれへと。目の錯覚だろうか、互いにからだを突き放して、2人が離れたときには、もう元の姿にしか見えなかった。

不意に非常サイレンが響きわたった。監視カメラで、自分が独房にいないことがバレたにちがいない。気がつくと、あわや相手を絞め殺すところだった方の男がこちらを見ていた。その顔は、なんだか未完成というか、狂人のつくった人間のキメラみたいに思えた。
重たい装備をしょった足音が近づいてきた。戦闘中だった2人はパッと飛びすさると、足音と反対方向へ駆け去っていった。
ジタラも寒気を抑え込み、同じ方向へと逃げようとしたが、遅かった。
「いたぞ!」ほんの数メートルの距離からの声。「止まれ! さもないと撃つぞ!」それから、安全装置をはずす音。
典型的なテラナーだな……そう思いながら、からだ中にひろがった寒気に目の前が暗くなるのを感じ、工作員は意識を失った。

初めて大執政官を前にしたシェーデレーアが居心地悪そうにしているところへ、デイトンが2人のダブリファ工作員が“再出現”したことを告げに訪れた。まるで、姿を消したことなどなかったかのように……。しかし、女性の方は拷問でも受けたように背中に痛々しい傷を負っていた。
独房から医務室へと場を移し、再度の尋問の準備が進められているなか到着したのがワリンジャー推薦のハイパー物理学者、レニア・ビーバー教授であった。ほぼ40歳前後の、ダークブロンドの髪を辮髪に結った太鼓腹の男。顔の下半分を覆う髭はろくに手入れされた様子がなく、小さな縁なし眼鏡がひどくアナクロな印象を与える。
しかし、大執政官にすらつけつけと物を言うこの男は、その見てくれにも関わらず3年の軍隊経験を持ち、太陽系艦隊の特殊プロジェクトに協力するにあたっては大尉待遇の資格を有している。すでに水星からの道中で手に入るかぎりのデータの検討をすませており、必要な機材についても一足先に要請が届いていた。デイトンとシェーデレーアが工作員たちを尋問するあいだ、2人の病室の中間に位置する部屋でビーバー教授を囚人の“分析”をおこなう手筈となっている。
デイトンは、まず女性工作員からはじめた。ジュキ・レアン――ローダンは彼女を知っていた。彼女の母親はダブリファ皇帝と遠戚関係にあり、一時駐テラ大使を務めていたのだ。父親のことはわからない。そして、当面それは問題でもなかった。
レアンは比較的協力的で、デイトンに尋ねられるままに自らの体験を語った。あるいは、「太陽系帝国が滅び、三大星間帝国も昔話である」と聞かされたことにショックを受けているのかもしれない。ローダン自身も当惑していた。からっぽのインペリウム・アルファ、人の姿もまばらなテラ、退行した農耕文明……。すべては錯覚と片づけてしまいたいところだが、それではレアンの背中の傷の説明がつかない。

ビーバーは、囚人たちのからだが未知の6次元インパルスを放射していることを確認。イホ・トロトからのデータを基礎にした計算結果――《ウーガン=237》が、起動した瞬間のATGフィールドに突っ込んだ――との関連性を指摘した。時間の力が集中するポイントで何らかの多次元性相互作用が生じ、彼ら自身が二次的“芽”となり6次元インパルスの放射源となったものと思われる。またそのために、彼らのテンポラル・ポジションに散発的移動が発生している。
姿を消した――分解した――第3の工作員は、おそらく相互作用の影響がもっとも強くあらわれたもので……残る2人についても、遠からず同様の結末をたどるであろう可能性が高いものと推測された。

未知の6次元インパルスとは時間粒子とほぼ同義。そして、テンポラル・ポジションの移動とは、時間ジャンプ。ここまでの理論立てには、同席したイホ・トロトもうなずいた。彼も《ウーガン=237》と接触した際のデータから、ほぼ同様の結論を導き出していた。
ビーバーはさらに、時間粒子の収束にあたり、2人の工作員が双極をなしていると判断していた。2人の時間ジャンプは、まるで自然法則がバランスを取るように、互いに正反対の方向――過去と未来――に向かって生じるはずなのだ。
であるならば、レアンの見た、太陽系帝国が滅び去った世界は、錯覚でも並行世界でもなく、彼ら自身の未来かもしれない……。

ビーバー教授に求められた、計測機器の追加操作に手をあげたサディノハ提督は、指示されたボタンを押した後で、周囲に誰もいないことを確認すると、多目的アームバンドの通信機を起動した。
予想通り――時間ジャンプ――われわれの派閥にとり好都合――ローリン計画は予想外――ローダンはバカではない――目的のため、2人の身柄を確保――場合によっては、正体が暴露することになっても――。

翌10月31日。ローダンは自ら囚人たちと面会した。ローリン計画とATGフィールドのことは秘したまま、2人のからだに時間粒子が収束していること、細胞構造に影響を及ぼし、未制御の時間ジャンプがなされていることを告げる。医師団からの診断書を示し、治療のために協力を依頼する。協力――暗に、転向を指していることは、工作員たちには明らかだろう。
その頃、過去データを検索したネーサンが、3418年9月末に、ジタラが目撃したものとおぼしき事件があったことを発見していた。相争う男たちの映像は不鮮明で、一方は背後から撮影されて顔すら確認できない。だが、データには、何者かがそのエリアの監視システムを一時遮断したこと、それが復旧された際の映像がさきほどのものであること、そして、それを報告したものが、テゼン・サディノハであることが記されていた。とはいえ、所属不明の男に襲撃されたこと以外、サディノハにも付け加えることは何もない。事件は迷宮入りしていた。

しかし……ジタラの目撃情報が事実と確認されたことは、ビーバーの曰くシンメトリー効果理論にしたがうと、12年以内にレアンの見た未来がテラに、銀河系に降りかかるのを意味していた。ローダンは最高度の機密保持を命じた。今回の案件に関するデータの閲覧には、最高度のプライオリティを有する彼、太陽系帝国大執政官自身の許可が必要となる。
3418年の事件は、当時すでにインペリウム・アルファにいずこかの第5列が侵入していたことを示唆している。ローダンにはなぜか、その一件が、今回のできごとと何らかの関係があると思えてしかたなかった。

ローダンの再度の説得に応じ、2人のダブリファ工作員はそれぞれの体験についての詳細を語った。ダブリファ帝国をも崩壊に導く未来の謎とあっては――自白剤が存在することも考慮して――、沈黙を守っても意味がないと判断したという。
無論、ローダンたちとてその言葉を鵜呑みにはしていない。メンタル安定化処置を受けているのか、時間粒子の影響か、グッキーも2人の思考を正確に読み取ることはできないが、ダレン・ジタラが逃亡することしか考えていないのは丸わかりだった。
ジュキ・レアンについては、多少事情が異なる。ローダンの説得というより、彼女は自分の目で滅びの訪れたテラを見たのだ。ネーサンを含む情報ネットが瓦解しており、街頭には実際の日付等を表示しているスクリーン等も皆無だったので、実際にそれが12年後のことなのかはわからない。自らが鞭打たれたあの世界の到来を防ぐことは、あるいは何よりも優先すべきことなのかも……そんな動揺がレアンにはあった。

ともあれ、協力の対価として、2人は翌11月1日にミマスのメド・ステーションへ送られることとなった。ジタラなどは、いまなお、海王星の捕虜収容所――そんなものは実在しないのだが――へと送致されると信じていたが。

11月1日。囚人移送車に乗り込んだジタラは、直近の宇宙港であるアルデバラン・スペースポートが利用されると考え、脱走の機会はないかプランを練っている。隣に腰掛けたレアンは、護送にあたる秘密情報局員たちの武器の安全装置がはずされていることを見てとっており、試みるだけ無駄だと理解していた。
不意に響く爆発音。室内の明かりが消え、空調機のうなりもとだえた。何が起こった? 捕虜奪回を敢行するほど、テラに潜り込んだ工作員の規模は大きくあるまい。
暗闇で聞こえるのは、緊迫した互いの呼吸音だけだ……。

ENDE

1000話「テラナー」について (6)

1000話「テラナー」について、いよいよ最終回である。
ローダン・ヘフト1000話の表紙には、こう書かれている。

Der Terraner
Die kosmische Bestimmung der Menschheit

物語のタイトルと、あおり文句。今回のテーマである後者を、初回でも述べたとおり、「人類の宇宙的天命」と読む。

最終回 人類の天命さだめの物語

女性名詞 Bestimmung は、手元の新現代独和辞典を見ると、おおよそ以下のようになっている。

(1) 決定、規定、命令、制定
(2) 行き先、届け先、(決められた)用途・目的
(3) 定義、限定、評価
(4) 本文、使命、天職、宿命、天命

800話『テルムの女帝』の用語チェックの際、ちらりと書いているが、わたしには同義語・類義語を訳し分ける自分ルールがいくつかある。そして、たまたま上記 Bestimmung も、そのひとつだった。
(→ テル女:用語チェック (2))

(a) Schicksal / 運命
(b) Fatum / 宿命 (形容詞:fatal)
(c) Bestimmung / 天命 (形容詞:bestimmt)
たぶん1550話『新たなる天命』あたりで整理した……と思う。なにぶん昔の話なので。

ローダン宇宙……というか、フォルツ宇宙における Bestimmung は、新現代独和にいう(2)と(4)――「天命(天与の役割)」、ぶっちゃけ「さだめ」である。
かなり乱暴な解釈をすると、運命とは「人知を超えた、幸福や不幸の巡りあわせ」、宿命は「前世から定められた動かしようのない運命」、そして天命とは「天帝の命令、天から与えられた生涯かけて果たす務め」となる。
では、今回のテーマともいえる「人類の宇宙的天命(さだめられた役割)」とは、いったい何のことなのか。

一番顕著な事例は、746話「時知らざる者」において、カリブソとアラスカ・シェーデレーアの会話中で、述べられている。

「われわれは、なにをなすべきかを承知していた。おのずとそうなるもの。大宇宙にひろがるどんな種族も、天与の使命を授かるのだ」
(中略)
「テラナーはただ単に拡大する。宇宙じゅうに広まっていく。まるで寄生体だ!」
「われわれにだって、意味はある!」

と、アラスカが抗弁するわけだ。テラナーは、まだそれを知らないだけなのだ、と。

文中の「天与の使命」の原語は eine bestimmte Aufgabe ……「ある、さだめられた任務」である。当時のわたしの試訳では、「特定の任務」となっている。最終回のテーマにそって、多少いじってみた。
一方のハヤカワ版の当該箇所は、一部誤訳もあって、正しく読みとくのは難しい。日本の読者さんは、フォルツの綴る物語において、それが大事な争点のひとつであることを知らないままかもしれない。
(→「時間超越 -10- part1」

でも、まあ、たしかシュミットとかキトマあたりにも、アラスカは似たよーな非難をあびせられていた気もするので、気がむいたら探してみるのも良いかもしれない。発見したら教えて下さい(をひ
閑話休題。

ともあれ、この話(1000話)は、大群(より正確には、キトマやシュミット)との遭遇以来、フォルツ・ストーリーの軸のひとつであった、「人類の存在意義とは」という問いに対する、ひとつの回答なんだよ――上記サブタイトルは、読者にそう告げているのだ。
読者がフォルツのファンであるならば、それだけでわくわくせずにはいられないはずである。

では、その回答がどのように導かれているかというと……。
ここはごやてんらしく、作中でその「天命」= Bestimmung がどう用いられているか、例をあげて見ていこう。


Bestimmung 例1

さて、本書『テラナー』は、ローダン世界とわれわれの現実世界(グラフィティ)との二重構造である。
その中で、2点だけ、両方にかかる部分がある。ひとつが、最後のグラフィティ。もう一方が、次にあげる冒頭の引用文だ。

ハヤカワ版(p139)
若い人たちは、人間とは文字どおり機械にすぎないと信じているのだろうか? 権力も声望もない、指示にしたがうだけの存在だと。高みをめざして前進する者すべてを破壊し、あらゆる努力を弱体化させる、こうした運命論的な独断に対して、わたしはものを書きはじめて以来、倦むことなく戦いつづけている。

原文:
“Junge Menschen lernen zu glauben, der Mensch sei buchstäblich nicht mehr als ein Apparat – ohne Macht oder Einfluß, was seine Bestimmung angeht. Gegen dieses fatalistische Dogma, das alles Streben nach Höherem zerstört, alles Bemühen schwächt, habe ich, in meinem eigenen kleinen Bereich, seit ich zu zu schreiben begann, nie abgelassen anzukämpfen.”

試訳:
「若者たちは人間が文字通り道具にすぎないと信ずることを学ぶ――その天命にかかわる、いかなる影響力もない、と。高みをめざすあらゆる希求を破壊し、すべての努力を損なうこの宿命論的ドグマに対し、わたしはおのが小さな領分において執筆をはじめて以来、一貫して抗いつづけてきた」

巻頭引用句、W・マクドゥーガルのものである。

私家版においては、当該箇所は「用途」と訳した。「役割」の部分を強調した方がより「単なる道具」っぽくてよさそうに思えたからだが、今回はあえて「天命」とした。
直訳すると「若い人間たちは信じることを学ぶ/人間は文字通り道具以上のなにものでもないのだと/その(道具の)さだめられた役割について/(つくる)力も影響力もなく」。
なぜ“つくる力”なのかは、バルディオク関連記事を参照してもらいたい。
(→ 続850話・生兵法はケガの元

ともかく、自分の「役割」を、己自身で生み出すことも、変えることもできない、単なる社会の歯車にすぎないのだと、信じることを学ぶ――社会に、環境によって教え込まれる。宿命論的な「あらかじめ決まっていて、人の努力ではどうしようもない」というドグマとは、そういうもっと辛らつなものである。

ハヤカワ版の翻訳でも、基本的論調は共通しているが、Bestimmung を「指示」としたためか、本文が疑問文になりちょっとふわっとした感じである。seineを流してしまったせいで、なんの(だれの)Bestimmung なのかが漠然としてしまったのだろう。
また、Bestimmung の意味が異なるため、ohne 以降の節がぽっかり浮いてしまった。

以下はちょっと本筋からはずれるが、同じ引用文の「運命論的」fatalistisch は、

ハヤカワ版(p179)
ファアデンワルン人は自分の存在を宿命論的にとらえているようだ。

原文:
die Faadenwarner offenbar recht fatalistisch waren, wenn es um ihre Existenz ging.

と同じ単語であり、人(ロオク)の意志によってものごとをなそうとすることの対蹠的役割を演じている。宿命論/運命論、どちらも同じものだが、できたら統一してほしかった。

上記2つの意味において、この引用文、けっこう重要なのである。

Bestimmung 例2

ハヤカワ版(P161)
船がなにかの規定を読みあげるような調子で答える。

原文:
belehrte ihn das Schiff in einer Art und Weise, als lese es irgendwelche Bestimmungen von einem Vordruck ab.

試訳:
船がまるで、書式に則った規定を読み上げるように指摘した。

ここのみ新現代独和の(1)に相当する。
さすがに、書式になった天命とかできません(笑)

Bestimmung 例3

ハヤカワ版(p218)
だが、人類の未来と運命を決めるゲームはまだ終わらず……

原文:
Das Spiel um Zukunft und Bestimmung der Meschheit ging jedoch trotz der Überwindung der PAD-Seuche weiter –

試訳:
だが、PAD病の克服にもかかわらず、人類の未来と天命をめぐるゲームはつづき――

〈それ〉と〈反それ〉の宇宙チェス――これも、コスミック・チェス、“宇宙秩序にかかわる”チェスゲームである――は、ある意味、人類の天命に直結しかねないものだった。その決着は、すなわち〈それ〉の力の集合体の今後(ポジティヴ/ネガティヴ)を自動的に確定するからだ。最終的に、従来からの主導人格ともいえる第一プレイヤーが勝利したため、劇的な変化は見られなかったのだが。
PAD病のくだりは、前の段落がそれに該当するので、冗長さ対策ということで、削除は妥当か。

Bestimmung 例4

ハヤカワ版(p223)
人類の運命はどうなるのかという質問の答えを得ることはできなかった。

原文:
Die Antwort auf die Frage nach der Bestimmung der Menschheit vermochte Rhodan auch nicht finden,

試訳:
人類の天命とはなにかという問いへの回答は、ローダンには見いだすことができなかった。

直訳すると、「人類の天命問題に対する回答」。

ローダンはおそらくアラスカから惑星デログヴァニアでの事件についても報告を受けていたであろうし、《バジス》におけるライレと泉主パンカ=スクリンとの確執に、自分たちとコスモクラートとのスタンスの差を感じてもいただろう。彼の目からすれば、盲従的にその傘下に入ることはためらわれたにちがいない。

本書において、長年お世話になってきたワンダラーの親分さんの述懐を聞かされてようやく、広域暴力団・宇宙秩序会の杯をいただくことになるわけである(笑)

Bestimmung 例5

ハヤカワ版(p276)
悲観的な見通しを語られながらも危機に強いことを証明したGAVÖKの創設も、たぶんこのための布石だったのだろう。

原文:
Vielleicht lag darin die eigentliche Bestimmung der GAVÖK, die sich allen Unkenrufen zum Trotz als ziemlich krisenfest erwiesen hatte.

試訳:
悪評紛々にもかかわらず危機への耐性を証明したばかりの銀尊連ガフェークの、本来の天命はこのためにこそあるのかもしれない。

私家版では「~銀河種族尊厳連合は、まさにこのために存在したのかもしれない。」とした。原文をみれば、「役割」の意味合いが強いのがわかる。新現代独和の(4)で訳せないこともないが、どちらかというと(2)に該当する。
元々は公会議支配に対抗するためではあったが、銀河系の諸種族を結びつけることを目的とする銀尊連は、コスミック・ハンザの裏の目的にとって大きな助けとなるはずだ。ひいては銀河種族全体で超知性体への道を歩むためにも。

と、ここまで書いてきた流れで本編を見ると、「人類の天命」とは――

与えられた2万年の時間を使い、銀河系諸種族とともに超知性体になること
(ひいては物質の泉、コスモクラートへといたること)

その遙かな道程への足がかりとして、

多銀河連合組織〈コスミック・ハンザ〉を創設する

……で、ファイナル・アンサーに見える、のだが。

冒頭述べたとおり、本書『テラナー』は、ローダン世界とわれわれの現実世界との二重構造である。その最終章、ペリー・ローダンという男のグラフィティに、最後の“天命”が待っている。

Bestimmung 例6

ハヤカワ版(p283)
だれもが心の奥におさえきれない熱望を秘めていることを信じている。人類の宇宙的な運命を知りたいという熱望を。

原文:
Er glaubt, daß tief in jedem Menschen eine unstillbare Sehnsucht verankert ist, seine kosmische Bestimmung zu erfahren.

試訳:
人間ひとりひとりの奥深く、おのが天命を知ることをもとめてやまない気持ちが根ざすと信じている。

前回にも引用したが、10年以上前に訳したそのままである。

ここでは、冠詞が seine であるため、それぞれの人間が、自分の Bestimmung を知りたいのだ。というか、ローダンのグラフィティ、前回取りあげた後半の文節、上記以外すべて der Mensch(ひとりの人間)が主語である。Menschheit(人類)どころか Menschen(複数の人間)ですらない。上記についても、jedem 「おのおの、それぞれ」なので、実質的に「個人」である。
ストーリー本編内の人類(総体)としての天命から、再び人間(個々)の天命へとシフトしている。強弁すると、これは冒頭の引用文への回帰である。おのが天命に対する力も影響も持たない人々へささやかなエールを贈るマクドゥガルの文章に、フォルツは大きな共感を抱いたのだろう。

それはそうだ。フォルツの初期のキャラクターたち、「グリーンホーン」のジョン・ピンサー、「一握りの永遠」のヘンドリック・ヴォーナー、「氷の罠」のドン・キルマクトマスなどは誰も、運命のいたずらで、どうにもならない状況に追いつめられ、生き残るため、使命を果たすためにあがきつづける平凡な人々だ。特にキルマクトマスは、ドイツのファンダム由来の voltzen「フォルツる、フォルツする」なる珍妙な動詞――人間的に愛すべきキャラクターで読者の共感を呼びながら、物語の結末で、自分ではなく他の誰かを守るため、悲壮な覚悟のうえの最期を遂げること――の代表例といえるだろう。
シリーズのレギュラーとなり、生みの親フォルツの死後も活躍をつづけるアラスカ・シェーデレーアも、規模こそちがえど、運命に対してあがきつづけるところは同じである。

彼らは皆、運命に戦いを挑み……多大な犠牲をはらって、ささやかな勝利を得る。

と、ここまで来て、思うのだ。フォルツの思想――信念は、「天命」とは天与の使命でこそあるが、それはけっして未来永劫不変というわけではない、というものではなかったのか。おのが意志、志望によって、“つくる”ことができるもの、なのでは、と。
カリブソら、先発の“大宇宙にひろがる種族たち”は、天与の使命をあるがまま与えられたままにうけいれる。一方、“天与の使命を知らない”テラナーは、自らひとつの使命を創出し、自らに科していくのではないか。

そしてコスミック・ハンザという、通商組織の皮をかぶった対セト・アポフィス防衛機構は、そうしたステージに立った人類とその友好種族の進化への道程をサポートするに最適である。重要拠点には6つのコスミック・バザールが置かれ、定期的に楔型船のキャラバンが往来する。そして、広大な力の集合体各所をゼロ時間で結ぶ意思決定機関、ペリー・ローダン。
ある意味最強である。銀河系のみならず、局部銀河群の諸種族を有機的に結び付ける、銀尊連を超える役割をはたすべきものとして、これ以上は考えられない。

あるいは、それゆえにこそ“フォルツ後”のストーリーでは持て余してしまったのかもしれない。強大な力を持ちすぎたがゆえに、第一次ギャラクティカムが瓦解した後の銀河系では、逆に騒動のタネとなってしまった。
実にもったいない。いまとなってはシリーズから姿を消してしまった組織ではあるが、そう思う。

力を持たないちっぽけな人間をこよなく愛した作家、ウィリアム・フォルツ。
彼は本書を“テラナー”たりうる多くの人々に捧げた。そのメッセージは、最後のグラフィティに明らかである。

――人類が自らをこのすばらしき大宇宙の一部と知り、調和に満ちて生きていけると信じている。

この一文こそが、フォルツの願った「人類の宇宙的天命」だったのではないか。
誰しもが、お仕着せの宿命サダメではなく、思いさだめた天命を胸に邁進してよいのだと。
ただ、無限にひろがる、調和に満ちた世界うちゅうへの憧れを忘れないでと。その気持ちひとつあれば、誰もが“テラナー”なのだと。
そう呼びかけ、われわれの背中を押してくれたのだ。
そのことに感謝すると同時に、この稿は、やはりこの言葉で閉じるべきだと思われる。

ウィリアム・フォルツもまた、テラナーであった。

ENDE

1000話「テラナー」について (5)

1000話「テラナー」について、第5回である。

ごやてんでもこそっとリンクを貼ってあるが、William Voltz のウェブサイトがある。
ローダン関連のサイトができたのは90年代後半からなので、無論、フォルツ自身が関与しているわけではない。2004年にドイツ語圏SFの後進育成のためとして、短編の名手でもあったフォルツの名を冠した賞(William Voltz Award)がつくられた、そのサイトである。
(→ フォルツ賞、応募・投票受付中
2004年第1回開催時の記事である。

フォルツ賞自体は、2009年の第5回以降休止状態となっているが、おそらくフォルツと交友関係があり、初期の審査を務めたヴルチェクが亡くなった(2008年)こととも無関係ではないだろう。
しかし、その後もサイトは地味に更新を続けている。フォルツ未亡人であるインゲ夫人による、フォルツのバイオグラフィーである。

第4部 そして新たな歯車は回る

最新の39回は、1074話のシェール復帰話と、慢性的な気管支炎をかかえたフォルツがインゲさんの懇願によってようやく医者にいき、抗生物質を処方されたあたりで終わっており、続きを読むのがちょっとこわい……のはさておいて。

このバイオグラフィーを読むと、シェールとフォルツの師弟関係が、シリーズのごく初期からのものであったことがよくわかる。1962年に購入したオペルの中古車で、オッフェンバッハから20キロほどの距離にあるフリードリヒスドルフのシェール宅へ、まだ婚約時代のインゲさんをともなって、フォルツは足しげく通っていたそうな。
アイデアをメモって来いとか、今後のシリーズの展開はあーもあろこーもあろと、2人して夢中で論議する姿をインゲさんはおぼえていた。実際シェールによって構築された世界観のどの程度がフォルツの提出したアイデアに影響されたものなのかはわからない。ただ、これまでは漠然と、大戦の従軍経験があるシェールやダールトンの生み出したローダン・シリーズと、兵役を忌避した(実際はハネられた)フォルツの考案する宇宙とは、異なるものであって当然と考えていたのだが、そのへん改める必要もあるだろう。

さて、カルフェシュとグッキーの後押しにより、機能をとりもどしたライレの目で、現在の〈それ〉の中央惑星エデンIIへの無間歩を果たしたペリー・ローダン。
しかし、新たな超知性体の座たる半球惑星は、思いもよらない様相を呈していた。
……戦いの準備である。

ハヤカワ版(p249)
砂によってプラスティックのようにつるつるに磨きあげられた、岩の上に立っているようだ。

原文:
Das Material, auf dem er stand, konnte ebenso gut glattgeschliffener Fels wie Kunststoff sein.

試訳:
足下の素材は、磨きあげられた岩とも合成素材ともとれた。

ebenso gut A wie B で、Aと同じくらいB。なのでこの場合、岩と合成素材、どちらも同じくらいにありそうだ、となる。

ちなみに元々この文章は、ebensogut glattgeschliffenener Fels wie Kunststoff と書かれていたものだが、1996年の表記法改正で ×ebensogut ○ebenso gut と決められたため、手元の第2版では ebensogut、電子書籍版が ebenso gut となっている。たぶん、ハヤカワ版は後者が底本で、ebenso 「(とっても)つるつる」 / gut glattseschliffenen 「よく磨きあげられた」と読んでしまったのではなかろうか。

ハヤカワ版(p250)
もう一度“目”をのぞいてみたが、やはり暗いままだ。

原文:
Er schüttelte das Auge, aber es blieb verschlossen.

試訳:
〈目〉を振ってもみたが、閉ざされたままだった。

ローダン、いろいろ試行錯誤してるのだ(笑)
翻訳する側としても、ぜひ彼の努力を汲みとってあげていただきたい。

ハヤカワ版:
 目の前にグレイの物体の影が落ちた。ちいさな尖塔のような形状で、

原文:
  Vor ihm schälte sich ein Schatten aus der grauen Substanz. Das Gebilde sah aus wie ein kleiner Obelisk,

試訳:
 前方、灰色の霧のなかからひとつの物影があらわれた。小さなオベリスクのような物体で、

動詞 schälen は、後で出てくるたまねぎの“皮”と同根で、「皮をむく、(再帰動詞で)皮がむける」。グレイの物質とは、霧(私家版では“もや”)を構成するもので、そこから皮がむけるようにオベリスクの影が見えてきたのだ。
個人的に“影を落とす”は werfen Schatten 「影を投げかける」が該当すると思う。これはバルディオクがらみの記事ですでに書いた。
(→ 続々850話・影を投げかける誤訳

上記のような混同が生じたのは、前置詞 aus に「~製の」という意味があるためだろうだが、困ったことにこれ以降、“グレイの”尖塔と本来ない描写がついたり、“グレイの物質”と書いてあるのに“尖塔”と訳したりしている。

ちなみに尖塔=オベリスクだが、サイノスがらみで後々まで頻出する語でもあるので、伏線である可能性を考慮すると揃えておいた方がよろしいのでわ。まあ今回は無関係だが。

ハヤカワ版:
その働きを知ろうとするのはむだだろう。ローダンはグレイの物体が配置された範囲をはるかにこえて存在する、目に見えない柱の内部にいるような印象をうけた。

原文:
Den Sinn dieser Anlage ergründen zu wollen war sicher ein wenig aussichtsreiches Unternehmen. Rhodan hatte den Eindruck, im Innern einer unsichtbaren Säule zu stehen, die weit aus dieser grauen Substanz irgendwohin reichte.

試訳:
この装置の意味を解明すれば、多少なりと展望が開けるかもしれない。自分が灰色の霧を抜けたどこかに通じる、見えざる柱の内部にいるようなイメージがあった。

ein wenig なので「ちょっとだけ」。wenigだけ(“ちっとも”)ならたしかに「無駄」だが。直訳すると「この施設の意味を解き明かそうと欲するのは、きっと少しは有望な計画だろう」くらいになるのかな。
そして上述したように、霧のことを“配置されたグレイの物体”≒尖塔と読んでいる。
ともあれ、見込みがある(aussichtsreich)から、この後ちょろっと考察してるわけだ。そして、その結果であるが……。

ハヤカワ版:
エデンIIをつつみこんでいる駆動装置の一部かもしれない。
そうだとしたら……どこに向かっているのだ?

原文:
Vielleicht waren sie Teil einer gigantischen, EDEN II umspannenden Transportanlage.
Wenn diese Vermutung richtig war – was wurde dann hier transportiert?

試訳:
あるいはエデンⅡを包括する搬送機構の一部かもしれなかった。
もしこの推測が正しいとしたら――何を運んでいる?

Transport である。Tran’Sport! なら佐川急便である。そしてローダンで駆動装置(エンジン)といえばだいたい Triebwerksystem か Antrieb だ。全然ちがう。

そもそも、仮にもおカネもらって翻訳している人が、wo「どこ」と was「なに」を読み違えるとも思えないのだけど。一行前にもどって訂正するのすらめんどくさいのかね……。

ハヤカワ版(p251)
突然、笑い声が聞こえた。だれかがこちらの推測をテレパシーで読みとり、あざけっているかのように。

原文:
Rhodan hörte plötzlich Gelächter, als hätte jemand seine Spekulationen telepathisch erfasst und würde sich darüber lustig machen.

試訳:
ふいに笑い声が聞こえた。まるで誰かがローダンの推量をテレパシーでとらえて興じているようだ。

形容詞 lustig は「愉快な、おもしろい、陽気な」。たしかに、手元の新現代独和辞典の用例でも sich über (IV格) lustig machen を「ちゃかす、からかう、(あざけって)おもしろがる」としているが、同ページ中ほどで登場したタコ・カクタが“さっき耳にしたのと同じ声で笑い”とあるので、嘲笑というよりはおもしろがっている意味合いに取らないと、旧友同士の再会は対面する以前に破綻してしまう。

ハヤカワ版:
なにが起きたのだろうと思い、もうすこし“なか”にいたかったと感じる。

原文:
Unwillkürlich fragte er sich, was mit ihm geschehen wäre, wenn er sich noch einige Augenblicke länger ≫in der Röhre≪ aufgehalten hätte.

試訳:
もうあと少しあの“パイプ”の中にとどまっていたら、いったいどうなったことか。

今回は書かずに済むかと思ったが……接続法第II式である。なのに「もし~だったら」の wenn がどこにも活かされていない。

試訳で“パイプ”とした Röhre は、3章でジンカー・ロオクが利用した非常用パイプ網と同じ語なのだが、そもそも搬送システムを駆動装置と誤訳しているので、パイプの中、という表現が前後と脈絡がつかなかったのだろう。こうやって、どんどん描写が削られていくわけだ。

ハヤカワ版(p252)
「エデンIIにようこそ、ペリー。ずっと待ちつづけていました」一瞬ためらい、声を落として先をつづける。「べつの姿を考えていましたが」

原文:
≫Willkommen auf EDEN II, Perry. Wir hatten dich eigentlich schon früher erwartet.≪ Er zögerte einen Augenblick und fügte dann leiser hinzu: ≫Und in anderer Form.≪

試訳:
「エデンIIへようこそ、ペリー。実際もっと早くおいでになるものと、われわれ、考えていたのですが」一瞬ためらってから、小声でつけたした。「もっと別の形で」

われわれ、とは後述されるように“昔の友たち全員”で、もっと別の形とは、「訪れては去っていく」客としてではなく、精神集合体の一部としてであることは、一連の流れから理解できる。にしても、わざわざわかりづらく訳すことはあるまいに。

ハヤカワ版:
「わたしに意識集合体にくわわれ、と……そういっているのか?」そうたずねた瞬間、強制的に統合するつもりなのかという思いが頭をよぎった。

原文:
≫Wird man mich … animieren, in das Bewusstseinskollektiv einzutreten?≪, wollte Rhodan wissen. Fast hätte er gefragt, ob man ihn dazu zwingen würde.

試訳:
「わたしに意識集合体に加わるよう……うながすつもりか?」あやうく言いかけたのだ。強制するつもりか、と。

まあ、ここは前後の文脈的に意味が逆転するようなこともないので、誤訳とまでは言わない。しかし、頭をよぎったどころか、喉元まで出かかり口ごもったのだ。

ハヤカワ版:
「これはなんなのだ? 駆動装置なのか?」

原文:
≫Was stellt das hier dar? Einen Transmitter?≪

試訳:
「これは何なのだ? 転送機かね?」

ここまでくると確信犯である。そこまで駆動装置にしたいのだろうか。まあ、そうしないと遡って修正しなくちゃならないので、駆動装置にしてしまいたいのだろう。きっと。

ハヤカワ版(p253)
われわれ、転換点にいるんです、ペリー」

原文:
Wir befinden uns in einer kritischen Situation, Perry.≪

試訳:
われわれ、危機的状況にあるんです、ペリー」

2004年私家版では“非常事態下にある”とした。
クリティカルな状況にある、ということで、転換点ターニングポイントは必ずしも誤訳ではない。しかし、「一種の転換装置です」「エネルギーに転換しているんです」「われわれ、転換点にいるんです」と一連の会話でつづけたら、ローダンまでエネルギーに転換されてしまいそうである。もうちょい単語を選んでほしい。
#そもそも2個目の原語は beschaffen エネルギーを「調達する」である。わざとか。

ちょっとググって出てきた主立ったところで、危地、岐路、重大局面、限界状況……剣が峰、ピンチとゆーのもあった(笑) 選択肢はいくらでもある中で、一番わかりづらいの持ってきたよね。
#エデンIIはこれから天下分け目の大決戦をむかえるのです……と読むと、剣が峰がそれらしく見えてくるから不思議であるw

ハヤカワ版:
グレイの尖塔群からはなれるにつれ、それらは空気中に溶けるように見えなくなった。

原文:
Weiter entfernt von den Obelisken löste sich die graue Substanz in der Luft auf.

試訳:
オベリスクから離れるにつれ、グレイの霧は空中にかき消えた。

霧が晴れて、周囲の情景が見てとれるようになったのだ。この霧って、変換器稼働の副産物かな、となるわけなのだが。オベリスクが消えたら変換器動作不良になっちゃうから、見えなくなった、と補っている。

ハヤカワ版:
猫の背中のように丸くて低い建物

原語:
diesen buckelähnlich Erhebungen

試訳:
これらこぶ状の隆起

Buckel は『ノートルダムのせむし男』のように脊椎湾曲のため背中がこぶ状に見えたものを指し、これが日本語では差別用語とされたことで、同症状(病名:Kyphose)の別名“猫背”が当てはめられた。語源的にはラテン語Gibbusとされるように「凸形の、瘤の」で、辞書を見ても「こぶ」と書いてある。猫なのは日本だけである。
せめて「低い建物」「低い建物」のくどい連呼だけでもどーにかしてほしい。

ハヤカワ版(p255)
カクタとローダンを連れて部屋の中央へ向かう。

原文:
  Zusammen mit Kakuta nahm er Rhodan in die Mitte.

試訳:
カクタとともに、ローダンをはさむような位置に立つ。

ローダンを中央に据えてカクタと向かい合った……かどうかまではわからないが、たぶんそうだろう。プロジェクション2名のあいだにはさむことで、ローダンの尻kもとい魂をひっこぬいたのだ。

ハヤカワ版(p256)
……あんなちいさなもののなかに。

原文:
– in einer derartigen Enge.

試訳
――ああも窮屈なものの中で。

誤訳ではないのだが、この Enge(狭いところ)、ほぼおなじ表現がp266で出てくる。

ハヤカワ版:
押しやられるような感覚があり、それがすぐにはげしい衝撃にまで高まる。とてつもなくせまくるしい片すみに押し込まれたと思ったら、そこは自分の肉体のなかだった。

原文:
Rhodan spürte eine Berührung, die einem heftigen körperlichen Schlag gleichkam, dann wurde er in die im ersten Augenblick unerträgliche Enge gedrückt, die sein Körper war.

試訳:
殴られたような衝撃を感じるとともに、ローダンは耐えがたいほど窮屈なものに押し込められていた。それは、自分の肉体だった。

使用前・使用後じゃないけど、おなじものを、おなじように感じているわけだから、できるなら揃えておいた方が良いと思うのだ。
なお、動詞 gleichkommen は「~に等しい」。関係代名詞もあるし、高まっているわけではない。ボディブローにも等しい接触、である。

ハヤカワ版(p256)
数十億の意識がローダンに集中し、すべてを見通している。それは感動的であると同時に、打ちのめされる体験だった。

原文:
  Milliarden Bewusstseine waren auf ihn konzentriert. Sie beobachteten ihn. Sie durchdrangen ihn. Es war erhebend und niederschmetternd zugleich.

試訳:
数十億の意識が彼に集中している。見つめられている。見透かされている。誇らしくもあると同時に打ちのめされる。

上げて、落とす、である。原文のリズムを考慮したらこんな感じに。
老人ホームへ慰問に訪れたら、じーちゃんばーちゃんに取り囲まれたの図。

ハヤカワ版(p257)
この力の集合体のすべてを一組織に結集し、確実に使命を遂行するために。

原文:
Es geht darum, diese Mächtigkeitsballung mit einer Organisation zu durchdringen, die ganz bestimmte Aufgaben zu erfüllen hat.

試訳:
ある特定の果たすべき使命をもつ組織で力の集合体を網羅もうらするのだ。

すでに何回か述べているが、 bestimmt は「特定の、さだめられた」。

Es geht darum, ~ は、バルディオク裁判におけるケモアウクの弁論で解説した、「~が問題だ」である。この場合の“問題”すなわち前の文章で語られた計画(Unternehmen)のこと。なので訳としては、前の文章をうけて、「それは、すなわち」くらいと取っておけばいいだろう。
(→ また850話・バルディオク裁判

ハヤカワ版(p261)
デスクの上を白紙だらけにしておくのが、かれの奇妙な癖だ。

原文:
Es ist eine Marotte von J. Chandler, seinen Schreibtisch mit diesem weißen, unschuldigen Papier zu bedecken.

試訳:
これはJ・チャンドラーの奇癖だった。デスクを、この白く無垢むくな紙で覆いかくすのは。

隠しているのは無垢(unschuldig)な白紙と正反対の罪(Schuld)の意識か――と、読者にストレートに想像させる材料を削る理由はなんだろうか。

〈それ〉の展開する一大事業、コスミック・ハンザの構想に目を輝かせるローダン。しかも、堂々と“裏がある”と言い切るあたり、さすが超知性体である(笑)
エデンIIで非常事態宣言が出ている以上、ある程度予想がつくことではあるが、ハンザの裏の(真の)目的とは、敵対する超知性体セト=アポフィスの侵攻に対するみかじめ団体なわけだ。
では、〈それ〉とアポりんの双方が、なぜ現在のような抗争にいたったか……ということで、この宇宙における生命の進化というものに話がいたる。

すでに772話「フリノスの幽霊」においてケロスカーが、力の集合体と超知性体について、モデルを用いて解説しているように、フォルツ宇宙における生命の進化は同心円構造――たまねぎの皮になぞらえて表現される。たまねぎの中心は宇宙のはじまり以前の絶対の虚無で、以下外側へ向かって順に、

  1. 始原の混沌
  2. 無機物の皮(惑星、恒星、銀河の誕生)
  3. 有機物の皮(原始大洋における有機物のスープあたりまでか)
  4. 原始生命の皮(動植物、知性や社会構造を持たない)
  5. 知性体の皮(狩猟文化から工業文明まで含む)
  6. 宇宙航行の皮(太陽系帝国はこの段階)
  7. 多銀河連合体の皮(公会議はこの段階)
  8. 超知性体の皮(力の集合体の形成)
  9. 物質の泉/沼の皮(超知性体+力の集合体→存在形態の変化)
  10. コスモクラートの皮(詳細不明)
  11. 以降不詳

ただし、Perrypedia等を参照してもらえばわかるが、これは現行のモデルとはかなり異なっている。

草案作家をヴルチェクが務めた時代には、一時〈人の皮〉という、原始生命体から多銀河連合体まで含めた、この宇宙に生きる生命を一括する表現が用いられたが、これもまた過去のものとなっている。

おそらくは超知性体の〈核〉ないし〈アンカー〉という概念が登場したあたりからだろうか。この宇宙に存在する何かを破壊することがその超知性体にとって致命的な作用をもたらすわけだが、たとえば〈それ〉のように肉体を持たぬ超知性体であっても、〈核〉がこの宇宙――“精神的中心”だったり超空間だったりもするが――にある以上、結局のところ“こちら側”に生きる存在である、という考え方が主流となっていく。
近年ではこれを Leben an sich (生命そのもの)……ここでは〈生命総体〉と仮訳しておくが、コスモクラートのような〈彼岸〉に在る超越者たちとの対蹠的存在として表現する。そのため、現在の進化モデルでは超知性体までを含めて〈知性ある生命体の皮〉と位置づけているのだ。

余談ついでにいっておくと、本書でもローダンがちらりと漏らす“たまねぎモデルの一番外の皮”のことを、最近では“〈法〉の地平線”と表現している。異なる時間線の話になるが、「他にも存在する究極の三謎」の内容なので、はたしていつか本編のネタに取りあげられるかもわからないことではあるのだが(笑)
閑話休題。

とにかく、進化の道程を、上記モデルのように歩んでいけるか否かには、一点、明確とは言いがたい基準が存在する。ポジティヴか、ネガティヴか、である。
アポりんの進化史(昔話)を読むと、彼女はその時点で入手しえた手段を活用して、ひたすら上昇志向を満たしていく。それがネガティヴとされるのは、この進化モデルが一種の“倫理コード”にしたがっているからなのだが……その“ものさし”が普遍的なものであるかは、現状ではわからないのだ。

ハヤカワ版(p262)
生きているあいだにセト=アポフィスからじかに任命されることは、断じてない。その必要もないから。つまり、協力者は生涯、自分がセト=アポフィスの奴隷だったと知らないことになる。

原文:
Es kommt vor, dass Seth-Apophis einen Helfer während seines gesamten Lebens überhaupt nicht einsetzt, weil keine Notwendigkeit dazu besteht. Ein solches Wesen stirbt, ohne jemals zu erfahren, dass es ein potentieller Sklave von Seth-Apophis war.

試訳:
協力者によっては、必要が生じなければ、生涯動員されないこともありうるのだ。そうした存在は、自分がセト=アポフィスの潜在的奴隷であったことを知ることもないまま終わる。

「必要性がないからと、ある奴隷(協力者)を生涯投入しないこともある」と、すぱっと直訳した方がわかりやすいかもしれない。というか、セト=アポフィスの奴隷とは、無自覚な“草”だから、“潜在的”という言葉を削除していなければ、絶対違和感があるはずなのだ、この訳文。
動詞 einsetzen にはたしかに「任命する、設定する」という意味もあるが、ローダンでは一般的に「(労働力、戦力を)投入する、動員する」である。手元の新現代独和辞典では後者の方が先にくるし、読む本が偏っているせいか、私的にはこれまで前者の例に遭遇したことがないなぁ。

ハヤカワ版(p263)
セト=アポフィスの運命に介入するのはかんたんなことではないが、

原文:
Es ist unwahrscheinlich, dass wir das Schicksal von Seth-Apophis günstig beeinflussen können,

試訳:
セト=アポフィスの運命を好転させることはほとんど不可能だが、

günstig 「好都合な、有利な」……というと、アポりんの運命をこっちの都合がいいようにいじくりまわすようだが(笑) 好天とかにも使用する形容詞なので、運命を良い方向へ導く影響をあたえる、くらいに取っておくべきだろう。
……まあ、実際不可能だったわけだが(爆)

ハヤカワ版:
かれらはセト=アポフィスとわたしの力の集合体のあいだにある、緩衝地帯のひとつなのだ。

原文:
Sie sind dabei, eine Pufferzone zwischen den Mächtigkeitsballungen von Seth-Apophis und der meinen aufzubauen.

試訳:
彼らはセト=アポフィスとわたしの力の球形体の狭間に緩衝地帯を築こうとしている。

dabei は「(空間的に)そばにいる」「(時間的に)その時に、同時に、~しようとしている」。
ハヤカワ版は前者として読んだようだが、そのために動詞 aufbauen 「建設する」を無視している。その後のハヤカワ版を読んだ方なら、この文章の意味するところが、アトランと《ソル》によるクラン帝国建設(1000話時点では未来の話)であることはおわかりだろう。

……そもそも、コスモクラートが緩衝地帯って、泉の彼岸をどう考えているのかな?

ハヤカワ版(p264)
〈ほとんどの存在形態が、これらの段階のどこかに位置している。

原文:
≫Die meisten Existenzformen bleiben irgendwo an dieser Stelle hängen≪,

試訳:
〈たいていの存在は、このあたりで行き詰まる〉

分離動詞 hängenbleiben 「ぶら下がる、ひっかかる、(ひっかかって)動かない」。
場所、を意味する Stelle も単数なので、あくまでこの位置(皮)で、なのだ。

ハヤカワ版(p266)
おお! やっとわかった。
なんということがわかってしまったのか。

原文:
  Mein Gott!, dachte Rhodan. Nun verstehe ich auch das.
Und wie ich es verstehe.

試訳:
神よ! いまのわたしは、それも・・・理解している。
いやというほど、理解している。

ここ、地の文だけど現在形なので、ローダンの思考がダダ漏れている感じか(笑)
この前にあたる“理解”は2万年の区切りについてで、この文章では“精神を肉体の絆から開放できることをよろこぶようになる”についての理解。どれほど(英:how)わたしは理解していることか、が直訳。
ここは今わかったというより、エデンIIへ跳躍する前にすでに自覚している。誤訳というか、気分の問題ではある。私家版は〈それ〉のセリフも「ようやく理解してくれたな」としているので、そっちに揃えたもの。

先読みしていると、ローダンのことを“敬虔なキリスト者(だった)”とする表現をたまに見かけるのだが、ハヤカワ版にはあまりそういうイメージがない。松谷先生もそのへんは意訳していたのか、そもそも当時はあまりそういう描写がなかったのか。実際わたしも、私家版では「なんということだ!」と訳してるし >Mein Gott
……それとも単にわたしの記憶力が悪いのかorz

ハヤカワ版(p269)
こちらに注意を向ける余裕がなさそうだ、と、ローダンが思いはじめたとき、ようやく“それ”の声が届いた。

原文:
Rhodan hatte den Eindruck, dass ES sich schwer auf ihn konzentrieren konnte, als es schließlich wieder in mentalen Kontakt zu ihm trat.

試訳:
ようやくメンタル・コンタクトが成立しても、ローダンの感触では、〈それ〉はこちらに集中するのが難しそうだった。

文章の主客が転倒している。まあ、文章をアタマから訳すこと自体は悪くないのだけど。
おいおい、話すときには人の目を見て話しなさい、である。

ハヤカワ版:
超越知性体はつねに力の集合体の安定と拡張に意を注いでいる。

原文:
Eine Superintelligenz wird stets bemüht sein, ihre Mächtigkeitsballung zu stabilisieren und auszubauen. Dazu bedarf es unvorstellbarer geistiger Anstrengungen.

試訳:
超知性体はつねに力の集合体を安定させ、拡大しようと努める。それには想像を絶する精神的労力が必要だ。

意を注いでる、で次の文章まで含めちゃったのかな。
消えた〈それ〉のセリフ、なんだか言い訳くさくて笑えるのだがw

ハヤカワ版:
ネガティヴな力が優勢になれば、力の集合体は崩壊する〉
〈セト=アポフィスの力の集合体がそうなりかかっていると?〉

原文:
Sobald negative Kräfte die Oberhand gewinnen, beginnt eine Mächtigkeitsballung in sich zusammenzustürzen.≪
≫Das ist das Schicksal, das Seth-Apophis droht?≪

試訳:
ネガティヴな力が優位を占めると、力の集合体は崩壊をはじめる」
「それがセト=アポフィスを脅かす運命なのですね?」

p263で話題にのぼった、アポりんの好転させるべき運命の話である。

ハヤカワ版(p270)
そのあとにとらえた心理性の背景音を思いだす。ジャルミタラという精神存在のことも、物質の窪地に行ったハルノから聞いた。

原文:
  Im nachhinein erinnerte er sich an ein mentales Hintergrundrauschen, das er damals empfangen hatte. Er hatte es einer psychischen Existenz zugeschrieben, die sich Jarmithara genannt hatte.

試訳:
いまにして思えば、当時とらえたメンタル背景音。あれはジャルミタラという精神存在によると考えたものだが。

Im nachhinein は「後からの、追加の」Wiktionary等参照すると「すべて終わった時点では」。
ジャルミタラの名前自体は、たしかにハルノから伝え聞いたものなのだろうが、この追加の作文だとメンタル背景音とジャルミタラがイコールでつながらない。

ハヤカワ版(p271)
また同時に、さらなる進化を遂げた超越知性体の内部には、泉の彼岸へ至る門が形成されるのだ〉

原文:
Die weiterentwickelten Superintelligenzen bilden in ihrer neuen Daseinsform gleichzeitig Tore auf die andere Seite.≪

試訳:
さらなる進化を遂げた超知性体は、その新たな存在形態の内に、同時に彼岸への門を形成するのだ〉

門が形成されるから、エネルギーが流入してくる、というのがこの段落の主旨。この時点では、解説はまだコスモクラートには到達していない。
なんだか、あちらでもこちらでも“(新たな)存在形態”という単語を削除しているけど、超知性体の新たな存在形態=物質の泉で、それはすでに超知性体ではない。

ハヤカワ版:
物質の泉の段階を過ぎると……やがて超越知性体はある存在というか、勢力に進化する。

原文:
Irgendwann endet auch der Zustand der Materiequelle – sie wird zu einem Wesen oder zu einer Macht, die wir unter dem Begriff >Kosmokraten< kennen.

試訳:
物質の泉の段階も、いつかは終わる――われわれが“コスモクラート”の概念で知る存在、あるいは力に変わるのだ。

前項の“すでに超知性体ではない”がわかっていないから、こういう訳文になる。主語 sie は、物質の泉である。
あと、力 Macht が複数集まるから勢力 Mächte なのだ。

ハヤカワ版(p273)
それこそ深遠な宇宙的意味

原文:
also einen tiefen kosmologischen Sinn

試訳:
つまり深遠な宇宙論的意味

深淵の騎士(Ritter der Tiefe)との語呂合わせと取った訳はおみごと(笑)

ハヤカワ版:
いずれは物質の泉となる力の集合体を形成するため、争いに参加することを要請されている。

原文:
und sie war aufgerufen, das Ihrige dazu beizutragen, um eine Mächtigkeitsballung zu erhalten, die einmal eine Materiequelle werden sollte.

試訳:
いつか物質の泉たるべき力の集合体の維持に、彼らなりの役目をはたすために召集されたのだ。

ここでいう「ある(ひとつの)力の集合体」とは〈それ〉のもの。
そもそも〈それ〉は語らないが、実は超知性体が力の集合体ごと物質の泉になる、という表現は、銀河系を含む局部銀河群壊滅を意味している……かもしれないのだ。そのあたりは、色々と論議の的であったのだが、2899話において、あるネガティヴ超知性体は勢力圏である銀河を呑み込んで物質の沼へと変じた。テラナーが超知性体へといたる道は遠く険しい(ぁ

ハヤカワ版(p274)
〈この知識を人類に伝えるのは困難だろう。たとえほかの者に話したとしても、まず理解されない。だから宇宙ハンザは、その背景に深い意味を持つものとして創設する必要がある。この組織に正しく息を吹きこめないかぎり、目的を達することはできない。

原文:
≫Du wirst schwer an diesem Wissen zu tragen haben≪, prophezeite ES. ≫Auch wenn du es mit anderen Menschen teilst, wird man dich nur in seltenen Fällen verstehen. Es liegt also an dir, die Kosmische Hanse so aufzubauen, dass sie einen tieferen Sinn bekommt. Als eine Organisation, der man kein Leben einhaucht, wird sie ihre Aufgabe kaum erfullen können.

試訳:
〈この知識は、きっと重荷になるだろう〉と、〈それ〉が予言する。〈たとえ誰かと分かち合っても、理解が得られるのはごく稀なケースだ。したがって、コスミック・ハンザがより深遠な意味を持つよう組織することは、ひとえにきみの双肩にかかっている。生命が吹きこまれていない組織には、その使命をはたすことなどできない。

これまでのネタは、基本的に、キミだけに宛てたものなんだよ、である。だから裏の目的の件については、キミにまかせたからね? である。
通商組織としてのガワだけつくっても、真相を知らないメンツではアポりんの攻撃に対処できないのだ。組織に魂を吹きこむ匠の技を要求されたローダン、その肝心の“キミ”がハヤカワ版からは削除されている。防衛失敗である(笑)

ハヤカワ版(p283)
 人間がカオス的宇宙に偶然うまれたものではないことを信じている。
 だれもが心の奥におさえきれない熱望を秘めていることを信じている。人類の宇宙的な運命を知りたいという熱望を。
 人類が崖っぷちから身を投げて、自分たちが荒廃させた大地に落下することはないと、信じている。
 人類がすばらしい宇宙の一角を占め、そこで調和に満ちて生きていくと信じている。

原文:
  Er glaubt nicht, dass der Mensch ein Produkt des Zufalls in einem chaotischen Kosmos ist.
Er glaubt, dass tief in jedem Menschen eine unstillbare Sehnsucht verankert ist, seine kosmische Bestimmung zu erfahren.
Er glaubt nicht, dass der Mensch über den Rand des Abgrunds hinaustaumeln und auf einer von ihm selbst verwüsteten Erde untergehen wird.
Er glaubt, dass der Mensch sich als Teil eines wunderbaren Universums begreifen und voller Harmonie darin leben kann.

試訳:
 人間が渾沌とした宇宙における偶然の産物だとは思わない。
 人間ひとりひとりの奥深く、おのが天命を知ることをもとめてやまない気持ちが根ざすと信じている。
 人類が奈落のふちを踏みはずし、地球もろとも自滅するとは思わない。
 人類が自らをこのすばらしき大宇宙の一部と知り、調和に満ちて生きていけると信じている。

原文の glaubt nicht / glaubt / glaubt nicht / glaubt のリズム、ガン無視である。まあ、百歩譲ってそれはいいとしよう。
動詞 untergehen は「(日が、天体が)沈む」「没落する、滅ぶ」で、人が落下する意味はない。Erde(英:earth)は女性名詞なので auf+III格は方向ではなく場所で、「自らが荒廃させた大地(地球)で(人類が)滅ぶ」。核のボタン押したりしないさー、だ。

また、最後の文章は、ペリー少年が宇宙への窓を見せられて「調和のとれた光の波の一部」と感じた、あれとまったく同じことである。一角を占め、とか、なに領土主義に陥ってるんだと言いたい。

最後の最後、決めの文章でこんな誤訳してどーするの。

ハヤカワ版(p285)
10 テラニア百科事典の記述

原文:
10. Encyclopaedia Terrania

試訳:
10 エンサイクロペディア・テラニア

これまで何度もシリーズに登場した百科事典の名称である。ぜひ踏襲していただきたい。

ここに、ペリー・ローダンの長かった旅路が終わり、新たな使命を携えてテラへと帰還する。
純粋なテラナーの消失とともに、その夢も失われたかに思われたローダンだが、人類のみならず、銀河系諸種族と一体となって超知性体への道を歩むという、新しいお題目によって息を吹きかえす。
〈それ〉によって開陳された、ポジティヴな生命が歩む秩序立った進化の道筋。そこを歩む、それこそが彼の新しい“天命”と思われた……。

まあ、この先のストーリーとか知っていると、なんとまあ純朴な、と呆れたくなる向きもあろう(笑) 実際、後にローダンが知る〈究極の謎〉のカラクリは、コスモクラートが低次の生命体である彼を、まさに“道具”として使い潰す気満々であったことを示している。
1100話「フロストルービン」を経由して、1200話「オルドバン」へと、セト=アポフィスとの戦いと並行して、究極の謎を解くためのヴィールスインペリウムの再建計画と〈ヴィシュナ〉の覚醒、“トリイクレ=9”を奪回するため出現した〈無限アルマダ〉、さらに〈エレメントの十戒〉の参戦と、目まぐるしく展開するフォルツ・ストーリーは、おそらく“その先”に何かをめざしていたのだと思う。その紡がれることがなかったのは、フォルツ・ファンとしては無念の一言に尽きる。

ただ、フォルツが残した1209話までの草案は、ローダンによるクロノフォシルの活性化と、アトランらによる〈深淵の地〉の下準備、その両方の端緒までが用意されているので、その行き着く先――1272話「騎士たちの叛逆」までの大筋は、おそらくすでに詰めてあったのだと思われる。
実際にできあがった形が、フォルツの構想をヴルチェクらが活かしきったか、独自のアイデアで上書きしたのかはこれもまた明らかではないが……そこでまた、すべてを失うローダンに、フォルツはどんな“第三の道”を歩ませるつもりであったのだろうか。

「最終回 人類の天命の物語」に続く。
最後は、本書のテーマとは何か。フォルツが訴えたかったのはどんなことか、考察してみたいと思う。ただし、ノリはいつものごやてんである。