カオターク・ミーティング

さて、今回も再録である。
一度、FC会誌版「誤訳天国」の1回として掲載され、後にサイト〈無限架橋〉に収録したもの。前回の記事に書いた“実質打ち切り”が決定された会議の顛末……なのかなァ?(笑)
かなり悪ノリして訳したものだが、ほぼ当時のままである。ご笑覧を。


ペリー・ローダン工房から (6)

『カオターク・ミーティング』

前文:
 1987年12月の14・15日、ラシュタットに於いてペリー・ローダン作家会議が開かれた。会合の案件は1400話以降の展開継続であった。この協議については、新編集者フローリアン・F・マルチン博士による公式議事録が存在する。
(公式前文の終了)

この議事録は、その爆発力と内容に基づき、「宇宙最高機密」に分類された。この書類が、通常の死すべき読者には近づくことかなわぬものであることは一目瞭然である。
 ともあれ――ひとりのエセ不死者(PRSから脱走した、シッテイルノニ・シランフリ(*1)という名のミュータント工作員である)が、この議事録のコピーをせしめ、高次勢力へと引きわたすことに成功した。(報酬として、シッテイルノニ・シランフリは細胞活性装置の無償完全整備のサービスを受けた)
 高次勢力は独特の方法論で書類を解釈し、修正した。このテキストが、奇妙な紆余曲折の末、ドリフェル・カプセル《転覆丸》(*2)やPRSのキャラ数名、幾人かの読者、そしてシッテイルノニ・シランフリの協力によって、ほぼ完全な形でPR-レポートの編者の手に渡った。ここに、かの会合の信頼しうる報告を送る。「カオターク・ミーティング」の。

出席者:まずはふたりのコスモクラート〈鼠のマウスクラーン〉(*3)と〈ちび狼ヴォルフ〉(*4)が挙げられる。そこに老カオターク〈真っ暗クラールトン〉(*5)と〈手榴弾ヘルビー〉(*6)が加わった。元気な後続組には、白髪頭のカオターク〈仏のイコヴ=スキー〉(*7)、〈独逸のエーヴェルス〉(*8)、〈大爆笑ハーハーホーホー〉(*9)、それから〈喉声ヴォルケー〉(*10)がコロコロとやって来た。ついに若きカオターク〈牧場の希望ボビー〉(*11)も意を決して輪に加わった。しんがり(毎度のことヨ)に現われたのは、小柄なナックに引っぱられたカオターク〈危ないパイプ〉(*12)だった。
 唯一の女性カオターク(カルタニン・タッチを持つ〈誠実マリー=アンネ〉(*13))は、予期される対決における生存のチャンスを高めるため、会合には欠席した。
 さらに、ノーマルなテラナーも出席していた。その名はジョニー・ブルック(*14)(そのノーマル度は、彼の根絶したアルコールに基づき、克明に証明された)。その隣には、高次勢力に「マルチパン」(*15)と呼ばれる、前述のマルチン博士(トシンの印について博士号を取得した)。エスエフリーク(SFファン、SFフリークを意味する新ドイツ語)のドレンク(*16)にも触れておかねばならない。それから、そのプシオン能力でテラ製ミネラル・ウォーターと灰皿とを配慮してくれた心優しきクリスティーネ嬢にも。

議題1は、「PRSにもっとパワーを!」のモットーのもと進められた。そこにシ・キトゥが(出版社長に変装して)現われ、新しい編集用エネルギー・ビームを紹介した。コスモクラートとカオターク一同はそれを試用してみて、賛同するようにうなずいた。編集者ホーホーがカオターク〈大爆笑ホーホー〉となりはてた後に、彼らはようやく新しい編集を得たのだった。

議題2はカオタークたちの大口論であった。争点はPRSのナカミの創造。6名のカオタークは互いに批判と発議の限りを尽くして牽制しあった。彼らは皆、その名に遜色のないことを示した。あたりはたちまち欲するがままの混沌に包まれたのだ。老カオターク〈手榴弾ヘルビー〉は多機能可変式高エネルギー砲(*17)(《TS-コルドバ》から拝借してきた)を掲げ、コスモクラートにむけて発砲した。この無節操な混乱のなかで命中弾があったことは驚くほかない。若きカオターク〈牧場の希望ボビー〉だけが、沈黙の青い防御バリアを張りめぐらしていた。
足して、引いて、導き出された結論:

  1. 当然のことながら、コスモクラートとカオタークに意見の一致はない。
  2. しかしながら、続けるべきか(とにもかくにも、これが最初のポイントである)という問題については、彼らは一致した。続けるべきだ。

議題3は、「でも、どうやって?」だった。
 定評のある流儀でこの問題を変換すると、「どうやらないで?」となる。
(シッテイルノニ・シランフリの注釈:もしどうしたいのかわからない時でも、どうしたくないかがわかれば、りっぱに収益はあがるものだ)

カオタークたちは次のことを強く要求した。

――超知性体および超知性体級の存在(これはシ・キトゥが退室してから増補された)、それから把握しがたい「強大者」の削減
 ――夢、幻の類による霊感で謎めかされた起源の削減
 ――展開の単純化(なにせ一部のカオタークにさえ見通せないというのがその言い分)と展開平面の減少

測り知れない慈愛と善意をもって両コスモクラートは、1400話からのコンセプトについての提案を語った。論理的に言って、カオタークに対しては馬の耳に念仏である。
 かつては自身も編集者であったカオターク〈大爆笑ホーホー〉が、まだまったく練り上られていない二者択一の発議を提出したが、それはまさにカオターク全員一致の賛同を得た。この発議は基本的に、次のポイントから成る。

×××(翻訳不能)××やっかいなお荷物は放り出して××(また翻訳不能)×××デッカいことはいいことだの思想(*18)は減少させ、一目瞭然として×××ハンガイの第4クォーターが×××センセーション×××(これ以上の情報は提示されない。高次勢力が、書類をドリフェル・カプセル《転覆丸》にわたす前に、テキストのこの部分を消去したということも考えられる)。

6名のカオタークは声をそろえて、「かくして、読者にとっては寝耳に水、ニューカマーにとっては初版をとっつきやすくする一大センセーションが1400話と1401話で起こるのだ!」

さて、重要なのは、この骨格を肉とスパイスで満たすことだ。それはむろんのこと、あらゆる種類の無駄骨折りにいたった。
 カオターク〈危ないパイプ〉は、連れてきたナックとその同族が相応の役割を担うべきであることを強調した。1395話の草案でそうなっているからだというのだ。その内容について知りたがるものは皆無だった。ついにはコスモクラート〈鼠のクラーン〉が、「あんたのナックはご免こうむる!」とエネルギッシュに制止した。〈危ないパイプ〉はひそかに、この意趣返しに1395話を夢物語からトラウマ物語に書き替えてやろう(*19)、と決意していた。ま、なんだ、要するに、コスモクラートこそモノホンの暴力団であると認識する必要があるわけさ! そして、この小説は完結したあとさらに「断絶の1400話」にむけて書き直さざるをえなくなったのだ。
 カオターク〈手榴弾ヘルビー〉は、その展開のなかで人類がより多くの決断の自由(超知性体なしで)を取り戻すべきだとの要求を 695回くりかえした。かくして、695という数字は驚くべき意味を持つにいたった。(*20)

カオターク〈喉声ヴォルケー〉と〈独逸のエーヴェルス〉は互いの赤ら顔について張り合っていた。最終的に、ゲルマン人がインディアンに勝利をおさめた。(*21)
 カオターク〈仏のイコヴ=スキー〉(スキー用品のもぐりの宣伝ではない)は混乱を利用して、ペリー・ローダン映画制作の最新状況(*22)について講演せんとはかった。あとはもうてんやわんや!
 カオターク〈牧場の希望ボビー〉は相変わらず何にも言わない。
 カオターク〈真っ暗クラールトン〉は、討論が次第に白熱してきても、依然として愉快そうに微笑んでいた。やがて艦載クロノメーターが標準時の18時を指した。その結果、コスモクラートとカオタークのシントロン臓器がぐぅと鳴った。
 それをふまえた上で、確認された。カオタークはまたもや圧倒的勝利をものにしたのだ(そしてコスモクラートはいまや宿題を背負いこまねばならない! なんて不公正な!)。
 翌朝までの延期という提案が、全会合を通じて唯一、満場一致で可決された。会合出席者は反重力グライダーで宇宙城《ザントヴァイアー》(*23)へ移動した。

議題4(非公式):一堂に会して呑みかつ喰い、バカげた冗談をかわし、バカにしあい……(あとは検閲にひっかかった)。
 その際の素晴らしき訪問:いつのまにやら女王に昇進していたリンダ・イヴァヌス(*24)が、輝かんばかりのザールブリュッケン・スマイルで現われたのだった。

議題5(非公式)と、午前中の会議の結果:
「案件は新サイクル形成のための具体的プランであった。一連の興味深い提案が蒐集された。コスモクラート・チームは現行サイクルの結末を、新サイクルの前提を整えるように構成し、同時に以前の記述との齟齬を回避するという任務を与えられた」
 これでは、まるで政府答弁か、緊急動議に対する国家首席の公式見解みたいに聞こえる、とシッテイルノニ・シランフリは述べている。しかし、公式議事録にはそう書かれているのだ。ホントだってば!
 だが、ひとつのことは明らかになった:これからも、将来も続くのだ……。

シッテイルノニ・シランフリと高次勢力は、なかなか含蓄に富んだこの書類について、カオターク一座と、格別に両コスモクラートに感謝の意を表するものである。
 ま、こんなとこだ。ほんの数時間のうちに、コスモクラートとカオタークたちはクモの子を散らすように姿を消した。その呪われた活動を別の場所で遂行するために。

K.O.(カーオー)ターク(*25)には今後とも警戒が必要である!


訳註:

  1. 原語はWeißnix Weißwas。「何にも知らない・何か知ってる」てなところか。
  2. Kipp-Um。動詞Umkippenに「転覆する」の意味があるのだ。
  3. Maus Klahn。クルト・マール(Kurt Mahr)の本名はクラウス・マーン(Klaus Mahn)。要するにその「しりすえもんじ」(うーん、古い。当初コレを訳したときには、まだ「いきなりフライデー・ナイト」は健在だったのだが)である。
  4. Wolf Wolfchen。エルンスト・ヴルチェクはパウル・ヴォルフの筆名も持つ。
  5. Dark Clarlton。クラーク・ダートルンはClark Darlton。これまたしりすえもんじ(もぉええ)
  6. Handgranaten-Herbie。シェールの本名はカール=ヘルベルト・シェール(Karl-Herbert Scheer)。なぜ手榴弾なのか? シェールが軍事SFだったころのPRSの草案作家であったからか? あるいは、当時のかれの持ちキャラであったラトバー・トスタンが携行するデッカい鉄砲と関係あるのかもしれん。
  7. Franz Ikow-Ski。フランシスの本名はHans Gerhard Franziskowski。東欧系の移民であったのかもしれない。
  8. Germane Ewers。これまたエーヴェルスはホルスト・ゲールマン(Horst Gehrmann)が本名。出身は元の東ドイツだそうだ。
  9. Haha Hoho。ホルスト・ホフマン(Horst Hoffmann)は愛称「ホーホー」(Hoho)。
  10. Kehlige Wolke。アルント・エルマー(Arndt Ellmer)の本名はウォルフガング・ケール(Wolfgang Kehl)。ほとんど二重のシャレである。
  11. Bobbie Fieldhope。当然ロベルト・フェルトホフ(Robert Feldhoff)のこと。
  12. Kreisenpfeife。ペーター・グリーゼはパイプ愛好者なのか。未確認。
  13. Marri-Anne Ehrig。マリアンネ・シドーの本名はエーリッヒ(Marianne Ehrig)。
  14. Johnny Bruck。PRS常任イラストレーター。底抜けのウワバミだったそうだ。某PRコンの際、水の入ったグラスを持っていたのを、ダールトンに「ウォッカを呑んでる」と勘違いされたくらい……。
  15. Marzipan。アーモンドと砂糖の菓子。ちなみにマルチン博士はFlorian F.Marzin 。ホントに何の博士なのかは不明。「甘い」人とは到底思えないのだが……。後、退社して、現在ではSF作家だったりする。
  16. Franz Dolenc。ハードカヴァー版の校正・編集等を担当していた。ヘフト版も、プロット段階から目を通すらしい。公に名前が出たのは、この記事が最後か。
  17. MVH-Geschütz。コンビ銃の大砲版のようなもん。
  18. Gigantmanie。モラル・コードや無限艦隊、深淵の地などを意味する。ツィークラーへのあてこすりみたいにも聞こえるし、フォルツ草案をこなしきれなかった言い訳ともとれそうな発言である。
  19. 夢=Traum・トラウマ=Trauma。1395話で、くりかえしガルブレイス・デイトンの見る夢が後々の重要な伏線となっている。
  20. 1400話で695年の時間ジャンプが敢行されるわけである。
  21. エルマーもエーヴェルスも確かに赤ら顔だが、エルマーがインディアンとか、インド系イギリス人の血をひいているという事実はこれまで伝えられていない。何か独特の言い回しなのかもしれない。
  22. ほとんど「企画はある」ということだけ、延々とくりかえしている状態……。数年前からたまにリリースがあるTV映画版というのは、この当時と同じ企画なのだろうか? うーん。
  23. Sandweier。どこぞの居酒屋の名前か……と当時は書いたが、いろいろ調べたところ、ラシュタットからほど近い、有名な観光地バーデン・バーデンの一街区らしい。菊芋から作ったシュナップスが名物とか。
  24. Linda Ivanus。ザールブリュッケンのヴェルトコンで進行役を勤めた女性。群馬合宿例会等でヴィデオを見た方はご存じかと思う――あの、赤青緑のメッシュの入った髪をした派手なネーちゃんである。しかし、女王に昇進? なんかアブナそーである。
  25. 「ノックアウト」とカー・オー・タークの洒落。日本人には苦しいジョークかも。

本稿は1387話『成就の地』付録のPR-レポートに掲載された、シリーズ企画「PR工房から」の第6回。この回にかぎり、作者は不詳である(笑)

1984年のフォルツ病没にはじまり、後継者ツィークラーは85年に脱退、そうして始まった超知性体エスタルトゥと異宇宙タルカンをめぐるサイクルは3年保たずに1399話で打ち切りと、当時のチーム事情はそうとうゴタゴタしていたと思われる。しかし、まさかそれ自体をネタに昇華してこんなしょーもないげふんげふん、イカれたいやいや、笑えるものを作ってしまうというのは、ある意味尊敬に値する。
まあ、そうした事情をさておき、作家たちが年一度、顔をそろえてブレインストーミングをくりひろげる会合というのは、およそこんな感じだったりするのだろう……と思う。だからこそ、これからも、将来もつづくのだ……(爆)

ストフラ:アムリンガルの宝玉

続いての在庫処分は、惑星小説309話『アムリンガルの宝玉(Das Juwel von Amringhar)』(クルト・マール著)の超要約。FCミレニアム・ソルの会誌向けに書いたものだが、はて、これ掲載されたんだっけ……?(笑)

惑星小説309巻表紙

 

1988年に発売されたこの本。わたしは当時、神田三省堂経由で原書を購入していたのだが、なぜか注文しても入荷がないまま「品切」通告を受けてしまった……のだが、92年のハマコンでFC企画のカルトクイズ景品候補に、問題のブツがwww 企画担当を拝み倒して譲ってもらったで、会誌の先読みコーナー・ストーリーフラッシュにネタを提供する約束だったわけ。

1300話台後半で初めて名前の出てきた「アムリンガルの年表」が、カンターロ・サイクル序盤で「壊れた」状態で発見されたあたりで、当時草案チームの片棒かついでいたマールがこのタイトルで惑星小説である。ひょっとしなくても、使えなくなったネタをそっちで始末したか!? と疑っていたので、是非とも読みたかった。

5/3追記:エスタルトゥとヘクサメロンをめぐるストーリーは当初“宇宙の新生”まで予定していたらしいが、実質的打ち切りのため1399話で急遽幕切れになった経緯がある。

さて、物語は『プロジェクト・メーコラー』でいうと第5章の終わり、潜入工作がバレたローダンが、ハウリの母星系ウシャルーを脱出した、その少し後からはじまる……。

-*-


新銀河暦447年11月末……。ペリー・ローダンが死にゆく宇宙タルカンに漂着して、すでに9ヵ月が過ぎ去っていた。カルタン人、ナックら22種族の連合カンサハリーヤが推進する〈プロジェクト・メーコラー〉は、年老い収縮過程にある宇宙から、いまなお若きメーコラーことわれわれの宇宙への脱出をはかり、巨大な銀河ハンガイを四分割しての転送を進めていく。また、謎に包まれた組織ヘクサメロンの唱える「最後の六日間の哲学」は宇宙の熱的死を未来への新生と教義づけ、狂信的なハウリ族を尖兵として「不信者」たる22種族のプロジェクトを妨害する。二勢力の反目に巻き込まれつつ、ローダンは失踪した超知性体エスタルトゥのシュプールを探し求める。ハウリの軍団はかれを許しがたい宗教的異端者とみなし、また、不可解にもローダンを「イマーゴ」と崇める種族――放浪するロボット種族ジュアタフと、占星術に根ざした世界観を持つベングエル族――の出現もあって、道は困難をきわめた。そして遭遇する、ヘクサメロンを構成する6者の筆頭、火炎の領主アフ=メテム。その語った神秘の場所ナコド・アズ・クォール、すなわち「永遠の穴」に、この宇宙をめぐる謎の解答があると考えたローダンであったが、ヘクサメロンの本拠があるらしい、かの地の所在は杳として知れなかった。

これは、その探索の途上、ハンガイ辺境を放浪するテラナーと、ふたりの同行者が出会ったもうひとつの謎の物語である……

-*-

ことの起こりは、ドリフェル・カプセル《レダ》の傍受したふたつの通信だった。

銀河ハローの惑星クザルルに定住する、みずからをアングマンシクと称するベングエルの一氏族が、その世界に異人の侵入したことを告げ、星々に助けを求めている。そして、もうひとつの暗号化された送信のコードからして、その異人とはどうやらハウリであるらしい。イマーゴ探求者と関わることは避けたいが、それでもヘクサメロンの狂った宗教に苦しむものを見捨てるわけにもいかないと結論し、ローダン一行――テラナーと、アッタベンノのベオズ、カルタン人ナイ=レン、そして《レダ》――は、ひそかにクザルルに着陸する。

ベングエルという種族は、樹上棲類人猿から進化したとされる。しかし、ただ自然のままに進化したとは考えられないふしがあるのだ。彼らはおのが子供の生まれるとき「自我」を喪失し、知性もなく本能のみによって生きる原始状態に還ってしまう。自我が継承される、と彼らは語る。だが、それだけではない。彼らと、やはりイマーゴ探求者であるジュアタフが、ある特定の状況でそろうとき、奇妙な閃光とともに双方の『自我』が失われるのだ。ローダンはこの現象を「対自殺」と呼んでいたが、タルカンで得た友ベオズの抽象的な「予知夢」とからんで、そこにエスタルトゥの手が及んでいるのではないかと、そう思われてならなかった。

アングマンシクは惑星定住が長かったせいか、テラナーの姿を見ても「イマーゴ!」と叫んで押し寄せてくるようなことはなかった。それでも、星を読み、未来を知るというベングエル特有の哲学は変わらないため、ローダンは自らを「星々の派遣した救い」と称して彼らの共同体に入り込む。そして、指導的立場にある司祭から状況を聞いたところ、クザルルに進駐したハウリはごく小部隊で、なにか特別な任務をおびているらしい。それも、アングマンシクの先祖がタルカンの諸銀河を放浪していた時代にからむ何かを捜索しているというのだ。
ローダンに策をさずけられ、集落を訪れたハウリたちを出迎えたアングマンシクに、小部隊の指揮官であるヘクサメロンの預言者は、こう告げた。
「おまえたちは〈アムリンガルのゆりかご〉という言葉を知っているはずだ」
しかし、アングマンシクに伝わる伝承の中には、そんな名称は存在しなかった。集落からそう遠くない台地には、かつて祖先がそれを操って宇宙を往来した宇宙船が無数に横たわっているが、おそらくそこにもそんな記録は残っていないだろう、と司祭は語った。
その言葉を信じず、強硬手段をとろうとするハウリたちに対抗するため、ローダンとアングマンシクたちは「アムリンガルの宝玉」のコードネームを用い、ハウリを分断し、無力化することに成功する。その過程でテラナーは、アングマンシクたちが、おそらく数千年来触れたこともないはずの宇宙船の機器類やパラライザーの使用法をたちどころに理解していくさまを見て驚嘆する。親から子へと伝えられていく彼らの「自我」。そこには、やはり何か大いなる秘密が隠されているにちがいない。
捕らえられたヘクサメロンの預言者に、ローダンは訊ねる。アムリンガルとはいったい何なのか、と。しかし、ハウリの返答は、すこぶる宗教色の濃い、不明瞭なものでしかなかった。
「アムリンガルとは、公会議の招集されるとき、ヘクサメロンの領主がたが一堂に会するところ。いまだかつて死すべきものの目の触れたことのない場所だ。シャムーの地の神々の御魂、かの地にいまし、領主がたを照らさん……」
そして、ハウリたちのひとりとして、ナコド・アズ・クォールの名すら耳にしたことがないという。テラナーの求める秘密は、やはり火炎の領主その人に会うことでしか知りえないらしかった。
ローダンとアングマンシクが「宝玉」を宇宙船の1隻に載せ、ロボット操縦で星々へと遺棄したと思い込まされたハウリはクザルルを去った。もちろん、ロボット船に宝玉など存在しないから、じきにさらなる増援をひきつれて戻ってくるだろう。だが、そのころには、再び宇宙船を動かすことをおぼえたアングマンシクたちは、ひとりとしてクザルルにいなくなっているはずだ。ただ、自我を失い、原始に還ったものたちだけを残して。
別れのとき、アングマンシクの司祭はローダンに彼らの宗教上の宝物――虹色にきらめくキューブ――を手渡す。もしや、それこそ、いつわりのはずであったアムリンガルの宝玉なのか? だが、司祭自身も、その真相は知らないという。なんにしろ、アムリンガルの名はアングマンシクに災いしかもたらさなかった。それがもし「宝玉」であるとしても、ハウリが信じているように、アングマンシクの手を離れている方がよいのだ、と司祭は笑った。
……再びあてどない放浪の途についた《レダ》で、ローダンは「宝玉」のメモリーを再生させる。キューブは記憶クリスタルだったのだ。しかし、その記録とは、オリオン星雲にも似た星間ガスの雲と、そこで輝く6つの恒星の映像だけであった。不規則な六角形を描く恒星のひとつはベテルギュース型の赤色巨星で、伴星として中性子星が周囲をめぐっているらしく、その軌道は、ある仮想点を周回している――。
はたして、それが神秘の場所アムリンガルと関わりがあるのかさえ、わかりはしない。かくして、ひとつの冒険はいま終わりを告げ、テラナーの目はナコド・アズ・クォールへとつづくであろう、いつ終わるともしれない長い道のりだけをみつめていた……。

-*-

……やがてローダンは、ナコド・アズ・クォール、超絶なプシ波を発する「永遠の穴」を見いだす。それは、コスモヌクレオチド・ドリフェルの「門」! モラル・コードはタルカンにまでその力を及ぼしていたのだ。さらに、アフ=メテムとの邂逅を経てメーコラーへと生還した後、テラナーは超知性体エスタルトゥ復活の目撃者ともなる。
そうして、銀河系への帰途、暴走したドリフェルの猛威によって停滞フィールドに閉じ込められ、 700年の時間を失った後に、かれはまた「アムリンガル」の名を耳にすることになるのだ。局所銀河群を包括する超知性体〈それ〉の力の球形体の歴史を記した〈アムリンガルの年表〉にからんで……。
さらに数十年後、ローダンはコスモクラートの使者から、ハウリの口にした「公会議」が、1000万年前、いみじくもかれの故郷である局所銀河群のいずこかの銀河――そここそがアムリンガル!――に招集されたことを知るのだ。アムリンガル……謎多きかの場所は、いまだ見いだされない。

ENDE

……とゆーわけで、アムリンガルの謎が増しただけのお話だった(笑)
作中出てくるアムリンガル公会議については、1593話でちょろっと、翌1993年に出た惑星小説358巻『七日目の王』(マール)でこれまたちょろりと触れられているが、同年マールが亡くなったため、以降の展開はなかった。

先読みされている方ならご存じのとおり、アムリンガルの年表ネタはカンターロ・サイクルどころかリング人サイクル中盤まで続いたあげく、どこにあったのか、何が書いてあるのか、これまたホントウのところはさっぱりわからないままに終わる。

2200話台になって小マゼラン星雲の昔の名称がアムリンガルである、という設定が唐突に出てくるが、だからどーしたという状態である。
さらにその後、ニューロヴァース・サイクルで得られた知見を加味して考えると、「〈それ〉の誕生史が書かれた年表」「過去と未来の事件を記録した年表」とゆー代物は、あるいは〈それ〉の年代記作者であるデロリアン・ローダンが紡ぎあげた、1800万年の時間ループの記録ではないのかとも思うのだが、昨今の草案チームはんなもんどうでもよろしいみたい。

最後に、当時血涙流して漏らした叫び:
マール、おまっ、プロット作家が、どーしてこのタイトルで猿の惑星にっ……!

■Perrypedia:Das Juwel von Amringhar

テラは夢を見ている

えー、まあ覚書というか、死蔵しているものをちょこちょこっと出しておこうかなと。

以下は、1500話「不死を呼ぶ声」の翻訳をしている際に、関連するあらすじとして用意したもの。1500話前半において、1491/92話に出てくる少女ブリスが重要な役どころで再登場するので、『銀河系に還る』ですっぱりカットした彼女の紹介のためだった。
結局、1500話は7割方進んだあたりでストップしたので、こちらも出番がなくなってしまった。ここらで供養しておきたい(笑)
#いつもと違って段落アタマが一字下げなのもそのへんで。

-*-

 謎の停滞フィールドに囚われて遅すぎる帰郷を果たしたペリー・ローダン。だが、三重の障壁に包まれ外宇宙から隔絶された銀河系はドロイド種族〈カンターロ〉の圧政下にあった。レトルト生命インヴィトロたるクローンと本来の生胎発祥者インヴィヴォを種族内で互いに争わせ、また宇宙航行を禁ずることで星間文明の分断に興じるカンターロの背後には、タルカンに発祥する種族ナックの支持と、そして神秘に包まれた〈回廊の主人たち〉ヘレン・デア・シュトラーセンと名乗る存在があった。
 太古にブラックホールを結ぶ〈星の暗黒回廊〉シュワルツェ・シュテルネンシュトラーセンを築き、滅び去った偉大な種族の名を詐称する存在の玉座は、封鎖された銀河系の中でもさらに禁断ゾーンの太陽系、テラ! 〈主人〉に仕えつつも不可解な行動をとるナックのアイシュフォンとエムザフォルにいざなわれ、ローダンは超バリア〈デフトラ・フィールド〉に包まれ、すべてのハイパー機器が作動しえぬ〈絶対停滞アブスティル〉状態の太陽系に潜入し、〈制御ステーション・タイタン〉から転送機を経由して故郷テラの地を踏んだ。そこは擬似体感装置〈シミュセンス〉のネットワークが支配するドリーム・テラ、眠りながら架空の人生を生き、死んでいくアクセサーたちの世界だった。
 事前に〈チップ〉を移植され、ネットワークに接続されたローダンも、夢のテラを目撃し、回廊の主人のひとりドリアン・ワイケンの姿をかいまみた――銀河系を支配するテラナーの代表者として。なんと甘美な夢! テラナーこそ銀河系の支配者。だが、夢から覚めてみれば、そこにあるのは廃墟だけが連なる荒れ果てた惑星でしかない……。

 一定の年齢に達したテラナーは、手首に埋めこまれたバイオ・チップからシミュセンス網にアクセスし、夢の世界(トラウムテラ)に融合する。しかし、介護ロボットの世話をうけながら死ぬまで夢見つづける人々のなかにも、やはり現実との接点を捨てきれない者たちがあった。その一派が〈ドリームハンター〉。他人の夢に介入ハッキングすることをなりわいとする夢の狩人たち。数千年の人生のためか、夢の指標たるドリーム・インデックス値の異常に高いローダンは、かれらにとり恰好の獲物。ハンターのモルト・ゲリンに追われ、ローダンはテラニアの廃墟に逃げ込んだ。かれを匿った子供たちは、〈キッドボット〉と自称した。
 ブリスとシンヴィというふたりの少女に率いられたキッドボットは、シミュセンス網にアクセスできる年齢に達しない幼いテラナーたち。いたるところにある廃墟から、なにがしかの使える装置類を拾い集め、〈電子市場〉エレクトリック・バザールと呼ばれる闇市で売ることで生計をたてているのだった。そして、一定の金額がたまると、リーダーはチップを手に入れ、シミュセンスに入ることができる。ローダンの案内で穴場をみつけたキッドボットは次のエレクトリック・バザールでかつてない収益を上げ、闇チップを獲得したブリスはグループを離れて夢のネットワークにアクセスした……。

 ブリスの母アレイラは、〈ドリームヘルパー〉に属していた。「夢見る権利は平等」というモットーを掲げるヘルパーたちは、他者の夢をもてあそぶハンターと対立関係にあったが、ローダンはかれらが共にシミュセンス網の存在に依存したものであることに気づく。二勢力は、いわば硬貨の両面。覚醒しつつも依然として夢見つづけているのだ。しかし、ともかくもハンターよりはヘルパーのほうにより共感を見出したローダンは、そのもとでチップの制御装置〈マルチタスカー〉を提供され、それまで時折生じていた夢の「発作」から完全に自由となる。そして、ヘルパーの長老の語る〈ギガ〉の伝承を耳にする――。

 ギガ……「タイタンから生還した男」。シミュセンス網の制御装置は、土星の衛星タイタンにある。制御ステーション・タイタンの中央管制シントロニクスが、テラのすべてを管理しているのだ――ルナのネーサンの存在はなぜか知られていない。ギガなる男は、シミュセンス網をさかのぼり、タイタンに達してなお生還した唯一のドリーマーと伝えられていた。かれはシミュセンスの究極をきわめた男。タイタンのくびきから、ただひとり自由な者。シミュセンスの世界に埋没してしまうのを防ぐマルチタスキングも、このギガがもたらしたとされている。
ヘルパーたちと別れ廃墟にわけいったローダンは、アクセサーの中に植民惑星出身としか思えない者を目撃、惑星ロクフォルトで消息を絶った人々のことを思い出す。〈主人〉たちは悪夢の虜となったテラナーを緩慢に滅びへと押しやりながら、なおもドリーム・テラを維持せんと意図しているらしい。

 おなじ廃屋でローダンはまたもモルト・ゲリンに遭遇、囚われの身となる。しかもドリームハンターの本拠こそ、かつての宇宙ハンザ同盟本部HQ-ハンザ! ハンターの首領パスカルは、おそらくローダンを除いては史上最高のインデックスの持ち主。しかしかれは年老い、死の寸前でかろうじて踏みとどまっている状態であった。この老人を生き永らえさせているのが、やはりギガの伝説――いや、ギガは老パスカル自身の「夢」にあらわれ、全シミュセンス・システムを掌握する〈究極のモジュール〉の存在を語ったというのだ。権力への鍵はタイタンにある……。パスカルを動かすのは、しかし権力欲ではなく、自らが死した後もドリームワールドの中で永遠の生命を得たいという渇望であった。生命維持装置のただなかで動けない自分に代わって制御ステーション・タイタンを攻略すべき人物として、パスカルはローダンを選んだ。アブスティルの中で唯一機能する転送機通廊の終点こそタイタン!

 無人のタイタンを進むのは、ローダンを筆頭にモルト・ゲリンと部下のハンターたち、そしてローダン救出にHQ-ハンザへ侵入し捕らえられたアレイラとシンヴィ。かれらを待ち受けるのは、〈ドリームオペレーター〉の準備した「夢の迷宮」トラウムラビュリンス。ハンターたちのマルチタスカーをもってしてさえ、シミュセンスの悪夢が襲いかかってくる。ローダンのインデックスと、そしてタイタンでテラナーの帰還を待っていた2体のナックの介入がなければ、一行は迷宮のなかで息絶えていたことだろう。
 ところが、究極モジュールの広間でかれらを出迎えたのは、ドリームオペレーター……ギガ! しかも、ローダンはその姿に見覚えがあった。ドリームテラで、〈回廊の主人〉ドリアン・ワイケンとして!! ギガとは、タイタン・シントロニクスの産み出した幻でしかなかったのだ。ドリームオペレーターは一行を嘲笑う。すべてはゲーム、〈主人〉の強大さを「玩具」に思い知らせるためのゲームにすぎない、と。テラへ還るがいい。再び夢見るがいい。一切の記憶を失い、ただおのれの卑小さだけを痛感しながら……。

 ギガの哄笑が、夢の迷宮ごと人々を吹きとばした。テラに回送されるのだ――そのとき、ローダンを不思議な力がつかんだ。アイシュフォンとエムザフォルが、テラナーを強引に回収したのだ。かれらはタイタンで、ローダンに何らかの行動をとらせる心算でいたらしい。だが、いまやすべてがご破算となっていた。テラナー救出が、いまはソル系におらぬ〈主人〉の注意を喚起してしまったのだ! 全速力で太陽系から脱出するナックの三叉船ドライツァックシッフ。デフトラ・フィールドの彼方には、友の危急を察知したアトランの《カルミナ》が待機していた。それへとローダンを転送し、超空間に逃走しようとしたその瞬間、ナックの船は爆発、この宇宙から消滅した。〈主人〉はナックの背信を許さなかったのだ。

 廃墟に覆われたテラの荒野を、ひとりの少女がさまよっていた。名をシンヴィ。シミュセンスに適当な年齢に達していなかったため、介護ロボットに追い出されたのだ。ゲリンたちはタイタンでの記憶のすべてを失い、マルチタスキングの助けもなしに夢を見ている。アレイラは急激なドリームワールドへの移行に耐えられず、発狂した。パスカルは死んだ。かれの最期に見た夢が、ギガであったのか、それともシミュセンスを具現化するという〈クリル・クラン神〉であったのか、知るものはない……。

 わずか3ヵ月後の1147年5月、真の支配者〈モノス〉は失墜。テラと銀河系の新時代がはじまる。

(Traumterra)

Armadaeinheit

昔、マガンがFC会誌で「無限艦隊レキシコン」とかつくってた頃。「Flotteだったら銀河系艦隊(die Galaktische Flotte)、Armadaだったら無限艦隊(die Endlose Armada)。一目瞭然なんです」と言っていた記憶がある。

当時は「無限アルマダ」ではないので、同じ「艦隊」でも、実は原語がちがうという話である。
その頃のわたしは、ペリーワールド(後にミレニアム・ソル)の月例会にたまに顔を出し、マガンをはじめとする先達各位のご高説を、ほへ~と阿呆面さらして拝聴していたわけだが。ちょうど、いまは亡き中央洋書経由で神田三省堂にヘフト原書がこっそり積まれていた時期でもあった(笑)
#ちょうど大学生になり、恵比寿での例会に上京する際、神田に顔を出すようになった、あの数年だけである。何事もタイミング(爆)

同時に説明されたのが、同じ「艦隊」でも、規模があまりにちがうので、構成単位からしてちがうのだ、という点。
ドイツ語の名詞Einheitは、「ひとまとまり、単位、部隊、規格(新現代独和辞典)」等さまざまな意味があるのだが、要するに英語で言うユニットである。

銀河系艦隊フリートの場合だと、Einheitユニットというと個々の艦艇を指す。
これが無限アルマダの場合、主として種族ごとに構成された艦船の集団を意味するわけで――これがArmadaeinheitとなる。通常後ろにユニット番号が付随する。ええと……ハヤカワ版だとなんていうんだ(ググっている)……そうそう、ジェルシゲール・アンのシグリド人だとアルマダ第176部隊(Armadaeinheit 176)。
#いまだに脳内ではイェルチュゲール・アンなので(笑) 刷込みェ。

麾下にある構成単位をなんと呼ぶかは、まあケースバイケースだろう。艦隊、戦隊……最初に述べたとおり、Einheit単独で「部隊」の意味があるし。上記シグリド人にしても、第176艦隊と、そこだけ取り出してみれば特に混乱はないわけで。
頭にアルマダをつけてしまうと、艦隊艦隊みたいでちょっともにょっするかもしれないが、意味としてはそんなわけで、別にまちがいではない。

ただ、ローランドレだけは、あれ単艦なのでねえ……。
それだけアルマダユニット1とかにすると、超浮きそうではある。かといって、他をアルマダユニット176とかやると、訳としては正しいけど、意味はともかく字面的に集団であることがわかりづらい。痛し痒し、といったところだ。
#アルマダ初号機?(笑) 機じゃないか。

……と、書いたのを読み直して:アルマダ第1艦隊といいつつ、実は単艦というのはある意味ネタバレだったかも。まあ、こーゆーブログなので、ご容赦を(^_^;

作家別執筆数の統計(NEO編)

せっかくなので、NEOの分もアップしておこう。

……なんでATLANじゃないかというと、公式の統計と微妙にズレがあるから。こっちはまだタイトルリストExcel化していないので、確認&修正するのがめんどくs(ヾ(^o^;
#あ、あと惑星小説もあったか…… >Excel化

作家別執筆数(NEO版)(193巻時点)

ヘフト版の作家数累計47名にも驚いたが、NEOがすでに30名ってのはさらにすごかった。まだ200巻前なのに(笑)

第2期以降、明らかに作家陣の顔ぶれがちがうのだが、このへんはまず1期の草案担当ボルシュがVPMを退社した(作家兼編集だった)こと、同時期にフェルトホフ没後の草案作家がポイントリリーフ的なアントンから現在のモンティロン&ファンデマーン・チームにバトンタッチしたこと、ヘフト側のテコ入れでシュテルン、フレーリヒが移籍したこと等、複数要因がからむので、一概には言えない。しかし、固定メンツがブーフホルツ、シェーファー、ショルムの草案作家たちにカイ・ヒルトを加えた感じになっていることは見てとれる。2期以降は別モノと考えるべきだろう。

面白いのは、オリヴァー・プラシュカが2期以降も、2年に1巻程度ではあるがコンスタントに書き続けていること。このヒト、デヴュー作がファンタスティーク大賞の新人賞をとっているので、昔から名前だけは知っていたのだけど。基本ファンタジー畑のヒトなんだよねぇ……。近年はマルコ・ポーロを題材にした歴史小説が好評だったりする。
公式の紹介を見ると、少年時代に銀本でローダンに接して、ダールトン、フォルツ、エーヴェルスが好きだったとか。三つ子の魂百までだったりしたのだろうか。彼がNEOを執筆するときは公式で予告されたりするので、根強い人気があると思われる。

あとは、最近ヘフト本編も書くようになった人気作家カイ・ヒルトが、今後どの程度NEOも担当するか、かなあ。
基本、ヘフトを書く作家はNEOはほとんど書いていない。例外は、序盤のモンティロン、“レギュラーゲスト作家”時代のスーザン・シュヴァーツくらいだ。さてさて。

作家別執筆数の統計

保険代理店の内勤という前職を辞めてちょうど10年が過ぎた。
実際は春に退職してから、半年以上も定職につかずニートな生活を送っていた(笑)ので、いまの職について満10年なわけだが。なんで突然そんなどうでもいい話をしだしたかというと、「あ、このファイル10年近く更新してねえ(^^;」という代物をたまたま発掘したのだ。

作家別執筆数(2995話時点)

上記pdfファイルを参照してもらえばすぐわかるが、50話ごと(ほぼ1年分)の作家別執筆話数をExcelで一覧にしただけのものである。
これを放置していたのに気づいたのは、先のメーナートの訃報の際、公式サイトを調べていて、最近NEOで邦訳も出たマーク・A・ヘーレンが「元チーム作家」のくくりに入っているのを発見したためである。え、いつ脱退したの? と確認したら、最終担当話が3年も前のことだったのだ。
#ペリペでも言及がないので、公式発表はされていない……と思われる。

これがあると、他にもこんなことができる:

執筆数ランキング
1位 クルト・マール(253話)
2位 H・G・エーヴェルス(251話)
3位 アルント・エルマー(211話)
4位 H・G・フランシス(207話)
5位 ウィリアム・フォルツ(203話)

以下、ダールトン(192話)、ヴルチェク(177話)、ホフマン(133話)と続き、現役最多のアントンが現在128話担当となる。
現在のハヤカワ版で登場済みの作家は、すでに全員、鬼籍入りないし引退している(一応、エルマーは例外だが)ため、今後しばらくこの順位には変動がないはずである。

わたしが原書を読み始めたクロノフォシル・サイクル後半あたりでは、1984年に亡くなった、当時執筆数最多のフォルツを抜いたマールとエーヴェルスがデッドヒートを繰り広げていた。最終的に、1300話から草案作家の片棒を担いだマールがブッコ抜いたわけだが……あのへんのサイクルだけ、なぜか草案作家の執筆数が激増していたのだ。
#ふつー、草案担当になると執筆作は減る……。
#一応弁護しておくと、フォルツが亡くなり、後継草案作家ツィークラーも脱退。ヴルチェクが新たに世界観を構築するのに、マールの助力が必須だったのと、設定をつくった自分たちでの執筆が最善策だったのだろう。ドリフェルがらみとか。

上記マールの例のように、特定の作家が時々突出して執筆数の増えることがある(例:宇宙城サイクルのヴルチェク)。
これはその時のレギュラー作家の総数とか、他に抱えている仕事や健康状態等、作品内容以外のファクターもからんでくるので一概に言えないが、いろいろ妄想するネタにもなる。
昔、ホフマンがLKSに投稿したと思われる漫画があって、担当の割振りに頭を悩ませるフォルツのもとへ作家たちから次々に「不慮の事故」の連絡が入り、全部ひとりで書くハメになる……というオチだった(笑)

それにしても、気がつけば、『エスタルトゥへの道』をまとめた時の主力作家どころか、『無限架橋』の頃の作家もほとんどが姿を消している。現在の草案チームは時間ネタがお好きなようだが、ホント、時の流ればかりは誰にも止められないのだなあ(慨嘆)

NEOの第3期

ローダン・ヘフトが3000話を迎える2019年。6月にはNEOも200巻に到達し、第4期がスタートするという。前回まとめたのが第2期までなので、ここらで第3期を概括してみよう。

NEOにおける期(Epoche)は、いくつかの部(Staffel)――TVドラマ等でいう“シーズン”に相当する――が集まって構成される。とはいえ、従来のNEOでは、

第1期:フランク・ボルシュが草案担当
第2期:M・H・ブーフホルツとR・シェーファーが草案担当
第3期:R・シェーファーとR・ショルムが草案担当

という形で理解すればいい。
ストーリー展開としては、
第1期:アルコン人との遭遇から永遠の生命の星探索、アルコンによる地球占領と解放まで。
第2期:10年余の建設期を経て、メタンズの新たな蠢動に始まる銀河系の争乱。恒星ソルの〈カズマ(裂溝)〉の発見と、〈メテオラ〉を巡る〈それ〉と〈アンドロス〉の暗闘。110億のテラナーが第1期人類メメターの箱船でいずこかへ連れ去られる。

箱船騒動の折、メテオラ探索で留守にしていたローダンは、ルナや外惑星にいたためメメターに攫われなかった人々とともに、数年をかけて遠距離宇宙船《マゼラン》を建造。メメター、リドゥーリと続く第1期人類の系譜が残るアンドロメダへと進発するわけで。さて。

第15部 第二の島

アンドロメダに到着した《マゼラン》は、大破した長距離遷移グライダー機関修復の資材を調達しつつ、この“第二の島”の現状を知っていく。12人の〈島の王〉が、リドゥーリの末裔たるテティサーを補助種族として呵責なき支配体制を築き上げた銀河。パドラーやモドゥル人バール・ルン、恒星転送機でこの島宇宙に迷い込んだメハンドール(旧スプリンガー)たちとの邂逅を経て、やがてコンタクトした島の王の頂点ファクターI。だが、惑星マルティドンでの会談は破壊工作のため中断。緊急脱出した《マゼラン》は追われる身となる。
マルティドンでは、ミロナ・テティンのそばにアルコン人アトランが……。
#テュイレ・シタレーはマルティドンで消息を絶ち、奇妙な顛末のすえ17部で再合流する。

第16部 ミロナ

アトランがひそかに送信したデータから、ローダンはミロナ・テティンの過去と、超知性体〈それ〉とアンドロスの間で続く宇宙チェスについての背景を知る。また、逃走の途上、ローダンは恒星ソルとアンドロメダの恒星ハリトとの間に広がる〈大断裂グレート・ラプチャー〉の向こうからの侵略者とされる〈クレア〉と接触。その際にテラナーが伝えた“友情”の概念が互いの誤解を解く礎石となる。クレアたちの側も、アインシュタイン宇宙から侵攻を受けたと認識しており、互いの宇宙間で交換された物質が相手の宇宙においては災害を招いている事実が判明したことで致命的な交戦は回避される。また、アンドロスの情報に虚偽が混在していたことを憂慮したミロナ・テティンが銀河系との抗争を一時棚上げすることを提案。《マゼラン》は恒星転送機で帰還する。
〈ファクター・ゼロ〉となったアトランと、重傷で動けないジョン・マーシャルは大使としてアンドロメダに残留する。
#異宇宙生命体クレアであるが、ドルーフ+アッカローリー→恒星エンジニア風味とでもいうか。クレア宇宙での時間経過は、アインシュタイン宇宙の17000分の1となる。

第17部 ブルー人

転送機の誤作動か、予定された銀河系中枢部ではなくイーストサイドに物質化した《マゼラン》は、この星域で抗争をくりかえすブルー人(アザラク)に侵入者として追われることになる。その途上、クレア宇宙からの渡来物質クレールが異常に集中した巨大惑星モロクの衛星イムポスで、110億のテラナーを乗せて姿を消したメメターの箱船《アヴェダナ=ナウ》が難破しているのを発見する。調査の際、イムポス地下にメメターの施設が存在することが発覚。かつてメメターは、クレールの集積から生まれたスーパーヘテロダイン存在(スープラヘト)をイムポスを始めとする42の衛星システムで封印したという。だが、箱船の墜落の際、地下施設の一部が破損したためシステムが停止。スープラヘトは覚醒しつつあった。
ティフラーによってアザラクたちの不治の業病〈黄色の病〉の治療法が発見されたため、彼らの協力も得て、墜落地点からの箱船の再離床は成功。ローダンとシタレーは、活性装置のエネルギーを用いてメメターの施設を再起動し、スープラヘトを再封印する。
箱船に同乗していたメメターたちによって、恒星ソルの放射線は再調整され、テラの再入植が開始された。
#NEOにおけるティフラーは“医師”である。黄色病は、モルケックス精製のために幼少期、旧ヘフトでいうB-ホルモンを抽出されたことが遠因となる。

-*-

……そして、現在進行中の第18部〈同盟〉アライアンス編においては、ローリン(ナイール)によるソル系侵攻に始まる、新たな〈同盟〉の活動に対抗するローダンたちが描かれる。

さて、NEO宇宙では、ごく初期の頃から〈闘争(Ringen)〉と呼ばれる高次勢力を背景とするドンパチが示唆されてきた。ただし、最初のうちは「ヒューマノイドvs非ヒューマノイド」という漠然としたものだった。過去のメメターとけだもの、現在のアルコン人とマークスを始めとするメタンズの抗争も、この流れに沿うものとされてきた。

第2期になると、〈同盟〉で重要な役割を果たす黄金人というヒューマノイドが出てきたりして、おや? となるのだが。このあたりから、超知性体〈それ〉とアンドロスの対立が争いのバックボーンとなってくる。
それが第3期になって、より明確にされたのが〈宇宙チェス〉という表現だ。〈それ〉とアンドロスを指し手とするこのチェスゲームにおいて、〈同盟〉は明らかに後者の駒である。

また、互いの争点となっているのが恒星ソルとハリトのはざまに広がる〈大断裂〉で、これはアインシュタイン宇宙とクレア宇宙をつなぐ要因となっており、〈それ〉はどうにかこの亀裂を塞いでしまいたい。反対にアンドロスはこの状態をさらに推し進めるべくスープラヘトの増産を目論んだりする。
190巻『アンドロス来たりなば…(Als ANDROS kam …)』では、これまで回想シーンとか伝聞形ばかりの登場だったアンドロスが、とうとう表舞台に出てきそうな雰囲気。第19部、〈同盟〉最凶最悪の生物兵器・けだもの編という第3期のラストスパートに向けて、諸々解決するのだろーか。

以下、余談:
前々から、「NEOのアトランがローダンと親友って、あり得ないよねー」とマガンに云って失笑されていたのだが。だって、1万年地球に島流しでもなし。金星で決闘したわけでなし。それが、旧ヘフト版の悲恋から一転ミロナさんとくっついた(これは、長年のファンである草案作家の温情なのだろうが)結果、出番皆無となっていよいよ存在価値があやうくなってきた。
だって、ヘフト版だったらアトランが務めたであろうローダンとの昇天コマンド、全部テュイレ・シタレーの役割なんだもの……(笑)

NEO情報&近況

3月中旬から5月アタマにかけてイロイロと頑張りすぎた(笑)せいか、体調を崩して無理がきかず、アレコレ放置するという、毎度の状態になってしまった。まあ、そのへんはまた気がむいたらやるかもしれないし、やらないかもしれない。

5月下旬あたりになって、ようやくどうにか復調したところでナニをやっていたかというと……ローダンNEOのネタ作りというか。
元々あまりNEO関連には乗り気でなかったマガンに、各種タイトル・リストやら、ネタバレ掲示板から拾ってきたネタやらをいきなり送りつけるとゆー、最近どこかで反省したような所業をおこなっていたわけで。
そのあたりの成果――成果か?w――を押しつけられたマガンの労作は、rlmdi.のサイトで確認できる。

■rlmdi.:ペリー・ローダン・ネオ (NEO)――ストーリー (リンク切れ)

NEOの内容に関しては、Perrypediaでもアクティヴな編集者は少ないようで、かなり断片的である。
うちのブログも、序盤はともかく、継続して話を追いかけてきたわけでもない。全体の流れを概略したものは、少なくとも本邦では、これが最初となる(はずだ)。
※以下、重度のネタバレにつき、先を楽しみにしたい方はご注意。

◇ まあ上記リンク読んでからなら、ネタバレとゆーほどでもないか……。

ただ、改めて思ったのは、NEOは、ヘフトでお馴染みの名称を用いた全く別物であるということ。
とある巻でクレストを誘拐するのが、ゴラト、リスツォク、ツェルフトの3ウニト人であるとか、変なところを再現したりするわりに、肝心の主要キャラクターが、なんというか、別モンなのだ。
いくつか例を挙げてみると:

ヘフト版では年齢1400万歳の超知性体〈それ〉は、NEOではわずか8万歳である。
#わずか、っつーかなんつーかw

ヘフト版で“人類の友”であったアルコン人クレストは、(外的要因はあるのだが)クーデターを起こしてアルコン皇帝となり、人類の敵として死ぬ。

アルコン人アトランは、細胞活性装置を得て不死であり、ほぼ1万年を地球で過ごした(はずだ)が、ローダンたちの知らないうちに地球を脱出して、なんと惑星トプシドでエリック・マノリの前に初登場。望郷の念とかないのか、アルコン艦隊を蹴散らして、何食わぬ顔でローダンたちと行動していたが、最新刊あたりだと敵にまわっている。
#たぶん、ローダンがアンドロメダに着いたら、ミロナさんとイチャついている(ぁ

ヘフト版では幼女趣味を疑われたブリーは、NEOでは美人の護衛さんといい仲になって、最新刊あたりでは既婚者である(笑)

……まあ最後のはいいとして。
現在の草案作家リュディガー・シェーファーは長年にわたるヘフト版のファンであり、過去、読者とのコンタクトページでもよく名前を見かけた人物である。ローダン愛()がないはずはないのだが、彼らのアタマの中でも、もはやヘフト版とNEOはまったくの別モノなのだろう。
つーか、いかに別モノにして旧来の読者を驚かすか、だったりしないだろうな(汗)

かつてのヘフト版は、ハイティーンから20代の読者が中心だったそうだ。最近のクラウス・フリック(ローダン編集部編集長)のインタヴューによると、現在の読者は40代から60代がメインらしい。まあ、SFファンの平均年齢は毎年1歳上がるとゆー俗説もあるそうだし……仕方がないことではあろう。
その一方で、キオスクでの流通が主だったヘフト版とは異なり、電子書籍版が主力というローダンNEOは、より若い世代に訴求する作品なのかもしれない。

しかし、ヘフト版は50年という長い時間をかけてその宇宙観を積み上げてきた。
NEOはそれを一朝一夕に築こうとして、なんだかチープになっている気がしてならない。

1000話「テラナー」について (6)

1000話「テラナー」について、いよいよ最終回である。
ローダン・ヘフト1000話の表紙には、こう書かれている。

Der Terraner
Die kosmische Bestimmung der Menschheit

物語のタイトルと、あおり文句。今回のテーマである後者を、初回でも述べたとおり、「人類の宇宙的天命」と読む。

最終回 人類の天命さだめの物語

女性名詞 Bestimmung は、手元の新現代独和辞典を見ると、おおよそ以下のようになっている。

(1) 決定、規定、命令、制定
(2) 行き先、届け先、(決められた)用途・目的
(3) 定義、限定、評価
(4) 本文、使命、天職、宿命、天命

800話『テルムの女帝』の用語チェックの際、ちらりと書いているが、わたしには同義語・類義語を訳し分ける自分ルールがいくつかある。そして、たまたま上記 Bestimmung も、そのひとつだった。
(→ テル女:用語チェック (2))

(a) Schicksal / 運命
(b) Fatum / 宿命 (形容詞:fatal)
(c) Bestimmung / 天命 (形容詞:bestimmt)
たぶん1550話『新たなる天命』あたりで整理した……と思う。なにぶん昔の話なので。

ローダン宇宙……というか、フォルツ宇宙における Bestimmung は、新現代独和にいう(2)と(4)――「天命(天与の役割)」、ぶっちゃけ「さだめ」である。
かなり乱暴な解釈をすると、運命とは「人知を超えた、幸福や不幸の巡りあわせ」、宿命は「前世から定められた動かしようのない運命」、そして天命とは「天帝の命令、天から与えられた生涯かけて果たす務め」となる。
では、今回のテーマともいえる「人類の宇宙的天命(さだめられた役割)」とは、いったい何のことなのか。

一番顕著な事例は、746話「時知らざる者」において、カリブソとアラスカ・シェーデレーアの会話中で、述べられている。

「われわれは、なにをなすべきかを承知していた。おのずとそうなるもの。大宇宙にひろがるどんな種族も、天与の使命を授かるのだ」
(中略)
「テラナーはただ単に拡大する。宇宙じゅうに広まっていく。まるで寄生体だ!」
「われわれにだって、意味はある!」

と、アラスカが抗弁するわけだ。テラナーは、まだそれを知らないだけなのだ、と。

文中の「天与の使命」の原語は eine bestimmte Aufgabe ……「ある、さだめられた任務」である。当時のわたしの試訳では、「特定の任務」となっている。最終回のテーマにそって、多少いじってみた。
一方のハヤカワ版の当該箇所は、一部誤訳もあって、正しく読みとくのは難しい。日本の読者さんは、フォルツの綴る物語において、それが大事な争点のひとつであることを知らないままかもしれない。
(→「時間超越 -10- part1」

でも、まあ、たしかシュミットとかキトマあたりにも、アラスカは似たよーな非難をあびせられていた気もするので、気がむいたら探してみるのも良いかもしれない。発見したら教えて下さい(をひ
閑話休題。

ともあれ、この話(1000話)は、大群(より正確には、キトマやシュミット)との遭遇以来、フォルツ・ストーリーの軸のひとつであった、「人類の存在意義とは」という問いに対する、ひとつの回答なんだよ――上記サブタイトルは、読者にそう告げているのだ。
読者がフォルツのファンであるならば、それだけでわくわくせずにはいられないはずである。

では、その回答がどのように導かれているかというと……。
ここはごやてんらしく、作中でその「天命」= Bestimmung がどう用いられているか、例をあげて見ていこう。


Bestimmung 例1

さて、本書『テラナー』は、ローダン世界とわれわれの現実世界(グラフィティ)との二重構造である。
その中で、2点だけ、両方にかかる部分がある。ひとつが、最後のグラフィティ。もう一方が、次にあげる冒頭の引用文だ。

ハヤカワ版(p139)
若い人たちは、人間とは文字どおり機械にすぎないと信じているのだろうか? 権力も声望もない、指示にしたがうだけの存在だと。高みをめざして前進する者すべてを破壊し、あらゆる努力を弱体化させる、こうした運命論的な独断に対して、わたしはものを書きはじめて以来、倦むことなく戦いつづけている。

原文:
“Junge Menschen lernen zu glauben, der Mensch sei buchstäblich nicht mehr als ein Apparat – ohne Macht oder Einfluß, was seine Bestimmung angeht. Gegen dieses fatalistische Dogma, das alles Streben nach Höherem zerstört, alles Bemühen schwächt, habe ich, in meinem eigenen kleinen Bereich, seit ich zu zu schreiben begann, nie abgelassen anzukämpfen.”

試訳:
「若者たちは人間が文字通り道具にすぎないと信ずることを学ぶ――その天命にかかわる、いかなる影響力もない、と。高みをめざすあらゆる希求を破壊し、すべての努力を損なうこの宿命論的ドグマに対し、わたしはおのが小さな領分において執筆をはじめて以来、一貫して抗いつづけてきた」

巻頭引用句、W・マクドゥーガルのものである。

私家版においては、当該箇所は「用途」と訳した。「役割」の部分を強調した方がより「単なる道具」っぽくてよさそうに思えたからだが、今回はあえて「天命」とした。
直訳すると「若い人間たちは信じることを学ぶ/人間は文字通り道具以上のなにものでもないのだと/その(道具の)さだめられた役割について/(つくる)力も影響力もなく」。
なぜ“つくる力”なのかは、バルディオク関連記事を参照してもらいたい。
(→ 続850話・生兵法はケガの元

ともかく、自分の「役割」を、己自身で生み出すことも、変えることもできない、単なる社会の歯車にすぎないのだと、信じることを学ぶ――社会に、環境によって教え込まれる。宿命論的な「あらかじめ決まっていて、人の努力ではどうしようもない」というドグマとは、そういうもっと辛らつなものである。

ハヤカワ版の翻訳でも、基本的論調は共通しているが、Bestimmung を「指示」としたためか、本文が疑問文になりちょっとふわっとした感じである。seineを流してしまったせいで、なんの(だれの)Bestimmung なのかが漠然としてしまったのだろう。
また、Bestimmung の意味が異なるため、ohne 以降の節がぽっかり浮いてしまった。

以下はちょっと本筋からはずれるが、同じ引用文の「運命論的」fatalistisch は、

ハヤカワ版(p179)
ファアデンワルン人は自分の存在を宿命論的にとらえているようだ。

原文:
die Faadenwarner offenbar recht fatalistisch waren, wenn es um ihre Existenz ging.

と同じ単語であり、人(ロオク)の意志によってものごとをなそうとすることの対蹠的役割を演じている。宿命論/運命論、どちらも同じものだが、できたら統一してほしかった。

上記2つの意味において、この引用文、けっこう重要なのである。

Bestimmung 例2

ハヤカワ版(P161)
船がなにかの規定を読みあげるような調子で答える。

原文:
belehrte ihn das Schiff in einer Art und Weise, als lese es irgendwelche Bestimmungen von einem Vordruck ab.

試訳:
船がまるで、書式に則った規定を読み上げるように指摘した。

ここのみ新現代独和の(1)に相当する。
さすがに、書式になった天命とかできません(笑)

Bestimmung 例3

ハヤカワ版(p218)
だが、人類の未来と運命を決めるゲームはまだ終わらず……

原文:
Das Spiel um Zukunft und Bestimmung der Meschheit ging jedoch trotz der Überwindung der PAD-Seuche weiter –

試訳:
だが、PAD病の克服にもかかわらず、人類の未来と天命をめぐるゲームはつづき――

〈それ〉と〈反それ〉の宇宙チェス――これも、コスミック・チェス、“宇宙秩序にかかわる”チェスゲームである――は、ある意味、人類の天命に直結しかねないものだった。その決着は、すなわち〈それ〉の力の集合体の今後(ポジティヴ/ネガティヴ)を自動的に確定するからだ。最終的に、従来からの主導人格ともいえる第一プレイヤーが勝利したため、劇的な変化は見られなかったのだが。
PAD病のくだりは、前の段落がそれに該当するので、冗長さ対策ということで、削除は妥当か。

Bestimmung 例4

ハヤカワ版(p223)
人類の運命はどうなるのかという質問の答えを得ることはできなかった。

原文:
Die Antwort auf die Frage nach der Bestimmung der Menschheit vermochte Rhodan auch nicht finden,

試訳:
人類の天命とはなにかという問いへの回答は、ローダンには見いだすことができなかった。

直訳すると、「人類の天命問題に対する回答」。

ローダンはおそらくアラスカから惑星デログヴァニアでの事件についても報告を受けていたであろうし、《バジス》におけるライレと泉主パンカ=スクリンとの確執に、自分たちとコスモクラートとのスタンスの差を感じてもいただろう。彼の目からすれば、盲従的にその傘下に入ることはためらわれたにちがいない。

本書において、長年お世話になってきたワンダラーの親分さんの述懐を聞かされてようやく、広域暴力団・宇宙秩序会の杯をいただくことになるわけである(笑)

Bestimmung 例5

ハヤカワ版(p276)
悲観的な見通しを語られながらも危機に強いことを証明したGAVÖKの創設も、たぶんこのための布石だったのだろう。

原文:
Vielleicht lag darin die eigentliche Bestimmung der GAVÖK, die sich allen Unkenrufen zum Trotz als ziemlich krisenfest erwiesen hatte.

試訳:
悪評紛々にもかかわらず危機への耐性を証明したばかりの銀尊連ガフェークの、本来の天命はこのためにこそあるのかもしれない。

私家版では「~銀河種族尊厳連合は、まさにこのために存在したのかもしれない。」とした。原文をみれば、「役割」の意味合いが強いのがわかる。新現代独和の(4)で訳せないこともないが、どちらかというと(2)に該当する。
元々は公会議支配に対抗するためではあったが、銀河系の諸種族を結びつけることを目的とする銀尊連は、コスミック・ハンザの裏の目的にとって大きな助けとなるはずだ。ひいては銀河種族全体で超知性体への道を歩むためにも。

と、ここまで書いてきた流れで本編を見ると、「人類の天命」とは――

与えられた2万年の時間を使い、銀河系諸種族とともに超知性体になること
(ひいては物質の泉、コスモクラートへといたること)

その遙かな道程への足がかりとして、

多銀河連合組織〈コスミック・ハンザ〉を創設する

……で、ファイナル・アンサーに見える、のだが。

冒頭述べたとおり、本書『テラナー』は、ローダン世界とわれわれの現実世界との二重構造である。その最終章、ペリー・ローダンという男のグラフィティに、最後の“天命”が待っている。

Bestimmung 例6

ハヤカワ版(p283)
だれもが心の奥におさえきれない熱望を秘めていることを信じている。人類の宇宙的な運命を知りたいという熱望を。

原文:
Er glaubt, daß tief in jedem Menschen eine unstillbare Sehnsucht verankert ist, seine kosmische Bestimmung zu erfahren.

試訳:
人間ひとりひとりの奥深く、おのが天命を知ることをもとめてやまない気持ちが根ざすと信じている。

前回にも引用したが、10年以上前に訳したそのままである。

ここでは、冠詞が seine であるため、それぞれの人間が、自分の Bestimmung を知りたいのだ。というか、ローダンのグラフィティ、前回取りあげた後半の文節、上記以外すべて der Mensch(ひとりの人間)が主語である。Menschheit(人類)どころか Menschen(複数の人間)ですらない。上記についても、jedem 「おのおの、それぞれ」なので、実質的に「個人」である。
ストーリー本編内の人類(総体)としての天命から、再び人間(個々)の天命へとシフトしている。強弁すると、これは冒頭の引用文への回帰である。おのが天命に対する力も影響も持たない人々へささやかなエールを贈るマクドゥガルの文章に、フォルツは大きな共感を抱いたのだろう。

それはそうだ。フォルツの初期のキャラクターたち、「グリーンホーン」のジョン・ピンサー、「一握りの永遠」のヘンドリック・ヴォーナー、「氷の罠」のドン・キルマクトマスなどは誰も、運命のいたずらで、どうにもならない状況に追いつめられ、生き残るため、使命を果たすためにあがきつづける平凡な人々だ。特にキルマクトマスは、ドイツのファンダム由来の voltzen「フォルツる、フォルツする」なる珍妙な動詞――人間的に愛すべきキャラクターで読者の共感を呼びながら、物語の結末で、自分ではなく他の誰かを守るため、悲壮な覚悟のうえの最期を遂げること――の代表例といえるだろう。
シリーズのレギュラーとなり、生みの親フォルツの死後も活躍をつづけるアラスカ・シェーデレーアも、規模こそちがえど、運命に対してあがきつづけるところは同じである。

彼らは皆、運命に戦いを挑み……多大な犠牲をはらって、ささやかな勝利を得る。

と、ここまで来て、思うのだ。フォルツの思想――信念は、「天命」とは天与の使命でこそあるが、それはけっして未来永劫不変というわけではない、というものではなかったのか。おのが意志、志望によって、“つくる”ことができるもの、なのでは、と。
カリブソら、先発の“大宇宙にひろがる種族たち”は、天与の使命をあるがまま与えられたままにうけいれる。一方、“天与の使命を知らない”テラナーは、自らひとつの使命を創出し、自らに科していくのではないか。

そしてコスミック・ハンザという、通商組織の皮をかぶった対セト・アポフィス防衛機構は、そうしたステージに立った人類とその友好種族の進化への道程をサポートするに最適である。重要拠点には6つのコスミック・バザールが置かれ、定期的に楔型船のキャラバンが往来する。そして、広大な力の集合体各所をゼロ時間で結ぶ意思決定機関、ペリー・ローダン。
ある意味最強である。銀河系のみならず、局部銀河群の諸種族を有機的に結び付ける、銀尊連を超える役割をはたすべきものとして、これ以上は考えられない。

あるいは、それゆえにこそ“フォルツ後”のストーリーでは持て余してしまったのかもしれない。強大な力を持ちすぎたがゆえに、第一次ギャラクティカムが瓦解した後の銀河系では、逆に騒動のタネとなってしまった。
実にもったいない。いまとなってはシリーズから姿を消してしまった組織ではあるが、そう思う。

力を持たないちっぽけな人間をこよなく愛した作家、ウィリアム・フォルツ。
彼は本書を“テラナー”たりうる多くの人々に捧げた。そのメッセージは、最後のグラフィティに明らかである。

――人類が自らをこのすばらしき大宇宙の一部と知り、調和に満ちて生きていけると信じている。

この一文こそが、フォルツの願った「人類の宇宙的天命」だったのではないか。
誰しもが、お仕着せの宿命サダメではなく、思いさだめた天命を胸に邁進してよいのだと。
ただ、無限にひろがる、調和に満ちた世界うちゅうへの憧れを忘れないでと。その気持ちひとつあれば、誰もが“テラナー”なのだと。
そう呼びかけ、われわれの背中を押してくれたのだ。
そのことに感謝すると同時に、この稿は、やはりこの言葉で閉じるべきだと思われる。

ウィリアム・フォルツもまた、テラナーであった。

ENDE

1000話「テラナー」について (5)

1000話「テラナー」について、第5回である。

ごやてんでもこそっとリンクを貼ってあるが、William Voltz のウェブサイトがある。
ローダン関連のサイトができたのは90年代後半からなので、無論、フォルツ自身が関与しているわけではない。2004年にドイツ語圏SFの後進育成のためとして、短編の名手でもあったフォルツの名を冠した賞(William Voltz Award)がつくられた、そのサイトである。
(→ フォルツ賞、応募・投票受付中
2004年第1回開催時の記事である。

フォルツ賞自体は、2009年の第5回以降休止状態となっているが、おそらくフォルツと交友関係があり、初期の審査を務めたヴルチェクが亡くなった(2008年)こととも無関係ではないだろう。
しかし、その後もサイトは地味に更新を続けている。フォルツ未亡人であるインゲ夫人による、フォルツのバイオグラフィーである。

第4部 そして新たな歯車は回る

最新の39回は、1074話のシェール復帰話と、慢性的な気管支炎をかかえたフォルツがインゲさんの懇願によってようやく医者にいき、抗生物質を処方されたあたりで終わっており、続きを読むのがちょっとこわい……のはさておいて。

このバイオグラフィーを読むと、シェールとフォルツの師弟関係が、シリーズのごく初期からのものであったことがよくわかる。1962年に購入したオペルの中古車で、オッフェンバッハから20キロほどの距離にあるフリードリヒスドルフのシェール宅へ、まだ婚約時代のインゲさんをともなって、フォルツは足しげく通っていたそうな。
アイデアをメモって来いとか、今後のシリーズの展開はあーもあろこーもあろと、2人して夢中で論議する姿をインゲさんはおぼえていた。実際シェールによって構築された世界観のどの程度がフォルツの提出したアイデアに影響されたものなのかはわからない。ただ、これまでは漠然と、大戦の従軍経験があるシェールやダールトンの生み出したローダン・シリーズと、兵役を忌避した(実際はハネられた)フォルツの考案する宇宙とは、異なるものであって当然と考えていたのだが、そのへん改める必要もあるだろう。

さて、カルフェシュとグッキーの後押しにより、機能をとりもどしたライレの目で、現在の〈それ〉の中央惑星エデンIIへの無間歩を果たしたペリー・ローダン。
しかし、新たな超知性体の座たる半球惑星は、思いもよらない様相を呈していた。
……戦いの準備である。

ハヤカワ版(p249)
砂によってプラスティックのようにつるつるに磨きあげられた、岩の上に立っているようだ。

原文:
Das Material, auf dem er stand, konnte ebenso gut glattgeschliffener Fels wie Kunststoff sein.

試訳:
足下の素材は、磨きあげられた岩とも合成素材ともとれた。

ebenso gut A wie B で、Aと同じくらいB。なのでこの場合、岩と合成素材、どちらも同じくらいにありそうだ、となる。

ちなみに元々この文章は、ebensogut glattgeschliffenener Fels wie Kunststoff と書かれていたものだが、1996年の表記法改正で ×ebensogut ○ebenso gut と決められたため、手元の第2版では ebensogut、電子書籍版が ebenso gut となっている。たぶん、ハヤカワ版は後者が底本で、ebenso 「(とっても)つるつる」 / gut glattseschliffenen 「よく磨きあげられた」と読んでしまったのではなかろうか。

ハヤカワ版(p250)
もう一度“目”をのぞいてみたが、やはり暗いままだ。

原文:
Er schüttelte das Auge, aber es blieb verschlossen.

試訳:
〈目〉を振ってもみたが、閉ざされたままだった。

ローダン、いろいろ試行錯誤してるのだ(笑)
翻訳する側としても、ぜひ彼の努力を汲みとってあげていただきたい。

ハヤカワ版:
 目の前にグレイの物体の影が落ちた。ちいさな尖塔のような形状で、

原文:
  Vor ihm schälte sich ein Schatten aus der grauen Substanz. Das Gebilde sah aus wie ein kleiner Obelisk,

試訳:
 前方、灰色の霧のなかからひとつの物影があらわれた。小さなオベリスクのような物体で、

動詞 schälen は、後で出てくるたまねぎの“皮”と同根で、「皮をむく、(再帰動詞で)皮がむける」。グレイの物質とは、霧(私家版では“もや”)を構成するもので、そこから皮がむけるようにオベリスクの影が見えてきたのだ。
個人的に“影を落とす”は werfen Schatten 「影を投げかける」が該当すると思う。これはバルディオクがらみの記事ですでに書いた。
(→ 続々850話・影を投げかける誤訳

上記のような混同が生じたのは、前置詞 aus に「~製の」という意味があるためだろうだが、困ったことにこれ以降、“グレイの”尖塔と本来ない描写がついたり、“グレイの物質”と書いてあるのに“尖塔”と訳したりしている。

ちなみに尖塔=オベリスクだが、サイノスがらみで後々まで頻出する語でもあるので、伏線である可能性を考慮すると揃えておいた方がよろしいのでわ。まあ今回は無関係だが。

ハヤカワ版:
その働きを知ろうとするのはむだだろう。ローダンはグレイの物体が配置された範囲をはるかにこえて存在する、目に見えない柱の内部にいるような印象をうけた。

原文:
Den Sinn dieser Anlage ergründen zu wollen war sicher ein wenig aussichtsreiches Unternehmen. Rhodan hatte den Eindruck, im Innern einer unsichtbaren Säule zu stehen, die weit aus dieser grauen Substanz irgendwohin reichte.

試訳:
この装置の意味を解明すれば、多少なりと展望が開けるかもしれない。自分が灰色の霧を抜けたどこかに通じる、見えざる柱の内部にいるようなイメージがあった。

ein wenig なので「ちょっとだけ」。wenigだけ(“ちっとも”)ならたしかに「無駄」だが。直訳すると「この施設の意味を解き明かそうと欲するのは、きっと少しは有望な計画だろう」くらいになるのかな。
そして上述したように、霧のことを“配置されたグレイの物体”≒尖塔と読んでいる。
ともあれ、見込みがある(aussichtsreich)から、この後ちょろっと考察してるわけだ。そして、その結果であるが……。

ハヤカワ版:
エデンIIをつつみこんでいる駆動装置の一部かもしれない。
そうだとしたら……どこに向かっているのだ?

原文:
Vielleicht waren sie Teil einer gigantischen, EDEN II umspannenden Transportanlage.
Wenn diese Vermutung richtig war – was wurde dann hier transportiert?

試訳:
あるいはエデンⅡを包括する搬送機構の一部かもしれなかった。
もしこの推測が正しいとしたら――何を運んでいる?

Transport である。Tran’Sport! なら佐川急便である。そしてローダンで駆動装置(エンジン)といえばだいたい Triebwerksystem か Antrieb だ。全然ちがう。

そもそも、仮にもおカネもらって翻訳している人が、wo「どこ」と was「なに」を読み違えるとも思えないのだけど。一行前にもどって訂正するのすらめんどくさいのかね……。

ハヤカワ版(p251)
突然、笑い声が聞こえた。だれかがこちらの推測をテレパシーで読みとり、あざけっているかのように。

原文:
Rhodan hörte plötzlich Gelächter, als hätte jemand seine Spekulationen telepathisch erfasst und würde sich darüber lustig machen.

試訳:
ふいに笑い声が聞こえた。まるで誰かがローダンの推量をテレパシーでとらえて興じているようだ。

形容詞 lustig は「愉快な、おもしろい、陽気な」。たしかに、手元の新現代独和辞典の用例でも sich über (IV格) lustig machen を「ちゃかす、からかう、(あざけって)おもしろがる」としているが、同ページ中ほどで登場したタコ・カクタが“さっき耳にしたのと同じ声で笑い”とあるので、嘲笑というよりはおもしろがっている意味合いに取らないと、旧友同士の再会は対面する以前に破綻してしまう。

ハヤカワ版:
なにが起きたのだろうと思い、もうすこし“なか”にいたかったと感じる。

原文:
Unwillkürlich fragte er sich, was mit ihm geschehen wäre, wenn er sich noch einige Augenblicke länger ≫in der Röhre≪ aufgehalten hätte.

試訳:
もうあと少しあの“パイプ”の中にとどまっていたら、いったいどうなったことか。

今回は書かずに済むかと思ったが……接続法第II式である。なのに「もし~だったら」の wenn がどこにも活かされていない。

試訳で“パイプ”とした Röhre は、3章でジンカー・ロオクが利用した非常用パイプ網と同じ語なのだが、そもそも搬送システムを駆動装置と誤訳しているので、パイプの中、という表現が前後と脈絡がつかなかったのだろう。こうやって、どんどん描写が削られていくわけだ。

ハヤカワ版(p252)
「エデンIIにようこそ、ペリー。ずっと待ちつづけていました」一瞬ためらい、声を落として先をつづける。「べつの姿を考えていましたが」

原文:
≫Willkommen auf EDEN II, Perry. Wir hatten dich eigentlich schon früher erwartet.≪ Er zögerte einen Augenblick und fügte dann leiser hinzu: ≫Und in anderer Form.≪

試訳:
「エデンIIへようこそ、ペリー。実際もっと早くおいでになるものと、われわれ、考えていたのですが」一瞬ためらってから、小声でつけたした。「もっと別の形で」

われわれ、とは後述されるように“昔の友たち全員”で、もっと別の形とは、「訪れては去っていく」客としてではなく、精神集合体の一部としてであることは、一連の流れから理解できる。にしても、わざわざわかりづらく訳すことはあるまいに。

ハヤカワ版:
「わたしに意識集合体にくわわれ、と……そういっているのか?」そうたずねた瞬間、強制的に統合するつもりなのかという思いが頭をよぎった。

原文:
≫Wird man mich … animieren, in das Bewusstseinskollektiv einzutreten?≪, wollte Rhodan wissen. Fast hätte er gefragt, ob man ihn dazu zwingen würde.

試訳:
「わたしに意識集合体に加わるよう……うながすつもりか?」あやうく言いかけたのだ。強制するつもりか、と。

まあ、ここは前後の文脈的に意味が逆転するようなこともないので、誤訳とまでは言わない。しかし、頭をよぎったどころか、喉元まで出かかり口ごもったのだ。

ハヤカワ版:
「これはなんなのだ? 駆動装置なのか?」

原文:
≫Was stellt das hier dar? Einen Transmitter?≪

試訳:
「これは何なのだ? 転送機かね?」

ここまでくると確信犯である。そこまで駆動装置にしたいのだろうか。まあ、そうしないと遡って修正しなくちゃならないので、駆動装置にしてしまいたいのだろう。きっと。

ハヤカワ版(p253)
われわれ、転換点にいるんです、ペリー」

原文:
Wir befinden uns in einer kritischen Situation, Perry.≪

試訳:
われわれ、危機的状況にあるんです、ペリー」

2004年私家版では“非常事態下にある”とした。
クリティカルな状況にある、ということで、転換点ターニングポイントは必ずしも誤訳ではない。しかし、「一種の転換装置です」「エネルギーに転換しているんです」「われわれ、転換点にいるんです」と一連の会話でつづけたら、ローダンまでエネルギーに転換されてしまいそうである。もうちょい単語を選んでほしい。
#そもそも2個目の原語は beschaffen エネルギーを「調達する」である。わざとか。

ちょっとググって出てきた主立ったところで、危地、岐路、重大局面、限界状況……剣が峰、ピンチとゆーのもあった(笑) 選択肢はいくらでもある中で、一番わかりづらいの持ってきたよね。
#エデンIIはこれから天下分け目の大決戦をむかえるのです……と読むと、剣が峰がそれらしく見えてくるから不思議であるw

ハヤカワ版:
グレイの尖塔群からはなれるにつれ、それらは空気中に溶けるように見えなくなった。

原文:
Weiter entfernt von den Obelisken löste sich die graue Substanz in der Luft auf.

試訳:
オベリスクから離れるにつれ、グレイの霧は空中にかき消えた。

霧が晴れて、周囲の情景が見てとれるようになったのだ。この霧って、変換器稼働の副産物かな、となるわけなのだが。オベリスクが消えたら変換器動作不良になっちゃうから、見えなくなった、と補っている。

ハヤカワ版:
猫の背中のように丸くて低い建物

原語:
diesen buckelähnlich Erhebungen

試訳:
これらこぶ状の隆起

Buckel は『ノートルダムのせむし男』のように脊椎湾曲のため背中がこぶ状に見えたものを指し、これが日本語では差別用語とされたことで、同症状(病名:Kyphose)の別名“猫背”が当てはめられた。語源的にはラテン語Gibbusとされるように「凸形の、瘤の」で、辞書を見ても「こぶ」と書いてある。猫なのは日本だけである。
せめて「低い建物」「低い建物」のくどい連呼だけでもどーにかしてほしい。

ハヤカワ版(p255)
カクタとローダンを連れて部屋の中央へ向かう。

原文:
  Zusammen mit Kakuta nahm er Rhodan in die Mitte.

試訳:
カクタとともに、ローダンをはさむような位置に立つ。

ローダンを中央に据えてカクタと向かい合った……かどうかまではわからないが、たぶんそうだろう。プロジェクション2名のあいだにはさむことで、ローダンの尻kもとい魂をひっこぬいたのだ。

ハヤカワ版(p256)
……あんなちいさなもののなかに。

原文:
– in einer derartigen Enge.

試訳
――ああも窮屈なものの中で。

誤訳ではないのだが、この Enge(狭いところ)、ほぼおなじ表現がp266で出てくる。

ハヤカワ版:
押しやられるような感覚があり、それがすぐにはげしい衝撃にまで高まる。とてつもなくせまくるしい片すみに押し込まれたと思ったら、そこは自分の肉体のなかだった。

原文:
Rhodan spürte eine Berührung, die einem heftigen körperlichen Schlag gleichkam, dann wurde er in die im ersten Augenblick unerträgliche Enge gedrückt, die sein Körper war.

試訳:
殴られたような衝撃を感じるとともに、ローダンは耐えがたいほど窮屈なものに押し込められていた。それは、自分の肉体だった。

使用前・使用後じゃないけど、おなじものを、おなじように感じているわけだから、できるなら揃えておいた方が良いと思うのだ。
なお、動詞 gleichkommen は「~に等しい」。関係代名詞もあるし、高まっているわけではない。ボディブローにも等しい接触、である。

ハヤカワ版(p256)
数十億の意識がローダンに集中し、すべてを見通している。それは感動的であると同時に、打ちのめされる体験だった。

原文:
  Milliarden Bewusstseine waren auf ihn konzentriert. Sie beobachteten ihn. Sie durchdrangen ihn. Es war erhebend und niederschmetternd zugleich.

試訳:
数十億の意識が彼に集中している。見つめられている。見透かされている。誇らしくもあると同時に打ちのめされる。

上げて、落とす、である。原文のリズムを考慮したらこんな感じに。
老人ホームへ慰問に訪れたら、じーちゃんばーちゃんに取り囲まれたの図。

ハヤカワ版(p257)
この力の集合体のすべてを一組織に結集し、確実に使命を遂行するために。

原文:
Es geht darum, diese Mächtigkeitsballung mit einer Organisation zu durchdringen, die ganz bestimmte Aufgaben zu erfüllen hat.

試訳:
ある特定の果たすべき使命をもつ組織で力の集合体を網羅もうらするのだ。

すでに何回か述べているが、 bestimmt は「特定の、さだめられた」。

Es geht darum, ~ は、バルディオク裁判におけるケモアウクの弁論で解説した、「~が問題だ」である。この場合の“問題”すなわち前の文章で語られた計画(Unternehmen)のこと。なので訳としては、前の文章をうけて、「それは、すなわち」くらいと取っておけばいいだろう。
(→ また850話・バルディオク裁判

ハヤカワ版(p261)
デスクの上を白紙だらけにしておくのが、かれの奇妙な癖だ。

原文:
Es ist eine Marotte von J. Chandler, seinen Schreibtisch mit diesem weißen, unschuldigen Papier zu bedecken.

試訳:
これはJ・チャンドラーの奇癖だった。デスクを、この白く無垢むくな紙で覆いかくすのは。

隠しているのは無垢(unschuldig)な白紙と正反対の罪(Schuld)の意識か――と、読者にストレートに想像させる材料を削る理由はなんだろうか。

〈それ〉の展開する一大事業、コスミック・ハンザの構想に目を輝かせるローダン。しかも、堂々と“裏がある”と言い切るあたり、さすが超知性体である(笑)
エデンIIで非常事態宣言が出ている以上、ある程度予想がつくことではあるが、ハンザの裏の(真の)目的とは、敵対する超知性体セト=アポフィスの侵攻に対するみかじめ団体なわけだ。
では、〈それ〉とアポりんの双方が、なぜ現在のような抗争にいたったか……ということで、この宇宙における生命の進化というものに話がいたる。

すでに772話「フリノスの幽霊」においてケロスカーが、力の集合体と超知性体について、モデルを用いて解説しているように、フォルツ宇宙における生命の進化は同心円構造――たまねぎの皮になぞらえて表現される。たまねぎの中心は宇宙のはじまり以前の絶対の虚無で、以下外側へ向かって順に、

  1. 始原の混沌
  2. 無機物の皮(惑星、恒星、銀河の誕生)
  3. 有機物の皮(原始大洋における有機物のスープあたりまでか)
  4. 原始生命の皮(動植物、知性や社会構造を持たない)
  5. 知性体の皮(狩猟文化から工業文明まで含む)
  6. 宇宙航行の皮(太陽系帝国はこの段階)
  7. 多銀河連合体の皮(公会議はこの段階)
  8. 超知性体の皮(力の集合体の形成)
  9. 物質の泉/沼の皮(超知性体+力の集合体→存在形態の変化)
  10. コスモクラートの皮(詳細不明)
  11. 以降不詳

ただし、Perrypedia等を参照してもらえばわかるが、これは現行のモデルとはかなり異なっている。

草案作家をヴルチェクが務めた時代には、一時〈人の皮〉という、原始生命体から多銀河連合体まで含めた、この宇宙に生きる生命を一括する表現が用いられたが、これもまた過去のものとなっている。

おそらくは超知性体の〈核〉ないし〈アンカー〉という概念が登場したあたりからだろうか。この宇宙に存在する何かを破壊することがその超知性体にとって致命的な作用をもたらすわけだが、たとえば〈それ〉のように肉体を持たぬ超知性体であっても、〈核〉がこの宇宙――“精神的中心”だったり超空間だったりもするが――にある以上、結局のところ“こちら側”に生きる存在である、という考え方が主流となっていく。
近年ではこれを Leben an sich (生命そのもの)……ここでは〈生命総体〉と仮訳しておくが、コスモクラートのような〈彼岸〉に在る超越者たちとの対蹠的存在として表現する。そのため、現在の進化モデルでは超知性体までを含めて〈知性ある生命体の皮〉と位置づけているのだ。

余談ついでにいっておくと、本書でもローダンがちらりと漏らす“たまねぎモデルの一番外の皮”のことを、最近では“〈法〉の地平線”と表現している。異なる時間線の話になるが、「他にも存在する究極の三謎」の内容なので、はたしていつか本編のネタに取りあげられるかもわからないことではあるのだが(笑)
閑話休題。

とにかく、進化の道程を、上記モデルのように歩んでいけるか否かには、一点、明確とは言いがたい基準が存在する。ポジティヴか、ネガティヴか、である。
アポりんの進化史(昔話)を読むと、彼女はその時点で入手しえた手段を活用して、ひたすら上昇志向を満たしていく。それがネガティヴとされるのは、この進化モデルが一種の“倫理コード”にしたがっているからなのだが……その“ものさし”が普遍的なものであるかは、現状ではわからないのだ。

ハヤカワ版(p262)
生きているあいだにセト=アポフィスからじかに任命されることは、断じてない。その必要もないから。つまり、協力者は生涯、自分がセト=アポフィスの奴隷だったと知らないことになる。

原文:
Es kommt vor, dass Seth-Apophis einen Helfer während seines gesamten Lebens überhaupt nicht einsetzt, weil keine Notwendigkeit dazu besteht. Ein solches Wesen stirbt, ohne jemals zu erfahren, dass es ein potentieller Sklave von Seth-Apophis war.

試訳:
協力者によっては、必要が生じなければ、生涯動員されないこともありうるのだ。そうした存在は、自分がセト=アポフィスの潜在的奴隷であったことを知ることもないまま終わる。

「必要性がないからと、ある奴隷(協力者)を生涯投入しないこともある」と、すぱっと直訳した方がわかりやすいかもしれない。というか、セト=アポフィスの奴隷とは、無自覚な“草”だから、“潜在的”という言葉を削除していなければ、絶対違和感があるはずなのだ、この訳文。
動詞 einsetzen にはたしかに「任命する、設定する」という意味もあるが、ローダンでは一般的に「(労働力、戦力を)投入する、動員する」である。手元の新現代独和辞典では後者の方が先にくるし、読む本が偏っているせいか、私的にはこれまで前者の例に遭遇したことがないなぁ。

ハヤカワ版(p263)
セト=アポフィスの運命に介入するのはかんたんなことではないが、

原文:
Es ist unwahrscheinlich, dass wir das Schicksal von Seth-Apophis günstig beeinflussen können,

試訳:
セト=アポフィスの運命を好転させることはほとんど不可能だが、

günstig 「好都合な、有利な」……というと、アポりんの運命をこっちの都合がいいようにいじくりまわすようだが(笑) 好天とかにも使用する形容詞なので、運命を良い方向へ導く影響をあたえる、くらいに取っておくべきだろう。
……まあ、実際不可能だったわけだが(爆)

ハヤカワ版:
かれらはセト=アポフィスとわたしの力の集合体のあいだにある、緩衝地帯のひとつなのだ。

原文:
Sie sind dabei, eine Pufferzone zwischen den Mächtigkeitsballungen von Seth-Apophis und der meinen aufzubauen.

試訳:
彼らはセト=アポフィスとわたしの力の球形体の狭間に緩衝地帯を築こうとしている。

dabei は「(空間的に)そばにいる」「(時間的に)その時に、同時に、~しようとしている」。
ハヤカワ版は前者として読んだようだが、そのために動詞 aufbauen 「建設する」を無視している。その後のハヤカワ版を読んだ方なら、この文章の意味するところが、アトランと《ソル》によるクラン帝国建設(1000話時点では未来の話)であることはおわかりだろう。

……そもそも、コスモクラートが緩衝地帯って、泉の彼岸をどう考えているのかな?

ハヤカワ版(p264)
〈ほとんどの存在形態が、これらの段階のどこかに位置している。

原文:
≫Die meisten Existenzformen bleiben irgendwo an dieser Stelle hängen≪,

試訳:
〈たいていの存在は、このあたりで行き詰まる〉

分離動詞 hängenbleiben 「ぶら下がる、ひっかかる、(ひっかかって)動かない」。
場所、を意味する Stelle も単数なので、あくまでこの位置(皮)で、なのだ。

ハヤカワ版(p266)
おお! やっとわかった。
なんということがわかってしまったのか。

原文:
  Mein Gott!, dachte Rhodan. Nun verstehe ich auch das.
Und wie ich es verstehe.

試訳:
神よ! いまのわたしは、それも・・・理解している。
いやというほど、理解している。

ここ、地の文だけど現在形なので、ローダンの思考がダダ漏れている感じか(笑)
この前にあたる“理解”は2万年の区切りについてで、この文章では“精神を肉体の絆から開放できることをよろこぶようになる”についての理解。どれほど(英:how)わたしは理解していることか、が直訳。
ここは今わかったというより、エデンIIへ跳躍する前にすでに自覚している。誤訳というか、気分の問題ではある。私家版は〈それ〉のセリフも「ようやく理解してくれたな」としているので、そっちに揃えたもの。

先読みしていると、ローダンのことを“敬虔なキリスト者(だった)”とする表現をたまに見かけるのだが、ハヤカワ版にはあまりそういうイメージがない。松谷先生もそのへんは意訳していたのか、そもそも当時はあまりそういう描写がなかったのか。実際わたしも、私家版では「なんということだ!」と訳してるし >Mein Gott
……それとも単にわたしの記憶力が悪いのかorz

ハヤカワ版(p269)
こちらに注意を向ける余裕がなさそうだ、と、ローダンが思いはじめたとき、ようやく“それ”の声が届いた。

原文:
Rhodan hatte den Eindruck, dass ES sich schwer auf ihn konzentrieren konnte, als es schließlich wieder in mentalen Kontakt zu ihm trat.

試訳:
ようやくメンタル・コンタクトが成立しても、ローダンの感触では、〈それ〉はこちらに集中するのが難しそうだった。

文章の主客が転倒している。まあ、文章をアタマから訳すこと自体は悪くないのだけど。
おいおい、話すときには人の目を見て話しなさい、である。

ハヤカワ版:
超越知性体はつねに力の集合体の安定と拡張に意を注いでいる。

原文:
Eine Superintelligenz wird stets bemüht sein, ihre Mächtigkeitsballung zu stabilisieren und auszubauen. Dazu bedarf es unvorstellbarer geistiger Anstrengungen.

試訳:
超知性体はつねに力の集合体を安定させ、拡大しようと努める。それには想像を絶する精神的労力が必要だ。

意を注いでる、で次の文章まで含めちゃったのかな。
消えた〈それ〉のセリフ、なんだか言い訳くさくて笑えるのだがw

ハヤカワ版:
ネガティヴな力が優勢になれば、力の集合体は崩壊する〉
〈セト=アポフィスの力の集合体がそうなりかかっていると?〉

原文:
Sobald negative Kräfte die Oberhand gewinnen, beginnt eine Mächtigkeitsballung in sich zusammenzustürzen.≪
≫Das ist das Schicksal, das Seth-Apophis droht?≪

試訳:
ネガティヴな力が優位を占めると、力の集合体は崩壊をはじめる」
「それがセト=アポフィスを脅かす運命なのですね?」

p263で話題にのぼった、アポりんの好転させるべき運命の話である。

ハヤカワ版(p270)
そのあとにとらえた心理性の背景音を思いだす。ジャルミタラという精神存在のことも、物質の窪地に行ったハルノから聞いた。

原文:
  Im nachhinein erinnerte er sich an ein mentales Hintergrundrauschen, das er damals empfangen hatte. Er hatte es einer psychischen Existenz zugeschrieben, die sich Jarmithara genannt hatte.

試訳:
いまにして思えば、当時とらえたメンタル背景音。あれはジャルミタラという精神存在によると考えたものだが。

Im nachhinein は「後からの、追加の」Wiktionary等参照すると「すべて終わった時点では」。
ジャルミタラの名前自体は、たしかにハルノから伝え聞いたものなのだろうが、この追加の作文だとメンタル背景音とジャルミタラがイコールでつながらない。

ハヤカワ版(p271)
また同時に、さらなる進化を遂げた超越知性体の内部には、泉の彼岸へ至る門が形成されるのだ〉

原文:
Die weiterentwickelten Superintelligenzen bilden in ihrer neuen Daseinsform gleichzeitig Tore auf die andere Seite.≪

試訳:
さらなる進化を遂げた超知性体は、その新たな存在形態の内に、同時に彼岸への門を形成するのだ〉

門が形成されるから、エネルギーが流入してくる、というのがこの段落の主旨。この時点では、解説はまだコスモクラートには到達していない。
なんだか、あちらでもこちらでも“(新たな)存在形態”という単語を削除しているけど、超知性体の新たな存在形態=物質の泉で、それはすでに超知性体ではない。

ハヤカワ版:
物質の泉の段階を過ぎると……やがて超越知性体はある存在というか、勢力に進化する。

原文:
Irgendwann endet auch der Zustand der Materiequelle – sie wird zu einem Wesen oder zu einer Macht, die wir unter dem Begriff >Kosmokraten< kennen.

試訳:
物質の泉の段階も、いつかは終わる――われわれが“コスモクラート”の概念で知る存在、あるいは力に変わるのだ。

前項の“すでに超知性体ではない”がわかっていないから、こういう訳文になる。主語 sie は、物質の泉である。
あと、力 Macht が複数集まるから勢力 Mächte なのだ。

ハヤカワ版(p273)
それこそ深遠な宇宙的意味

原文:
also einen tiefen kosmologischen Sinn

試訳:
つまり深遠な宇宙論的意味

深淵の騎士(Ritter der Tiefe)との語呂合わせと取った訳はおみごと(笑)

ハヤカワ版:
いずれは物質の泉となる力の集合体を形成するため、争いに参加することを要請されている。

原文:
und sie war aufgerufen, das Ihrige dazu beizutragen, um eine Mächtigkeitsballung zu erhalten, die einmal eine Materiequelle werden sollte.

試訳:
いつか物質の泉たるべき力の集合体の維持に、彼らなりの役目をはたすために召集されたのだ。

ここでいう「ある(ひとつの)力の集合体」とは〈それ〉のもの。
そもそも〈それ〉は語らないが、実は超知性体が力の集合体ごと物質の泉になる、という表現は、銀河系を含む局部銀河群壊滅を意味している……かもしれないのだ。そのあたりは、色々と論議の的であったのだが、2899話において、あるネガティヴ超知性体は勢力圏である銀河を呑み込んで物質の沼へと変じた。テラナーが超知性体へといたる道は遠く険しい(ぁ

ハヤカワ版(p274)
〈この知識を人類に伝えるのは困難だろう。たとえほかの者に話したとしても、まず理解されない。だから宇宙ハンザは、その背景に深い意味を持つものとして創設する必要がある。この組織に正しく息を吹きこめないかぎり、目的を達することはできない。

原文:
≫Du wirst schwer an diesem Wissen zu tragen haben≪, prophezeite ES. ≫Auch wenn du es mit anderen Menschen teilst, wird man dich nur in seltenen Fällen verstehen. Es liegt also an dir, die Kosmische Hanse so aufzubauen, dass sie einen tieferen Sinn bekommt. Als eine Organisation, der man kein Leben einhaucht, wird sie ihre Aufgabe kaum erfullen können.

試訳:
〈この知識は、きっと重荷になるだろう〉と、〈それ〉が予言する。〈たとえ誰かと分かち合っても、理解が得られるのはごく稀なケースだ。したがって、コスミック・ハンザがより深遠な意味を持つよう組織することは、ひとえにきみの双肩にかかっている。生命が吹きこまれていない組織には、その使命をはたすことなどできない。

これまでのネタは、基本的に、キミだけに宛てたものなんだよ、である。だから裏の目的の件については、キミにまかせたからね? である。
通商組織としてのガワだけつくっても、真相を知らないメンツではアポりんの攻撃に対処できないのだ。組織に魂を吹きこむ匠の技を要求されたローダン、その肝心の“キミ”がハヤカワ版からは削除されている。防衛失敗である(笑)

ハヤカワ版(p283)
 人間がカオス的宇宙に偶然うまれたものではないことを信じている。
 だれもが心の奥におさえきれない熱望を秘めていることを信じている。人類の宇宙的な運命を知りたいという熱望を。
 人類が崖っぷちから身を投げて、自分たちが荒廃させた大地に落下することはないと、信じている。
 人類がすばらしい宇宙の一角を占め、そこで調和に満ちて生きていくと信じている。

原文:
  Er glaubt nicht, dass der Mensch ein Produkt des Zufalls in einem chaotischen Kosmos ist.
Er glaubt, dass tief in jedem Menschen eine unstillbare Sehnsucht verankert ist, seine kosmische Bestimmung zu erfahren.
Er glaubt nicht, dass der Mensch über den Rand des Abgrunds hinaustaumeln und auf einer von ihm selbst verwüsteten Erde untergehen wird.
Er glaubt, dass der Mensch sich als Teil eines wunderbaren Universums begreifen und voller Harmonie darin leben kann.

試訳:
 人間が渾沌とした宇宙における偶然の産物だとは思わない。
 人間ひとりひとりの奥深く、おのが天命を知ることをもとめてやまない気持ちが根ざすと信じている。
 人類が奈落のふちを踏みはずし、地球もろとも自滅するとは思わない。
 人類が自らをこのすばらしき大宇宙の一部と知り、調和に満ちて生きていけると信じている。

原文の glaubt nicht / glaubt / glaubt nicht / glaubt のリズム、ガン無視である。まあ、百歩譲ってそれはいいとしよう。
動詞 untergehen は「(日が、天体が)沈む」「没落する、滅ぶ」で、人が落下する意味はない。Erde(英:earth)は女性名詞なので auf+III格は方向ではなく場所で、「自らが荒廃させた大地(地球)で(人類が)滅ぶ」。核のボタン押したりしないさー、だ。

また、最後の文章は、ペリー少年が宇宙への窓を見せられて「調和のとれた光の波の一部」と感じた、あれとまったく同じことである。一角を占め、とか、なに領土主義に陥ってるんだと言いたい。

最後の最後、決めの文章でこんな誤訳してどーするの。

ハヤカワ版(p285)
10 テラニア百科事典の記述

原文:
10. Encyclopaedia Terrania

試訳:
10 エンサイクロペディア・テラニア

これまで何度もシリーズに登場した百科事典の名称である。ぜひ踏襲していただきたい。

ここに、ペリー・ローダンの長かった旅路が終わり、新たな使命を携えてテラへと帰還する。
純粋なテラナーの消失とともに、その夢も失われたかに思われたローダンだが、人類のみならず、銀河系諸種族と一体となって超知性体への道を歩むという、新しいお題目によって息を吹きかえす。
〈それ〉によって開陳された、ポジティヴな生命が歩む秩序立った進化の道筋。そこを歩む、それこそが彼の新しい“天命”と思われた……。

まあ、この先のストーリーとか知っていると、なんとまあ純朴な、と呆れたくなる向きもあろう(笑) 実際、後にローダンが知る〈究極の謎〉のカラクリは、コスモクラートが低次の生命体である彼を、まさに“道具”として使い潰す気満々であったことを示している。
1100話「フロストルービン」を経由して、1200話「オルドバン」へと、セト=アポフィスとの戦いと並行して、究極の謎を解くためのヴィールスインペリウムの再建計画と〈ヴィシュナ〉の覚醒、“トリイクレ=9”を奪回するため出現した〈無限アルマダ〉、さらに〈エレメントの十戒〉の参戦と、目まぐるしく展開するフォルツ・ストーリーは、おそらく“その先”に何かをめざしていたのだと思う。その紡がれることがなかったのは、フォルツ・ファンとしては無念の一言に尽きる。

ただ、フォルツが残した1209話までの草案は、ローダンによるクロノフォシルの活性化と、アトランらによる〈深淵の地〉の下準備、その両方の端緒までが用意されているので、その行き着く先――1272話「騎士たちの叛逆」までの大筋は、おそらくすでに詰めてあったのだと思われる。
実際にできあがった形が、フォルツの構想をヴルチェクらが活かしきったか、独自のアイデアで上書きしたのかはこれもまた明らかではないが……そこでまた、すべてを失うローダンに、フォルツはどんな“第三の道”を歩ませるつもりであったのだろうか。

「最終回 人類の天命の物語」に続く。
最後は、本書のテーマとは何か。フォルツが訴えたかったのはどんなことか、考察してみたいと思う。ただし、ノリはいつものごやてんである。