Die Herren der Straßen

ハヤカワ版722巻『《バルバロッサ》離脱!』で、本サイクルの鍵をにぎる種族Herren der Straßenの訳語が決定した。〈ロードの支配者〉というのは、Schwarze Sternenstraßenがブラック・スターロードになった時点で、まあ予想の範囲内。最近Herrは問答無用で“支配者”なのは、主ヘプタメル関連でも書いたとおり。
でも、今回はそれじゃあかんのよ……。

ちなみに、今回の関連用語を整理してみよう。

ドイツ語 ネイスカム ハヤカワ版 rlmdi.訳
Schwarze Sternenstraßen ブラック・スターロード 星の暗黒回廊
Herren der Straßen ドゥル・アイ・ラージムスカン ロードの支配者 回廊の主人たち
alte Herrscher マクラバン 古の君主 旧主
Archäonten 太古種族 始祖たち

ドイツ語→日本語という翻訳の点では、なんら間違いはない。以下は、その訳語を避けた個人的な理由である。
まず“太古種族”に関しては、エレメントの主ことヴ・アウペルティアを指すdas Alte Volkと丸かぶりなので、当時あれこれ検索して、始祖鳥(Archaeopteryx)――まあ“太古鳥”くらいの意味なので、言ってる内容としては変わらないわけだが――から採用して「始祖たち」にした。

Herrenについては、Twitterで「このサイクルは単数・複数が重要になる」と書いたことがあるのだが、彼らはこのサイクルの黒幕候補(複数形)であり、もう一方の自称敵(単数)との区別が必要。なので複数形のときはいちいち“主人たち”としていた。
そしてもうひとつ、主人ないしあるじでないと、重要な伏線が死ぬのだ(笑)

1472話「不死者たちの桟敷」(ヴルチェク)の冒頭、ローダンに対する刺客がはなたれる場面が出てくる。指示を出す側のセリフは伏せ字とされ、対話が進む。刺客は相手をあるじ(Herr)とくりかえし呼ぶのだが、そこにあるダブルミーニングが隠されている。

 はい……承ります、よ。(……)
 よ、理解しました。はい、アマゴルタの座標は承知しています。あなたの命で駐留する……警固艦隊のことも知っております。(……)
 彼らが失敗することもありえましょう、確かに。(……)
 そうした事柄は、わが種族のものにとり……異質、です。はい、わたしはご信頼いただいて結構です。(……)
 わたしはアマゴルタへ赴くでありましょう。(……)
 はい、よ。任務……承りました。ペリー・ローダンを、殺すのですね。(……)
 そのご質問は驚きました。はい、よ。わたしは忠実にお仕えします。あなたの他に……は存じません。

――Nr. 1472 Loge der Unsterblichen

引用中の“主”はすべてHerr(単数)。当然“ご主人様”の意なのだが、最後の一文は、サイクル最後のどんでん返しの暗示でもある。でも、ここだけ「支配者」にしたらダブルミーニングにならないのよ(笑)
訳語が“ロード・マスター”ならば、刺客がナックなので、FGOの果心ちゃんよろしく全部「ますたあ」にする手もあったのだがw

作中、Herr der Straßenを名乗るキャラが登場するのは、実はこれより後、1474話からなのでうっかり見逃してしまうところなのだが(実際見逃していたのだがw)、後で読み返していて「ああ!」と唸ったもの。ヴルちゃんがんばってるんじゃよ……。
あと、名乗りをあげない状態では、ハヤカワ版にもすでに2名ほど登場している。

以下余談:旧主(Machraban)は、当時なんだか枕番みたいなのがイヤで、Machtの発音にならってマハラバンにした。これはもう完全に好き嫌いの問題であるwww

オーグ・アト・タルカン

ハヤカワ版で現在進行中のエスタルトゥをめぐる物語も第2部終盤。ブルやローダンがそれぞれの手段でたどりついたラオ=シン四太陽帝国――タルカニウム――の中心フーベイ。オーグ系フーベイ。事ここに到れば、アッタル・パニシュ・パニシャ、オーグ・アト・タルカンとラオ=シン(カルタン人)の関係を疑うものはいまい。

ここいらで、前サイクルから敷かれていた伏線をふりかえってみよう。

それらは皆オファラーである――戦士教団の神話的黎明期の人物、あらゆる師の師の最初のひとり、アッタル・パニシュ・パニシャを除いて。その彫像はすべてのウパニシャドに置かれ、どれも同じ形状をしている。身の丈ほぼ2メートル――原寸大の写しであるかはさだかでないが――およそヒューマノイド型の存在を表している。頭蓋前部は円錐状。先端左右には毛のようなものが数十本、扇状に突き出ており、ヴォルカイルはさらなる知覚器官か触角と考えた。細長い結晶素材は内側から輝くかに見える。

1278話「エルファード人」(マール)

以前Twitterで「おヒゲですにゃん(笑)」と書いたが、あの訳では伏線にならないのである。
(えらそうなこと言ってるが、『エスタルトゥへの道』では遡って解説書いてるからできたことw)

 アッタル・パニシュ・パニシャなるものは一種のスーパー・ストーカーだと想像していた。だが目にしたのはストーカーとはまるでちがう存在だった。ソトやパニシュたちとの類似性などまるでない。人間とも異なるが、ほぼ2メートルのヒューマノイド型をした存在の彫像である。顔は完全に非人間的。口吻部が突き出るように前後に長い。口自体はエスタルトゥ第三の道のシンボルと似ていなくもない、三つ叉の切れ目からなる。その左右に結晶構造を思わせる細く長い針の束が刺さっている。何を意味するのかは謎だ。
 ストーカーが腕を下ろし、我々に像がよく見えるよう脇によけた。「その本来の名はオーグ・アト・タルカン」と、熱意をこめて、「彼こそは恒久紛争の創始者にして最初の永遠の戦士。エスタルトゥの力の集合体すべてのウパニシャドでその立像が尊崇されている。およそ法典の教えに触れたる者、敬愛をしめさず通りすぎることはない」

1291話「眩まされし者たち」(エーヴェルス)

上述のツイートで「ティフが見る時には、口元の描写もあったような……。」と書いたのがこれ。
(原文のhominidはこの時期多く誤用されている。「ヒト科」ではなく「ヒト型ヒューマノイド」)

前回より猫っぽい描写。ただ、この時点でティフラーは惑星カルタンを訪問済みなので、類似に気づかないのはちょっと変。アンティマコス投与前でストーカー愛が強すぎた(笑)のか、それとも彫像がよほどカリカチュア化されてるんだろか。
まあ、気づかれたら、シングヴァよりも全知女性チームの皆さんが大慌てだろうけど。

〈御者となるのは、ネットウォーカーの組織が創設されたと同じ頃、おのが精神材を広めたもの。ふたつのイデオロギーは源を同じくしつつ、これ以上ないほど根本的に異なってしまった〉

1329話「ハイブリッド植物奪還」(ヴルチェク)

これもツイートしたが、事態の御者となる存在は、「精神材≒思想」すなわち(エスタルトゥの)第三の道の哲学の学校を築いたアッタル・パニシュ・パニシャであり、すべてのウパニシャドに置かれた立像には彼の“一部”が込められているというダブルミーニングでもある。

「ウォ・ジング・バオ・アト・タルカン」

1330話「忘却からの脱出」(シェール)

そして、ドリフェルの門からあらわれた“丸太クロッツ”が発したこのメッセージ。その意味と、すでに登場済みであるよく似たお船、全知女性の《ナルガ・サント》との関係とかは、次巻以降で次々と明らかになっていく。ので、お楽しみに?

猫を尽くしてカッツェンカットを待つ

1224話「Rückkehr in den Frostrubin(フロストルービンへの帰還)」において、ディン・ドンことシガ人ラファエル・ドングがおもむろにダジャレを放つ。

カッツェは息をする。カッツェンカットは指揮をする」

ハヤカワ版「フロストルービンふたたび」

以前、別の記事で、“指揮エレメント”だと、このダジャレちょっと厳しいかな……と書いたが、ハヤカワ版けっこう頑張っている。
またちがう記事で、元になっている諺そのものを題材に取りあげたことがあって、文中1224話のセリフ自体も引用・試訳している。ご参考までに。

人事を尽くして待つものは?

カッツェンカットの肩書き、Element der Lenkungを“指揮エレメント”と訳すのは、マガンあたりは「立ち位置的にその方がわかりやすいでしょ」と肯定的だ。
ただ、上記ハヤカワ版だと、ドングはなんの脈絡もなく、意味不明なダジャレを一発かましただけという……いや、実際にそうなのだが!(笑)

したらば、いったいどう訳すのさ、となった時、電話回線をはさんで2人してアーウーうなったあげく出てきたのが%タイトル%である。
いやもうこれ、指導も指揮もかけらも残ってないwww なんとかの考えやs(ry
#猫は悪くない。

3/13追記:
後日マガンと“宿題”的に「なんか思いついた?」と連絡をかわした。一応列挙しておく。

マガン作:猫はしこうして天寿を待つ。カッツェンカットは指導して天命を待つ。
#rlmdi.訳“指導のエレメント”対応版だあね。

拙作:猫に九生あり、カッツェンカットに十戒あり。
#ひらきなおってるwww

悟り世代の指揮エレメントは暗黒洞の夢を見るか

過日、早川書房のサイトで、593巻『コスモクラートの敵』のアバンを見て、ちょっと悶絶した。夢見者カッツェンカット……。
いや、Träumer(夢見る者)の原語で独文和訳する分には、なんの間違いもないのだけど。

カッツェンカット(Kazzenkatt)はザルレンゴルト人で、混沌の勢力の尖兵〈エレメントの十戒(Dekalog der Elemente)〉の指揮官。
ナルゼシュ銀河の惑星ザルレンゴルト(Sarlengort)――サーレンゴートになるかな?――出身のこの種族は皆、パラ能力として〈ゼロドリーム(Zerotraum)〉を操る。彼らは〈ゼロドリーマー(Zeroträumer)〉と呼ばれ、その能力を駆使してナルゼシュのみならず他銀河まで侵略の手を広げていたが、青の銀河のロボット種族ウィ・ンの報復艦隊によって壊滅的打撃を受け、わずかに残った生存者は白亜の塔に封印され、夢の世界でヒッキーとなる。

そのうちのひとりは、希有なゼロドリーム能力を見込まれ十戒の指揮官として徴発された――カッツェンカット(ザルレンゴルトの言語で「生きたい」を意味する)という新たな名を与えられて。
もうひとりは、カピン人の秘密結社〈遺伝同盟〉によって対十戒……というか対カッツェンカット兵器として利用すべく誘拐され、紆余曲折を経て改造人間バス=テトのイルナとして、某所で工作中のアトランの前にあらわれる。閑話休題。

ドリーマー単体だったら、まあ“夢見者”でもいいんだけど……あんまり使わないと思うけど日本語として。固有名詞風にしたかったのかな。案の定、Zerotraumが“ゼロ夢”である。これ、Zeroträumerを全部“夢見者”で押し通すつもりなのかね。
余談だが、以前にも書いたように、このヒト、カッツェとひっかけたダジャレが出てくるんだけど、“指揮エレメント”だとちょっと苦しいかな……w

その他、ぱらぱらとめくって気になったのは、

ハヤカワ版(p9/p141)
さて、かれは夢を見ていた……

原文:
Also träumte er…

試訳:
かく彼は夢見たり……

これもalsoを間投詞的にとらえれば、けして誤訳でない。
ただ、カッツェンカットの艦名《理性の優位(PRIMAT DER VERNUNFT)》は、カント先生の“実践理性の優位”からだろう。
となると、冒頭のこの一文はニーチェ先生の『ツァラトゥストラはかく語りき(Also sprach Zarathustra)』を踏まえたものと考えたい。

独語alsoは、前述の話台の結論を導く(したがって)、前述の話台をもう一度取り上げる(同様に)、中断した思考過程をひきもどす(さて、だから)等の用法がある。
ひとつには、前話の最後に、夢見者カッツェンカットがくる……!って感じで終わっていたはずなので、それを受けて、というパターン。そんなわけで(かくして)彼は夢を見ていた、である。
もうひとつは、ハヤカワ版のように、さてorだから彼は夢見てましたー、のパターン。
残るは、Wikipediaだと上述の本は『ツァラトゥストラはこう語った』と訳されているが、やや古い用法で“ちょうどこんな風に”的な意味があるらしい。「こんな夢を見た。(『夢十夜』)」である。で、文章の流れとしてはこれが一番正しいように思う。
まあ、あとはカッコつけの問題である。

そして、カッコつけの問題としては、

ハヤカワ版(p17)
《マシン十二》

原文:
MACHINE ZWÖLF

試訳:
《マシーン12》

元来、艦艇のナンバリングについては原書に倣ってローマ数字(アラビア数字)を用い、あんまり文字数が多くなる(スプリンガー船等)場合はアラビア数字を使用するのが松谷流だった。
今回のこれは、確かにどちらでもない。単語で「じゅうに(Zwölf)」と書いてあるわけだが……漢数字はないじゃろ(笑) いっそ《機械十二》ならともかく。
極論、《スターダスト二》とか、『幽霊船《クレスト四》』とか、見たくないわな。

以前、五十嵐さんが作ってた“松谷語翻訳マニュアル”みたいなのは、現在も継承されてるのかな、どうかな……。

で、最後にひとつ。

ハヤカワ版(p145)
「暗黒エレメント……準備をして待機せよ……」

原文:
»Element der Finsternis – halte dich bereit …«

試訳:
「暗黒のエレメントよ……おまえは待機だ……」

カッツェンカットは、暗黒のエレメントが怖いのである。
なんで怖いのかは、そのうちわかるのでいいとして、なるべく投入したくないのである。
で、全てのエレメントの助けが必要じゃろって支配者様に言われてるのに、出撃させなくってまた怒られるのだ(笑)

分離動詞bereithaltenは、「準備する」が主たる意味である。「使えるようにしておく」わけなのだが、ハヤカワ版、分離動詞と思わなかったか、それとも上述の“使いたくない”雰囲気を汲みとったのか、少々中途半端になっている。
暗黒エレメント、すてんばーい、なので、簡単にしていいんじゃないかにゃ。
#ま、ちょっと準備はしておけ。

1000話「テラナー」について (6)

1000話「テラナー」について、いよいよ最終回である。
ローダン・ヘフト1000話の表紙には、こう書かれている。

Der Terraner
Die kosmische Bestimmung der Menschheit

物語のタイトルと、あおり文句。今回のテーマである後者を、初回でも述べたとおり、「人類の宇宙的天命」と読む。

最終回 人類の天命さだめの物語

女性名詞 Bestimmung は、手元の新現代独和辞典を見ると、おおよそ以下のようになっている。

(1) 決定、規定、命令、制定
(2) 行き先、届け先、(決められた)用途・目的
(3) 定義、限定、評価
(4) 本文、使命、天職、宿命、天命

800話『テルムの女帝』の用語チェックの際、ちらりと書いているが、わたしには同義語・類義語を訳し分ける自分ルールがいくつかある。そして、たまたま上記 Bestimmung も、そのひとつだった。
(→ テル女:用語チェック (2))

(a) Schicksal / 運命
(b) Fatum / 宿命 (形容詞:fatal)
(c) Bestimmung / 天命 (形容詞:bestimmt)
たぶん1550話『新たなる天命』あたりで整理した……と思う。なにぶん昔の話なので。

ローダン宇宙……というか、フォルツ宇宙における Bestimmung は、新現代独和にいう(2)と(4)――「天命(天与の役割)」、ぶっちゃけ「さだめ」である。
かなり乱暴な解釈をすると、運命とは「人知を超えた、幸福や不幸の巡りあわせ」、宿命は「前世から定められた動かしようのない運命」、そして天命とは「天帝の命令、天から与えられた生涯かけて果たす務め」となる。
では、今回のテーマともいえる「人類の宇宙的天命(さだめられた役割)」とは、いったい何のことなのか。

一番顕著な事例は、746話「時知らざる者」において、カリブソとアラスカ・シェーデレーアの会話中で、述べられている。

「われわれは、なにをなすべきかを承知していた。おのずとそうなるもの。大宇宙にひろがるどんな種族も、天与の使命を授かるのだ」
(中略)
「テラナーはただ単に拡大する。宇宙じゅうに広まっていく。まるで寄生体だ!」
「われわれにだって、意味はある!」

と、アラスカが抗弁するわけだ。テラナーは、まだそれを知らないだけなのだ、と。

文中の「天与の使命」の原語は eine bestimmte Aufgabe ……「ある、さだめられた任務」である。当時のわたしの試訳では、「特定の任務」となっている。最終回のテーマにそって、多少いじってみた。
一方のハヤカワ版の当該箇所は、一部誤訳もあって、正しく読みとくのは難しい。日本の読者さんは、フォルツの綴る物語において、それが大事な争点のひとつであることを知らないままかもしれない。
(→「時間超越 -10- part1」

でも、まあ、たしかシュミットとかキトマあたりにも、アラスカは似たよーな非難をあびせられていた気もするので、気がむいたら探してみるのも良いかもしれない。発見したら教えて下さい(をひ
閑話休題。

ともあれ、この話(1000話)は、大群(より正確には、キトマやシュミット)との遭遇以来、フォルツ・ストーリーの軸のひとつであった、「人類の存在意義とは」という問いに対する、ひとつの回答なんだよ――上記サブタイトルは、読者にそう告げているのだ。
読者がフォルツのファンであるならば、それだけでわくわくせずにはいられないはずである。

では、その回答がどのように導かれているかというと……。
ここはごやてんらしく、作中でその「天命」= Bestimmung がどう用いられているか、例をあげて見ていこう。


Bestimmung 例1

さて、本書『テラナー』は、ローダン世界とわれわれの現実世界(グラフィティ)との二重構造である。
その中で、2点だけ、両方にかかる部分がある。ひとつが、最後のグラフィティ。もう一方が、次にあげる冒頭の引用文だ。

ハヤカワ版(p139)
若い人たちは、人間とは文字どおり機械にすぎないと信じているのだろうか? 権力も声望もない、指示にしたがうだけの存在だと。高みをめざして前進する者すべてを破壊し、あらゆる努力を弱体化させる、こうした運命論的な独断に対して、わたしはものを書きはじめて以来、倦むことなく戦いつづけている。

原文:
“Junge Menschen lernen zu glauben, der Mensch sei buchstäblich nicht mehr als ein Apparat – ohne Macht oder Einfluß, was seine Bestimmung angeht. Gegen dieses fatalistische Dogma, das alles Streben nach Höherem zerstört, alles Bemühen schwächt, habe ich, in meinem eigenen kleinen Bereich, seit ich zu zu schreiben begann, nie abgelassen anzukämpfen.”

試訳:
「若者たちは人間が文字通り道具にすぎないと信ずることを学ぶ――その天命にかかわる、いかなる影響力もない、と。高みをめざすあらゆる希求を破壊し、すべての努力を損なうこの宿命論的ドグマに対し、わたしはおのが小さな領分において執筆をはじめて以来、一貫して抗いつづけてきた」

巻頭引用句、W・マクドゥーガルのものである。

私家版においては、当該箇所は「用途」と訳した。「役割」の部分を強調した方がより「単なる道具」っぽくてよさそうに思えたからだが、今回はあえて「天命」とした。
直訳すると「若い人間たちは信じることを学ぶ/人間は文字通り道具以上のなにものでもないのだと/その(道具の)さだめられた役割について/(つくる)力も影響力もなく」。
なぜ“つくる力”なのかは、バルディオク関連記事を参照してもらいたい。
(→ 続850話・生兵法はケガの元

ともかく、自分の「役割」を、己自身で生み出すことも、変えることもできない、単なる社会の歯車にすぎないのだと、信じることを学ぶ――社会に、環境によって教え込まれる。宿命論的な「あらかじめ決まっていて、人の努力ではどうしようもない」というドグマとは、そういうもっと辛らつなものである。

ハヤカワ版の翻訳でも、基本的論調は共通しているが、Bestimmung を「指示」としたためか、本文が疑問文になりちょっとふわっとした感じである。seineを流してしまったせいで、なんの(だれの)Bestimmung なのかが漠然としてしまったのだろう。
また、Bestimmung の意味が異なるため、ohne 以降の節がぽっかり浮いてしまった。

以下はちょっと本筋からはずれるが、同じ引用文の「運命論的」fatalistisch は、

ハヤカワ版(p179)
ファアデンワルン人は自分の存在を宿命論的にとらえているようだ。

原文:
die Faadenwarner offenbar recht fatalistisch waren, wenn es um ihre Existenz ging.

と同じ単語であり、人(ロオク)の意志によってものごとをなそうとすることの対蹠的役割を演じている。宿命論/運命論、どちらも同じものだが、できたら統一してほしかった。

上記2つの意味において、この引用文、けっこう重要なのである。

Bestimmung 例2

ハヤカワ版(P161)
船がなにかの規定を読みあげるような調子で答える。

原文:
belehrte ihn das Schiff in einer Art und Weise, als lese es irgendwelche Bestimmungen von einem Vordruck ab.

試訳:
船がまるで、書式に則った規定を読み上げるように指摘した。

ここのみ新現代独和の(1)に相当する。
さすがに、書式になった天命とかできません(笑)

Bestimmung 例3

ハヤカワ版(p218)
だが、人類の未来と運命を決めるゲームはまだ終わらず……

原文:
Das Spiel um Zukunft und Bestimmung der Meschheit ging jedoch trotz der Überwindung der PAD-Seuche weiter –

試訳:
だが、PAD病の克服にもかかわらず、人類の未来と天命をめぐるゲームはつづき――

〈それ〉と〈反それ〉の宇宙チェス――これも、コスミック・チェス、“宇宙秩序にかかわる”チェスゲームである――は、ある意味、人類の天命に直結しかねないものだった。その決着は、すなわち〈それ〉の力の集合体の今後(ポジティヴ/ネガティヴ)を自動的に確定するからだ。最終的に、従来からの主導人格ともいえる第一プレイヤーが勝利したため、劇的な変化は見られなかったのだが。
PAD病のくだりは、前の段落がそれに該当するので、冗長さ対策ということで、削除は妥当か。

Bestimmung 例4

ハヤカワ版(p223)
人類の運命はどうなるのかという質問の答えを得ることはできなかった。

原文:
Die Antwort auf die Frage nach der Bestimmung der Menschheit vermochte Rhodan auch nicht finden,

試訳:
人類の天命とはなにかという問いへの回答は、ローダンには見いだすことができなかった。

直訳すると、「人類の天命問題に対する回答」。

ローダンはおそらくアラスカから惑星デログヴァニアでの事件についても報告を受けていたであろうし、《バジス》におけるライレと泉主パンカ=スクリンとの確執に、自分たちとコスモクラートとのスタンスの差を感じてもいただろう。彼の目からすれば、盲従的にその傘下に入ることはためらわれたにちがいない。

本書において、長年お世話になってきたワンダラーの親分さんの述懐を聞かされてようやく、広域暴力団・宇宙秩序会の杯をいただくことになるわけである(笑)

Bestimmung 例5

ハヤカワ版(p276)
悲観的な見通しを語られながらも危機に強いことを証明したGAVÖKの創設も、たぶんこのための布石だったのだろう。

原文:
Vielleicht lag darin die eigentliche Bestimmung der GAVÖK, die sich allen Unkenrufen zum Trotz als ziemlich krisenfest erwiesen hatte.

試訳:
悪評紛々にもかかわらず危機への耐性を証明したばかりの銀尊連ガフェークの、本来の天命はこのためにこそあるのかもしれない。

私家版では「~銀河種族尊厳連合は、まさにこのために存在したのかもしれない。」とした。原文をみれば、「役割」の意味合いが強いのがわかる。新現代独和の(4)で訳せないこともないが、どちらかというと(2)に該当する。
元々は公会議支配に対抗するためではあったが、銀河系の諸種族を結びつけることを目的とする銀尊連は、コスミック・ハンザの裏の目的にとって大きな助けとなるはずだ。ひいては銀河種族全体で超知性体への道を歩むためにも。

と、ここまで書いてきた流れで本編を見ると、「人類の天命」とは――

与えられた2万年の時間を使い、銀河系諸種族とともに超知性体になること
(ひいては物質の泉、コスモクラートへといたること)

その遙かな道程への足がかりとして、

多銀河連合組織〈コスミック・ハンザ〉を創設する

……で、ファイナル・アンサーに見える、のだが。

冒頭述べたとおり、本書『テラナー』は、ローダン世界とわれわれの現実世界との二重構造である。その最終章、ペリー・ローダンという男のグラフィティに、最後の“天命”が待っている。

Bestimmung 例6

ハヤカワ版(p283)
だれもが心の奥におさえきれない熱望を秘めていることを信じている。人類の宇宙的な運命を知りたいという熱望を。

原文:
Er glaubt, daß tief in jedem Menschen eine unstillbare Sehnsucht verankert ist, seine kosmische Bestimmung zu erfahren.

試訳:
人間ひとりひとりの奥深く、おのが天命を知ることをもとめてやまない気持ちが根ざすと信じている。

前回にも引用したが、10年以上前に訳したそのままである。

ここでは、冠詞が seine であるため、それぞれの人間が、自分の Bestimmung を知りたいのだ。というか、ローダンのグラフィティ、前回取りあげた後半の文節、上記以外すべて der Mensch(ひとりの人間)が主語である。Menschheit(人類)どころか Menschen(複数の人間)ですらない。上記についても、jedem 「おのおの、それぞれ」なので、実質的に「個人」である。
ストーリー本編内の人類(総体)としての天命から、再び人間(個々)の天命へとシフトしている。強弁すると、これは冒頭の引用文への回帰である。おのが天命に対する力も影響も持たない人々へささやかなエールを贈るマクドゥガルの文章に、フォルツは大きな共感を抱いたのだろう。

それはそうだ。フォルツの初期のキャラクターたち、「グリーンホーン」のジョン・ピンサー、「一握りの永遠」のヘンドリック・ヴォーナー、「氷の罠」のドン・キルマクトマスなどは誰も、運命のいたずらで、どうにもならない状況に追いつめられ、生き残るため、使命を果たすためにあがきつづける平凡な人々だ。特にキルマクトマスは、ドイツのファンダム由来の voltzen「フォルツる、フォルツする」なる珍妙な動詞――人間的に愛すべきキャラクターで読者の共感を呼びながら、物語の結末で、自分ではなく他の誰かを守るため、悲壮な覚悟のうえの最期を遂げること――の代表例といえるだろう。
シリーズのレギュラーとなり、生みの親フォルツの死後も活躍をつづけるアラスカ・シェーデレーアも、規模こそちがえど、運命に対してあがきつづけるところは同じである。

彼らは皆、運命に戦いを挑み……多大な犠牲をはらって、ささやかな勝利を得る。

と、ここまで来て、思うのだ。フォルツの思想――信念は、「天命」とは天与の使命でこそあるが、それはけっして未来永劫不変というわけではない、というものではなかったのか。おのが意志、志望によって、“つくる”ことができるもの、なのでは、と。
カリブソら、先発の“大宇宙にひろがる種族たち”は、天与の使命をあるがまま与えられたままにうけいれる。一方、“天与の使命を知らない”テラナーは、自らひとつの使命を創出し、自らに科していくのではないか。

そしてコスミック・ハンザという、通商組織の皮をかぶった対セト・アポフィス防衛機構は、そうしたステージに立った人類とその友好種族の進化への道程をサポートするに最適である。重要拠点には6つのコスミック・バザールが置かれ、定期的に楔型船のキャラバンが往来する。そして、広大な力の集合体各所をゼロ時間で結ぶ意思決定機関、ペリー・ローダン。
ある意味最強である。銀河系のみならず、局部銀河群の諸種族を有機的に結び付ける、銀尊連を超える役割をはたすべきものとして、これ以上は考えられない。

あるいは、それゆえにこそ“フォルツ後”のストーリーでは持て余してしまったのかもしれない。強大な力を持ちすぎたがゆえに、第一次ギャラクティカムが瓦解した後の銀河系では、逆に騒動のタネとなってしまった。
実にもったいない。いまとなってはシリーズから姿を消してしまった組織ではあるが、そう思う。

力を持たないちっぽけな人間をこよなく愛した作家、ウィリアム・フォルツ。
彼は本書を“テラナー”たりうる多くの人々に捧げた。そのメッセージは、最後のグラフィティに明らかである。

――人類が自らをこのすばらしき大宇宙の一部と知り、調和に満ちて生きていけると信じている。

この一文こそが、フォルツの願った「人類の宇宙的天命」だったのではないか。
誰しもが、お仕着せの宿命サダメではなく、思いさだめた天命を胸に邁進してよいのだと。
ただ、無限にひろがる、調和に満ちた世界うちゅうへの憧れを忘れないでと。その気持ちひとつあれば、誰もが“テラナー”なのだと。
そう呼びかけ、われわれの背中を押してくれたのだ。
そのことに感謝すると同時に、この稿は、やはりこの言葉で閉じるべきだと思われる。

ウィリアム・フォルツもまた、テラナーであった。

ENDE

1000話「テラナー」について (5)

1000話「テラナー」について、第5回である。

ごやてんでもこそっとリンクを貼ってあるが、William Voltz のウェブサイトがある。
ローダン関連のサイトができたのは90年代後半からなので、無論、フォルツ自身が関与しているわけではない。2004年にドイツ語圏SFの後進育成のためとして、短編の名手でもあったフォルツの名を冠した賞(William Voltz Award)がつくられた、そのサイトである。
(→ フォルツ賞、応募・投票受付中
2004年第1回開催時の記事である。

フォルツ賞自体は、2009年の第5回以降休止状態となっているが、おそらくフォルツと交友関係があり、初期の審査を務めたヴルチェクが亡くなった(2008年)こととも無関係ではないだろう。
しかし、その後もサイトは地味に更新を続けている。フォルツ未亡人であるインゲ夫人による、フォルツのバイオグラフィーである。

第4部 そして新たな歯車は回る

最新の39回は、1074話のシェール復帰話と、慢性的な気管支炎をかかえたフォルツがインゲさんの懇願によってようやく医者にいき、抗生物質を処方されたあたりで終わっており、続きを読むのがちょっとこわい……のはさておいて。

このバイオグラフィーを読むと、シェールとフォルツの師弟関係が、シリーズのごく初期からのものであったことがよくわかる。1962年に購入したオペルの中古車で、オッフェンバッハから20キロほどの距離にあるフリードリヒスドルフのシェール宅へ、まだ婚約時代のインゲさんをともなって、フォルツは足しげく通っていたそうな。
アイデアをメモって来いとか、今後のシリーズの展開はあーもあろこーもあろと、2人して夢中で論議する姿をインゲさんはおぼえていた。実際シェールによって構築された世界観のどの程度がフォルツの提出したアイデアに影響されたものなのかはわからない。ただ、これまでは漠然と、大戦の従軍経験があるシェールやダールトンの生み出したローダン・シリーズと、兵役を忌避した(実際はハネられた)フォルツの考案する宇宙とは、異なるものであって当然と考えていたのだが、そのへん改める必要もあるだろう。

さて、カルフェシュとグッキーの後押しにより、機能をとりもどしたライレの目で、現在の〈それ〉の中央惑星エデンIIへの無間歩を果たしたペリー・ローダン。
しかし、新たな超知性体の座たる半球惑星は、思いもよらない様相を呈していた。
……戦いの準備である。

ハヤカワ版(p249)
砂によってプラスティックのようにつるつるに磨きあげられた、岩の上に立っているようだ。

原文:
Das Material, auf dem er stand, konnte ebenso gut glattgeschliffener Fels wie Kunststoff sein.

試訳:
足下の素材は、磨きあげられた岩とも合成素材ともとれた。

ebenso gut A wie B で、Aと同じくらいB。なのでこの場合、岩と合成素材、どちらも同じくらいにありそうだ、となる。

ちなみに元々この文章は、ebensogut glattgeschliffenener Fels wie Kunststoff と書かれていたものだが、1996年の表記法改正で ×ebensogut ○ebenso gut と決められたため、手元の第2版では ebensogut、電子書籍版が ebenso gut となっている。たぶん、ハヤカワ版は後者が底本で、ebenso 「(とっても)つるつる」 / gut glattseschliffenen 「よく磨きあげられた」と読んでしまったのではなかろうか。

ハヤカワ版(p250)
もう一度“目”をのぞいてみたが、やはり暗いままだ。

原文:
Er schüttelte das Auge, aber es blieb verschlossen.

試訳:
〈目〉を振ってもみたが、閉ざされたままだった。

ローダン、いろいろ試行錯誤してるのだ(笑)
翻訳する側としても、ぜひ彼の努力を汲みとってあげていただきたい。

ハヤカワ版:
 目の前にグレイの物体の影が落ちた。ちいさな尖塔のような形状で、

原文:
  Vor ihm schälte sich ein Schatten aus der grauen Substanz. Das Gebilde sah aus wie ein kleiner Obelisk,

試訳:
 前方、灰色の霧のなかからひとつの物影があらわれた。小さなオベリスクのような物体で、

動詞 schälen は、後で出てくるたまねぎの“皮”と同根で、「皮をむく、(再帰動詞で)皮がむける」。グレイの物質とは、霧(私家版では“もや”)を構成するもので、そこから皮がむけるようにオベリスクの影が見えてきたのだ。
個人的に“影を落とす”は werfen Schatten 「影を投げかける」が該当すると思う。これはバルディオクがらみの記事ですでに書いた。
(→ 続々850話・影を投げかける誤訳

上記のような混同が生じたのは、前置詞 aus に「~製の」という意味があるためだろうだが、困ったことにこれ以降、“グレイの”尖塔と本来ない描写がついたり、“グレイの物質”と書いてあるのに“尖塔”と訳したりしている。

ちなみに尖塔=オベリスクだが、サイノスがらみで後々まで頻出する語でもあるので、伏線である可能性を考慮すると揃えておいた方がよろしいのでわ。まあ今回は無関係だが。

ハヤカワ版:
その働きを知ろうとするのはむだだろう。ローダンはグレイの物体が配置された範囲をはるかにこえて存在する、目に見えない柱の内部にいるような印象をうけた。

原文:
Den Sinn dieser Anlage ergründen zu wollen war sicher ein wenig aussichtsreiches Unternehmen. Rhodan hatte den Eindruck, im Innern einer unsichtbaren Säule zu stehen, die weit aus dieser grauen Substanz irgendwohin reichte.

試訳:
この装置の意味を解明すれば、多少なりと展望が開けるかもしれない。自分が灰色の霧を抜けたどこかに通じる、見えざる柱の内部にいるようなイメージがあった。

ein wenig なので「ちょっとだけ」。wenigだけ(“ちっとも”)ならたしかに「無駄」だが。直訳すると「この施設の意味を解き明かそうと欲するのは、きっと少しは有望な計画だろう」くらいになるのかな。
そして上述したように、霧のことを“配置されたグレイの物体”≒尖塔と読んでいる。
ともあれ、見込みがある(aussichtsreich)から、この後ちょろっと考察してるわけだ。そして、その結果であるが……。

ハヤカワ版:
エデンIIをつつみこんでいる駆動装置の一部かもしれない。
そうだとしたら……どこに向かっているのだ?

原文:
Vielleicht waren sie Teil einer gigantischen, EDEN II umspannenden Transportanlage.
Wenn diese Vermutung richtig war – was wurde dann hier transportiert?

試訳:
あるいはエデンⅡを包括する搬送機構の一部かもしれなかった。
もしこの推測が正しいとしたら――何を運んでいる?

Transport である。Tran’Sport! なら佐川急便である。そしてローダンで駆動装置(エンジン)といえばだいたい Triebwerksystem か Antrieb だ。全然ちがう。

そもそも、仮にもおカネもらって翻訳している人が、wo「どこ」と was「なに」を読み違えるとも思えないのだけど。一行前にもどって訂正するのすらめんどくさいのかね……。

ハヤカワ版(p251)
突然、笑い声が聞こえた。だれかがこちらの推測をテレパシーで読みとり、あざけっているかのように。

原文:
Rhodan hörte plötzlich Gelächter, als hätte jemand seine Spekulationen telepathisch erfasst und würde sich darüber lustig machen.

試訳:
ふいに笑い声が聞こえた。まるで誰かがローダンの推量をテレパシーでとらえて興じているようだ。

形容詞 lustig は「愉快な、おもしろい、陽気な」。たしかに、手元の新現代独和辞典の用例でも sich über (IV格) lustig machen を「ちゃかす、からかう、(あざけって)おもしろがる」としているが、同ページ中ほどで登場したタコ・カクタが“さっき耳にしたのと同じ声で笑い”とあるので、嘲笑というよりはおもしろがっている意味合いに取らないと、旧友同士の再会は対面する以前に破綻してしまう。

ハヤカワ版:
なにが起きたのだろうと思い、もうすこし“なか”にいたかったと感じる。

原文:
Unwillkürlich fragte er sich, was mit ihm geschehen wäre, wenn er sich noch einige Augenblicke länger ≫in der Röhre≪ aufgehalten hätte.

試訳:
もうあと少しあの“パイプ”の中にとどまっていたら、いったいどうなったことか。

今回は書かずに済むかと思ったが……接続法第II式である。なのに「もし~だったら」の wenn がどこにも活かされていない。

試訳で“パイプ”とした Röhre は、3章でジンカー・ロオクが利用した非常用パイプ網と同じ語なのだが、そもそも搬送システムを駆動装置と誤訳しているので、パイプの中、という表現が前後と脈絡がつかなかったのだろう。こうやって、どんどん描写が削られていくわけだ。

ハヤカワ版(p252)
「エデンIIにようこそ、ペリー。ずっと待ちつづけていました」一瞬ためらい、声を落として先をつづける。「べつの姿を考えていましたが」

原文:
≫Willkommen auf EDEN II, Perry. Wir hatten dich eigentlich schon früher erwartet.≪ Er zögerte einen Augenblick und fügte dann leiser hinzu: ≫Und in anderer Form.≪

試訳:
「エデンIIへようこそ、ペリー。実際もっと早くおいでになるものと、われわれ、考えていたのですが」一瞬ためらってから、小声でつけたした。「もっと別の形で」

われわれ、とは後述されるように“昔の友たち全員”で、もっと別の形とは、「訪れては去っていく」客としてではなく、精神集合体の一部としてであることは、一連の流れから理解できる。にしても、わざわざわかりづらく訳すことはあるまいに。

ハヤカワ版:
「わたしに意識集合体にくわわれ、と……そういっているのか?」そうたずねた瞬間、強制的に統合するつもりなのかという思いが頭をよぎった。

原文:
≫Wird man mich … animieren, in das Bewusstseinskollektiv einzutreten?≪, wollte Rhodan wissen. Fast hätte er gefragt, ob man ihn dazu zwingen würde.

試訳:
「わたしに意識集合体に加わるよう……うながすつもりか?」あやうく言いかけたのだ。強制するつもりか、と。

まあ、ここは前後の文脈的に意味が逆転するようなこともないので、誤訳とまでは言わない。しかし、頭をよぎったどころか、喉元まで出かかり口ごもったのだ。

ハヤカワ版:
「これはなんなのだ? 駆動装置なのか?」

原文:
≫Was stellt das hier dar? Einen Transmitter?≪

試訳:
「これは何なのだ? 転送機かね?」

ここまでくると確信犯である。そこまで駆動装置にしたいのだろうか。まあ、そうしないと遡って修正しなくちゃならないので、駆動装置にしてしまいたいのだろう。きっと。

ハヤカワ版(p253)
われわれ、転換点にいるんです、ペリー」

原文:
Wir befinden uns in einer kritischen Situation, Perry.≪

試訳:
われわれ、危機的状況にあるんです、ペリー」

2004年私家版では“非常事態下にある”とした。
クリティカルな状況にある、ということで、転換点ターニングポイントは必ずしも誤訳ではない。しかし、「一種の転換装置です」「エネルギーに転換しているんです」「われわれ、転換点にいるんです」と一連の会話でつづけたら、ローダンまでエネルギーに転換されてしまいそうである。もうちょい単語を選んでほしい。
#そもそも2個目の原語は beschaffen エネルギーを「調達する」である。わざとか。

ちょっとググって出てきた主立ったところで、危地、岐路、重大局面、限界状況……剣が峰、ピンチとゆーのもあった(笑) 選択肢はいくらでもある中で、一番わかりづらいの持ってきたよね。
#エデンIIはこれから天下分け目の大決戦をむかえるのです……と読むと、剣が峰がそれらしく見えてくるから不思議であるw

ハヤカワ版:
グレイの尖塔群からはなれるにつれ、それらは空気中に溶けるように見えなくなった。

原文:
Weiter entfernt von den Obelisken löste sich die graue Substanz in der Luft auf.

試訳:
オベリスクから離れるにつれ、グレイの霧は空中にかき消えた。

霧が晴れて、周囲の情景が見てとれるようになったのだ。この霧って、変換器稼働の副産物かな、となるわけなのだが。オベリスクが消えたら変換器動作不良になっちゃうから、見えなくなった、と補っている。

ハヤカワ版:
猫の背中のように丸くて低い建物

原語:
diesen buckelähnlich Erhebungen

試訳:
これらこぶ状の隆起

Buckel は『ノートルダムのせむし男』のように脊椎湾曲のため背中がこぶ状に見えたものを指し、これが日本語では差別用語とされたことで、同症状(病名:Kyphose)の別名“猫背”が当てはめられた。語源的にはラテン語Gibbusとされるように「凸形の、瘤の」で、辞書を見ても「こぶ」と書いてある。猫なのは日本だけである。
せめて「低い建物」「低い建物」のくどい連呼だけでもどーにかしてほしい。

ハヤカワ版(p255)
カクタとローダンを連れて部屋の中央へ向かう。

原文:
  Zusammen mit Kakuta nahm er Rhodan in die Mitte.

試訳:
カクタとともに、ローダンをはさむような位置に立つ。

ローダンを中央に据えてカクタと向かい合った……かどうかまではわからないが、たぶんそうだろう。プロジェクション2名のあいだにはさむことで、ローダンの尻kもとい魂をひっこぬいたのだ。

ハヤカワ版(p256)
……あんなちいさなもののなかに。

原文:
– in einer derartigen Enge.

試訳
――ああも窮屈なものの中で。

誤訳ではないのだが、この Enge(狭いところ)、ほぼおなじ表現がp266で出てくる。

ハヤカワ版:
押しやられるような感覚があり、それがすぐにはげしい衝撃にまで高まる。とてつもなくせまくるしい片すみに押し込まれたと思ったら、そこは自分の肉体のなかだった。

原文:
Rhodan spürte eine Berührung, die einem heftigen körperlichen Schlag gleichkam, dann wurde er in die im ersten Augenblick unerträgliche Enge gedrückt, die sein Körper war.

試訳:
殴られたような衝撃を感じるとともに、ローダンは耐えがたいほど窮屈なものに押し込められていた。それは、自分の肉体だった。

使用前・使用後じゃないけど、おなじものを、おなじように感じているわけだから、できるなら揃えておいた方が良いと思うのだ。
なお、動詞 gleichkommen は「~に等しい」。関係代名詞もあるし、高まっているわけではない。ボディブローにも等しい接触、である。

ハヤカワ版(p256)
数十億の意識がローダンに集中し、すべてを見通している。それは感動的であると同時に、打ちのめされる体験だった。

原文:
  Milliarden Bewusstseine waren auf ihn konzentriert. Sie beobachteten ihn. Sie durchdrangen ihn. Es war erhebend und niederschmetternd zugleich.

試訳:
数十億の意識が彼に集中している。見つめられている。見透かされている。誇らしくもあると同時に打ちのめされる。

上げて、落とす、である。原文のリズムを考慮したらこんな感じに。
老人ホームへ慰問に訪れたら、じーちゃんばーちゃんに取り囲まれたの図。

ハヤカワ版(p257)
この力の集合体のすべてを一組織に結集し、確実に使命を遂行するために。

原文:
Es geht darum, diese Mächtigkeitsballung mit einer Organisation zu durchdringen, die ganz bestimmte Aufgaben zu erfüllen hat.

試訳:
ある特定の果たすべき使命をもつ組織で力の集合体を網羅もうらするのだ。

すでに何回か述べているが、 bestimmt は「特定の、さだめられた」。

Es geht darum, ~ は、バルディオク裁判におけるケモアウクの弁論で解説した、「~が問題だ」である。この場合の“問題”すなわち前の文章で語られた計画(Unternehmen)のこと。なので訳としては、前の文章をうけて、「それは、すなわち」くらいと取っておけばいいだろう。
(→ また850話・バルディオク裁判

ハヤカワ版(p261)
デスクの上を白紙だらけにしておくのが、かれの奇妙な癖だ。

原文:
Es ist eine Marotte von J. Chandler, seinen Schreibtisch mit diesem weißen, unschuldigen Papier zu bedecken.

試訳:
これはJ・チャンドラーの奇癖だった。デスクを、この白く無垢むくな紙で覆いかくすのは。

隠しているのは無垢(unschuldig)な白紙と正反対の罪(Schuld)の意識か――と、読者にストレートに想像させる材料を削る理由はなんだろうか。

〈それ〉の展開する一大事業、コスミック・ハンザの構想に目を輝かせるローダン。しかも、堂々と“裏がある”と言い切るあたり、さすが超知性体である(笑)
エデンIIで非常事態宣言が出ている以上、ある程度予想がつくことではあるが、ハンザの裏の(真の)目的とは、敵対する超知性体セト=アポフィスの侵攻に対するみかじめ団体なわけだ。
では、〈それ〉とアポりんの双方が、なぜ現在のような抗争にいたったか……ということで、この宇宙における生命の進化というものに話がいたる。

すでに772話「フリノスの幽霊」においてケロスカーが、力の集合体と超知性体について、モデルを用いて解説しているように、フォルツ宇宙における生命の進化は同心円構造――たまねぎの皮になぞらえて表現される。たまねぎの中心は宇宙のはじまり以前の絶対の虚無で、以下外側へ向かって順に、

  1. 始原の混沌
  2. 無機物の皮(惑星、恒星、銀河の誕生)
  3. 有機物の皮(原始大洋における有機物のスープあたりまでか)
  4. 原始生命の皮(動植物、知性や社会構造を持たない)
  5. 知性体の皮(狩猟文化から工業文明まで含む)
  6. 宇宙航行の皮(太陽系帝国はこの段階)
  7. 多銀河連合体の皮(公会議はこの段階)
  8. 超知性体の皮(力の集合体の形成)
  9. 物質の泉/沼の皮(超知性体+力の集合体→存在形態の変化)
  10. コスモクラートの皮(詳細不明)
  11. 以降不詳

ただし、Perrypedia等を参照してもらえばわかるが、これは現行のモデルとはかなり異なっている。

草案作家をヴルチェクが務めた時代には、一時〈人の皮〉という、原始生命体から多銀河連合体まで含めた、この宇宙に生きる生命を一括する表現が用いられたが、これもまた過去のものとなっている。

おそらくは超知性体の〈核〉ないし〈アンカー〉という概念が登場したあたりからだろうか。この宇宙に存在する何かを破壊することがその超知性体にとって致命的な作用をもたらすわけだが、たとえば〈それ〉のように肉体を持たぬ超知性体であっても、〈核〉がこの宇宙――“精神的中心”だったり超空間だったりもするが――にある以上、結局のところ“こちら側”に生きる存在である、という考え方が主流となっていく。
近年ではこれを Leben an sich (生命そのもの)……ここでは〈生命総体〉と仮訳しておくが、コスモクラートのような〈彼岸〉に在る超越者たちとの対蹠的存在として表現する。そのため、現在の進化モデルでは超知性体までを含めて〈知性ある生命体の皮〉と位置づけているのだ。

余談ついでにいっておくと、本書でもローダンがちらりと漏らす“たまねぎモデルの一番外の皮”のことを、最近では“〈法〉の地平線”と表現している。異なる時間線の話になるが、「他にも存在する究極の三謎」の内容なので、はたしていつか本編のネタに取りあげられるかもわからないことではあるのだが(笑)
閑話休題。

とにかく、進化の道程を、上記モデルのように歩んでいけるか否かには、一点、明確とは言いがたい基準が存在する。ポジティヴか、ネガティヴか、である。
アポりんの進化史(昔話)を読むと、彼女はその時点で入手しえた手段を活用して、ひたすら上昇志向を満たしていく。それがネガティヴとされるのは、この進化モデルが一種の“倫理コード”にしたがっているからなのだが……その“ものさし”が普遍的なものであるかは、現状ではわからないのだ。

ハヤカワ版(p262)
生きているあいだにセト=アポフィスからじかに任命されることは、断じてない。その必要もないから。つまり、協力者は生涯、自分がセト=アポフィスの奴隷だったと知らないことになる。

原文:
Es kommt vor, dass Seth-Apophis einen Helfer während seines gesamten Lebens überhaupt nicht einsetzt, weil keine Notwendigkeit dazu besteht. Ein solches Wesen stirbt, ohne jemals zu erfahren, dass es ein potentieller Sklave von Seth-Apophis war.

試訳:
協力者によっては、必要が生じなければ、生涯動員されないこともありうるのだ。そうした存在は、自分がセト=アポフィスの潜在的奴隷であったことを知ることもないまま終わる。

「必要性がないからと、ある奴隷(協力者)を生涯投入しないこともある」と、すぱっと直訳した方がわかりやすいかもしれない。というか、セト=アポフィスの奴隷とは、無自覚な“草”だから、“潜在的”という言葉を削除していなければ、絶対違和感があるはずなのだ、この訳文。
動詞 einsetzen にはたしかに「任命する、設定する」という意味もあるが、ローダンでは一般的に「(労働力、戦力を)投入する、動員する」である。手元の新現代独和辞典では後者の方が先にくるし、読む本が偏っているせいか、私的にはこれまで前者の例に遭遇したことがないなぁ。

ハヤカワ版(p263)
セト=アポフィスの運命に介入するのはかんたんなことではないが、

原文:
Es ist unwahrscheinlich, dass wir das Schicksal von Seth-Apophis günstig beeinflussen können,

試訳:
セト=アポフィスの運命を好転させることはほとんど不可能だが、

günstig 「好都合な、有利な」……というと、アポりんの運命をこっちの都合がいいようにいじくりまわすようだが(笑) 好天とかにも使用する形容詞なので、運命を良い方向へ導く影響をあたえる、くらいに取っておくべきだろう。
……まあ、実際不可能だったわけだが(爆)

ハヤカワ版:
かれらはセト=アポフィスとわたしの力の集合体のあいだにある、緩衝地帯のひとつなのだ。

原文:
Sie sind dabei, eine Pufferzone zwischen den Mächtigkeitsballungen von Seth-Apophis und der meinen aufzubauen.

試訳:
彼らはセト=アポフィスとわたしの力の球形体の狭間に緩衝地帯を築こうとしている。

dabei は「(空間的に)そばにいる」「(時間的に)その時に、同時に、~しようとしている」。
ハヤカワ版は前者として読んだようだが、そのために動詞 aufbauen 「建設する」を無視している。その後のハヤカワ版を読んだ方なら、この文章の意味するところが、アトランと《ソル》によるクラン帝国建設(1000話時点では未来の話)であることはおわかりだろう。

……そもそも、コスモクラートが緩衝地帯って、泉の彼岸をどう考えているのかな?

ハヤカワ版(p264)
〈ほとんどの存在形態が、これらの段階のどこかに位置している。

原文:
≫Die meisten Existenzformen bleiben irgendwo an dieser Stelle hängen≪,

試訳:
〈たいていの存在は、このあたりで行き詰まる〉

分離動詞 hängenbleiben 「ぶら下がる、ひっかかる、(ひっかかって)動かない」。
場所、を意味する Stelle も単数なので、あくまでこの位置(皮)で、なのだ。

ハヤカワ版(p266)
おお! やっとわかった。
なんということがわかってしまったのか。

原文:
  Mein Gott!, dachte Rhodan. Nun verstehe ich auch das.
Und wie ich es verstehe.

試訳:
神よ! いまのわたしは、それも・・・理解している。
いやというほど、理解している。

ここ、地の文だけど現在形なので、ローダンの思考がダダ漏れている感じか(笑)
この前にあたる“理解”は2万年の区切りについてで、この文章では“精神を肉体の絆から開放できることをよろこぶようになる”についての理解。どれほど(英:how)わたしは理解していることか、が直訳。
ここは今わかったというより、エデンIIへ跳躍する前にすでに自覚している。誤訳というか、気分の問題ではある。私家版は〈それ〉のセリフも「ようやく理解してくれたな」としているので、そっちに揃えたもの。

先読みしていると、ローダンのことを“敬虔なキリスト者(だった)”とする表現をたまに見かけるのだが、ハヤカワ版にはあまりそういうイメージがない。松谷先生もそのへんは意訳していたのか、そもそも当時はあまりそういう描写がなかったのか。実際わたしも、私家版では「なんということだ!」と訳してるし >Mein Gott
……それとも単にわたしの記憶力が悪いのかorz

ハヤカワ版(p269)
こちらに注意を向ける余裕がなさそうだ、と、ローダンが思いはじめたとき、ようやく“それ”の声が届いた。

原文:
Rhodan hatte den Eindruck, dass ES sich schwer auf ihn konzentrieren konnte, als es schließlich wieder in mentalen Kontakt zu ihm trat.

試訳:
ようやくメンタル・コンタクトが成立しても、ローダンの感触では、〈それ〉はこちらに集中するのが難しそうだった。

文章の主客が転倒している。まあ、文章をアタマから訳すこと自体は悪くないのだけど。
おいおい、話すときには人の目を見て話しなさい、である。

ハヤカワ版:
超越知性体はつねに力の集合体の安定と拡張に意を注いでいる。

原文:
Eine Superintelligenz wird stets bemüht sein, ihre Mächtigkeitsballung zu stabilisieren und auszubauen. Dazu bedarf es unvorstellbarer geistiger Anstrengungen.

試訳:
超知性体はつねに力の集合体を安定させ、拡大しようと努める。それには想像を絶する精神的労力が必要だ。

意を注いでる、で次の文章まで含めちゃったのかな。
消えた〈それ〉のセリフ、なんだか言い訳くさくて笑えるのだがw

ハヤカワ版:
ネガティヴな力が優勢になれば、力の集合体は崩壊する〉
〈セト=アポフィスの力の集合体がそうなりかかっていると?〉

原文:
Sobald negative Kräfte die Oberhand gewinnen, beginnt eine Mächtigkeitsballung in sich zusammenzustürzen.≪
≫Das ist das Schicksal, das Seth-Apophis droht?≪

試訳:
ネガティヴな力が優位を占めると、力の集合体は崩壊をはじめる」
「それがセト=アポフィスを脅かす運命なのですね?」

p263で話題にのぼった、アポりんの好転させるべき運命の話である。

ハヤカワ版(p270)
そのあとにとらえた心理性の背景音を思いだす。ジャルミタラという精神存在のことも、物質の窪地に行ったハルノから聞いた。

原文:
  Im nachhinein erinnerte er sich an ein mentales Hintergrundrauschen, das er damals empfangen hatte. Er hatte es einer psychischen Existenz zugeschrieben, die sich Jarmithara genannt hatte.

試訳:
いまにして思えば、当時とらえたメンタル背景音。あれはジャルミタラという精神存在によると考えたものだが。

Im nachhinein は「後からの、追加の」Wiktionary等参照すると「すべて終わった時点では」。
ジャルミタラの名前自体は、たしかにハルノから伝え聞いたものなのだろうが、この追加の作文だとメンタル背景音とジャルミタラがイコールでつながらない。

ハヤカワ版(p271)
また同時に、さらなる進化を遂げた超越知性体の内部には、泉の彼岸へ至る門が形成されるのだ〉

原文:
Die weiterentwickelten Superintelligenzen bilden in ihrer neuen Daseinsform gleichzeitig Tore auf die andere Seite.≪

試訳:
さらなる進化を遂げた超知性体は、その新たな存在形態の内に、同時に彼岸への門を形成するのだ〉

門が形成されるから、エネルギーが流入してくる、というのがこの段落の主旨。この時点では、解説はまだコスモクラートには到達していない。
なんだか、あちらでもこちらでも“(新たな)存在形態”という単語を削除しているけど、超知性体の新たな存在形態=物質の泉で、それはすでに超知性体ではない。

ハヤカワ版:
物質の泉の段階を過ぎると……やがて超越知性体はある存在というか、勢力に進化する。

原文:
Irgendwann endet auch der Zustand der Materiequelle – sie wird zu einem Wesen oder zu einer Macht, die wir unter dem Begriff >Kosmokraten< kennen.

試訳:
物質の泉の段階も、いつかは終わる――われわれが“コスモクラート”の概念で知る存在、あるいは力に変わるのだ。

前項の“すでに超知性体ではない”がわかっていないから、こういう訳文になる。主語 sie は、物質の泉である。
あと、力 Macht が複数集まるから勢力 Mächte なのだ。

ハヤカワ版(p273)
それこそ深遠な宇宙的意味

原文:
also einen tiefen kosmologischen Sinn

試訳:
つまり深遠な宇宙論的意味

深淵の騎士(Ritter der Tiefe)との語呂合わせと取った訳はおみごと(笑)

ハヤカワ版:
いずれは物質の泉となる力の集合体を形成するため、争いに参加することを要請されている。

原文:
und sie war aufgerufen, das Ihrige dazu beizutragen, um eine Mächtigkeitsballung zu erhalten, die einmal eine Materiequelle werden sollte.

試訳:
いつか物質の泉たるべき力の集合体の維持に、彼らなりの役目をはたすために召集されたのだ。

ここでいう「ある(ひとつの)力の集合体」とは〈それ〉のもの。
そもそも〈それ〉は語らないが、実は超知性体が力の集合体ごと物質の泉になる、という表現は、銀河系を含む局部銀河群壊滅を意味している……かもしれないのだ。そのあたりは、色々と論議の的であったのだが、2899話において、あるネガティヴ超知性体は勢力圏である銀河を呑み込んで物質の沼へと変じた。テラナーが超知性体へといたる道は遠く険しい(ぁ

ハヤカワ版(p274)
〈この知識を人類に伝えるのは困難だろう。たとえほかの者に話したとしても、まず理解されない。だから宇宙ハンザは、その背景に深い意味を持つものとして創設する必要がある。この組織に正しく息を吹きこめないかぎり、目的を達することはできない。

原文:
≫Du wirst schwer an diesem Wissen zu tragen haben≪, prophezeite ES. ≫Auch wenn du es mit anderen Menschen teilst, wird man dich nur in seltenen Fällen verstehen. Es liegt also an dir, die Kosmische Hanse so aufzubauen, dass sie einen tieferen Sinn bekommt. Als eine Organisation, der man kein Leben einhaucht, wird sie ihre Aufgabe kaum erfullen können.

試訳:
〈この知識は、きっと重荷になるだろう〉と、〈それ〉が予言する。〈たとえ誰かと分かち合っても、理解が得られるのはごく稀なケースだ。したがって、コスミック・ハンザがより深遠な意味を持つよう組織することは、ひとえにきみの双肩にかかっている。生命が吹きこまれていない組織には、その使命をはたすことなどできない。

これまでのネタは、基本的に、キミだけに宛てたものなんだよ、である。だから裏の目的の件については、キミにまかせたからね? である。
通商組織としてのガワだけつくっても、真相を知らないメンツではアポりんの攻撃に対処できないのだ。組織に魂を吹きこむ匠の技を要求されたローダン、その肝心の“キミ”がハヤカワ版からは削除されている。防衛失敗である(笑)

ハヤカワ版(p283)
 人間がカオス的宇宙に偶然うまれたものではないことを信じている。
 だれもが心の奥におさえきれない熱望を秘めていることを信じている。人類の宇宙的な運命を知りたいという熱望を。
 人類が崖っぷちから身を投げて、自分たちが荒廃させた大地に落下することはないと、信じている。
 人類がすばらしい宇宙の一角を占め、そこで調和に満ちて生きていくと信じている。

原文:
  Er glaubt nicht, dass der Mensch ein Produkt des Zufalls in einem chaotischen Kosmos ist.
Er glaubt, dass tief in jedem Menschen eine unstillbare Sehnsucht verankert ist, seine kosmische Bestimmung zu erfahren.
Er glaubt nicht, dass der Mensch über den Rand des Abgrunds hinaustaumeln und auf einer von ihm selbst verwüsteten Erde untergehen wird.
Er glaubt, dass der Mensch sich als Teil eines wunderbaren Universums begreifen und voller Harmonie darin leben kann.

試訳:
 人間が渾沌とした宇宙における偶然の産物だとは思わない。
 人間ひとりひとりの奥深く、おのが天命を知ることをもとめてやまない気持ちが根ざすと信じている。
 人類が奈落のふちを踏みはずし、地球もろとも自滅するとは思わない。
 人類が自らをこのすばらしき大宇宙の一部と知り、調和に満ちて生きていけると信じている。

原文の glaubt nicht / glaubt / glaubt nicht / glaubt のリズム、ガン無視である。まあ、百歩譲ってそれはいいとしよう。
動詞 untergehen は「(日が、天体が)沈む」「没落する、滅ぶ」で、人が落下する意味はない。Erde(英:earth)は女性名詞なので auf+III格は方向ではなく場所で、「自らが荒廃させた大地(地球)で(人類が)滅ぶ」。核のボタン押したりしないさー、だ。

また、最後の文章は、ペリー少年が宇宙への窓を見せられて「調和のとれた光の波の一部」と感じた、あれとまったく同じことである。一角を占め、とか、なに領土主義に陥ってるんだと言いたい。

最後の最後、決めの文章でこんな誤訳してどーするの。

ハヤカワ版(p285)
10 テラニア百科事典の記述

原文:
10. Encyclopaedia Terrania

試訳:
10 エンサイクロペディア・テラニア

これまで何度もシリーズに登場した百科事典の名称である。ぜひ踏襲していただきたい。

ここに、ペリー・ローダンの長かった旅路が終わり、新たな使命を携えてテラへと帰還する。
純粋なテラナーの消失とともに、その夢も失われたかに思われたローダンだが、人類のみならず、銀河系諸種族と一体となって超知性体への道を歩むという、新しいお題目によって息を吹きかえす。
〈それ〉によって開陳された、ポジティヴな生命が歩む秩序立った進化の道筋。そこを歩む、それこそが彼の新しい“天命”と思われた……。

まあ、この先のストーリーとか知っていると、なんとまあ純朴な、と呆れたくなる向きもあろう(笑) 実際、後にローダンが知る〈究極の謎〉のカラクリは、コスモクラートが低次の生命体である彼を、まさに“道具”として使い潰す気満々であったことを示している。
1100話「フロストルービン」を経由して、1200話「オルドバン」へと、セト=アポフィスとの戦いと並行して、究極の謎を解くためのヴィールスインペリウムの再建計画と〈ヴィシュナ〉の覚醒、“トリイクレ=9”を奪回するため出現した〈無限アルマダ〉、さらに〈エレメントの十戒〉の参戦と、目まぐるしく展開するフォルツ・ストーリーは、おそらく“その先”に何かをめざしていたのだと思う。その紡がれることがなかったのは、フォルツ・ファンとしては無念の一言に尽きる。

ただ、フォルツが残した1209話までの草案は、ローダンによるクロノフォシルの活性化と、アトランらによる〈深淵の地〉の下準備、その両方の端緒までが用意されているので、その行き着く先――1272話「騎士たちの叛逆」までの大筋は、おそらくすでに詰めてあったのだと思われる。
実際にできあがった形が、フォルツの構想をヴルチェクらが活かしきったか、独自のアイデアで上書きしたのかはこれもまた明らかではないが……そこでまた、すべてを失うローダンに、フォルツはどんな“第三の道”を歩ませるつもりであったのだろうか。

「最終回 人類の天命の物語」に続く。
最後は、本書のテーマとは何か。フォルツが訴えたかったのはどんなことか、考察してみたいと思う。ただし、ノリはいつものごやてんである。

1000話「テラナー」について (4)

1000話「テラナー」について、第4回である。

ウィリアム・フォルツことヴィルヘルム・カール・フォルツは1938年1月28日生まれで、ちょうどローダン(1936年生)やブル(1938年生)と同年代である。第二次大戦中、徴兵をうけた父は補給船の乗組員として出征しており、作中ローダンがカール叔父にあずけられたように、ウィリー少年も戦況の悪化にともなう疎開を経験している。故郷オッフェンバッハからわずか10数キロの避難先ハインハウゼンは、今日では人口密集地帯だが、当時はのどかな田舎であったらしい。

5歳の頃にはふつうに読書できたというから、作中でペリー少年がカール叔父にあきれられ、また1177話「ケース・マウンテンの少年」で母マリーに「本ばかり読んで!」と叱られていたのも、あるいはフォルツの実体験(※)からきているのかもしれない。
(※)話はちがうが、“グリーンホーン”ピンサーが色盲のせいで太陽系艦隊の審査をハネられたのは、フォルツ自身が徴兵時検診で色盲が発覚した体験からきているらしい。

さて、本シリーズの主人公ペリー・ローダンは、不時着していたアルコン船と偶然に遭遇し、宇宙への道を踏み出したものだと思っていたら、今回、実は文字通り〈それ〉と“旧友”であったことが判明する。

第3部 その男、ペリー・ローダン

ペリー・ローダン。西暦1936年6月8日、コネティカット州マンチェスター生まれ。Perrypediaによると、ファーストネームはペレグリヌス(Peregrinus)――「巡礼」ないし「放浪者」――の略称にあたるという。

父ジェイコブ・エドガー・ローダンは、第一次世界大戦末期にドイツのオーバーバイエルンから両親とともにアメリカに移り住んだ移民、19世紀に移住したティーボ家出身の母マリーも先祖をたどるとロートリンゲンに行き着くらしい。
ひとつ年下の妹デボラが生まれるも、1941年、母が車のハンドブレーキをかけ忘れたことが原因の事故で死亡している。ローダンの鼻梁の傷痕も、この時のもの。
※ローダン家については1177話「ケース・マウンテンの少年」と1178話「第四の英知」に詳しい。1948年、12歳のローダンが宇宙飛行士になるため空軍パイロットをめざす契機となる事件が再現されている。

第二次世界大戦末期には両親そろって出征し――マリーは看護婦だったと思うが、いまいち記憶がさだかでない――、9歳のペリー少年は農場を営む父の弟、カール叔父のもとへとあずけられた。
そして1945年5月、ドイツが降伏し、西部戦線が終結をむかえた頃……。

ハヤカワ版(p192)
「また嵐になりそうだから」

原文:
≫Es ist möglich, dass wir heute noch ein Gewitter bekommen.≪

試訳:
「どうやら、もうひと雨きそうだからな」

Gewitter には嵐の意味もあるが、一般的には「雷をともなう(強い)雨」であり、呑気にお茶へお呼ばれしているところを見ると、時間的には「夕立」になる。
嵐がきそうなら、遊んでないで帰ってこい、じゃないかと思うのだが。

ハヤカワ版:
「こんど叔母さんが町へ行くとき、図書館で探してくれるそうだ」要領をえない顔で少年を見る。「自分の家でも本を読んでいたのか?」

原文:
≫Sobald deine Tante in die Stadt fährt, wird sie versuchen, diese Bücher in einer Bibliothek zu bekommen.≪ Er sah den Jungen unsicher an. ≫Hast du zu Hause auch solche Lektüre bevorzugt?≪

試訳:
「今度、叔母さんが車で町に出たら、図書館から借りてきてくれるとさ」落ちつかなげに少年を見て、「おまえ、家でもあんな本ばかり読んでたのか?」

動詞が fährt なので、叔母さんは車で出かける。まあアメリカの農村はどこも広そうだから、当然のことは言わないかも。あと原文は「手に入れることを試みる」で、図書館にもない本かもしれない(笑)ので、探す、の方が適当かもしれない。

セリフの後半、本を読むこと自体はおかしくもなんともない。動詞 bevorzugen は「好む、贔屓する、優先権を与える」、Lektüre は「読書(する行為、する内容)」であり、どんな分野をペリー少年が要望したのかは、p193で書かれている。“宇宙旅行だの、異星世界だの、ばかけた本ばかり(all diesen Unsinn über Weltraumreisen und ferne Welten)”なのだ。SFファンは理解されない(ぁ

ハヤカワ版(p193)
これからもっとひどいことが起きるんだ」

原文:
Es werden noch schreckliche Dinge passieren, weit weg von hier.≪

試訳:
まだ、おそろしいことが起きるんだ、ここからずっと遠いところで」

夢で見た、遠い場所で起きる、ドイツ敗戦後のおそろしいできごと……。あえて言うと、広島・長崎への原爆投下のことを予言している。後の「大人はそんなことありえないといい」あたりへつながるのだと思われる。
たぶん、ホントにただの夢の話と判断したのだろう >ハヤカワ版

ハヤカワ版(p194)
母屋が稲光に浮かびあがると、

原文:
Drüben im Haus gingen die Lichter an,

試訳:
母屋では明かりが灯り、

Drüben は「あちら、向こう、海外」で、次の文章で“世界がふたつに分断”されたようだ、という前フリに近い。
im Haus なので、光が灯ったのは家の中。だいたい、カーテンごしに奥さんのシルエットが浮かびあがっているのだから、それは稲妻のためではないのだ。

あぷだくしょーん。
こうして、ペリー少年は人工惑星ワンダラーへと招かれる。コスモクラートの用意した細胞活性装置の、潜在的携行者として……。

ハヤカワ版(p198)
子供たちは植物や動物が自分に話しかけてくるのを知っている。

原文:
Die Kinder wüssten gerne, auf welche Weise eine Pflanze oder ein Tier zu ihnen sprechen kann,

試訳:
子供たちは草木や動物がどうやって自分に語りかけるか知りたがるが、

たぶん、本当に知りたいのはお返事する方法じゃないのかと思われる。語りかけてくるのは子供たちにとって当然のことなのだろう。

ハヤカワ版(p199)
もうひとりがどう反応するか、予想がつかない。

原文:
Es macht uns Sorgen, wie deine Artgenossen sich verhalten.

試訳:
心配なのだよ、きみの仲間たちがどう反応するのか、とね。

「きみの同類」deine Artgenossen をハヤカワ版はアトランのことと読んだ(“もうひとり”)ようだが、複数形なので大ハズレである。子供の不死者とかあらわれたら、人類がどんな対応するかは火を見るよりも明らかだよなあ、である。

ハヤカワ版:
「ぼくはいつ大人になるの?」少年がたずねた。
「いつ大人になるのか、とは?」“それ”は理解できずに問いかえした。

原文:
  ≫Wann werde ich erwachen?≪, erkundigte sich der Junge.
≫Erwachen?≪, echote ES verständnislos.

試訳:
「いつになったら目がさめるんですか?」少年がたずねた。
「目がさめる?」と、オウムがえしに〈それ〉。

「成長する(大人になる)」erwachsen と「目がさめる」erwachen の読み違え。

5章に入ってから連呼される“大人”が Erwachsenen(複数形)だし、〈それ〉のセリフ「いつかきみが大人になったら」も、この会話の後でカルフェシュが「いつか大人になるとは信じられない」と述懐するところも erwachsen なので、そのまま全部おなじ単語と読み流したのだろう。

しかし、2回も言っているのだし、この後で「だって、これは夢なんでしょう?(≫Dies ist doch ein Traum, nicht wahr?≪」と続くあたりで、もうちょい考えてほしい。〈それ〉やカルフェシュの言う“いつか”は eines Tages で、ペリー少年の“いつ”は質問なので Wann(英:When)と異なっている。
#テクマクマヤコンとかミラクルキャンディーはペリー少年とは方向性がちが(ry

ハヤカワ版(p200)
「これは夢だ。きみを自分の世界に帰す前に、しっかり記憶させる必要がある。だが、その前に、宇宙の窓を開けて見せてやろう」

原文:
≫Dies ist ein Traum, an den ich dir die Erinnerung nehmen muss, bevor ich dich zu deiner Welt zurückbringe. Doch bevor dies geschieht, werde ich das Fenster zum Kosmos für dich aufstoßen.≪

試訳:
「これは夢で、きみの世界へともどす前に、その記憶は取り去らねばならない。だが、そうする前に、きみのために宇宙への窓を開いてあげよう」

動詞 nehmen 「取る」には、取り去る、奪うの意味もある。
まあ、前段の「胸の炎がけっして消えないように」から、おぼえこませる方向へ訳がシフトしてしまったのだと思われる。にしても、真逆の意味に訳すのはどうだろうか。

ハヤカワ版(p201)
「説明しにくいんだけど……調和のとれた光の波。なにか不思議なものがあって、自分がその一部みたいに感じた」

原文:
≫Es ist schwer zu beschreiben≪, sagte er. ≫Eine … harmonische Woge aus Licht. Und das Eigenartige war, dass ich mich als Teil davon fühlte.≪

試訳:
「うまく言えないよ。あれは……光の波の、ハーモニーだった。それで、変なんだけど、ぼくもその一部だって、感じたんだ」

第2回冒頭で取りあげた部分である。私家版、“調和のとれた”は、いくら読書家でも9歳のコドモの使う言葉じゃないよなあとこんな感じにしたのだが。ソースは自分w
#「本ばかり読んで」は、小学生の頃よく言われたものだ(爆)

最後のセリフは、「そして、それは奇妙なことだった/自分がその(光の波の)一部だと感じたことは」で、dass 以降は主語 das とイコールである。Eigenartige は形容詞 eigenartig 「独特な、奇妙な」の名詞形。
続く〈それ〉のセリフも、変じゃない? と暗にたずねられたことへの「それでいい(Es ist alles in Ordnung)」、だいじょぶオールOKである。

そして、つかのまの出会いの記憶は失われ、ただ、胸の奥に消えない星々への憧憬だけが残った。

その道しるべにしたがい、US空軍、さらには宇宙軍の本番パイロットとなったローダンは、第6章「宇宙への道」のような経緯をたどって、ひとつのゴールへと到達する。
生命・知性の播種を司る七強者、ネガティヴな存在と戦う深淵の騎士団。宇宙に秩序をもたらすためにさまざまな組織を指導する、未知の高次存在コスモクラートの足跡を追って、〈物質の泉〉にまでたどりついた。コスモクラート自身との対面はかなわず、代わりに友アトランはロボット・ライレとともに〈泉〉の彼岸へと姿を消し……そこでローダンは、進むべき道を見失う。

これはある意味、当然のことなのだ。なぜなら、ローダンは、もう何ひとつ持っていないのだから。

銀河系に帰還した《バジス》とローダンを、人々は歓呼をもって迎え入れる。コスモクラートの使者と接触し、局部銀河群を襲った宇宙震の原因を突きとめこの未曾有の災害を停止させた、まさに英雄として遇した。
だが、人々は忘れている。銀河系に居場所をうしなったローダンが《ソル》で旅立ったのは、わずか5年前でしかないことを。

そもそも、アルコン宇宙船と接触したペリー・ローダン少佐が、故国を捨てて第三勢力を設立したのは、対立する三大ブロック(米露中)が保有する核の脅威から人類を解き放ち、統一された種族として星々の世界へと導くためだった。
その行為をして、アルコン人クレストにローダンを“最初のテラナー(Der erste Terraner)”と呼ばしめたのだ。

その目標は、太陽系帝国として結実する。とはいえ、ロボット摂政の管理下に置かれながらもなお強大なアルコン帝国や大小さまざまな星間勢力とのせめぎ合い、アンドロメダの島の王やマゼラン星雲の時間警察、20万年前からの因縁をひきずるグルエルフィンのカピン緒族との接触もあって、軍事国家としての道を歩まざるをえなかったことはローダンとしては苦渋の決断であっただろう。
その過程で、植民者たちが離反し、ダブリファ帝国・カルスアル同盟・中央銀河ユニオンの三大星間帝国をはじめとする多数の利害同盟が誕生し、テラと敵対する施策を取ったことも大きな挫折感をもたらしたはずだ。

ローダンの夢は後退を余儀なくされ、ただ「太陽系人類の福祉」のみがかろうじて残された。胸に抱く理想は、人々の無理解にさらされながらも、なお消えることなく、彼は職務を忠実に果たしつづける。
(→不可視の境界 -1-

しかし、その太陽系帝国すら、多銀河連合体〈公会議〉の侵攻によって滅び去り、テラは一旦、故郷銀河からはるか遠い宙域へと脱出したが、ここでもアフィリー禍のためローダンは母星を追われ、世代宇宙船《ソル》とともに“放浪者”となる。

銀河系をめざす長い旅路のうちに、《ソル》で生まれた世代はローダンらの郷愁を理解せぬ“ソラナー”となり、ついには彼らの“故郷”たる《ソル》をもって道を分かち、宇宙の深淵へと去っていく。
銀河系への帰還――120年の不在による、身の置きどころのなさを痛感した――後、あらためて探索に向かった地球にも、彼の人類はもう存在していなかった。200億の人々は〈完成のプラン〉の名のもとに〈それ〉に吸収されてしまったのだ。

さらに、友の多くが〈それ〉の一部となる道を選び(968話)、不死者ならぬ身の3人目の妻オラナ・セストレにも去られ(999話)、ローダンはただひとり取り残される。彼にはもう、何ひとつ残されていない。おのれ自身という、ただ一個の人間以外には。

なのに人々は彼を英雄と讃え、さらなる行動を期待する。
次に自分は何をすればいいのか。何をすべきなのか。何ができるのか。
懊悩する彼の前に、“旧友”からの使者があらわれる。

ハヤカワ版(p225)
ペリー・ローダンがその店にくるきっかけとなった内なる不安は、三杯めの合成ワインを飲みほすころには消えていた……とはいえ、周囲の人やものを見ると、かんたんに思いだしてしまうのだが。

原文:
Die innere Unruhe, die ihn überhaupt erst veranlasst hatte, hierher zu kommen, legte sich auch nicht nach dem dritten Glas Synthowein – aber sie ließ sich nun leichter auf Personen und Dinge in der unmittelbaren Umgebung projizieren.

試訳:
彼がそもそもこんなところへやってくる発端となった内なるざわめきは、合成ワイン三杯を干しても静まらなかった――だが、周囲の人々やものを観察するのがたやすくはなった。

ワイン3杯で片づく問題なんだねローダンの悩み(笑)
再帰動詞 legen sich で「衰える、弱まる、静まる」。で、nicht があるから、静まらないのである。
要は、酒が入るまで周囲のこともろくすっぽ目に映らないくらい、ぐるぐると考え込んでいたのだ。

ハヤカワ版(p226)
脱色処理をうけているらしく、肌は柔らかな黄色にきらめいていた。

原文:
Zweifellos hatte er eine Pigmentmanipulation durchführen lassen, denn seine Haut schimmerte in sattem Gelb.

試訳:
肌が濃い黄色にきらめいているのは、明らかに色素調整をほどこしたもの。

Pigmentmanipulation でグーグル検索したら、一番上にPerrypediaのMironの項がひっかかったのには失笑した。Pigmentは「顔料、染料」。そして形容詞 satt は、エルトルス人の挨拶「食って太れ」の“食って”の部分。満腹とか、色の場合は「濃い」である。
真っ黄色なので一目瞭然、という流れなのだが。肌の色を調整している→脱色という先入観コースまっしぐらで、色が薄くなっているから柔らかという、原文まるで無視なのはいかがなものか。

あと、ミロンくん、わりと普通の言葉遣いだが、彼は「思春期のアルコン人(ein halbwüchsiger Arkonide)」――青年と訳しているが、テラナー換算でティーンエイジャーと思われるので、もっとはすっぱな言い回しの方がらしかろう。「お気に召したかい?」みたいな。ハヤカワ版だと、挑発してないよね。
口座がないのは……親の許可がないと課金できないゲーマー少年みたいだな(笑)

ハヤカワ版(p227)
ふたりの女の片方がカウンターに近づいてきた。その顔の表情をみれば、現実感をすくなくとも半分はなくしていて、

原文:
Eine der beiden Frauen kam den Kontaktbalken entlang. Ihrem Gesichtsausdruck war deutlich zu entnehmen, dass sie sich mindestens für einen halben Realitätsentzug entschieden hatte

試訳:
女たちの片われがカウンター沿いに近寄ってきた。顔つきから、少なくとも半ば以上の現実逃避を決め込んでいるのがありありとみてとれた。

Eine der beiden Frauen kam den Kontaktbalken entlang. Ihrem Gesichtsausdruck war deutlich zu entnehmen, dass sie sich mindestens für einen halben Realitätsentzug entschieden hatte

ふたりの女性は、最初からカウンターにいる(p225)。

Entzug は「抜き去ること、取り消し」と手元の辞書にあるが、自分でそれを決め込んでいることから、おそらく「現実逃避」。“半分”とは、1日の半分、すなわち一晩となる勘定か。一夜のアバンチュール希望であるw

ハヤカワ版(p228)
まったく知らされていない理由により、進化から排除されてしまったのではないか、という不安だ。

原文:
die Furcht, von der Entwicklung ausgeschlossen worden zu sein, aus Gründen, die man ihm nicht einmal mitteilte.

試訳:
誰も教えてはくれない理由で展開から取り残されていくという不安。

Entwicklung は、例えば前回取りあげたp186の事例のように「進化」の意味もたしかにあるのだが、ローダンでは一般的に事態ストーリーの「展開」である。
置いてけぼりだから、ものごとの動きが止まって見えるのかな、という不安なのだ。

ハヤカワ版:
「あなた、いらいらするわね」

原文:
≫Du irritierst mich≪,

試訳:
「なんだかふしぎな人」

試訳は2004年私家版そのままである。
動詞 irritieren には「イライラする」の意味がたしかにあるが、他に「迷わす、惑わす」もある。この後で、「ツアー客じゃないしここの市民でもないし」とイロイロ品定めしていた部分が列挙されるので、そのどれにも当てはまらない、(判断を)迷わせる人、と考えて試行錯誤した結果、上記のようになった。超訳で申し訳ない。

でも、逆ナンする相手にいきなりこのセリフはないだろうw >ハヤカワ版
#いまだったら、「よくわからない人ね」だろうか。それでも超訳か。

ハヤカワ版(p229)
もっとあなたのことが知りたいわ。きょうは憂鬱な気分なの。

原文:
Ich würde dich gern näher kennen lernen. Ich mag melancholische Männer.

試訳:
もっとお近づきになりたいわ。カゲのある男性って好きよ。

いやもう、これ何がなんだか……(笑)
「男性」Männer を「マナー」とでも読み違えたのだろうか。せめて、憂鬱な男性の気分なの、だったらまだわかるんだけどねえ(肉食系かw

まあ、日本語の“陰のある”って、本来もうちょいポジティヴな意味合いなのだが。
……いま気づいた。憂い顔の男性って好きよ(はあと)にすればよかったのだ。

ハヤカワ版(p232)
流線形で、テラニアはじめテラの多くの都市の建設現場で見かける、ありふれたマークが描かれている。

原文:
eine Maschine, die Tropfenform besaß und neutrale Embleme trug, wie sie bei vielen Konstruktionen in Terrania und anderen Städten Terras üblich waren.

試訳:
涙滴状で、エンブレムにもこれといった特徴はない、テラニアはじめテラの諸都市でごくありふれた設計のマシンだ。

自家用グライダー(Privatgleiter)と言っているのだから、建設現場はないだろう。
正確には、テラニア他の都市で見かける多くの設計(型式)のグライダーで普通に見かけるエンブレム、ということになるのかな。ニ●サンとかト△タとかw
私家版訳はそのへんの修飾関係がごっちゃになってはいるのだが。

ハヤカワ版:
操縦するロボットが現地の交通管制にしたがっているということ。それだけを見ても、この誘拐は不可解だ。

原文:
ein sicheres Zeichen dafür, dass der robotische Pilot keine Schwierigkeiten mit den lokalen Gegebenheiten hatte. Alle diese Beobachtungen machten die Entführung um so rätselhafter.

試訳:
ロボットに土地勘がある、確かな証拠だ。観察すればするほど、この誘拐はいっそう謎めいてくる。

現地の交通管制にしたがわなかったら、白バイおっかけてきちゃうのでダメだろう(笑)
ローカルな諸事情についてロボット(パイロット)は問題点を持たない→よく知っている、という判断で上記試訳に。

ハヤカワ版(p233)
念のため、ロボットに声をかけるのはやめておいた。

原文:
aber er hütete sich, zu den Robotern zu sprechen.

試訳:
ロボットに話しかけるのはやめておいた。

誤訳ではない。ここではちゃんと訳してるんだなあ、と > hüten sich。
p188の事例ではgdgdだったのに。

ハヤカワ版:
「そのとおり」柔らかい声がレンタル・ルームのなかから聞こえた。「わたしだ」

原文:
≫Tatsächlich≪, klang eine sanfte Stimme aus der Kabine heraus, ≫er ist es.≪

試訳:
「これはこれは」やわらかな声がキャビンから響いた。「ほんとうに、彼ですね」

試訳はほぼ2004年私家版のまま。
いまだったら、「ほんとうに」(中略)「彼なのですね」、くらいだろうか。
ああ、あの貧弱な少年がほんとうにオトナになったのだなあ(慨嘆)。みたいな表現なのだと思われる。それこそ、よくもまあ、である。

ハヤカワ版だと、カルフェシュがテレパスみたいになっている。だいたい、なんでこの原文で「わたしだ」になるのかな? 彼とそれだよ? わたしじゃないよ?

ハヤカワ版(p235)
だが、そのことにともなう悲劇についてはわかっていない」

原文:
und ES verkennt nicht die damit verbundene Tragik.≪

試訳:
それにともなう悲劇についても理解している」

誤認していない、である。まあ、(キミは)わかっていない、のつもりかもしれないが、ちょっとそうは読めない。
私家版では、前の文章の“予見している”にオンブにダッコで、「そして、それに結びついた悲劇も」でごまかしていた。

ハヤカワ版(p240)
なにひとつうまくいってないって、だれもがあなたを非難してるんですぜ」

原文:
An allem kritisierst du herum, nichts kann man richtig machen.≪

試訳:
まわり全部にかみついて、まるで誰もまっとうな行動をとれないみたいに」

誰も何にもちゃんとできない、と皆を非難している、のはあなた(ローダン)である。
さっきまで、山積する問題をかたづけてほしいとローダンに懇願していたのだ。そんな問題児みたいな言いがかりはよくないだろう(笑)

ハヤカワ版(p241)
「信じられないほど巨大な罠に。思いきって脱出しようとしないかぎり、けっして脱出できない」

原文:
≫In einer unglaublichen und gigantischen Falle, aus der wir nur entrinnen können, wenn wir uns immer weiter aus ihr herauswagen.≪

試訳:
「信じられぬほど巨大な蟻地獄にな」

直訳すると、絶えず脱出を試みつづけた時だけ脱出できる罠。→絶えず脱出を試みつづけていないと呑み込まれてしまう罠→蟻地獄。という連想である >私家版

ハヤカワ版:
無間隔移動

原文:
einen distanzlosen Schritt

試訳:
無間歩

誤訳ではない。
ディスタンスレス・ステップ(Distanzloser Schritt)は、ファンダムでは長いこと“無限歩”で通用していた。
距離を伴わない移動手段、という意味ではハヤカワ版で何ら問題ないのだが、絶対移動(Absolute Bewegung)とかとは原語が異なるので、“歩”を使ってみたいとゆーそれだけの話ではある。

ライレなどコスモクラートのロボットの他に、ATLANシリーズの次元エレベーター〈プトール大陸〉の魔術師が使用したとされる。これはバルディオク・サイクルと同じ頃である。
850話でバルディオクたち強者が宇宙城と《平面》の間を移動した〈物質化(Materialisation)〉も同種の技術かと思われるが、詳細は不明。ただしケモアウクが無間歩を用いたのは〈目〉を持っていた時だけのようだし、別モノだろうか。

ハヤカワ版(p243)
「気にいらない事実でも、うまく折りあいをつけたほうがいいってこともあるよ」

原文:
≫Es kann sein, dass ich auf Dinge stoße, die dir nicht gefallen≪, gab er zu bedenken. ≫Manchmal ist es besser, so etwas mit sich selbst auszumachen.≪

試訳:
「望ましくないものをみつけちゃうかもしれないよ」と、指摘する。「こういう問題は、たいていは自分で解決した方がいいんだ」

ふたつの文章をひとつにしてしまっている。まあ、翻訳にはありがちなことかもしれないが。それにしても略しすぎではなかろうか。グッキーが行動する部分がすっぽり抜け落ちている。

ハヤカワ版:
「頭では理解してるけど、それは間違いだって感じてるのさ。

原文:
Du hast das auch erkannt, legst es aber falsch aus.

試訳:
そこまではあなたも気づいたけど、解釈をまちがえてるんだ。

不死者であることを間違い(falsch)だと感じているわけではない。不死者である自分は、そうではない普通の人々と交わることはできない、と考えていて、グッキーはそれが逆だと言っている。ローダンが苦痛に感じているのは、下々(笑)への道ではなく、上位存在(の一部)となる道が閉ざされている(責任感的な意味で)ことなのだ。

ハヤカワ版(p244)
「ぼくらの前からいなくなるんだね」イルトがローダンに聞こえないよう、小声でつぶやいた。「むずかしい決断が待ってると思うよ。それがどう転ぶかは、あんたがいつかもどってくるかどうかにかかってる」

原文:
≫Du wirst uns jetzt verlassen≪, sagte der Ilt so leise, dass Rhodan ihn nicht hören konnte. ≫Eine schwere Entscheidung steht dir bevor. Davon, wie sie ausfällt, hängt ab, ob du jemals wieder zu uns zurückkommst.≪

試訳:
「いくんだね」グッキーの声は、ローダンには聞こえないほどかすかなもの。「重大な決断が、あなたを待ってる。帰ってくるもこないも、その決断しだいなんだ」

ob は「~するかどうか」。「それに(どう決断するかに)かかっている/あなたがいつかぼくらのもとへもどってくるかどうか」である。
重大な決断とは、〈それ〉を構成する意識内容のひとつになるか否か。前者を選べば、当然、ローダンは帰ってこないのだ。

こうして不死者にしてなお人間であるペリー・ローダンは、数々の疑問を抱いたまま、エデンIIへと跳躍する。

彼はアルコン技術を元手に、相争う三大ブロックを牽制しつつ第三勢力を、ひいては太陽系帝国を築きあげ、統一された人類を宇宙へと導いた。
〈それ〉の配置した“銀河の謎”を解き、人工惑星ワンダラーを発見し、細胞シャワーの使用許可を得て相対的不死者となった。これはやがて――約束された――細胞活性装置へと引き継がれる。
数々の敵を撃退し、あまたの銀河を訪れ、幾多の謎に直面し、そのいくつかは解明され、この宇宙を形づくる秘密についての知見を得るも、それは壮大な秩序維持機構の片鱗にしかすぎなかった。
振りかえれば、もう彼には自分という個しか残されてはいなかった。

どれだけ長い時間を生き、どれだけ多くの偉業を成し遂げようとも、ローダン自身は一個の人間でしかない。第7章のタイトル「その男(Der Mann)」には、そんな含みもあるのだと思う。
だってまだあなたは人を愛することができるんだから――というグッキーの言葉は、けだし名言である。

そして、次章〈それ〉との対話の後に訪れる新時代とは、すなわち、人間ペリー・ローダンの新たなスタートでもあるのだ。

「第4部 フォルツ宇宙の進化モデル(仮)」へと続く。
鬱屈した日々を後にしてワンダラーを訪れたペリー・ローダン。これを迎えた超知性体〈それ〉が開陳した秘密とは。

今回がんばった分、次回は未定(笑) でも、ここさえ過ぎれば、最終回の分はもうほぼできあがってるので……。

1000話「テラナー」について (3)

1000話「テラナー」について、3回目である。

いきなりローダンと関係ない話でアレだが、わたしが高校生の頃、エルリックの翻訳目当てで買い始めた漫画誌WINGS(現在はウイングス)で、当時から唯一掲載が続いている大河シリーズ〈パーム〉。現在最終章『TASK』が絶賛連載中だが、それはさておいて(笑)
シリーズ中期の名作『星の歴史』中での主人公のセリフを以下に引用する。

「それは道具だ」
「見て聞いて考えて作れて移動できる便利な……」
「好きなところへ行って好きなことをやるがいい」

ムショ仲間の青年の抱える将来への不安。夢を抱いている自分は、ちっぽけで前科者で黒人ブラックで……という述懐を受けてのこのセリフ、超前向きポジティヴである。
人のからだを「それは道具だ」と言い切っているものの、表面的なところに囚われずに、内に宿した何かを理解して発された言葉であるから、実に暖かい響きだ。

一方――と、ここでいきなり話を元に戻すと――1000話「テラナー」冒頭、W・マクドゥガルの作品からの引用文は、“道具”という言葉をすこぶるネガティヴに用いている。

第2部 抗う歯車たちの肖像

「若者たちは人間が文字通り道具にすぎないと信ずることを学ぶ――その用途にかかわる、いかなる影響力もない、と。高みをめざすあらゆる希求を破壊し、すべての努力を損なうこの宿命論的ドグマに対し、わたしはおのが小さな領分において執筆をはじめて以来、一貫して抗いつづけてきた」

上記は2004年の私家版訳を少し手直ししたもの。最終回でも俎上に載せるので、原文等はその際に付記する。
ともあれ、ここで言う“人間は道具にすぎない”という表現には、人は運命の定めるところに従うしかない、という諦念のようなものを感じる。
それは、前回たどったローダンの道筋において、より高次段階の知性や機構の存在を知ったローダンが、絶えず抱いてきた疑念でもあっただろう。自分は、人類は……〈それ〉やコスモクラートの定めた道筋をなぞるだけの“道具”ではないのか――と。

そして、本書の前半、活性装置の適合者をめぐる永いながい探索においては、無数の生命が文字通り“道具”として使い潰されていたはずだ。その中では比較的“幸運”に恵まれたともいえる、2組の探索者たちの物語が中心となる。
もっともその前に、やはりコスモクラートの“道具”として、ひとりのソルゴル人がワンダラー……アムブルを訪れる。

ハヤカワ版(p140)
ジャングルを横断して村はずれまでたどりつき、そこをこえれば食料とかくれ場が見つかると期待した。

原文:
Sein Weg führt quer durch den Dschungel auf eine Grenze zu, hinter der er sich Nahrung und Sicherheit erhofft.

試訳:
ジャングルをつっきって国境をめざす。そのむこうになら、食料と安全があるはずだった。

1000話が刊行された1980年は、長期にわたったベトナム戦争が終結(75年)し、今度はそのベトナムの支援を受けたヘン・サムリン政権によってカンボジアのポル・ポト派が首都を追われ(79年)、凄惨な内戦が展開されていたころである。
村の中なら安全なんてことはない。その向こうに安全があるはずの目標(境界)で、ジャングルを横断して村々の焼け跡やら戦闘やらやりすごした先にあるので、どう考えても「国境」。

ハヤカワ版(p142)
きらめく青大理石を思わせるふたつの目は、

原文:
Die Augen waren zwei strahlende Murmeln von tiefem Blau,

試訳:
両目は輝く濃紺のビー玉のようで、

「(遊戯用の)ビー玉」 Murmel と「大理石」 Marmor の読み違え。

昔見たカルフェシュのイラストは、出目金っつーかなんつーか……ペリペやぶっせんも探してみたけど、みつからなかった。
大理石の玉は、父の実家の近くに秋芳洞とかあるので、土産物として売られているソフトボールよりちょい大きめの磨き上げたやつとか連想して、わかりやすくはあったのだけど(笑)

ハヤカワ版:
カルフェシュにとっては、物質の泉の彼岸からこちら側に“派遣”されるのは、これが二度目だった。前回は二個の無調整の細胞活性装置をとどけにきた。

原文:
Carfesch war sozusagen die zweite “Sendung”, die von jenseits der Materiequellen hier ankam. Die erste hatte aus zwei neutralisierten Zellaktivatoren bestanden,

試訳:
カルフェシュは、物質の泉の彼岸からここへと到着した、いわば二回目の“送付物”だった。初回の内容は未調整の細胞活性装置二基で、

荷物のやりとりは2回目だが、カルフェシュは初物。
Die erste (Sendung) は活性装置、とあって、配達者は不明。小包だけ届いたのかもしれない。

ハヤカワ版(p143)
それをかこんで高さ千メートルにもなる、見た目は華奢な塔が何本もそびえている。

原文:
an dessen Rand ein über eintausend Meter hoher, zerbrechlich wirkender Turm stand.

試訳:
そのはずれに千メートルを超える、いまにも折れそうな高塔がそびえていた。

ein (…) Turm 単数なので1本。

というか、考えてほしい。アンブル=人工惑星ワンダラーである。アンブル=カルブシュは円盤世界中央の機械都市……そこにそびえるのは、ヒュジオトロンの塔である。

ハヤカワ版:
奇妙だ、と、カルフェシュは思った。この精神的統一体がどういうかたちでアンブルに存在しているのか、ティリクにたずねてみようと考えたことは一度もないが。

原文:
Seltsam, überlegte Carfesch, ich bin nie auf den Gedanken gekommen, Tiryk danach zu fragen, auf welche Weise sich das Leben dieser geistigen Einheit auf Ambur manifestieren kann.

試訳:
おかしなものですね、とカルフェシュは考えた。この精神統合体がどんな形でアムブルにあらわれるのか、ティリクにたずねることに思いいたらなかったとは。

いたるところに知性ある生命(単数)の存在が感じられる、のが奇妙じゃない。ティリクに「〈それ〉ってどんなんでっかー?」と質問するという、ある意味、事前情報として当然のことを自分が忘れていたことが、おかしい……といってごまかしているのだ(笑)
#私家版訳のカルフェシュはつねに敬語でしゃべる。あしからず。

ハヤカワ版(p144)
「あなたのお世話をいたします、使者。好きな名前をつけてください」
(中略)
「おまえのことは随伴者と呼ぶ」
(中略)
「“それ”のところにご案内します」

原文:
≫Ich stehe zu deiner Verfügung, Bote. Du kannst mir einen Namen geben.≪
(…)
≫Ich werde dich Begleiter nennen.≪
(…)
≫Begleite mich zu ES.≪

試訳:
「ご用命を承ります、使者よ。わたしの呼び名についてはご随意に」
(中略)
「きみを《同行者》と呼ぶことにします」」
(中略)
「〈それ〉のところまでご同行願います」

実は気に入らなくて皮肉言ってるんじゃないかと思うくらい、同根の名詞/動詞なんである(笑) できれば活かしたい。
まあ、ご同行願いますだと容疑者みたいなので(笑)、案内人/ご案内します、でもよかったよーな。

以下はヨタ話:恋愛シミュレーションのキャラ命名シーン、「好きな名前をつけてね(はあと)」とゆーのを連想した(ぁ
ゲーム開始直後だとお互いの好感度は最低なので、こんな感じに:
「おまえのことは金魚のフンと呼ぶ」
「〈それ〉のとこまで金魚のフンになりやがれこの野郎」

ハヤカワ版(p145)
“それ”の形態は、その存在のあり方から考えて、もっともむだのないものだった。

原文:
ES umschloss in knapper Form noch am ehesten das, was man hinter dieser Existenzform vermuten konnte.

試訳:
〈それ〉という名は、その存在形態について人の想像するところを、もっとも端的な形で表現しているのだ。

直訳すると――〈それ〉(という名称)には、世の人がその存在形態について想像できることが、もっとも短く、かつ最も簡単な形で、含有されているのだ、かな。なんせたった2文字だけである。日本語でもドイツ語でも(笑)

ハヤカワ版:
「出入りするだけです」曖昧な答えが返ってきた。「それも、いつもいるわけではありません」

原文:
≫Sie kommen und gehen≪, lautete die wenig informative Antwort. ≫Außerdem müssen Gebäude nicht immer bewohnt sein.≪

試訳:
「訪れては、去っていきます」と、いまひとつ答えにならない返答。「付け加えますと、建物につねに居住者がいる必要もございません」

誤訳とは言えないが、p152でこの発言がもう1回繰り返されることを考慮すると、こうしておいた方が理解しやすい。そこではカルフェシュは、〈わたしは前者(einer von der ersten Sorte)ですね〉と理解している。“訪れて”、さしあたり逗留するのだ、と。

そして、精神集合体に吸収されて“つねに居住者がいる必要も”なくなり、やがて現在時のパートで“去って”いくのだ。

ハヤカワ版(p148)
「それでおまえが派遣されたのか?」

原文:
≫Sie sollen also eingesetzt werden?≪

試訳:
「つまり、あれを使う予定だと?」

あれ(複数)が投入されるべきだということか、である。あれとは活性装置を指す。
使い道が確定したのか、という問いかけなわけだ。

さらに、本書において、2人称はすべて duzen 「du呼び」なのだ。したがってこの主語(sie)がカルフェシュを指すことはありえない。

ハヤカワ版(p149)
自分の勢力圏内に住む種族を指導し監督することはできるだろうが……それは種族全体を対象としたものだ。その一員が、わたしを助ける?」

原文:
Gewiss, ich weiß, dass ich die Völker des von mir behüteten Sektors beaufsichtigen und lenken kann – und dies ganz in meinem Sinne. Aber Individuen?≪

試訳:
確かに、庇護下にある宙域の種族を監督し、導くことは可能だ――意のままにな。だが、個人だと?」

心理歴史学をもってしても、集団は扱えても個人の行動までは予測できないのだぞ、である(口虚)

過去年表において、カルフェシュの来訪は180万年前頃と想定されている。騎士アルマダンの銀河系防衛はまだずっと先のことなので、深淵の騎士という個人がなしうる業績を知らない、と考えることもできる。
まあ、200万年前に騎士ペルマノチが火星でアインディを撃退しているとか、〈それ〉の誕生にからむ時間ループとかイロイロ考慮すると、このへんの会話が超うさんくさく見えてくるので、本書以降のネタは置いておこう(笑)

ハヤカワ版(p152)
もしかするとそのふたりは、コスモクラートが絶望的な戦いのなかで夢に見ただけの、架空の存在かもしれないのだ。コスモクラートが戦っている相手のことはほとんど知らないが。

原文:
  Vielleicht waren diese Wesen nur eine Fiktion, ein absurder Traum der Kosmokraten in ihrem offenbar verzweifelten Kampf um Dinge, von denen Carfesch zum größten Teil nicht einmal etwas ahnte.

試訳:
あるいはその存在は虚構にすぎないかもしれない。カルフェシュには大半が理解もおよばぬものをめぐる絶望的な闘いの中で生まれた、コスモクラートの不条理な夢なのかも。

わからないのは、相手ではなく、戦いの争点である。Kampf um Dinge で「モノをめぐっての戦い」で、そのモノについて、カルフェシュは予想もつかない、ということ。

現時点では、コスモクラートと対等な敵の存在すら描写されていないわけで。無限アルマダ編終盤に〈混沌の勢力〉側の尖兵が登場し、1200話で究極の謎のタネ明かしがされるまで、いろいろ不明瞭なままである。

なんとゆーか、運び屋兼メッセンジャーの仕事が終わったら、帰還(どこだか知らんが)する手段もなく、〈それ〉にパックンされるしかないというのは、あまりにひどすぎないかい(笑)
ともあれ、こうしてカルフェシュという見届け人を得た、永遠の時をかけた探索に、無数の人材が送り出される。目指すのは、いつ・どこにいるとも知れない活性装置の潜在的保持者の固有振動を探知すること。どう見ても、ハズレの方が激高確率である。

それらの中の1チームが、鳥類から進化したと思われるガルガマン人、ベリッツとチャルタである。彼らがどのような経緯でこの探索船に乗り込んだのかは不明だが、すでに長期間にわたる単調な作業のくりかえしに倦み、精神的に病みかけている。

ハヤカワ版(p155)
(前略)こんな仕事はほうりだして、自分の種族のためになることをしてはいけないのか?」
「それは敵前逃亡だ!」
「どこに敵がいる? 味方の軍勢は? 敵も指揮官も見たことがない」

原文:
(…) Warum, so frage ich dich, verschwinden wir nicht von hier und machen uns auf die Suche nach unserem Volk?≪
≫Das wäre Desertion!≪
≫Desertion wovon? Was ist das für eine Armee, der wir angehören? Wir bekommen weder sie noch ihren Anführer je zu sehen.≪

試訳:
(前略)なぜ、とそう言いたいのさ俺は。なぜここからおさらばして同胞を捜す旅に出ないのか、とね」
「脱走じゃないか!」
「脱走って、どこからのさ? 俺たちが所属する軍隊? そんなの見たこともないぜ、指揮官殿だっていやしない」

Desertion はそのまま「脱走、逃亡、職場放棄」。なにか(立場とか)を捨て去る行為のこと。“敵前”がくっついたのは軍隊(Armee)という単語が出たせいかもしれないが、2人がおこなっているのは調査であって、そこに“敵”の存在は前提ではない。
というか、チャルタのセリフ、「俺たち軍隊所属だったっけ?」くらいに訳してもいいくらいだ。

しかし、種族の所在地とか知ってたら、さっさと帰っちゃうかもしれないにしても、情報をシャットアウトして単身赴任(2人だが)とか、だいぶん外道なお話である。

ハヤカワ版(p159)
 捜索の最後でこの洞察にいたるとは! そんな想いがベリッツの頭をよぎった。
 自分にとって、捜索の旅はもう終わりだ……だが、同僚にとってはそうではない。

原文:
  Erst am Ende der Suche stand die Einsicht!, durchfuhr es Berritz.
  Und die Suche war nur für ihn zu Ende – nicht aber für seinen Partner.

試訳:
 探索が終わるとき、はじめてこの洞察にいたるのだ! そんな思考がベリッツをよぎった。
 そして、探索は彼にとってのみ終わるのであり――同僚にとっては、そうではないのだった。

たぶん、このヴィジョン(という語はハヤカワ版では消えているが)は、〈それ〉からのある種の報酬なのだろう。任を離れる者に、絶望と徒労だけでなく、自分はすごいこと(etwas Großartiges)をやってのけたんだ――という充足感を与える。別に、ベリッツに第三の目が開いたとかそーゆーのではないのだ。
そして、それが見えていないチャルタは、船を奪取して逃げるつもりではあるものの、捜索が終わることはない……という未来がベリッツには予見できたわけである。

ハヤカワ版(p160)
無理やり重層前線が形成され、そこから異宇宙のエネルギーが流れこんでいるのです」
(中略)
「重層ゾーン内では戦闘が起きています」

原文:
Es ist eine gewaltige Überlappungsfront entstanden, durch die Energien aus einem anderen Universum in das unsere eindringen.≪
(…)
≫Im Gebiet der Überlappungszone finden Kämpfe statt.

試訳:
巨大な重積前線が生じて、異宇宙からのエネルギーが流入しています」
(中略)
「重積ゾーンのエリア内で戦闘が起きています」

目くじらを立てるような誤訳ではない。最近のハヤカワ版では、重層 Überladung というよく似た単語が、主としてバリア関連で頻出しているので、ここでもそう訳したというだけのこと。
ただし、後でわかるように、これはアトランティス滅亡時点のドルーフ侵攻の描写である。バリアを複数枚重ねるのと、異時間平面が重なり合うのとは、似て非なるものなのだ。

ハヤカワ版(p162)
 チャルタはよろめきながら探知機に近づき、崩れるようにシートに腰をおろした。

原文:
  Charruta taumelte auf die Kontrollen zu und stützte sich schwer darauf.

試訳:
 チャルタはよろよろとコンソールにもたれかかった。

この時点ではシートには腰をおろしていない。だから、続く描写に「ふたたびぐったりとシートに沈み込む」とか本来ない描写を創作する必要が出てくる。「後ろざまにひっくりかえるようにシートに腰を沈めた。」なのに。

ハヤカワ版(p163)
よくもまあ、こんなに長いこと……」

原文:
Ausgerechnet wir haben es nach so langer …≪

試訳:
よりによってわれわれが、これほど長いことかかって……」

とぎれた言葉は、おそらく Zeit gefunden か geschafft. で、こーんな長い時間の後に、やりとげ(てしまっ)た、くらいだろうか。
Ausgerechnet 「よりによって、こともあろうに」が用いられているのは、この偉大な発見をなしとげたのが、探索から逃げようとした自分と、それを妨害した船のコンビであるから。あるいは、またベリッツがいないことを忘れているのかもしれない。

ハヤカワ版(p166)
「あなたに、細胞をつねに再生するマイクロ活性装置をとどけにきました」告知の第一節を読みあげる。カルフェシュは注意深く耳をかたむけた。「あなたの個体振動を細胞活性装置に転送します」
(中略)
「わたしの製造者は直接介入することができません。それゆえ、製造者の意図にそって活動できる機会を、あなたにあたえるのです」

原文:
≫Ich bin beauftragt worden, dir zum Zweck einer ständigen Zellkernregeneration einen Mikroaktivator zu überreichen.≪ Carfesch hörte aufmerksam zu, bis das Schiff den ersten Teil der Botschaft mit den Worten beendete: ≫Ich werde deine individuellen Schwingungen auf den Zellaktivator übertragen.≪
(…)
≫Mein Erbauer ist nicht befugt, direkt einzugreifen. Er gibt dir damit die Gelegenheit, in seinem Sinn zu handeln.≪

試訳:
〈わたしがうけた命令は、細胞核の常時再生のためあなたにマイクロ活性装置をわたすこと〉船がメッセージの最初のパートを次のことばでしめくくるまで、カルフェシュは注意深く耳をかたむけた。〈脳波その他を活性装置に記憶させる〉
(中略)
〈わたしの製作者には、直接介入する権限がない。かれの意を汲んで行動する機会をあなたにさずけるわけなのだ〉

訳としては正しいんだけど。手もとにあるテキスト(ハヤカワ版30巻『アトランティス要塞』)と照らしあわせるとえらくチガウのだ(爆)
つーか、このくらい、ちゃんと揃えようよ……。

かくして、第1の適合者の発見をもって、ガルガマン人の捜索の旅は終わる。
チャルタの最後の思考――候補者が活性装置を手にする前に死ねば、勝利の瞬間は敗北に転じる――は、そうなることを危惧するものか、あるいはそうなってしまえという暗い願望であったろうか。
逆境に置かれた人間が運命に抗い、夢破れて、それでも諦めきれない……というのは、フォルツの作品でしばしば見られるモチーフであるが、チャルタの生涯はどうであったろうか。“道具”にすぎない彼は、最後にその運命に一矢報いることができたのだろうか。

そして、なおも続く探索において、重要な役割を担うことになるのは、ドルイス人(※)の巨大な探索船《コルコオル=アアル》乗員唯一の生存者。「本来なら、格納庫責任者あたりがせいぜい」といわれたジンカー・ロオクである。

(※)単数はDruisで、M-87の基地のエンジニアと同じ綴りだが、複数形がそれぞれDruisen/Druisとなり、別の種族であることがわかる。まあ、ドルイサントにはしっぽも鉤爪もないか(笑)

ハヤカワ版(p171)
ファアデンワルン人

原語:
Faadenwarner

試訳:
ファアデンワルナー

元々は愛玩動物である。~人をつけて呼ぶとも思えない。
まして、ジンカー・ロオクはペットの蜂起時点の戦いの生存者である。知性があるから人間扱いとか、想像できないので。

ハヤカワ版:
ロオクはのろのろと除染シャワー室に向かい、最新の注意をはらってすべての保安装置をはずした。シャワー室はロオクが船内で制御できる唯一の場所だった。放射能にもまだ汚染されておらず、動きにくい防護服を脱ぐことができる。

原文:
Rook tappte schwerfällig zur Strahlendusche und schleuste sich unter sorgfältiger Beachtung aller Sicherheitsvorschriften ein. Das Duscheninnere war der einzige Platz in dem von Rook noch kontrollierten Teil des Schiffes, der noch nicht strahlenverseucht war und in dem der Kommandant den unbequemen Schutzanzug ablegen konnte.

試訳:
ロオクは足取りも重く放射能洗浄シャワーまで歩き、あらゆる服務規程を注意深く守ってハッチをくぐった。シャワールームはまだロオクのコントロール下にある区画で唯一、放射能に汚染されておらず、不快な防護服を脱ぐことのできる場所だった。

Strahlendusche。2004年に1000話を訳した際、最も苦慮した語のひとつがこれだった。
単語の字面だけ見れば「放射線シャワー」だが、実際にロークが浴びているのは、しめった蒸気(feuchte Dämpfe)……スチームである(だから温まる)。スーツを洗浄のため放り込むのも回転槽(Wirbelnanlage)で、ぶっちゃけ洗濯機にしか見えない。悩んだあげくに上記「放射能洗浄シャワー」としたが、全然納得はいっていなかった。

除染(Dekontamination)という言葉が日本でこれだけ市民権を得たのは、やはり東日本大震災以降のことだろう。欧米ではどうだろうか。チェルノブイリの事故が1986年であるから、1980年の時点ではまだそこまで頻繁に使用されることはなかったのではないか。
そして、放射能汚染についても、まだフォルツは認識が甘かったのかもしれない。洗えば落ちる、というものではないのである。防護服脱ぐ前になんかあるだろ、をひ。

まあ、ここが取りあげられたのは、「船内で制御できる唯一の場所」が誤訳だからなのだが。いろいろ単語を省略しすぎるから、こういうことになるのだ。
あと、それ以前に、なんで司令室にそんな設備があるんだという指摘もしておきたいw >フォルツ

ハヤカワ版(p174)
司令室にあらたに設置した防御装置を突破したにちがいない。

原文:
und sind in einer neukonstruierten Schutzvorrichtung in die Zentrale eingedrungen.

試訳:
新型の防護装備で司令室へ突入したのだ。

in die Zentrale はIV格なので、場所ではなく、進行方向を指す。
新設計の防御装備を身につけて(あるいは前面に押したてて)、司令室へ、突入した、のである。

ハヤカワ版(p176)
 報告する情報自体はわずかだが、

原文:
  Obwohl seine Informationen, die mit der Suche zusammenhingen, mehr als spärlich waren,

試訳:
 ロオクの持つ探索にかかわる情報はおそまつきわまりないが、

いま「艦長」でも、もともと下っぱなので、詳しいことは知らない。それでも、状況が厳しいことくらいは理解できる、ということだ。

ハヤカワ版(p177)
船体の表層部にある司令室からは三層階下にあるが、

原文:
genau drei Decks tiefer als die Zentrale an der äußersten Schiffshülle.

試訳:
司令室から三層階下の最外殻部にあるが、

カンマが打ってないのでわかりづらいかもしれないが、後述されているようにシャッターを開けると星空が見えるということは、観測室は船殻直下に位置するのだ。

ハヤカワ版(p178)
使えるものはなんでも使って、司令室から観測室までの距離を克服するつもりだ。自分自身の生命を犠牲にすることも厭わない。

原文:
Er fragte sich, ob er nicht unter Einsatz aller Mittel die Strecke von der Zentrale bis zum Bordobservatorium einmal bewältigen konnte. Diese Strategie kalkulierte das Opfer des eigenen Lebens ein.

試訳:
残る手段を全部つぎこめば、司令室から観測室までの行程を一度だけ・・・・ならこなせるのではないだろうか。自分の生命が失われることも計算のうえの戦略だ。

往路はあっても復路はない。ハヤカワ版、べつに何もまちがってはいないのだが。個人的に、原文でイタリックの einmal を活かしたいなあ、と思っただけだ。
あと、装備を並べつつ、いけるかな、生き延びること考えなきゃ、たどりつくだけはできるかな……と自問しているロオクはよりいっそう痛ましく見えるので。

ハヤカワ版(p181)
壁の裏にかくされた筋交いを乗りこえ、キャビンの床におりたった。

原文:
und kletterte über verbogene Verstrebungen und zerfetzte Wände auf den Boden des Raumes,

試訳:
ゆがんだ柱と裂けた壁とを足がかりに床へと這いおりた。

「歪んだ」 verbogen と、「隠された」 verborgen の読み違え。
まあ、位置的に元々は壁の裏にあった支柱=筋交いではあると思われる。

ハヤカワ版(p182)
マシン室を横切ると、その奥に非常用パイプ網のハッチのひとつがあった。
(中略)
マシン室をはなれ、船内に十二あるラボのひとつでパイプから外に出ると、ロオクはすこしほっとした。

原文:
Hinter dem Maschinenraum, den Rook nun durchquerte, lag eine von unzähligen Einstiegluken in das Notröhrensystem.
(…)
Rook war schon fast ein bisschen sorglos, als er den Maschinenraum verließ und das erste von insgesamt zwölf Schiffslabors betrat.

試訳:
横断中のマシン室を抜ければ、非常用パイプ網のハッチのひとつがある。
(中略)
マシン室を出て、全部で十二あるラボのひとつに踏みこんだとき、ロオクはわずかに気をぬいていた。

nun durchquerte 「いま横切っている」ので、まだハッチにはたどりついていない。マシン室の hinter 「後ろ」なので、通り抜けた先(ラボ)にハッチがある。そこで元ペットたちの封鎖部隊が待ちかまえていたのだ。

後の描写を見ると、このパイプ、移動は自由落下である(非常用だからか、機能停止されているのかは不明)。そして、3階層下へ移動するのに、まず1階層、次に2階層をこなしている。圧搾空気やフィールドを使用して横向きに移動できるかはともかく、必要量は2回の描写でじゅうぶん満たしている。

ハヤカワ版(p186)
〈おまえが進化を過小評価していたのは、ずいぶん昔の話だったな〉

原文:
≫Das ist lange her, du unterschätzt die Entwicklung, mein Guter.≪

試訳:
〈ずいぶん昔のことだ、きみは進化というものを過小評価している〉

「え、ここの連中原始人でしょ?」「おいおい、それずっと昔の話だから」である。だいたい、進化を過小評価していたエピソードって、ここまで訳して出てきたかい?

Guter は聖書等でいう「善き人」だが、ここではおそらく Mein guter Freund あたりと変わらない呼びかけ。シェールあたりがこういうの得意というか語彙豊富なのだが。

ハヤカワ版(p187)
〈いずれその者を呼びよせることになるだろう〉と、“それ”がいった。

原文:
  ≫Früher oder später≪, erwiderte ES, ≫werde ich dieses Wesen zu mir rufen.≪

試訳:
〈早かれ遅かれ、わたしはその存在をここに招くだろうがね〉

いずれ、というかこの後(結果的にだが)招くわけだ。
だいぶ前のめりになっているカルフェシュを揶揄していると思われる。

ハヤカワ版(p188)
カルフェシュが用心して、問題が起きないよう手をつくしたのだ……なにか起きるなら、できるだけ早く知りたかったから。

原文:
aber Carfesch hütete sich, nach den Schwierigkeiten zu fragen – er würde sicher früh genug davon erfahren.

試訳:
カルフェシュは問題点をたずねることを控えた――必要であればすぐ教えてもらえるはずだから。

直訳すると、「問題点をたずねることから、自分を守った(再帰動詞:警戒する)」、そして「まちがいなく、十分なだけ早く、そのことを知らされるであろう」。
要するに随伴者に対する信頼の証である。

かくして、第2の発見者の物語は、(読者以外の)誰にも伝わらずに幕を閉じる。
ジンカー・ロオクは、チャルタとは逆に、本来なら探索それ自体については何ら重要な役割を持たない存在であったが、“発見”という失われた同胞たちの目指した任務を、未知の“本部”へ報告できるのは彼のみという状況下において、おそらく自分自身でも想像しなかったであろう奮起を見せた。それは彼自身の生命を賭けたもので……たしかに彼は、その賭けに勝ったのだ。

“道具”……それも、本来の“用途”からは大きく逸脱した功をなしたジンカー・ロオク。彼もまた、フォルツの遺した愛すべきキャラクターのひとりである。
ちっぽけな存在が運命に抗い、やはりちっぽけな――第三者からすれば――勝利を得るというのは、フォルツの持ち味のひとつであり、やはりそういう意味でも、1000話はフォルツの集大成といえるだろう。

そして物語は、シリーズの主人公ではありながら、やはりちっぽけなひとりの人間にしかすぎない男に焦点を移す――第2の活性装置の潜在的保持者として発見された少年、ペリー・ローダンに。

「第3部 その男、ペリー・ローダン」へと続く。
GW明けあたりまでにはなんとかしたいが、ファンタスティーク大賞ノミネートとかもきそうなので、公開時期は未定ということで……。

1000話「テラナー」について (2)

1000話「テラナー」について、論じたりあげつらったり(笑)する本企画、2回目である。
まず、本来は第3部「その男、ペリー・ローダン」で扱う範囲だが、セリフをひとつ引用する。

ハヤカワ版(p201)
「説明しにくいんだけど……調和のとれた光の波。なにか不思議なものがあって、自分がその一部みたいに感じた」

原文:
≫Es ist schwer zu beschreiben≪, sagte er. ≫Eine … harmonische Woge aus Licht. Und das Eigenartige war, dass ich mich als Teil davon fühlte.≪

試訳:
「うまく言えないよ。あれは……光の波の、ハーモニーだった。それで、変なんだけど、ぼくもその一部だって、感じたんだ」

試訳はほぼ2004年に訳したそのまま。
円盤惑星でのつかのまの邂逅は記憶から消去される(※)が、“宇宙への窓”からのぞいた調和の世界へのあこがれは、少年ペリー・ローダンの胸の奥深くに刻み込まれた。
それは、約束された不死への、そしてその遥か先へといたる道程の切符だった。
しっかり記憶させる(p200)、は誤訳である。

第1部 大宇宙(の後継者)への道

通常、ローダン世界において「大宇宙」の意味で用いられるのは中性名詞 Universum (英:universe)、ウニヴェルズム級とかのアレである。あとは、映画『宇宙からのSOS』の「宇宙」は Weltall、“世界万有”だ。
宇宙船を Raumschiff と書くように、部屋・空間を意味する Raum も宇宙の語義で使われることもままあるが、だいたいは時空 Raumzeit のように“空間的広がり”の意がメインとなる。

さて、1000話での6章「宇宙への道」の原題は Die Straße zum Kosmos (英:cosmos)。この宇宙コスモスとは、ギリシア語の“秩序、宇宙、世界”に由来するもので、単に宇宙を意味するのではなく、秩序と調和のあらわれとしての宇宙……と書くと、ローダンのグラフィティを連想する方もいるだろう。
つまり、このあらすじは、調和ハーモニーを追い求めるローダンの、現時点でたどりついたひとつのゴールまでの道筋を述べたものだ。そして、その秩序コスモスとは、コスモクラートのコスモであり、コスミック・ハンザのコスモである。
#地に10本の聖剣があったり、オレの燃え上がったりするナニカではない。

以前マガンと話していた際、「Kosmische Burg って、訳は宇宙城でも意味的には“秩序の城”だよね」というネタがあった。コスミック・ハンザも同様の含みがあり、ローダンたちがコスモクラート陣営から離反した後は大方の役割を失い、最終的には解体されてしまう。フォルツ的にはもうちょい意味があったはずだと思うのだが、それはまた最終回で述べる。
あと、ハヤカワ版については、“宇宙”ハンザなのに“コスミック”・バザールなのも私的にポイント低い。どっちかに揃えようよ。

……超話題逸れたな(笑) 閑話休題。

第6章はこれまでのシリーズ999話のあらすじを、ハヤカワ版にしてわずか18ページに凝縮するという恐ろしいことを試みている。いきおい、アレコレとカットされているわけだが、それ以前のところで、フォルツが力点を置いているのが、ストーリーの大筋とちょっとズレているというか、単語の選択もかなりわかりづらい。むしろひどい(笑)
それを、ローダン読んでない人が訳せば当然、実際のストーリーとはかけ離れてしまうわけだが。

例えば、冒頭の「月までのはじめての飛行」は原語が zum ersten Mondflug で、字面を見ると正しい訳に思われるのだが、Mondflug von Apollo 11 と書くと「アポロ11号の月面着陸」であり、シリーズでは《スターダスト》以前に有人の月周回飛行がおこなわれていることを考慮すると、ここも月着陸と訳すべきだろう……しかし、原文見ちゃうと、一概に誤訳とも言い切れないのだ。合わせ技一本である、困った話。

今回は、まあ、シリーズの読者であれば違和感を感じたであろう箇所を中心に取り上げてみたい。

ハヤカワ版(p206)
そこには決定的な役割をはたす、大きな力を持ったなにかが存在するらしい。

原文:
in der es Mächte und Existanzformen gibt, die darin eine bestimmende Rolle spielen.

試訳:
そこには特定の役割をはたす勢力や存在形態がある。

そこ、とは“普遍的秩序(universelle Ordnung)”。人類世界を含むひとつの巨大な秩序体系の中に、そこにおいてある一定の役割をはたす諸勢力や(これまで見たこともない)存在形態(を持つものたち)がいる、のだ。
それは大群であったり、七強者たちであったり、超知性体であったりする。あるいは、クエリオン人(大群建造者たる36種族連合)や深淵の騎士。視点を変えれば、ロ……ルーワーやガルベッシュすらも、そうである。
カリブソの言う、「大宇宙にひろがるどんな種族も、特定の使命を得る」のだ。
(→ 時間超越 -10- part1

ハヤカワ版は勢力(Mächte)と力ある者(Mächtige)を読み違えたか、“存在形態”という漠然とした訳語を嫌ったか。でも後ろの方で使ってるけど。
あと、“特定の”とか“決定的な”を意味する bestimmend (bestimmen の現在分詞)は、最終回で取りあげる“天命(Bestimmung)”と同根の語。無理くり訳すと「天与の役割」とも読める。

ハヤカワ版(p207)
探検を指揮する瀕死の科学者クレスト

原文:
Crest, der todkranke wissenschaftliche Leiter der Expedition,

試訳:
死病に侵された、探検の科学的指導者クレスト

アルコン人には未知の死にいたる病、白血病のことである。まあ、実際瀕死でもあった(笑)

ハヤカワ版:
計画を実際に動かしている者たちも、その事実を遺憾に思ってなどいなかった。

原文:
eine Tatsache, die nicht zuletzt von den Teilnehmern dieses Mission zutiefst bedauert wurde.

試訳:
ミッションに参加するものたちこそが、誰よりも深くこころを痛めた事実だった。

nicht zuletzt は英語でいう not least、「特に、とりわけ」を意味する。原意的には、「一番最後じゃない」から転じて「一番最初に」みたいな。いちおー、ローダンたちは(とゆーか、宇宙開発を志す人々は)ゲドーじゃないよ、と言っているわけだ。
「ミッションの参加者」と「ミッションの運営者」的な意味の取り違えと思われる。

ハヤカワ版(p208)
人類の活力は宇宙開発に向けられ、すでに宇宙航行を開始していた、ほかのいくつもの文明の存在が明らかになった。

原文:
Es gelang ihm, die Aktivitäten der Menschheit auf die Erschließung des Weltraums zu lenken, Anstrengungen, die anderen Zivilisationen, die bereits Raumfahrt betrieben, nicht verborgen blieben.

試訳:
(ローダンは)人類の活力を宇宙開発へと向けることに成功するが、その努力は、既存の宇宙航行文明の注意をひかずにはおれなかった。

ハヤカワ版から消滅した「努力」とはその前段、「人類の活力を宇宙開発へと向ける」ことを指す。これを、隠しおおせなかった、というが文意。
宇宙航行文明(複数形)は、ファンタン人、IVs、トプシダーのこと。
まあぶっちゃけ、宇宙開発へと導かれた人類側の“冷たい”核融合爆弾によって破壊されたアルコン巡洋艦がSOSを発して、もろもろ露見してしまうわけだ。

ハヤカワ版:
異星種族の圧力の前に、ローダンは地球を破壊するとのブラッフを余儀なくされる。

原文:
Der Druck der außerirdischen Mächte wurde schließlich so stark, dass Perry Rhodan keine andere Wahl hatte, als mit einem Bluff die Vernichtung der Erde vorzutäuschen.

試訳:
地球外勢力の圧力は高まる一方で、ペリー・ローダンには地球破壊を装うというブラフしか選択の余地はなかった。

誤訳とは言わないが、なんとなく「それ以上近づくと、ち、地球破壊しちゃうぞ!?」的はったりに見えるのでw >ハヤカワ版

ハヤカワ版(p210)
さまざまな世界の宇宙航行種族が麻薬を求めて銀河系に蝟集してくる。

原文:
wurden viele Welten raumfahrender Völker in der Galaxis von Rauschgift überhemmt.

試訳:
(この銀河の)さまざまな宇宙航行種族の惑星が麻薬に席巻される。

リクヴィティフ禍の時点では、銀河間航行はまだ夢物語。in der Galaxis はIII格なので「その銀河(天の川銀河系)内の宇宙航行種族の惑星(世界)」。
ハヤカワ訳だと、あっちこっちの島宇宙から銀河系に集合しちゃいまっせー。

ハヤカワ版:
銀河系のなにもない空間で、

原文:
im galaktischen Leerraum

試訳:
銀河間の虚空で

まあ、ここはフォルツの選択した単語が特別ひどい。「銀河の虚空」だもんなァどう見ても。むしろハヤカワ版、最近の定番「空虚空間」にしてないだけ苦慮した訳という見方もある。
ただ、銀河と銀河の間の、という形容詞を想像しようとすると、galaktisch で正しい気もするのだ。

原文は、「銀河(のはざま)の虚空で荒れ狂う戦い(in eine im galaktischen Leerraum tobende Schlacht)」に巻き込まれるというもので、ポスビとローリンの暗闘の舞台は、やはり銀河間と考えるべきではある。

ハヤカワ版(p211)
銀河系に存在する非ヒューマノイド種族の帝国

原文:
eines zweiten galaktischen Imperiums,

試訳:
第二帝国

第二の銀河帝国……とやるよりは、固有名詞使った方がわかりやすいかな。
以下余談だが、Perrypediaを参照すると、ローダン宇宙におけるブルー族はヒューマノイド扱いである。皿頭だけど。まあ手足2本ずつだわな……。
つーか、1800話台でのフォーラム・ラグルンドの説明って、「テラ・アルコンに対抗する非ヒューマノイド種族中心の同盟」って言ってたよね!? ブルー族だけじゃなくてアコンもでかい顔してるのになあとか思ってたよ当時(笑)

ハヤカワ版:
数年をへるうち、人類は多くの植民惑星で自給自足できるようになっていく。

原文:
Im Verlauf vieler Jahre strebten immer mehr von Menschen gegründete Kolonien auf anderen Planeten nach Autarkie.

試訳:
数十年を経るうち、人類の植民惑星の多くで独立をもとめる動きが顕著になっていく。

autark はたしかに自給自足だが、大文字のAutarkieだと閉鎖経済(鎖国)とか自立とかの意味合いが大きい。どんどん、たくさん、自立にむかって、努力する、のだ。
だいたい、自給自足がいきすぎて犯罪行為ってなんやねん(笑)

このへんはプロフォス編以外、ヘフト本編ではあまり扱われないが、ATLANシリーズ第1部「人類の委託を受けて」後半(西暦2800年代が舞台となる)で繰り返しテーマとなる。

ハヤカワ版(p213)
アトランは決闘により、この権力に憑かれた、かつて愛した女性を倒した。

原文:
Atlan gewann das entscheidende Duell gegen eine machtbesessene Frau, zu der er bereits Zuneigung gefasst hatte.

試訳:
アトランは、権力に憑かれたこの女性を愛しながらも、決闘のすえ倒した。

誤訳っつーか……なんか、昔の女みたいなんだもの(笑)
その女性に対して・すでに・好意を・抱いていた、なので、現在進行形である(ぁ

ハヤカワ版(p214)
ローダンのドッペルゲンガーとしてあらわれた男のおかげでかろうじて踏みとどまった。

原文:
Ein Mann, der als Doppelgänger Rhodans auftrat, konnte schließlich den völligen Niedergang verhindern.

試訳:
ローダンの影武者となる男の登場が、かろうじて完敗を阻止したのだった。

まあドイツ発SFだから、ドッペルゲンガーでもええのかもしれんけど。ここはダブル(替え玉)の意味合いをわかりやすくした方がいいんじゃないかな。

ハヤカワ版:
超空間にある巨大ロボットの武器庫

原文:
das Arsenal der Giganten im Pararaum

試訳:
超空間にある巨人の武器庫

巨大ロボット(オールド・マン)のではなく、巨人たち(時間警察)の武器庫である。

ハヤカワ版:
《クレストIV》とその乗員はようやく救援に駆けつけるが、

原文:
gelang es schließlich, der CREST und ihrer Besatzung Hilfe zu schicken.

試訳:
《クレストIV》とその乗員へ援助を送ることにようやく成功した。

フラグメント船の決死隊のこと。
アルコン人Crestは男性だが、艦名CRESTは女性名詞なので、上記例文の der CREST はIII格。
なお、この時点で《クレストIV》は銀河系に戻ってこない。

ハヤカワ版:
その姿を見たウレブは、テラナーにハルト人を殲滅させる作戦を急遽変更し、直接介入してきた。

原文:
Ihr Auftauchen forderte das unmittelbare Eingreifen der Uleb heraus, die die Vernichtung der Haluter durch die Terraner verlangten.

試訳:
ハルト人の登場はウレブの直接介入を招き、テラナーによるハルト人殲滅が要求として突きつけられた。

関係代名詞 die がウレブ(複数形)のことで、彼らはテラナーによるハルト人の殲滅を望んだ、である。

ハヤカワ版(p215)
これらの勢力圏が地球と対立を深めたため、三四三〇年、太陽系は時間バリアのなかに姿をかくす。

原文:
Diese von Menschen gegründeten Machtblöcke schlossen sich zu einer Aktion gegen die Erde zusammen, doch die Angreifer stießen im Jahre 3430 ins Leere, als das Solsystem in einem Zeitfeld verschwand.

試訳:
これら人類が打ち建てた権力ブロックは地球攻撃のため手をむすぶが、三四三〇年、ソル星系が時間フィールドにかくれたため空振りに終わった。

歴史的にはまちがってないんだけど、原文と照らし合わせると、なんだかオブラートに包んだような訳になっている(笑)

ハヤカワ版:
だが、その後コレッロはローダンの味方になり、

原文:
Es gelang, Corello zu einem positiv handelnden Menschen zu machen

試訳:
コレッロをポジティヴな人間とすることに成功し、

まあ……洗脳ってポジティヴじゃないっスよね……(汗)
でも、この後、宇宙はポジティヴとネガティヴに満ち溢れてるんだよー、という話に持っていくわけだから、この単語を消去するのは得策ではないと思われ。

ハヤカワ版(p216)
予定から一ヵ月遅れで

原文:
Monate später als geplant

試訳:
予定から何ヵ月も遅れて

実際には、ほぼ丸3年である。えーと……2年と11ヵ月?

ハヤカワ版:
事態は急迫し、太陽系は地球ともども大群にのまれそうになる。

原文:
Die Entwicklung spitzte sich dramatisch zu, als das Solsystem mit der Erde ebenfalls vom Schwarm aufgenommen wurde.

試訳:
太陽系もまた地球ごと大群に併呑され、事態は急展開をむかえる。

のまれそう、ではなく、のまれてる。
だからこそ、以降、大群内部での作戦が可能となるわけで。

ともあれ、ローダンはここではじめて、大宇宙に存在する「特定の役割を果たす」何かの片鱗を体験する。大群と建造者(クエリオン人)・管理者(サイノス)については、アラスカ・シェーデレーアの(意図せざる)協力もあって、多少の知見を得るが、その全体像は依然闇の中である。

ハヤカワ版(p217)
多くの人々は、それまでの発想を捨てることができなかったから。

原文:
Andererseits konnte man nicht auf seine Einsicht in die Zusammenhänge verzichten.

試訳:
一方で、関連を洞察する彼の才能は不可欠なものとみなされた。

アイツ何言ってんだかわかんねーけど、困ったこと起きたときは便利だよなー、である。これでは政治危機を回避しても、一般大衆との溝は埋まらない。
英雄と言うより、学級委員を押しつけられたとゆーか。宇宙いいんちょ(はあと) ペリーヌ・ローダン…幸うすそうw

ハヤカワ版(p218)
新型エンジンの試験のため、ローダンは《マルコ・ポーロ》で並行宇宙に向かった。

原文:
Bei Experimenten mit einem neuen Antrieb wurde die MARCO POLO mit Perry Rhodan an Bord in ein Paralleluniversum geschleudert.

試訳:
新型エンジン実験の際、ローダンを乗せた《マルコ・ポーロ》は並行宇宙へはじきとばされる。

ニューガス=新型燃料対応エンジンであって、別に異宇宙間駆動じゃあないよね。
schleudern は、カタパルトで打ち出すイメージか。投げ出される、も可。

ハヤカワ版:
ゼロ時間デフォルメーターを使い、過去のローダンに警告することで、PAD病の発生は回避された。

原文:
Ein zweites Mal musste Rhodan das Paralleluniversum aufsuchen und seinen negativen Doppelgänger ausschalten.

試訳:
“再試行”時のローダンは、並行宇宙を訪れ、ネガティヴなコピーを自らの手で抹殺することを余儀なくされた。

「ネガティヴ」は残す形にしてほしかったのは、コレッロのケースと同じ。
正直、文章としてはハヤカワ版の方が遥かにわかりやすい。まあ、日本語で作文しているんだから、当然といえよう。原文にはゼロ時間デフォルメーターの名称すら出てこないので、時間修正がおこなわれたことすら明確ではない。

ただ、このあたりになると、フォルツが単純にストーリーのおさらいをしているわけではないことがわかってくると思う。キモは、ローダンの戦いなのだ。

ハヤカワ版(p222)
人類は古くから存在する宇宙的な力の争いに巻きこまれていることに気づかないまま、この対立を解消する道を模索する。

原文:
Ohne zu ahnen, dass sie sich damit endgültig in die Belange uralter kosmischer Mächte einmischten, suchten die Menschen nach positiven Lösungen dieses Konflikts.

試訳:
それにより、ついに太古からつづく宇宙的勢力の利害に踏みこむことを予感すらせぬまま、この紛争のポジティヴな打開策を探しもとめる。

今回ばかりは、巻き込まれるのではなく、自分から首を突っ込んでしまったんである。当初こそ失われた地球を探しあてるという理由があったし、超知性体〈バルディオク〉のもとへ誘拐されたあたりになると、巻き込まれたと言えなくもないけれど。
なお、ここでも「ポジティヴ」は不要として削られてしまっている。

ハヤカワ版(p223)
強者は物質の泉の彼岸という、謎めいたべつの時空連続体からきていた。そこにいる存在が、アインシュタイン宇宙の生命と知性の発展を操作しているらしい。

原文:
Die Terraner fanden heraus, dass Mächte aus einem anderen Raum-Zeit-Kontinuum, das hinter den geheimnisvollen Materiequellen lag, offenbar steuernd auf die Entwicklung von Leben und Intelligenz im Einstein-Universum eingriffen.

試訳:
テラナーたちは、謎に満ちた物質の泉の彼岸にあるという、別の時空連続体の勢力が、明らかに指導的立場でアインシュタイン宇宙の生命と知性の発展に介入していたことをつかむ。

またしても「勢力」と「強者」の読み違えである。
強者の製造工場はケモアウクによって発見されており、この宇宙の産であることは確実。

ハヤカワ版:
だが、めったにかれを裏切ることのない本能的直感は、宇宙的意味についての洞察が、これからますます深まるだろうと告げていた。

原文:
Sein Instinkt, der ihn selten getrogen hatte, sagte ihm jedoch, dass er mehr und mehr Einblick bekam in eine ursächliche Auseinandersetzung von universeller Bedeutung.

試訳:
とはいえ、めったにあやまつことのない彼の本能が、宇宙的意味を持つ根元的対決への洞察を今後も得ていくだろうと告げていた。

ursächlich は「原因の、因果の」。フォルツ宇宙においてもろもろの根源となっている、相反するものとは、すなわちポジティヴとネガティヴである。
神話においては、往々にして善神と悪神の対立の構図が見られる。これは後に、無限アルマダをめぐる抗争の中で、秩序と混沌の両勢力の争いとして顕在化する。

かくして少年は、かつて夢に見た調和の源――と思えるもの――へとたどりつく。まあ、最終的なところは、〈それ〉との対話を経ないと理解が及んでいないのだが。
この宇宙はポジティヴな力とネガティヴな力の係争の場であり、自分がどちらに与するかは自明でもある。しかし、ひとつのゴールに到達したことで、ローダンは目標を見失い、鬱屈した日々をすごすことになる……のは、第3部あたりに譲ろう(笑)

フォルツ宇宙は必ずしも厳格に二元化されたものではない。ポジティヴとネガティヴは、善悪とイコールではないからだ。
セト・アポフィスはローダンたちから見て「敵」ではある。しかし、彼女自身は、自分がどこでどうまちがえたのかわからないまま、溺れそうになってあっぷあっぷしているだけなのだ。

作中で positiv、negativ がどのくらい使用されているか数えてみたら、それぞれ8回と7回だった。意外と少ない……と思うかもしれない。しかし、1000話が出た1980年当時には、姉妹編ATLANシリーズが「暗黒銀河」サイクルのクライマックスを迎えようとしていたことを忘れてはならないだろう。
ネガティヴな超知性体としては、セト・アポフィスに先駆けて〈闇の伯父〉が登場し、それ自体がかつて存在した〈イェフェナス〉の負の側面……ネガティヴな断片であったことが物語られている。

シリーズにおけるポジティヴとネガティヴの闘いは、やがて秩序の勢力と混沌の勢力の主導権争いに場を譲るが、これもまた、善と悪との闘いでは、けっしてない。
それゆえに、ゴールと思われたものは淡くも夢のように消え去るのだが……それはまた、別の物語である。

「第2部 抗う歯車たちの肖像」に続く。
次回は、ちょっと間が空くと思われるが、巻頭に戻り「機械にすぎない(p139)」人々の探索についての予定。

1000話「テラナー」について (1)

今回のお題は、今更ながら1000話「テラナー」である。
2015年7月、ハヤカワ版ローダン500巻『テラナー』が刊行された。以前850話「バルディオク」を取り上げた際にも書いたが、ローダン・シリーズの流れ的に、フォルツ・ストーリーはここにひとつの集大成を迎える。次のクライマックスというべき、セト・アポフィスとの対決から無限アルマダ編の決着を見る前にフォルツが急逝してしまうため、あるいは、ここがひとつの終着点であるともいえる。

そんなわけで、一フォルツ・ファンとして、今回の翻訳と、「テラナー」それ自体について、いくつか述べてみたい。

はじめに テラナーへ贈る物語

1000tibi.jpg
© Pabel-Moewig Verlag GmbH, Rastatt

ローダン・ヘフト1000話の表紙には、こう書かれている。

Der Terraner
Die kosmische Bestimmung der Menschheit

人類の宇宙的天命、と、ここでは訳しておく。
1000話「テラナー」は人類の天命の物語である、とだけ憶えておいてもらいたい。その詳細については、最終回で述べる。

2004年にわたしが「テラナー」を翻訳した際の底本である原書第2版には、冒頭、2つの引用文と並んで献辞が置かれていた。

ウィリアム・フォルツより、
ペリー・ローダン読者と、
善意を抱くすべての人々へ捧ぐ

原文:
William Voltz gewidmet,
den Perry Rhodan-Lesern
und allen, die guten Willens sind.

電子書籍版では、なぜか“ウィリアム・フォルツより”の部分が省略されたが、ちゃんと1ページ使って掲載されている。
まあ、ぶっちゃけスペースが足りなかったのだろう、ハヤカワ版は。しかし、だ。

本書「テラナー」は、やや特殊な位置づけを持った巻である。〈コスミック・ハンザ〉(※)サイクルの第1話目でありながら、作中の時間は前サイクルを引き継ぎ、ハンザ創設と新銀河暦導入に象徴される新時代の到来を受けて、次の1001話(実質的には1007話)で420年の時間ジャンプをおこなっている。
(※)なぜ「宇宙ハンザ」でないかは、やはり後述する。

第6章「宇宙への道」が超駆け足ながらシリーズ999話分のあらすじであることから、前後と隔絶した本書は、単独でも読める。というより、フォルツはこの1話に、“彼にとってのベリー・ローダン”を凝縮したのだと思う。

各章間に挿入されるグラフィティは、最後のものを除いては、ローダン世界ではない、われわれの同時代人の人生の断片が描かれる。一部に実在の人物と同名の例もあるが、直接の関係はない。あくまで個々の“テラナー”だ。
彼らと、彼らの周囲の人々が直面する問題は、本書が出版された1980年当時も現在も変わらず人類の抱える命題である。

(1) 戦争・内乱(タウ・スン・ヘン)
(2) アパルトヘイト(クドロ)
(3) 先住民の強制移住(スタンディング・ベア)
(4) 人権弾圧(ペドロ・アルメンダリス)
(5) 死の商人(J・ウォーカー)
(6) 公害(ウォルター・ハンセン)
(7) 麻薬(ジョッド・ケラー)
(8) 家庭内暴力(ロジャー・マンド)
(9) マスコミによる情報操作(J・チャンドラー)
……最後のは、ちょっと苦しいか(汗)

フォルツがこのグラフィティ形式を取ったのは、理想と現実、あるいは空想フィクションと現実の境界を曖昧にするとともに、ペリー・ローダンがシリーズ当初から抱く理念――全人類を“テラナー”とし、宇宙への道を踏み出すことを、もう一度問いかけるためではなかったか。
以前書いたことと重複するし、最終回でも取り扱うので詳述は置くとして、胸に秘めた天命に焦がれる気持ちにしたがうことで、誰もが“テラナー”たりえると、そう訴えるためではなかったか。
(→ わしがテラナー、ペリー・ローダンであるっ

心に善を抱くすべての人々――そう、1000話「テラナー」は、すべての“テラナー”に贈られた物語、であるのだと思う。
そう考えると、この献辞は削除してはいけないものなのだ。
言い方を変えると、本書「テラナー」は、献辞・引用文・グラフィティ・本編のすべてが組み合わさって、独立したひとつの物語を構成している。粗末に扱ったらバチがあたるのだ(笑)

と、まあ、最初からヨタをとばしている感が半端ないが、ここから順を追って――いや、まずは主人公ペリー・ローダンのこれまでの道のりをもう一度ふりかえるところからはじめていこう。

「第1部 大宇宙(の後継者)への道」に続く。
次回はだいぶ、いつものごやてんらしくなっているはずであるw