ファンタスティーク大賞の行方

ドイツの作家Dirk van den Voomのツイート。

https://twitter.com/Tentakelkaiser/status/1224258641043300353

年末の記事で、ファンタスティーク大賞がPhantastisch!とCorona Magazineとの共催になっていた、という話題をとりあげたが、Corona Magazineの発行元Verlag in Farbe und Buntの社主が交代した結果、撤収することになったそう。本業に集中、ということみたい。
もともと権利自体は全面的にPhantastik-Newsが保有しているそうだし、賞の存続があやぶまれるわけでもなさそうだが……せっかくサーバー移行したのにね(^^;

SF年鑑、と当時は呼んでたかな

ローダンNEOの訳者である、鵜田良江さんのツイート。

懐かしや。80年代にはScience Fiction Jahrbuchと題されてたはず。
Heyne社のこれとはまた別に、ローダン出版元のMoewig社からScience Fiction Almanachというのも出ていた。こちらはたぶん、80年代までで刊行終了してる。当時はどっちも“SF年鑑”と呼んでいた。
あの頃はローダン読むので手一杯で、周辺まで手を広げる余裕もなかったので、購入してなかったんだよね……。

個人的には、ドイツのSF関連は90年代から斜陽の時代のように思う。
ただ、あちらは中小の出版社が多数ある中で、社主や編者がSF・ファンタジーの作家であるところも多い。マティアクの紹介で触れたシュヴァーツや、やはり(元)ローダン作家のミハエル・ナグラなんかもこれに該当する。浮き沈みは激しいようだが、00年代にアンソロジーVisionenを刊行したShayol-Verlagや、近年では話題のSF Jahr 2018、2019を刊行したGolkonda-Verlagやp.machinary社などは精力的に短編集を出していたり、PC雑誌や科学雑誌がSF小説のコーナーを設けてたり、作品(短編)発表の場は意外とあるみたい。

話はちがうが、鵜田さんのツイートを拝見していると、NEO以外の作品を訳出されているご様子。『ホログラマティカ』かな? 期待してまーす(^^)

訃報:グードルン・パウゼヴァング

グードルン・パウゼヴァング(Gudrun Pausewang)
1928.03.03 – 2020.01.23

Spiegel等ドイツ各紙の報じるところでは、23日にドイツの女流作家グードルン・パウゼヴァングが、入居していた老人介護施設で亡くなったとのこと。享年91歳。

パウゼヴァングは1928年にボヘミアのヴィッヒシュタドル村(現チェコ、ムラドコウ)に生まれる。第二次大戦後、家族とともに西ドイツに亡命。教育学を学び教職につく。
南米のドイツ学校等で教鞭をとった後、1972年に帰国しヘッセン州東部のシュリッツに居をかまえた。

彼女の活躍は児童文学の分野で高く評価される(2009年にドイツ児童文学アカデミー大賞、2017年にドイツ児童文学賞特別賞で、そのライフワークが表彰されている)が、冷戦下のドイツで核兵器が使用された世界を描いた『最後の子どもたち(Die Letzten Kinder von Schewenborn)』や、チェルノブイリの放射性物質漏洩事故に触発された『みえない雲(Die Wolke)』等、社会的な主題を扱った作品も多い。
特に『見えない雲』は、1988年のドイツ児童文学賞・ドイツSF大賞・ラスヴィッツ賞を受賞し、2006年には映画化されている。
上記2作を含めて、邦訳も多数存在する。

今回のニュースを知ったのは、「悲しいお知らせです:これまでクルト・ラスヴィッツ賞長編部門の栄冠を勝ち取った唯一の女流作家が亡くなりました。」という、ローダン作家ロベルト・コーヴスのツイートだった。
彼女の作品を読んで育った世代の作家も多かろう。永年の活躍に敬意を表し、そのご冥福を祈りたい。

■Wikipedia:グードルン・パウゼヴァング
■Stuttgarter Zeitung:„Die Wolke“-Autorin ist tot

ウィリアム・フォルツ賞について

ウィリアム・フォルツ賞(William Voltz Award)。ローダン・シリーズの二代目草案作家ウィリアム・フォルツの名を冠されたSF文学賞である。

2004年、フォルツ没後20年に際して立ち上げられたホームページと同時に、未亡人インゲ・マーン=フォルツにより未発表短編の募集が呼びかけられた。後進育成に熱心だったフォルツにならって、主としてまだ作品を発表する機会を持たなかった若手がターゲットだったらしい。
ファンダム時代のフォルツが短編で名を馳せたことから、募集は短編に限定(第2回は16000字まで)。各回とも、ローダン作家や著名なSF評者が審査員として名を連ね、オンライン投票も実施された。募集総数225編と大盛況だったため、単発企画の予定が2回、3回と回数を重ね開催は5度に及んだ。2回目からはお題を決めての募集となる。
賞金も出ていて、1席300ユーロ、2席200ユーロ、3席100ユーロ。各回とも変更なし。

昔、ごやてん、というか、前身の無限架橋NEWSができたばかりの頃、第1回のことを取りあげている。たぶん、わたしなりに刺激をうけたんだと思う……おぼえてないけども(笑)

近年、当該サイト(www.williamvoltz.de)からフォルツ賞のページ自体が消滅していることに気づき、ちゃんとまとめていなかったことを悔やんだのだが、一旦この記事をアップした後で、ふとInternet Archiveのことを思い出して確認したところ、往時のデータがサルベージできた(汗)
おおよそ必要な資料は揃ったけど、なるたけデータは保存しておこうっと。受賞作、一部プロになって短編集を出したりアンソロジーに収録されたり、著者自身がオンラインで公開しているものを除けば、このサイトのデータ以外に読む手段もないのだし。
#いや、ホントにないのよ。“William Voltz Award”で検索して、15年前のごやてんの記事が上位でヒットするくらい(笑)

なお、後進の育成、という意味では、3回目の受賞者Uwe Postは後に『ヴァルパー・トンラッフィルと神の人差し指』でラスヴィッツ賞とドイツSF大賞を受賞(応募作だった「edead.com」自体も出版後ラスヴィッツ賞にノミネートされた)したり、現ローダン作家ミシェル・シュテルンが本名で応募(第3回、次席)していたり、第4回1席のマティアクがこの度ローダン本篇に参加と、立派にその役割をはたしている。

受賞作一覧

第1回(2004年)

1. Thomas Hocke / Die Zeitmaschine / タイムマシン
2. Wulf Dorn / Activity / アクティヴィティ
3. Rüdiger Lehmann / Adler und Geier / 大鷲と禿鷹
3. Carsten Fromme / Tod eines Hochhauses / ある高層ビルの最期

審査員:ボルシュ、ヘーンゼル、ヴルチェク、ミハエル・ナグラ(以下、註釈無しはローダン作家)

第2回(2005年) お題:ロボット

1. Julia Blaschke / 12 Minuten / 12分間
2. Frank Hoese / Botch / ボッチ
3. Gerhard Franz / Über den Tod hinaus / 死を乗り越えて
3. Damian Wolfe / Die perfekte Maschine? / 完璧な機械?

審査員:エルマー、シュヴァーツ、シュテフェン・フリードリヒ
※フリードリヒはPROCのニューズレターTERRACOM編集長(当時)

第3回(2006) お題:22世紀の物語

1. Uwe Post / edead.com / edead.com
2. Stefanie Rafflenbeul / Der Letzte seiner Art / その種、最後のひとり
3. Gerry Haynaly / Gefangene der Stadt / 都市の虜囚

審査員:アントン、ターナー、アルフレート・ケルスナー
※ケルスナーはジョニー・ブルック没後、メインで表紙絵を担当。(現在もサブで描いている)

第4回(2007) お題:異世界SF

1. Dennis Mathiak / Abschied / 訣別
2. Dirk Eickenhorst / Nummer Neun / ナンバー9
3. Norbert Mertens / Bitte lächeln! / さ、笑って!

審査員:カストール、アキム・メーナート、カティア・リヒター
※リヒターはホイゼンスタム(フォルツの居住地)の書籍販売・地方紙の書評ライター

第5回(2009) お題:SF

1. Christian Kathan / Ein Augenblick Unendlichkeit / 一瞬の永遠
2. Dieter Bohn / sefer chajim / セフェル・ハジム
3. Frederic Brake / Flüchtige Gedanken / 逃避的思考

審査員:クナイフェル、ディルク・ヘス、クラウス・ボールヘフナー
※ボールヘフナーは他記事で書いたとおり、BNF、SF紙編集者、VPMマーケティング担当

なんか一日じゅうネット漁りをしていた気が(笑) でも、リスト埋まってよかったぁ。
フォルツ・リスペクトなのか、Uwe PostやDieter Bohnは書籍プロフィール等に「William Voltz Award受賞者」と明記してたりする。この賞が存在した意味はたしかにあったと思うのだけど、インゲさんがマールと再婚(マーンはマールの姓(本名))して、子息らの活動もアメリカ中心であることから、復活はもうないだろうねえ……。

ファンタスティーク大賞2019年受賞作一覧

少々遅くなったが、ファンタスティーク大賞2019の受賞作を。

ファンタスティーク大賞は、書籍・コミック・TV・ラジオ・映画等の媒体を問わず、SF・ファンタジー・ホラー・ミステリ等様々なジャンルを包含した“ファンタスティーク”全般を扱うニュースサイトPhantastik-Newsの読者投票によるプライズである……が、【亀】マークがついたり、受賞作一覧をきっちり掲載していなかったここ数年のあいだに、Corona Magazine及びPhantastisch!との共催になっていた。今回の投票に先だって公式サイトが模様替えをおこなったが、これもCorona Magazineのサイトと同じサーバーに移行したみたい。

Corona MagazineはVerlag in Farbe und Bunt(カラーかつカラフル出版、かな)が2014年から隔月刊行しているSF・ファンタジー中心のオンライン・マガジンで、Wikipedia(de)によると、定期購読者8800名のドイツ最大手SFオンライン誌とのこと。
一方のPhantastisch!は2001年から季刊で刊行されている業界紙(現在の版元はAtlantis-Verlag)。編集長のクラウス・ボールヘフナーは、ペリー・ローダン・ファンツェントラーレの創設者のひとりで筋金入りのファンであり、90年代後半からVPMのマーケティング関連も担当している。また、このPhantastisch!の刊行について、二度にわたりラスヴィッツ賞の特別部門で表彰されている。

なんとなく、ニュースサイト読者によるファン投票、というイメージが強いファンタスティーク大賞(個人的感想です)だが、2017年・2018年は500ユーロの賞金もついたとかで、だいぶ商業色が濃くなってきたような。
そして、以前は公式サイトの掲示板でショートリストにノミネートされた作品の順位がわかったのだが(獲得票は不明)、最近では受賞作のみの発表となっている。ちと残念。

さて、その今年の受賞作一覧は下記のとおり:

長編部門 Bester deutscher Roman:

Nicole Böhm / Das Vermächtnis der Grimms – Wer hat Angst vorm bösen Wolf
    / グリムの遺産――悪い狼を怖れるのは誰?

実際読んでみると、当然ながら、紹介文等から推測されたものとは、中身がだいぶちがった(笑)

13世紀のインド、ナブラ渓谷にひっそりと暮らす8名の男女がいた。“マサリ”と称する彼らは、物語を紡ぐもの。不死なる修道士たちの執筆した物語は、聖なる神殿からあらわれる女性〈ムーン〉の承認を得て、広く人界へとひろまっていく。長老のイサが書いたある物語はグリム兄弟の集成の中で『ルンペルシュティルツヒェン』と呼ばれ、まだ若いカサジュの作品は中国に伝わり『葉限』と言いならわされるようになった。彼らは人の世の幻想のゆりかごで生きてきた――だが、ひとりの行き倒れた旅人を救ったことから、マサリの結束が崩れ、ある呪いが解きはなたれてしまう。それは、彼らの物語によって生み出された幻想の国アバリオンにも影響を及ぼし、呪われたナイフを手にした若者アッシュは、やがて〈ムーン〉に対立する存在を創り出すことになる。

現代のフランクフルト。クリスティン・コリンズは、兄ブレイデンによって旅行先のニュージーランドから呼び出されていた。
ブレイデンはFBIに所属し、目下、各国諜報機関共同で進行中のあるプロジェクトに参画していた。ヨーロッパを中心に多発する殺人・変死事件の原因究明である。突如として凶行に及んだ者たちは、童話の一節を歌うように告げた後、心臓発作で倒れる。多くの事例は慎重に秘匿されていたが、すでにネットでは〈グリム・マーダー〉として噂が噂を呼んでいた。
クリスが呼ばれたのは、彼女と兄だけが知るその異能――行間から書かれざる真実を知る能力、物語を映像として体験する能力のためだった。〈狼〉の所在をつかみ、アバリオンへの道を見出すために、クリスの力が必要なのだ。
事実、その直前グリム・マーダーのニュース映像を見たクリスは、ある幻覚を体験していた。死屍累々たる曠野。たちこめる死臭。ひとりの女が言う。『グリムには殺すことしかできません。マサリは失敗しましたが、十分に強ければ、あなたにはできる』一粒の種を握らせて、『はじまりにして終わり。時がくればわかるでしょう。グリムもあなたに気づいています。闘いなさい』

かくてはじまる〈黒狼〉との闘い――一癖も二癖もある作戦チームのメンバーとの諍い――そして、背後には数百年前からつづくマサリの陰謀……うん、もう計略というより陰謀が。どうやらクリスにはマサリの血が流れているらしい。それも生け贄目的で。
舞台を北米に移した次巻『鏡よ鏡』が完結編らしいけど。生き残れるかクリス。

短編部門 Beste deutschsprachige Kurzgeschichte:

Markus Heitkamp / Housten hat Probleme / ヒューストン問題あり

長編部門ノミネートの『ヒューストン・ホール』もアメリカはヒューストンではなかったのだけど。こちらもちがった(笑) 主人公の名前がヒューストンだったのだ。

体育大学に通うレイラ・ロットブラムさんが帰宅すると、家が燃えていた。消防士たちが救助活動中。わたしのおちびさんたちが! 1、2、3、4、5、6、7、8……足りないわ! 慌ててとってかえした消防士が火中から救い出したのは――。「ヒューストン!」

主人公の名前はヒューストン。インコである。鸚哥。
ヒューストン君、あるものに非常に憧れていた。この作品が収録されているのは短編集『P-ファイル』……“フェニックス文書”である。
不死鳥は、灰の中から蘇る。ここまで書けば、あとはわかるな?(爆)
#再犯注意w

国際部門 Bester internationaler Roman:

Holly Black / Elfenkrone / Tithe: A Modern Faerie Tale / 十分の一税

新人部門 Bestes deutschsprachiges Romandebüt:

Christine Weber / Der fünfte Magier: Schneeweiß / 五番目の魔法使い:雪白

■ファンタスティーク大賞公式サイト:deutscher-phantastik-preis.de
■Wikipedia:Corona Magazine
■Wikipedia:Phantastisch!

ベルリン書籍見本市開催中

11月23・24日の両日、ベルリンのメルクーレ・ホテルを会場に書籍見本市BuchBerlin (Berlin Book Fair)が開催されている。
“ドイツ国内三番目に大きな”ブックフェアだ、と公式サイトで述べられている。第一は当然、フランクフルト書籍見本市だとして、二番目は……ライプツィヒかな?
こーしてみると、ホント、ローダン以外のドイツのこと知らないなあと、少々気恥ずかしいが(笑)

今年は、23日の18:30というから、日本だと明日の明け方に、ファンタスティーク大賞の授賞式が執り行われるはずである。BuchBerlinの主催(Schirmherrschaft)には、ファンタジー作家のベルンハルト・ヘンネンの名前が挙がっているが、こちらではどうだろうか。

■公式サイト:BuchBerlin

ブーフメッセ・コン34のローダン企画

明日16日から、フランクフルト書籍見本市が開催される(10月16日-20日)。グーテンベルクの時代からの歴史あるイベント……なのはさておいて。“ブックフェア”になってんな、Wikipediaさん。いつのまに(笑)

ともあれ、このお祭り期間中の10月19日、フランクフルト南方の都市ドライアイヒ、シュプレントリンゲン公会堂にて開催されるファンタスティーク関連のコンヴェンションが、その名もブーフメッセ・コン。今回が34度目である。過去、ファンタスティーク大賞の授賞式がこのイヴェントの中でとりおこなわれたりもしている。

今回19:00からのプログラムには、ローダンNEOの草案作家シェーファー&ショルムを招いての新シュタッフェル宣伝企画「ローダンNEO:コンパレータ」が。他にも女性作家ミシェル・シュテルンや新人ルーシー・ガス、編集長のクラウス・フリックもパネリストとして登壇するらしい。
ローダンの生命がかかった(文字通り)コンパレータ編開幕を前に、熱い質疑応答がくりひろげられそうである。

……ん? 裏でNEO作家コーヴスの「フィレッソン・サーガ」の企画がwww

■公式News:PERRY RHODAN AUF DEM BUCHMESSECON 34
■BuchCon公式:buchmessecon.de

ファンタスティーク大賞2019本選開始

9月16日から、ファンタスティーク大賞の本選がはじまっている。
長編/短編/新人/ジュブナイル/国際/アンソロジー/オーディオドラマ/シリーズ/グラフィッカー/二次創作/コミック・マンガ/翻訳、の12部門。

ショートリストから、恒例4部門のノミネート作を以下に掲載する。

長編部門 Bester deutscher Roman:

Bernhard Hennen / Die Chroniken von Azuhr: Die weiße Königin
    / アズール年代記:白い女王
Mira Valentin / Die Flammen von Enyador / エンヤドルの炎
Bianca Iosivoni / Sturmtochter: Für immer verboten / 嵐の娘:永遠に禁じられ
Mary Cronos / Houston Hall: Schatten der Vergangenheit / ヒューストン・ホール:過去の影
Nicole Böhm / Das Vermächtnis der Grimms – Wer hat Angst vorm bösen Wolf
    / グリムの遺産――悪い狼を怖れるのは誰?

ミラ・ヴァレンティンの『エンヤドルの炎』は全4巻のハイファンタジー・サーガの3巻目。
エルブとドラゴンとデーモンが相争うエンヤドルでは、人間はエルブの奴隷として対ドラゴンの戦争に使い潰されていた。しかし、ひとりの孤児トリスタンがその境遇にあらがったことが、ある太古の預言にまつわる事件を呼びさまし……云々で、四種族の和平がなったあたりで、北方から新たな闇の勢力があらわれて、というのが本作みたい。最終巻『エンヤドルの遺産』では、勢力のバランスが崩れ、トリスタンとかつての旅の仲間が魔法使いや妖精女王の決戦兵器として戦う事態に。大団円はあるのか……?

ベルンハルト・ヘンネンのアズール年代記は第一作の『呪われし者』が3月にセラフ賞を獲得しているが、こちら『白い女王』は二作目。完結編(?)の『夢見る戦士』は今月末発売予定。 前作で父の後を継いで大司祭になることを厭い、冒険(自分探し)の旅に出たミラン。今回の彼は、キリア島における都市連合と剣の森の侯爵領とのあいだの紛争にまきこまれていた。都市連合の軍事力に圧倒される森の人々は、危機迫るとき再来するという〈白の女王〉の伝説にすがるばかり。相争うどちらにも大義はないと悩むミランだが、島にはさらなる危機が訪れていた。寓話めいた魔法生物たちが、どこからともなくあらわれて――。
ヘンネンは、ローダン作家ロベルト・コーヴスと共著のフィレッソン・サーガ(現在7巻、継続中)が、昨年ファンタスティーク大賞のシリーズ部門を受賞している。
さらに余談だが、ヘンネンは異名を〈エルフ・マスター(Der Herr der Elfen)〉という。出世作がエルフ・サイクルと呼ばれる一連のシリーズで、『エルフ』『エルフの冬』『エルフの光』『エルフの歌』『エルフの女王』『エルフの騎手』『竜のエルフ』『エルフの力』……騎手やら竜やらはそれぞれ複数冊に別れていまのとこ全13冊、プラス電子ブックのみの短編集もある。……ロードス島戦記の新刊とか握りしめて突貫したら仲良くなれるやもしれない(笑)

ビアンカ・イオシヴォニの『嵐の娘:永遠に禁じられ』はスコットランドが舞台。17歳の少女アヴァは、夜ごと母の敵であるクリーチャー、〈エレメント〉を狩っていた。彼女を支えるのは謎に満ちた若者ランス。ところがあるとき、アヴァは自分が水をあやつる能力があることに気づく。彼女はスコットランドを裏で支配する、エレメントの力を駆使する五氏族の一員だったのだ。だが、水の氏族マクレオズをはじめ、五氏族は互いに反目しあっていて……。
あれだね、母親が素性を語っていない時点で、出生の秘密とかありそうな設定(笑) すでに2巻『永遠に失われ』は刊行済み、3巻『永遠に結ばれて』がこの10月に発売予定。

マリー・クロノスの『ヒューストン・ホール:過去の影』は、楽天の分類によると(笑)、“ ロマンス, ロマンチック SF&ファンタジー”らしい。ヒューストン・ホールというから、てっきりアメリカのビアホールかと思ったら、英国スコットランド地方のヒューストン村であった。
エディンバラで少壮の弁護士として活躍していたアンソニーは、ある凶悪な事件によって両親と愛する妹を失い、人が変わったようになってしまう。村人たちは、あの人は呪われなすったんだと噂する始末。家人を残らずクビにして、それはそれで困った状態のところにあらわれたのが、マリー・スミス。家政婦として彼女を雇ったアンソニーは、少しずつ、人間らしい暮らしとこころを取り戻していくのだが……。
マリーさん、アンソニーの家族を襲った事件――というか、モンスターの正体を知っているどころか、200年にわたってそれらと戦っているんだとか(笑) そして、死んだはずの妹の姿をとって、アンソニーに危機が迫る……。

ニコレ・ベームの『グリムの遺産:悪い狼を怖れるのは誰?』はホラーっぽいSF? 主人公クリスティン・コリンズは、兄によってとある特殊部隊に招かれる。彼女たちが狩るのは〈グリム〉――グリム兄弟の童話を通して、読んだものに呪いをかける、狼めいた姿の怪物である。童話の世界へとダイブしたクリスは、次第に現実と幻想の区別がつかなくなっていく……。
うん、鉢かつぎでぶん殴るんだ(笑) 後編にあたる『グリムの遺産:鏡よ鏡』が、10月に刊行予定。

短編部門 Beste deutschsprachige Kurzgeschichte:

Jenny Wood / Totenpfade / 死者の道 (Kemet: Die Götter Ägyptens 収録)
Markus Heitkamp / Housten hat Probleme / ヒューストン異状あり (The P-Files 収録)
T. S. Orgel / Schicht im Schacht / シャフトのシフト (Die Hilfskräfte 収録)
Janna Ruth / Unter der Erde / 地下にて (Fiction x Science 収録)
Swantje Oppermann / Das letzte Erwachen / 最後の目覚め (Fiction x Science 収録)

ジェニー・ウッドの「死者の道」は、古いエジプトの神々を題材にとったアンソロジー『ケメト』に収録されたダーク・ファンタジー。女性の惨殺死体の現場検証からストーリーははじまる。検視医ヤニ・マフェド――それが、いまの彼の身分。かつて偉大なファラオたちの時代、彼はナイルのほとりで神と崇められていた。信仰がすたれ、忘れ去られた現在、彼は人間たちのあいだをさまよい、いまなお「死」に携わっている。死せるものの魂を慰め、冥府への道行きを指し示してやり……。
事件の背後に、彼と同様、超自然の存在をかぎつけるマフェド。捜査チームのリーダー、警部補の甥っ子のボンボン刑事が(彼なりにマフェドの身を心配して)クビをつっこんできたので、首根っこつかんでニューヨークの闇へひとっとび(笑) 最近なんで自分のチームの検挙率があがったのかわかってないボンボンとのやりとりが案外愉しい一篇。

今回は、Kindle版で読めたのが上記のみなので、ちょっと残念。
ハイトカンプの「ヒューストン異状あり」が収録されたASファンタスティーク社のアンソロジー『Pファイル』、PはフェニックスのP(不死鳥文書)らしい。他に一角獣の『Uファイル』や、近刊には『Dファイル』(悪魔かな?)も予定されているらしい。
パコ書房のアンソロジー『フィクション×サイエンス』は、「急速に機械と人間の融合が進む現在。PCを使えない人がまだいる一方で、インターネットとスマホのない世界を知らない世代も増えています。彼らの孫の時代にはどうなっているでしょう。(中略)フィクション×サイエンスは、人と機械の融合によって可能となる、希望あふれる未来のヴィジョンです」だとか。日本の女戦士でも販売してるんだけど、ハードカヴァーで5000円↑なのでちょっと……(汗)

国際部門 Bester internationaler Roman:

Stephen King / Der Outsider / The Outsider / アウトサイダー
Holly Black / Elfenkrone / Tithe: A Modern Faerie Tale / 十分の一税
Neal Shustermann / Scythe: Der Zorn der Gerechten / Thunderhead / サンダーヘッド
Siri Petterson / Die Rabenringe – Odinskind / Ravneringene: Odinsbarn
    / 鴉の指輪:オーディンの子
Tomi Adeyemi / Children of Blood and Bone: Goldener Zorn / Children of Blood and Bone
    / オリシャ戦記:血と骨の子

ホリー・ブラックは、邦訳がジュブナイル向けの『スパイダーウィック家の謎』シリーズしか確認できなかった。ノミネート作『十分の一税』はモダン・フェアリーテール三部作の第1巻で、過去『十分の一税』『エルフの娘』に分冊して独訳されたものの合本みたい。2巻Ironsideが『エルフの女王』、3巻Valiantが『エルフの心』としてそれぞれ訳されているので、原題と全然ちがうのもやむなしか。ヘンネンといい、ドイツ人どんだけエルフ好きなの(笑)

ニール・シャスターマンの〈サイズの聖櫃〉シリーズは、遥かな未来、人工知能〈サンダーヘッド〉に管理される自然死が排除された世界で、人の生死を決める〈サイズ(死神の大鎌)〉に登用された若者たちを描くヤングアダルト……みたい。ノミネート作は第2巻。近刊に『通行税』が予定されているが、これ、『六文銭』だったりするのかにゃあ。

シーリ・ペテルセンはノルウェーの作家、コミックライター。『鴉の指輪』は北欧神話をベースにした三部作で、ノミネートされたのは第一作。Wikipediaを見ると、北欧、東欧を中心に10ヵ国語に翻訳されている……あ、英語が抜けてるから11ヵ国語か。本国では映画化の権利まで売れてるそうだから、ベストセラーなのだ。

トミ・アデイェミはナイジェリア系アメリカ人の作家。ヤングアダルト系のアンドレ・ノートン賞とロードスター賞を獲得した本書『オリシャ戦記 血と骨の子』は邦訳も出ている(静山社)。本国では三部作の二巻目『美徳と復讐の子』が12月に刊行予定。

新人部門 Bestes deutschsprachiges Romandebüt:

M. D. Hirt / Bloody Mary Me: Blut ist dicker als Whiskey
    / ブラッディ・マリー・ミー:血は酒よりも濃し
Anca Sturm / Der Welten-Express / 世界急行
Leni Wembach / Ein Königreich aus Feuer und Eis / 火と氷の王国
Nicole Alfa / Die Prinzessin der Elfen: Bedrohliche Liebe / エルフの王女:危険な愛
Christine Weber / Der fünfte Magier: Schneeweiß / 五番目の魔法使い:雪白

ニコル・アルファの『エルフの王女』は全5巻?の1巻目。16歳のルーシーは自宅で何者かに襲われて、気がつくと見も知らぬ世界に転移していた。え、ここがわたしのホントウの故郷? 行方知れずになったエルフ王の娘? ちょっと待ってよ、わたしフツーの女の子なんだけど。それより、あのダーンって人、なんでわたしの行く先々で待ち構えてるの……?
えーと、表紙といい、タイトルといい、あらすじといい、どうにも“異世界ハーレクイン”にしか見えないんですが。

クリスティーネ・ヴェーバーの『五番目の魔法使い:雪白』は、ドラゴンを使い魔にした四人の魔法使いのあいだの争いの後、二派に分かれた世界を舞台に、流れ者の少年ソラクを主人公として物語られるファンタジー。逗留する村を災いが襲ったとき、ソラクは白と黒だけからなる異界に転移する。災いを招いた自責の念から、世界を覆う虚構の網をときほぐそうと努力するが……。続編『五番目の魔法使い:漆黒』がすでに発売中。

……こんな感じかな。
『BLは魔法!』は選に漏れたらしい(笑)
あと、おもしろいところでは、翻訳部門にこんなのが:

『ta’puq mach クリンゴン語で読む名作「星の王子さま」』。翻訳www

■ファンタスティーク大賞公式サイト:deutscher-phantastik-preis.de

ドイツSF大賞2019受賞作発表

9月1日付けのDSFP公式サイトにて、本年のドイツSF大賞受賞作が公表された。
既報のとおり、授賞式は11月2日にドレスデンで開催されるペンタコン(SFCDの年次大会)にて執り行われる。

受賞作は以下のとおり:

長編部門 Bester deutschsprachiger Roman:

1. Tom Hillenbrand / Hologrammatica / ホログラマティカ

 2. Andreas Eschbach / NSA / NSA – 国家安全保障局
 3. Julia von Loucadou / Die Hochhausspringerin / 摩天楼ジャンパー
 4. Andreas Brandhorst / Die Tiefe der Zeit / 時の深淵
 5. Dirk van den Boom / Canopus / カノープス(冷たい戦争1)
 6. Dirk van den Boom / Varianz / 分散 (《サイズ》の旅路2)
 7. Robert Corvus / Das Imago-Projekt / イマーゴ計画
 8. Sebastian Schaefer / Der letzte Kolonist / 最後の植民者
 9. Willi Hetze / Die Schwärmer / 群人
10. Annika Scheffel / Hier ist es schön / 美しきこの世界
11. Christian Torkler / Der Platz an der Sonne / 太陽に近い場所
12. Ben Calvin Hary / Koshkin und die Kommunisten aus dem Kosmos
    / コシュキンと宇宙からきた共産主義者たち

受賞作『ホログラマティカ』の作者トム・ヒレンブラントは、『ドローンランド』(河出書房、訳者は元ローダン翻訳チームの赤坂桃子氏)で本邦にも紹介済み。元々は経済ジャーナリストで、主としてシュピーゲル・オンラインに寄稿していた。2011年からフリーの作家となり、処女作『悪魔の果実』を発表。ルクセンブルク人のコック、ザビエル・キーファーを主人公としたこのミステリ・シリーズは現在6巻まで継続中。2014年に刊行された『ドローンランド』はSF分野ではクルト・ラスヴィッツ賞を、ミステリ分野ではフリードリヒ・グラウザー賞を獲得するベストセラーとなった。
本作『ホログラマティカ』は21世紀末を舞台とする近未来スリラー。主人公であるロンドン出身のガラハド・シングは会計官(Quästor)とあるが、なぜか仕事は失踪人の捜索だ(笑) 気象の変動によって大規模な人口の流動が生じ、なおかつ技術の進歩が生み出したホロネットやマインド・アップローディングによって素性をいつわることが容易となり、行方知れずになる人間にはことかかない。今回の捜索対象はジュリエット・ペロッテ、人間を別の肉体へと載せ替えることすら可能とするデジタル脳〈コギト〉の暗号化を担当していたコンピュータのエキスパートである。彼女を“誘拐”したとおぼしきプログラマーの足跡をたどるにつれ、シングは、相手が“人間ではないのでは”という疑惑にとらわれていく……。
出版社の紹介記事には“高度に発達した人工知能が世界の問題を解決しうるようになったとき、人間はその制御を手ばなせるのか”とある。『ドローンランド』は、温暖化による海面上昇で水没しかかった近未来のブリュッセルを舞台にしたことを除けば、ごくまっとうな(という表現が妥当かはともかく)犯罪小説だったが、こちらはどうだろうか。

短編部門 Beste deutschsprachige Kurzgeschichte:

1. Thorsten Küper / Confinement / 隔離

 2. Andreas G. Meyer / Kill! / 殺れ!
 3. Tetiana Trofusha / Coming Home / カミング・ホーム
 4. Nadja Neufeldt / Im Regen / 雨の中
 5. Galax Acheronian / Trolltrupp / 豚部隊
 6. C. M. Dyrnberg / Intervention / 介入
 7. Nele Sickel / Muse 5.0 / 美神ミューズ5.0
 8. Uwe Post / Kurz vor Pi / パイの少し前
 9. Jutta Siebert / Die Schwimmerin / 泳ぐ女
10. Rico Gehrke / Rauschen / ノイズ
11. Tobias Reckermann / Der unbekannte Planet / 未知の惑星

トルステン・キューパーの「隔離」は、ラスヴィッツ賞に続く栄冠である。いまなんとなしに、ごやてんで検索したら、わりと頻繁に短編部門でノミネートされているのだった。
内容については、ラスヴィッツ受賞作の記事を参照いただきたい。あ、あとdinfoにもネタ提供したっけか。

■ドイツSF大賞公式サイト:www.dsfp.de

M. M. ターナー、草案チームに

ミハエル・マルクス・ターナーが共同草案作家に!
……とはいっても、ローダンではない(おい

現在Zaubermond社から単行本形式で刊行が継続しているDORIAN HUNTERこと、ホラー・ヘフト・シリーズの代表格、旧デーモンキラーの、である。

デーモンキラーも、そのうち改めて紹介したいと思ってはいるのだが、何分このシリーズ、出版履歴がかなり複雑なので、後回し後回しになってしまっている。
元々ヘフト・シリーズの草案はエルンスト・ヴルチェクが担当していたようだが、再版時には131話以降のストーリーが異なっている。90年代にZaubermond社で新作の刊行が開始された時点では、Dario Vandis名義で社主Dennis Ehrhardtがプロットを書いていたらしい(Edition DK)。
で、今世紀になって、シリーズ名を主人公ドリアン・ハンターの名前に改めた後で、旧作と新作(neue Abenteuer)が別ナンバリングで単行本化され、さらに上記初版とEdition DKもないまぜにし通しナンバーをふった形式で再刊されるようになって現在にいたる。
担当作家も、合本だったり、単一作家だったり、2~3名の複数作家だったりして、リスト作りが非常にめんどk……困難なのは、Wikipediaの該当ページを参照していただけばご理解いただけよう。

で、現在の草案作家Andrea Bottlinger(筆名:Susanne Wilhelm)がいつからこの大役をこなしていたのかは、正直よくわからない。作家としては、2010年刊行の63巻(通し№)からである。
ともあれ、長らく単独で草案作家を続けてきた彼女が、来年には通算100巻(通し№)を迎えるこの時期に、さすがに手が足りなくて支援が必要になった、とZaubermond社のブログで報じている。まあ、ドリアン・ハンターの単行本が年4冊。さらにスピンオフの〈ザミス家〉の単行本が年4冊。ローダンの草案作家並みにきつそうではある。

そして、これを快諾したターナーであるが……。
先頃、急に担当することになった3026話が〆切に間に合わなくなりそうで、別の作家の支援を求めた経緯が、ローダン公式のNewsで話題にのぼったばかりである。大丈夫か(笑)

■Zaubermond:Michael Marcus Thurner – Der Neue im Expoteam
■Wikipedia:Dämonenkiller
■公式News:WENN SICH EIN AUTOR UNTERSTÜTZEN LÄSST – TEIL 1