アルコン人は大統領!?

Prätendent / 【試訳】“継承者”、嗣執政官

アフィリー・サイクル、銀河系編の各話を読みつつ、ずっと気になっていること――。
それが、新アインシュタイン帝国における、アルコン人アトランの役職だったりする。

大行政官、という訳語がどこからきたのか。それ自体が、手元に原書のない現状だと確認できないのだが。推測されるのは、Regierungschef からきたという説。でも、これ、役職名じゃなくて、政府首班の意味だで?
ともあれ、NEIの元首は Prätendent と呼ばれるわけだが、辞書をひくと、「1. 要求者、請求者 2. 王位継承要求者」とある。第×位王位継承者とか、そのへん。または、継承権を有し且つ王位に就くことを要求している者、と書くとこんがらがってくるけれど(笑) ヴァターシこそは正当な王位継承者~みたいなノリと考えるといいのかも。

そこで、アトランの場合に当てはめてみると:
最初考えたのが、銀河系の解放(自由)を要求する者。しかし、描写を拾っていくと、「NEIが太陽系帝国の正当な後継国家である」ことを強く主張する政体であるので、「(テラを)継承する者」と読むのが正しいと思われる。そのあたりの文意を反映させると、上記のような試訳になる。

この原語、日本ファンダムでは長らく President と誤解されていた。わたしも大統領だと思ってたし。まぁ、まちがってたら正せばよいわけで。Yes, we can!(爆)

9/24 追記:
英語のpretenderは、確かにあんまりいい意味なさそう。「王位請求者(不当な)」ってついちゃうし、身元詐称者だしね(笑) でも個人的にはクリッシー・ハインド姐御の堂々たるイメージがあるので、まいっかと。
また、邦訳の出始めの頃、先読みの先達が、Großadministrator を「大行政官」と訳してたこともありましたなァ。

お武家様と一等地

Es ist dir gestattet, dich aufzurichten. /
苦しゅうない、おもてを上げい。

2500話から登場する周波王国の尖兵、クローン兵団ダルチュルカとこれを率いる周波トレーサー・シンナフォック。これがまた、なんというか……アレである。
直立不動のクローン兵士たち。その指揮官をにらんで、前へ、と告げる周波トレーサー。進み出たヴァオフォル-1は、片膝ついてホスト座り……もとい、跪いてこうべをたれる。
そこでシンナフォックの口にするセリフが、上記のもの。

動詞 gestatten は「許す、承知する」だが、場合によっては訳すのにえらく難儀する語である。302話 “Gestatten, Gucky und Sohn!” は、「失敬、グッキーと息子!」になるのかな、直訳だと(ハヤカワ版だと「失礼、グッキー親子!」)。イメージとしては、「はい、ちょっとごめんなさいよ……」くらいの意味なんだと思われ。ただ、今回はすなおに「許す」でOKだ(をひ

auf(zu)richten は、まさに「(頭、目を)上げる」なわけだが、dichがついて再帰動詞になっているので、この場合は「起き上がる、からだを起こす」が正しい。
したがって、上記セリフを直訳すれば、「立ってよろしい」くらいになるはずである。
ただし、こう言われたヴァオフォル-1自身は、ちょっぴり顔を上げる程度で、平伏したままなのは変わらない。なので、試訳でもいいんじゃあないかと思うんだ(笑)

……もっともローダンは時代劇じゃないので、不採用まちがいなしだがorz

アニューム主義者、だったか……

Anjumisten / アニューミスト

前項でも取り上げている、「赤い宇宙の帝国」シリーズ。読むのにけっこう骨が折れるのは、用語がいちいち特殊だから。惑星コペルニクスのややネジのぶっとんだ科学者たちが大挙して異宇宙に移住し、拡張した帝国、という設定なので、一般的なことばと、ちょっとちがった言い回しをするのである。
「患者、という用語は使いません。パートナーと言います」 初対面のふとっちょ医者(男性)に「あなたのような方をパートナーにできて私は幸せです!」と宣言されて絶句したローダンは、そんな解説をうけることになるわけだ(笑)

さて、それと同列なわけではないが、従来「アンジュミスト」と訳してきた、赤い宇宙の帝国のレジスタンス組織であるが、これ、創設者 Claes Anjum にちなんだ命名であるそうな。
で、この Anjum 氏の姓名は、どちらもオランダ語系で、クラース・アニューム、と読むのがどうやら正しそう。
今後、当ごやてん内の記事では「アニューミスト」と記載することにしたので、前後で相違することになるがご了解いただきたい。
#って言うほど書いてないけどね(汗)

ローダン・オールタイム・ベスト2003

2003年、HJB出版がヘフト1話を豪華製本したGold-Editionという企画を立てた。いわゆる愛蔵版、であるが、いまの日本で言えば「完全版」コミックスの発想に近いだろう。
ともあれ、その企画にあたって読者に「何話のGold-Editionがほしいですか?」というアンケートをとった結果が以下のランキングである。

  1. (1000) テラナー / ウィリアム・フォルツ
  2. (  50) アトラン / K・H・シェール
  3. ( 200) アンドロメダへの道 / K・H・シェール
  4. (2000) 〈それ〉 / フェルトホフ&ヴルチェク
  5. ( 850) バルディオク / ウィリアム・フォルツ
  6. (   1) スターダスト計画 / K・H・シェール
  7. ( 299) 権力の果て / ウィリアム・フォルツ
  8. ( 500) 虚空より来たる / K・H・シェール
  9. (  74) 戦慄 / ウィリアム・フォルツ
  10. ( 300) 警報!モルゲンロート星域 / K・H・シェール
  11. ( 746) 時知らざる者 / ウィリアム・フォルツ
  12. ( 757) 世界に人の姿なく / ウィリアム・フォルツ
  13. ( 900) ライレ / ウィリアム・フォルツ
  14. (  19) 宇宙の不死者 / K・H・シェール
  15. ( 100) 超種族アコン / K・H・シェール
  16. ( 700) アフィリー / クルト・マール
  17. ( 800) テルムの女帝 / ウィリアム・フォルツ
  18. ( 851) 宇宙的悪夢 / ウィリアム・フォルツ
  19. (1935) 沈黙の歌 / アンドレアス・エシュバッハ
  20. (   2) 第三勢力 / クラーク・ダールトン

企画の関係上、やぱり100話単位の「記念号」が多く含まれるのはいたしかたない。このランキングがイコールおもしろさとは言い切れないが、「2003年当時は、このあたりに人気が集まっていた(傾向がある)」くらいの参考にはなるだろう。

以前どこかで書いたような気もしたが、ブログ統合作業のチェック中に、言及だけでデータが見当たらなかった。リンクを貼っていたHJB出版のサイトからも消えている様子なので、一応覚書の一種としてここに残す。

最近の覚書

あとはホントに覚書。

  1. 『黒のトイフェル』って、思い切ったなオイ^^; 原題は Tod und Teufel (たぶん『死神と悪魔』)
  2. シャドウ・パイラーはどうにも「影杭打機」にしか見えん。原語は Schattenpeiler。シャドウ・デテクターとかさ、とにかく英語とドイツ語のチャンポンはやめなさいってば(汗)
  3. 722「オヴァロンに宛てたメッセージ」 744「最後のコルトン人たち」 746がどうなるかは…ヽ(`д´)ノ

平和を愛するトラック野郎ども

Friedensfahrer / 平和ドライバー

いや、個人的にもこの訳語あんまり好きじゃないんだけどね……「平和のねじ回し」みたいに見えるし(笑) サイクル名としては「網を歩む者」「第六使徒」以来の無理やり訳なのは承知のうえ。
だけど、「宇宙林道」を高速でブッとばして情報や物資を輸送することをなりわいとするトラック野郎を連想してしまったのが運のツキである。Fahrer=運転手=ドライバーの図式がそこで確立してしまった。

まあ、ださいと言われるのも、しごくごもっとも。だけど、これがダメならモア・ベターな代替訳語が必要になるというもので。なんぞございましたらご一報を。ココロの琴線にふれまくったら即採用、ただし Universale Schneise と Quartale Kraft の訳語とセットで、みたいなっ(爆)

庶子認知部屋とかやると全然ちがうもの(笑)

Filiationskammer / 支体房

Heyne社から出ているローダン・ペーパーバック・シリーズ『赤い宇宙の帝国』にて登場する、一風変わったクローニング装置。複製はオリジナルとリンク状態にあって、その経験がオリジナルにフィードバックされるという。原語の Filiation は、素性・由来とか、(非嫡出子の)認知とか、(教会関係の)分派・支部などを意味する。
#一部、もっと広義な「すべてのつながり」云々という訳をあてているサイトも発見。カッコよすぎる……^^;

今回の訳語は、時間の都合上わたしはタッチしていない。肉体の支部製造、というか、そのへんの意味的な部分がうまく出てるのではと思うのだが……訳者であるマガンは、なんだかイマイチ納得しきれていないご様子。
いいんじゃないの。わたしがやると「分体室」とかやりかねんよ?(笑)

わかっちゃいたけど、サー

351巻には、どんな訳になるか楽しみにしていた文章があった。
今後《ソル》が登場する限りつきあっていくことになるはずの、セネカの口癖である。

■p52

ハヤカワ版:
「それなら知っています、サー」

原文:
Das wüßte ich aber!

……え゛ー( ´д`)
接続法II式現在形である。非現実話法である。
直訳したら、知ってたらいいのに、である(の、はず)。
ここはやっぱりツンデレでいくべきで(論理の飛躍)

試訳:
そ、それなら知ってるに決まってるじゃないっ!

まあ、それはそれとして(笑)
「わかってましたけどねー」とか「知ってますとも」くらいの方が、負け惜しみ感漂ってよかったんじゃなかろうか。あんま無味乾燥すぎて、“自意識を持った人間がいいそう”に見えないんだよね……。
口癖としては、敢えて「重々承知」とか、手はあるでしょうに。

出典:351巻「自由への旅立ち」 H・G・エーヴェルス

コウモリは飛んでいく

Fledermaus / コウモリ
Feuerflieger / ファイアフライ(螢)、消火飛行艇

ハヤカワ版339巻『3460年のゼウス』にて登場した種族、ムシーラー(Mucierer)。Cはサ行で確定なのかとか、昨今“ムシ”とカタカナで書かれると別のシリーズを連想してしまうとか、まあ、そのへんはわりとどうでもよい話。
メダイロン星系、惑星ゴシュモス=キャッスルの現住種族であるかれらは、今後100巻余にわたってしばしば登場することになる。二足二腕のヒューマノイド形態だが、広げると5mを超える飛膜をもっていたり、頭部の形状などから、“コウモリのような”とよく形容される。678話でも、実際そう呼ばれているわけだが。

実は、かれらにはもうひとつの異名がある。それが上述のFeuerfliegerだ。
黒色火薬を発明した後、ムシーラーは一種のミサイルランチャーを開発。今回ブリーたちもだいぶそれに悩まされている。異名の由来は「火器を持って飛ぶもの」くらいの意味だろう。以前『ピラミッドの魔圏』を訳出したR谷大SF研会誌では「火器将校」だったと記憶しているし、rlmdi.のタイトルリストでは「ミサイル羽虫」とした。
#ただし、「羽虫」は、プローンスが蟻であることにひきずられた誤訳。

で、なんでこんなことを長々と書いたかとゆーと。

今回のハヤカワ版、全部「コウモリ」に差し替わっているのだった(爆) >Feuerflieger
そら、どっちもFだけどさあ。将来、タイトル仮訳が「コウモリの楽園」だったら笑っちゃうぞ?

人事を尽くして待つものは?

Der Mensch denkt, Gott lenkt. /
【諺】人事を尽くして天命を待つ (人は考え、神は導く)

前項・尋問編のイルミナのセリフ、ハヤカワ訳は明らかにこの諺を意識しているので、一応取りあげておく。
日本語訳は、それこそ千変万化で、他に「事を図るは人にあり、成敗するは天にあり」などがある。
ポピュラーなればこそ、ジョークのネタにもことかかないのは、ちょいとググればすぐわかる。
実際、ローダン・シリーズにおいても、過去の誤訳天国(FC会誌版)でも取りあげたが、1200話台で活躍する混沌の尖兵、〈エレメントの十誡〉の指揮官である〈指導のエレメント〉カッツェンカットをもじって、あるライブレポーターが、

Die Katze denkt, Kazzenkatt lenkt. /
カッツェは思考する、カッツェンカットは指導する。

という駄洒落をかましている。

で、件のイルミナのセリフだが、生きるか死ぬかの瀬戸際で、しきりに空腹を訴えるロルヴィクにあきれかえっていることは一目瞭然なのだから、あえて語呂もふんでいない諺にこだわることはないと思う。強いて使うなら、
「事を図るは人にあり、っていうけど、ひたすら食べることだけなのよね」 とか、
「食べることばかり考えてても、神様は導いてなんかくれないわ」 くらいしないと。
あの訳だと、それこそイルミナ、なに考えてんだと(笑)