エシュバッハ著 『最大の冒険』

去る2月27日、アンドレアス・エシュバッハ著『ペリー・ローダン ~最大の冒険~(Perry Rhodan – Das größte Abenteuer)』が発売された。

848ページのハードカヴァーという、ほとんど鈍器クラスの代物であることは、先日開催された3000話記念イベントに出席された井口さんたちのツイッターなどでも判明している……のだが、Amazonジャパンから到着するのは来週末の予定。結局、待ちきれなくてKindle版を購入し、読んでいる真っ最中である。

お試し版で紹介した、《スターダスト》のゴビ砂漠着陸に端を発する三大ブロックの疑心暗鬼から第三次世界大戦勃発を告げる核ミサイルの発射……までが言わばプロローグ。
本編は1936年6月8日、ペリー少年の誕生から、時を遡り1889年のドイツはオーバーバイエルン地方、祖父であるアロイス・ローデン(!)に始まるローダン家の歩みを紹介する。
移民申請時にアメリカ風に修正され、ローデン(Roden)→ローダン(Rhodan)となったとか。大怪獣ラドン(Rodan)ぢゃなかったんだ……(笑)
前回の記事:ローダン前史お試し版

カールとジェイコブ、ふたりの息子たちの成長と結婚。ペリーと、妹デボラの誕生と事故死(今月末にハヤカワ版でも言及される)。第二次大戦の勃発と、ジェイク、ついでマリーの従軍で、しばらくのあいだペリー少年がカール伯父の農場ですごしたことは、1000話「テラナー」から読者諸兄もご存じのとおり。
若干セリフ回しとか異なっていて、当時ジェイクとマリーは太平洋戦線にいたとされる。

その後、マンチェスターに戻ったペリー少年は、大きな虫眼鏡で蜂を観察している黒人の少年と出会い、トモダチになる……。
やはり1177話に登場し、学校で起きた星球儀盗難をめぐる事件にからんでくる、このリロイ・ワシントンくんが、ペリー少年の成長を綴る本編と、1971年、世界の終わりと人々が怯えるペントンヴィル刑務所にいるアダムス一人称の幕間とをゆるやかに結んで物語は進む。

ローダンは母のいとこ(1177話だと腹違いの弟?)ケネス・マローンの勧めでカーソン・ロング・ミリタリー・アカデミーに転校。ウェストポイントこと陸軍士官学校を修了後、アリゾナの空軍基地でパイロットへの道を歩んでいく。
そして、レスリー・パウンダーの招きで、若き少尉は“エリア51”ことグルーム・レイク空軍基地へ……。
3/7訂正 はとこ(Großcousin)って書いてるけど、伯母の息子でしたーorz

最終的にローダンは《スターダスト》で月へ飛び、アルコン宇宙船に遭遇。第三勢力を創設し、人類に宇宙への道を切り開く。IVsの侵略を撃退し、1975年、冥王星の自動監視ステーションが探知したヴェガ星系での構造震動の謎を解き明かすべく、《グッド・ホープ》で、人類はじめての超光速飛行を敢行する。
それは最大の冒険であり、いままさに始まったばかりなのだ――。

まさかの男坂エンディングである(爆)
#本編は、ワンダラーからの帰還後のエピソードをちょっと含む。

だが、本書はNEOとは違い、古いスペースオペラの語り直しではない。
“最大の冒険”=ローダン・ヘフトは1961年の開幕以来、数十年にわたって継続されており、したがって第1話「スターダスト計画」にたどり着いた時点で本書の目的は完了している。
作中、ローダンは様々な人々と出会い、友好を結び、あるいは対立する。そのすべてが、ペリー・ローダンという人格を形作っている。
これは、長大なシリーズの主人公、ペリー・ローダンの前半生を語り、いかなる体験が彼を彼たらしめたか、の物語。ローダン(ローデン)の一族がどんな人々かを語り、その血脈を受け継いだ人間ローダンをひもとく物語なのだ。

エシュバッハの語り口は毎度のごとくで、ローダン一族三代がそれぞれ丁寧に描かれているし、ローダンと関わり合った人々のその後とか、いろいろ興味深い。いつもの悪い癖で、あちこち拾い読みしてしまったが、現在アタマから熟読中。
実在の人物も多数おり、特に宇宙飛行士関連は、ちゃんと調べてみないとアレだが、多くが歴史上の人物といえる。ジム・ラヴェルに、「土曜日にオルドリンの35歳の誕生パーティをやるんだ。ヒマだったら、おまえも来ないか?」と誘われて、オルドリンとアームストロングに紹介されちゃったりするのだ(笑)

うん、とりあえず、3000話より楽しいや(おい
ありがとう、エシュバッハ!

失われた世紀

なんか紹介したつもりになっていて、前回ちょろりと触れた際にも説明していなかったのだが、2999話と3000話の間の時間ジャンプを埋める企画〈失われた世紀(Verlorene Jahrhunderte)〉全6巻のタイトルがAmazonで公開されていた。

この企画、6人の作家がそれぞれ異なる人物を取り上げて、上記時間ジャンプ(どのくらいの期間になるのかは依然不明)の間のできごとを短編として綴る。1巻「フローレンス」だけ先行して公式やAmazonに紹介が上がっていた。草案担当はクリスティアン・モンティロン。

今回明らかになったのは、各巻のタイトルと発売日。e-book先行で、1月31日から週刊で刊行される。後日プリント版も出る予定だそうだが、そちらの期日は未詳。
1巻のみ、ジェネシス・サイクル後半でアトランと、くじら座矮小銀河の冒険を共にした商船長フローレンス・ホーニゴールドさんが主役らしいが、現状それ以外の内容については、これまた未詳である。

以下、タイトル:

  1. Christian Montillon / Florence / フローレンス
  2. Thomas Rabenstein / Der Goldene Frieden / 黄金の平和
  3. Michelle Stern / Bestellter Tod / 注文された死
  4. Oliver Fröhlich / EL DORADO / エル・ドラド
  5. Rüdiger Schäfer / Admiralin außer Dienst / 退役した女提督
  6. Michael Marcus Thurner / Die Leben des Blaise O’Donnell
    / ブレイズ・オドネルの生涯

2巻の著者、トーラことトーマス・ラーベンシュタインは、2003年12月までPerry Rhodan-Webchronikという情報サイトを運営していた方で、当時、輸入前に先読み情報を得るならまずここ、であった。お世話になりました。
#Perrypediaが2004年1月スタート。

その後、オンラインでNebularというSF小説を発表したり(サイトは現在改装中)自費出版していたことは知っていたのだが、最近の活動まではフォローしていなかった。公式にローダン関係を執筆するのは、これが初めてのはずである。

以下余談だが……このタイミングで公開された公式Logbuchが、作家の紹介だけでタイトルすらないって、また順番まちがえてない?(笑)

■公式Logbuch:VERLORENE JAHRHUNDERTE IN SECHS GESCHICHTEN

エシュバッハ著・ローダン前史お試し版

来年2月27日に発売予定、アンドレアス・エシュバッハ著『ペリー・ローダン ~グレイテスト・アドヴェンチャー~』のお試し版(Leseprobe)が14日付けで公開されている。

冒頭、

『 地球人類最大の冒険は、旧暦1957年10月4日に始まった……』


と、スプートニク1号打ち上げに端を発する米ソの月着陸競争の話でスタートし、当時21歳のペリー・ローダン青年が、父の営む電器屋の部品をパチってスプートニクの電波を傍受する装置がつくれないかな~と工作している記述に苦笑する。

……が。

次章、ジェイクとマリーのローダン夫妻が、リムジンで大統領官邸へ運ばれる描写でオヤっとくる。
群がるデモ隊の掲げるプラカード――

「いまこそ世界をひとつに!」
「ノーモア・ウォー!」


そして、

「裏切り者ローダン!」
「月へ行ったやつらを絞首台にかけろ!」


時は1971年7月21日。
ホワイトハウスでは、ニクソン大統領とキッシンジャー国家安全保障担当補佐官が、ペリー・ローダン少佐の両親を待ち受けていた。
世界はいま、ゴビ砂漠に緊急着陸したスターダストをめぐり、第三次世界大戦勃発寸前であった。

さらに場面は変わって、英国首都ロンドンはペントンヴィル刑務所で、囚人たちがBBCのニュースを見ている。おそらく、ここで一人称の語り手はホーマー・G・アダムス。
そして、アメリカへ派遣された現地リポーターが狼狽する中、耳をつんざく警報が響き渡り、米ソの核ミサイルの応酬が開始される……!

……。
ちょっと、予想を裏切る凶悪な開幕に唖然としてしまった(笑)
以前公式に乗った広告文を読んで、てっきりヘフト第1話「スターダスト計画」みたいな打ち上げ直前から遡るものだとばかり思っていたのだが。こうきたかw
ニクソンとかキッシンジャーのような実在の人物が登場すると、なんかこう、また違った世界観ができてくるというか。ソ連首脳部は……この当時、書記長がブレジネフでコスイギン首相か。小中の頃、ニュースで目にしていた名前だし、懐かしいね。
#中国が……微妙w いや毛沢東なんだけど。

ヘフト版の時には「仮定の10年後」だった1971年、ドイツも東西に分断された冷戦まっただなかの時代が、いまや半世紀近い過去であるが故に可能な手法なわけだが。まあ、いまのローダン読者層の中心はわたしと大差ない年齢なはずなので、通用しそうだわな。

相変わらず、エシュバッハはやってくれるw たーのーしーみーだー(をい


※他にCD版もアリ。

■公式News:LESEPROBE ZU »PERRY RHODAN – DAS GRÖSSTE ABENTEUER« STEHT ZUR VERFÜGUNG

ペリー・ローダン、日本(の大学)に現わる

公式サイトによると、2017年春からの日本の大学向けドイツ語教科書として郁文堂から出版された『Wir kommen aus Deutchland(ドイツから来たよ!)』の題材のひとつとして、ペリー・ローダンが取り上げられたとのこと。

実はこのニュース、すっかり読み落としていて、まるぺメーリングリストの話題で知ったという(笑)
先ごろAmazonに注文したものがようやく届いたので、簡単に紹介…でも……しようにも、わりと順当な文法テキストなんである。全12章で、各々に「名詞の性・格変化」とか「前置詞」等のテーマがある。ただ、章ごとの例文の題材が、ドイツで有名ないし一般的なキャラクターたちのことを取り上げているというものなのだ。
昔話の登場人物、歩行者信号のキャラクター、伝統的人形劇、人気コミック等々。その中のひとりとして、“ドイツ発の世界最長SFシリーズ”の主役たる我らがペリー・ローダン氏も登場しているわけだ。
詳しい内容については、下記出版社のリンクを参照してほしい。

第10章「PERRY RHODAN」は8ページあって、テーマは「zu 不定詞」。
例文として、主な登場人物からローダン、アトラン、グッキーの簡単な紹介と、シリーズの概要やマルチメディア展開を説明したものが、それぞれ1ページ。あと6ページがそこから回答を考える穴埋め問題等という形。しごくまっとうである。
ただ、ローダンの説明で、

Er hatte und hat zahlreiche Beziehungen zu Frauen und hat viele Nachkommen.

という一文。これ、

「ローダンは幾度かの結婚を経て、子だくさんである。」

あるいは、

「ローダンは昔から女性関係が派手で私生児や孫までいる。」

どっちにも訳せるなあ、と苦笑した次第(ぁ

学生に興味を持たせる教材には、先生方もご苦労されているのだろう。わたしの学生時代、ヨソの第二外語クラスでは少し前(当時)のヒット曲、NENAの『ロックバルーンは99』を読解の授業で用いていたそうで、ちょっとうらやましかった。
……まあ、テスト以外ろくに顔も出さない学生にアレコレ言われたくないだろうけど(爆)

とゆーか、実際どれだけの大学に出現取り上げられているのかなあ。
オレんとこ使ってるぜ、とゆー方は、ぜひご一報を(まだいねぇw
ちなみにAmazonにはまだちょっとだけ在庫があるみたい。

なにぶんドイツ語教材なので、お値段もそこそこする。
単に話のタネにするには、少々お高いかもしれない(^^;

■公式サイト:PERRY RHODAN jetzt an japanischen Universitäten
■郁文堂:ドイツから来たよ!

時を翔ける愛(^^;;;

ふらりと日本橋丸善に立ち寄ったら(べつにレモンは置いてこない)、どこかで見たよーな新刊が……。
先頃、ラスヴィッツ賞がらみで少しだけ書いた、アーシュラ・K・ル・グィンの短編集 The Birthday of the World が早川SF文庫から刊行されていた。

ハイニッシュ・ユニヴァースもの6編と、ラスヴィッツ賞で名前の挙がった「失われた楽園(Paradises Lost)」他1編の全8編を収録、とのこと。ル・グィンは個人的に合う合わないがけっこう極端な作家さんなので、どーしよっかなぁ(まだ買ってない^^;)。

そして、もうひとつ(こちらが本題)。
ケルスティン・ギアの〈時間旅行者の系譜〉が文庫に落ちはじめてた。

振り返れば、ごやてんで取り上げた記憶がないが(笑)、このシリーズ、ドイツでは映画化もされているベストセラーである。サブタイトル Liebe geht durch alle Zeiten (愛はあまねく時代を超えて)や、後述のとおりタイトルが宝石とその色の取り合わせなので〈宝玉(Edelstein)三部作〉なんて呼ばれているらしい。

 1. Rubinrot / 紅玉は終わりにして始まり (ルビーレッド)
 2. Saphirblau / 青玉は光り輝く (サファイアブルー)
 3. Smaragdgrün / 比類なき翠玉 (エメラルドグリーン)
 ※映画化は現在2作目まで。

と、遠山明子さん訳で創元から単行本で全3巻訳出済み。
装幀も凝っていて、本屋でにらめっこして購入を考えることも度々だったが、1冊2200円↑とゆーので二の足を踏んでいたわけだが(笑) 文庫だと980円(+消費税)とあって、めでたく購入の運びに。

ストーリーは、タイムトラベラーを輩出する家系の少女グウェンドリンが、優秀ないとこをさしおいて突如時間旅行の才能にめざめてしまうことからはじまる。
世界にはタイムトラベラーを統括する秘密結社〈監視団〉が存在するのだが、なぜかグゥエンドリンは「いつか裏切るんじゃなかろーか」と目されている様子。その背景には、結社を創設したサンジェルマン伯爵の思惑と、それに疑問を抱いた彼女の親族の存在があり……。
何も知らないグゥエンドリンは、イケメン朴念仁のパートナー、ギデオンとともに〈監視団〉に与えられた使命をはたすため、時間を超えた冒険に出発することになる、らしい(これから読む)。

訳者の遠山さんによると「類まれなロマンチックコメディ&タイムトラベル物」であるそうだ。訳文も読みやすいし、これがアタリだと……残り単行本でそろえちゃいそうだな(^^;;;

■Wiki(日):ケルスティン・ギア
■Wiki(独):Liebe geht durch alle Zeiten

惑星小説ポケットヘフト拾遺

意外と食いつき評判のよかったPRポケットヘフトのタイトルリスト。
うちにも全部あるわけではないし、あっても読んでないものの方が多いわけだが、ペリペのあらすじ等たぐって、いくつかネタ的にピックアップしてみよう。

4巻『《バジス》をこの手に』は、1799/1800話の空白期間が舞台。
ヴォイド遠征、アプルーゼ侵攻、そして火星のアレズム転送を経て、すっかり冷え切ったローダンら活性装置携行者と自由テラナー連盟の関係を象徴するように、第一テラナー、ブッディシオ・グリゴールは老朽化した《バジス》の売却を検討。
アダムスらはなんとか事態の打開をはかるも、議会の承認を経て、歴史的巨船はドナドナされることに。そしてスプリンガーやらブルー族等、意外と引く手あまた(笑)
一方で、巨船に愛着をもつバジス退役兵の一団が、売却を阻止せんと動きだし……。
最終的に、《バジス》がギャラクティック・ガーディアンのトンネル会社に買収され、巨大カジノに改装されたのは皆様ご存じのとおり……かな? あれもう20年くらい昔の話だしね!!

5巻『氷結の未来』は999/1000話の空白期間が舞台……つーか、新銀河暦403年とゆーから、1007話のちょっと前の時点である。新型ミニATGのテスト中に消息を絶った《TS-T8》。その乗員の数奇な運命が物語られる……のだが。
彼らの巻き込まれたドンパチとゆーのが、なんと、超知性体セト=アポフィスvs冷気のエレメントであるwww

10巻『幽霊船《クレストIV》』は、ファンダムでも何度か取り上げられたことのある、《クレストIV》サルベージ作戦。
西暦3437年、50年前に受信されて以来、《クレストIV》の探知シグナルがとだえた。遅延航行の関係で、本来2秒ごとに発進されるシグナルが、外界では50年間隔になるとやらで、“通信途絶”したことが確認されるまで50年以上かかったというわけだ。
かくして、ローダンの特命をうけ、新型ディメセクスタ駆動(ダッカルドライブだ)を搭載したソラー級巡洋戦艦《ハンプトンT》がM-87へ向けて発進する……のはいいんだけど。3437年って、カレンダーを確認すると、《マルコ・ポーロ》がグルエルフィンに向かった直後じゃないか、この作戦(笑)

11巻『デログヴァニアを覆う死』は、新銀河暦1年が舞台。原題が『~への帰還』とあるとおり、主役はかつてこの惑星を訪れたアラスカ・シェーデレーアである。
個人的には、「ケモアウク! ケモアウク!」のあの話で、ガネルクの運命はきれいに閉じたと思うんだけど……短編「アイテランへの帰還」でアポりんが悲惨な目に遭うように、思い出したようにローダンたちがかつての犯行現場に立ちもどると、ろくなことにならない気がする。
悪しき発展を遂げた人形文明。物質の沼オウレルの介入。そして隻眼のライレまで登場して、最後はガネルクの超自我を物質の泉の彼岸へと連れていく……らしい。それは、果たして大団円といっていいのだろーか。

13巻『テラ・イン・トランス』は新銀河暦6世紀末のテラが舞台。
クロノパルス・ウォールに閉ざされた銀河系の中、さらにデフトラ・フィールドに包まれ禁断ゾーンと化したソル星系。すでにテラは荒廃し、シミュセンス・ネットワークが稼働している。これは、クリル=クラン神に挑んだひとりの男の、敗北の物語――。
と、書いたはいいけど、1500話翻訳に添付するつもりだった1491/92話の要約「テラは夢を見ている」は、現在絶賛非公開中だった……(汗)
と、とりあえず、テラニアの廃墟で、ドリームヘルパー/ドリームハンターの両派閥が生まれた背景、マルチタスキング技術の流布等、上記2話の著者であるフェルトホフ自身による落ち穂拾いの巻。
「テラは夢を見ている」 2019年4月にごやてん収録

15巻『不死を鍛つ者』は、紀元前24000年頃のアンドロメダを舞台に、島の王の台頭にいたる過程を物語ったストーリー。
だが、1574話の過去編とはかなり齟齬が生じるため、正史といえるかは相当微妙ではある。
なおこの巻は、ファンジンF-Aktorで一部翻訳が発表されている……けど、入手は困難か?

16巻『《ソル》の長い道』は、ATLAN674話「権力の終焉」とローダン・ヘフト1048話「アトランの帰還」の間に位置するストーリー。
ついに座標を入手したヴァルンハゲル=ギュンスト宙域をめざす《ソル》。しかし、艦載脳セネカの警告のとおり、艦のポジションは予定より数百万光年もずれていた。原因を探るうち、正体不明の攻撃により、次々と倒れていく仲間たち……。アトランは謎を解き、ミッションを完遂することができるのか!?
……という感じで、1048話の時点でアトランの周囲にいない人材が次々と抹殺されていくおそろしい話である(笑)

18巻『タリガを見ずして死すべからず』は、新銀河暦1203年の事件。
アコン人からテラ企業へと売却され、改造された惑星タリガは、一大歓楽世界として大々的なキャンペーンとともにオープンした。しかし、本来植民に適さない惑星を改造する際に――半ば故意に――見逃されたファクターのため、パラダイスは地獄へと一変する……!
えーと、このタイトル、「日光を見ずして結構と言うなかれ」みたいな素敵な案を思いついたかたは、是非ご一報を(笑)

23巻『死にさだめられた者たちの遠征隊』の舞台は西暦2400年の銀河系。
両親と死に分かれ、家系の過去も知らない法学生キャミー・ニッセン。とある法律事務所に呼び出され、訪れた先で彼女を待っていたのは、同じような立場のふたり…デリングハウスとフレイト。さらに現われたペリー・ローダンは、3人に、2326年、細胞シャワーを浴び不死となりながら、細胞活性装置を得られなかったものたちの運命を物語る……。
そして、死に定められた者たちが最期の地と選んだ惑星で、その子孫たちを待つものはいったい何か?
……つーわけで、これはちょっと読んでみたいなぁ(笑) >マガン

26巻『ダタバールのシレーネ』は、新銀河暦435年が舞台とゆーことで、1299/1300話の空白期間を扱ったもの。
エスタルトゥ十二銀河の奇蹟中、本編で登場しなかった〈タタバール銀河のカリュブディスのシレーネ〉を題材としたもの。主人公はフェルマー・ロイドで、永遠の戦士クロフォールとの対決まである。
あと、余談だが、1300話で登場したローダン家の隣人、非ヒューマノイドの網を歩む者オビーフも活躍……活躍、していた、はず(うろおぼえ)。

……。
惑星小説は玉石混淆というか、おもしろいものは本当に絶賛できる。マガンあたりはそろそろ耳タコかもしれないけど、ヴルチェクの『暗黒の諸世紀』(318巻)とか、確かにカンターロ・サイクル関連の予備知識前提ではあるけど、いつかちゃんと紹介したい。
落ち穂拾いとかわたしも書くけど、その一方で、エーヴェルスの一連の作品とか、ローダン宇宙を拡大したものも確実に存在する。
コレクター世代がそろそろリタイアとか、電子出版の一般化とか、売れなくなった理由はいろいろあろう。しかし、惑星小説はこれまでも様々な形で再版されている(Weltbild社からの合本形式とか、今回初めて知った)し、いつかまた、ちがう形でわれわれの前に姿を見せることもあるだろう。そして、“新作”と出会える日もやってくることを祈りたい。

ふらりと本屋へ入ったら、

先般、ローダン翻訳チームから引退した赤坂桃子さんの新しい訳書が出ていた。
平積みとか、相変わらずニッチな需要に応えてるなタ□ー書房……w

SFではなく、ミステリである。昨年、お話しする機会があったときに「出版までこぎつけたい本がある」とおっしゃっていたのは、これのことだろうか。ならば重畳。
今後のご活躍もお祈りしちゃおう。

中身については……えっと、『帰ってきたヒトラー』が終わったらね?(汗)

■Wikipedia(独):Mechtild Borrmann

エシュバッハ新作は『イエスのビデオ』の“続編”

すでに4月上旬に、アンドレアス・エシュバッハが自身のサイトで公表していたのだが、次回作は今秋刊行で、ベストセラーとなった『イエスのビデオ』の続編『イエスの密約(仮題)』(Der Jesus-Deal)とのこと。

『イエスのビデオ』(Das Jesus Video)は1998年に刊行されたエシュバッハの出世作。
イスラエルでの考古学発掘調査の際、ほぼ2000年前のものと同定された人間の頭蓋骨とともに、SONY製のビデオ・カメラの取扱説明書が発見された――しかも、開発中で、市場に出回るのは3年後の製品の。頭蓋骨にも現代医療による治療の痕跡が存在したことから、この人物は西暦紀元元年前後に、なんらかの映像を撮影するためにタイムトラベルしたのではないかという仮説が立てられた……そう、イエス・キリストの映像を。カメラを見つけるため、メディア王とそのブレーンとなったSF作家、ヴァチカンから派遣された秘密部隊、そして取説第一発見者の学生が、三つ巴の争いを演じることに――という作品。
1999年度のラスヴィッツ賞、ドイツSF大賞のダブルクラウンに輝き、Wikipedia(ドイツ語版)に掲載されただけでも9カ国語に翻訳されている(邦訳もある)。また2002年には映画化され、『サイン・オブ・ゴッド』のタイトルで日本でも販売されている(いた?)。

で、その“続き”のアイデアは、それ以来ずっとエシュバッハの脳内でくすぶっていたらしい。ただし、「“続き”とか“前日譚”という表現は正しくない」と、エシュバッハは述べている。スティーブンやカウンら主要登場人物は変わらず登場するらしいが、『イエスのビデオ』を読んで想像するものとはまったくちがう物語になっているだろう、と。
また、「一方の終わったところから他方は始まり、他方の始まったところで物語は終わる」とか、「『ビデオ』と『密約』は、“量子もつれ”を起こした、相関する粒子のかたわれ同士」という表現も用いている。単なるループともまた違うのだろうか(笑)

刊行時期についてエシュバッハは、「秋のいつごろか詳細は未定。しかし、10月のフランクフルト書籍見本市までには出ているだろう」と書いており、それを受けて一部のサイトでは「10月発売」と銘打たれていたりする。
タイムトラベルが下敷きになった小説ではあるが『ビデオ』はハヤカワNVレーベルから文庫化されたように、SFというか冒険小説的なところがあった。本作はいったいどんなストーリーになっているだろうか。
今Lübbe社のページを確認したら、10月8日発売予定に。あ、ジャンル、スリラーだ……。

■エシュバッハ個人サイト:Im Herbst kommt DER JESUS-DEAL
■Bastei Lübbe社:Der Jesus-Deal

SF短編集『分子音楽』 (Wurdack社)

手持ちの本を、ちまちま紹介していこうというこの企画2回目は、前回とおなじくWurdack社の短編集 Molekularmusik である。『エモシオ』の2年前にあたる2009年の刊行。
実は2冊のあいだに『オーディエンス』があるのだが、こいつは未入手なので。

この本も、過去取りあげたドイツのSF関連三賞のノミネート作、受賞作を輩出している。内容解説も、そのへんを主に抽出してみた。

表題:Molekularmusik / 分子音楽
出版:Wurdack-Verlag, 2009
判型:四六判、226p
編集:Armin Rößler & Heidrun Jänchen

収録作品(掲載順):
V. Groß / Molekularmusik / 分子音楽
Niklas Peinecke / Klick, klick, Kaleidoskop / 万華鏡かしゃり 【KLP6、DSFP2】
Birgit Erwin / Diskriminierung / 差別
Frank Hebben / Machina / マキナ
Heidrun Jänchen / Wie ein Fisch im Wasser / 水の中、魚のように
Uwe Post / Vactor Memesis / ヴァクター・メメシス 【KLP5】
Benedict Marko / Wie man sich ändern kann / 人はいかに変われるか 【KLP10】
Ernst-Eberhard Manski / Das Klassentreffen der Weserwinzer / ヴェーゼルヴァイン農家の同窓会 【KLP1、DSFP6】
Antje Ippensen / Knapp / 刹那
Uwe Hermann / Robter vergessen nie! / ロボットは忘れない!
Arno Endler / Ebene Terminus / 最終面
Kai Riedemann / Lasset die Kinder zu mir kommen / 子どもたちはお任せください
Karina Čajo / Der Klang der Stille / 静寂の音色 【DPP1、KLP3】
Bernhard Schneider / Schuldfrage / 責任問題
Christian Weis / Eiskalt / 氷のように冷たく
Bernd Wichmann / Rückkehr ins Meer / 海へ還る
Arnold H. Bucher / Den Letzten frisst der Schredder / ポンコツは破砕機に喰われる
Andrea Tillmanns / Der blinde Passagier / 密航者
Armin Rößler / Die Fänger / 狩猟者たち 【DPP5、DSFP7】

DPP:ドイツ・ファンタスティーク大賞
DSFP:ドイツSF大賞
KLP:クルト・ラスヴィッツ賞
数字は最終選考における席次

V・グロース 「分子音楽」

開幕にあたる表題作は、もと異星生物学者ミュラーによる、美しくも悲しい告白である。
東部保安星域を経めぐっていた異星生物学者ミュラーは、本来の予定にはない、惑星リマIIを訪れた。見知らぬ生命体との遭遇を予期していたミュラーは、思いもかけないことに人類と――孤高の音楽家オスカー・ベーレンバウフに出会う。気密ドームに暮らす音楽家にして科学者は、奇妙な音楽を創造していた。「分子音楽」を。
ベーレンバウフのピアノが奏でる奇怪な音色に合わせて、ドーム内を漂う分子がその姿を変える――そこには、世界が創造されていた。コバルトブルーの平原、炎のような草がなびき、畏怖を呼び起こす石像の群れ、森には太陽の光が踊り――。その美に魅せられたミュラーの胸中に、ある願望が浮かんだ。それが、かれの望む美を永遠にうしなわせることに気づかぬままに……。

ニコラス・ペイネッケ 「万華鏡かしゃり」

2010年度ドイツSF大賞中短編部門で次席を獲得した、ペイネッケの作品。
リックス・ヤンネンはベッドで目をさました。なぜだろう、わたしは追われている気がする。隣りで寝ている、一夜をともにした女性――ルースという名だ――を揺り起こして、早くここから逃げなければ、と告げる。わたしは、とある世界的な市民運動のメンバーで、スパロウホーク社の人体実験――大脳インプラントで人格を変え、行動を支配する――を暴こうとしたため、追われる身である、と。彼女はしばし思案して、ともに行こうと言ってくれた。シビックに乗って、わたしたちは逃走をはじめた。
かしゃり――と、頭のなかで万華鏡の揺れる音がした。そう、そうだ、ルースには言っておかなくては。あれはスパロウホーク社が開発したものではない。あんなものを、いまの人類につくれるはずがないではないか? UFOがもたらしたテクノロジーなのだ。あきれるルースを説得しようとしたとき、サイドミラーに映った車には灰色のフードをかぶった男の姿が……追っ手だ!
かしゃり――ところで、きみは誰だったか? わたしたちは何をしている? 政府のプロジェクトだかなんだかで、脳にインプラントを埋め込まれて行動制御がどーたら言ってたのはあなたじゃない。証拠? あなたよ、あなた! もう、こうなったら、医者よ、医者でそのインプラントを除去してもらうのよ!
そして、駆け込んだ医者のもとで、ついにふたりは追っ手――灰色のフードをかぶった男に追いつかれるのだが……。

物語は大まじめに進行していくのだが、正直、ルースさんの忍耐心と適応力には拍手w

ウーヴェ・ポスト 「ヴァクター・メメシス」

翌年刊行の長編『ヴァルパー・トンラッフィルと神の人差し指』でラスヴィッツ賞を獲得したポストの作品。この短編もラスヴィッツ賞にノミネートされた。
ジェームスマーは、『木星の悪魔のナメクジ』で一世を風靡した、チャイネシア最高の映画監督とされる。だが、いまの彼は絶望していた。ヴァクター(ヴァーチャル・アクター、思考するMMDモデルみたいなもんかw)たちが一斉にストライキをはじめたのだ。いまいましいアメリカ製のウィルスめ! おりしも、大書記長の半生を描くフィルムの進捗状況を確認に、党委員会からワンデンの2人が訪れて……。

dinfo等で上記長編の紹介を見たことがあれば想像できるかもしれないが、コミカルとゆーか、ハチャメチャである。主人公が相談におもむくと、パソコンに詳しい息子はキャプテン・フューチャーのコスプレといういでたちで、いきなり、「ふむ。銀河を救ってほしいのかな?」「いや、撮影を救ってくれるだけでいいです……」てな具合。
表題のメメシスは、ネメシスの誤植ではなく(笑)、ミームとかけてあるようだ。

ベネディクト・マルコ 「人はいかに変われるか」

えーと、昨年の夏だっけ? マガンのもとへメールを送ってきて、来日ついでに日本SF大会に顔を出したマルコの作品(笑)
保険会社のお客様相談センターに、1本の電話がはいる。ひとりの男が受話器をとると、「誕生日おめでとう。いや、独立記念日おめでとう、かな? きょうがその日だ。きみの待ち焦がれていた、自由になる日だ」
いぶかる男に、ボイスチェンジャーを使ったと思われる機械的音声はつづける。送った書類を見てみたまえ。18歳で死亡した少女の経歴……家族には「しわくちゃ子ネズミちゃん」と呼ばれ、半年間のフランスとの交換留学を経験し、プリクラが1000枚以上あり、フライドポテトとセーラームーンが好きで……。書類の末尾には、最初の保険鑑定人が謎の失踪をとげたことが備考として記されていた。フレダー・ダスト。かつての彼の親友の名前が。
職場を抜け出し、声――デウス・エクス・マキナ――との待ち合わせ場所に急ぐ男を追う謎の影。フレダーはなぜ消えた? レアは――男の最愛の恋人は、なぜ消えた? 人格をわずか7項目で機械に保存できるというのはほんとうか? 誰が……誰が、いったいそんなことを?
いくつものポイントを経て、たどりついた森で、男は機械仕掛けの神と、かつての親友に対面するのだが……。

えーと、ごめんなさい。正直、難解でよくわかんなかった(笑) ので、無駄に説明が長くなって2倍ごめん。冒頭で、トラックの運ちゃんがヒッチハイクを拾う場面とか、どこにつながるのかさっぱりだし。読解力足りなくってすんません……orz

エルンスト=エーベルハルト・マンスキ 「ヴェーゼルヴァイン農家の同窓会」

2010年度クルト・ラスヴィッツ賞、中短編部門で大賞に輝いたマンスキの作品。
いわゆるオルタネート物で、この世界では第二次世界大戦が1943年に終結し、ブダペスト会議の結果、ドイツは19世紀初頭の小国家乱立状態に戻されている。数十年が経過したいま、欧州連合に加盟したドイツ同盟の圧迫が、小国、東ヴェストファーレンにも及ぼうとしていた。
ハイケはバスケットの朝練に学校へ向かう途中、ぱったり祖父に出会った。おじいちゃん、こんな早くにどこいくの? うむ、ちょっと駅まで……職業訓練校時代の同窓会でな。ふーん、クラス会かあ。うむうむ、ポストに入っていた郵便物は配っておいたからな。了解、いてらー。
帰宅すると、内務省勤務の母が青い顔をしている。ハイケ、あなた、おじいちゃんを見なかった? おばあちゃんが来るのよ! 離婚した祖母は、ドイツ同盟で外交関連の仕事についていた。昨今の政情からして、だいぶヤバ目――というか、そもそも夫と幼い息子を捨ててから、とんと戻ってきたためしのない祖母が、である。えーと、おじいちゃんなら、今朝、同窓会にいくって……おじいちゃん、さては逃げた!?

……おじいちゃんはワイン用ぶどうを栽培している農家である。そして、本作中、同窓会の場面はいっさい登場しない。おばあちゃんが帰国するまでおじいちゃんも戻ってこない(笑) 実は「同窓会」という言葉に夫婦間の過去にまつわるとある事情があって、おじいちゃんは大国の圧力にたちむかう必殺仕事人なのだ(だいぶ語弊のある表現)。いや、殺しはしないと思うけど。たぶんきっと。

カリーナ・カオ 「静寂の音色」

2010年ドイツ・ファンタスティーク大賞短編部門を受賞、ラスヴィッツ賞でも第3席を獲得した作品。

およそ1世紀前に地球にあらわれた異星人たち――その外観から「ゴールデン」あるいは「輝きはなつ者」、身体を震動させて音波を出す会話方法から「シンガー」とも呼ばれる――は、さまざまなテクノロジーを提供して、科学技術の飛躍的な発見をうながし、また飢餓を世界から追放した。だが、本来無性である彼らが、学術的探求心からか、人間と交わり子を成したことは、後世にわたりずっと忌み嫌われてきた。
セト・ホクワンは、いわゆるゴールデンチャイルド、ゴールデンを父に、人間を母に持つ。だが、彼は言葉を発することができなかった。歌えない、シンガーの息子。お笑い種だ。あちこちと彷徨い、検問にひっかかったりするたびに、手話でなんとかそのことを伝えようとするが、警官たちにすら信じてもらえないありさまだ。
見知らぬ町にたどりついたセトは、とうに廃棄された地下鉄に迷い込み、そこでゴールデンチャイルドの人権をもとめる地下組織に邂逅するが……。

アーノルト・H・ブーヒャー 「ポンコツは破砕機に喰われる」

ロボット工場で働く433-285-911-3は、ある疑問にとらわれていた。なんで俺は、自分をスクラップにする――居場所を奪い、破砕機へと追いやるだろう新世代のロボットなんかつくらなきゃならんのか……。無線でグチられる相方は421-829-546-7。421型なので、433-285-911-3より少しだけ旧式である。いまコンベアに並んでいるのは613型なのだが、433-285-911-3のメモリ内では、依然、自分が現行機種なのだ。実際は、ほぼ全自動のこの工場くらいしか働き場すらないのに。
俺はおまえさんとちがって現行機種だから、いろいろ考えるんだよ。疑問を抱く能力があるんだ。……いや、別にぼくらより性能は劣る人間だって、疑問は抱くだろ。ええい、やかましいやつだな。俺は哲学想念を追っているんだ。魂とはなんぞや? おーい、考えごともいいけど、仕事しごとー……って、アッーw

――と、いう作品である。ロボットを人間に置き換えてみると、しごくドイツ的・哲学的な内容に見えるわけで。まあそのへん関係なく、すごく短いけど、なんだか好きだ(笑)

アルミン・レースラー 「狩猟者たち」

ある夏の日に、妹を奪われた。惑星コモンにあらわれた、見たこともない宇宙船は400名の人間をさらっていった。あの日、ヨルド・ヴィンセンツは誓ったのだ。ヨラ――妹を、いつか必ず取りもどすことを。

見知らぬ場所で目ざめたヴィンセンツは、過去をふりかえる。長じて戦闘機パイロットとなり、コモンも属す連邦世界のためにチグリ同盟と戦った。そして、ツルメオン星系での戦闘の際、宙域に突然出現した船を発見した。偶然か、それとも運命か。あの、妹をさらった「狩猟者」の船を。即座にヴィンセンツは機首をその船へむけた。脱走と思われたか、味方の艦船からも砲火を浴びたが、なんとか回避した。そして、あの船に肉薄し――奇妙なことになんの反応もないままに、外壁に係留することができた。しかし、そこで奇妙な雲につつまれた存在に遭遇し……以降の記憶は、闇に包まれている。
目の前にあらわれた少女は多くは語らなかったが、ヴィンセンツには自分がどこにいるのかがわかった。狩猟者の船! 少女のように見えるが、彼女もその実体は、あの雲につつまれた存在なのだ。だが、語りかける少女と、無慈悲な狩猟者とが頭の中でうまくつながらない。少女は言う。わたしたちはあなたたちの人生の物語を聞きたいだけ――長い永い旅路には、気分転換が必要なの。話終えたあとも、役に立つようならこの船で働いてもらうこともあるし――そう、あなたは妹さんのためにここまでやってきたのね。まったく驚きだわ。ええ、驚いたわ……。

狩猟者の船で、ヴィンセンツはひとつの仕事を与えられる。冷凍睡眠キャビネットの保守……最初、ヴィンセンツ自身も眠っていた、あの装置の機能確認作業である。ひょっとしたら、ヨラがいるのではないか……ほとんど一縷の望みにかけて、ヴィンセンツはその作業をひきうけた。日々が過ぎ去り、幾百、幾千ものキャビネットを確認し、当然のごとく妹はみつからない。やがてヴィンセンツの脳裏で、いまはいつなのか、という疑惑がじわじわと大きくなっていく。連邦世界は、コモンはまだ存在するのか? もしヨラを見出したとして、彼らは故郷へ帰ることが、はたして可能なのか?
そして、ヴィンセンツの足が、ひとつのキャビネットの前で止まる……。

Wurdack の短編集はもう1冊手元にある(Lotus-Effekt)のだが、ここらへんで矛先を変えて(笑) Shayol の Visionen シリーズも取りあげてみたい昨今であるw こっちもおもしろいぞっと。

SF短編集『エモシオ』 (Wurdack社)

2012年のクルト・ラスヴィッツ賞の選考が、明日4月30日まで行なわれている。だから、というわけでもあるのだが(笑)、今回はWurdack社から出ている短編集『エモシオ(EMOTIO)』の紹介など。
Wurdack社は、以前も書いたが、現在最もSF関連で気を吐いている出版社のひとつ。2010年刊行の短編集『謁見(Audienz)』もRößler & Jänchen編集で、2011年のラスヴィッツ賞ではノミネート7編中5編が同短編集収録作という物凄さだった(受賞は逃した)。

今回のノミネートは、14編中5編(下記リスト中の*印)。他がほとんど雑誌掲載作なのは、新作短編集自体がほとんど刊行されていないからでもある。

表題:EMOTIO / エモシオ
出版:Wurdack-Verlag, 2011
判型:A5変形、388p
編集:Armin Rößler & Heidrun Jänchen

収録作品(掲載順):
Nadine Boos / Emotio / エモシオ *
Bernhard Schneider / Routine / ルーティーン
Christian Günther / Einhundert Worte für Tod / 死を意味する百の言葉
Ernst-Eberhard Manski / Zeitlupenwiederholung / スローモーションでもう一度
Frank W. Haubold / Gute Hoffnung / 良き希望
Niklas Peinecke / Nanne kommt auf den Hund / ナンネ零落
Karsten Kruschel / Violets Verlies / ヴァイオレットの地下牢 *
Arno Endler / Fremde Augen / 異質な目
Gerd Frey / Handlungsreisende / 商用旅行者
Jasper Nicolaisen / Der vorletzte Mensch auf Proteia / プロテアの、最後から二人目の人間
Uwe Post & Uwe Hermann / Der Valentino-Exploit / ヴァレンチノ略取 *
Karina Čajo / Tagebuch einer Göttin / ある女神の日記
Kai Riedemann / Gib dem Affen Zucker / 猿に角砂糖を
Thomas Templ / Die Farbe der Naniten / ナナイトの色
Heidrun Jänchen / In der Freihandelszone / 自由貿易地域にて *
Armin Rößler / Das Versprechen / 約束 *

ぶっちゃけ、全部は読めていないので、ラスヴィッツ賞ノミネート作に絞って内容を簡単に紹介してみよう。

ナディーヌ・ボース 「エモシオ」

どしゃぶりの雨が降る土曜の夜。図書館のホームページで書籍の検索をしていたルーカスがふと気づくと、1件のリンクがそこにあった。禁制のエモシオ――他者の体験を、五感・感情のすべてで記録したもの――への。
だが、好奇心からリンクをクリックしたルーカスは驚愕……恐怖する。それは幼い頃の彼自身が体験した、いまなお傷痕の残る忌まわしい記憶であった。なぜ、そんなものが存在する? 自分は誰かに監視されているのか?
強迫観念に囚われたルーカスは、偶然の助けもあって、裏口から図書館に侵入。バックヤードのコンピュータに、図書館自体の関与を暗示するデータを発見したところで、司書に発見される。彼女は、殺傷力のある武器で武装しており――。
絶体絶命、図書館陰謀史観なアンハッピーエンド・ストーリー。

カルステン・クルシェル 「ヴァイオレットの地下牢」

惑星表面のほとんどを水に覆われた惑星ヴァイオレット。水底には紫の影が躍る。未知の生物と思われるがその生態は未詳である。
船外作業員ラズロの妻ジョーは、そのバイタリティーとインスピレーションで、海洋研究フロートにおいて、ガルガッロ教授に次ぐナンバー・ツーにまで出世していた。ラズロは非番になると、特製コーヒーを淹れてジョーの研究室に届けるのを日課としていた。今日もそのつもりで家を出たのだが、どうも様子がおかしい。やけに軍人の制服姿が目につく。いったい何事だろう。研究の方は、謎に満ちた生体アーティファクトの発見にもかかわらず五里霧中のはずだし……ジョーはなんと言っていただろうか、〈地下牢〉か? そちらもいったいどうなっているのやら。彼女の所在もはっきりしない。これではコーヒーが冷めてしまうじゃないか……。
だんだん切迫していく事態のなか、飄々と妻の行方を探すラズロ。無線で、なんだか研究フロートがほぼ壊滅状態になったことがわかるあたりで、〈地下牢〉内部に閉じ込められた妻や調査派遣隊のもとにたどり着くわけだが。奥様が出した結論は、観察していたのは、わたしたちだけではなかったのね、というもの。〈ヴァイオレット〉は、それ自体が巨大かつ複雑な生命機構であり、人類を細菌と判断したのだ、と。
全員に、まだ温かいコーヒーが振舞われ――まさかの触手エンド(笑)

ポスト&ヘルマン 「ヴァレンチノ略取」

害虫駆除会社オーヴァキルに架かってきた1本の電話――山の手の高級住宅街に住む老婦人からの助けを求めるコールだった。机に山積みになった請求書を眺めて陰鬱な気分になっていたデッカードは勇んで駆けつけるが……。
ヴァン・デン・クール未亡人の邸宅は、犬のヴァレンチノの大暴れによって無残な状況に陥っていた。犬――害獣は対象外と尻込みするデッカードに、倍の支払いをするという夫人。請求書の山を思い出し、しぶしぶ頷いたデッカードは虫取り網をかかえて邸内探索にとりかかった。どうにかこうにか追いつめて、網をかぶせた瞬間、ヴァレンチノの背中が、スペースシャトルのカーゴルームみたいに、ウィーンと開いて中から2本の丸鋸が!
サイ・ドッグ? 聞いてませんよそんなこと! 網を破られ、ほうほうの態で逃げ出したデッカードだったが、背に腹は変えられない。さらなる七つ道具を繰り出して、ヴァレンチノと、その「配下」のサイバー・ペット軍団に立ち向かうが――。
冒頭ヴァレンチノに語りかけてきた「声」の存在から、何者かが背後にいることはあらかじめわかっているのだが、未亡人の逞しさを物語るオチの前には、その正体もかすむコメディSF。

ハイドルン・イェンヒェン 「自由貿易地域にて」

惑星レイワルに1隻の超光速船が到着した。観光客や商人たちに先んじてシャトルを下りたのは、地球からきた外交使節団である。いわゆるフリートレード・ゾーンであるレイワルに、地球流の貿易を根づかせるために――そして利益を得るために――パテント、知的所有権その他の地球人的概念のレクチャーにやってきたのだ。植物の交配による新種の種子もパテントをおさえれば商売になるのです……わかったような、わからないような顔で、それでもレイワル政府は、条約調印を了承した……。
一方、おなじ船でやってきた若者ジョーイは、レイワル訪問は2回目だという男イゴールと意気投合し、観光ツアーにはない、いわゆる「裏」の店に案内される。どこか蜘蛛を思わせるヒューマノイドのレイワル人だが、はじめて見たその「女性」は、それでも完璧な美の化身だった。めくるめく一夜をすごしたジョーイは、なけなしのカネをつぎ込んで店に通いつめ、やがて満足して帰郷する。ところが……。
種子(Samen)がダブルミーニングになっており、最後、おでこに©マークをいただくハメになるジョーイ(と、その他大勢の男性たち)は、ちょいと哀れである(笑)

アルミン・レースラー 「約束」

ワームホールを抜けて、宇宙艦アベルバッハはペンカレール・ステーションに到着した。月ほどもあるステーションで、果てしなくつづく戦争のあいまの、ささやかな休暇をすごすのである。仲間とともに艦を下りたヴィク・スメナンは、雑踏に、いるはずのない男を見た気がして慄いた。レモ・ウィンターは……スメナンが約束を交わした友は、あの時、死んだはずではなかったのか。
惑星マテウスにおける、現住種族マテ人との紛争に増援として送られたときのことだった。マテ人の姿をまるで見かけず、ただ噂ばかりが先行していた。曰く、発展途上種族との紛争で、1年以上これといった戦果があがらないのは、マテ人と接触した人間が「転向」させられてしまうからだ……。なにかトラウマにでもひっかかったのか、ウィンターはその話に過敏に反応し、もし自分が「転向」させられたら、きみが殺してくれとスメナンに請い願い、約束させた。
敵をおびき出すためか、軍は二分され、スメナンもウィンターとは別の配属でマテウス各地をひきまわされることになり――友軍が罠にかかり壊滅したという凶報が届く。ウィンターとの「約束」が、噂を一蹴していたはずのスメナンの脳裏に、嫌な予感とともに蘇った。そして、強襲、乱戦、撃退……撤収していく敵軍のなかに、スメナンはみつけてしまう。何かが変わり果てた友を。殺せ、と声がした。約束を果たしてくれ、と。だが、彼にはできなかったのだ……。
その2日後にスメナンはマテウスを離れ、多くの惑星を転戦してきた。あの日、虐殺されたマテ人とともにウィンターも死んだにちがいない、と信じ込もうとしながら。忘れることのできないままに。いま、約束の履行を再び迫られるのかと戦慄するスメナン。しかし、やがて現われた、変貌した旧友が求めたものは――。
果たされなかった約束で、友情は失われたのか否か。ちょっぴり切ない読後感。

と、まあ、こんな感じ。他のラスヴィッツ賞ノミネート短編とかも、データ集めくらいはしたいのだが……。
さらに、以前紹介するとか書いた『ヒンターランド』の件もさっぱりだ。うわ、やべぇ(汗)
5/19 Manski作の仮題を修正。ドイツ語の“時間ループ”はZeitschleifeだった……orz