アルコンの野蛮な古代(笑)

早川版ローダンの475巻『獣の支配者』が現在書店に並んでいる。のだが。

1万年前のアルコン文明はどんだけ野蛮なんでしょ
ってかんじで、びっくりだよー ^^;;;;;;;;;;;;

……というメールを頂戴したので、しかたがない。近所の書店に足を運び、買ってきたブツで件の箇所を確認してみた。

うん、まあ……ショウガナイネとしか言いようのない部分でもあるのだけど。
一応、古代アルコン人の弁護など試みてみようか(笑)

ハヤカワ版(p110)
わたしはアルコン人の歴史の研究に没頭し、あるとき、コルプコルという名前に出会った。首狩り人で、生きていたのは旧オルバナショル家の時代、名高いアトランがまだ若者だった時期だ。
(中略)
文献の著者は若きアトランの友で、腹腔切開者として名高いファルトゥルーンだ。

原文:
Sehen Sie, ich habe mich viel mit der Geschichte der alten Arkoniden beschäftigt, und dabei stieß ich einmal zufällig auf den Namen Corpkor. Das war ein Kopfjäger, und er lebte zur Zeit des alten Orbanaschol, genau in der Ära, in der unser hochgelobter Atlan noch ein jünger Mann war.

Ein gewisser Fartuloon, Bauchaufschneider und angeblicher Freund des jungen Atlan, hatte ihn verfaßt.

試訳:
そうさな、古代アルコン人の歴史に没頭していたわたしは、あるとき、偶然にコルプコルという名前にいきあたった。古代オルバナショル帝の時代、かの高名なアトランがまだ若かりし頃の、賞金稼ぎだった。
(中略)
文献の著者は、宮廷医師にして、アトランの友を名乗る、ファルトゥローンなる人物だ。

……。
rlmdi.の刊行物等お読みの方はお気づきだろう。コルプコルもファルトゥローンも、ATLANシリーズで若きアトランの皇位(継承権)奪回を描いた「アルコンの英雄」サイクルの登場人物である。

コルプコルは80がらみのアルコン人。動物使いのKopfgeldjäger(ペリペより)。
Kopfjäger は、わたしの手元の辞書を見ても「首狩り族の人」と書いてあるわけだが……わりとローダンには出てくる単語である。惑星現住種が首狩り族であることもなかったわけではないが(笑)、たいていは刺客とゆーか、殺し屋的意味合いでとらえていた。
いつだったか、マガンと「ヘッドハンティングする人だったりしませんかねぇ」と冗談を飛ばしていたこともある。
で、今回初めて知ったわけだが……Kopf(geld)jäger となると、ちょっと意味がちがってくる。Kopfgeldは「賞金、身代金」である。かれ/彼らは、ヘッドハンターならぬバウンティハンターだったのだ。
余談ではあるが、コルプコルは、オルバナショル帝によって懸けられた賞金目当てでアトランの命を狙うが、紆余曲折あって(動物たちを殺すとか脅されて)、アトラン率いる反オルバナショル抵抗運動の一員となる。

さて、もう一方のファルトゥローンだが……アトランの育ての親とか、最後のカルル人とか、設定を書き出すときりがない。それどころか、時系列順で考えると、この時点でテケナーは、オッタクという偽名を称するかれと、実はすでに出会っているというおそろしい事実まである(けど、同一人物であることをテケナーは知らない……んじゃないかな)。まあ閑話休題。
問題のファルトゥローンの職業であるが、ペリペを見ると、 「アトランの父、皇帝ゴノツァルVII世の Bauchaufschneider にして顧問」となっている。で、Bauchaufschneider は直訳すればまさしく「腹をかっさばく人」なわけだが、イメージ的な外科医(Chirurg)であるのか、やはりペリペを見ると「アルコンにおける、高位の人物の侍医。貴金属コーライトの鎖証を持つ」となっている。皇帝侍医を「ハラキリ」とか訳すわけにもいかないので、そのまんま「侍医」とするくらいが妥協点だろう。
(余談だが、ドクター・ヒルルクの由来ってChirurgだねえ。今気づいたわ)

いつものわたしだったら、〈開腹師〉とか無理矢理訳すところだが、いまその字面を見るとリゼロの〈はらわた狩り〉しか連想されず、イシャと思えないので(笑)
#ゴノツァルVII世は叔父じゃねーの? とかいう疑問については、アトラン・データファイル読んでくだしゃー。

まあ……万やむを得ない誤訳ではあるのだけど。そろそろ、ローダン訳すなら、ATLANの設定くらい気にしないとやう゛ぁい段階に来てると思うんだよね。現在の早川版ローダンと同時期には、すでにアトラン400話台の「暗黒銀河」サイクルもすでに終盤のはず。

もうすぐ982話『選ばれし者』(民族じゃないよー)でも、アトランが「貴様っ、オルバナショルだなっ」と錯乱する場面とか出てくるしね……。ヘフト書いてる方は、「姉妹誌も読んで、くれてるよねっ(はあと)」な状態なわけで(笑)
知らない登場人物の名前が引用されてたら、せめてペリペを調べるくらいはしてくれないと、読者さんが困ってしまう誤訳ができあがる可能性は高い、と思うのよね。

以下は余録:

ハヤカワ版(p133)
“裂けた恒星”と“ハープーンのアルマダン”、どちらも情報はない。
「貴族趣味を感じさせる名称だ」ティフラーが考えながら指摘した。「すくなくとも、元の言語は確定できるかもしれない。オービターたちはいまだに沈黙ぎみで、ガルベシュ軍団はどうなった、と、たずねてみても、侮蔑的な視線が返ってくるだけだが」

原文:
Weder die “gespaltene Sonne” noch “Armadan von Harpoon” waren ihm ein Begriff.
“Der Name klingt aristokratisch”, sagte Tifflor nachdenklich. “Vielleicht läßt sich wenigstens feststellen, welcher Sprache er entstammt. Unsere Orbiter geben sich übrings weiterhin schweigsam. Wenn man sie fragt, was es mit den Horden von Garbesch auf sich hat, erntet man nur verächtliche Blicke.”

試訳:
“裂けた太陽”も“ハープーンのアルマダン”も、知らないという。
「貴族の名前みたいだな」と、考えつつティフラーがいった。「せめて、その由来する言語くらいは特定したいもの。あとは、収監中のオービターたちだが、相変わらずのだんまりらしい。ガルベシュ軍団とはなんだとたずねてみても、返ってくるのは侮蔑的な視線だけとのことだ」

動詞 klingen は「響く」。貴族的に響く、とは、お貴族様風(の名前)に聞こえる、という意味だが……ぶっちゃけ、ハープーン“の”アルマダンが、von 付きの名前であるからに過ぎない。アルマダン・フォン・ハルポーン、とか書くと、銀英伝に出てきそうに――見えないって?(笑)

was es mit ~ auf sich hat? は、「~とは何を意味するのか(was bedeutet ~?)」という熟語。そりゃあ、ガルベシュ人だと思っている相手から「ガルベシュ軍団とは何だ!」とか詰問されても、うろんな目しかしないわなぁ。

元統括さんがケツまくった前後から、ドイツ語のわかる外注編集者が訳文チェックしてると聞いていたんだけど……。
「あれらのドッペルゲンガーが人間でないなら、通常の手段では対抗できまい(p10)」は「あれらのドッペルゲンガーが人間でないことは、一般的な手段を用いずとも証明できる」だし、「多少とも、なにかわかればいいんですが。(p132)」は「多少なりともわかったことでよしとせねば。」だし。

たまたま、これが「〆切都合した」関係でチェックの時間が足りなかった分だったとかならいいんだけど。ねえ。

■Perrypedia:Corpkor
■Perrypedia:Fartuloon
■Perrypedia:Bauchaufschneider

誰がフクセン殺したの?

私的脳内では、原典であるマザー・グースより、明らかにクック・ロビン音頭の方の比重が大きいのだが。そーれ、ぱぱんがぱんっ。
とはいえ、今回の話題は、「ご先祖っ」「子孫っ」がしっ――ではなく(笑)
ハヤカワ版431巻『脳搬送』後半「時の氷風」の、質問を受けて調べた結果、大爆笑した個所について。
いちおう、次巻以降のネタバレを含むので、おイヤな方はここでさようなら。
9/1 わかりにくいとのご指摘をうけ、後半大幅修正。
ハヤカワ版:P184参照のこと。

原文:
Eine Frau!
Zweifellos war es eine Frau, eine sehr schöne und junge Frau in einem weißen, fast durchsichtigen Gewande, das bis zum Boden reichte. Durch den Stoff hindurch schimmerte ihre Haut bronzefarben, und Hotrenor glaubte sogar feine Spiel ihrer Muskeln erkennen zu können, so deutlich war jetzt das Bild.

試訳:
女性だ!
まごうかたなく女性だ、それも非常に美しく若い。白く、ほとんど透明な服を着ており、裾は地面まで届く。素材を通して、彼女の肌がブロンズ色にきらめいた。筋肉の微細な動きまで見てとれそうだ、とホトレノル=タアクは思った。それほど今回の映像は鮮明だった。

女性だ! すけすけだ! ぴっちぴちやでぇ! ホトレノルさんあんたも好きねえ(笑)
……げふんげふんw おおよそ、そんな描写なわけだ。
ダールトン先生、異星人であるホトレノル=タアクの視点で語るにあたり、「テラナーじゃないけど美醜はわかる」とか、いろいろ手をまわしている。むろん、ラール人もヒューマノイドだから、そんなに造形が変わるわけではないのだけれど、あえてわざわざここまで露骨な描写をしてくれているわけである。だから、ホトレノルさん、ちょっと変態さんぽいくらいに、連呼しているのだった。

さて、ここでお手元のハヤカワ版P184を開いていただきたい。
「女性だ!
まちがいなくテラナーの女だった。」と、訳してある。
しかし、原文を見れば、ドイツ語を知らなくともわかる。「テラナーの女」なんてどこにも書いていない。そもそも、書くはずがないのだ。
そりゃそうだ。だって、この女の人、テラナーじゃないのだもの。
ヴィング人女性デメテルさんの、本邦初公開シーン……なんだけど。
訳者さんがよけいな単語がつけくわえたおかげで、なんの伏線にもならないのであった。

そもそも、「訳者さんは、nicht(英語でいう not ……「でない」)をうっかり翻訳し忘れたんではないかな? “まちがいなくテラナーの女ではなかった”なら話が通じるんだけど」という質問をうけて、原書をひもといてみたのだった。
しかして、その真相は……そんな単純なうっかりじゃなかった。
事態は、あまりに予測の斜め上すぎる方向へ進んでいたのであった。

いくらダールトン御大だからといって、日に焼けた美少女のグラビアシーンを、意味もなく挿入しているわけじゃないのだ。
ここでブロンズの肌の女性、すなわち異星人がテラの遠い過去にいたと語る。そうして、この異星人女性が、すぐ次の巻で登場する……そういう流れなのである。
しかも、この「時の氷風」後半でも、「難破した異星人」「デメテル! デメテル! と連呼する現住種族」とか、いくらでも「テラナーの女」を否定する要因は存在するのだ。

よもやこの段階で、「デメテルがライレの〈目〉探索のためアルグストゲルマート銀河から派遣されてきたヴィング人女性である」ことが、翻訳チーム内で情報として周知徹底されていないとは、言わないよねえ。
訳者さんも、チェックした編集さんも、少しは連想……というか、日本語の読解力を働かせてちょうだいな。

バジスバジス亀の子バジス (3)

というわけで、亀の子バジス最終回は、《ソル》に次いでシリーズで最も長期にわたりメインをはった巨艦《バジス》の形についてである。
なお、試訳では、ルナ緊急オペレーションのリーダーを英語読みに直してある。同姓のSF作家の邦訳が、このあいだ当のハヤカワ文庫から出ているのだが(笑)
閑話休題。

バジスのカタチ

先日、コミケ会場でrlmdi.のブースを訪れた、あるファンの方が、「《バジス》の形がわからないんですが……」とおっしゃっていたそうな。それは、そうだろう。そもそも前回の質問の発端が、《バジス》の描写は原文じゃどうなってる? という点から遡ってのものだったのだ。本来形状を知っている古株のファンが首をひねる表現で、はじめて《バジス》に接する読者が思い描けるわけはないのである。

ハヤカワ版 (p166-168)
 パーツ群は同一平面上に集まりだし、やがて直径十キロメートルを上まわる円盤を形成。さらに数分すると、円の外周部に赤道環のような構造物が見えるようになる。
「なんという怪物!」と、ルナ緊急オペレーションのリーダーがあきれて、「人に聞かれたら、これをどう描写すればいいんだ?」
「わたしなら、カメに似ているというな。それも、救命浮き輪にはまりこんで、うごけなくなった」と、ハミラーはからかうようにいった。「甲羅のうしろがドーム状に、高くつきだしているな。極端なカーブを描く構造物ではないが。からだが浮き輪にはまってしまい、おびえたカメが、だれかに助けられるのを待っている感じか……とにかく、捕まったカメのイメージは、これにぴったりだ」
 レドフェーンはすっかり興奮し、ひとさし指をつきだして、
「だが、あれはなんだ?」と、どなる。「あいつはカメとは似ても似つかないぞ!」
 テラ評議員は友がさししめす方向に目を向けた。月面ボートはハミラーが“救命浮き輪”と呼んだ赤道環をぬけ、なにかの構造物を回避したところだ。
「危険はなさそうに見えるな」と、応じる。「どういうものか、調べてみよう!」
     
 レス・レドフェーンとペイン・ハミラーは、不吉な前兆に満ちた三五八六年一月二十二日の午前十時半から十二時までのあいだ、ネーサンがバジスと名づけた構造物を、至近距離から観察しつづけた。
 月面ボートはゆっくりとバジスの周囲を飛び、やがてその全容が明らかになってくる。
 深さの違うふたつの皿状構造が、バジスの中核を形成していた。皿は一方が深く、一方がたいらで、縁が重なりあっている。この“縁”の部分を、切断面が半円形の赤道環がとりまいているのである。皿は直径が九キロメートル、赤道環は太さが千五百メートルで、全体の直径はあわせて十二キロメートルに達した。
 べつの構造物がふたつ、ちょうど皿状構造物を両端からはさむかたちで、向かいあっている。一方は赤道環から数キロメートルつきだしており、皿との接合部は断面が平行六辺形になっていた。六辺形は先端にいくほどひろがっていき、真横から見ると開いた漏斗、あるいは台形に見える。
 その反対側、バジスの前縁と思われる部分の構造物は、円錐状の基部で接続された、たいらなプラットフォームだった。赤道環の湾曲部から、ほぼ一キロメートル伸び、赤道環と同様の孤を描いている。
 ボートはつづいて、ハミラーがとりあえず“上面”と名づけた、湾曲した皿の表面にそって飛んだ。表面には、円形のプラットフォームが五つあり、この円内には湾曲がなに。プラットフォームはさいころの五の目状に配置されており、中央のひとつは直径が三千メートル、あとの四つは千二百メートルほど。
「こいつが着陸プラットフォームじゃなかったら」と、ハミラーはいった。「学位を返上するぞ!」
 さらに上面の構造物をいくつか見たあと、こんどは“下側”にもぐりこむ。こちら側では、長く伸びるチューブ状の湾曲を見つけた。長さは十キロメートル、チューブの高さは八百メートルに達するが、用途はまるでわからない。

原文:
  Die Masse der Teile formte sich zu einem flachen Gebilde, dessen Durchmesser mehr als zehn Kilometer betrug. Es war kreisförmig, und wenige Minuten später ließ sich erkennen, daß sich entlang der Kreisperipherie eine Art Wulst bildete.
  “Mein Gott, was für ein Mostrum?” stöhnte Redfern. “Wie würdest du das beschreiben, wenn dich einer danach fragte?”
  “Ich würde sagen, es gliche einer Schildröte, die in einem Rettungsring steckengeblieben ist”, antwortete Hamiller belustigt. “Hochgewölbter Rückenschild, nicht ganz so stark gewölbter Bauchschild. Das verängstigte Tier hat natürlich den Kopf eingezogen. Dann kam jemand und hat den Rettungsring darüber gestülpt. Er paßt genau. Die Schildkröte ist darin gefangen.”
  Voller Aufregung stach Resu Redfern mit dem Zeigefinger durch die Luft.
  “Aber dahinten!” rief er. “Da ist etwas, das mit deiner Schildkröte nicht so ganz zusammenpaßt!”
  Hamiller blickte in die Richtung, in die Redfern zeigte. Auf der dem Boot abgewandten Seite des Gebildes entstand etwas, das den Ringwulst, den Hamiller als Rettungsring bezeichnet hatte, durchbrach und überragte.
  “Die Sache scheint ungefährlich genug”, sagte er zu seinem Freund. “Laß und nachsehen, was es ist.”
     
  Zwischen 10:30 und 12:00 an diesem schicksalsträchtigen 22. Januar 3586 wurden Resu Redfern und Payne Hamiller die ersten, die das Gebilde, das NATHAN die BASIS nannte, aus nächster Nähe zu sehen bekamen.
  Als das kastenförmige Boot die BASIS langsam umrundete, wurde folgendes offenbar:
  Das Kernstück der mächtigen Konstruktion bildeten zwei metallene Schalen unterschiedlicher Wölbung, die wie zwei Teller – der eine tief, der andere flach – mit den Rändern aufeinandergesetzt worden waren. Um den Rand dieses Gebildes zog sich ein Wulst von kreisförmigem Querschnitt. Die Schalen hatten bereits einen Durchmesser von neun Kilometern. Der Wulst, dessen Durchmesser fünfzehnhundert Meter betrug, fügte weitere drei Kilometer hinzu, so daß die Gesamtkonstruktion einen Durchmesser von zwölf Kilometern besaß.
  An zwei Stellen, die einander gegenüberlagen, war die Symmetrie des Gebildes unterbrochen. An einer Stelle ließ der Wulst eine mehrere Kilometer breite Lücke für einen Einsatz, der zunächst die Form eines Quaders hatte, sich nach außen hin jedoch in einen riesigen Trichter verwandelte, der weit über die Rundung des Gebildes hinausstach.
  Auf der gegenüberliegenden Seite ragte eine Art Schürze aus der BASIS hervor. Sie bildete eine ebene Plattform von konischer Natur. Ihr vorderer Rand, der rund einen Kilometer jenseits der Rundung des Ringwulstes lag, war wie ein Kreisbogen gekrümmt.
  Sie flogen über die steiler gewölbte Mittelfläche, die Hamiller willkürlich als “oben” bezeichnete, und stellten fest, daß es in der Schale insgesamt fünf kreisförmige Plattformen gab, die aus der Wölbung ausgespart waren. Die großte lag genau in der Mitte des Gebildes und hatte einen Durchmesser von drei Kilometern. Die andern vier waren näher dem Rand hin symmetrisch angeordnet und hatten jede einen Durchmesser von zwölfhundert Metern.
  “Wenn das keine Landeplattformen sind”, sagte Hamiller, “dann gebe ich meinen Diplom zurück!”
  Das Boot kreiste mehrmals um die riesige Konstruktion. Auf der “Unterseite” entdeckten die Männer zwei langgezogene, röhrenförmige Ausbuchtungen, von denen jede eine Länge von zehn Kilometern besaß. Die Höhe der Röhren betrugn achthundert Meter. Ihr Funktion war nicht ohne weiteres ersichtlich.

試訳:
 パーツ群は直径十キロ以上ある平たい構造体を形成。円盤状で、数分足らずのうちに、外周部に沿った環状構造も確認された。
「神よ、なんたる怪物だ!」レッドファーンがうめくように、「だれかに質問されたら、あんた、なんて描写する?」
「そうだな、さしずめ、救命浮き輪にはまり込んだ亀、かな」と、ハミラーがおもしろそうに応じた。「高く突き出した甲羅、あまり湾曲していない腹部。おびえた亀は、むろん頭はひっこめているな。そこへ通りかかった誰かが、救命浮き輪を上からかぶせた。サイズはぴったり。あわれ亀は身動きもならず、というわけさ」
 すっかり興奮したレス・レッドファーンは、人差し指でびしりと指し示して、
「じゃあ、後ろのあれは! 亀にはそぐわない代物があるぞ!」
 ハミラーはレッドファーンの指した方向に目をむけた。物体の、ボートから見て反対側に、ハミラーが救命浮き輪と呼んだリング構造をさえぎるように突き出す何かが形成されつつあった。
「たいした危険はなさそうだ」と、友人にむかって、「見てみようじゃないか、あれが何なのか!」
     
 運命をはらんだ三五八六年一月二十二日の十時半から十二時にかけて、レス・レッドファーンとペイン・ハミラーは、ネーサンが《バジス》と呼んだ物体を至近距離から見た最初の人間となった。
 箱状ボートでゆっくりと《バジス》を周回した結果、次のようなことが判明した。
 強大な構造体の中核は、湾曲度の異なる二枚の合金殻。向かい合わせに縁をくっつけた二枚の“皿”――深皿と平皿――のようだ。合わせ目に沿って、断面が円形のチューブが構造体をとり巻いている。合金殻だけですでに直径九キロメートル。そこへ千五百メートル径チューブによって三キロが加算され、全構造体の直径は十二キロに達する。
 物体のシンメトリーは、互いに向かい合う二ヵ所で断ち切られていた。一方では、チューブの数キロにわたる間隙に、外部へと漏斗状に広がる方錐台がはめこまれ、物体外周から大幅にはみ出していた。
 反対側では、一種のエプロンが突き出していた。コーン状の平たいプラットフォームで、先端は環状チューブの外周からさらに一キロ、アーチを描いて突出している。
 ハミラーが便宜上“上”とした、大きく湾曲した円盤部付近を飛ぶと、外殻には五つの円形プラットフォームが確認された。むろんそこは湾曲していない。最大のものは中央にあり、直径三キロ。あとの四つは外周近くに均等の間隔をおいて設置され、直径はどれも千二百メートルであった。
「あれが着陸プラットフォームでなかったら、学位を返上するぞ!」と、ハミラー。
 ボートは巨大構造体を幾度も周回した。“下”側では、二本の細長い管状隆起を発見した。どちらも長さは十キロメートル。高さは八百メートルに達するが、それだけではどんな用途を果たすかはわからない。

……。
ここで、図面をご覧いただこうか。1100話『フロストルービン』付録の《バジス》断面図解ポスターである:

BASIS (Poster)

収録サイトはMateriequelle ……rlmdi.では通称「ぶっせん」。
デザイナーは、オリヴァー・スコール。後にアメリカ版『ゴジラ』や『インディペンデンス・デイ』のプロダクション・デザインを手がけた人物である。一応、これがオフィシャルな《バジス》のカタチだと思ってほしい。

以下、順を追ってハヤカワ版のおかしなところを見てみよう。
「同一平面上に集まりだし」は、明らかに蛇足。推進部ブロックとか、想像以上にでかいぞ。
Ringwulst……「環状隆起」を「赤道環」としたのは、松谷先生の名訳だと思うが、あくまで球形船の話であって、ディスク型艦艇で赤道環はどうよ?――と書こうとしたら、ブルー族の円盤船にも Ringwulst があるそうな。うーん。

「甲羅のうしろ」と訳すと、なんだか甲羅の高さが前と後ろで異なる、非対称なものを連想してしまう。ハヤカワ版だと、「背中の甲羅」と「腹部の甲羅」を区別していないから、そんなおかしなことになってしまう。これについては、後半でも「深さのちがう平皿」と、大事なことだから2回言っているのに。

「ぴったり」なのは、男性代名詞 er で、これは「救命浮き輪」der Rettungsring をあらわしている。イメージなんて、どこにも書いていない。文章の前後まで操作して、理解力の及ばなかったことをごまかしているようにしか見えない。首と手足をひっこめたところに、サイズが丁度の浮き輪をはめられて、亀は捕らわれ(=gefangen)て身動きとれない状態なのだ。助けてほしいかもしれないが、そんなことは、形の描写には含まれていない。

「月面ボートは(中略)なにかの構造物を回避したところだ。」は……正直、ひどい。ハミラーが何を見たのか、訳せていない。ちょっとカンマで文章が区切られていると、すぐ主語も目的語も見失ってしまうのは『バルディオク』の時と同様だ。
「物体の月面ボートから見て反対側で、何かが生じている。その何かは、環状構造(ハミラーの曰く救命浮き輪)を突き抜け、突出している。」
ボートは、あくまで位置関係を示すものであって、何も能動的動きはしていない。ここでハミラーとレッドファーンは、円盤構造体から大きく張り出した後部駆動ブロックの生成を目撃したのである。

リングの断面は「円形」kreisförmig と書かれている。これを「断面は半円形」と訳したのは、「赤道環」と球形艦と同じ訳語にした弊害としか考えられない。後述するが、訳者さん、いちおう資料(イラスト)にはあたっているようだが、この断面図解を見ていなかったようだ。これさえ見ていれば、格納庫リングの断面が円形なのは一目瞭然なのだが。
少し計算すればわかるが、1500メートル径チューブのリングが、艦本体と接する側のない断面半円形なら、全体の直径は1.5キロしか増えないはずである。半円の隆起が上向いてたりしたら、ものすごいカタチだよ?

さて、続いては、問題の「六辺体」である。原語は、ない。日本語としても、はじめて目にした。
実はジョニー・ブルックによる《バジス》のイラストには、何種類かのバージョン(笑)があって、艦首操船ブロックが球形船になっていたりするものまで存在する。
後部駆動ブロックも、上記図面のように方形から裾が広がっているもの、方形に、円形漏斗が付属したもの、(今回、実例をまだみつけられなかったが)方形ではなくスカート断面が六角形のもの、などがある。訳者さん、どこかでこの最後のパターンを目にしたことがあったのだろう。

にしても、「六辺体」はなかろう。六角錐、くらいがせいぜいではないか。そもそも、該当する位置にある原語が Quader 「直方体」なのだ。他の資料を探してみるくらいのことが、どうしてできなかったのだろう。

……あとは、まあ、大同小異である。
おおよそこれで、後々長くローダンの旗艦となる《バジス》の形状はご理解いただけたのではなかろうか。……だといいなあ(笑)

「SFはやっぱり絵だねえ」とは、わたしの敬愛する野田大元帥の弁だ。最近だと、「ラノベは絵ありき」と混同されてしまいそうだが(をひ)、古今SF関係者は、その空想世界をもっともらしく「絵」にすることに腐心してきた。
ローダン・シリーズの場合は、4話に1回掲載される「断面図解」がその典型だろう。様々な種族の宇宙船や技術が、数百葉の図面となってシリーズを陰から支えている。
訳者さんたちも、たまにはそんなものに触れてみるのも、理解度を深める意味で必要なんじゃないだろうか。

いや、まあ、中には「ありえねえだろ!」とツッコミ入れたいようなものも、ないとは言わないけどね?(笑)

■Perrypedia:Die BASIS
■Perrypedia:Risszeichnungen der Perry Rhodan-Heftserie

バジスバジス亀の子バジス (2)

前回から、だいぶ間が空いてしまった。
正直、内容確認・精査のためにページをめくるたびに誤訳の山で遭難するのに心身の危険を感じたのもある。よくもまあ「マールは大好物」とか書けるものだと思うわ。いやマジで。

謎の「宇宙船一万隻」

該当箇所は、基本はこのあたり:

ハヤカワ版(p140/141)
「あの物体の質量をご存じですか?」とハミラーがたずねた。
「巨大だとしかわからない。三十秒前に報告がとどいたばかりだ」とティフラーは、「だが、計画の全容がわかりそうだな!」
「一ギガトンあります!」
 首席テラナーは息をのみ、とっさには答えられない。
「ギガトンというと……十億トンか!」
 ハミラーがうなずく。
 ティフラーはすばやく暗算した。つまり、あの物体の総重量は、宇宙船一万隻にひとしいということだ。それが意味するところは……ハミラーがいった数字は、たんに外被と構造材の質量だけで、機械装置や燃料はいっさいふくんでいない。最新型高性能船のイオン化・凝集された燃料を搭載すると、質量はその数倍になるだろう。
 空虚質量で一ギガトンとは……!
 二千五百メートル級の中規模艦隊に匹敵するではないか!

で、この文章(実際に質問をうけた時点では「一ギガトンあります!」から)に関する質問は、
 A) 「空虚質量」って、空(カラ)重量じゃないの?
 B) 「宇宙船一万隻」って、原文なに?
問Aについては、ほどなく解決した。原語が Leermasse なので、そもそも誤訳ではない。とゆーか、ちょっと好奇心でネットにあたってみたら、ミリタリー系は空重量、航空機系は空虚重量、自動車業界が乾燥重量で、宇宙飛行関連が空虚質量だった。無重力だからね(笑)

ただ、これはもう完全に趣味の領分ではあるのだが、正しければいいのか、とゆー考え方もある。似たような例に、「空虚空間」Leerraum や「ハイパー空間」Hyperraum が挙げられる。「虚空」や「超空間」では何故いけないのか。いまのマニュアルだと、『超空間からの殺人鬼』も『虚空のルクシード』も存在しえないのだ。閑話休題。

問題は、問Bである。

原文:
  “Wissen Sie, was für eine Masse das Zeug hat?” fragte er.
  “Ich habe die feste Absicht, es in etwa dreißig Sekunden zu wissen”, antwortete Julian Tifflor. “Dann nämlich, wenn Sie die Katze aus dem Sack lassen!”
  “Rund eine Gigatonne!”
  Die Zahl verschlug selbst dem wortgewandten Ersten Terraner für einen Augenblick den Atem.
  “Eine Gigatonne!” brachte er schließlich hervor. “Eine Millarde Tonnen!”
  Hamiller nickte.
  In Tifflors Verstand tanzten Dutzende von Ziffern einen verwirrenden Reigen. Er ging von der Annahme aus, daß aus den mehr als einhunderttausend Einzelteilen einst eine Art Raumfahrzeug entstehen würde. Das bedeutete: Die Einzelteile stellen lediglich die Außenhülle und einen Teil der stützenden Struktur dar. Die Masse, die Hamiller ihm genannt hatte, enthielt keinerlei Beitrag von Einrichtung und vor allen Dingen nicht von Treibstoff, der bei modernen Hochleistungsschiffen, da er in ionisierter, dicht gepackter Form transportiert wurde, ein Vielfaches der Leermasse des Fahrzeugs ausmachte.
  Eine Gigatonne nackte Leermasse!
  Das entsprach einer mittleren Flotte von Giganten der 2500-Meter-Klasse!

試訳:
「あれがどれだけの質量かご存じですか?」
「三十秒後なら知っていること間違いなしだな」と、ティフラー。「きみが秘密を開陳してくれればの話だが!」
「およそ一ギガトンです!」
 この数字には、さしも能弁な第一テラナーも瞬時ことばを失った。
「一ギガトン!」と、ようやく口にする。「十億トンだな!」
 ハミラーがうなずいた。
 ティフラーの脳裏で、一ダースもの数字が乱舞する。まず、十万を超えるパーツ群が、やがて一隻の宇宙船を構成するという前提に立ってみよう。すると、パーツ群は外殻と支持材の一部でしかない。ハミラーが告げた質量には、艤装や、なにより燃料が含まれていない。近代的高性能艦艇では、燃料はイオン化され、高密度に凝縮された形態で搭載されるため、艦それ自体の空虚質量の何倍にもなるはずである。
 空虚質量だけで一ギガトン!
 二千五百メートル級巨船の中規模艦隊に匹敵するではないか!

……。
相変わらず、自分の思い込みで決めた訳語にひっぱられて文章ができあがっている感がある。
この段落を通して、ティフラーは頭の中でちょっとしたパニックを起こしながら、それでも真面目な優等生ぶりを発揮して、がんばって考えるのである。
 1ギガトンだしー
 えーと、前提がアレだしー
 あーなるしー
 こーなるしー
 ……え、1ギガトンっ?
と、最後に「えっ」と口をあんぐり開けて、「ウルトラ戦艦中規模艦隊分じゃないの!」なる結論にいたる。そうした思考のプロセスを順に描写しているのだ。

ハヤカワ版だと、暗算はじめた直後に、計算結果が出たみたいな文章になっている。どうしてこうなったかというと……
単語を読みちがえているのである。Einzelteile(他のページでは「パーツ」と訳してる)が、なんでかしらんけど「宇宙船」になってしまっている(しかも、数字の桁が減っている)。

パーツ10万個 ≠ 宇宙船1万隻

「宇宙船一万隻」……って、どこからきたんだろ? Einzelteile (個々のパーツ【複数形】) を Flottille (小艦隊) と読み違えた? いや、Einheiten(艦艇群)と勘違いしたのか?
そして「宇宙船何隻分」と誤解した時点で、「十万隻じゃ多すぎるし、一万隻にしとこうか」と勝手にいじってしまったのだろうか。「あとがきにかえて」でも、“ありそうな数字”に調整すべきとかのたまってるし。

原文を見てもらえばわかるとおり、ここでは 100000 とか 10000 と書いているのではない。
hunderttausend(十万)と書いてあるのだ。
zehntausend(一万)とは書いていないのだ。
どうして原文の間違いと決めつけて訂正してしまうのだろう。まず自分が単位を間違っていないか確認しようよ? 辞書をもう1回引くだけで済む話だと思うのだが。

で、これまた「あとがきにかえて」で、いろいろと「推測」しているが、例えばPerrypediaには、

ウルトラ戦艦の質量:およそ600メガトン

という記載が、ちゃんとあったりする。約6億トンである。

空虚質量+燃料その他で数倍になるそうだが、この項目が艤装前・済どちらかは明記されていない。折衷案として、単純に半分として3億トン。これで計算すると、総量1ギガトンだと、ウルトラ戦艦3~4隻、という数字が算出される。
個人的には、十万隻単位の艦船が繰り出されるローダン世界で、3~4隻が「中規模」か否か、判断に苦しむところだと思う。しかし、それを決めるのは、わたしでもないし、訳者でもあるまい。

また、これはもう余談に類するが、同じくPerrypediaに、

改装後の《ソル》の総体積は176億立方メートル、質量は36億7000万トンとなる。

出典:2400話

という解説がある。

たしかに上記は中央船体が全長3000メートルに延長された2000話の頃の数字だし、バルディオク・サイクル時代とは素材が異なる(インコニットからカーライトになっている)。だが、「目安」にするならこういう「ローダン宇宙にある数字」に頼るべきではないか。探せば、作家チーム(主にマールやシェール)の考えたデータが、実はいくらでもあるのだ。

Perrypediaはあくまでもドイツのファンダムが主催する企画で、二次資料だからあてにならない、とゆー立場をとるのなら、まあそれはそれでいい。だが、だったら自分の常識(巻末で述べている数字は、結局どれも訳者個人の常識であるし、「現実の地球上にある数字」に基づいている)を立脚点にするなんて手抜きなコトをしちゃ、まずかろう。
とゆーか、重量を問題視するなら、同時にもう片方の、意味不明なうえに訂正を入れた数字「一万隻」の説明も、きっちりしてもらいたいものである。

あと、トランスフォーム砲でギガトン爆弾をバンバン撃ちまくる戦闘の指揮をとった経験もあるティフラーが、ギガトンという単位に目を丸くするのが、個人的にはむしろ驚きである……と言ったら、マガンに「ダイナマイトも原爆も太陽も、適当な距離をおいて見たら、どれも爆発してる火の玉にしか見えないんじゃない?」と反論された。
そうか、【TNT火薬1000】ギガトン【相当】爆弾だから、これまた脳内数字だけってことか……。実物(パーツ群)が目の前にあるのとでは、感ずるところは違うのかもしれないやねえ。

あと、熟語 die Katze aus dem Sack lassen 「猫を袋から出す(秘密を明かす)」の意図するところくらいはちゃんと理解してほしい。計画の全容は、いまだネーサンのメモリのうちである。「あれの質量、知ってる?」のクイズの答えでしかないのだ。
閑話休題。

ハヤカワ版P130でも「大型艦船百隻ぶんと同等の規模」と推測された《バジス》の質量が、どうして「宇宙船一万隻」になってしまったのか。意地悪いかもしれないが、もう少し調べてみた。
1章~3章あたりを探してみたが、Metalteile とか、そのもの Teile とかはあるのだが、Einzelteile は3個所しか見つけられなかった。しかも内1つは訳していないので参考にならない。
とはいえ、「パーツごと」「“パーツ”の群れ」という訳が確認された。

以下に、前者を抜粋する:

ハヤカワ版(p143-145)
「礼をいうのはこちらだ。それで、“外”がどうなっているか、知っているか?」
 首席テラナーはそういいながら、制御コンソールのスイッチ類を操作した。次の瞬間、室内が暗くなり、壁一面にルナ表面がうつしだされる。正確には、その上空……星々をちりばめた宇宙空間が。やがて、その一画を移動していく、怪物じみた巨大な堆積物に焦点があった。
 ケルシュル・ヴァンネはしばらくそれを見つめたあと、
パーツごとに浮遊する物体……あれがネーサンのいう“バジス”でしょう。ただし、まだ完成していないのは明らかです。さらに追加のパーツが必要で……たとえば、上部構造があれば、もっと完全なものになるはず……それをどう呼ぶかは、おまかせしますが」
 ティフラーは立ちあがって、数歩行ったりきたりしたあと、ヴァンネを見てほほえみ、
「わたしの疑問を、すべて一瞬で解消してくれたな」と、いった。「そのとおりだ。まちがいない。で、ネーサンは“バジス”でなにを意図していると思う?」
「ただの予想ですが」と、コンセプト。
「きみはラヴァラルから、人類への任務を持ち帰った。“それ”は大規模遠征部隊の派遣をもとめたわけだ……“パン=タウ=ラ”という名の、謎に満ちたなにかを発見するために。だが、わたしはそれを拒否した……現時点では、人類にそのような遠征部隊を組織する余力がないから」
 振りかえって、巨大スクリーンを見上げ、
「思うに……あれはその決定に対する反応ではないか」と、いった。「いずれにしても、なにが欠けているのか、興味があるな!」

原文:
  “Dafür danke ich Ihnen”, erwiderte Julian Tifflor. “Und jetzt zu der Frage, die Sie eigentlich erwartet hatten: Wofür halten Sie das dort draußen?”
  Er betätigte einen Schalter an der Kontrollkonsole seines Arbeitstischs. Im selben Augenblick wurde der Raum dunkel, und an der Wand erschien ein Ausschnitt der Mondoberfläche mit viel sternenbesätem Weltraum darüber und der monstrosen Ansammlung von Einzelteilen genau im Fokus der Aufnahmegeräte.
  Kershyll Vanne sah das Bild eine Zeitlang an. Dann sagte er:
  “Das Ding, das in Einzelteilen dort schwebt, nennt sich nach NATHANS eigenen Worten die BASIS. Eine BASIS an sich ist unfertig. Sie braucht etwas: einen Überbau, eine Vervollständigung – nennen Sie es, wie Sie wollen.”
  Julian Tifflor ging ein paar Schritte, kehrte um und kam wieder zurück. Als er Kershyll Vanne anblickte, lächelte er.
  “Sie sind meiner Frage geschickt ausgewichen”, sagte er. “Sind Sie sicher, daß Sie keine Ahnung haben, was NATHAN mit der BASIS bezweckt?”
  “Eine Ahnung habe ich schon”, antwortete Kershyll Vanne.
  “Ich auch”, erklärte Julian Tifflor. “Sie kamen von Lavallal mit einem Auftrag für die Menchheit zurück. ES wollte uns auf eine großangelegte Expedition schicken. Wir sollten ein geheimnisvolles Etwas suchen, das sich PAN-THAU-RA nennt. Ich antwortete ihnen, daß die Menschheit im Augenblick weder die Mittel noch das Interesse habe, eine solche Expedition in die Wege zu leiten.”
  Er wandte sich um und wies auf das großflächige Bild.
  “Die Sache mit den Mitteln hat sich anscheinend soeben erledigt”, schloß er. “Was uns jetzt noch fehlt ist das Interesse!”

試訳:
「感謝する。さて、それでは先刻きみも予期していた質問といこう。外にあるあれは、いったい何だと思う?」
 ティフラーが執務卓備えつけの制御コンソールのスイッチを押した。同時に部屋が暗くなり、月面の一角が壁に映し出された。上空は満天の星におおわれている。カメラの焦点がぴたりと合わされたのは、パーツ群の怪物的な堆積である。
 ケルシュル・ヴァンネは、しばしその映像をみつめてから、
パーツ群の形で浮遊するあれこそ、ネーサンのいう“バジス”でしょう。バジスそれ自体は未完成。まだ何かを必要としています。上部構造なり、パーフェクションなり……お好きなように呼んでください」
 ジュリアン・ティフラーは数歩行きつ戻りつし、ヴァンネに向かいあうとほほえんだ。
「うまく質問をそらしたな。ほんとうになんの考えもないのか? ネーサンが“バジス”で何を意図しているのか」
「予感ならば、ひとつ」ケルシュル・ヴァンネがこたえる。
「わたしもさ」と、ジュリアン・ティフラー。「きみはラヴァラルから人類への使命をもちかえった。〈それ〉が、われわれに大規模遠征隊を派遣させたいという。パン=タウ=ラという名の、謎めいた何かをみつけだせと。だが、わたしは、人類には現状そんな遠征隊を送り出す手段も興味もない、と回答した」
 ふりむいて、壁の大画面を指し示すと、
「手段の問題は、どうやら解決したようだ」と、結んだ。「あと足りないのは、興味だけだ!」

……。
そして興味(関心)は、クレタ島方面からデメテルさんの格好でやってくるわけだが。
ああ、いや、Einzelteile の話だった(笑) ここではちゃんと訳しているので、意味がわからなかったわけではないらしい。じゃあ、訳語も数字も原文と異なっている「宇宙船一万隻」は、いったいどこから侵蝕してきたのだろうか。

いや、時々心配になるのだ。わかった部分だけで日本語にしてるんじゃなかろうかと。上記の抜粋が必要箇所に比してやたらと長いのは、ティフとヴァンネの会話が、今回あっちでもこっちでも遭遇した、原文無視の誤訳のいい例だからでもある。
こういう「仕事」を見るにつけ、P296で訳者さんの主張している、

“ありそうな数字”に調整すべきだと思っている。

には、(うちの掲示板でのレスとは違う表現になるが)わたしは賛成できない。そもそも“ありそう”という判断を下す前の段階で、単位や、桁や、前提条件や、話の展開が信用できないからだ。ストーリーや前提を無視して、単位や桁を間違っている人に、これは少なすぎる、これはおかしいといじり回されたら作者は涙目である。

……どんどんgdgdになってきた。
ここは無理くり切り上げて、第3回「バジスのカタチ」につづくとしようorz

バジスバジス亀の子バジス (1)

昔、《ソル》といえば鉄アレイ、《バジス》といえば亀の子タワシだった(私的見解)
ダンベルと聞くと、どうしてもバーベルの縮小版を連想してしまうわけだが、まあそれは今回はさておいて(笑)
亀の子タワシは、ぐるりと輪で結束されているあたりが、いかにも《バジス》っぽくて微笑ましい比喩であったのだ。さて、いよいよその登場回だが。

しかし、まず最初に、わたしの苦手な分野からすませてしまおう。
数字の訂正の話である。
7/31 参考文献追加
   そして単位をそろえてねぇええっorz箇所訂正

テラワットとキロワットの深くて暗い溝

■ハヤカワ版(P15)
「計測可能な活動に必要な消費エネルギーの総計は、十八テラキロワットに相当しますが、実際の消費量は二十六テラキロワットになっています」

原文:
  “Die Summe aller beobachtbaren Tätigkeiten der Hyperinpotronik entspricht einem Leistungsverbrauch von achtzehn Terawatt. Der tatsächliche Leistungsverbrauch liegt bei sechsundzwanzig.”

試訳:
「ハイパーインポトロニクスの公開された活動を合計すると、消費電力は十八テラワット。ですが、実際の消費電力は二十六テラワット前後に達しています」

Leistungsverbrauch は「消費電力」。何ワットの電力を消費するか、という言葉である。相当する、じゃなくて、まんま電力のお話。
「ネーサンは、公称18テラワットの出力(発電能力)がある発電所をフル稼働させますといいながら、実は26テラワットの出力(電力)を使用していました」ということだ。

○「26テラワットを使った」
×「1時間あたり26テラワットを使った」
×「年間累計で26テラワットを使った」

「あとがきにかえて」で訳者さんがいろいろと書いているが、どうやら、意味をちゃんとわかっていないデータを横並べにして、意味の異なるデータを「比較」して、とんでもなく間違った結論を導き出している。
本文で話題になっているのは、出力(発電能力)をどう分配(使用)しているかである。
作業内容が明らかなものが18テラワット、隠蔽されていたものが8テラワットということだ。合計26テラワット。

さて、そこで問題なのが、

■ハヤカワ版(P262)
日本の電力会社の総発電量というものが、(中略)それを合計してみたところ、一時間あたり最大で二億キロワットほどになった。

一般にいう日本の電力会社の総発電量、というのは出力(発電能力)の話。「東電が6500万キロワットの発電能力がある」とか、TVでもよく見かけるようになった。日本全体では最大2億キロワット前後を生産できる。
ただし、(キロ)ワットに、「1時間あたり」という意味などない。

単位をそろえて比較してみよう。

ネーサン管轄下の発電能力 26テラワット=26兆ワット
日本(2012年)の発電能力 2億キロワット=2000億ワット

26兆ワットって、「すくなすぎる」かな?

次に問題なのは、

■ハヤカワ版(P262)
二〇〇八年の世界の総発電量は二十兆キロワット、そのうち日本が一兆キロワット

そんなデータはない。とゆーか、そもそも単位が間違っているのだ。
正しくは、「二〇〇八年の世界の総発電量は二十兆キロワット時、そのうち日本が一兆キロワット時」である。

キロワット時は、「ワット(仕事率)×時間」であらわされる、仕事量である。
日本の総発電量が一兆キロワット時、というのは、2008年の1年間に作った電気を【1ワット×1時間】という単位で数えたら、1000兆個あった、と言っているのだ。
なので、上記・年間の総発電量とは、出力××キロワット(日中or夜間や、季節ごとに可変)で8784時間(366日×24時間)にわたり発電したエネルギー総量のこと。それは桁もくりあがろうというもの。そもそも前2つと同列に論じるべきではない。

ちなみに、18テラワットの出力で発電し続けた場合の総発電量は:
1時間で、“18テラワット時”である。
2時間で、“36テラワット時”である。
1年間では、18テラワット×(366日×24時間)=158,112テラワット時
となる。

単位をそろえて比較してみよう。

ネーサン管轄下の年間発電量 15京8112兆ワット時
2008年の世界の年間発電量 20兆キロワット時=2京ワット時

15京ワット時は、「すくなすぎる」だろうか?

ちゃんと検証しないで、原文の内容を改竄するとか、噴飯モノである。
上記総発電量などを参照すると、世界に占める日本の発電力は5~6%だから、2012年における地球の総発電力は大雑把に4テラワット前後と考えられる。その数倍である原文の数字のままで、なんら問題はないのであった。

ひるがえって、Perrypedia等をひもといてみると、
・ダッカルカムによる銀河系=グルエルフィン間通信に必要な出力が50テラワット
・《クレストIII》の発電力18995テラワット
・《TS-コルドバ》の発電力80万テラワット
といったものすごい数字(笑)がぽろぽろ出てくる。軍事と民生等の差もあろう。しかし、1978年時点でこの話を執筆したマールは、むしろ比較的「現実的な」数字を出したと、そう考えてしかるるべきではないだろうか。

そもそものはじまりは、《バジス》の重量や形状について、訳文でわからない箇所について質問を頂いたことだった。本題にいく前に、このありさまである。いやはや。
と、いうわけで、次回は「謎の宇宙船1万隻」について考証する。

■総務省統計局:世界の統計 第6章 エネルギー 最新版(2019年時)のページ
■時事ドットコム:42年前と現在の電力事情比較 (リンク切れ)

マルゴールの能力について

PSI-Affinität / プシ親和性、プシ相性
PSI-Kräfte / プシ力、プシ・エネルギー

なんだか素敵な訳でわかりづらいようなので(笑)
 6/25 若干の修正・追加

原書23頁:

原文:
Schon oft in seinem Leben hatte der Mutant Menschen getroffen, zu denen er eine PSI-Affinität besaß.

試訳:
 その人生においてミュータントは、自分とプシ的親和性のある人間にしばしば遭遇していた。

なじむ 実に! なじむぞ フハハハハハ(by DIO様
能力が効きやすい相手、である。ハミラーは良いカモなんであって、別に、マルゴールが親近感とかシンパシー感じちゃうわけではない。

原文:
Boyt Margor hatte die Fähigkeit, PSI-Kräfte anzupeilen, sie danach in sich zu sammlen und zu speichern, bis er sie benötigte. Wenn er sich danach auf einen Menschen konzentrierte, mit dem eine spionische Identifikation möglich war, strahlte er diese Energie wieder ab – und erzeugte damit ein willenlosen Opfer, einen Menschen, der ihm völlig ergeben war. Boyt Margor bezeichnete sich selbst als parasensiblen Motivlenker.

試訳:
 ボイト・マルゴールにはプシ・エネルギーを感知し自分のなかに集め、後に必要とするまで蓄えておく能力があった。そのあとで、本人に悟られぬまま個体確認した人物に向け、そのエネルギーを再放出すると――意志なき犠牲者、かれに心酔しきった人間の誕生である。ボイト・マルゴールは自分のことを、パラ感覚・動機誘導能力者と呼んでいた。

要するに、ヒュプノ? 暗示能力者? とか言われていたものである(笑) >マルゴール
parasensibler Motivlenker は「パラ的に感性鋭敏に動機を導く人」。ぶっちゃけ、「あの世から御身に集めた超自然パワーで、人知れず人々の内を照らし、人々の思いを導くパラ教祖さま」である。だから、導かれちゃった人々は、尊師(笑)がありがたく見えてしかたがないのだ。
ハミラーも、だから、マルゴールの姿に驚いたわけではない。前に会ったことあるし。そうではなくて、前との受ける印象のちがいに驚いているのだ。おっと話がいきすぎた。
動詞 anpeilen は「方向をさだめる、方位測定する」。名詞 Kraft(これも Mächtigkeit と同じく「力」の意だ)の存在する方向を測定することなので、感知する、としておいた。照準をさだめるとかじゃないよ?
#解放もしないし、ましてや当節はやりの「再生可能エネルギー」能力者でもないよ?w

ただ、感知したプシ・エネルギーを吸収する能力があることは、後日、マルゴールの運命を決定的にさだめることになる……ので、ちゃんと訳しておいてほしかったな、ということだ。
以前にも、プシ・リフレクターを精神反射装置と訳す(850-851話)とか、いまいち、プシってものに関する認識が甘いんじゃなかろか。

超能力とかプシオンとか、しょせん虚構の産物なわけだけど、そこをそれらしく見せるために作者がつくしたあの手この手を、これまたそれらしく訳せるか否かで、見せ場を見せ場として読者に提供できるかという、商品のできばえが変わってくると思うのだ。でも、馬の耳に念仏釈迦に説法かこれは。尊師だけにw

また850話・バルディオク裁判

一段落ついたし、今回はもういいか、と思ったら、ロルヴォルクの城よりどでかい墓穴を掘る音がどこかから聞こえてきたので、もうちょっとやろうか(笑)

さすがにこの分量の「引用」はまずいので、基本、わたしの試訳だけである。ご了承のほどを。
太字にしてある箇所について、原文と解説(笑)を付記している。
誤訳っぷりをより堪能したい方は、ハヤカワ版と併せてご覧いただきたい。
6/16 ケモやん関連・結び等、追加修正
6/17 対比元の文章追加とか、いろいろ微調整

超知性体バルディオクの成立

10. 処罰

 ケモアウクとバルディオクが物質化した地点では、“平面”はもはや断片にすぎなかった。ギザギザに崩れおちた縁をさらした鋼鉄のかけらである。

すでに“平面”関連はだいたい紹介済だが、前の記事を見直していて、ありゃ、と思った。141pのバルディオクの物質化シーン。「“平面”のなかに」in der Ebene だった。auf der Ebene (平面上に)でない時点で、人工物内部であることに気づくべきであった。……と、最初の時点で書いていれば格好よかったんだけどね(笑)

 象徴だ! バルディオクは身震いした。これほど象徴的なことはない。
 七強者の時代は終焉をむかえた。“召喚”をもたらす、物質の泉の彼岸に住む連中は、プロジェクトを打ち切ったか、あるいは使命を与えるべき別の存在を探すのだろう。

原文:
Jene, von denen der RUF ergangen war und von denen man annahm, daß sie jenseits der Materiequellen lebten, hatten ihr Projekt abgeschlossen, oder sie würden sich sie nach anderen Wesen umsehen, denen sie Aufträge erteilen konnten.

直訳すると、「~打ち切ったのだ。それともこれから後任を探すのかもしれないが。」後半は、例によって接続法未来。ハヤカワ版のように「探したのかもしれないが(≒過去)」では、後任見つからなかったので打ち切り、になってしまう。探した結果は、エピローグで明かされる。

「見ろ!」ケモアウクが命じる。「これが残されたすべてだ。あるいはもっと外部にはほかの破片もあるのかもしれないが、きっとここよりましとはいえまいよ

原文:
aber das sieht dann bestimmt nicht besser aus als dieses hier.

ハヤカワ版は「ここからは見えない」としているが、分離動詞 aussehen 「~のように見える」が読めていない。das (それ=ほかの破片)は、nicht besser (よくない状態)に見える、ここにあるこの破片より(比較級 besser + als で比較級)。

「ホールは?」
「もはや存在しない」
「では……きみたち、別の集合場所を探さなくては」バルディオクが慎重にいった。

原文:
“Ihr… ihr werdet einen anderen Treffpunkt suchen müssen”, sagte Bardioc behutsam.

セリフ中の主語は二人称複数の ihr である。つまり、今後集まるメンバーにバルディオクが入っていないことを想定している。そこんとこを「慎重にいった。」のだ。原文は、大事なことなので2回いっている(笑)のに、まるまる削除するとか、わかってないんかい。

「そうだな」応じるケモアウクの瞳は、虚空へと向けられていた。
 バルディオクは他の者の姿をもとめて周囲を見まわしたが、明らかにふたりが最初に到着したようだ。ひょっとしたら、だれも来ないのでは。バルディオクはそう望みたかった。そうなれば、問題はケモアウクとだけで解決すれば済む。

原文:
Vielleicht, hoffte Bardioc, würden die vier anderen nicht erscheinen, dann konnte er die Sache mit Kemoauc allein austragen.

ハヤカワ版には最後の一文がない。単に冗長だということで削除されたのだろうか。
他の連中こないといいなー。そうすりゃ、(自分に同情的な)ケモアウクとだけ話せばいいんだもんなー、である。
バルディオクは、この時点でまだ事態を甘く見ているのだ。ずっと頼れるリーダーだったケモアウクが、ちらりと見せたやさしさに、情状酌量くらいなら勝ちとれる、と。
実はケモアウクもまた、深く静かに壊れかけているのだが……

わたしを発見した、と報告すればいい」と、提案する。「わたしは隠遁し、二度とあらわれない」

原文:
“Du könntest sagen, daß du mich gefunden hast”,

ハヤカワ版は「発見しなかったことにしてくれないか?」(うやむや)だが、「みつけて、ナシつけてきたぜい」(ミッションコンプリート)が正解である。
ケモやんがダメなら俺が俺が……と、なる、のかな? いまの強者連中でw

 ケモアウクの顔が、はじめて、わずかにこわばった。
「だめだ!」と、拒絶する。
 バルディオクはそれ以上詰め寄らなかった。意味のないことはわかっていたのだ。他の兄弟たちが、かれを罰するだろう。それで正しいのだ。今後再び、心をおなじくして行動すると約束したところで、どうしてバルディオクがそれを守ると信じてもらえようか。

原文:
denn wie konnten sie sich darauf verlassen, daß er ein Versprechen, in Zukunft wieder ihrem Sinn zu handeln, auch einhalten würde?

ハヤカワ版だと「ここを去ることができた場合も、自分が将来にわたって約束を守れるとは思えなかった……」と、バルディオクが意志の弱い子になってしまっている。
動詞 verlassen は確かに「離れる、立ち去る」だが、再帰動詞 verlassen sich (auf) には、「~を大丈夫だと思う、信頼する」の意味があるのだ。「できるか?」と訊かれたときの回答に、「まーかせて!」的に、わりと見かける用法だ。
そして、主語が sie 「彼ら」である。つまり、彼ら=ケモアウクら他の兄弟たちが「(バルディオクを)信頼できないだろう」と、書いてあるのだ。

 アリオルクが物質化して、バルディオクの思索を断ちきった。
 虚栄心に満ちた強者はあらたな衣服をまとっていた。幻想からとりだしたような、狂った装飾と唾棄すべき色彩の制服めいたやつだ。両腕の肘から先だけ持ちあげて、踊るようにバルディオクに歩みよった。
「親愛なるバルディオク」と、慈愛に満ちた声で、「いったいどうして、こんなことになったのだ?」
「そのなりを見てみるがいい!」バルディオクは侮蔑をこめて、「一目瞭然だろうが!」

原文:
“Wie hatte es nur dazu kommen können?”
“Sieh dich an!” antwortete Bardioc verächtlich. “Dann weißt du es!”

アリオルクの質問「なぜ?」を「なにが起こったのだ?」と誤訳した時点でアウト。
バルディオクの返答は、分離動詞 ansehen「正視する、見てわかる」で、「自分(のイカレた服装)を見てみろ!」となる。俺も、おまえも、今の仕事に疲れてブッこわれちまったんだよ、ということ。

 アリオルクは一瞬たりと動じなかった。バルディオクの周囲をぐるりとまわる。まるで観察に値する珍獣だとでもいうように。

原文:
für keinen Augenblick

一瞬だけは、für nur einen Augenblick である。言わせんなよ恥ずかしい。

「どこで見つけた?」と、ケモアウクに訊ねる。
「どこでもよかろう」ケモアウクは曖昧な身ぶりをして、「それが何の役に立つ? わたしはかれを見つけ、ここへ連行した。重要なことは、それがすべてだ」

原文:
Spielt das eine Rolle?

ハヤカワ版だと「なにを演じているのだ?」と、ケモアウクがアリオルクを無駄に揶揄している。アリオルクがイカレていることは、ケモアウクにとり既定事実なので、いちいち反応しない(参考:ムルコンの登場シーン)。
主語が du なら、まだわからないでもない。しかし、主語は「それ」 das ――この場合、前のアリオルクの質問「どこで(バルディオクを)見つけた?」とイコールだ。「どこだっていいだろ」というケモアウクの返答の文脈から、わかりそうなものだ。

「で、かれをどうするのだ? 物質の泉に突き落とすのか?」
正気か?」ケモアウクはぴしゃりといった。「かれは処罰されるが、そんな方法ではない」

原文:
Bist du von Sinnen?

「それにどれほどの意味がある?」(ハヤカワ版)って……その訳文は、さっきのとこで使おうぜ。
名詞 Sinn には「意味」という意味(笑)があるけれど、前置詞付きの熟語で von Sinnen sein 「正気をうしなっている」というのが、ちゃんとうちの独和にも載っている。

 その瞬間、バルディオクは気づいた。ケモアウクも、もはやかつてのかれではないのだと。兄弟が自分をリーダーとみなしているというのが、ケモアウクにとっても、これまで暗黙の了解だった。どうやら、その自信が揺らいだらしい。

原文:
In diesem Augenblick erkannte Bardioc, daß auch Kemoauc nicht mehr der alte war.

ハヤカワ版の「ケモアウクはまだ老けこんではいないらしい」というのは、どこから出てきたんだろ。alte を「老人」Alte のタイプミスと見たのかね……。ただ、auch 「~もまた」があるから、他に前例がなければこの解釈は成り立たないのだ。「ケモアウクもまた、もはや老人ではなかった」……だと、変だよね?(パルトクの登場はもっと後だし、元来かれらは不老不死だ)
ここは der alte Kemoauc 「昔のケモアウク」の省略とみなすべき。「今のケモアウク」は自信が揺らいでるから、高圧的な物言いになった……と、バルディオクは思ったということだ。
バルディオクは、まだわかっていない。何百万年にもわたり、つねに冷静沈着な頼れるリーダーだったケモアウクが、史上はじめてキレかけているのだ。

 アリオルクが、差しのべた自分の両手をじっと見て、
「まあ待つさ」それから、瓦礫の上空に生じた発光現象を指して、「どうやらムルコンが来たようだ」
 しかし、あらわれたのは、いかついロルヴォルクだった。かれはアリオルク、バルディオクと視線を移し、それからケモアウクに向かい、
「どちらだ?」と、吠えるように、「アリオルクか? バルディオクか?」
「どちらだと思う?」ケモアウクが反問でこたえた。
「アリオルクだな」と、ロルヴォルクは躊躇なく、「こいつが裏切ったのだ」
 ケモアウクが笑みを浮かべた。
「わたしだ!」と、バルディオク。
 ロルヴォルクは肩をすくめた。
さっさと済ませてしまおう。あとの連中はいつ来るかわからん。裁判官が、五人から三人になったところで変わるまい」

原文:
“Wir wollen die Sache hinter uns bringen”,

ハヤカワ版だと「では、問題解決だな」と、ロルヴォルク超せっかちさんである。
ここは、「われわれ、この案件を過去のものにしたいのだ」が直訳。
一部の北米先住民の神話だと、未来は後ろからくるものみたいだけど(笑) 後にしてきた、といえば、だいたいは「済ませてきた」=「過去にした」だろう。
主語が wir なのを、「みんなー、この問題を過去にしたくないかー?」という某大陸横断ウルトラクイズのりでとらえてみたのが、上記試訳になる。

「いや」ケモアウクが反駁した。「待つのだ」
 ロルヴォルクは悪態をつくと、瓦礫の上にあがり、うろつきはじめた。
まるで先延ばしにできない仕事を中断された労働者のようだ。バルディオクは憐憫とともに思った。だが、そんなことはありえない。
 おそらくロルヴォルクは、今回の危機を兄弟のなかで最もたやすく乗り越えるだろう。いかつい風貌は、その魂の表出といえた。
 しばらくすると、ムルコンがあらわれた。あるいは謎めいた客人たちを連れてきたりしないかとバルディオクは案じていたが、さすがに杞憂だったようだ。
「想像できるかね」と、ムルコンは挨拶代わりにいった。「わたしは宇宙の城をうしなうだろう

原文:
Ich werde meine kosmische Burg verlieren.

ハヤカワ版では「うしなった」とかなっているけど、接続法ですらない、単純な未来形である。I will lose my castle. だ。まだ、うしなってない。(後述)
また、単純な未来形であることは、「城をうしなう」という事実が、ムルコンにとって確定的、あるいは希望的な、素直な未来であることを意味する。(これまた後述)

「なんだと?」ちょうど戻ってきたロルヴォルクが、「何をばかなことをいっている?」
 ムルコンは両手をひろげた。いかにも快活なようすで、
「城をうしなうだろう、といったのだ。招待していた者たちが、わがもてなしを悪用してな。叛乱を計画し、城の占拠を宣言した。わたしは内部エリアへの撤退を余儀なくされ、いまはそこで暮らしている。内部エリアも現在包囲され、陥落も、もはや時間の問題だ

原文:
Sie belagern mich, und es ist nur noch eine Frage der Zeit, dann fällt auch dieser Teil meiner Burg.

ハヤカワ版「客たちはわたしを包囲しており、いずれ城の一部を破壊するだろう」って……。
「この部分」dieser Teil =「内部エリア」がわからなかったのだろうか。
それ以前に、Frage der Zeit を「時間の問題」って読めないんかね?

「この件が片づきしだい、われわれも同行しよう」と、ロルヴォルクが申し出た。「ごろつきども、銀河間の虚空に放逐してくれる」
「やめてくれ」ムルコンは拒絶して、「これはわたしと客たちの間の問題だ。つまるところ、かれらを招いたのはわたしだしな

原文:
Schließlich habe ich sie zu mir geholt.

ハヤカワ版曰くのように「解決できる」とは、ひと言もいっていない。そもそも、次のセリフを見ればわかるとおり、ムルコンは解決など望んでいない……けど、なんか解決するっぽく訳してるなあ(笑)

「もどってはいかん!」と、アリオルク。
 ムルコンは顔をなでた。表面的に快活をよそおっているが、バルディオクには、かれがいまにも崩れおちそうに見えた。
「いや、もどる」と、きっぱり宣言する。「叛乱に成功したあと、客たちがわたしをどう遇するか想像すると、胸が躍るのだ。あるいは、今度はわたしがもてなされる側にまわるのかもしれない――おのが城の虜囚として」

原文:
Ich bin gespannt, was sie mit mir anstellen, wenn die Revolte erfolgreich beendet sein wird.

ハヤカワ版は「わたしを捕まえれば、反乱も終わると期待している」だが、wenn「もし~だったら」の位置関係が絶対的におかしい。原文後半は「もし、反乱が成功裏に終結したら」である。
gespannt は「切迫した」あるいは「今か今かと待ち受ける」の意味だが、わかりやすい例をあげると、ネタバレ掲示板等で、「おもしろくなってきた! 次をわくわくしながら待ってるぜ!」てな形で用いられることが多いのである。
したがって、このセリフは「負けてつかまったら、いったい何されるのかなあ(ゾクゾク)」なのだ。ここで、ムルコンもまたブッこわれていることが判明する。
MはムルコンのMだったというオチである(をひ

 バルディオクは身震いした。ふと見ると、ケモアウクもまた同様だった。だが、これまでケモアウクはまだひと言も口をきいていなかった。ムルコンに帰還を思いとどまらせようとも、援助を申し出ようとさえしない。ケモアウクには、かれら全員がどういう状況にあるかわかっている。だからこそ、沈黙を守っているのだ。
「きみが宿を貸している客とは何者なのだ?」ロルヴォルクが訊ねる。「ことこの状況にいたれば、教えてくれてもよいだろう。だれを最初に招いたのだ?」

原文:
Unter den gegebenen Umständen könntest du uns einweihen.

ハヤカワ版は「どういう状況にあるのかはわかった。だが、」。
動詞 einweihen の意味は「伝授する、落成する、(秘密等を)打ち明ける」。「状況を(われわれに)打ち明けた(わかった)」って読んだのかなあ。かなり好意的(強引)な解釈だけど。
素直に考えれば、「与えられた状況下では/きみはわれわれに einweihen できるだろう/(だれを最初に招いたのかを)」となる。状況「を」 einweihen するわけじゃないのだ。

実はこの文章には前段があって、149pの「裏切ったわけではないが」が、「他にだれがいるのか、ムルコンはけっして明かさなかったが」の誤訳なのだ。前回書いた、verraten ×「裏切る」、○「吐露する」の実例なわけ。前提がないから、正しく訳せないわけである。

「いつか訪ねてきてくれ」と、ムルコン。「そうすればわかる」
 そこへ青白いエネルギーの微光とともにパルトクがあらわれた。陰気な男の姿があらわになると、その場の全員を衝撃が襲った。

原文:
Als der Düstere daraus hervortrat,

ハヤカワ版は「どんよりした空が明るくなる。」……。
daraus は「それ(微光)から」。Düstere は、düsterer Mann 「陰気な男」で、実際ハヤカワ版でも前の章ではパルトクをそう形容していた。
だいたい、“平面”の空は、いつも星空じゃろが……って、その前提が成り立ってなかったんだっけ。

 パルトクであることは見違えようがない。だが、かれは“老いて”いた。
「なにをそうまじまじと見る?」と、パルトクは挑むようにいった。
 ケモアウクがかれに歩み寄り、その手をとると兄弟たちのもとへ導いた。
「何が起きた?」と、おだやかに訊ねる。
「見てのとおりだ」パルトクがうなるように、「不死性を放棄した。まだここへやってこられたとは、奇跡だな」
 バルディオクは気が狂いそうだった。兄弟のひとりの変わりはてた姿を見るのは耐えがたかった。
「放棄した?」アリオルクはどもった。「理性をなくしたのか? その喪失にひきあうものなどないのだぞ! なにひとつ!」
 そういうと、アリオルクはパルトクに歩みより、その胸をこぶしで殴りつけた。パルトクは人形のようになすがままであったが、顔をゆがめ、咳き込みはじめた。
「やめるんだ!」ケモアウクが命じた。
「なぜだ?」アリオルクは吐き出すように、「なぜ、そんなことを?」
 パルトクの遠い視線はアリオルクを見ていなかった。その双眸に熱病のような輝きが宿る。バルディオクは、陰気な男の胸中を悟った。その心は、すでにここにはない。
死すべき女を愛したのだ」と、パルトク。

原文:
Einer Sterblichen zuliebe.

ハヤカワ版は「死すべき者のためなのだ」……うん、正しい。正しいよ、独文和訳としては。zuliebe は「(III格と)~のために」だからね。でも、そこに「愛(Liebe)」があることを、ちょっと考えてほしい。
独独をみると「jemand zu Gefallen」(Gefallen は「好意」、 zu Gefallen で「~のため」)とか「weil es jemand gern möchte」(その人が好きだから)とか、要するに「好きな人のため」なのだ。
そして、問題のIII格の名詞は……これ、女性形である。
女で身を持ちくずした」ことがわかんなくっちゃダメだろうwww
だから、アリオルクの質問が「では、きみは自分の城で生きるのだな?」(ハヤカワ版)とか、「彼女と」をとっぱらって意味不明になっちゃうのだ。

 アリオルクがびくりと身を縮め、
「城でいっしょに暮らしているのか?」
「兄弟よ」と、パルトクは泰然と、「きみは何もわかっていない。わたしは彼女のもとで暮らしている。別の世界で、幾百万の死すべき者たちとともに」
「正気の沙汰じゃない!」アリオルクが叫んだ。
「死すべき者の人生は」と、パルトクは夢見るように、「短く、めくるめく陶酔のようだ。美酒に満たされた杯を傾けるのにも似ている。ひといきに飲み乾せば、すべて終わってしまう。狂ってはいないよ、アリオルク。わたしは選択をしたのであって、その結果に満足している」
 ロルヴォルクが兄弟たちの間に歩み出て、パルトクを指さし、
かれが――死すべき者が――不死者を裁けるのか?

原文:
Kann er – ein Sterblicher – über einen Unsterblichen richten?

ここでいう「死すべき者(単数)」はパルトクで、「不死者(単数)」はバルディオクである。こんな単純な比喩表現がわからないのでは、小説なんて訳せるはずがない。
ハヤカワ版では「かれら……死すべき者を、不死者が導くのか?」としている。しかし、「かれら」に相当する位置にあるのは er 「かれ(単数!)」だ。いったいどこで人数が増えてしまったんだろうか。

あと関係ないけど、以前から思っていることだが、ハイフンはハイフン、三点リーダーは三点リーダーとして訳そうよ。使い分けで「溜め」の雰囲気が、がらっと変わるんだからさー。

「わたしはそんなことに価値を見出さない」と、パルトクはいった。「ひょっとして、裏切り者の追放先に、わたしのもとを選ぶ気か? かれを死すべき者たちのもとへ伴うことには、異存ないが」

原文:
“Vielleicht verdammt ihr den Verräter dazu, mit mir zu kommen. Ich bin bereit, ihn mit zu den Sterblichen zu nehmen.”

ハヤカワ版では「もしかすると、きみはそれを裏切りと解釈するかもしれないが……わたしは進んで死すべき者のなかにはいっていくのだ。」となっている。原文中の「裏切り者」、「かれ」が、どちらもバルディオクを指していることさえわかっていないのだ。
前半を直訳すると……「あるいは、君たちは裏切り者に呪いをかける(罰をくだす)かもしれない、わたしとともに行くという」くらいかなあ。

パルトク的には、バルディオクに同情を寄せるところもあり、「死すべき者の世界も、よかとこじゃよ?」みたいな申し出なのかもしれない……バルディオクは冷や汗たらしてる可能性大だが(笑)

「パルトクは依然われわれの一員だ」と、ケモアウク。「ゆえに、かれも評決に参加する」
 “かれを”裁くために集まったことは、すっかり忘れ去られてしまったな、とバルディオクは皮肉に考えた。裏切り者の処罰が問題だったはずなのに、ほとんど話題にすら昇らない。これでは、無罪を告げる以外、選択の余地はないのではあるまいか。とはいえ、そんな幸運が訪れるはずもないこともわかっていた。

原文:
Fast schien in Vergessenheit geraten, daß sie seinetwegen gekommen waren, dachte Bardioc.

ハヤカワ版では、わざわざ強調までかまして「それも、ほとんど〝ケモアウクのため〟の決定ではないか……」とかやっている。おまけに「忘れ去られた」ことが、忘れ去られたようだ(笑)
かれらが(sie)来たのは(gekommen waren)、かれのため(seinetwegen)、なのだ。はて、6人の強者がここに集ったのは何のためであったろうか……。
ケモアウクを賛美するためじゃないだろう?

 不屈のケモアウク、伝統を決してないがしろにしない男が、頑固なロルヴォルク同様、無罪への道に立ちはだかる。この二票に対するのが、ムルコンとパルトク。すなわち、決着をもたらすのはアリオルクということだ。アリオルクは、疑う余地なく、ケモアウクやロルヴォルクと同じ決断を下すだろう。

原文:
Der unbeugsame Kemoauc, der die Traditionen niemals verleugnen würde, stand einem Freispruch ebenso im Wege wie der harte Lorvorc. Diese beiden Stimmen gegen die von Murcon und Partoc, das bedeutete, daß Ariolc die Entscheidung herbeiführen mußte. Ariolc, daran bestand kein Zweifel, würde so entscheiden wie Kemoauc und Lorvorc.

ハヤカワ版では、「ケモアウクは(中略)ムルコンとパルトクを〝無罪〟とした」、「アリオルクは(異議を唱えた)」、「ケモアウクとロルヴォルクの合議で決定とする」って……もう現場で何が起きているのか、読者には皆目わからない。ドイツ語の単語の上に日本語の意味を書いて、意味が通じるように並び替えてみた……という、語学初心者的な訳文だ。
余分な修飾をとっぱらって考えれば、そんなに難しくないのに。Kemoauc stand im Wege / wie Lorvorc. 「ケモアウクが道に立ちふさがる、ロルヴォルクと同じく。」だ。
この本文がわからないまま、「伝統」と「無罪」をどこにあてはめたらいいか迷ったあげく、次の文章と“合体”してしまっている。さらにあぶれた gegen が、アリオルクの方へくっついて……。
機械翻訳ならば、翻訳ソフト買い換えた方が良いよー、と助言するところだが、そうでないのだとしたら、いったい何を買い換えてもらえば良いのだろうか。
die (Stimmen) von Murcon und Partoc. と補うだけで、だいぶわかりやすいと思うけどなあ。

「兄弟よ」と、ケモアウクはバルディオクに、「きみには発言する権利がある。罪を軽減するかもしれない、あらゆることを」
 耳を傾けるものなどいるのか? バルディオクは自問した。
 極刑を決定事項とみなすロルヴォルク?
 おのが城での決定的敗北を熱望するムルコン?
 屍も同然で、心は死すべき女への愛でいっぱいのパルトク?
 自分の見せ場をつくることしか頭にないアリオルク?

原文:
Ariolc, der nur daran dachte, sich selbst um jeden Preis in Szene zu setzen?

これまた名詞 Szene の項に、「sich in Szene setzen 《俗語》自分をひけらかす」とある。ハヤカワ版の「どのようなことがあっても動じない」って、その訳は251pのアリオルクの説明に使うべき(爆)
とゆーか、ここは、壊れてない兄弟の無神経っぷりと、壊れた兄弟たちのダメっぷりを列挙して、バルディオクがあらためて不安かつ悲しい気持ちになっていくシーンである。そういう小説としてあたりまえの表現技法も読み取れないのかなあ。

 聞く耳を持っているのはケモアウクだけではないか。
 そしてケモアウクは全員の行動原理を、おのれのもの同様に承知している。ケモアウクには説明など必要なかった。
「いや」バルディオクはいった。「話したくない」
 ケモアウクは兄弟のサークルを見まわして、
「だれか、バルディオクを弁護しようというものはいるか?」
 だれひとり反応しない。
「では、わたしが弁護しよう」驚いたことに、ケモアウクはそう告げた。「かれの蒙昧を、先見の無さを語ろう。かれに責務を負わせることがゆるがせにされてきたことを語ろう。かれ、不死なる者が、同じ動きしかくりかえさぬ一種の機械たらしめられ、その尊厳が貶められてきたことを

原文:
Ich werde von seiner Blindheit sprechen, von seiner Ahnungslosigkeit. Ich werde davon sprechen, daß man es versäumt hat, ihn in die Verantwortung zu nehmen. Man hat ihn, einen Unsterblichen, zu einer Art Maschine herabgewürdigt, die immer ein und dieselbe Bewegung ausführen muß.

原文中に出てくる主語 man は、「人間一般」を意味する、翻訳の際に取扱いがめんどーな単語のひとつだが、この場合、「世の中(世間一般)」で良い。「バルディオクは悪くない。世の中がみんな悪いんや」である。敢えていうなら、かれら七強者に使命をあたえた「委託者」――後に云うコスモクラート――を指す代名詞と思えばいい。少なくとも man =バルディオクということはありえない。
永遠の生命とか与えられて、あとはただひたすらボタン押すだけの仕事をさせられてたんだから、同情の余地はあるよね? という弁護である。
ここを、ハヤカワ版みたいに「この者は不死者の権威を(中略)貶めたのだ」と誤訳したら、弁護でなくなってしまう。嫌味ですらなく、直球の糾弾である。これに感動して感謝するバルディオクは、言葉責めにもだえるムルコンM2号ということになってしまう(笑)

 バルディオクはそれ以上、耳を傾けなかった。ケモアウクはもう一度、どのようにこの裏切りにいたったかの詳細を語った。その言葉の端々には、理解と――バルディオクにとってはいっそう驚くべきことに――七強者へ使命を与えた者に対する、かたくなな憎悪がにじんでいた。
 よりによって、伝統主義者にして最も忠実なケモアウクが!
ここで問題とされるのは、物質の泉の意味や“召喚”の正当性ではない。それらすべてに異論の余地はない。問題は、われわれが無慈悲に使いつぶされてきたことだ。おのれの城で意識を得て、生きはじめた瞬間から、われわれは利用されていた。われわれにチャンスなどなかった。バルディオクにもだ」

原文:
Es geht hier nicht um die Bedeutung der Materiequellen oder um die Berechtigung des RUFs”, sagte Kemoauc. “Das alles ist unumstritten.

es geht um ~ 「~が問題だ」は、 es handelt sich um ~ 「~である」や in der Lage sein ~ 「~できる」と並んで、翻訳するのに厄介なドイツ語の慣用表現。
ただ、次の文章を含めた段落全体で見てみると、案外単純な構造が見えてくる。最初に Es geht nicht um… 「~は問題ではない」と表現し、次の文章で Es geht um… 「~が問題なのだ」と表現している。段落規模の、nicht A (sondern) B (AじゃなくてB)である。
ハヤカワ版みたいに「語られたことはない」んじゃなくて、いまそれを語る必要はない、のだ。

「兄弟よ」バルディオクは感動していった。「感謝する」
「ではあるが」と、ケモアウクは動じることなくつづけた。「バルディオクはおのが意志の主人であった。自分のしたことを承知していた。かれは、われらが兄弟ガネルクが、監視者カリブソとして追放の生を送らなければならないことに責任がある。もしいま、時知らざる者の同盟の瓦解がはじまるとしたら、それもまたバルディオクの咎だ。そのために、そのためだけに、かれは処罰されねばならない」
 胞子船の濫用や“大群”の操作は不問にされたわけだ、とバルディオクは理解した。だが、兄弟への裏切りは別だ。
「評決をとる」と、疲れた声でケモアウクが告げた。「かれのいったことを、皆よく考えてほしい。わたしは、有罪に票を投じる」
 ロルヴォルクが両のこぶしを握りしめ、一歩前へ出ると、
「有罪!」
「無罪だ!」と小さな声でムルコン。
「うむ。無罪!」と、パルトク。
 アリオルクは決定権を行使するのを楽しんでいた。背筋をのばし、幻想から生まれた制服のすそをつまむ。吐き気がして、バルディオクは目をそらした。

原文:
Bardioc sah angeekelt weg.

これだけ、独立した文章である。主語はバルディオク。
それが、どうしてハヤカワ版は「(アリオルクは)バルディオクに軽蔑の視線を向け」になるんかね。
ちなみに、バルディオクのとった行動の結果を思うと、ひょっとして、ここで目をそむけずにアリオルクの服を誉めたら、無罪だったんじゃなかろうか?(笑)
泥をかぶっても(笑)の気概がないバルディオクには、この期に及んで、まだ事態の深刻さが理解できていない。だから、ケモアウクの判決を聞いて、がーん、となるわけだ。

「有罪だな」と、ついにアリオルクがいった。
「きみは時知らざる者の同盟を裏切った」ケモアウクが宣告する。「兄弟を裏切った咎により、有罪となす。バルディオクよ、知ってのとおり、われわれにきみを殺すことはできない。だが、可能なうちで最も重い量刑が科される」
 バルディオクは顔を殴られたように、よろめき後ずさった。頭に血がのぼり、
「うそだ!」と、必死に叫んだ。「そんなこと、できるはずがない」
 ケモアウクの顔に生気はなかった。瓦礫の上空に渦巻く星団の光を浴びて、まるでいわおのようであった。

原文:
Kemoaucs Gesicht war ohne Leben. Im Licht der wirbelnden Sonnenmassen über dem Bruchstück wirkte es wie ein Stein.

原文、かっこいいんだけどねえ……。
いろいろこみあげるものを、意志の力でおさえつけてる顔だろう。
ハヤカワ版「ケモアウクは顔面蒼白で」、って、いまにも貧血で倒れそうにしなくてもよさそうなもの。

「判決は、肉体剥奪だ」

-*-

 ひとりまたひとりと、互いに見知らぬ者同士のように去っていった。それぞれがすでに自身の問題で頭がいっぱいなのだ。結局、“平面”の残滓に残ったのは、ケモアウクとバルディオクだけだった。バルディオクはすすり泣いた。
「わたしに丸投げだな。だが、まあ、承知しておいてしかるべきだった」と、ケモアウクが嘆いた。

原文:
aber das hätte ich wissen sollen.

自信喪失したリーダーが、おのおの勝手なことをはじめた仲間たちについて、馘になったメンバーに向かってぼやくの図。
どこぞのプログレバンドにでもありそうな、イヤなシーンである。削除されたのもむべなるかな(をひ

(中略)
 脳髄をおさめたカプセルを適当な洞窟に設置すると、ケモアウクはおのれの城へと戻った。バルディオクのことを思考から閉め出す。
 ほかの強者たちのことも忘れた。

原文:
Auch die anderen Mächtigen vergaß er.

ハヤカワ版は「ほかの強者も同様に、裏切り者のことは忘れたようだ。」。
たしかに、die anderen Mächtigen 「ほかの強者たち」だけでは、主語(I格)か目的語(IV格)かわからない。しかし、vergaß が、動詞 vergessen 「忘れる」の過去形であり、対応するのは主語が一人称単数ないし三人称単数である場合なのは、ちょっと調べればわかるはず。複数形なら、vergaßen でなくてはならない。
er が三人称単数I格であることは、いまさら言うまでもないこと。
したがって、主語は er (ケモアウク)である。
ひるがえって、「ほかの強者」はIV格の目的語であることがわかるので、「同様に(auch)他の強者たち“を”、かれ(ケモアウク)“は”、忘れた」のだ。
こんな短い文章の、小学生の国語レベルの初歩文法を、説明されなきゃわからんのか?

 いつか、数千年を経てから、かれは城を封印し、立ち去った。
 ケモアウクはいずことも知れない目標へと姿を消し、以後、その姿を見たものはなかった。

……。
前から書いてることだけど、格と性と数と時制はちゃんと訳せ……というのも詮無い、文章構成の基本すら放り出したような例が多いのには驚かされる。
主語くらい、ちゃんと確認しようよ。
知ってる単語だけで文章ねつ造しないでね?
わからない単語は、ちゃんと辞書引こう?
カンマで区切られた文章は、どこがどこの修飾か切り直してね?
とか、大学の第二外国語の教師でさえ言わんよーなこと、言いたかないよ。わたしだって。
超訳をきどっているのかもしれないが、原意のかけらもないこんなの、ただの誤訳だ、誤訳。

正直、これは訳者の問題だけでなく、編集者の問題でもあると思う。
ローダンのためだけにドイツ語なんて勉強してられんだろーし、原語がわからないのはしょうがない。でも、現状だと、日本語として読んで、おかしなところをチェック・指摘するという、編集者として最低限の作業がなされているとは、とうてい思えない。
しょせんローダン・シリーズなんてドイツの週刊低俗読み物だから、適当に書きなぐった文章の寄せ集め……だから、訳者がいくらがんばっても意味不明な文章にしかならないとこもあって当然、とか、原文(ドイツ語)読めるやつなんて、そうそういないから、文句つけてくることもないだろし、適当に読み流してりゃいいや……なんて、バカにしていないだろうか?
もし、そんなことないというのなら、日本語として意味の通らない文章にOKが出ているのは、いったいなんでだ?

『バルディオク』の著者であり、当時のシリーズの草案作家でもあったフォルツは、ローダンに心血注いで(そのために、まちがいなく生命を縮めて)46歳で亡くなったのだ。力及ばぬところはあったとしても、手抜き仕事なんてしていない。
そのかれの、最高傑作のひとつが、邦訳として多くのファンに読まれることは、一ローダン・ファン、一フォルツ・ファンである自分にとって、快哉して慶ぶべきことだったはず。

なのに、これでは、ちっともうれしくないのだ。

続^3 850話・脳髄☆ねっとわぁく

またまた(まだまだ)850話『バルディオク』の翻訳について。
今回のテーマは、前回書いたとおり「脳」。
というより、4章にて登場する脳髄ネットワーク構造の話である。

さて、とりあえず以下の画像をごろうじろ。
PR0850tibi
© Pabel-Moewig Verlag GmbH, Rastatt

850話『バルディオク』の表紙イラストである。ホラ、BARDIOC。
ご確認いただいたら、次へ進もう。

ローダン・ヘフトをン十年も描きつづけた故ジョニー・ブルックは、あからさまな手抜き絵(内容と無縁な絵、コラージュっぽい流用絵)も散見されるが、多くは本文の描写を忠実に再現している。今回、遠景に「城」が描かれているあたり、「宇宙の城」を連想させるご愛嬌……かもしれない。

(1) 消えたストラクチャー

いきなり、今回最悪の誤訳(?)である。

■175p

ハヤカワ版:
 しかし、植物におおわれた地上のほうが、はるかに幻想的であった。球体の着陸した台地から平地にかけて、奇妙な森がつづいている。森林と藪はありとあらゆるところで成長し、見わたすかぎりグリーン一色におおわれていた。
原文:
Aber noch viel phantastischer war das bewachsene Land. Von dem Plateau, auf dem die Sphäre zur Landung ansetzte, erstreckte sich ein merkwürdiger Wald bis weit in die Ferne. Die Bäume und Büsche, die dort dicht nebeneinander wuchsen,wurden von einer Struktur überwuchert, die fast überall zu sein schien und die Perry Rhodan an irgend etwas erinnerte.

試訳:
 しかし、植物におおわれた地上のほうが、はるかに幻想的であった。球体が着陸しようとしている台地から、奇妙な森がはるか彼方までひろがっている。みっしり生い茂る樹木と下生えは、いたるところで、ペリー・ローダンに何かを思い出させる構造体におおわれていた。

はい、バルディオクのネット構造の記念すべき初登場、すっぱりカットぉ。
……って、うぉいぃいいいっ!!
だから! 無分別に! 原文を削除するなってば!
しかもグリーン一色ってなんやねん。あ、関係ないけど着陸すんの9行後だからっ。

翻訳をまちがえることは、誰しもあるだろう。それは、いい。下訳を読みかえして、つじつまの合わない箇所に「?」と疑問をいだき、正解をたぐりよせればいい。だが、消してしまったら、もうどうしようもなかろうに。しかも上書きつき。

そして、この後始末が、またひどい。

(2) ローダン、白昼夢を見る

どうやってごまかしたかとゆーと――

■176p

ハヤカワ版:
 すると、脳裏に異質なヴィジョンが浮かんだ。
 奇妙な構造物だ。植物すべてをおおうネットだろうか? それがはてしなく蛇行し、分岐している。
 これがバルディオクのコミュニケーション・システムなのか?
原文:
Rhodan sah noch immer das fremdeartige Bild vor seinem geistigen Auge.
Was war das für eine seltsame Struktur, die sich wie ein Netz über fast alle Pflanzen erstreckte? Ein Netz schier endloser Windungen und Verästelungen.
Handelte es sich vielleicht um ein Kommunikationssystem BARDIOCs?

試訳:
 ローダンの脳裏から、いまもあの異様な光景が消えなかった。
 ネットのようにあらゆる植物をおおうあの奇妙な構造体はなんだ? ほとんど無限に曲がりくねり、枝分かれした網は?
 あるいは、あれがバルディオクのコミュニケーション・システムなのか?

いきなり脳内にヴィジョンが送り込まれてきた!……ことにしたぞハヤカワ版!(爆)
見てるよ、それさっき実物見てるー!
そりゃさっきの場面では「構造体」としか、ろくに説明してなかったけどー。

ココロの目の前には、いまなおさっき(定冠詞なので)の映像が、である。私的「einとderの法則」にしたがっても、定冠詞のついたこの映像は以前に登場しているはず(笑)なのだ。
したがって、ここでは「少し前に見たあの場面を思い出してる」だけである。なのに、その「少し前に見たはずの場面」を削除した(あげく、それがどこだかも忘れた)から、ローダンがいきなりありもしない白日夢を見たことになってしまう。

原書だと、おなじ見開きにある文章なんだけどねぇ……。

(3) 動物のことも忘れないで

■177p/178p

ハヤカワ版:
 台地に降りたち、振り返ると、球体は見えない。甘ったるい匂いが鼻をつく。数歩はなれた藪のあいだに、アンテロープに似た動物が立ち、こちらを油断なく見つめていた。
 あたりに目をやると、頭上がネット状構造物におおわれているのがわかる。これはどこまでも、果てしなく伸びているのだろうか?
 動物に視線をもどし、近づこうとした。そのとたん、相手はくるりと半回転して、急斜面を駆けおりると、やがて林のなかに消える。
原文:
Das Plateau fiel nach der Seite, die Rhodan on der Sphäre aus nicht hatte sehen können, steil ab. Süßlicher Duft stieg Rhodan in die Nase. Ein antilopenähnliches Tier stand ein paar Schritte von dem Terraner entfernt zwischen niedrigen Büschen und äugte mißtrauisch zu ihm herüber.
Rhodan beobachtete es. Täuschte er sich oder trug es auf seinem Rücken ein Stück jener netzartigen Struktur, die sich fast überall ausgebreitet hatte?
Rhodan machte einen Schritt auf die Kreatur zu, doch sie warf sich herum und floh den Steilhang hinab, wo sie wenig später zwischen den Bäumen verschwand.

試訳:
 台地は球体からでは見えなかった側が、切りたった急斜面になっていた。甘い匂いが鼻をつく。数歩はなれた潅木の茂みから、アンテロープに似た獣がテラナーを警戒するように見上げていた。
 ローダンは動物を観察した。見まちがいでなければ、あたり一面にひろがっている、あのネット構造をしたものの一片が、背中についている。
 一歩近づいたとたん、獣はさっと向きをかえると急斜面を駆けおりて、またたくうちに樹木のあいだに消えてしまった。

ローダンが観察している代名詞 es = Tier (中性名詞)。この点を理解しないから、「全動植物相と共生する」(179p)の動物側の具体例が登場しないという珍妙なことになる。「あたりに目をやり」「視線をもどし」と、2回も原文にない動作描写を創作している余裕があるなら、少しは変だと思ってもらえないものかね?

そして、「頭上がネット構造におおわれている」という部分。
空に何かがあるのは、テルムの女帝の惑星ドラクリオホである。クリスタル構造のコンピュータが、球殻のように惑星を包んでいた。
バルディオクの惑星では、ネット構造の生体細胞(脳)が“地上を”を覆っているのである。

……と、ここで冒頭の表紙イラストを思い出していただきたい。
鹿アンテロープの「背中に」「ネット状構造体」――まさにこの場面である。ジョニーの表紙絵を「これどんな場面かなあ?」と、読者として当然の興味をもって眺め、それから本文にとりかかるならば、こんな誤訳はそもそもあり得ないと思うんだけど……表紙やイラストなんか見てない? ひょっとして。

なんというか、「ドロドロの脳髄(超人のなれのはて)に覆われた惑星」……というこのイメージ。
これがちゃんと伝わっていたら、たとえば426巻の工藤さんの表紙イラストも、まるでちがってたんじゃないかと思うと、ちと残念。えらいリアルな惑星バルディオクの情景を描いていただけたかもしれないのに……。

摘出されたまんまのキレイな脳は、強者バルディオクの脳かもしれないが、超知性体バルディオクの脳は、そうじゃないのだ。

■182p

ハヤカワ版:
 なんとか小川にたどりつき、両手を水につっこんで、思わずからだを震わせる。見たところ、飲んでも問題なさそうだ。あたりを眺めまわすと、反対側の岸には、バルディオクの“枝”が繁茂して、水生植物をおおっている。魚の群れがあらわれたが、その外見が“脳”に似ていても、もう驚かない。
原文:
Schließlich erreichte er den Bach und tauchte beide Hände hinein. Als er den Kopf über das Ufer beugte, erschauerte er bei dem Anblick, den ihm das klare Wasser bot. Von der anderen Seite des Bachs wucherten Ausläufer BARDIOCS bis auf den Grund ihnab, wo sie die Wasserpflanzen überzogen. Rhodan hätte sich nicht gewundert, wenn Fische aufgetaucht wären, die ebenfalls kleine Klumpen der gehirnähnlichen Struktur auf ihren Köper trugen.

試訳:
 ようやく小川にたどりつき、両手を水にひたした。岸から身を乗りだすと、透明度の高い水底にあらわれた眺めにぞっとする。小川の向こう岸から伸びたバルディオクの匐枝が水草をおおっていたのだ。ここに、脳に似たこぶをもつ魚の群れがあらわれたとしても、もうローダンは驚くまい。

外見が脳に似た魚……それどこの水棲アリシア人だよwww
せめて接続法II式であることがわかっていれば、もうちょい傷は浅かったのだが……あらわれちゃったもんなあ、もうすでにorz

鹿のとこでもちゃんと訳せなかったものが、魚なら訳せるはずもないのだけど。“共生”のしくみ、理解できてる? >中のヒト
テルムの女帝のクリスタル球殻を脳細胞に置き換えただけとか…思ってないよね?
もっとも、魚には、思いもよらぬ形状のやつもいたりするから、案外実在するかもしれないけどねえ >脳魚
#あ、金魚かもね(笑)

(4) バルディオク≠バルディオク

以下は、おまけ的に。

■178p

ハヤカワ版:
 そこで、あらたな動きがあった。
 ネット状構造物のあちこちで、大きな根茎状の隆起が生じたのである。宙航士たちは注意深くその大きな塊りを持ちあげ、コンテナに運んでいく。
原文:
Dort begannen sie zu arbeiten.
An verschiedenen Stellen der netzartigen Struktur waren große knollenförmige Auswüchse entstanden. Die Raumfahrer begannen damit, sie vorsichtig von der übrigen Masse zu lösen und in mitgeführte Behälter zu legen.

試訳:
 そこで作業がはじまった。
 ネット状構造体の各所に、大きな根茎状の突起が育っていた。宙航士たちはそれを注意深く大元の塊から切りはなし、携行した容器におさめていく。

まさに 茶摘 である。まあ摘んでるのは、空飛ぶ黒毛皮なわけだが……。
小陛下の“芽”だが、過去完了形なので、「生じて、いた」。別に、ローダンが見守る目の前で、にょきにょきと元気よく成長したわけでもなんでもない。
あと、コンテナは携行(mitgeführt)しないと思うんだ……。

■179p

ハヤカワ版:
 同時に、このすべてをおおう密な組織の正体もわかった。
 何度も否定しようとしたが、そのたびに事実だと思いしらされる。
原文:
Nun wußte er auch, woran ihn dieses Struktur erinnerte, die alles wie ein wucherndes Gewebe bedeckte.
Er hatte die Wahrheit die ganze Zeit über geahnt, sie aber immer wieder verdrängt.

試訳:
 また、すべてを生い茂る組織のようにおおうこの構造が、何を連想させるのかもわかった。
 ずっと真相を察知していながら、そのたびに押さえ込んでいたのだった。

この部分は、最初に抹消された「何かを思い出させる」を受ける部分である。
当然、正しい訳にはならない……が、まあ、うまくごまかせた部類だ。

ハヤカワ版:
 一惑星の全動植物相と共生する、惑星規模の脳あるいは脳に似た有機体……それがバルディオクなのだ。
 ブルロクから示唆は得ていたが、ありえないと思っていた!
原文:
Ein grobal Gehirn oder ein gehirnähnlicher monströser Organismus, der die gesamte Fauna und Flora dieses Planeten zu einer gigantischen Symbiose vereinigt hatte – das war BARDIOC.
Das war nicht der Bardioc aus BULLOCS Erzählung, das konnte er nicht sein!

試訳:
 全動植物相を巨大な共生体として統合した、惑星規模の脳、あるいは脳に似た有機体――それがバルディオクなのだ。
 こんなものは、ブルロクの物語に出てきたバルディオクではない、ありえない!

174pでも、「人類がこれまで戦ってきた超知性体と、話に出てくるバルディオクって、なんかちがう」と、ローダンは考えている。まあ、強者バルディオクはヒューマノイドだし、この脳みそでろーんと、うまく結びつかないのもやむを得ない。
ただ、ナウパウムの話とかも挿入して、そのバルディオクが「脳だけの存在」になることは、くりかえし暗示されているのだけど。

そういえば、851話にあった、

  Bardioc war BARDIOC geworden.

……だったかな(原書が発掘できてないのでうろおぼえ)、「バルディオクはバルディオクになったのだ。」な文章は、「超越知性体になったのだ。」と超シンプルに訳されていた。

(5) バルディオク≒テルムの女帝

■184p

ハヤカワ版:
 とはいえ、あらゆる超越知性体がすべて、このような方法で進化したとは思えない。すくなくとも、“それ”は例外だ。結局のところ、自分はバルディオクと女帝の例しか知らないわけである。
 その背景には、超越知性体同士の対立がかくされているのか……?
原文:
Rhodan durfte nicht annehmen, daß dieser Entwicklungsprozeß für alle Superintelligenzen charakteristisch war (zumindest ES bildete darin eine Ausnahme), aber nach allem, was Rhodan von BARDIOC und der Kaiserin von Therm wußte, waren sie sich in vielen Dingen ähnlich.
Lag darin der Grund für den Konflikt der Superintelligenzen voerborgen?

試訳:
 すべての超知性体が、こうした発展プロセスで特徴づけられると思ってはなるまい(少なくとも“それ”は例外だ)。だが、ローダンが知るかぎりにおいて、バルディオクとテルムの女帝は、多くの点で似通っている。
 二体の超知性体間の紛争の原因は、そのあたりにかくされているのではないか?

似ているから喧嘩する、とローダンは考えたわけだ。
対立しているから、しだいに似通ってくることがないとはいわないが、この場合は逆なのである。要するに、どちらも無条件に領域を拡張しつづけるシステムと化しているから、激突は必至かつ不可避ではあったのだ。

しかし、この、「似ているから」という点が、最後の解決策を導くわけだから、大宇宙よのなかわかんないよねえ(笑)

……。
『バルディオク/宇宙の悪夢』は脳みその物語である。
テルムの女帝という、コンピュータが超知になったような敵と、まさに対蹠的に生身の脳が超知性体に成り上がる、というか、寝ているうちに成り上がってしまう話なのだ。
それなのに、嗚呼それなのに……というのが、今回のすべてである。
まあ、エピローグのあれと、今回のこれに文句つけられれば、後はもう小物ばかりと言ってもいいくらいだし。もういいや。

それにつけても、誤訳どころか、翻訳すらしてねえなあ……orz
「ローダン愛」なんかないのは、わかってるけど。
でも、ローダンだってSFでしょ? SF文庫なんだし。
SF訳すのに、わざわざSF的なギミックを殺す方針とは、おそれいったぜ。

続々850話・影を投げかける誤訳

werfen Schatten voraus…..って、1250話あたりで巻末記事のタイトルで頻出してたなあ。
ぶっちゃけ「将来に影を落とす」くらいの意訳が正解なんだろうけど。
850話『バルディオク』関連、3回目である。
今回は、1章を中心に、「後に影響を及ぼす誤訳」をテーマとしたい。まあ、それ以外のも混じっちゃうけど。

個人的に、なんでこの原文が……という誤訳はもっと大量にあるけれど、気づいたらもう、1章、10章、エピローグと、2割前後訳してしまって、それでも全然先に進まない。テーマは「脳」の次回くらいまでは、さっさと紹介してしまわないとケリがつかないしー。

(1) ひらけてない視界と物質化マテリアライズ

■141p

ハヤカワ版:
 視界が開けた。ライレの姿がある。隻眼のロボットの“からだ”を構成する鋼はやわらかい。不可触の台座のそばにかがみ、すばやく顔に手をやると、空洞になった一方の眼窩を指でたどっている……“肉体”が不完全であることを、恥じるように。
 バルディオクが実体化したのは、青い水蒸気の雲につつまれた平原であった。孤独なロボットが数歩はなれてしゃがみこんでいるのが見える。バルディオクが立案した、不条理で実行不可能な計画が、すべて実現したのだ。
 水蒸気が完全に気化し、さらに視界が開ける。すると、ライレの暗色の外被に光沢がよみがえり、一瞬、新品にもどったような輝きをはなった。
原文:
  Der Anblick war vertraut: Laire war da, der einäugige Roboter mit seinem Körper aus weichem Stahl. Er kauerte neben dem Sockel der Unberührbarkeit und hielt die Hand mit den viel zu kurzen und ausgeblühten Fingern vor die Höhle mit dem Zerstörten Auge darin, als schäme er sich seiner körperlichen Unvollkommenheit.
  Bardioc, der in einer Wolke aus blauem Wasserdampf in der Ebene materialisierte, sah die einsame Gestalt des Roboters ein paar Schritte von sich entfernt dahocken, und mit einemmal erschien ihm alles, was er in letzter Zeit geplant hatte, absurd und undurchführbar.
  Bevor der Wasserdampf sich völlig verflüchtigte, schlug sich ein bißchen davon auf Laires dunkler Außenhülle nieder und verlieh ihr den vorübergehenden Anschein glänzender Neuheit.

試訳:
 見なれた光景だ。ライレがいる。やわらかい金属製のボディをもつ隻眼のロボット。“不可触の台座”のそばにしゃがみこみ、寸づまりの、焼きなまされたような指をした手を、破壊された“眼”のあった、うつろな左眼窩にあてがっている。身体が不完全なことを恥じるかのように。
 青い蒸気につつまれて“平面”に物質化したバルディオクは、うずくまるロボットの孤独な姿を、数歩の距離からみつめた。急に、長いこと練ってきたプランのすべてが、ばかげていて、実行不可能に思われた。
 気化しきる前の蒸気がほんのわずか、ライレの暗色の外被をしめらせ、つかのま新品のような光沢をあたえた。

冒頭の一文からまちがっている、と書いた部分。正確には、「見なれた光景だ:」とあって、コロン以降がその光景の説明。但し、こわれた“目”が左なのは、ここでは述べられていない、先読み情報からとなる。まあどこかでライレのイラストを見ればわかる話だ。
指の修飾である「短すぎる」 zu kurz を、「すばやく」と副詞みたいに訳しているせいで、ライレがバルディオクの出現に反応したように読めてしまう。後述のとおり、座ったまんまが常態である。

で、問題は次の「青い水蒸気につつまれた平原」。
本来バルディオクを修飾している部分を、die Ebene の修飾と考えたせいで、「平原」という訳語の因ともなり、平原をおおう水蒸気が気化して「視界が開ける」という、本来この段落にない表現を生んだ。諸悪の根源である。
おそらく、最初の一文がうまく訳せなかったところに、水蒸気の誤訳から生まれた「視界が~」を入れ込めばいいや、と考えたのではなかろうか。

この「水蒸気」だが、物質化 Materialisation の付随現象で、ケモアウクが金色のオーラ、アリオルクが黒雲、ムルコンが光のカスケード……とそれぞれ特徴がある。どれも、物質化からまもなく消滅するのだが、ハヤカワ版ではそのへんがご理解いただけてない。

■147p

ハヤカワ版:
 雲はすばやく移動し、アリオルクはライレに近づいた。
原文:
  Die Wolke fiel schnell in sich zusammen, während Ariolc zu Laire ging, um sich zu identifizieren.

試訳:
 アリオルクがライレのもとへ認証にむかうと、雲はたちどころに収縮して消えうせた。

まあ、雲から「滑るように歩み出た」 glitt aus … を「“降臨”した」とか訳してる時点で、ギミックを理解しようという努力自体、感じられないのだけど。

以下はおまけ的扱いだが、

  • バルディオクの計画が実行されるのは、これから(仮定法)。
  • 「視界が開けた」だけでライレが新品に見えたら、それは目医者にいった方がよかろう。

(2) “平面”拾遺

■147p

ハヤカワ版:
 大宇宙からくる、恒星凝集体の圧力を感じる。その重力フィールドが平原に襲いかかり、かつて名も知れぬ存在が権力を築いた場所を、虚無にひきよせようとした。
原文:
  Bardioc fühlte den Druck der unvollkommenen Sonnen draußen im Weltraum, ihre Gravitationsfelder umtosten die Ebene und zerrten an ihr, doch sie hing unverrückter im Nichts, dort, wo sie einst von einer Macht errichtet worden war, von der Bardioc nicht einmal den Namen kannte.

試訳:
 バルディオクは、外の宇宙空間、生まれかけの恒星団のもたらす圧力を感じた。その重力場は“平面”の周囲で猛り狂い、引きずり寄せんとする。だが“平面”は不動そのもので、バルディオクのいまだ名も知らぬ勢力によって設置された、虚空のただなかにとどまっていた。

ここが、「最初の時点でちゃんと書いてある(訳せてないけど)」という、“平面”の所在が述べられた箇所である。
「それら(恒星)の重力場が“平面”をとりまくように荒れ狂い、それら(恒星)の方へひっぱろうとする。しかしそれ(“平面”)は虚空にひっかかって動かない。そこ(虚空)は、それ(“平面”)が、ある勢力によって設置されたところである。それ(勢力)について、バルディオクは名前さえ知らない。」が直訳。

女性単数の sie と、複数の ihr が入り乱れているが、読解はそれほど難しくないはずだ。
ハヤカワ版は、そのへんをごっちゃにしていて、「ひきよせようとした」のはいいが、方向が変だし、結果はどうだったのか訳せていない(笑) まあ、結論の部分を一部別の文章へ編入しちゃったので、やりようがないのだが。すでにこの時点で、訳者の脳内では「平原」=惑星上の場所(不動)という属性がインプットされてしまったようだ。

ところで、先読み等であらすじを知っていた読者の方は、今回おや?と思ったかもしれないが、バルディオクたちは、自分たちが仕えている存在が「秩序の勢力」「コスモクラート」と自称していることさえ知らないのだ。
#基本、このあたりの先読み情報では「物質の泉の彼岸の勢力」とだけ表現されている……はずだよなあw

■142p

ハヤカワ版:
 そして……平原は恒星凝集体の放射、重力嵐、熱の洪水により、一日ごとに崩壊が進み、腐食していった。それでも、ライレはずっとここにとどまっている。片目を失ったロボットは孤独で、沈黙したまま、破滅の光景をじっと見つめつづけた。
 この“滅亡”に、おのれの出自の秘密を反映させているのだ。
原文:
  Und doch würde die Ebene eines Tages zerfallen, zernagt und zermürbt von den Gewalt der nahen Sonnen, von ihren Strahlenschauern, ihren Gravitationsstürmen und ihren Hitzefluten.
  Laire würde dann immer noch hier sein, zum robotischen Krüppel verstümmelt, einsam und schweigend, das eine Auge auf das Bild der Zerstörung gerichtet.
  Und er würde das Geheimnis seiner Herkunft mit in den Untergang nehmen.

試訳:
 それでいて、やはり“平面”とて、いつかは崩れ落ちるのだ。近隣の星々の暴虐――放射線、重力嵐、灼熱――に噛み砕かれ、朽ち果てる日が訪れる。
 そのときになっても、ライレはなおもそこにいるのだろう。なかばスクラップとなり果てて、孤独に、口をつぐんで、隻眼を破壊の情景へと向けて。
 そうして、その素性の秘密を抱いたまま、滅びに呑みこまれるのだろう。

これまた、前々回に取りあげた部分の詳細である。片目をかくしたライレがぼーっと座り込んでいるさまを、バルディオクがやけに詩的に観察している。
最後の行は、「秘密を墓場(滅び)まで抱いていってしまう」だろう、なのに。
ここをしつこく取りあげたのには、もうひとつ意味がある。実は接続法仮定部分で話は一区切りついているのだ。

(3) 七強者の人間関係

強者の強は「強いられているんだ!」の強みたいだよなあ……(笑)
それはともかく、かなり強引に話が転換しているせいで、ハヤカワ版ではそのままつながっている。

ハヤカワ版:
 自分には、とてもまねができない……。
 たぶん、自分だったら実際に断念していただろう。ほかの六人がそうであったように。
 いまは自分ひとりだけだ。
 ほかの六人は“召喚”にも、もうほとんど応じない。バルディオク自身は通常の生命領域をあとにして、この平原にやってきた。要求に応じて、急いで到着するために。
原文:
  Ich kann es nicht tun! dachte Bardioc.
  Wahrscheinlich hätte er tatsächlich aufgegeben, wenn einer der sechs anderen bereits vor ihm dagewesen wäre.
  Doch er war allein.
  Kaum, daß der RUF an ihn und die sechs anderen ergangen war, hatte Bardioc seinen normalen Lebensbereich verlassen und war zur Ebene aufgebrochen. Er hatte gewußt, wie ihm nach seiner Ankunft zumute sein würde, und sich entsprechend beeilt.

試訳:
〈わたしにはできない!〉バルディオクは思った。
 もし他の六人のだれかが先に到着していたなら、おそらく本当にかれは計画を断念していただろう。
 だが、かれはひとりだった。
 七人に宛てて“召喚”が発されるなり、バルディオクは通常の生活空間をはなれ、“平面”へと出立した。到着後、自分が弱気になることはわかっていたので、それゆえの性急さであった。

未来に思いを馳せる空想が終わって、バルディオクが計画のことを考える様子へと、話題が変わる。うん、フォルツの原文も、ちょっと唐突すぎる気は、たしかにするわ(笑)
弱気になる(わたしにはそれ(プランの実現)ができない!」)ので、自分を鼓舞する時間が必要、という流れである。まあ、es を「ライレみたいに滅びに呑まれること」と読みたくなるのも無理はない。……けど、「反映している」なんだよね、ハヤカワ版だと。

しかし、ここで、「いまこの場に来ていない」を、「過去、“召喚”に応じていない」という設定に「創作」してしまったことは、後に尾をひく。

■148p

ハヤカワ版:
だれも事情は知らなかったが、こうした“会合”に、何度となく“欠席”してきたのである。また、召喚を尊重することもない。
原文:
Niemand wußte, ob er unter diesem Umstand litt, aber erhatte als einziger jemals bei einem Treffen gefehlt und nicht auf den RUF geachtet.

試訳:
ガネルクがそれを苦にしているかはわからないが、これまで一度だけとはいえ、“召喚”を無視し会合を欠席したことがあるのは、かれひとりである。

本来“召喚”を無視することは大事件なのに、「前例」があるため、インパクトがなさすぎる。そこで、「何度となく」という追加要素がプラスされてしまったわけだ。
あと、ガネルクがちっちゃいのを気にしてるんじゃないの~? という部分も、エピローグに絡んでいないこともないのだが(後述)。

■143p/144p

ハヤカワ版:
 バルディオクのからだに手を触れる。バルディオクもそのコンタクトに応じた。もしかすると、ライレの思考を読めるかもしれない!
「あなたはバルディオク。識別できます」ロボットは作法どおりにいった。
 バルディオクはうなずいたものの、昔の習慣にもとづいた対応はしない。それにより、些細なミスやうっかり本性を見せたくなかったから。それに、今回の“召喚”に対する、ライレやほかの勢力の反応には、とても関心があった。
 “ほかの勢力”については、はっきりわからない。自分もそれに“奉仕”しているのだが。その勢力は“物質の泉”の向こうにのみ存在し、自分も、ほかの六人も、そこにはぜったいに到達できないのだった。
原文:
  Er legte eine Hand auf Bardiocs Körper. Unwillkürlich zuckte Bardioc bei dieser Berührung zusammen. Vielleicht konnte Laire Gedanken lesen!
  “Du bist Bardioc. Ich habe dich erkannt”, sprach Laire die Begrüßungsformel.
  Bardioc nickte, ganz gegen seine frühere Gewohnheit versuchte er nicht, den Roboter in ein Gespräch zu verwickeln, denn er fürchtete, daß er sich durch eine winzige Kleinigkeit verraten könnte. Dabei hätte es ihm auch jetzt noch interessiert zu erfahren, ob jene, die den RUF ergehen ließen, Laire und die Ebene selbst erschaffen oder nur von einer anderen Macht übernommen hatten.
  Bardioc wußte nichts über die Macht, der er diente, vielleicht existierte sie sogar nur jenseits der Materiequellen und würde für ihn und die sechs anderen immer unerreichbar bleiben.

試訳:
 バルディオクの身体に手をあてる。思わずバルディオクはびくりとした。まさか、ライレは思考が読めたりしないだろうな!
「バルディオクだな。識別完了」と、ライレが定型どおりに挨拶する。
 バルディオクはうなずいた。常とは異なり、ロボットを会話にひきこもうとはしない。ごく些細なことから露見しないとも限らないから。“召喚”をもたらす存在が、ライレと“平面”を自ら創造したのか、あるいは他の勢力から接収したものか、その点にはいまだに変わらず興味があったのだが。
 バルディオクはおのが仕える勢力についてまるで知らなかった。それは“物質の泉”の彼岸にのみ存在し、かれら七人には永遠にたどりつけないままなのかもしれない。

わざわざ「“ほかの勢力”」と強調しておいて、まちがいとか……まじ勘弁。
ごくあたりまえの Macht(力、勢力)によけいな修飾をつけるから、「“”」なんて余計なモノをつけないと落ち着かない文章になるのだ。

あと、訳文のバルディオク、突然厨二的才能が開花したの?(爆)

(4) バルディオクの憂鬱

■144p

ハヤカワ版:
 ほかの六人が住まう宇宙の城については、ほとんど知識がない。それに言及することが、ほとんどなかったから。しかし、ほかの六人から見ると、自分が“劣る者”とみなされているような印象はあった。
原文:
  Im Vergleich zu den Heimtätten der sechs anderen war Bardiocs kosmisches Burg ziemlich armselig, und wenn auch nie darüber gesprochen wurde, so hatte Bardioc doch oft den Eindruck, daß er bei den sechs anderen deshalb als minderwertig galt.

試訳:
 他の六人の居城に比すと、バルディオクの宇宙の城はすこぶるみすぼらしい。けっして話題にあがることはないが、他の六人からそのせいで見下されているという印象をうけることが、しばしばあった。

鬱屈の原因がはっきり書いてあるのに、すこーんと訳が抜けている(まちがえている)。
原文に「知識」に該当する語があるなら、「知識が貧相」→「知識がない」でもいい。ないのに、なんで知識の話になってるんだろうね? 「他のに比べて/バルディオクの城は貧相/(以下、劣等感からくるヒガミw)」というのが端的な訳になる。

だから城にいるのがイヤ(144p)なのだし、エピローグでもカリブソが言及している……のに、訳しちがえている。

■265p

ハヤカワ版:
 内なる衝動にしたがって、次はバルディオクの城に向かう。ほかの者とくらべれば、それほど重要ではないように見えるし、あの男なら孤独な新参者を迎えてくれるだろう。
原文:
  Einer inneren Eingebung folgend, hatte er Bardiocs Burg aufgesucht. Sie sah im Vergleich zu den anderen tatsächlich unbedeutend aus, und der einsame Ankömmling konnte sich vorstellen, wie sehr Bardioc das zu schaffen gemacht hatte.

試訳:
 直感にしたがい、バルディオクの城へ向かう。他の城に比べると、実際あまりぱっとしない。それがバルディオクにどれほどこたえたか、孤独な客にはわかる気がした。

おそらく、外見が兄弟たちとちがうガネルクには、それを苦にしていた(148p)からこそ、理解できる気がしたのではなかろうか。まあ、住まいがボロアパート(四畳半、バス・トイレなし)なのを豪邸や高級マンションに住む兄弟に嘲笑されたのがグレた理由というのは、超知性体誕生の遠因としては、ちょっとすごく情けないかもしれないが(笑)

にしても、3箇所ともちゃんと訳せていなくては、その情けない理由もまるで伝わらないのだった。

(5) 胞子船と播種船

■145p

ハヤカワ版:
 あの宇宙の領域に向けて、バルディオクとその同僚六人が建造した強力な播種船が、まもなくスタートするのだ。
原文:
  In ein kosmisches Gebiet ähnlich wie dieses würden Bardioc und seine sechs Artgenossen demnächst aufbrechen, jeder für sich an Bord seines mächtigen Sporenschiffs.

試訳:
 やがて、ここに似た宙域へとバルディオクと六人の仲間は出動することになる。おのおのが、強大な胞子船に乗って。

播種船、という訳語そのものが悪いとは言わない。昔、ポスビを開発したトカゲ種族のベーコン苔船・ラボタックスIIの場合は原語が Saatschiff(字義どおり、“種子船”)じゃん、という反論も、それほど説得力がない。
しかし、“播種船”と訳すことによって、「胞子船」という、ローダン宇宙特有のギミックであることを忘れてもらっては困る。胞子船はコスモクラート技術のかたまりで、通常の意味では「建造」できない(ずっと後に、一例だけ判明するが、それも「育成」している)し、「宇宙の城」同様、コスモクラートからの借り物にすぎない。そもそも今回の話のどこにも「オレらが建造した」という描写はない。

だいたい、7隻しかない(強者1人につき1隻と書いてある)のに、「時間超越者の同盟の一員として無数の播種船を操作し」(426巻127p)とか訳してどーするよ?

以下、余談:
直径1126km(㌔である)の球殻は、他のコスモクラート技術の産物に、しばしば流用される。〈法〉付与機、銀河点火弾、〈インシャラム〉……。今後、そのたびに、「播種船と同サイズ」と連呼することになるのだ。

(6) ケモアウク 嗚呼ケモアウク ケモアウク

■146p

ハヤカワ版:
その指示がなかったら、播種船の積荷を物質の泉に運ぶことはなかっただろう。
原文:
Tiefer als Kemoauc, sagten die anderen, war noch keiner bei der Beladung der Sporenschiffe in die Materiequellen eingedrungen,

試訳:
ケモアウクは胞子船への荷積作業の際、他の誰よりも深く物質の泉に潜行した、と囁かれている。

「その指示」という名詞も代名詞もないんだが……。むしろ tiefer als (≒deeper than)という比較級はどこいったんだか……。

851話で残されたメッセージ「物質の泉には近づくな」ともども、ローダンたちがどこでケモアウクに遭遇することになるかを考えても、ケモアウクの背景設定の一番大きい点なんだけどな、物質の泉深く潜った、ってのは。

■247p

ハヤカワ版:
「たぶん、だれかが物質の泉の向こうに進出し、大宇宙のために貴重な認識を得るべきなのだろう」と、ケモアウクがつづける。「だが、きみはそのリズムを決定的に乱してしまった」
原文:
  Kemoauc fuhr fort: “Wahrscheinlich kann nur jemand, der wie ich tief in eine Materiequelle vorgedrungen ist, den unschätzbaren Wert dieser Naturphänomene ermessen, kann erahnen, was sie für das Universum bedeuten. Und du hättest fast den Rhythmus gestört.”

試訳:
 ケモアウクはつづけて、「おそらく、わたしのように物質の泉の奥深く進入した者だけが可能なのだ。この自然現象のはかり知れない価値を推し量り、大宇宙にとっての意味を予感することは。そして、きみはあやうくそのリズムを乱すことろだった」

と、まあ、一種ケモやんの自信の源にもなっているわけだ。
なんでこー、「キャラ描写」を片っ端から切って捨ててるのかねえ。

(7) 先入観・疑いのまなざし

■146p

ハヤカワ版:
 まず最初に、この平原の現状と危険性を指摘するとは……バルディオクは緊張が耐えがたいほど高まるのを感じた。
「それとも、われわれの道をさらにひろげるため、わたしをあざむいているのか?」と、ケモアウク。
「だれもあざむく気はない」バルディオクは内心の動揺をかくし、平然をよそおって、「しかし、道の長さと、そこにいたる速度については、問題がある。とくに、速度は行動の動機づけになるだろう」
原文:
  Erst dann kam er auf Bardiocs frühes Hiersein zu sprechen, ein Umstand, der seine Gefährlichkeit nur noch unterstrich und Bardiocs Wachsamkeit in unerträgliche Spannung steigerte.
  “Täusche ich mich oder hast du den weitesten Weg von uns allen?” fragte Kemoauc.
  “Du täuschst dich nicht”, erwiderte Bardioc gelassen, obwohl er innerlich vibrierte. “Aber die Länge des Weges sagt nichts über die Geschwindigkeit aus, mit der man sich bewegt. Und Geschwindigkeit ist motivierbar.”

試訳:
 それからようやく、バルディオクの一番乗りについて口にした。危険性の強調される状況に、バルディオクの警戒心はほとんど耐えがたい緊張にまで高まった。
「わたしの思いちがいかな、たしかきみの城が一番遠かったのではないか?」と、ケモアウク。
「思いちがいではないさ」バルディオクはさりげなく応じた。内心は震えあがっていたのだが。「だが、距離の長さは、移動に際しての速さを告げるものではなかろう。速度は動機しだいで変わるものだしな」

今回、いちばん失笑/落胆した誤訳。
登場早々、バルディオクを犯罪者扱いかよw >ケモアウク

9章あたりの述懐を読んだうえで振りかえると、この時点でケモアウクがすでに「あー、他の連中同様、こいつもいろいろイヤになってんだなー」と、生ぬるい目つきをしていたであろうことが推測できる。変な理解のある微笑みともども、実はこの後の事件の伏線になっているのだ。

動詞 täuschen には「(4格を)だます、あざむく」の意味がある。この文章だと、あざむく対象は mich となる。「わたしがわたしをあざむいた」と考えても、なんとかなるのだが(なってないが)……。
ドイツ語には、再帰動詞とゆーものがあって、明確な使い分けがされている。täuschen sich で「思いちがいをする」となる。原文中では、主語 ich、du にあわせて目的語も mich、dich と変わっており、まちがいなく「自分に帰る」再帰動詞なのだ。したがって、翻訳も「わたしが思いちがいをしているか(疑問文)」「きみは思いちがいをしていない(回答)」でなければならない。
訳文は詰問調で、どう見ても「(きみは)わたしをあざむいているのか」だよね。

似たケースでは、動詞 verraten の意味「(1) 裏切る (2) (秘密等を)吐露する」を、ハヤカワ版では必ず「裏切る」としか訳さない。800話でも、850話(149p)でも、「吐露する、白状する」が正しい。翻訳以前に、辞書ちゃんと引けてないんじゃないの?

ハヤカワ版:
 バルディオクははじめて、この仲間から孤立し、見捨てられていると感じた。すでに、心のなかでは、ほかの者とわかれる準備ができているのだが。
 いま、その時間がきたのだ……肉体と空間から分離する瞬間が。
原文:
  Zum erstmal fühlte Bardioc sich in diesem Kreis einsam und verlassen. Das zeigte ihm, wie sehr er sich innerlich bereits von den anderen getrennt hatte.
  Und nun war die Zeit gekommen, diese Trennung auch köperlich und räumlich zu vollziehen.

試訳:
 バルディオクははじめて、兄弟の輪のなか孤独で見捨てられていると感じた。それはすでに心のなかでは他の者と隔たりが生じていたことを浮き彫りにした。
 そしていま、その隔たりを肉体的、空間的にも実現すべき時がやってきたのだ。

単に、♪どこか遠くへいきたい、のである。

あれやね……カリブソの超自我話に引きずられてるんかね。つーか、どうにも「バルディオクは超知性体になることを企んでいる」と思ってないか >ハヤカワ版の中のヒト
自分で読んでて、なんのこっちゃと思わないのだろうかこの文章。脈絡とか脈絡とか。
翻訳以前に、国語力を疑わざるをえないぞ。

(8) 委託元についての情報

■150p/151p

ハヤカワ版:
「哲学的な問題だな。しかも、われわれ全員が長いあいだ考えてきたものだ」と、ケモアウクが認める。「もしかすると、未知者は大宇宙のあらゆる場所に生命を運ぶことそのものに、意味を見いだしているのかもしれない。あるいは、そうすることで、ほかの勢力の進出を阻止しているのか……」
原文:
  “Das ist eine philosophische Frage, über die ich schon lange nachgedacht habe”, gestand Kemoauc. “Ich nehme an, daß die Unbekannten den Sinn des Universums darin sehen, daß es überall Leben trägt. Vielleicht handeln sie ihrerseits nur im Auftrag einer anderen Macht.”

試訳:
「哲学的な問題だな。それについては、わたしもずっと考えてきた」と、ケモアウクが認めた。「未知者は、いたるところ生命で満たされることにこそ、大宇宙の意義があるとみなしているのではないかな。あるいは、かれら自身、ほかの勢力の委託をうけているだけなのかもしれない」

哲学的に考えすぎである >ハヤカワ版
ほかの勢力の委託をうけると、進出が阻止できるらしい。難解すぎ。

■152p

ハヤカワ版:
「いずれにしても、われわれの船には積荷がある。その意味するところは明らかだ。ぐずぐずせずに、いつもの“事業”をくりかえすということ」と、アリオルクが口をはさんだ。
原文:
  “Trotzdem sollten jene, die unsere Schiffe beladen, uns nicht länger darüber im unklaren lassen, welcher Sinn hinter den sich stets wiederholenden Unternehmungen steckt”, sagte Ariolc.

試訳:
「いずれにしても、われわれの船に積荷を載せる連中、そろそろはっきりしてくれてもよさそうなものだ。ずっとくりかえされる事業に、いかなる意味があるのかを」と、アリオルク。

うーん……単語しか合ってねえ。
もはや単語でパズルをしているとしか考えられない。ドイツ語、読んでないよね?
こういった変な文章が散見されるから、機械翻訳なんじゃと言われるのだ。とゆーか、数年前からまるで進歩の見られない読解力ともども、私的にはもう疑念の余地がないけど。
某アインシュタインの伝記とか、某A県やN県のホームページは、他山の石にはならなかったみたいだなあ……。

……。
2章の「明るくなって、また明るくなる具象球体内部」「現実を認識しまくるローダン」あたりまではやろうと思っていたが、このへんでギブアップだ。
そのへんは、次回「脳」の話のついでに、できたら紹介しよう。

続850話・生兵法はケガの元

引きつづき、850話『バルディオク』の話題。
今回のお題は、以下の2点である。

Mächtigkeitsballung / 【まるぺ用語】 “力の集合体”
Machtbereich / 【一般名詞】 勢力圏

das GESETZ / 【まるぺ用語】 〈法〉
Gesetz / 【一般名詞】 (物理)法則

(1) バルディオク超知性体化計画(嘘)

“力の集合体”:
――ローダン・シリーズにおける、超知性体の勢力エリアをあらわすことば。人類レベルで見ると、単に銀河および銀河間の虚空という空間的領域だが、実はそれ以外……「精神的領域」まで広がっている。そして、超知性体が進化の次なる段階へ進むために不可欠な「エネルギーをぎゅっと凝縮した」装置みたいなものなのだ。

なお、ここでいう“力” Mächtigkeit には諸説あって、たとえば Perrypedia では例として、69話『半空間に死はひそみて』で登場した「時空安定エネルギー」エイリスを挙げている。
少々長くなるが、言葉の意味から考えてみるに、

  • 動詞 machen は「つくる」→「する(行為をつくる)」≒英語の make
  • 名詞 Macht は、「(つくる/する)力」→「権力」「国家」「軍隊」
  • 形容詞 mächtig は「(つくる/する)力が強い」→「すごい(大きい・重い)」「権力がある」

なので、

  • Mächtige (= mächtiger Mann) は、「(つくる/する)力が強い人」→「権力がある人」
  • Mächtigkeit は「(つくる/する)力(が強いこと)」

つまり、

  • ケモアウクたちは「つくる力がすごい人(生命・知性を広める人)」
  • 超知性体の勢力圏は「つくる力をためる場所(生命・知性を集める場所)」

なのである。
それに基づいて、古参のファンが素人なりに知恵を絞って、2つの言葉に共通する「力」を残すように、「力強き者」「力の球形体」という翻訳をひねり出したわけだ。

ハヤカワ版の訳語については、たとえば「七強者」と一息に綴れるとか長所もあるが、「強者」と「力の集合体」に共通した意味を読みとることは、たぶんどうやってもできないだろう。残念な話ではある。
まあ、〈力の球形体〉については、以前から、「別に球形じゃないしねぇ(笑)」という説もあった。木村・相良には Ballung について「球形にする(なる)こと、球形にした物、密集」とある。……力の泥ダンゴ?(をひ
閑話休題。

■165p

ハヤカワ版:
 一瞬、おのれの“力の集合体”を創造するという計画を、ふたたび断念しようかと考える。
原文:
  Einen Augenblick erwog er, den Plan, sich einen eigenen Machtbereich zu schaffen, wieder aufzugeben.

試訳:
 一瞬、おのが王国を創造する計画を断念することをあらためて考えた。

■172p

訳文:
もちろん、胞子を播種することもできる。ただし、依頼人が期待した領域ではなく、自分の力の集合体で!
原文:
Er würde die Sporen ausstreuen, aber nicht dort, wo man sie von ihm erwartete, sondern in seinem späteren Machtbereich.

試訳:
胞子の撒布は、する。だが、予定の場所にではなく、かれの将来の王国に於いてだ。

どちらも、「勢力圏」を「力の集合体」と置き換えているわけだが。これ間違い。
冒頭でも書いたが、“力の集合体”は、「超知性体の」勢力エリアである。Mächtigkeitsballung を「勢力エリア」と訳しても大丈夫だが、逆は必ずしも真ならず。
バルディオクが欲しているのは、どちらかというと「空間的」な支配権みたいだし、ここでは「王国」とした。ちなみに上記2箇所以外は、「勢力範囲(Machtbereich)」が248p、「帝国(Reich)」が150p、218p、225p、「権力領域(Macht)」が167p、「統治領域(Herrschaftsbereich)」が192p、といったところか。ふつーに訳してるところもあるのに(248p)、魔が差したんだろか(笑)

まあ、これまではバルディオク(超知性体)にからんで、「Machtbereich → バルディオクの力の集合体」と訳してきて支障なかったんだろうけど……わたしゃ読んでないけど。
しかし、詳細は6月後半の号になるけれど、別にバルディオク(強者)は、望んで超知性体になったわけではないので、最初から“力の集合体”を建設する意志なんてあるはずないのだ。

(2) 未来からやってきた〈法〉(嘘)

〈法〉:
――コスモクラートから与えられた究極の第三の謎「〈法〉はだれが創り、何が記されているのか?」にて言及されたもの。同時に提示された第一・第二の謎の回答が、ともに宇宙に物理法則をもたらす超時空遺伝子〈モラル・コード〉がらみだったので、「〈法〉=物理法則そのもの」とも言われるが、コスモクラートやカオタークの行動を制限している部分もあるようで、「戒律」的意味合いも兼ねているらしい。
「モラル・コードを設置した陽気な老人?!」とか「超知性体コルトロクは〈法〉の謎を解いた!?」とか、過去、いろいろとネタを提供しているが、2650話の時点でその回答は明らかになっていない。

ハヤカワ版166pでは、大宇宙のすべてをしたがえる“法”が突然あらわれるが、これまた間違い。
フロストルービン、無限艦隊、そして〈法〉の、いわゆる〈究極の謎〉が登場するのは1000話以降であり、ここで言及されるのはおかしい。
実際、850話において、究極の謎に言及する個所はないし、一般名詞としての Gesetz はあっても、〈法〉をあらわず das GESETZ は存在しない。伏線としても、ほのめかしとしても、まるでないのだ。

えーと、ハヤカワ版のこのあたり、別途取りあげるつもりだった、翻訳が意味不明な個所のひとつなので、ちょっと長いが前後を含めて引用する。

■165-166p

ハヤカワ版:
 乗客が物質の泉の“向こう”からきたとしたら……?
 謎に満ちた匿名の依頼人は、播種船が胞子を積みこみ、七強者を“召喚”するたびに、あらたな銀河領域に有機生命体の“発生”を準備していたのではないか?
 ありえない!
 “ほかの側”で起きていることならいざ知らず、大宇宙はすべて“法”にしたがっているはずだ。しかし、もしかすると、依頼人はおのれの属する時空連続体で、バルディオクにその“使命”を遂行させたがっているのかもしれない。
 “積荷”の行動を監視するのはかんたんだった。
原文:
  Befand sich ein Passagier an Bord, der von jenseits der Materiequellen kam?
  Ein Gesandter der geheimnisvollen Auftraggerber, die die Sporenschffe beladen und jedesmal an die sieben Mächtigen den RUF ergehen ließen, wenn es galt, neu entstandene galaktische Gebiete für organisches Leben zu
räparieren?
  Unmöglich! dachte Bardioc.
  Noch nie war jemand von der anderen Seite gekommen, und alle Gesetze des Universums sprachen dagegen, daß dies jemals geschehen könnte. Aber vielleicht hatten Bardiocs Auftraggeber irgend jemand an Bord geschleust,der zum Raum-Zeit-Kontinuum gehörte, in dem Bardioc seine Arbeit verrichtete.
  Es wäre leicht gewesen, dies bei der Beladeaktion zu bewerkstelligen.

試訳:
 密航者が、物質の泉の彼岸からきた存在だとしたら?
 あらたに発生した銀河領域を有機生命のため整える必要が生じるたび、胞子船に荷を載せ、七強者に“召喚”をもたらす、謎に満ちた委託者の、使節だとしたら?
 ありえない!
 いまだかつて彼岸からきた存在はいないし、宇宙のありとあらゆる物理法則がその可能性を否定している。とはいえ、委託者が、バルディオクが活動しているのと同じ時空連続体に属するものを船内へ送りこんできたとしたら。
 荷積作業にまぎれてなら、ごくかんたんな話である。

原文、大文字ではないうえに、複数形である。〈法〉ではありえない。
というか、ごくかんたんな文章である。主語のGesandterが消失したり、ほんと、どうしてこうなるんだろ……。

……。
結局、半可通はよくないやね、ということ。なまじ単語を知っていると、つい使いたくなるのかもしれないが、要するに知っているだけであって、ガジェットとしてのつかいどころすら正しく選べない、その単語の意味さえちゃんと理解してないことが露見しては、かえって恥の上塗りである。
……「そのローダン宇宙という幻想をぶちこわす!」とか叫んでないよね?(笑)
引用・試訳中の強調(太字)は、すべて西塔による。