時間超越 -9- part1

フォルツ著の「時間超越」、アラスカと、真偽双方のカリブソがからんで、いよいよ混迷をふかめていく第9章――なので、あるが。
えーと、これ……何語? と質問したくなるような、ものすごい文章が並んでいる。い、いったい、なにごとwww

とりあえず、一番すげかった、最初の*印までを、ざっと流そう。

■227p

ハヤカワ版:
 カリブソの超自我は捜索を終え、物理的肉体にもどる準備にかかった。
 いままで、このプロセスで問題が起きたことはない。
 だが、今回は帰還できなかった。
 超自我は虚空にとどまったままだ。
 肉体が死んだのである。
原文:
Callibsos Über-Ich hatte die Suche erfolgreich beendet und schickte sich an, in den physischen Körper zurückzukehren.
Bisher war dieser Vorgang ohne jede Zwischenfälle verlaufen.
Diesmal jedoch gelang der Rückkher nicht.
Callibsos Über-Ich stieß ins Leere.
Sein Körper war tot.

試訳:
 カリブソの超自我は実り多き捜索を終え、肉体への帰還にとりかかった。
 これまで、このプロセスは問題なくおこなわれてきた。
 だが、今回は帰還できなかった。
 カリブソの超自我は空を切った。
 かれの肉体が、死んでいたのだ。

erfolgreich があるので、「捜索を成功裏に終え」。なんらかの成果があったことは、後の文脈から読みとれる。
Leere は確かに、銀河間の虚空、とかに用いられる単語だが、この場合、stoßen ins Leere で「何もないところに突きあたる、空を切る、空振りに終わる」である。ここで「虚空」とやったため、あとの方で、カリブソが作った虚空、なんて表現が出現することになる。

ハヤカワ版:
 しばらくのあいだ、茫然自失の態で、死んだ肉体の上を漂いつづけた。この事実をうけいれることができない。この虚空はカリブソ自身が拡張したものだが、超自我がその“不存在の縁”から落下しそうになる。それを察知して、また言葉にあらわせないほどの恐怖にとらわれた……“意識の一端”でこの状況を“恐怖”ととらえたというほうが、より正確だろう。とはいえ、この“空間”では叫び声を発することもできない。虚空には、聴覚も視覚も存在しないのだ。
原文:
Eine Weile war nichts, nicht einmal Entsetzen. Callibsos Über-Ich schwebte über dem totem Körper, unfähig, diese ungeheuerliche Tatsache zu akzeptieren. Die völlige Leere, die sich in Callibso ausbreitete, hätte fast zu einer Verflüchtigung seines Über-Ichs geführt. Eine Zeitlang bewegte es sich am Rande der Nichtexistenz, dann machte sich der Schock bemerkbar. Er füllte Callibso aus und verlieh dem namenlosen Grauen eine neue Dimension. Mit jeder Faser seines Bewußtseins empfand Callibso nun die Schrecken dieser Situation. Der Raum, in dem das Über-Ich sich befand, ließ keinen Schrei zu, bot keine Möglichkeit zu hörbarer oder sichtbarer Klage.

試訳:
 しばらくは茫然自失の態で、おそるべき事実をうけいれることもできず、超自我は死せる肉体のうえを漂っていた。カリブソのうちにひろがった例えようもない虚無は、あやうく超自我を雲散霧消させるところだった。存在を失うすれすれの状態をすごして後、ようやくショックを自覚する。それがカリブソを満たして、名状しがたい戦慄に新たな広がりをあたえた。いまや意識のひとすじごとに、この状況のおそろしさが感じられた。超自我のいる空間では、叫ぶことも許されず、聴覚や視覚に訴えて嘆く手段もなかった。

前の段で、空振りを「虚空にとどまった」と訳した関係で、なぜか「超自我のいる空間=虚空」という発想が根づいてしまったらしい。おなじ Leere だが、ここでは明白に「胸中のむなしさ」である。むなしさの余り超自我をたもてずカリブソ一巻の終わりになりかけている(笑)
そこがわかれば、「不存在の縁」というのも、消えそうなところで持ちこたえたことが理解できるはずなのだが……。
また、意識の「一端」としている Faser は、「(繊維等の)一筋」ではあるのだが、原文だと jeder 付きなので、「意識を構成する糸の一本一本にいたるまで」が正しい。

※4/20追記:
大事なこと書き忘れてた。「茫然自失」の訳は、いいね。わたしじゃ、ちょっと出てこなかった。
直訳すると、「唖然とするまもないほど、しばらくはただ空っぽだった。」てな文章なんだけど。熟語として活用するような定型じゃないのが残念なくらい。いつもこう書ければいいのになぁ。

ハヤカワ版:
 死んだ肉体には、最後に感じた想像を絶する痛みがのこっていた。超自我は動かない。デログヴァニエンに帰還するたびに感じたよろこびは、もはや過去のものになった。
 使命達成を目の前にして、すべてが絶望の淵に沈んでしまったのである。
 もはや、この肉体にもどることはできない!
原文:
In seinem unbeschreiblichen Schmerz verharrte das Über-Ich wie gelähmt vor dem toten Körper. Vergessen war die frohe Erwartung, mit der es nach Derogwanien zurückgekehrt war.
Die Erfüllung, die in greifbare Nähe gerückt war, räumte völliger Hoffnungslosigkeit das Feld.
Er würde nie mehr in diesen Körper zurückkehren können!

試訳:
 筆舌に尽くしがたい痛みに、超自我は麻痺したように死せる肉体の前から動かない。デログヴァニエンへと持ちかえった、喜びあふれる期待感は忘れ去られた。
 手の届く距離にあった成就は、絶望にとって代わられた。
 もはや、この肉体にもどることはできないのだ!

痛みの由来は原文だけだとはっきりしないが、ここでは前段までに描写された内容を超自我が「痛み」としてうけとったと判断した。そのほうが、変に文章を分けるよりすっきりするし。
喜ばしい期待感――これが最初の、「実り多き」とつながってくるわけだが――を修飾している節(mit der 以降)は、過去完了形である。で、この節には「毎回」を示唆する単語はない。今回限定、願望成就しそうなので、期待大なのである。

■228p

ハヤカワ版:
 それでも、もう一度この殺された肉体に意識を集中させる。しかし、なにが起きたかはわからない。それに関する記憶はなかったから。つらい調査をつづけたが、結局、肉体の見えない部分もショックで破壊されたと確認できただけである。
 それでも、ひとつわかったことがあった。
 ここには、殲滅スーツを所有するテラナーがいる。
 正確には、この生物はカリブソの棲み家を訪れたのだ。たぶん、無意識のうちに、スーツの力によって導かれたのだろう。殲滅スーツに関する伝説を、あらためて思いだした。スーツは正統な所有者のもとにいたる道を見つけたら、自発的にそこに向かうという……
原文:
Callibsos Über-Ich war so stark auf den ermordeten Körper konzentriert, daß es die Ereignisse in der Umgebung noch nicht registrierte. Abgesehen davon, daß der Schock fast den unsichtbaren Teil seines Körpers vernichtet hatte, litt Callibso noch an den Strapazen der Suche. Er hatte sich mehr zugemutet, als unter diesen Umständen gut gewesen war.
Dabei hätte er sich alle Anstrengungen ersparen können.
Tatsächlich war es ein Terraner, der sich im Besitz des Anzugs der Vernichtung befand.
Dieses Wesen hatte gerade im Begriff gestanden, den Aufenthaltsort Callibsos aufzusuchen. Der unbewußte Vorgang war wahrscheinlich durch die Kräfte des Anzugs bewirkt worden. Callibso erinnerte sich an Legenden, die es über diesen Anzug gab. Wenn er eine Möglichkeit dazu fand, kam er seinem rechtmäßigen Besitzer auf halbem Wege entgegen.

試訳:
 カリブソの超自我は殺害された肉体に集中しすぎて、その周囲でなにが起きたのかをまだ認識していなかった。ショックが肉体の目に見えぬ部分を破壊しかねなかったことを度外視しても、カリブソはまだ探索の疲労に苦しんでいた。この状況下でよしとすべき以上を自らに課していたのだ。
 しかも、それらすべての労苦は、せずにすんだはずのもの。
 実際、殲滅スーツを所持していたのは、ひとりのテラナーだったのだ。
 それもちょうど、カリブソの居場所を訪れようとしていた。無意識のプロセスは、おそらくはスーツの力が作用したのだろう。カリブソはスーツにまつわる伝説を思いだした。そのための手段さえみつかれば、スーツは正統な所有者のもとにたどりつくという。

えーと、探索がんばりすぎて、まだまわりがよく見えていないようである(笑)
しかも、無駄にがんばりすぎたせいで、探し物がみずから懐中にとびこんできたタイミングを逸してしまったという……
「肉体の目に見えぬ部分」は「超自我」に置き換えた方がわかりやすいかも。
hätte ersparen können は接続法II式だろうか。「節約することができたかもしれない、できたはずだ」→しなくてもよかったのに、とした。

熟語 im Begriff stehen で、「まさに~しようとしていた」。で、これはどうやら、カリブソが探索のすえにつかんだ事実、であるようだ(どうやって知ったのかは、さっぱりw)。これだけ遠方まで探しにきてみたら、いまオレの家にむかってるだってー!?なのだ(笑)

熟語part2は entgegenkommen auf halbem Wege で、「中途で出会う、妥協する」。英語の歌でたまに meet me halfway とあるのと意味的にはおんなじ。上記文章の場合だと……「鉢合わせする」くらいが妥当な訳なんじゃないかと愚考するしだい。

ハヤカワ版:
 そのとおりのことが起こったにちがいない。スーツがテラの“運搬者”を導き、時間の井戸の輸送フィールドに侵入させたのである。このフィールド自体は、さまざまな大宇宙が共有していたから、侵入は容易だったはずだ。
 テラナーはデログヴァニエンに、必然的にやってきた。ここに一関連ポイントがあったため、“軽率”にジャンプしてきたのだろう。
 しかし、いまはかなりはなれた場所にいるようだ。
原文:
Genau das war jetzt geschehen. Die Kräfte des Anzugs hatten seinen terranischen Träger allmählich dazu befähigt, in die Transportfelder der Zeitbrunnen einzudringen. Diese Felder bestanden in vielen Teilen des Universums.
Zwangsläufig war der Terraner auf Derogwanien herausgekommen, denn hier befand sich der einzige Bezugspunkt für einen offenbar unüberlegt ausgeführten Sprung.
Mit dem Anzug hätte Callibso zum Verbund der Zeitlosen zurückkehren können.
Doch davon war er jetzt weiter entfernt als jemals zuvor.

試訳:
 まさにそのとおりのことが、いま起こったのだ。スーツの力が、装着したテラナーにしだいに及んで、時間の井戸の搬送フィールドに侵入を可能たらしめた。このフィールドなら、宇宙のあちこちに存在する。
 テラナーは強制的にデログヴァニエンに出現した。不用意におこなわれたジャンプに対する、唯一の関連ポイントがここにあったからだ。
 殲滅スーツがあれば、カリブソは“時知らざる者の同盟”に帰還できたはず。
 なのに、いまやその目標から、これまで以上に遠ざかってしまった。
下線は西塔による。

いや、なんでこの文章が削除されてるのよ?! そんなに訳したくなかったのか、Zeitlose ……。
“運搬者”に相当する原語は、この後、234pでシュミットにからんで1ヵ所だけ出てくるが、他は基本的に Träger ……「着た人、装着者」である。

■229p

ハヤカワ版:
 いずれにしても信じがたい状況である。
 超自我は異人を追ってカリブソの小屋に向かい……そこで“人形”を見た。では、テラナーがコンタクトしたため、この不吉な生命が目ざめたのか……
 人形はすぐに反応する。
 “これ”が本当に“生きる”つもりなら、カリブソの超自我が必要だろう……べつの表現をすれば、“魂”が。
 “カリブソ”の未来ははっきりしている。可能性はふたつしかない。いずれ超自我が完全に溶解するか、または自身が合成したこの肉体に住むか、どちらかだ。
原文:
Der unabwägbare Zufall hatte eine unerwartete Situation geschaffen.
Er hatte den Fremden in Callibsos Hütte geführt und ihn die Lieblingspuppe finden lassen. Dann hatte er sie berührt und auf diese Weise zu unheilvollem Leben erweckt.
Die Puppe hatte sofort reagiert.
Um wirklich zu leben, brauchte sie ein Über-Ich – eine Seele.
Damit war Callibsos Zukunft klar umrissen. Er hatte nur zwei Möglichkeiten. Er konnte warten, daß sein Über-Ich sich völlig auflöste, oder er mußte fortan in einem künstlich geschaffenen Körper weiterleben.

試訳:
 まったくの偶然が、予期せぬ状況をつくりあげたのだ。
 それは異人をカリブソの小屋へと導き、お気に入りの人形を発見させた。そうして、異人が触れることによって、人形は災いに満ちた生命へと目ざめたのである。
 人形は即座に反応した。
 真に生きるために、人形は超自我を――魂を必要とする。
 かくして、カリブソの未来は明確に描きだされた。可能性はふたつしかない。超自我が完全に融解するのを待つか、あるいは人造のボディに宿って生きるかの。

前の段落からつながって、「なぜ遠ざかったかというと、こーんな状況が生じたから」と読む方がすんなり理解できるだろう。このあたり、すべてがカリブソの脳内で事態の把握が進んでいくので、基本的に回想である。とうとつに超自我が移動して観察とか、時系列がぐちゃぐちゃになってるのになあ。

異人(アラスカ)を小屋へと導いた「それ」は、原語が er なので男性名詞が第一候補となり、前の文章の「まったくの偶然」であろうと推測される。
動詞 umreißen は「スケッチする」だが、同根の名詞 Umriß が「輪郭、略図」であることを考えると、「人生設計のスケッチが描きあがった(強制的に)」のである(笑)

……。
誰がいつ、どこで何を、なぜ、どのようにやっているのか。5W1Hって、わりと大切である。
それすらわかってない訳では、形だけ日本語でもワケワカメのは当然だよなぁ。

時間超越 -8-

「時間超越」の赤入れ、第8章は短いので、さくっといこう。

あたりまえだが、ブラックホールに消えたアラスカから、何の連絡もないまま48時間が過ぎようとしている。いらだつ司令室の面々に対し、いろいろ責任でも感じたのか、ローダンだけが堤防と化したようだ。
……ある意味、漫才であるw

■224p

ハヤカワ版:
ペリーは苦笑した。
原文:
(なし)

試訳:
(なし)

見破られたっぽいなー、だ。そこで笑ったらバレバレである(笑)

■225p

ハヤカワ版:
「約束する。ただのルーチン作業だ。心配はいらない」
原文:
“Ich verspreche, daß wir uns nicht weiter darum kümmerun, wenn es sich um etwas Alltägliches handeln sollte”,

試訳:
「約束する。もしこれが日常的なものであれば、それ以上関知しない、と」

作業がルーチンではない。通信の内容がルーチンか否か、なのだ。

ハヤカワ版:
「いえ」と、ジェフリー・アベル・ワリンジャーが皮肉に、「正確には、すでに三分半ほど超過しています」
原文:
“Nein”, bestätigte Waringer ironisch. “Es fehlen noch dreieinhalb Minuten.”

試訳:
「それはもう」と、ワリンジャーが皮肉に、「あと三分半も足りませんな」

前の文章が「まだ経過していない(noch nicht vorbei)」だから、Nein は肯定の回答である。
だからこそ、ワリンジャーは「皮肉に認めた」のだ。

ハヤカワ版:
「非常シグナルか!」ローダンは満足そうにくりかえした。
原文:
“Notsignale!” wiederholte Rhodan. Fast hätte er seine Zufriedenhait zu deutlich gezeigt.

試訳:
「非常シグナルか!」ローダンはくりかえした。あやうく満足げな表情を浮かべるところであった。

だから、そこで満面の笑みを浮かべたらバレバレだとさっきから(笑)

ハヤカワ版:
偶然に拾った非常シグナルにいちいち反応してたら、
原文:
Wenn wir uns um jedes Funksignal kümmern wollen, das wir zufällig aufschnappen,

試訳:
「たまたま小耳にはさんだ通信にいちいち反応してたら、

非常シグナル、ではない。なんか通信に、である。
あと、非常シグナルっつーか、「救難信号」じゃない?

■226p

ハヤカワ版:
無理もない。宙航士たちは一秒でも早くこの空間をはなれ、銀河系に向かいたいのだ。この十年、ずっとそうだったように。
原文:
Kein Wunder, es hielten sich fast ausschließlich Raumfahrer in diesem Raum auf, die die Milchstraße als ihre Heimat ansahen und endlich wissen wollten, was sich dort in den vergangenen Jahrzehnten ereignet hatte.

試訳:
無理もない。いまこの部屋にいる宙航士の大半が、銀河系を故郷とみなし、そこでこの数十年に何があったかを知りたくてやきもきしているのだ。

《ソル》生まれはどっかで凱旋パーティでも開いてるのか?(笑)
fast ausschließlich は「ほぼ独占的に」。Jahrzenten は複数形なので「数十年」。まあこの数字は、具体的にはメールシュトロームへの誤転送以降のことだろうから、「一世紀余り」などとする手もあるだろう。だいたい、「この十年」って、ストーリー上はしょられてる部分じゃないの。

ハヤカワ版:
 この時点では、そこでなにを発見するか、だれにもわからない。
原文:
Niemand konnte zu diesem Zeitpunkt ahnen, daß dies der Auftakt einer unheimlichen Entdeckung sein sollte.

試訳:
 この時点では、これがあるぶきみな発見の序曲であることを、だれひとり予感すらしていなかった。

次が新人作家パットンなので、見え見えの伏線というかヒキである。

……。
よーし、終わった終わった(笑)
笑いごとじゃないや。9章、マジどーすっかなぁ。最初の3ページ、文字通り真っ赤なんだよなぁ……。

時間超越 -7- 後編

いろいろ数えるのもめんどくせ( ´д`)状態になりつつある「時間超越」赤ペン添削コーナー。
7章の後半は、大物というほどすごいヤツはない。ない……んだけど、放置しとくのもちょっとなぁ級なものがちらほら見うけられる。
ま、そのへんの詳細は、目でみて確かめてちょ。

■217p

ハヤカワ版:
 まるで、見えない糸にあやつられるマリオネットだ。腕がいきなり動いたかと思うと、つづいて脚が曲がり、立ちあがった。
 目に生気が宿り、テラナーを見つめる。
 殺さなければ……! シェーデレーアはとっさにそう考えた。でないと、困ったことになるにちがいない。
 次の瞬間、そう考えた自分に仰天する。
 自制をとりもどして、目の前の小生物を眺めた。
 しゃがんだ姿勢のまま両手をさしのべ、また窪みからひきあげる。
 そのあと、手をはなしてゆっくりと後退。
 もしかすると、ロボットかもしれない。
 だが、その印象は間違いだと、すぐにわかった。

原文:
Es sah aus wie eine Marionette an unsichtbaren Fäden. Mit ruckartigen Bewegungen winkelte es die Arme an und zog die Beine hoch.
Seine Augen belebten sich und bekamen einen stechenden Blick.
Töte es! regte sich ein spontaner Gedanke in Alaska. Mach es kaputt, bevor es Unheil anrichten kann!
Entsetzt über sich selbst drängte der Maskenträger diese Überlegungen zurück.
Wie gebannt beobachtete er das kleine Wesen.
Es ging in die Hocke, dann griff es mit beiden Händen zum Rand der Mulde und zog sich daran hoch.
Alaska wich langsam zurück.
War das kleine Ding veilleicht ein Roboter?
Noch immer stand Saedelaere unter dem Eindruck, einen nicht wiedergutmachenden Fehler begangen zu haben.

試訳:
 まるで見えない糸にあやつられるマリオネットだ。ぎくしゃくした動きで、腕が曲がり、脚がもちあがった。
 目に生気がやどり、刺すような視線があたりを見まわす。
〈殺せ!〉ふいにアラスカの脳裏に考えが浮かんだ。〈あれをぶち壊すんだ、災いをひきおこす前に!〉
 自身に驚きつつ、マスクの男はその考えを追いはらった。
 呪縛されたように小さな存在を観察する。
 それは、しゃがみ跳びから、両手で窪みのふちをつかむと、よじのぼってくる。
 アラスカはゆっくりと後じさった。
 この小人は、ひょっとしてロボットなのか?
 いまもなお、とりかえしのつかぬ誤りを犯したという印象がぬぐいされない。

最近、山パーレン(山括弧とも。〈〉のこと)を見かけないと思ったが、やはり三点リーダーに駆逐されているのだな(笑)

えーと、以下の「×行目」は、ページ内ではなく、とりあげた枠内の文章数。改行無視なので、「×文目」が正しいのだが、エディタ的勘定ということで、ご了承を。
2行目:Unheil は「災い」である。「治癒・できない・こと」なのだ。困ったこと、よりずっと語感は強い。
6行目:Hocke は体育でいう「しゃがみ跳び」(らしいw)。動詞 hocken は「しゃがむ、うずくまる、背負われる」だが、原文が Es ging in die Hocke, dann… で、「それは Hocke 状態に移って、それから……」なので、単にしゃがむだけでなく、跳ねないと内容がつながらない。それと、そもそも主語が es なので、アラスカにはならないから。
9行目:時制――と、何回書かせる気だろう。印象 Eindruck のくわしい説明をした節は過去完了系、作中の過去をあらわす。そもそも、「とりかえしのつかない」部分はどこいったんだ、この訳文。

ハヤカワ版:
知っているなら、教えてくれないか」
原文:
Können wir uns irgendwie verständigen?”

試訳:
どうにかしてわかりあえないだろうか」

ことばが通じるか、まだ回答がきていない。というのは少々意地悪いか。

訳文:
 小男は底意地の悪い笑い声をあげると、井戸に近づいた。身のこなしはマリオネットそのものである。
 水を汲みあげて、飲みほす。
 そのあと、窪みを一瞥した。自分がそこにいないことを確認したようだ。その姿は伝説のノームを彷彿させる。
 そのあと、いきなり振り返って、
原文:
Das Männschen sah ihn boshaft an. Es stieß ein leises Kichern aus. Dann beachtete es Alaska nicht mehr, sondern begab sich zum Brunnen. Wieder wirkten seine Bewegungen marionottenhaft.
Alaska sah, daß der Zwerg trank.
Er warf enen Blick in die Mulde und stellte fest, daß sie nichts weiter enthielt. Nur der Gnom war darin gewesen.
Plötzlich wandte sich das Wesen um

試訳:
 小人が陰険な目つきでこちらを見て、かすかにほくそえむ。それからもうアラスカには関心をはらわず、井戸にむかう。またしてもマリオネットめいた動きだ。
 小人が水を飲むさまをアラスカは観察した。
 窪みを一瞥して、もう他になにもないことを確認。この侏儒だけがおさまっていたことになる。
 ふいにその小人が振り返って、

小人が水を飲んでいる隙に、窪みをチラ見するアラスカの図。ロボットなら、普通は水飲まないよね、という含みもありそうだ。少なくともこのへんは、指示代名詞が、アラスカなら er、カリブソなら es となっている、のだけど。
さらに、この井戸の位置はどこにあるのか。すくなくとも、庭じゃないぞ。

der Gnom は、語源は確かに地霊ノームだが。Männchen、Zwerg、Gnom と、すべて「小人さん」である。よけいな薀蓄傾けるヒマあったらちゃんと訳すよろし。その文章のポイントはそこじゃないぞー。

■218p

ハヤカワ版:
「異人はよく時間の井戸をぬけてくるから」
原文:
“Alle Fremden kommen durch den Zeitbrunnen.”

試訳:
「異人はみんな、時間の井戸を通ってくるもんだ」

このあたりは、13年余前に訳した、PrivateCosmos『デログヴァニアの人形使い』掲載の部分訳を手直しすればいいし、ちょっとだけ手抜き……と言いたいところだが、いま見ると読み違えている箇所等も目につくし、いかにも斜め読みでイヤン(笑)
ちなみにrlmdi.のサイトに全文掲載されている。見てもらえばわかるが、カリブソのキャラが変な立ち方をしているので、試訳にも反映していたり(爆)

訳文:
 つまり、ほかの惑星からということだ……あるいは、べつの次元に属する世界からという可能性もある! もっとも、小人が嘘をついているか、真相をかくしているという可能性もあった。それがわかればいいのだが。もしそうなら、可及的すみやかに“真実”をつきとめなければならない。
原文:
Es gab also eine Verbindung zu anderen Planeten oder Dimensionen auf dieser Welt! Trotzdem hatte Alaska den Eindruck, daß der Zwerg ihn belog oder ihm zumindest einen Teil der Wahrheit vorenthielt. Alaska war sicher, daß er irgend etwas Schreckliches in Gang gesetzt hatte. Er wünschte, er hätte etwas dagegen unternehmen können. Dazu mußte er jedoch erst einmal herausfinden, was hier gespielt wurde.

試訳:
 では、この世界にも他の惑星ないしは次元との連絡路があるのだ! それでも、アラスカは小人が嘘をついているか、真実の一部をかくしているという印象を拭いされなかった。なにかおそるべき事態を動かしてしまったことは確かだ。それに対処できまいか、とアラスカは思った。だが、そのためにはまず何が起きているのかをつきとめなくてはならない。

よっしゃ、逃げ道アッたーっ!! というアラスカの心の叫びがw
あと、カリブソの嘘というか、自分の“失策”をなんとかしたいのだ、アラスカくん。

■220p

ハヤカワ版:
「あれははるかな昔に滅亡した文明の遺物だ。使い方については……自分で習得した」
「彫像の近くにある、暗い開口部のことを話しているのか?」
「当然だ!」
 相手の目の色がたえず変化するせいで、頭が混乱し、顔をまともに見られない。
「麓の町に住んでいるのは?」と、たずねた。
原文:
“Sie sind Überbleibsel einer unbekannten, längst untergegangenen Zivilisaiton. Ich habe gelernt, sie zu benutzen.”
“Spricht du von der dunklen Öffnung zwischen den Statuen weiter unten am Hang?”
“Richtig!”
Die unstet blickenden Augen des Wesens irririerten Alaska. Er war unfähig, den kleinen Mann richtig anzusehen.
“Wer lebt in der Stadt im Tal?”

試訳:
「あれは未知の、ずうっと昔に滅んだ文明の残りカスさ。あたしはそれを使うことを学んだんだ」
「斜面を下った、彫像のあいだの暗い穴のことをいっているのか?」
「あたり!」
 きょろきょろと動きまわる小人の目が、アラスカをいらだたせた。正視するということが不可能なのだ。
「谷間の都市には、だれが住んでいる?」

mit unstetem Blick で「目をきょときょとさせて」とは、木村・相良。形容詞 unstet 自体が「落ち着きのない」だから、目が落ち着きのない、という表現でもわかるはず。色が変わるって……カラーコンタクト?(笑)
アラスカの主張は、「イラつくので顔も見たくありません」か、「この野郎、話すときは相手の顔を見ろって教わらなかったのかよっ」のどっちだろうか。なんにせよ、自分は仮面つけといて言いたい放題だなwww

■221p

ハヤカワ版:
「知るわけがないだろう? わたしは時間の井戸を通って、惑星を訪問するだけだ。どの土産をどこでみつけたか、いちいちおぼえているはずがない!」
原文:
“Wie soll ich das wissen? Ich habe durch die Zeitbrunnen soviel Planeten besucht, daß ich mich nicht mehr daran erinnern kann, woher die einzelnen Gegenstände stammen.”

試訳:
「わかるわけがなかろう? あたしが時間の井戸をぬけて、どれだけたくさんの惑星を訪れたと思うね。どの道具がどこのものかなんて、いちいちおぼえちゃいられないよ」

訳文は、筋が通っているようで、実は説明になっていない。移動手段は特に関係なかろう。

ハヤカワ版:
マスクの男は思わず悪態をついた。おのれの運命にとって非常に重要な情報を、聞きのがしてしまったのだ。次にこういうチャンスがあるとは思えない。
原文:
Er stieß eine Verwünschung aus, denn er befürchtete, daß er keine weitere Gelegenheit bekommen würde, um in den Besitz lebenswichtiger Informationen zu kommen. Im Grunde genommen wußte er nicht viel mehr als zuvor.

試訳:
思わず悪態をついた。生命にかかわりかねない情報を手に入れる機会を、これで逸してしまったかもしれないのだ。ありていに言って、まだなにひとつわかってはいない。

最後の文章は、「根本的に、前より大して知っていることがない」ということ。カリブソとの問答の結果、回答より質問ばかり増えた状態なのである。

ハヤカワ版:
 時間の井戸にしても、異人に手を借りなければ、とても利用できそうになかった。
原文:
Er dachte über die Zeitbrunnen nach. Würde er sie ohne fremde Hilfe benutzen können?

試訳:
 時間の井戸のことを考える。異人の手助けなしでも、利用は可能だろうか?

あきらめるの早いよ、アラスカ(笑)

■222p

ハヤカワ版:
 デログヴァニエンで“浮上”したのは、偶然ではあるまい。しかし、ここでこの“冒険”を終わらせるわけにはいかない。
原文:
Da er überzeugt davon war, daß sein Auftauchen in Derogwanien kein Zufall sein konnte, rechnete er damit, daß seine Abenteuer auf dieser Welt noch nicht beendet waren.

試訳:
 自分がデログヴァニエンに出現したのは偶然ではあるまい。したがって、この世界での冒険はまだ終わってはいないはずだった。

バッドエンド直行とは考えない! 意外とポジティヴシンキングだな、アラスカ!
Auftauchen は動詞 auftauchen の名詞化で、もともとは「浮上する、(比喩的に)現われる、(考え等が)浮かぶ」であるから、「浮上」で間違いないが、ここまででブラックホールの彼岸に「潜る」tauchen という表現がなかったので、そのまま「出現」とした。

ハヤカワ版:
だが、歩きはじめてまもなく、麓から霧が発生し、あっという間に町をつつんでしまった。尖塔だけはしばらく見えていたが、霧が濃くなるにつれて、それも消える。もしかすると、これも人形使いのしわざかもしれない。こうして自分の姿をかくそうというのだ。
原文:
Als er in Richtung des Tales marschierte, sah er, daß Nebel aufkam. Von der Stadt waren nur noch die hoch aufragenden Türme zu sehen, alles andere war in dunkelgrauen Schwaden verschwunden. Vielleicht versuchte Callibso, sich dort unten zu versteken.

試訳:
谷の方へと進むと、霧が発生しているのが見えた。都市はもはや高い尖塔しか見えず、ほかのすべてがダークグレイの靄につつまれていた。ひょっとしたらカリブソも、あの下にかくれているのかもしれない。

なんだその、やたらと能動的な濃霧注意報w カリブソが気象操作系の機器を常備しているかはわからないけど、人形にはいじれないんじゃない?

■203p

ハヤカワ版:
小人がその横にしゃがみこみ、腕ほどの長さのナイフを振りかざすと、それを男の胸につきたてたのである。
原文:
Auf ihm hockte der Zwerg und stach mit einem armlangen Messer auf die Brust des Mannes ein.

試訳:
その上に小人がしゃがみこんでおり、腕ほどの長さのナイフを男の胸に突きたてていた。

マウントポジションである。前置詞 auf で「~の横に」の意味があるとは、寡聞にして知らんかったぜ。

ハヤカワ版:
 しかし、つかみかかるより早く、カリブソは跳びあがり、ナイフを投げつけた。
原文:
Bevor er jedoch eingreifen konnte, schwang Callibso sich von dem Fremden und schleuderte das Messer davon.

試訳:
 しかし、アラスカが介入するより早く、カリブソは異人から跳びおり、ナイフをほうりだした。

再帰動詞 schwingen sich には「跳びあがる、跳びおりる」と、どちらの意味もある。
schleudern は、カタパルトみたいに射出するイメージの動詞だが、この場合、接頭語として davon がつくので、「自分から離れる方向へ投げた」となり、必ずしもアラスカめがけて投げたとはとれない。

ハヤカワ版:
恐ろしい殺人の現場にいると考えただけで、頭がおかしくなりそうになる。
原文:
Das Bewußtsein, daß er im Grunde genommen für diesen entsetzlichen Mord verantwortlich war, machte ihn fast wahnsinnig.

試訳:
結局のところ、この恐ろしい殺人の責任が自分にあると意識するだけで、頭がおかしくなりそうだった。

だからさあ、「とりかえしのつかない誤り」を訳せてないあたりから、この流れはできてるんだよね……。五十嵐版アラスカ、まるっきり責任感じてないじゃない。

ハヤカワ版:
自分の人形に魂を吹きこんだから!」
原文:
Nun wird er seine Lieblingspuppe beseelen müssen.”

試訳:
いまや、お気に入りの人形に魂を吹きこまなくっちゃならない」

詳細は9章で解説されるが、真のカリブソの超自我は、人形の「魂」として宿ることになるわけだ。

……。
細かいとこは、なるべく放置する方針で。でないと、9章冒頭あたりで力尽きそうだし。
赤ペン作業の方はなんとか終了。その結果は、おいおいに……。

時間超越 -7- 前編

すでに書店にはグロソフト(笑)が並んでいるようだが、とりあえず、こっちだこっち。
やはり1回ではとうてい終わらないので、また複数回に分けることにした。一部、284巻『氷界から来た男』(これも「氷山から出てきた男」だろうなあw)からの抜粋についてもとりあげるので、当該ハヤカワ版を探したがみつからなかった。こないだ、古本処分する際にみかけたんだが……。書き込みしてる本は売れないしな(爆) どこやったんだろ。

■210p

ハヤカワ版:
あるいは、五つの衛星の光がそう見せているだけかもしれない。しかし、
原文:
Das Licht der fünf Monde mochte Alaskas Augen täuschen, aber sein Gefühl ließ sich nicht beeinflussen.

試訳:
五つの月の光はアラスカの目は惑わすかもしれないが、感情までは影響しえまい。

目で見たもの以外に、なんかすっげえ感じがする、のである。次の文章も、「放射」じゃなくて、「オーラ」と考えればわかりやすいかと。

ハヤカワ版:
 その肉体は硬直して、ぴくりとも動かない。
 アラスカはこの生物がすぐにも動きだすと思い、待ったもの。
 だが、それは間違いだったのだ。
原文:
Saedelaere registrierte, daß er wie erstarrt stehengeblieben war.
Unwillkürlich wartete er darauf, daß diese Wesen sich bewegen und etwas Großartiges tun würde.
Aber es geschah nichts.

試訳:
 アラスカは、自分が麻痺したように立ちすくんでいたことに気づいた。
 知らぬまに、この存在が起きあがり、なにか壮大なわざをしめすことを待った。
 だが、何も起こらない。

アラスカの宇宙的本能(笑)が、とんでもないやつに出会っちまった……と反応したの巻。目を覚ますと同時に、「天上天下唯我独尊」と宣言するとでも思ったのかねw
しかし、「寝ている(liegen)」異人が「立ちすくんでいる(stehenbleiben)」って脳内描写は、どこか変だとわかってもらいたいものだ。その er =アラスカじゃん。

■211p

ハヤカワ版:
 そのまま、待ちつづけた。どれほど待ったかわからないほど長く。だが、ついにあきらめて、立ちあがる。この生物とコンタクトしたかったのだが、このまま待っても意味がない。
原文:
Der Transmittergeschädigte wußte nicht, wie lange er neben der reglosen Gstalt gestanden und gewartete hatte, aber nach einer Weile setzte er sich wieder in Bewegung. Er hatte nicht den Versuch unternommen, Kontakt mit diesem Wesen aufzunehmen, denn er war sich darüber im klaren, daß das sinnlos war.

試訳:
 身じろぎもしない姿の横に立ったまま、どれほど待ったかわからない。だが、そろそろ動くことにする。コンタクトは試みなかった。いまそうしても無駄なことはわかっていた。

まぁ、勝手に腰をおろした(笑)以外は、結局、ニュアンスというか、主観の問題でしかない。

ハヤカワ版:
だが、小道も都市と同様、完全に見捨てられて、まったく動くものの気配がない。
 途中、いったん立ちどまり、あらためて穴を見下ろす。ここからだと、直径が二十メートルほどあるとわかった。
原文:
Der Weg war jedoch verlassen, und auch unten in der Stadt regte sich nichts.
Von hier oben aus konnte Alaska die Öffnung im Hang in ihrer gesamten Ausdehnung überblicken, und er schätzte, daß ihr Durchmesser etwa zwanzig Meter betrug.

試訳:
だが、小径にひとかげはなく、下方の都市にも動くものは見あたらない。
 この高さからだと、斜面の開口部の全景が見わたせる。アラスカは、直径およそ二十メートルと見積もった。

ふりかえって、小径を見て、都市を見て。いきおい、途中にある穴も見ているのだ。あらためる必要、特にないはずだが。

■212p

ハヤカワ版:
ミステリアスな巨人
原文:
der mysteriöse Hüne

試訳:
ミステリアスな巨漢

身長2メートルを巨人と呼ぶかは微妙だが。個人的には、Gigant や Riese は「巨人」で、Hüne は「大男」だと思っている。え? 自分ルールはもぉええって?

ハヤカワ版:
 次に、あたりを一周してみる。
原文:
Der Mann mit der Maske umrundete die Hütte.

試訳:
 小屋のまわりを一周してみる。

いや、「あたり」だと「小屋の近場」で、うろうろしてそうに感じたので。特に誤訳というわけではない。

ハヤカワ版:
最後に、重々しい木製の扉の前に立つ。あらためて耳をすましたが、やはりなにも聞こえない。
原文:
Alaska ging zu der schweren Holztür, preßte ein Ohr dagegen und lauschte. Alles war still.

試訳:
重たそうな木の扉に耳をおしあててみたが、静まりかえっている。

聞き耳頭巾……じゃなくて仮面か、アラスカ(笑)

ハヤカワ版:
ついさっきまで、だれかがいたにちがいない。アラスカは扉を全開にすると、用心のため、数歩後退。
原文:
Das bedeutete, daß jamand anwesend oder erst vor kurzer Zeit gegangen war. Alaska stieß die Tür völlig auf und trat vorsichthalber einen Schritt zurück.

試訳:
だれかいるか、少なくともついさっきまでいたにちがいない。アラスカは扉を全開に押しあけると同時に、用心のため一歩後退。

いるかもしれないので、用心したのだ。押し開いた反動でバックステップ?
まあ、このへんは、実はどうでもいいのだ。

ハヤカワ版:
 しかし、原始的な棲み家からは、だれも跳びだしてこなかった。なかをのぞきこむと、暖炉で火が燃えている。室内を眺めまわすと、壁のあちこちには棚があり、奇妙な日用品がならんでいた。いずれも見慣れない意匠のものだ。どうやら、異なる文明からもたらされた“珍品”のコレクションらしい。おそらく、さまざまな惑星で収集されたものなのだろう。
原文:
Die primitive Wohnung war jedoch verlassen. Das Feuer brannte in einem offenen Kamin auf der einen Seite des einzigen Raumes. Mitten in der Hütte sprudelte Wasser aus einem steinernen Brunnen. Überall an den Wänden hingen fremdartig aussehende Gegenstände. Zweifellos kamen sie von verschiedenen Ursprungsorten. Es war eine Sammlung ungewöhnlicher Dinge. Alaska überlegte, ob sie von fremden Planeten zusammengetragen worden waren. Vieles deutete darauf hin.

試訳:
 しかし、原始的な住居は無人だった。ひとつきりの部屋の一隅では暖炉で火が燃えており、中央には石造りの泉から水が湧き出ていた。壁のいたるところに、見慣れぬ外観の道具がぶらさがっている。明らかに、どれも出所が異なる。珍品のコレクションだ。別々の惑星で収集されたものではなかろうか。見たところ、その可能性は高い。

試訳の後半は、少々意訳。直訳は、「多くのことがそれを示唆している」。
この段落のポイントは2つ。部屋の中央には泉があることと、コレクションは壁にぶらさがっていること。どちらも後の訳に影響する事実である。

泉は、時間の井戸と同じ Brunnen だが、湧水の描写があるので、あえて泉とした。どちらにもなりうるのが、この単語のめんどくs……もとい、便利なところ。たとえば、獅子の泉と書いてレーヴェンブリュンとルビをふるなら、その建造物はどこかにライオンの彫像があって口から滔々と水を零しているにちがいないのだ(笑)
#いいのか、断言してwww

ハヤカワ版:
 さらに観察をつづけるうち、天井からぶらさがるソーセージに気づく。ありがたい! これで、当面は餓死することもないだろう。庭には泉があるから、水も確保できる。
原文:
Die Blicke des Zellaktivatorträgers wanderten weiter. Zu seiner Überraschung hingen an der Decke mehrere geräucherte Schinken. Zu hungern brauchte er also nicht. Wasser konnte er sich aus dem kleinen Brunnen beschaffen.

試訳:
 さらに視線をさまよわせると、驚いたことに、天井からいくつも燻製肉がぶらさがっていた。どうやら飢えることだけはなさそうだ。水も小さな泉で確保できる。

にわにはにわにわとりがいた……かは知らないが、とりあえず泉はないんじゃね? というか、文中に「庭」という単語はないから。室内に泉がある描写を削除したこと、どうやらすっかり忘れてしまったらしい。

ソーセージ、と訳されている geräucherte Schinken は、「燻蒸された、燻製もも肉」で、少々修飾がくどい気がするのと、主にもも肉らしいが、そもそも何の肉なのかわからないのでそこもシンプルに。たぶん、乾し肉にするのにぶらさげてたら、暖炉の煙でいつのまにか燻製になってたってやつ? 腸詰加工の描写はないなぁ。

■213p

ハヤカワ版:
ちいさな部屋だが、すくなくともふたつの世界の様式が見てとれる。どちらも、似たような原始的環境にある世界で、コレクションの大半も、そこから持ってきたらしい。
原文:
denn hier hatten sich offensichtlich auf kleinstem Raum zwei Welten manifestiert. Es war schwer zu glauben, daß der Bewohner all die seltsamen Gegenstände zusammengetragen hatte und gleichzeitig in einer derart primitiven Umgebung lebte.

試訳:
小さな部屋だが、明らかにふたつの世界が顕在していたから。その住人が、これら奇妙な道具をコレクションする一方で、かくも原始的な環境で暮らしているとは、実に信じがたい。

道具……と訳しているが、どうやらカリブソがシルクハットから出すハイテク機器の同類のようだ。要するに、ハイテクとプリミティブの両面がこの部屋にはある、ということ。

ハヤカワ版:
 殲滅スーツの一セグメントが、注意深くとめてあるのだ。
原文:
Das so sorgsam an die Wand geheftete Utensil war ein Teil des Anzugs der Vernichtung.

試訳:
 実に念入りに壁にとめてある、“道具”と思っていたものは、殲滅スーツのセグメントではないか。

ここで用いられる形容詞 geheftet「とめた、くっつけた、鉤どめされた」は、ローダン・ヘフト等の Heft と同根の動詞 heften の過去分詞。あれは、ホチキスで中綴じにしてあるわけやね。
つまり、ほかの道具類も、壁にピンどめか、壁にうった鉤にひっかけてあると思われる。ここで「大切に棚に置いてある」ならともかく、前ページで「棚」とある理由が、いまいちよくわからない。

ハヤカワ版:
 人間の生命活動は、その心理にも影響をあたえる。論理的思考をやめれば、こんどは感覚が研ぎすまされるもの。
原文:
Bestimmte Ereignisse im Leben eines Menschen vermögen seinen Verstand so zu beeinflussen, daß er aufhört, vernünftig zu denken, und nur noch seinem Gefühl nachgibt.

試訳:
 人生におけるある種のできごとは、その人間の悟性に、理性的思考をやめ、ただ感情に屈するよう影響をおよぼすことがある。

あー……だから「考えるな、感じるんだ」は、あまり適切ではないとこのあいだから(笑)

ハヤカワ版:
目の前に、自分がずっと、想像もできない力の影響下にあったという、動かぬ証拠があるのだ。
原文:
denn nun hatte er den unumstößlichen Beweis vor Augen, daß er sich im Kraftfeld einer unvorstellbaren Macht befand.

試訳:
自分が想像を絶する力の勢力圏にいるという、まごうかたなき証拠を目のあたりにしたのだから。

befinden sich は再帰動詞「自分を・みつける」で、「~にいる」。
で、「目の前に動かぬ証拠がある」のはいい。それがどういうものかというと、befand sich ……地の文で過去形なので、「いま」アラスカがいる、ということ。どこにいるかというと、「想像できない力の力場内」にである。

■214p

ハヤカワ版:
自分が罠に追いつめられた動物になったような気がする。その“想像もできないなにか”は見えないものの、身近には無数の“示唆”があった。
原文:
Alaska duckte sich wie ein in die Enge getriebenes Tier. Das Unbegreifliche war nicht sichtbar, aber seine Nähe deutete sich in unzähligen Dingen an.

試訳:
アラスカは追いつめられた獣のようにちぢこまった。想像もできない存在は見えこそしないが、すぐ近くにいることを無数の事柄が示唆していた。

ducken sich は「身をかがめる」。ボクシングのガードでいうダッキングだ(笑)
まぁ、このへんのアラスカは、理性を投げうって感情(恐怖)に圧倒された、おどおどきょときょと状態である。

ハヤカワ版:
テラナーのシュミットと名乗るサイノスは、おのれが消える直前、スーツをあずかるようシェーデレーアにたのんだもの。
原文:
Schmitt, wie die Terraner Cyno genannt hatten, war unmittelbar darauf verschwunden. Alaska erinnerte sich noch daran, was Imago I zu ihm gesagte hatte.

試訳:
テラナーにシュミットと呼ばれたサイノスは、その直後に姿を消した。かれがなんと言ったか、アラスカはいまもおぼえている。

このあとのシュミットのセリフは、284巻『氷界から来た男』の抜粋と思われる。当時もおやおやと思ったものだが、ついでにとりあげておく。

訳文:
「このスーツはだれにでもフィットする。いつの日か、身につけることになれば、ぴったりだと思うだろう」
原文:
“Der Anzug der Vernichtung paßt jedem! Sie werden ihn eines Tages tragen. Dann werden Sie auch wissen, wozu er gut ist.”

試訳:
『殲滅スーツはだれにでも合う! きみはいつの日か、これを身につけるだろう。そのとき、なんの役に立つかもわかるはずだ』

後半は、別にサイズの話をしているわけではない。

ハヤカワ版:
 あるいは、あの神秘的な男と、ここで再会するのかもしれない。
原文:
Alaska glaubte, den geheimnisvollen Mann wieder vor sich zu sehen.

試訳:
 まるで、あの神秘的な男がまた目の前に立っているかのようだ。

それほど、ありありと記憶していた、というにすぎない。シュミットが、影を投げかけないオベリスクに変じたことは、確かに読者しか知らないことかもしれないが……。

ハヤカワ版:
「きみはわたしを疑わなかった」と、あの男はいった。「すくなくとも、わたしの問題を理解しようとしてくれた。それでも、わたしの存在自体を理解したわけではない。きみにとり、わたしはシュミット……一サイノスなのだ」
原文:
“Zumindest haben Sie versucht, meine Probleme zu verstehen”, hatte Schmitt gesagt. “Trotzdem wissen Sie nichts von mir. Für Sie bin ich Schmitt, der Cyno.”

試訳:
『すくなくとも、きみはわたしの問題を理解しようとしてくれた』と、シュミットはいったもの。『それでも、わたしのことをなにひとつ知らないままだ。きみにとり、わたしは、サイノスのシュミットだ』

まあ、単に強調しただけだと思うのだが。Schmitt, der Cyno はいわば並列で、しかも定冠詞つきだから、一サイノス(ein Cyno)とはちょい意味合いがちがうような。

ハヤカワ版:
 なぜこの不気味な“プレゼント”を、自分にあずけたのか?
原文:
Welche tiefer Bewandnis hatte dieses ungewöhnliche Geschenke, das er Alaska gemacht hatte?

試訳:
 アラスカにしたこの尋常でない贈り物に、どんな深遠な事情があったのか?

不気味なのはたしかだけど。むしろ、アラスカ自身はどんどん適応しちゃってる気がしないでもない。というのは、次のページで詳細に述べられる。

■215p

ハヤカワ版:
 マスクの男はテラ科学チームに調査を依頼した。
原文:
Saedelaere hatte den Anzug der Vernichtung einem Team terranischer Wissenschaftler übergeben müssen.

試訳:
 シェーデレーアは殲滅スーツをテラ科学チームに提出せざるをえなかった。

不明な手段でイマジナールを殲滅したのはこのスーツだけに、ローダンとしても調査はせざるをえなかっただろう。これはむしろ、命令だったと思われる。

ハヤカワ版:
 だが、それにつれて、人生も大きく変わってしまった。意識が拡大するとともに、さらに異質なものが目の前に出現するようになったのだ。しかも、その過程で、人々との乖離はさらに大きくなっていった……
 自分が次の一歩をしるすあいだに、のこった人類のあいだでは、数世紀が経過しているかもしれない。
 転送障害者はこれまで、宇宙的意識ともいうべきものを発達させてきた。
原文:
Gleichzeitig hatte dieses Geschenk sein Leben völlig verändert. Sein Bewußtsein war erweitert worden. Dinge, die ihm früher fremd und unbegreiflich erschienen, waren ihm nun vertraut. Bei dieser Entwiklung hatte er sich immer weiter von den anderen Menschen entfernt, ohne daß ihn dieser Vorgang belastethatte, wie früher der Fall gewesen war.
Alaska hatte einen Schritt nach vorn gemacht, den die übrige Menschheit vielleicht erst in Jahrfunderten wagen würde.
Der Transmittergeschädigte hatte ein kosmisches Bewußtsein entwikkelt.

試訳:
 同時にこの贈り物は、かれの人生を根底から変えた。かれの意識は大きく広がった。かつては異質で理解しがたかった事物が、いまや身近なものとなった。この展開に際し、周囲の人間との乖離はいっそう進んだが、以前のようにそれに苦しむこともなかった。
 他の人類があるいは数世紀後にようやくなしうるかもしれない一歩を、アラスカは踏みだした。
 宇宙的意識とでもいうべきものを発達させたのである。

なんでひとまとめにしたかというと、これが全部つながった段落だからである。人生が変わったというのは、こーんな風で、結果として、宇宙的意識の発達にいたる、という流れだ。訳文だと、最後の文章の手前で話題がとぎれている。しかも、内容まちがってるし。

動詞 erscheinen は「現われる」の意味もあるが、「~のように見える、思われる」としても用いる。この場合は、「かれ(アラスカ)には、異質かつ理解不能として現われる」→「~に思われる」となる。
最後の文章の entwikkelt は、おそらく entwickelt の誤植。

……。
最近、照合していて思うことは、文章量の調整として削る際に、内容を理解する前にやっちまってるんじゃないかということだ。削った方に、重要な情報が残されているケースがまま見うけられる。翻訳ソフトに訳せなかったからって、別に不要なわけじゃないんだぞ?
(翻訳ソフト使用説には否定的見解だったが、あらためないといかんかなぁ……)

時間超越 -6-

幾名かからコメやメールをいただいて、ちょっぴりガソリン補給♪ 「時間超越」ツッコミ・コーナー第……何回だ(笑) もう11回目か。
さて、アラスカが未知の惑星ですっぽんぽんの異人を発見した頃、表向きは無事帰還にともなうお祭りムードな《ソル》の司令室では――

■207p

ハヤカワ版:
乗員が格納庫に帰還して“家”にもどるさまを、司令室からつぶさに観察できるのだ。
原文:
Von seinem Platz in der Zentrale der SOL aus konnte er beobachten, wie die Besatzungsmitglieder die Hangers verließen und in ihre Unterkünfte an Bord zurückkehren.

試訳:司令室にいながらにして、乗員たちがハンガーを出てそれぞれの居住区へもどるさまを観察できた。

最近はハンガーはそのまま「格納庫」って訳してたっけ? まあその方がわかりやすいよね。
Unterkunft は「宿、宿泊所」だから、《ソル》生まれのいう Heimat 「故郷、家」に対する、テラ生まれにとっての《ソル》(にある部屋)――仮の宿、でしょう。

さて、次はちょっと長い:

ハヤカワ版:
 この“グループ”の役割は、ローダン自身も正確には把握していなかったのだが、今回の“強制疎開”で、いくらか明らかになったような気がした。
 たとえば、ジョスカン・ヘルムートに代表される、この船で生をうけた人々は、地球よりこの船にアイデンティティを感じている。この事実は衝撃的であった。
 ヘルムートのような人間が、たとえば一惑星を救うために戦うだろうか……?
 このサイバネティカーは、《ソル》を守るためなら、進んでわが身を犠牲にするだろう。だが、地球のためには、どうか……?
 地球……それが神話の舞台になるときがきたとしたら、その“真の意味”を知るのは、ひとつかみの細胞活性装置保持者だけになるかもしれない。
 逆にいうと、人類は大宇宙の広大無辺さに気づき、その一部になっていくのだろう。
 そのヴィジョンは圧倒的だったが、ペリーは目前の問題に集中することにした。
原文:
Niemals zuvor war Rhodan sich der Rolle dieser Gruppe so bewußt geworden, wie in dieser Augenblick. Als er gezwungen war, diese Menschen aus der SOL zu evekuieren, war er sich nicht darüber im klaren gewesen, was dieser Befehl für si bedeutete hatte.
Das Verhalten der SOL-Geborenen bei der Rückkehr ließ ihn sich selbst die Frage stellen, ob es überhaupt möglich war, diese Menschen auf einem Planeten auzusiedeln.
Joscan Hellmut und alle anderen, deren Leben an Bord dieses Schiffes begonnen hatte, würden sich nicht einmal auf der Erde wohl fühlen. Dieser Gedanke war bestürzend.
Rhodan überlegte, ob Menschen wie Hellmut mit überzeugung für die Rettung eines Planeten kämpfen konnten.
Wahrscheinlich hätte Hellmut sein Leben geopfert, um die SOL zu erhalten. Was aber hätte dieser Mann für die Erde getan?
Die Erde – würde sie zu einem Mytohs werden, der letztlich nur noch für eine Handvoll Zellaktivatorträger eine reale Bedeutung hatte?
Die Menschheit begann sich in den Weiten des Kosmos zu verlieren, sie hört auf, eine Einheit zu sein.
Diese Vorstellung war beklemmend, aber Rhodan durfte sich nicht vor ihr verschließen.

試訳:
 この瞬間ほど、この集団の役割をローダンが痛感したことは、かつてなかった。《ソル》から疎開するよう強制的に命じたときには、それがかれらにとり、いかなる意味をもつか理解できていなかったのだ。
 帰還に際しての《ソル》生まれたちのふるまいは、ローダンをして、かれらが惑星に安住できるかを疑わせるに足るものだった。
 ジョスカン・ヘルムートをはじめとする、この船に生をうけたものたちは、地球ですら心安らぐことはあるまい。この考えは衝撃的だった。
 ヘルムートのような人間が、信念をもって一惑星を救うため戦えるだろうか?
 おそらくヘルムートは、《ソル》を守るためなら生命すら投げだすだろう。だが、地球のためにはどうだ?
 地球――それはやがて、ひとにぎりの細胞活性装置所持者にしか現実的意味をもたぬ、神話となってしまうのだろうか?
 人類は広大無辺の宇宙でおのれを見失い、ひとつのものではなくなりつつある。
 その想像は胸をしめつけるものであったが、目をつぶるわけにはいかなかった。

えーと……すべては、後のテラナーとソラナーの訣別、《ソル》委譲への伏線ですじょ?
強制疎開から、不安にさいなまれる《ソル》生まれたちと、かれらの“凱旋”風景を見て、ローダンはかれらがもはや、地球人たりえないことを実感した、というエピソードだ。なんでいきなり、ちょっといい話になってるの(笑)

最後のくだりは、直訳すると、「人類は宇宙の広大さのなかに失われはじめた、統一された存在であることをやめるのだ。そう想像すると胸がしめつけられるが、ローダンは(その想像の前に)自らに鍵をかけてはいけなかった。」くらいになる。テラナーと《ソル》生まれと、その両方に責任を負う身としては、今後どうなるか、どうするべきかを考えなければならない、ということである。

ああ、もう。翻訳ソフトか斜め読みか知らないけどさ、どこかポイントかは理解してほしいわ。超訳なんて、それから後の話でしょう。

■208p

ハヤカワ版:
「計算システムは完全に機能しています!」ワリンジャーの声が響く。「ブラックホールの影響は、完全に払拭されました。セネカも安全を宣言しています」
原文:
“Der Rechenverbund arbeitet wieder einwandfrei!” Waringers Stimme riß Rhodan aus den Gedanken. “Die Störung war auf den Einfluß des Black Holes zurückzuführen. Jedenfalls gab SENECA das als Grund an.”

試訳:
「合同計算脳、完全に機能回復しています!」ワリンジャーの声が、ローダンを物思いからひきもどした。「障害はブラックホールの影響に帰因するものだったようです。少なくとも、セネカはそう主張しています」

え? 闇スペに協力? なにそれぼくわかんなーい、である(笑)

ハヤカワ版:
ですが、これまでに帰還していないとなると……」
原文:
Da dieses längst erloschen ist, werden wir Saedelaere nicht wiedersehen.”

試訳:
それが消滅してしまったいまとなっては、見込みはありません」

ワリンジャー、わりと外道……というか、マッドサイエンティストらしく、歯に衣着せぬ物言いである。最初はちょっとやわらかめだったが、最後にバッサリだ(笑)

ハヤカワ版:
「われわれは故郷銀河への飛行をつづけなければなりません」
原文:
“Wir können den Flug in die Heimatgalaxis fortsetzen.”

試訳:
「故郷銀河への飛行を再開できますが」

まあ、内心は「はよせい」なんだろけどw でも、継続すること自体は規定事項だよね。

ハヤカワ版:
「ですが、アラスカがもどる可能性は、ほとんどありません!」
原文:
“Sie glauben doch nicht im Ernst, daß Alaska noch einmal auftauchen könnte!”

試訳:
「アラスカがひょっこりあらわれるなどと、まさか本気で信じてはいないでしょう!」

可能性はほとんどないつーか。もはや誰も信じていないのだ。ま、やむなしだが、わりとひどいな(笑)

ハヤカワ版:
《ソル》のもと船長は譲らない。「ですから、もどる方法も自分で開拓するでしょう」
原文:
erinnerte der ehemalige Chef der SOL. “Abgesehan davon, daß sich niemand vorstellen kann, wie er zurückkehren sollte, wird er nicht den Wunsch dazu haben.”

試訳:
もと太陽系情報局長官が指摘する。「どうすればもどれるか誰にもわからないことを抜きにしても、そもそもそのつもりがないでしょう」

電子化の時点の入力ミスか、あるいは元々の誤植か不明だが、デイトンが《ソル》の船長であった事実はない。太陽系秘密情報局の略称 SolAb の誤りであることは明白。

後半、直訳は「そうする(帰還する)望みをもたないだろう」、文意自体は、「好きで行ったんだから、そもそももどっちゃこないでしょ」だ。ほとんど流れ者を好きになった娘への忠告である。

■209p

ハヤカワ版:
「きみの考えは痛いほどわかる」と、ローダンはほほえみ、「当然、われわれの総意として、可及的すみやかに故郷銀河へもどろうとしているわけだ。それが《ソル》の最終目標なのだから。
原文:
“Ich weß, daß Sie alle ungeduldig sind”, sagte Rhodan verständnisvoll. “Sie können mir glauben, daß ich selbst so schnell wie möglich in die Heimatgalaxis zurückkehren möchte. Das ist schließlich unser Ziel.

試訳:
「諸君のいらだちはわかる」と、ローダンは理解をしめして、「信じてもらっていいが、可及的すみやかに故郷銀河へ帰りたいことでは、わたしは人後に落ちない。それがわれわれの目標でもある。

俺だってとっとと帰りたいけどさあ、である。人間味のあることをアピールする指導者、ペリー・ローダン(笑) さらに人情のあることも(ry
最後の文章は、「つまるところ、それがわれわれの目標だ」となるが、わたしの目標=みんなの目標、と言いたそうなので、全体的にちょっと意訳である。

ハヤカワ版:
 デイトンはかぶりを振ったが、
原文:
Deighton sah ihn finster an,

試訳:
 デイトンは不満そうだが、

finster は、こないだ「闇」云々でとりあげたが……あれ? ああっ、闇スペがらみで、ドイツ語の「闇」の種類についてのネタだけまとめて、記事にしてねぇえええっ?!(木亥火暴)
と、とにかく、この場合は「暗い(不平ありげな)顔でローダンを見たが」なにも言わなかった、のだ。

……。
わりと短い章なのだが、かなりの部分がマーカーで真っ赤だったのはご理解いただけたと思う。原文のせいな箇所もあるにはあるが……
次章から、ようやく今回の本編(をひ)である、アラスカとカリブソのからみのシーンである。うーん、少し時間かかりそうなので、期待しないで待ってておくんなまし。

時間超越 -5-

そろそろまたマンネリ化しつつある「時間超越」誤訳ツアー。うーん、ガソリンが欲しいところよのぅ。
とはいえ、さいわい5章は短いので1回で済む。6章はさらに短か……あれ? やだ、なにこれ……。
ろ、6章はまた後日っwww

■201p

ハヤカワ版:
 アラスカは緊張を解き……驚いた。最初はそれがなにかわからない。しばらくしてから、スパイスの匂いを嗅いだのだと、やっと認識する。
原文:
Alaska lag völlig entspannt da und wunderte sich, daß er irgend etwas wahrnehmen konnte. Das erste, was seine Sinne ihm übermittelten, war ein sehr realer Gruch nach Gewürzen.

試訳:
 アラスカはすっかり脱力して横たわっていた。まだ何かを知覚しうることに驚く。五感が最初に伝えてきたものは、すこぶるリアルな草の香りだった。

スパイスの匂い……アラスカはどっかの厨房に出現したのか? と思いたくなる。しかし、これ、誤訳というわけではない。Gewürz は確かに「薬味、香料、調味料(スパイス)」なのだ。
ただし、もう少し調べてみると、元々は「味を調えるため、つぶして、あるいはまるごとをスパイスに混合する植物」(Wiktionary〔独〕から引用、訳は西塔)らしい。というわけで、今回はうちの方が超訳してみたのである(笑)

■202p

ハヤカワ版:
 どこかの惑星なのはたしかだ。
原文:
Er befand sich auf einem Planeten!

試訳:
 かれはどこかの惑星にいた!

原文はエクスクラメーションマーク付きの上、イタリックである(笑) 斜字体なのは、201pの「どこに出たのだろうか?」もそうだが、こちらは主語が ich なので、むしろカッコでくくって心の声にするたぐい。地の文でイタリックなのだから、作者が強調したい箇所と判断したい。というか、するでしょ普通。
ブラックホールを抜けて、どこに出るのか――そもそも、もとの次元にもどれるのか、と危ぶまれたのが、なんと普通の(?)惑星じゃないか、ということ。で、この文をこうすると、いきおい次の段落も変わってくる。

ハヤカワ版:
 だが、夜空にきらめく星座は、これまで見たことがない。衛星らしい天体が五つある。
原文:
Über ihm flimmerten unbekannte Sternbilder. Es war Nacht. Am Himmel standen fünf kleine Monde.

試訳:
 はるか上できらめいているのは、見知らぬ星座であった。夜空には、小さな月が五つ。

なんで惑星とわかったかというと、夜の星空が見えたから、というしだい。あと、訳者さん、Mond(e)を片っ端から「衛星」と訳しているが、それ、ちょっと寂しくないかしらん。ムーンとサテライトの区別を、たまにはつけた方が……。

ハヤカワ版:
なにが起こったのか? どうやら、未知の力が作用して、ここに連れてこられたらしい。
原文:
Für alles, was geschah, gab es eine Erklärung. Eine unbekannte Macht hatte von ihm Besitz ergriffen und ihn hierher gebracht.

試訳:
起きたことすべてに対する説明はひとつ。未知の力がアラスカをのっとり、ここへ連れてきたのだ。

前の訳文、was geschah しか残っていない。削りすぎだろw

ハヤカワ版:
 緊張して、耳をかたむける。
原文:
Alaska lauschte angestrengt,

試訳:
 一心不乱に耳をすましたが、

うーん、angestrengt は、今回は「緊張して、」のほうがいいな……。ただ、「耳をかたむける」だと対象がはっきりしてそうな印象があるので、「すました」方がよさそう。風のさざめきに耳をかたむけたわけではなくて、何か手がかりになるものが聞こえないか耳をすました、と書くとわかりやすいだろうか。

ハヤカワ版:
 左側の地面に、大きなくらい穴がある……いや、ふつうの穴ではない。あたりは衛星の光で、比較的に明るいにもかからわず、穴の側面が見えないのだ。ただぽっかり開いた穴……あるいは、だれかが置き去りにした黒い円盤のようでもある。
原文:
Links neben ihm war eine große dunkle Öffnung im Boden. Alaska ahnte, daß es keine gewöhnliche Grube war, denn trotz des verhältnismäßig helln Lichts, das von den Monden ausging, konnte er keine Wände erkennen. Die Öffnung sah eher wie ein herausgestanztes Loch aus, oder wie eine schwarze Scheibe, die jemand hier niedergelegt hatte.

試訳:
 左側の地面に、大きな暗い穴があった。ふつうの縦坑でないことはすぐ知れた。五つの月のもたらす比較的明るい光にもかかわらず、穴の側壁が見えないのだ。まるで地表を“型抜き”したか、誰かが置きざりにした黒い円板であるかのように。

ここは誤訳ではない。「ぽっかり開いた」の検証だ。
形容詞 herausgestanzt は動詞 herausstanzen の過去分詞で――といくところだが、残念ながら辞書に未掲載の単語である。Wiktionary等にもまだ収録されていない。ググってみたところ、シェイバーの刃がウルトラシャープである理由として、herausgestanzt じゃなくて herausgeätzt なんだよ、という類の記事がみつかったので、“型抜き”じゃなくて“エッチング”処理なのだ、と判断。
また、heraus は「中から外へ~」の接頭辞、動詞 stanzen は「くりぬく」であることから、地表を「下から上へ」くりぬいたイメージ(2D的)が導き出されるが……この表現、めんどくせえ(爆) あえてするなら、「地表を裏から型抜き」とかそういう描写になるのだろうが、それくらいなら、「ぽっかり開いた」がシンプルで吉、なんだろか。でも、単に「開いた」だと、内壁ないのが説明ついてないんだよなぁ。

以下余談:五十嵐さん、三点リーダー好きにいっそう拍車がかかってるなあ。ハイフンも「……」、カンマも「……」、文章をつなげるときも「……」。もはや偏愛でしょw

ハヤカワ版:
 穴の近くには、気味の悪い彫像があった。
原文:
Rund um die merkwürdige Grube standen große Statuen.

試訳:
 ふしぎな縦坑をとりまくように、巨大な彫像群がそびえていた。

「気味が悪い」のは、直後の文章で身震いしているからだろうけど。原文で、あえて「気味が悪い」と訳すなら、merkwürdige と形容されている穴の方じゃないかな。
それはともかく、ここで「彫像群」と訳したのは、むろん原文が複数であるからなのがひとつ。それと、ハヤカワ版でここ以降、どうも彫像が1個しかなさそうな箇所が散見されるから。

ハヤカワ版:
かつて、どこかで似たような構造物と出会ったことがある。
原文:
er war sicher, daß er ähnliche Gebilde bereits irgendwo gesehen hatte.

試訳:
かつて、どこかで似たような建造物を見たことがあるはずだ。

まちがいというか、「見た」と「出会った」は、かならずしもイコールじゃないからなあ。これについては、後の該当箇所でまたとりあげる。

ハヤカワ版:
旧南アメリカ連合国家のボリビア
原文:
Dort, im ehemaligen südamerikanischen Bundesstaat Bolivien,

試訳:
旧南米ボリビア州(のティワナク)

Bundesstaat は、ローダン・シリーズの場合、「テラ政府統治下にある州」を意味する。
うわ、知らんかったw 旧西ブロックにそんな内訳あるとは聞いたことないし、すなおに訳すと「旧南米のボリビア連邦(または連邦を構成する「州」)」になっちゃうし、ボリビアが連邦制(または州)だったことないしなぁ、とちまちま検索してたら、遭遇した思わぬ事実(笑) まあ、試訳だとそういう混乱をまねきそうだから、「旧南米のボリビア」でいいのかも。

あと、ボリビアの原語、語尾が -ien になっているのは、ドイツ語での国名等の特徴。アジアが Asien とかね。Derogwanien も、そんなわけでrlmdi.ではすべてデログヴァニアとしてきた。惑星名との判断だろうからしょうがないけど、こっちのが語呂いいんだもん。

余談1:ボリビアの正式名称は、2009年から「ボリビア多民族国」であるそうだ。すわ、その前が連邦か!と思ったが、やはり「ボリビア共和国」だった(笑)
余談2:Tiahuanaco は、以前 PrivateCosmos 用に訳したときも「ティアワナコ」としたが、近年では「ティワナク」に統一する方向にあるらしい。別に誤訳ではない。

■203p

ハヤカワ版:
 シェーデレーアはそこに、石のカレンダーを見にいったのだ。
原文:
Alaska erinnerte sich, daß man in Tiahuanaco einen steinernen Kalender gefunden hatte,

試訳:
 そこで石のカレンダーが発見されたことをアラスカは思い出した。

見にいったではないし、かつ発見したのは、不特定の man である。

ハヤカワ版:
 ティアワナコは地球最古の都市とみなされてきたが、その建設時期は現代でもはっきり特定されていない……だれが住んでいたのかも。そこで、さまざまなスペキュレーションが生まれたもの。たとえば、建設者は地球外の知性体だとする説もあった……。
原文:
Tiahuanaco galt als die älteste Stadt der Erde. Niemand hatte bisher exakt bestimmen können, wann sie erbaut worden war und wer in ihren Mauern gewohnt hatte. Immer wieder war es zu Spekulationen gekommen, ob die Erbauer von Tiahuanaco vielleicht Wesen aus dem Weltraum waren.

試訳:
 ティワナクは地球最古の都市とみなされてきた。いつ建造され、その城壁内にだれが住んでいたものか、これまでのところ、はっきり特定されていない。建造者は宇宙から飛来したのではないかとの憶測が、しばしば取沙汰されたものだ。

スペキュレーションなんて言って通じるのは一部のSF者だけだろう(笑) あと、これはわたしルールだが、地球外生命体という訳語は、基本、Außerirdischer (文字通り、「地球の外の存在」)に対応して用いている。ルールに執着するのはばからしいが、それぞれの単語にそれなりの対応訳があると思うのだ。
それにしても、ティワナク成立は、12000年前とか4000万年前とか、よくまあそれだけ異説があるものだ。ああ、でも12000年前だと、レムールより近代になっちゃうのか(笑)

ハヤカワ版:
 四つん這いになって、穴に近づいた。もう彫像には注意をはらわない。縁にたどりつくと、
原文:
Alaska wälzte sich herum. Auf Händen und Knien kroch er zwischen den Statuen hindurch bis zum Rand der seltsamen Grube.

試訳:
 アラスカはごろりと転がって四つん這いになると、彫像群のあいだを抜けて奇妙な穴の縁まで這い進んだ。

あおむけにねそべっている状態から、ぐるんとまわった形。まあ、うつぶせになる前に四つん這いになるだろうし、この説明文は少々冗長かもしれない。
上で書いた、「彫像が1個しかない」というのは、このあたりから。注意をはらわないのは訳者さんの勝手だが、何度も出てくるぞ(笑)

ハヤカワ版:
 手に異常はない。もう一度、ゆっくり伸ばすと、穴の上に出たとたん、前腕部が消えるとわかった。
 この開口部の上では、光の屈折がおかしくなるようだ。
原文:
Das Phänomen ließ sich nur schwer erklären, auf jeden Fall hätte sein Unterarm so dicht unter der Grubenoberfläche noch sichtbar bleiben müssen.
Offenbar herrschten in der Öffnung besondere Lichtverhältnisse.

試訳:
 この現象は説明が困難だ。とにかく地表部からちょっと入ったあたりまでは、前腕部が見えていなければおかしい。
 明らかに、開口部のなかでは光の挙動が変だった。

穴の上じゃなくて、入口というか、地表面を超えるなりすっぱり消えてしまうわけだ。

■204p

ハヤカワ版:
 こんどは片脚を下ろしてみる。太腿まで見えなくなったが、足が存在しているのはたしかだ。
原文:
Alaska drehte sich um und streckte einen Fuß in die dunkle Grube. Der Fuß wurde unsichtbar, hörte einfach auf zu existieren.

試訳:
 こんどは前後をいれかえて、暗い縦坑に足をのばしてみた。存在するのをやめたみたいに、足がおもむろに見えなくなる。

座った、という描写がないから、たぶんまだ四つん這いのまま、後ろざまに脚をのばしているようだ。で、足(Fuß)が消えている。ん……太腿って、なに?(笑)

ハヤカワ版:
 柱の列が穴と彫像をかこみ、なだらかな丘の中腹につづいている。丘の麓には都市が見えた……いや、町といったほうがいいか。ちいさな固定式の家が、軒をつらねているほか、ほっそりとした尖塔が数ダースある。そこにつづく細い道の両側には、無数の光が揺れていた。明らかに松明だ。
原文:
Die Grube mit den sie umgebenden Statuen und Säulen lag an einem Hang. Tief unter sich sah Alaska eine Stadt. Sie bestand aus unzähligen eng beieinander stehenden Häusern und einigen Dutzenden schlanker Türme. In den schmalen Gassen brannten Tausende von Lichtern, offenbar Fackeln.

試訳:
 彫像群と列柱に囲まれた縦坑は、山腹の斜面にあった。はるか下方にアラスカは都市をみつけた。みっしり立ちならぶ無数の家と数ダースの尖塔。狭い路地には幾千の光が揺らいでいる。明らかに松明だ。

位置関係がメタメタである。環状列石(彫像まじり)のイメージは湧かないか。ごみごみした街の裏路地のイメージは浮かばないか。ま、ローダンだと都市、という表現がまず出てくるのは当然といえるが、なに、その付けたりみたいな訂正w あと、なんだい、固定式の家って。
なお、丘とその麓、と訳文にあるが、原文は「斜面」と「ずっと下方」というだけでなく、さらに後になると、街があるのは「谷」である。戻れー、戻って直せー(爆)

ハヤカワ版:
 都市の内部にも、同じような道が縦横に伸びている。マスクの男はそれを見つめた。
原文:
Von dem Platz, an dem Saedelaere stand, führte ein verschlungener Pfad zur Stadt hinab.

試訳:
 シェーデレーアのいる場所からは、曲がりくねった小径が都市までつづいている。

うーん、なんかこの行まで一切合財含めて、16パズルでもやった? おなじ文章に思えないんだけどなあ。ちなみに、うちの原書第3版だが。コピーは何版のやつ使ってるんだろ。まあ、3章の「べつの男が叫ぶ」みたいに、おそらくは電子データ化する際のごみならともかく、重版時にこんな直しはありえないけどね。

ハヤカワ版:
 奇妙なことに、どこにも住人の姿がない。
原文:
Weder auf diesem Weg noch in den Straßen der Stadt vermochte Alaska ein lebendes Wesen auszumachen.

試訳:
 その径にも、都市の通りにも、アラスカは生者の姿を見出すことができなかった。

あ、みつめてるの、この行に入ってからか! どうなってんだ、このパズル。
動詞 ausmachen は、外に(aus)する(machen)で、「取り出す」など多くの意味をもつが、そのなかに「みつける」もある。

ハヤカワ版:
高度な技術文明が存在しないのはわかるが、住人の気配がないのは奇妙だ……
シェーデレーアはふいに“人形の家”を思い浮かべた。理由はわからないが、この都市そのものが“人形の家”だと感じたのである。不合理で、非論理的だが、それは確信に近かった。
原文:
Nirdends gab es Anhaltspunkt für eine technische Zivilisation, auf unerklärliche Weise erinnerte die Stadt Alaska an ein zu groß geratenes Puppenhaus. Der Vergleich war absurd, aber er drängte sich Alaska geradezu auf.

試訳:
技術文明をしめすものはどこにも見あたらない。どういうわけか、この都市はアラスカに、巨大化したドールハウスを思わせた。ばかげた比喩だが、アラスカの脳裏をはなれなかった。

直訳すると、「でっかくなりすぎたドールハウスを思い出させた。ばかげた比喩だが、それはアラスカにまっすぐ押しよせてきた。」くらいかな。思い出す、だと、アラスカが巨大化したドールハウスを以前に知っていそうなので(笑)、連想する、思わせる、程度で。
Puppenhaus は、あとで「玩具」という表現も出てくるし、普通に不特定商品名・ドールハウスでいいんじゃない?

ハヤカワ版:
 丘の上に目を転じると、小屋がある。倒壊しかかったあばら屋だ。窓の奥に動きはなく、明かりもついていない。
原文:
Er blickte den Hang hinauf und sah weiter oben, fast auf der Höhe, eine baufällige Hütte. Ihre Fenster, sofern sie solche überhaupt besaß, waren nicht beleuchtet.

試訳:
 斜面上方へ目を転じると、ほとんど頂上近くに、倒壊しかかった小屋が見えた。そもそも窓があるとしてだが、明かりは灯されていなかった。

ここでも「斜面」「頂上」というキーワードが出てくるのに、そのまま「丘」でつっぱしっている。また、ずっと上のほうなので、夜でもあり、窓があるかは、よくわかんないのだ。

■205p

ハヤカワ版:
 この周辺を調べてみるか、丘を下りておかしな都市を訪れるか……あるいは、あの小屋をのぞいてみるか。
 いずれも、危険はなさそうである。
原文: Seine unmittelbare Umgebung war nicht weniger unheimlich als die Stadt unten im Tal oder die Hütte, die weiter oben am Hang klebte.
Wenn es zwichen den drei markanten Plätzen einen Zusammenhang gab, war er sicher nicht leicht zu erkennen.

試訳:
 この周囲とて、谷間の都市や、斜面上方のあばら家と負けず劣らずの怪しさだ。
 これら三ヵ所に何らかのつながりがあるかは、そうやすやすとはわかるまい。

まあ、危険とは言っていないよな……ぶきみ(unheimlich)ってだけで(笑)

ハヤカワ版:
 彫像の一方に近づき、手で触れてみた。予想に反して、堅牢な石でできている。
原文:
Alaska betastete eine der Statuen. Wie er vermutet hatte, bestand sie aus festem Stein.

試訳:
 アラスカは彫像のひとつに触れてみた。思ったとおり、硬い石でできている。

……。ここで初めて彫像が2つに、と書こうと思ったのだが。なんで、アラスカの読みがはずれたことにwww

ハヤカワ版:
 しかし、動きがある。ゆがんだ建物のなかには、たしかに住人が住んでいるようだ。しかし、アラスカには、やはりこれが機械じかけのように見えた。理由はわからないが、いきなり“スイッチがはいった”ような感じなのだ。
原文:
Es war nicht die Stille einer nächtlichen Stadt. Das Leben in diesen windschiefen Gebäuden schien mit einem Schlag erloschen zu sein, es war – wieder drängte sich der Begriff in Alaskas Gedanken – ausgeschaltet!

試訳:
 しかし、夜の街の静けさではない。風にあおられる建物のなかの生命が、一瞬でかき消えたような――またアラスカの脳裏にことばが浮かぶ――まるで“スイッチを切られた”みたいに!

だから、逆だ、逆。どうしてこうなるのかなあ。わざと逆いってるとしか思えんぞ、こうつづくと。動詞 ausschalten は、よくローダンだと「始末する、殺す」だ、と言っているが、今回については大元の意味どおり。スイッチ(Schalter)を終了(aus)である。

■206p

ハヤカワ版:
 なにか秘密のシグナルを受信して、唐突によみがえったといえばいいか。
原文:
Das Stadt macht den Eindruck, als würde sie auf ein geheimes Signal hin schlagartig wieder zum Leben erwachen.

試訳:
 都市はなんだか、秘密のシグナルでたちどころに生命にめざめそうな印象をあたえた。

ここは、前のとこを訂正したのにあわせると、こうなる。

ハヤカワ版:
 巨大なおもちゃだ! すくなくとも、テラナーにはそう見えた。
原文:
Ein Riesenspielzeug! dachte der Terraner fröstelnd.

試訳:
 巨人のおもちゃだ! テラナーは凍えるここちがした。

巨大、であってるんだけどね。寒気がした、とわりおっかない想像になったらしいので。

ハヤカワ版:
 かぶりを振り、また地面の穴に注意をもどす。
 彫像のあいだに、はだかの異人が横たわっていた。
原文:
Alaska begann die Öffenung im Boden zu umkreisen.
Nach ein paar Schritten fand er zwischen den Statuen einen nackten Fremden.

試訳:
 アラスカは穴の周囲をまわってみることにした。
 数歩進んだところで、彫像のあいだに、はだかの異人をみつけた。

なんか意味がぜんぜんちがうんだよなあ。「異人」が突然あらわれたみたいになってる。アラスカが位置を変えたから、陰になっていたのが視界にはいったわけだ。
横たわっていた、は別にかまわないけれど。読者はある程度、それが“意識ある夢”中のカリブソ本体だと予想はつくだろうし。でも、原文ママの方が、いま寝てるか起きてるかわかんなくてドキドキするんじゃないかねえ。

……。
相変わらず、スバラシイネ。
6章は、どうやって掲載するか、ちょっと考えるので、少し間が空くかも。

時間超越 -4- 後編

「時間超越」へのツッコミも、なんとか“中編”も“完結編”もなしで4章分終了(笑)
ちなみに赤入れは7章序盤で足踏みちう……さらにちなみに、現在入力して掲載した分で、ようやく道半ばなのである(汗)

さ、さて。前回、衝撃の告白をかましたアラスカが、ローダンの顔色をうかがうところから再開しよう――

■190p

ハヤカワ版:
 その言葉が、どれほどの影響力を持つかはわからない。いずれにしても、チーフはこの一連の出来ごとについて、すべての関連をいちばんよく把握しているはずだ。
原文:
Er registrierte, wie sehr diese Worte Rhodan trafen. Daraus schloß er, daß Rhodan die Zusammenhänge besser kannte. als er zugab.

試訳:
 その言葉は、図星だったようだ。どうやらローダンは、これまで見せてきた以上に、事態のつながりを把握しているらしい。

原文の er は、当然アラスカ。直訳すると、「かれ(アラスカ)は、その言葉がかなりローダンに有効だったことを認識した。」くらいか。そこから(daraus)、ローダンはある程度のことを理解はしてなかったにしても、予感くらいはあったのだろう、という推測が成り立つ。

■191p

ハヤカワ版:
 もちろん、ドブラクと自分を《ソル》にのこしたのにも、それなりの意味があるにちがいない。
 だが、どういう意味なのか……?
原文:
Natürlich! dachte Alaska. Rhodan hatte die Evakuierung ermöglicht. er hatte zugelassen, daß Dobrak und Alaska an Bord der SOL gebliben waren.
Wie konnte ich ihm nur so unrecht tun? fragte sich Alaska.

試訳:
 当然だ! 疎開を可能たらしめたのはローダンだ。ドブラクと自分が《ソル》に残るのを許したのも、かれだ。
(なのに、かれに当たりちらすようなまねをしてしまった)

つまり、現在の状況は、ローダンがつくりあげたようなもの。スペシャリストが(意図して)《ソル》を破壊するようなことはないし、ドブラクがそれに協力するだろうことも、テラナーは予期していた、とアラスカは判断したのだ。ああ、オレって恩知らず、というわけ(笑)

ハヤカワ版:
主通廊に出て歩きつづけるが、当然だれにも出会わない。おのれの足音が大きく谺するだけだ。あたりを眺めまわしても、感じるのはブラックホールの“息吹き”だけだった。
原文:
Unwillkürlich wartete er darauf, im Hauptkorridor hinter der Zentrale mit jemandem zusammenzutreffen. Noch immer halte er sich nicht damit abgefunden, der einzige Mensch an Bord zu sein. Der Klang seiner Schritte erschien ihm übermäßig laut. Er blickte sich um, als fürchte er, jemand könnte ihm folgen. Auch hier im Korridor war der Atem des Black Holes spürbar.

試訳:
主通廊に出るとき、我知らず、誰かに出くわすのではないかと身がまえた。いまだに、船内ただひとりの人間である事実には慣れない。自分の足音がひどく大きく思えた。だれかがつけてくるような気がして、ふりかえる。通廊でもブラックホールの息吹が感じられた。

状況はイコールだが、ニュアンスがだいぶちがう。特にアラスカのびくびく感がすっかり消えうせている。

ハヤカワ版:
 反重力リフトに到達するまでに、ヘルムートの話は忘れる。目の前の問題のほうが重要だ。下をのぞきこむと、シャフトは壁面が歪んでいるように見えた。だが、これはブラックホールの光学的影響……つまり、目の錯覚だろう。
原文:
Als er den Antigravschacht betrat, hatte er Joscan Hellmut und dessen Probleme bereits vergessen. Auch hier im Schcht wirken sich die hyperphysikalischen Kräfte des fremdartigen Gebilde im Lagarraum aus. Als Alaska nach unten blickte, sah er, daß der Schacht scheinbar nach einer Seite abknickte. Das konnte jedoch nur eine optische Täuschung sein, die durch eine Beeinflussung des Lichts hervorgerufen wurde.

試訳:
 反重力シャフトに乗りこんだときには、ジョスカン・ヘルムートの話などすっかり忘れ去っていた。シャフトのなかでも、ブラックホールのハイパー物理的影響があらわれていた。下へと目をやると、シャフトが一方向に折れ曲がって見えた。だが、これは光が曲げられたせいで生じた錯覚にちがいなかった。

いま何をしているか、が読めてない一例。シャフトに乗りこんだ、と書いてあるのに、到達するまでに、とやっている関係で、次にシャフト中で下を見ているはずが、のぞきこむ、と変わる。つじつま合わせは後でツケがくる可能性があるので極力避けたいね。
光がひんまがってそういう効果が生じるかどうかは、わたしにはわからないが。少なくとも、原文はそうなっている。一方向へ、の Seite を側壁と見たのだろうが、動詞とかみあわないだろう。

ハヤカワ版:
 アラスカはごまかされずに、
原文:
Alaska ließ sich davon nicht irritieren.

試訳:
 アラスカは惑わされることなく、

誤訳じゃないけど。主観だけど。こっちのが適切じゃないかね。

ハヤカワ版:
 ここでも、光学的印象がおかしい。どうやら、周囲の環境も、いつもとは違うようだ。そのため、ふだんより慎重に進むことにする。
原文:
Er bewegte sich wieder langsamer, denn er stellte fest, daß die vertraute Umgebung allmählich zuruckzuweichen begann und unklaren optischen Eindrücken Platz machte.

試訳:
 アラスカは再び歩調を落とした。周囲の見なれた光景が、おかしな色彩印象に屈し、場を譲りはじめていた。

まあ……いつもと違ってるのは確かだ。とりあげるほどでもなかったかな。

■192p

ハヤカワ版:
 ロボットがこの仮定を信じればいいのだが。実際のところ、障壁はすでに機能していないはずである。
原文:
Als er über seine Worte nachdachte, begriff er, daß er immer mehr von der Voraussetzung ausging, daß die Barriere für ihn kein Hindernis mehr darstellen würde.

試訳:
 いまのことばを思いかえしてみる。どうやら自分は、障壁がもはや自分にとっては障害たりえないことを前提としているらしかった。

だって、自分はスペシャリスト・サイドにまわってしまったから、邪魔されるはずがないと、内心思っているわけだ。

ハヤカワ版:
 いつも異人をひそかに観察していた場所から、カタストロフィの原因を探る。さまざまな示唆を総合すると、どうやらその背景には、テラナーの存在があるようだ。
原文:
Wo immer er die Fremden beobachtete und belauschte, stieß er auf Hinweise, die einen Zusammenhang mit der Katastrophe und der Anwesenheit der Terraner erkennen ließen.

試訳:
 観察と傍受をおこなったすべての場所で、カタストロフィとテラナーの存在に関連ありとする示唆に遭遇する。

Wo immer は、英語の wherever であり、「~するところは何処であっても」の意味。また、原文の die Fremden は、作中時点でのカリブソが観察できる存在なので、イコール「中間空間の住人たち」を指す。訳文は、テラナーのことと判断したっぽい。

■193p

ハヤカワ版:
 もちろん、執拗さはしばしば成功をもたらした。人形使いはこれまで何度となく、惑星をわたり歩いては、住人に情報はないかと聞いてまわったもの。だが、この中間空間では、それもできない。文明が滅亡をまぬがれたとしても、もとにもどれるとしても。
原文:
Callibso wußte aus Erfahrung, daß Beharrlichkeit oft ans Ziel führte. Er besuchte Planet nach Planet und belauschte die Bewohner. Obwohl sich die Zivilisation innerhalb des Zwischenraums in desolatem Zustand befand, würde sie nicht untergehen. Jedenfalls vorläufig nicht. Eine andere Frage war, wie sie sich in den nächsten Jahrtausenden entwickeln würde.

試訳:
 カリブソは経験から、しばしば忍耐強さこそ目標にいたる術であることを知っていた。かれは惑星から惑星を経めぐり、情報を傍受した。中間空間の文明は悲惨な状況にあるが、滅亡することはあるまい。少なくとも、さしあたりは。今後数千年でどう展開するかは、また別の問題だ。(改行なし)

口がすっぱくなりそうだが、時制の問題。惑星をわたり歩くとか、耳をすますとか、そのあたりは原文では過去形、すなわち作中での現在時をあらわしている。カリブソが過去、こーんな経験から忍耐の大切さを学んだ話……というわけではない。いま、ダッカル次元バルーンで、そうしているのだ。できないなんて、どこにも書いてないからね?

■194p

ハヤカワ版:
かれらはテラナーと行動をともにしたはずだが、運河をぬけたあとは、独自の道を進みはじめるにちがいない。
原文:
Je länger er sich mit ihnen beschäftigte, desto deutlicher wurde ihm ihre überragende Funktion. Wenn sie wirklich mit den Terranern geflohen waren, würden sie nicht bei ihnen bleiben, sondern ihre eigenen Wege gehen.

試訳:
かれらのことを調べれば調べるほど、その傑出した機能が克明となる。たとえかれらがほんとうにテラナーとともに逃亡したとしても、そのもとにとどまることなく、独自の道を歩むだろう。

絶対必要というわけもないが、なぜそうポンポン文章を削るかね……。
照合していると、わりと平気で段落を分けたりして、行数を増やしている一方で、こうやって原文を無いないしちゃうことも多い。字数制限ってわけじゃ、ないようにも見えるが。

■195p

ハヤカワ版:
 意外にも、内部はほぼ正常といえた。闇のスペシャリストは相いかわらず、ブラックホールをとりかこんでいた。とはいえ、不気味な構造物はさらに膨張し、異人たちも円陣を維持できなくなりつつあったが。
原文:
In Lagarraum selbst waren die Verhältnisse einigermaßen normal. Alaska sah auf einen Blick, daß die Spezialisten der Nacht dicht gedrängt vor dem Black Hole standen. Das unheimliche Gebilde war jetzt so angewachsen, daß die Fremden keinen Kreis mehr darum schließen konnten.

試訳:
 倉庫内の状況はいくぶんかノーマルだった。ひとめ見て、闇のスペシャリストたちがブラックホールのそば、身をよせあって立っているのがわかった。不気味な構造物が成長しすぎて、円陣を維持できなくなっていたのだ。

gedrängt は動詞 drängen 「押す、圧迫する」の過去分詞。押し合いへし合いして立っていた、のである。

ハヤカワ版:
 マスクの男はため息をついた。
「で、いまはなにが起きているんだ?」と、たずねる。
原文:
Alaska wurde unsicher.
“Was wird jetzt geschehen?” wollte er wissen.

試訳:
 アラスカはそわそわして、
「これからなにが起きるんだ?」

アラスカは不安になった、である。訳者さんは不安になるとため息をつくのか……(笑)
あと、これはもう、普通に未来系の疑問文じゃない?

■196p

ハヤカワ版:
プィもそばにやってきた。
原文:
Py trat neben ihn. Er umfaßte sie und drückte sie zärtlich an sich.

試訳:そばにきたプィをやさしく抱きよせて、

愛情表現は訳しちゃいけない不文律でもあるのかねwww
これぐらいちゃんと訳しても、べつに行は増えないぞ~。

ハヤカワ版:
これが故郷につづく門になる」
原文:
“Es ist das Tor in unsere wirkliche Heimat.”

試訳:
これがわれらの真なる故郷への門となる」

めずらしく“家”ではない Heimat (笑) いちおう、肉体的に培養されたのはちがう場所なわけだし、ほんとうの、ってつけてあげたいところ。

ハヤカワ版:
「乗員がもどれば、飛行をつづけられるだろう」
原文:
“Die Besatzung kann dann an Bord zurückkehren und den Flug fortsetzen.”

試訳:
「さすれば、乗員はもどって飛行をつづけられよう」

この場合、前後関係から dann は「ブラックホールが消滅したら」ではないかね。

■197p

ハヤカワ版:
 ふたりが通りすぎると、ほかのスペシャリスト十名もわずかな間をおいてつづいた。
 シェーデレーアもブラックホールに近づく。
原文:
Alaska sah,m daß Olw und Py in das Black Hole eindrangen und darin aufgelöst wurden.
Innerhalb weniger Augenblicke folgen die zehn anderen Spezialisten.
Alaska Saedelaere spürte kaum, daß er sich in Bewegung setzte und auf das Black Hole zuschritt.

試訳:
 アラスカの目の前で、オルウとプィはブラックホールに歩みいり、消えた。
 数瞬たらずのうちに、残る十名のスペシャリストがつづく。
 アラスカ・シェーデレーアは、自分でも気づかぬうちに歩きだしていた。ブラックホールにむかって。

翻訳というより、要約読まされてるような気分になるなぁ。なんでここまで散文的になるんだろ。3行が2行になっただけならともかく、主語と動詞と目的語しか残ってないってのは、ちょっと……。

ハヤカワ版:
そこになにがあるか、わかっていないようだな!」
原文:
Sie wissen nicht, was Sie da tun.”

試訳:
自分がなにをしているか、わかっていないのか!」

da があるからといって、Sie を忘れてしまっていいわけなかろう。「そこになにがあるか」なら、was da ist. なのかな。ちょいシンプルすぎる気も(笑)

ハヤカワ版:
「状況はわかっているはずだぞ!」
原文:
“Sind Sie blind?”

試訳:
「目がくらんでいるのか?」

出版コードとか、いろいろあるのだろう。それでも、「目が見えていないのか?」とか、やりようはあるような。まあ、超訳ってことで。

■198p

ハヤカワ版:
「スペシャリストの道は、かならずしもテラナーの道とはならないのだ、理解してくれ!」
原文:
“Begreifen Sie doch, daß der Weg der Spezialisten für Sie nicht frei ist.”

試訳:
「理解してくれ。スペシャリストの道は、きみのためには開かれていないのだ」

テラナー全体じゃなくて、いまはアラスカの話だってばさ。

ハヤカワ版:
「暗い道の向こうには、
原文:
jenseits der dunklen Wand”,

試訳:
「暗い壁の向こうには、

これは単なる誤訳。いや、誤植か?

ハヤカワ版:
わたしが七次元関連定数を理解していることを忘れるな。ブラックホールは虚無の向こうにあり、きみはその“手前”で存在しているのだ」
原文:
“Sie vergessen aber, daß ich siebendimensionale Zusammenhänge begreifen kann. Sie sind dazu nicht in der Lage. Für Sie ist jenseits des Black Hole nur das Nichts. Sie werden aufhören zu existieren.”

試訳:
だが、わたしが七次元的つながりを理解できることを忘れているな。きみにはできまい。きみにとりブラックホールの彼岸は、たんなる虚無。きみは存在をやめるだけだ」

なんでこの文章で、ブラックホールと虚無の位置関係がおかしくなるんだ……。しかも例によって“手前”とか妄想展開。いいかげんにしてくれぃ。

ハヤカワ版:
だが、スーツはまだ活性化していない」
原文:
Er wird mich schützen.”

試訳:
スーツがわたしを護ってくれる」

……(空いた口がふさがらないらしい)。

ハヤカワ版:
ブラックホールは崩壊プロセスにはいるぞ!」
原文:
“Das Black Hole kann jeden Augenblick in sich zusammenstürzen.”

試訳:
ブラックホールがいつ崩壊するかわからない」

いや、まぁ……超訳だね。

ハヤカワ版:
潜在意識は危険すぎると警告するが、あきらめるわけにはいかなかった。それに……黒い虚無の向こうになにがあるか、可能なら見てみたい。
原文:
Obwohl er sich darüber im klaren war, daß er seinem Unterbewußtsein folgte, konnte er jetzt nicht aufgeben. Sein Verstand warnte ihn noch eindringlicher, als Dobrak es getan hatte. Alaska wußte, daß ihn jenseits der schwarzen O”ffnung nur das Nichts erwarten konnte, trotzdem ging er weiter.

試訳:
自分が潜在意識にしたがっていることはわかっていたが、いまあきらめるわけにはいかない。理性はドブラク以上に、ひっきりなしに警告している。黒い開口部のむこうに虚無しかありえないことも理解していたが、それでもアラスカは歩を進めた。

えーと。半分以下にぶったぎったあげく、原文と意味が逆になっている。ある意味、すごいわ。

ハヤカワ版:
 奇妙な感覚がある。ここ十年で経験したことのない感覚だ。それも当然だろう。これから、ブラックホールを“通過”するかもしれないのだから。
原文:
Ein unbestimmtes Gefühl sagte ihm, daß die Entwicklung, die er in den vergangenen Jahrzehnten durchgemacht hatte, auf diesen Augenblick hinzielte. Alaska glaubte nicht an die schicksalhafte Vorherbestimmung des Individuums, aber er war sicher, daß es bereits in der Vergangenheit festgestanden hatte, daß er durch das Black Hole gehen würden.

試訳:
 奇妙な感覚がある。ここ数十年の体験は、この瞬間にいたるためのものだった、と。個人の運命的予定調和など信じないが、それでも、かれがこのブラックホールをくぐることは、過去において決定されていたのだ。

もぉ、多くは言わない。言いたくない。どこ読んでんだ、いったい……。

■199p

ハヤカワ版:
 それに、闇のスペシャリストがなにを実行するのか、それをたしかめるには、あとにつづくほかない。
原文:
Wenn er die Zusammenhänge jetzt auch noch nicht begriff, glaubte er, daß eine bestimmte Aufgabe auf ihn wartete. Er mußte den zwölf Spezialisten der Nacht folgen, um irgend etwas Unbegreifliches zu vollziehen.

試訳:
 たとえ事実関係をいまなお理解できないとしても、なんらかの使命が自分を待っていると信じていた。かれは闇のスペシャリストにつづかねばならない。理解をこえたなにかをなしとげるために。

正直、かれはもう闇スペ自体はどうでもよいはずw

ハヤカワ版:
これは危険を意味するのだろうか? いや、むしろ“防護空間”のようなものにはいりこんだらしい。
原文:
Wie hatte er glauben können, daß es eine Gefahr bedeutete? Es glich einem schützenden Raum, in den man sich zurückziehen konnte.

試訳:
どうしてこれが危険を意味するなどと思えたのだろう? むしろ、そこにこもれば安心できる護られた空間ではないか。

アラスカくん、なんかいい感じにおかしくなってきてるのだ(笑)

ハヤカワ版:
 貯蔵室を振り返ると、回転する望遠鏡ごしに見ているような印象だ。
原文:
Er sah den Lagerraum wie durch ein umgedrehtes Teleskop:

試訳:
 倉庫がまるで、望遠鏡を逆しまにのぞいているように見えた。

動詞 umdrehen は確かに「回る、回す」だが、同時に「逆向きにする、反転する」の意味もある。望遠鏡をつかって、対象が小さく見えるといったら、「逆向き」だろう。おかしいと思わないのかなぁ。

ハヤカワ版:
 ドブラクは満足した。計算どおり、黒いゼロは一瞬にして消滅したのだ。
原文:
Wie Dobrak vorhergesehen hatte, erlosch die Schwarze Null von einem Augenblick zum anderen.

試訳:
 ドブラクが予見したとおり、黒いゼロは一瞬にして消滅した。

まあ、計算どおりだと、アラスカがどうのとか無視して満足しそうなヒトだけどさw

ハヤカワ版:
 ハイパーカムを操作すると、やがてペリー・ローダンの顔がうつしだされた。
原文:
Er trat vor das Hyperfunkgerät und wartete, bis Perry Rhodan auf dem Bildschirm sichtbar wurde.

試訳:
 ハイパーカムの前に立ち、ペリー・ローダンがスクリーンにあらわれるまで待った。

操作できないのだ。えーと、あれあれ、把握肉垂(笑)だから。

……。
あれだね。逆だよ、Don’t feel, think!

時間超越 -4- 前編

そろそろ「時間超越」は新刊ネタではなくなるのだが……やむなし(笑)
2019/6/13追記:当時のカテゴリーは「新刊(ハヤカワ版)」だった。

4章も2回に分けてお送りする。ちょっと大物誤訳があるので、そこまでなんとか。
むかし、これはじめた頃(「消えた仮面の男」あたり)は、正誤表みたいなつもりでいたのだが……もう、表なんかじゃ、ダメだこりゃ(長さん風に。
それではいってみませう、W・フォルツ原案、五十嵐洋著、な「時間超越」へのツッコミ第8回~。

■182p

ハヤカワ版:
 “疎開”がはじまった。いままでのところ、だれも“逃避”という言葉は使っていない。
原文:
Gemessen an der Geschwindigkeit, mit der die Evakuierung vollzogen wurde, hätte sie eher die Bezeichnung “Flucht” verdient.

試訳:
 疎開がおこなわれた速さは、いっそ“脱出”と呼ぶほうがふさわしかった。

Gemessen は動詞 messen「測定する」の過去分詞。
「速度――疎開が実行された速度――で計ってみると、それ(疎開)は、(疎開というより)むしろ名称“脱出”にふさわしい」となる。

ハヤカワ版:
 いわゆる“救難計画”はこれまでも数多く立案されてきたが、実行されたのはこれがはじめてである。《ソル》ははじめて“緊急事態”に遭遇したといっていい。
原文:
In allen Rettungsplänen war eine solche Evakuierung vorgesehen, aber es gab sicher keines unter den Besatzungsmitgliedern, das ihr bisher mehr als theoretische Bedeutung beigemessen hatte. Nun war der Ernstfall eingetreten.

試訳:
 あらゆる救難計画において、こうした疎開は予想されていた。だが、これまで乗員たちのひとりとして、それに理論として以上の重きをおいていたものなどいなかった。それがいきなり、本番である。

わたしはわりと直感で訳してしまうクチで、わからないとなると本当にわけわからんことになってしまうのだが、そういうときはマガンから、「だから、頭から訳せばいいんだよ。逐語訳だけど、意味は通るで?」としごく順当なご指摘をいただくハメになる。
その伝でいくと、この訳文、直感どころの話ではなくなっている。消えた単語いくつあるんだ。というか、そもそもこの段落で話題の「疎開」という単語が見あたらないのだが……。

ハヤカワ版:
 アラスカ・シェーデレーアはテラナーが次々と《ソル》をあとにするのを見守った。結局、船にのこったのは、ドブラク、闇のスペシャリスト十二名と自分だけだ。
 《ソル》……鋼の巨大な構造物、技術の奇跡あるいは怪物は、いまや完全に無力だった。短い命を終えた、巨大な柩といってもいい。
原文:
Alasak konnte nur erahnen, was in den Menschen vorging, die die SOL verlassen mußten. Für ihn selbst war die Entwicklung gespenstisch. Die Vorstellung, allein mit Dobrak und den zwölf Spezialisten der Nacht an Bord zu sein, war bedrückend. Er stellte sich diese riesige stählerne Hülle vor, in der er völlig bedeutungslos war. Dieses technische Monstrum, das ihm umschloß, war zu einem gewaltigen Sarg geworden, in dem sich noch für kurze Zeit Leben regen würde.

試訳:
 アラスカには、《ソル》を去らねばならない人々の胸中に去来するものなど、推しはかるしか術はない。かれ自身にとって、この展開は奇怪きわまる。船内にドブラク、闇のスペシャリスト十二名と自分だけ、と想像すると圧倒される。この巨大な船殻のなかで、自分はまったくの無力。かれを包みこむ科学技術のモンスターは、あとわずかばかりのあいだ生命が蠢くだけの、巨大な柩と化した。

gespenstisch は訳が難しいのぅ…… unheimlich と同義のようだが。
あいかわらず、原文と訳文で単語の修飾が組み替えパズルである。そのうえ、時制があってないので、アラスカでなく船が無力だとか、まだ生命体が乗っているのに御臨終になっていたりする。原文の意味、まるで伝わっとらんやないか。あ、誰が船内に残ってるかだけは合ってるのか(笑)

ハヤカワ版:
「さて、どうする?」と、ドブラクが腹に響く声でたずねる。
原文:
“Kommen Sie?” drang Dobraks Stimme in seine Gedanken.

試訳:
「行かんのか?」と、ドブラクの声がかれの思考をやぶった。

ハヤカワ版:
「というと?」
原文:
“Wohin?”

試訳:
「どこへだ?」

上記2つはワンセット。まあ、このくらいは意訳でいいじゃない、と言われそうだ。単に、素直に訳せばいいのに、と取りあげただけなのだけど。

■183p

ハヤカワ版:
「では、自分だけでやってみる!」ドブラがクゆっくりと歩きだす。「道はかならず見つかるはずだ」
原文:
“Machen Sie sich keine Sorgen!” Dobrak bewegte sich langsam auf den Ausgang zu. “Ich werde einen Weg finden.”

試訳:
「心配することはない!」ゆっくりと出口にむかって歩きだしながら、「道なら、わたしがみつける」

「あなたは死なないわ……。私が守るもの」(笑)
いや、ぜんぜん関係ないんだけどね。実はけっこう自信家なんだと思うのだ、ドブラク。

■184p

ハヤカワ版:
 ケロスカーがなにを考えているにしても、それは実現しないだろう。それでも、アラスカは異人に同行したかった。だが、明確な命令を無視するべきだろうか? 結局、チーフの指示にしたがうことにする。
原文:
Obwohl Alaska Dobraks Vorhaben für undurchführbar hielt, fühlte er sich enttauscht. Er erkannte, daß er den Kelosker gern begleitet hätte. Sollte er den Befehl Rhodans ignorieren? Seine Gefühle schienen ihn dazu bewegen zu wollen, aber sein Verstand riet ihm, die Anordnungen Rhodans zu akzeptieren.

試訳:
 ケロスカーのもくろみは実現不能だと考えつつも、アラスカは落胆していた。自分も同行したかったことに気づいたのだった。命令を無視すべきだろうか? 感情はそうしろとそそのかす一方で、理性はローダンの指示を受けいれろと告げていた。

結局、この文章内では、アラスカはどっちにするか決断できていない。宇宙的本能(笑)と人間的理性のはざまで揺れ動いている状態で、次のドブラクの行動でなしくずしとなる。

訳文:
 計算者はそれを悟ったのか、踵を返すと無言で司令室を出ていった。
原文:
Dobrak schien zu erraten, daß Saedelaere in der Zentrale bleiben würden, denn er wandte sich ab und ging wortlos hinaus.

試訳:
 ドブラクは、かれが司令室に残るものと思ったのだろう。踵を返すと無言で出ていったから。

これは上記のとおり、アラスカがどうするか、まだ決めかねている状態に合わせた。

■185p

ハヤカワ版:
「貯蔵室に到達するまで、スクリーンで追ってくれ」
「いまは一時的に見えていません」
原文:
“Wenn er sein Ziel erraichen sollte, werden Sie das auf den Bildschirmen erkennen können.”
“Vorläufig ist nichts zu sehen!”

試訳:
「かれが目標にたどりつければ、そこのスクリーンでわかるはずだな」
「さしあたり、何も見えません!」

実際、カメラは倉庫あたりに集中してむけられているのか、途中にいるドブラクを追跡するようすは(少なくとも映像的な点については)まったく見うけられない。ビッグブラザーはいつも君を見ているんじゃないのか、ローダン(笑)
#6章見てると、できそうなんだけどねぇ。カメラによる追尾w

ハヤカワ版:
ドブラクは反重力リフトで、闇のスペシャリストがいるデッキに下りるはず。それまではすることがない。こうしていると、あらためて緊張をはらんだ静寂がのしかかってくる。音は聞こえず、動くものもない。あるのは“呼吸”するブラックホールだけだ。
 黒いゼロは“息を吸いこむ”ごとに《ソル》からさまざまな物質を吸収し、“吐きだす”ごとに通廊や各区画を破壊していく……。
原文:
Er konnte sich vorstellen, wie Dobrak den Antigravschacht erreichte und zu jenem Deck hinabglitt, wo die Spezialisten der Nacht das Black Hole geschaffen hatten. Der Mann mit der Maske empfand die Stille im Schiff mit nie erlebter Intensität. Nichts rührte sich, nichts verursachte auch nur das geringste Geräusch. Und doch war Bewegnung im Schiff. Es war, als hätte das Black Hole zu atmen begonnen.
Mit jedem Atemholen saugte das Schwarze Loch etwas von der Substanz der SOL in sich hinein und jedesmal, wenn es ausatmete, verströmte es seine unheilvolle Kraft in Räume und Gänge des Schiffes.

試訳:
ありありと想像できた。ドブラクが反重力シャフトで闇のスペシャリストのいるデッキに下りるさまを。船内の静寂を、かつてないほど強く感じる。動くものとてなく、ことりとも音はしない。なのに、船内に動きがあるのだ。ブラックホールが呼吸をはじめたかのように。
 黒い穴は、息を吸うごとに《ソル》の機材を呑みこんでいき、また息を吐けば災いに満ちた力を船の通路や部屋に流しこんでいく……。

このへん、基本的にはアラスカの妄想(笑)である。もっとも、後の部分で、「倉庫からのパルスが強くなった!」と電波受信してたりもするのだが……。

ハヤカワ版:
ケロスカーもまだ、ロボット・カメラの有効範囲内には、はいっていないようだ。
原文:
obwohl der Kelosker jetzt im Aufnahmebereich der Robotkameras hätte auftauchen müssen.

試訳:
そろそろケロスカーがロボット・カメラの写角にはいっていなければおかしいのに。

漫然と見ているだけではなくて、いろいろ疑念が渦巻いているのである。

ハヤカワ版:
「セネカのコンソールに移動してくれ。
原文:
“Setzen Sie sich mit SENECA in Verbindung”,

試訳:
「セネカとコンタクトしてみろ」

セネカとの会話についてだが、セタンマルクトとの合体後、どうなっているのかわからない(前書いたとおり、読めてないからorz)。しかし、それ以前は、ふつうに「セネカ!」「はいはい、なんでござんしょ」と、音声だけでいけたように思うのだが。

以下、何回かセネカ関連の部分をとりあげているが、そこは「音声認証のためマイクに話しかけているイメージ」だと思っていただきたい。これ、わたしの主観(独断)である。

ハヤカワ版:
音声接続のスイッチを入れるだけでいい。
原文:
brauchte er nur eine Sprechverbindung zu SENECA herzustellen. um ihn zu befragen.

試訳:
質問するため、セネカへの音声コンタクトをつけるだけでいい。

ハヤカワ版:
とはいえ、たとえセネカでも、ドブラクの所在はわからないのではないかと思う。
原文:
Er schreckte jedoch davor zurück. Innerlich war er überzeugt davon, daß man Dobrak in keiner Weise bei seinem Vorgehen stören durfte.

試訳:
しかし、アラスカは尻込みした。内心、どんな形でもドブラクの行動をさまたげてはならないと確信していたのだ。

訳文は、完全に訳者さんの主観。わたしの主観で言わせてもらえば、セネカはわかるけど教えないだろう。「行動をさまたげてはならない」からだ。

■186p

ハヤカワ版:
 孤独な男は計算システムのスイッチを切り替え、認証を終えた。
原文:
Der einsame Mann in der Zentrale der SOL beugte sich nach vorn, stellte eine Verbindung zum Rechenverbund her und identifizierte sich.

試訳:
 《ソル》司令室でただひとりの人間は身を前にかがめて、合同計算脳とコンタクトをとると、認証をおこなった。

いまだったら、声紋認証なんだろうと思うが……削孔テープから14年だからな……。
で、「身をかがめ」てるのは、マイクに口を近づけたんだと、思うんだけど。はてさて。

ハヤカワ版:
《ソル》生まれとして、“故郷”が心配でいてもたってもいられないのだろう。たえず帰還の可能性を探っているにちがいない。
原文:
Alaska erkannte mit einem Blick, daß es die Sorge um das Schiff war, die Hellmut belastete. Die SOL-Geborenen zählten wahrscheinlich jede Minute, bis sie wieder zurückkehren konnten.

試訳:
アラスカは、ヘルムートが船を心配するあまりおしつぶされそうなのをひと目で見抜いた。おそらく《ソル》生まれたちは、船にもどれるまで毎分を数えつづけているのだろう。

「――嗚呼……もう離船してから34分28秒……」
「――や、秒までは数えないから」

■187p

ハヤカワ版:
「かれらなら、計算システムの機能がどうなったか、知っているはずです!」
原文:
“Sie wissen, wie wichtig die Funktionsfähigkeit des Rechenverbunds für das Schiff ist.”

試訳:
「《ソル》にとって合同計算脳の機能度合がどれほど重要か、あなたもご存じでしょう」

えーと。ドイツ語で、sie は「彼ら(複数)、彼女」、Sie は「あなた、あなた方(ともに丁寧語)」の意味があり、かつ文頭だと大文字化するから混同しやすくて……とか、弁護する気も必要もぜんぜん感じないぞ? ここんとこは、前後関係からみて、明らかに「《ソル》(の搭載脳)の機能不全を軽視する、けしからんアラスカにお説教」の図である。

■188p

ハヤカワ版:
「もう一度いう。ケロスカーが闇のスペシャリストのもとに到着したと、チーフに伝えるのだ」
原文:
“Ich werde es tun, wenn Sie inzwischen die Nachricht weitergeben, daß der Kelosker bei den Spezialitsten der Nacht eingetroffen ist.”

試訳:
「呼んでやるから、そのあいだに報告しておいてくれ。ケロスカーが闇のスペシャリストのもとに到着したと」

直訳だと、報告してくれるなら呼んでやる、である。汚いなマスクマン汚い。

ハヤカワ版:
しかし、予想したとおり、計算者は応答しない。しかたなく、サイバネティカーの要望にこたえることにする。
原文:
Der Kelosker reagierte jedoch auf keine der Fragen, die Alaska ihm stellte. Nun erst entsprach Alaska der Bitte des Kybernetikers un rief das Robotpärchen.

試訳:
しかし、ケロスカーはこちらのどんな問いかけにも反応しない。そこでようやく、サイバネティカーの要望にこたえてロボット・ペアを呼びだした。

しかたなくない、しかたなくない。約束したじゃんかよ(笑) 単に優先度がちがうだけで。
あと、予想どおり、も原文になし。まあ、この程度ならまだかわいいのだが。

ハヤカワ版:
 ふたたび、貯蔵室からの映像に注意をもどす。
原文:
Dabei ließ er den Bildschirm mit Dobrak und den Speziailisten nicht aus den Augen.

試訳:
 その間も、ドブラクとスペシャリストの映るスクリーンから目をはなさない。

だから、優先度はこっちのが上なんだってばw

■189p

ハヤカワ版:
シェーデレーアはひかえめに笑って、
原文:
Alaska lächelte ungläubig.

試訳:
 アラスカは信じられぬといいたげな笑みをうかべた。

ここは、句点じゃなくて読点で終えるのが重要なのだ。なぜなら、

ハヤカワ版:
「むしろ、ドブラクのほうが怪しいな。船に残ったのは、そのためだろう。セネカのスイッチを切らなければ。だが、その前に……」
原文:
“Ich vermute, daß Dobrak hinter allem steckt”, fuhr Hellmut erbittert fort. “Deshalb ist er auch an Bord geblieben. Sie müssen ihn ausschalten, bevor er…”

試訳:
「ドブラクが裏で手をひいているのかもしれない」と、ヘルムートが苦々しげにつづけて、「船に残ったのもそのためだ。かれを排除しなくちゃいけません、さもないと……」

次のセリフはアラスカのじゃないからだ。ヘルムート、と書いてあるのに、わざわざそこ削ってまでアラスカのセリフにしたかったのだろうか。というか、次のローダンのセリフでわかりそうなものなのに。

ハヤカワ版:
「待て、アラスカ! ヘルムートの見解も考慮しなければ。
原文:
“Langsam, Alaska!” rief Rhodan. “Hellmut hat seine Interpretation der Ereignisse von sich gegeben. Sie muß nicht unbedingt richtig sein.

試訳:
「待て、アラスカ! ヘルムートは事態の自分なりの解釈を述べたにすぎん。それが無条件に正しいわけではない。

削ったところを補正すれば、「ヘルムートの発言を鵜呑みにしてドブラクを殺っちゃあかんねんで」という趣旨になる。ドブラクを疑っていたのは、さて、誰だったろうか――と考えれば、前の段落がおかしくなっていることにたどりつく……はず……。

ハヤカワ版:
《ソル》が説明できない状況におちいったと思っているのだ」
原文:
Er sieht in jedem unerklärlichen Ereignis eine Bedrohung für das Schiff.”

試訳:
説明できないできごとは、すべて《ソル》への脅威に見えるのだ」

in とか jedem とか Bedrohung はどこいっちゃったんだろうか……。あれだね、原文を拾い読みして任意の単語だけで訳文つくったみたいな。前後とのつながりが説明できない状況におちいってるぜ(笑)

ハヤカワ版:
「わかっているのは、ドブラクが計算システムに関与して、スペシャリストたちを助けているということ。とはいえ、それも絶対的に正しいとは断言できませんが」
原文:
“Immerhin wäre es denkbar, daß Dobrak den Rechenverbund einsetzt, um den Spezialisten zu helfen. Das muß jedoch nicht unbedingt falsch sein.”

試訳:
「とにかく想定できるのは、ドブラクがスペシャリストを支援するために合同計算脳を投入しているということ。ですが、それはかならずしもまちがいとはいえないのでは」

falsch は正誤の「誤」である。unbedingt が「無条件に、必ず」。必ず誤じゃない……ということは、条件付でなら正でもありうるわけだが。訳文とはちょっとニュアンスが異なる。
ええと、ちょっと混乱しそうだけど、「それは無条件に間違いではないにちがいない」かな。

実は、このへんから、「誰が誰の側についているか」が、すごく微妙な展開にさしかかっている。アラスカのセリフも、微妙にからんでいそうなので、こう訳したほうがわかりやすいだろう、ということである。

■190p

ハヤカワ版:
みずから行動しなければ。司令室にすわっていても、問題は解決しない。
原文:
Unbewußt war er sich bereits die ganze Zeit über im klaren gewesen, daß er das Problem nicht von der Zentrale aus lösten konnte.

試訳:
意識下では、とうの昔に明らかだったではないか、司令室からではこの問題を解決などできないと。

lösten は lösen の誤植ととらえてまちがいないはず。ただし、この文章、アラスカがドブラクと同行したかったことが、前述の「宇宙連関に対する本能」にもとづく欲求だったと見るべきではないか。とすると、意識下云々のくだりは、削除しちゃまずいのだ。

ハヤカワ版:
理解していただきたいのですが、現状ではすべてがスペシャリストに有利になっています!」
(中略)
「ケロスカーの老人と、計算システムか!」と、うなった。「すべてはオルウと、その友のためというわけだ」
「思うに、いずれ状況はこちらに有利になると思いますが」と、シェーデレーアはしずかにいう。
原文:
Verstehen Sie doch: Alle sind auf Seiten der Spezialisten!
(…)
“Ein alter Kelosker und der Rechenverbund!” stellte er richtig. “Alle anderen sind gegen Olw und seine Freunde.”
“Ich hätte erwartet, Sie auch auf unserer Seite zu sehen”, sagte Alaska ruhig.

試訳:
おわかりでしょう。、スペシャリストの側に立っているのです!」
(中略)
「老ケロスカーと合同計算脳か!」と、ローダンは数えあげて、「他の誰もが、オルウと仲間たちに敵対しているというのにな」
「わたしは、あなたもこちら側だと思ったのですが」と、アラスカは静かにいった。

分離動詞 richtigstellen は「整理する」で、正しくは、アラスカの言う「皆」が誰と誰、と言いなおした、ということ。
訳文だとなにげない会話になってしまっているが、実はここがこの章のクライマックス。叛逆のマスクマン……は、ちと大げさか。しかし、ここはすなわち、アラスカがみずからをスペシャリスト側に惹かれていると宣言した場面であり、アラスカが、いわば「踏み越えて」しまった瞬間を訳せなければ、この話を訳した意味がないのだ。

……。
まじでこれ発見したときは泣きそうだった。いやマジで。
いま6章まで赤ペン添削終わったところだが……。これもまたアレで。マガンに話したら、あのヒトも泣くかなあ。支配者様のご託宣その2が、「絵を描いてみるとよくわかるにょ」だからなあ。
訳すときに、その場面を思い描いてないんだよね、どうやら。“中腹”って言葉が出てくるとこ見ると、想像しようとはしてるんだろうけど。単数・複数とか、柱と彫像の位置関係とか、必要な情報がインプットされてないよ、その映像orz

時間超越 -3- part4

「時間超越」ツッコミの7回目、第3章の最終回である。

今回は、長い文章が多くて入力に手間どった。みずからやってることながら、正直勘弁してほしい。もうちょっとマシになってるだろうと予想してたのに……。
嗚呼、4章も後半真っ赤っかになっちまったしorz

と、とりあえず、172pから再開~。

■172p

ハヤカワ版:
ようやく専門家会議が招集された。各セクションの責任者たちが、《ソル》司令室にやってくる。
原文:
rief Rhodan die Verantwortlichen zu einer Besprechung in die Zentrale der SOL.

試訳:
ローダンは協議のため、各セクションの責任者を《ソル》司令室に招集した。

うん。これはイチャモンの部類。でも、こういう場合、専門家じゃなくて、幹部会議って言わない? 確かに科学者はワリンジャーしか見かけなかった気もするけど。このあと協議されるのも、むしろ《ソル》運営の問題だしさ。

■173p

ハヤカワ版:
 貯蔵室のブラックホールは、そのあいだもゆっくりと膨張をつづけた。いまでは直径六メートルに達し、さらに“成長”をつづけている。
原文:
Das Black Hole im Lagerraum hatte inzwischen einen Durchmesser von sechs Meter erreicht und schwell weiter an.

試訳:
 倉庫のブラックホールはその間に直径六メートルに達し、さらに膨張をつづけていた。

重要なことだから2回言いましたか?(笑)

ハヤカワ版:
闇のスペシャリストはこの創造物があたえる破滅的効果をほとんど考慮していないらしく、結果的に《ソル》内ではさまざまな“不利益”が生じたもの。
原文:
Die ungeheuerlische Masse dieses Gebildes hätte zweifellos eine Katastrophe heraufbeschworen, wenn die zwölf Spezialisten der Nacht die schädlichen Auswirkungen ihrer Schöpfung nicht weitgehend abgeschirmt hätten. Trotzdem häuften sich die Zwischenfälle an Bord der SOL.

試訳:
その怪物的な質量がカタストロフィを招かなかったのは、闇のスペシャリストが被造物の悪影響をおおかた遮断していたからだろう。それでも、《ソル》船内ではハプニングが相次いだ。

試訳はかなりの意訳。直訳すると、「その物体の怪物的な質量は、疑いもなくカタストロフィを招いただろう(推定)。闇のスペシャリストが、その被造物の悪影響をおおかた遮断していなかったとしたら(仮定)。」。
ハヤカワ版、華麗に超訳したつもりだったとしたら、それはそれで泣ける話である……。

ハヤカワ版:
 やがて、《ソル》の幹部も、こういう方法ではうまくいかないと、あきらめはじめた。
原文:
Der eingeleitete Prozeß, darüber waren sich die Verantwortlichen an Bord einig, war nicht mehr aufzuhalten.

試訳:
 《ソル》幹部の意見も一致するところだが、動きだしたプロセスはもうとどめようがなかった。

動きだしたプロセス、というのは、闇スペがブラックホールをつくって何やらやりはじめたこと、ととるべきだろう。コンタクトとれないから、とめられない。これを、あきらめた、と強弁してできないことは、ないこともないけどね……。何をあきらめたのかが、わかってないとこみると、そういうわけでもなさそうだし。

ハヤカワ版:
 司令室に収集された幹部たちは、かぎられた時間内で結論をださねばならず、それは決して楽観的なものではなかったのである。実際、テラ科学陣もドブラクも、ブラックホールが成長を加速させるか、どこかで停滞するか、その一点ですら見解の一致を見ることがなかったのだ。しかも、テラ科学者のなかには、ブラックホールが最後には船全体をのみこむと考える、悲観論者も多数いた。
原文:
Die Mitgleider der von Rhodan in der Zentrale des Schifes einberufenen Konferenz waren sich darüber im klaren, daß alle Entscheidungen unter Zeitdruck getroffen werden mußten. Weder Dobrak noch die Wissenschaftler an Bord vermochten zu sagen, ob das Wachstum des Black Holes sich verlangsamen oder beschleunigen würde. Es war nicht abzusehen, welche Große das Black Hole schlißlich erreichen würde. Die Pessimisten unter den Wissenschaftlern befürchteten nach wie vor, daß es schließlich das gesamte Schiff verschlucken würde.

試訳:
 ローダンによって司令室に招集された会議のメンバーにわかっているのは、あらゆる決定を時間との競争で下さねばならないということ。ドブラクもテラ科学陣も、ブラックホールの成長が減速するか加速するかさえ予測できない。ブラックホールが最終的にどれほどのサイズになるかはいうに及ばずである。科学者のなかのペシミストたちは、依然として、それが最後には船全体をのみこむことをおそれていた。

結論というか、複数形だし。そもそも結論出てないし。これから協議するのに結論出しちゃう(笑)から、次の会話がおかしくなるんだよね。それでいて、サイズの話はカットされてるしなあ……。

■174p

ハヤカワ版:
 バラインダガル銀河での経験以来、《ソル》乗員はこうした“不条理”を、現実のものとして認めるようになったのだ。
原文:
Nach den Erlebnissen der SOL-Besatzung in Balayndagar war diese Vorstellung für Alaska Saedelaere alles andere als absurd.

試訳:
 バラインダガルにおける《ソル》乗員の経験に照らせば、アラスカ・シェーデレーアには、そうした想像もばかげているとはとうてい思えなかった。(改行無し)

そう、原文はアラスカ視点なのだ(くどい)。
nach は「~の後ろに(位置)、~の後で(時間)」以外にも、「~に従って(基準)」等の意味もある。「そうした想像」というのが、「船全体がブラックホールにのみこまれる」なのは言うまでもない。形容詞 absurd は「不条理な、ばかげている」で、alles andere als ~が「~以外のすべて」転じて「決して~ではない」。

ハヤカワ版:
「セネカとセタンマルクトが、あらたな計算結果を伝えてきた」と、ローダンが議論に割りこむ。
原文:
“Im Verlauf dieser Diskussion werden neue Berechnungen von SENECA und dem Shetanmargt erwartet”, eröffnete Rhodan die Beratungen.

試訳:
「ディスカッションの途中で、セネカとセタンマルクトからの新しい計算結果が出るはずだ」と、ローダンが議論の口火をきって、

新しいデータ入力したから、じき計算結果が出ると思うよ、である。eröffnen で「開封する、(会議等を)はじめる」。上で書いたとおり、結論は、このあとの討論で出すので、割りこむも何も、はじまってないのだ。

ハヤカワ版:
「結果はネガティヴだった。ドブラクやわれわれの科学陣同様、解決策は見つからなかったということ」
原文:
“Ich muß Sie jedoch davon unterrichten, daß Dobrak und unsere Wissenschaftler sich von dieser Aktion keine Lösung erhoffen.”

試訳:
「ただし、ドブラクや科学陣がこの方法では解決は見込めない考えだということも、申し添えておかねばならない」

つまり、計算を「いましてる真っ最中」という事実が、「結果を伝えてきた」という誤訳にひきずられて、ネガティヴとか創作に走っている始末。結局、文章の時制がどうなってて、いま何がおこっているか、という一番基本的な事実がなおざりにされているっぽい。しかも、後でそれと矛盾した文章に遭遇するとさらに修正。……原文より脳内妄想優先なのは、いまにはじまったことではないけれど。

ハヤカワ版:
「ブラックホールの出現自体が、われわれには説明できない現象だ。したがって、これが《ソル》サイズまで膨張する可能性も、否定はできない」
原文:
“Es erscheint uns allen unvorstellbar, daß das Blask Hole im Lagerraum bis zur Größe der SOL anwachsen könnte”,

試訳:
「倉庫のブラックホールが《ソル》サイズまで膨張しかねないとは、われわれ皆にとって想像しがたいことと思う」

unvorstellbar は、「想像できない」。動詞 vorstellen は、「紹介する、前に出す、思い描く」等多くの意味をもつが、これを説明がつかない、と訳すのは想像できなかった(笑)

ハヤカワ版:
いまいちばん重要なのは、このブラックホールがこれまで、闇のスペシャリストにより中性化されていたという点だ。おそらく、ああやって円陣を組むことで、活性化させるのだろう。
原文:
Die schlimmsten Auswirkungen dieses Black Holes wurden bisher offenbar von den Spezialisten der Nacht neutralisiert. Wir wissen nicht, wie sie das machen, aber der Kreis, den sie gebildet haben, hängt offenbar unmittelbar damit zusammen.

試訳:
このブラックホールの最悪な影響は、これまで明らかに闇のスペシャリストによって中立化されている。どうやっているのかはわからないが、かれらの組むあの円陣がこれと密接に関係していることは明白」

173pにもあった、闇スペが「悪い効果を遮蔽している」ことを公表している。だから、円陣が開いたらヤバいんでね? という話である。つづくセリフも、そう。

■175p

ハヤカワ版:
「ブラックホールが貯蔵室大になっても、それがただちに危険を意味するものではない」と、言葉をつづける。「むしろ、スペシャリストの環が“開いた”瞬間、その内部にもぐりこむチャンスが生じると思う」
原文:
“Die absolute Gefahr beginnt also für uns nicht erst, wenn das Black Hole über die Grenzen des Lagarraum tritt”, fuhr Waringer fort. “Sobald sich der Kreis der Spezialisten öffnet, werden wir in unerträglichem Maß von den Auswirkungen dieser kleinen Schwarzen Null betroffen sein.”

試訳:
「つまり、絶対的な危険は、ブラックホールが倉庫のサイズを超える時点ではない」と、ワリンジャーはつづけて、「スペシャリストの環が開いたその瞬間、われわれは、あの小さな黒いゼロの耐えがたい影響にさらされるのです」

……と、ワリンジャーが語っているのは、要するにタイムリミットの話。チャンスが生じる、と言ってるとしたら、その後のローダンの「賢明な提案は?」は、かなり娘婿をバカにしたセリフである(笑)

ハヤカワ版:
 それとも、船内に逃げ場があるのか?
原文:
Wohin sollte man vor einer Gefahr fliehen, die sich im Schiff selbst entwickelte?

試訳:
 船自体の内部に発生した危険から、どこへ逃げろと?

ちなみに前文も、「故郷がまたしても危機に瀕している。今回は逃げ道がない。」である(家、が好きだねえw)。まあ、このへんは主観になるが、ソラナーは「船で逃げたい」のだ、ホントは。それをどう表現するかだと思うんだけど……。

ハヤカワ版:
「軍事的介入は最善の打開策ではありません。しかし、現在の状況を見るかぎり、軍事行動も正当化されるでありましょう。船の一部が破壊されるかもしれませんが、全滅するよりはましです」
原文:
“Wir sind der Ansicht, daß wir unsere militärischen Möglichkeiten bisher nicht optimal eingesetzt haben. Die augenblickliche Situation rechtfertigt unserer Ansicht nach auch Aktionen, die eine großen Teil des Schiffes zerstören würden. Das ist immer noch besser als der Verlust des gesamten Schifes.”

試訳:
「われわれ、軍事的手段がこれまで最適な投入をなされていないという見解です。現状を鑑みて、船の広範なエリアを破壊しかねない作戦も正当化されると、われわれは考えます。それでも、船自体をうしなうよりはましです」

この場合の「われわれ」は、ヘルムートが代表する「《ソル》生まれ」。全滅、じゃなくて、かれらは故郷をうしなうことが何よりこわいのだ。いままで遠慮してたかもしれないけど、許可するから助さん格さんやっておしまいなさいなのである。

■176p

ハヤカワ版:
 ヘルムートは反対する者がいないと考えているようだ。アラスカはそこに、《ソル》生まれの特殊な心理的重圧を見てとった。
原文:
Alaska gestand sich ein, daß er solche Einwände von Helmut am allerwenigsten erwartet hatte. Jetzt machte sich die besondere psychologische Belastung der SOL-Geborenen bemerkbar.

試訳:
 こんな異議がよりによってヘルムートから出てこようとは、アラスカは思いもしなかった。《ソル》生まれの特殊な心理的重圧が露呈したかたちだ。

動詞 eingestehen は「告白する、認める」。am allerwenigsten は「あらゆるもののなかで一番少なく」予期していた、ので、思いもよらなかった、となる。アラスカは、「考えてませんでしたー」と認めざるをえなかった、ということ。船を故郷と考える《ソル》生まれが、まっさきに船の破壊を許容する提案をしたことに驚いているのである。

ハヤカワ版:
それに、正確ではないが……もし十二名を強制的に排除したら、あのブラックホールはコントロールを失って、暴走するだろうな」
原文:
Ich halte es inzwischen für völlig falsch, diese zwölf Wesen auszuschalten, denn dann würden sich das von ihnen geschaffene Black Hole unkontrolliert entwickeln.”

試訳:
いまではわたしは、あの十二名を強制排除しようとするのは完全に誤りだと考えている。そんなことをすれば、かれらのつくったブラックホールは無制御に成長するぞ」

正確ではないが……って、そもそも、さっきワリンジャーが言ったじゃない、闇スペの手をはなれたらブラックホールの影響がヤバいって(笑)

ハヤカワ版:
「仮定にひきずられていたら、いつまでたっても答えは出ないと思いますが」と、ヘルムートが抗議する。
原文:
“Ihre Antwort beweist, daß Sie immer noch von der Annahme ausgehen, daß sich alles wie von selbst regeln wird”, warf Hellmut Rhodan vor.

試訳:
「そのお答えでわかりますよ。いまだに、放っておけばすべてなんとかなると考えておられる」と、ヘルムートが非難する。

まあ、主人公がなにもしなくても解決するのはATLANヘフトの方だし(笑)
von der Annahme ausgehen が「仮定に基づいている」……直訳は「仮定から逃れられない」かな。なので、文章を逐語訳すると、「あなたの回答が証明している、あなたが依然として仮定に基づいていることを、すべてがひとりでに規則を守るという」。
訳文自体は悪くないと思うんだけど、原文の「答え」って、前にあるローダンのセリフのことだしなあ。

ハヤカワ版:
制御された核爆発なら、効果があるでしょう」
原文:
Wir müssen vorübergehend einen kontrollierten Atombrand schaffen.”

試訳:
一時的に、制御された核火災をおこせばよろしい」

直訳は、「われわれは一時的に、制御された核火災を生み出さなければならない」。核爆発はまずいでしょ(笑) 船の大半を破壊してもオッケーな原文にひきずられたかな。

■177p

ハヤカワ版:
それに、核爆発を起こしたら、貯蔵室の防護壁では耐えきれないだろう」
原文:
Abgesehen davon bezweifle ich, daß der Atombrand über die Barriere hinweg einen Einfluß auf die Vorgänge im Lagerraum hätte.”

試訳:
それはさておいても、核火災が障壁をこえて倉庫内の事態に影響をおよぼせるかは疑問だがね」

さておいたのは、「殺人は正当化されない」こと(笑) まぁ、あえて訳さないのが正解か。
で、原文中でバリアーって言ってるのは、ブラックホールのオーラのことかと思われ。だいたい、倉庫の壁がこわれたからって、闇スペ排除が目的なら願ったりかなったりじゃないか。

ハヤカワ版:
「実際、これが最良の選択肢となるだろう」
原文:
“Und genau das werden wir tun!”

試訳:
「そして、実際われわれ、そうするつもりだ!」

……提案して協議してから決定しよーぜー、ローダン(汗) 自分で言ってて盛りあがっちゃったのかなあ。genau は「ちょうど、正確に、まさに」等の意味。訳文自体は、かなりソフトに意訳した感じだろうか。

ハヤカワ版:
しかし、それほど悪いアイデアではなかった! 搭載艦艇の大半は、ヒュプトン銀河の辺境を充分に調査できるだけの、エンジンを装備しているのだから。チーフはその点も見落としてはいなかったのである。
原文:
Aber das war nicht das Schlimmste! Rhodan schien vergessen zu haben, daß kaines der Tochterschiffe Triebwerke besaß, die stark genug waren, um die Grenzen der Hyptongalaxis zu überfliegen.

試訳:
だが、最悪なのは、そこではなかった! どうやらローダンは、搭載艇にはヒュプトン銀河をはなれられるだけの出力のあるエンジンは装備されていないことを、失念しているらしかった。

ちなみに、この段落も、「アラスカ・シェーデレーアは思案した。」が抜けている。アラスカが考えただけで、実情にはそぐわない可能性もあるわけだが……。
最初の文は、「しかし、それが最悪というわけではなかった!」で、「それ」とは前文すなわち「故郷からの追放」である。そこを、「それは“最悪じゃない”だった」と読んだので、後半とつながらなくなったようだ。「さすがチーフ!」までいくと、もはや失笑モノ。

ハヤカワ版:
 さらには、ヒュプトン銀河で立ち往生するという意味も。
原文:
Darüber hinaus schien Rhodan sich mit der Tatsache abzufinden, für alle Zeiten in der Hyptongalaxis festzusitzen.

試訳:
 それはさておいても、永遠にヒュプトン銀河に島流しになるという事実をローダンは見のがしているのではないか。

über ~ hinaus で「~を越えて、~を過ぎて」。hinaus 単体で「~から外へ」なので、前文の内容「《ソル》破壊の容認」を通りこして、と読んでみた。訳文は、いろいろ削ぎ落として、前文と並列の形をとっているが、それもひとつの手だと思う。

■178p

ハヤカワ版:
「それはどうかな。《ソル》とともに死を迎えるよりは、軽巡での生活を選ぶ乗員のほうが、はるかに多いと思うが」
原文:
“Sie würden es tun”, prophezeite Rhodan. “Wie jedes andere Wesen ziehen Sie ein Weiterleben an Bord eines Leichten Kreuzers dem Ende an Bord der SOL vor.”

試訳:
「応じるとも」と、ローダンは予言して、「他のあらゆる生物同様、《ソル》で死ぬよりは軽巡で生きるほうを、きみたちとて選択するさ」

原文の Sie は《ソル》生まれ全体ととる方がすっきりする。

ハヤカワ版:
 メントロ・コスムの助手の若いサイバネティカーが手をあげて、
原文:
Der junge Kybernetiker erhielt unerwartet Hilfe von Mentro Kosum.

試訳:
 若きサイバネティカーに予期せぬ援軍があらわれた。メントロ・コスムが、

若いサイバネティカー、というのは、当然ジョスカン・ヘルムートを指す。エモシオ航法士の助手?にサイバネティカーって、五十嵐さん、どんだけローダン・シリーズの内容考慮してんの……。コロム=ハンの助手(サブ)は、2名ともエモシオ航法士だったよねぇ。
直訳すると、「若きサイバネティカーはメントロ・コスムからの予期せぬ助けを得た。」。
……訳文みると、助けっつーよりかは、すっぱり切捨ててるっぽいけど(笑)

ハヤカワ版:
「全乗員が疎開すれば、《ソル》は使命を達成できなくなります。したがって、いまここでそれを論じるのは、無意味だと思いますが」
原文:
“Wenn wir die gesamte Besatzung evakuieren, kommt das einer Aufgabe der SOL gleich”, sagte er. “Über die sich daraus ergebenden Konsequenzen braucht nicht diskutiert zu werden.”

試訳:
「全乗員が疎開するなら、それは《ソル》の使命と同等。そこから導きだされる結論については、論議する必要もないかと」

試訳が硬いので、まだいまいちわかりづらいが。コスムはきっとこう言いたいのだ。「俺たちのいるところ、それが《ソル》だ!」(違
たぶん、《ソル》の使命もいっしょに疎開してるんだよー、ということだろう。さて、《ソル》生まれに、この手の仲間意識が通用するのかな、と思ったら――

ハヤカワ版:
ことによると、まもなく船のコントロールをとりもどせるかもしれないのだから」
原文:
Vielleicht können wir schon bald an Bord unseres Schiffes zurückkehren.”

試訳:
ことによると、すぐにまたわれらが船に帰還できるかもしれない」

こちらは、対《ソル》生まれの、ものすごく即物的な懐柔である。がんばれ、デイトン(笑)

ハヤカワ版:
 だれの目にも明らかだ。《ソル》生まれもこの決定に同意せざるをえない。
原文:
Es war klar, daß die SOL-Geborenen sich seiner Entscheifung beugen würden.

試訳:
 《ソル》生まれが、かれの決定にしたがうことは明らかだ。

難癖に近いのは承知。ただ、ヘルムートの決定にしたがうのは、《ソル》生まれ「も」ではないことに注意。かれは、《ソル》生まれの発言者である。乗員全体の意向を代弁するものではない。

ハヤカワ版:
「では、作業にかかりましょう!」
原文:
“Wir machen mit!”

試訳:
「ごいっしょしますよ、われわれも!」

動詞 mitmachen は「ともに(行動)する」。なので、疎開する、参加する、応じる等、ヘルムートの意思表示であって、命令形ではない。上述のとおり、《ソル》生まれの発言者にすぎない。というか、「わかりましたよ、いけばいいんでしょ、いけば!」くらいな気がするのはわたしだけ?

■179p

ハヤカワ版:
「テラナーは計算システムを必要とするのだろう?」
原文:
“Sie brauchen mich für den Rechenverbund”,

試訳:
「合同計算脳のために、わたしが必要なのだろう?」

うーん。いまいちしっくりこない。時制を無視して「~必要だったのだろう?」ってやった方が落ちつくわ、ここ。あるいは「わたしを必要としたのは、計算システムのためだろう?」かな……。ほとんど痴話げんかのセリフみたいだなw

■180p

このへんから、会話の内容が微妙にズレている。いくつか連続してとりあげてみる。

ハヤカワ版:
「どうでしょう? わたしも残るべきだと思いますが」
原文:
“Was halten Sie davon, wenn ich ebenfalls an Bord bleibe?”

試訳:
「わたしも残るといったら、どう思われます?」

ハヤカワ版:
「なにか思うところがあるようだな?」
原文:
“Was veranlaßt Sie zu dieser Frage?”

試訳:
「なぜ、そんな質問を?」

ハヤカワ版:
「そうではないのですが」(中略)本心だ。とっさに思いついただけである。
原文:
“Ich weiß es nicht”, gestand der Transmittergeschädigte wahrheitsgemäß. Er überlegte, wie er auf diesen spontanen Einfall gekommen war.

試訳:
「わかりません」(中略)どうしてこの突然の思いつきにいたったのか、自分でも首をひねった。

素直に訳せば、特につながりに苦しむ文章ではない。最初にけつまずいている感じだ。
アラスカ自身、自分がなんでこんなことを言いだしたのか、よくわかっていない。なんでかというと、後述されるとおり、本能の赴くまま、何も考えないで行動を決めているからである。すごいな、それでも活性装置をもらったローダンの側近だ!(笑)

ハヤカワ版:
「セネカはたえず最新情報を報告してくる。それをチェックしてくれ。計算システムがいつまで正常に作動するか……それはわからないが」
原文:
“SENECA wird uns über Funk zwar ständig über die Entwicklung berichten, aber wir wissen nicht, wie lange der Rechenverbund unbeeinflußt bleibt.”

試訳:
「セネカはたえず最新情報を通信経由で報告することになっているが、合同計算脳がいつまで影響をうけずにいられるかわからないのだ」

オートメーションがダメなら人力で報告よろしゅう、ということだろう。でも、その場合、通信にも影響出てるんじゃないのかなあ。

■181p

ハヤカワ版:
「本気なのだな?」
原文:
“Was wollen Sie wirklich?”

試訳:
「ほんとうの望みは何だ?」

ハヤカワ版:
さらに、殲滅スーツと細胞活性装置という存在もあった。そのうちいつか、自分が大宇宙の秩序のなかでどういうポジションに置かれているか、理解できる日もくるだろう。
原文:
Unter dem Einfluß seines Zellaktivators und des Anzugs der Vernichtung hatte Saedelaere sich weiterentwickelt. Irgendwann hatte er begriffen, daß er in wunderbarer Weise in eine kosmische Ordnung eingegliedert war.

試訳:
活性装置と殲滅スーツの影響もあって、シェーデレーアはさらに先に進んだのだ。いつしか、自分が驚くべきかたちで宇宙秩序のなかに組み込まれていることも理解した。

後の文は過去完了形……つまり、物語の時点での過去をあらわしている。未来ではない。というか、1章冒頭で、アラスカのことを「宇宙的人間」ein kosmischer Mensch と言っているのは、ここにつながっていたわけだ。

ハヤカワ版:
 おのれが大宇宙の運命とつながっているという認識は、アラスカのなかで本能的に育まれたものであった。その背景になにがあるかも、無意識下で知覚しているような気がする。たとえば、今回の出来ごとも、その一端であるように思えた。
原文:
Zusammen mit dieser Erkenntnis war in Alaska der Instinkt für kosmische Zusammenhänge erwacht. Er traf viele Entscheifungen unbewußt, ohne zunächst die Hintergründe zu verstehen.

試訳:
 そうした認識とともに、アラスカのなかで、宇宙的関連に対する本能がめざめていた。多くの決断を、無意識に、背景を知ることのないまま下した。

ハヤカワ版:
「わかった。たのむ、アラスカ」と、ローダンが決定する。
原文:
“Kommen Sie mit uns, Alaskä, drängte Rhodan.

試訳:
「いっしょに行こう、アラスカ」と、ローダン。

ハヤカワ版:
 シェーデレーアは頭を下げた。チーフには、自分に対する命令権がないから、あくまで自由意志によるのだが。
原文:
Dankbar erkannte Saedelaere, daß Rhodan ihn aus der Befehlsgewalt entließ und ihm freistellte, eine Entscheidung zu treffen.

試訳:
 感謝の念とともに、アラスカは気づいた。ローダンは命令という拘束を解き、かれ自身に自由な決断を下させようとしてくれたのだ。

ローダンは、ドブラクに対して命令権はないけど、アラスカはちがう、と180pで言っている。なので、「いっしょに行こう」というセリフを命令(決定)ととると、感謝する必要がなくなってしまう。命令でなく、お誘いなら、断ってもオッケーという話。

……。
ある意味、予想通りなのは、抽象的な話ほど訳が混乱していること。ほかは、まあ創作まじりとはいえ、その場では筋の通った文章になっているのだが。章の前と後ろで設定が変わったりするのはご愛嬌か(をひ
まあ、クライマックスの訳がアレだし。やる気ないんじゃろなあ。

時間超越 -3- part3

超訳、という言葉は、アカデミー出版の登録商標だそうな。

意訳をさらに推し進め、訳文の正確さを犠牲にしてでも読みやすさ・分かりやすさを優先させる翻訳手法。ときには大幅な原文の省略を行うことさえある。
――はてなキーワードより

■139p

ハヤカワ版:
 膨張するトンネル内には、
原文:
Aus den aufgeblähten Dimensionstunnelen

試訳:
 膨張したトンネルから

よく見ると、過去分詞の形容詞的使用なのに、かたっぱしから現在分詞的な訳になっている。膨張する、乃至は膨張しつつある、と。“内径”がある程度まで広がって安定しているものを利用するもんじゃないかな、この手のトンネルって。ひょっとして、前巻とか前々巻でちがう描写があるのかもしれないけど。

さて、んじゃ、前回のつづきにもどろう。

■168p

ハヤカワ版:
ふたりは床にしゃがみこみ、這い進もうとしたが、逆に押しもどされている。
原文:
Zwei von ihnen sanken zu Boden und krochen zurück.

試訳:
ふたりは床にしゃがみこみ、這いもどった。

オーラは、別に逆風みたいに押しもどすものではないはず。あくまで“壁”なんだがなあ……。

■169p

ハヤカワ版:
 異人が態度を硬化させなければいいのだが……マスクの男は危惧した。これまでのところ、かれらは好意的だったが、武器を使用したらどうなるか、予想がつかない。
原文:
Alaska hatte gehofft, daß es nicht dazu kommen würde. Unbeweßt früchtete er eine gewaltsame Auseinandersetzung mit diesen Wesen. Bisher waren sie freundlich gewesen und hatten die Ziele der Menschen unterstützt.

試訳:
 そうならねば良いが、とアラスカが怖れていた事態だった。無意識に、スペシャリストたちとの力づくの紛争を忌避していた。これまでのかれらは友好的であったし、人類の目標を支援してくれたのだから。

直訳すると「そこ(パラライザーの投入)にいたらないことを、アラスカは期待していた」。このへん見ると、アラスカ自身も、その他の人々同様、闇スペを味方、と見るクセがついていたようだ(161pから取りあげた項を参照)。ただし、このへんは4章を正しく読むと、少々微妙な伏線ともとれる。

ハヤカワ版:
麻痺ビームが次元航法士に到達したかどうかも、はっきりしなかった。
原文:
Die lämenden Strahlen schienen auf die Spezialisten der Nacht keine Auswirkung zu haben.

試訳:
麻痺ビームは闇のスペシャリストたちには効果がないらしい。

これは……超訳的補足、と考えるべきかなあ……。

ハヤカワ版:
「殺人は許さない!」とチーフがすかさず応じた。「それに、こちらの武器はスペシャリストに通用しないようだ」
「ミュータントを投入しましょう!」と、べつの男が叫ぶ。
原文:
“Das wäre Mord!” lehnte Rhodan ab. “Außerdem bezweifle ich, daß wir im Besitz einer Waffe sind, mit der wir die Spezialisten gefährden können. Ich werde die Mutanten einsetzen!” rief jemand ungeduldig aus anzukommen.

試訳:
「それでは殺人だ!」とローダンはにべもない。「加えて、こちらにスペシャリストを脅かせる武器があるとは思えない。ミュータントを投入する!」

ここは、原文にも問題あり。セリフの後ろの「rief jemand ungeduldig aus」は、ちょい前の、「分子破壊銃を使わなければ!」のト書きが、コピペミスかなにかで残ってしまっている。そして、グッキーがしぶしぶとはいえテレポートしていることからも、すべてローダンのセリフと判断できる。……でも、わからんかなあ(笑) 3センチ足らず上に、まったく同じ文があることくらい。

■170p

ハヤカワ版:
「貯蔵室の運動プロセスを減速させてみましたが、手ごたえはありません」と、タクヴォリアンが口をはさんだ。
「どうすべきか?」と、チーフは考えこみ、
原文:
“Ich könnte versuchen, die Bewegungsabläufe im Lagerraum so zu verlangsamen, daß sie praktisch zum Stillstand kommen”, bot Takvorian sich an.
“Ich sehe keinen Sinn darin”, erwiderte Rhodan.

試訳:
「倉庫の運動プロセスを実質ゼロにまで減速してみましょうか?」タクヴォリアンが提案した。
「たぶん、無意味だろう」と、ローダン。

直訳は「実際問題静止状態にいたるまで減速することを試みることができる」。だから、まだやってないんだってば。手ごたえがないって、どっからもってきたんだ……。

ハヤカワ版:
ブラックホールが不可侵のオーラでつつんでいるから。
原文:
“Das Black Hole besitzt über seine sichtbare Ausdehnung hinaus eine undurchdringliche Aura.

試訳:
あのブラックホールは見かけのサイズより大きな、不可侵のオーラを有している。

定冠詞つきなので、船内に発生したそのブラックホール限定、なのかな。
ブラックホール特有というよりは、もっとあとのへんで、闇スペが害のある効果を遮断している、という描写があるから、一種の反撥フィールドだったりするのかも。そういう描写はないけれど(笑)

ハヤカワ版:
 シェーデレーアは首をかしげた。闇のスペシャリストには、《ソル》を“黒いゼロ”にのみこませる気はないはずだ。これはかがれら未知の目標に達するための、たんなる手段にすぎない。ブラックホールの出現は一見すると非論理的に思えるが、このグループは任意の場所で、自由にこの現象を“活性化”できるのだろう。いずれにしても、船の破壊を意図しているとは思えない……。
原文:
Saedelaere überlegte, ob es tatsächlich das Ziel des zwölf Spezialisten der Nacht war, die SOL in ein Black Hole stürzen lassen und auf diese Weise ihr unbekanntes Ziel zu erreichen. Es erschien ihm unlogisch, denn von dieser Möglichkeit hätte die Gruppe auch an jedem denkbaren anderen Platz Gebrauch machen können. Alaska glaubte nicht daran, daß die zgmahkonischen Geschöpfe bewußt den Untergang des Schiffes herbeiführen wollten.

試訳:
 シェーデレーアは首をかしげた。闇のスペシャリストの狙いは、ほんとうに《ソル》をブラックホールに墜落させて未知の目標に達することなのだろうか。それでは非論理的だ。この手段なら、いくらでもほかの場所で用いることができたはず。ツグマーコン人たちが、意図的に船の破壊をまねくとは思えなかった。

期せずして破壊される可能性は、残されている。
unlogisch なのは主語の Es すなわち、前文において、ob 「~かどうか」と思案した内容。つまり、ブラックホールに船を落として云々が闇スペの企図であること。erscheinen 「~現われる」は、この場合、「それは彼には非論理的に見うけられる」であって、ブラックホール(確かに中性名詞だが)が「出現した」わけではない。それだと、ihm 「彼に」が浮いちゃうでしょ。

■171p

ハヤカワ版:
次元航法士の円陣も、それにつれて大きくなる。つまり、この“成長”も意図したものということ。
原文:
Der Kreis der Spezialisten dehnte sich, als wollten sie Platz für ein noch größeres Gebilde schaffen.

試訳:
 スペシャリストたちの円陣が広がった。まるでもっと大きな物体のための空間を空けるかのように。

意図したものではあるのだろう。でも、原文はそれを隠喩であらわしているだけ。
だいたい、原文の内容は、「半メートルじゃおさまらないよ?」ということだろう。

ハヤカワ版:
 だが、計画はあっけなく頓挫してしまう。
原文:
Der Plan schlug jedoch fehl.

試訳:
 だが、計画は失敗した。

動詞 fehlschlagen は、「しそんじる」の意。「頓挫」の訳が意味するように、途中でいきづまったわけではない。すでにやらかしているのだ。

ハヤカワ版:
 チーフがミュータントの不在に気づき、ロイドを司令室に呼んで問いただしたから。ローダンは計算システムの答えを待つように命じたのである。
原文:
Rhodan wurde vom Scheitern der Mutanten unterrichtet. Als Lloyd die Botschaft in die Zentrale brachte, hatte Rhodan gerade eine Befragung des Rechenverbunds abgeschlossen.

試訳:
ローダンはミュータントの失敗について報告をうけた。ロイドがその知らせをもって司令室についたとき、ローダンはちょうど合同計算脳への質疑を終えたところだった。

Scheitern は、動詞 scheitern が名詞化したもので、もとの意味は「難破する、失敗する」。上記 fehlschlagen と同意である。

もうね……言いたかないないけどさ、辞書ひきなさいよ、辞書。いや、この文章が訳文みたいになるには、辞書ひかないだけじゃ足らないか。原文ちゃんと読解していないうえに、想像力ありすぎだよね。

■172p

ハヤカワ版:
 実際、黒いゼロはいまも貯蔵室で“成長”をつづけていた。このままでは、最終的に船がのみこまれるのは明らかだ。
原文:
Die Tatsache, daß die Schwarze Null im Lagerraum nur sehr langsam wuchs, änderte nichts daran, daß sie schließlich das gesamte Schiff einnehmen würde.

試訳:
 倉庫の黒いゼロが、ごく緩慢な成長をしかしていないという事実も、最終的には船まるごとがのみこまれてしまうという結末を変えるものでなかった。

例によって例による、単語パズル生成プログラム(を

ハヤカワ版:
 しかも、謎の効果は持続している……つまり、なにかがブラックホールを膨張させつづけている。
原文:
Mit zunehmender Größe des Black Hole häuften sich an Bord der SOL die unheimlichen Effekte.

試訳:
 ブラックホールの拡大とともに、《ソル》船内ではぶきみな効果が頻発しはじめた。

なにかがって、スペシャリストがやってるに決まってるし。持続、って単語は、たぶん、157pの急な移動を念頭においてるとは思うけど、要するに捏造だし。

ハヤカワ版:
 その結果、《ソル》の人工重力は船内のあちこちで安定を欠くようになった。水が容器から流れてこないなど、異常な圧力の影響があらわれはじめたのだ。それだけではない。乗員の大半が、頭痛や吐き気などの症状を訴えるようになったのである。
原文:
Die künstliche Schwerkraft an Bord verlor an Stabilität. Ein Folge davon war, daß kein Wasser mehr aus den Flüssigkeitsbehältern floß. Es mußte mit Überdruck dazu gebracht werden. Besatzungsmitglieder klagten über Kopfschmerzen und Übelkeit.

試訳:
 艦内の人工重力が安定を欠くようになった。その結果、水が容器から流れてこないため、加圧する必要が生じた。また、乗員たちが頭痛や吐き気を訴えだした。

ブラックホールがもたらすのは、異常な「重力」であって、「圧力」ではない。Ein Folge davon を「その結果」と読んだか否かはさだかでないが、関係代名詞から「daß 以降の内容のつづきとして」であるから、前の文の頭に訳されることはありえない。

ハヤカワ版:
それまでの重力環境が一変し、不明瞭なシュプール……あるいは迷路が無限につづくことになる。
原文:
kam es zu Schwekrafteinbrüchen, die die normale Umgebung in ein Labyrinth undeutlicher Linien und Horizonte verwandelten.

試訳:
重力のゆがみにいたり、ノーマルな環境が、直線も水平もさだかならざる迷宮へと一変するのだった。

直訳すると、「ノーマルな周囲を、直線も水平もはっきりしない迷宮へと変える、重力の陥没にいたる」。Einbruch は陥没とかくぼみとか、そういう意味の名詞なので、「重力の凸凹」と意訳するとわかりやすいかも。訳文「シュプール……あるいは迷路」は、Linien und Horizonte が迷宮の形容であることが読めていない。そもそも、接続詞が und「~と~」であって、oder「~あるいは~」じゃないでしょ。同様のことは前にも書いたが、接続詞を恣意的に(訳:好き勝手に)読み替えると、文意が逆転しかねないからやめなさいって。

とりあえず、3章は次回で完結予定!www

「超訳って嫌いなんだよね~」
「シドニィ・シェルダン読んだことないの?」
「だって、もし読んでおもしろかったらイヤじゃない(笑)」

と、いう会話をかわしてから、もう20年くらい経つのだろうか。実際、いまだに読んでないものなあ。つくづく狭量な人間である >我

でも、意訳って、作者の意図(と訳者が思うもの)を伝えるためにするものだよね?