ドイツSF大賞2023受賞作

28日付SFCDのサイトで、ドイツSF大賞2023の受賞作が発表された。

◆長編部門
Nils Westerboer / Athos 2643 / アトス2643

西暦2643年、地球に人の住めなくなった未来。海王星の衛星(元カイパーベルト天体と思われる直径2kmの岩石)アトスの修道院で事件が起きた。問題は、衛星の生命維持を司る人工知性〈マルファ〉が“殺人”を犯したのか。異端審問官リュート・カルトハイザーが助手の人工知性ザックとともに派遣されるが、調査(尋問)は困難をきわめる。6名の修道僧に第2の死者が出るに及んで、リュートはザックの機能を制限する安全機構の解除を決断するが……。
犯罪SFかというとそうではなく、二部構成の前半utilは“集団の利益、最大多数の幸福をめざす”、後半deonは“より高次の目的のためなら被害も辞さぬ”、人工知能の倫理的状態を意味するらしい。そして、本書はホログラフィの助手ザックの一人称で進行する。
ラスヴィッツ賞では惜しくも2席、ファンタスティーク系のセラフ賞にもノミネートされた作品。

・その他順位
2席:Andreas Suchanek / Interspace One / インタースペース・ワン
3席:Sven Haupt / Wo beginnt die Nacht / 夜の始まるところ
4席:Aiki Mira / Titans Kinder / タイタンの子ら
5席:Aiki Mira / Neongrau / ネオングレー
6席:Jol Rosenberg / Das Geflecht. An der Grenze / 叢・境界にて
7席:R. M. Amerein / Roboter: Fading Smoke / ロボット:フェイディング・スモーク
7席:Theresa Hannig / Pantopia / パントピア
9席:Timo Leibig / Reaktor / 反応炉
10席:Andreas Brandhorst / Ruf der Unendlichkeit / 不死の呼ぶ声
10席:Kris Brynn / A. R. T. – Coup zwischen den Sternen / A.R.T. 宇宙美術品攻防戦
12席:Hans-Jürgen Kugler / Freier Fall / 自由落下

◆短編部門
Aiki Mira / Die Grenze der Welt / 世界の境界

カット――カタナ・キリクは長い間月面で戦闘に従事していた。長期間の低重力で筋肉は萎縮し、地球に戻ってみれば強化外骨格エクステンダーなしではろくに動けない体になっていた。運良く、最新型のエクステンダー(全長20m、重量1t)を扱える鉱山作業現場での職を得て、没入感に感激するカットだが。あるとき、現場にひとりの少年が迷い込んできて……。

・その他順位
2席:Yvonne Tunnat / Morsche Haut / 脆い肌
3席:Thorsten Küper / Hayes’ Töchter und Söhne / ハイエスの娘たち息子たち
4席:C. M. Dyrnberg / Fast Forward / ファスト・フォーワード
5席:Christoph Grimm / Die Summe aller Teile / 全部の合計
6席:Helen Obermeier / Der blassblaue Punkt / ペイルブルー・ポイント
7席:Michael K. Iwoleit / Briefe an eine imaginäre Frau / イマジナリー・ウーマン宛の手紙

DSFPの席次はラスヴィッツ賞とちがい投票数の項目がないので、どのくらい人気に差があったのかがいまいち掴みづらい。だが、今回の長編部門だと同点らしい作品もあるので、ポイント順なのは確か。どのくらい票が集まっているのかなあ。

■ドイツSF大賞:公式サイト(dsfp.de)

空白の1000年

1000年ジャンプした400話「たそがれの人類」

ハヤカワ版ではもうじき“暗黒の700年”と呼ばれる時間ジャンプが到来するのだが、それはさておいて。
ローダン正篇のサイクルのはざまで、一番長期の時間ジャンプがおこなわれたのが、399話/400話で、実に1000年――正確には993年――もの期間が過ぎ去った。

以下に、この空白期の主立った事件を列記してみた(当然、かなり主観的に取捨選択されている)。

2437年 スレンドル・カルスアル将軍を盟主に400の星系が太陽系帝国から分離。
2440年 アルノ・カルプ、実験中の事故で死亡。(※異説あり)
2460年 旗艦《クレストVI》からパラトロン・バリアの実装開始。
2467年 惑星モスタンを中心に14の星系が第一次カルスアル同盟を結成。(→2498年)
2477年 新アルコン人シフンダスI世、アルコン皇帝に即位。(→2548年)
2498年 スレンドル・カルスアル暗殺される。
2548年 アトラン暗殺を試み失敗したシフンダスI世が退位。以後、水晶帝国建国まで空位時代がつづく。
2648年 大西洋に新アトランティス(次元エレベーター・プトール)浮上。
2651年 エルトルスの実権を握ったスレンドル・カルスアル・ジュニアが太陽系帝国から自立、第二次カルスアル同盟を建国。
2801年 精神憑依体による銀河規模の“悪の十字軍”が自称「アコンの工作員」リモアンにより撃退される。
28xx年 この頃、中央銀河ユニオンが成立。中央惑星はルディン。
2821年 テケナーとケノン、〈苦境にある人々のための独立援助機構(UHB)〉を創設。
2841年 エルトルスで革命。ヴィゲラント、シルター、フラスカティの三頭支配者が実権を握る。
2842年 最後の島の王〈グレー(コムデン・パルタン)〉との戦い。
2895年 惑星ノスモ、太陽系帝国からの独立を宣言。ダブリファ帝国の創始。
2907年 第一次ジェネシス危機。
2909年 第二次ジェネシス危機。主力ミュータントを含む多くの死者。活性装置が反テラ勢力の手に渡る。
2930年 大執政官、直接選挙制に。ただし投票権を持つのはソル系居住者のみとされた。
2931年 惑星プロフォスのパニター動乱でモリー・アブロとスーザン・ワリンジャーが射殺される。
3102年 超戦士トリリス=オクトと太古文明イロヒムにからむ一連の事件。

2437年は399話のドラン撃退直後のエピソードだが、分離っつーか、本国に見捨てられた植民地が流しのドランに対する互助協定結んだよーな感じか。
2648年からのプトール出現、消失にはじまる事件はATLAN300話からの〈アトランティスの王〉サイクル、2800年代の各事件は同じくATLANの〈人類の委託をうけて〉サイクル後半50話からの題材である。

『レジナルド・ブル』書籍版

アルコンIIIのブルー人による破壊以降、分裂した新アルコン人の国家を(かなり強引な手段で)まとめあげた皇帝シフンダスI世の話は、アトラン暗殺未遂事件として惑星小説でとりあげられた。
3100年代の話は、アトランのペーパーバック・シリーズ〈ルディン〉〈マラシン〉等の題材で、時代背景としてカルスアル同盟の由来もこちらで言及されたもの。
2931年のパニター動乱については、正篇400話の内容だと、パニターが人だか場所だかすらわからなかったのだが、以前書いたとおり『コスモスクロニクル レジナルド・ブル』で多少の流れが書かれており、プロフォスから植民した惑星パニトに拠点を置く、ホンドロ時代までルーツが遡れる秘密結社〈黒の星〉が扇動した、らしい。プロフォスの民衆は、まさか元首母娘を殺っちまうとまでは思わなかったようで、そのへんの罪悪感からテラ側にとどまる形になったようだ。
カルプ教授の没年に関する異論とは、400話の記述(「建設作業の開始からまもなく」)では500年計画のスタート時点ではまだ存命であるように見えるから。SOL3号に掲載されたライナー・カストルの短編「訣別」では、2440年の事故で半透明な非物質的存在と化したカルプをワリンジャーが数百年かけて救出し、最終的な没年が2900年代前半であるとしたが、これは必ずしも正典扱いされているわけではないようだ。

その他年表をつらつら眺めていると、知らない人名やら地名がいっぱい並んでいる。どれも、惑星小説、短篇、後のヘフトで追加された情報である。
いやほんと、掘ればまだまだいろいろ出てくるねえ、ローダンって……。

ガローン人の服……という名のスーツ

1998年に作成されたトレゴン宣伝用ポスター

1800話から始まるトルカンダー・サイクルは、同時に400話からなるラージサイクル〈トレゴン〉の幕開けでもあった。サイクル最終の1875話「プランタグーの平和」で、攻撃衝動を封印した〈竜穴〉の暴走によるプランタグー銀河の種族大虐殺を間一髪防いだローダンは、新たなトレゴンの第二使徒カイフ・チリアタから感謝の印として青い〈ガローン・スーツ〉を贈られる。
原語はGalornenanzugで“ガローン人の服”だが、テラナーがいったんソル系へ戻った際に着てきたSERUNを雛形に造られた、ローダンの固体周波数を登録された専用宇宙服。そもそもガローン人は大仏体型なので入らないのだが(笑)

きらめくダークブルーの未知の素材で、左肩口に渦状銀河のマーク、右胸にブッダっぽいガローン人の徽章付き。
このブッダ、固有名ムーは、実は半生命を有するロボットで、

「ムー、アクティヴ・モード!」

というローダンの命令一下、独立行動が可能という代物。
服自体も、かつてポルレイター遺産の管理・製造を担っていたバオリン=ヌダから〈ヘリオートスの堡塁〉の建造を一任されるほどのエンジニア種族であるガローン人、よくわからないけど高性能なんである。当初、「ありがたいけど、なんか触るとピリピリする……怖っ」と、もらうだけもらってしまい込んでいたローダンだが、無限架橋を渡ってたどりついたノンッゴの故郷トイラー星系を混沌のちまたに突き落とした〈カオスメイカー〉グージレズに単身立ちむかうため着用してからは着たきり雀(笑)

初着用の1885話「天輪のはざまで」

テラで暴れまわるサイクロプス、実は〈死滅スーツ〉を着た〈物質のしもべ〉ラミヒュンその人の前に立ちはだかって、TLDの防衛部隊のように死なずにすんだのも、ガローン・スーツ――と、もちろん活性装置――あってこそ。以降、青い専用スーツを着た姿は「トレゴンの第六使徒」の象徴となった。1998年にはレナト・カサロ画のポスターにもなった。

……のだが。ラージサイクル終了直後、2200話からの星海サイクル序盤で超空間インピーダンスの急上昇のため、機能不全に陥りお蔵入りとなった。かっこよかったのに、残念なことである。

2200話が出たのが2003年の10月。
なので、この話題のもとになった公式ツイートの、立看板をセンターにしたマーケティングチームの撮影時点(2004年)では、実はガローン・スーツはすでに正篇を退場しているのだった(爆)

でも、しょうがないよね、かっこいいんだものw

島の王の復活

島の王サイクルは、おそらく現在でもシリーズ中一番の人気を誇るだろう。
その最大の敵役であったファクターIことミロナ・テティンも、くりかえし惑星小説や短編の題材に取りあげられている。アトランが殺したのは実はデュプロ説、死んだのはオリジナルだがいまでもデュプロ原盤が存在する説……。西暦2801年に銀河系の危機を救った自称アコンの工作員リモアンは、マイクロ状況転送機内蔵のスーツを身にまとい、拳銃サイズの武器で核火災をひきおこしたというが、その名は「ミロナ」のアナグラムかもしれない(惑星小説331巻)等々。

一方で、他のファクターの場合も、死んだはずが生きていたというパターンは、実はめちゃくちゃ多い(笑)
嚆矢となるのは、1973年に刊行されたATLANヘフトに登場した敵〈グレー〉の正体が、ミロナさんに叛逆して処刑されたファクターのひとり、コムデン・パルタンだったという例。近年では、カオターク・サイクル序盤から登場しているソインテ・アビルが、やはり処刑されたはずの旧ファクターVIIである。
d-informationのネタ出しに外伝をパラパラやると、おい、アラス伝説の医師MOって島の王かよwwwなんてケースもあったり。ふと思い立って、今回ちょっと簡単にまとめてみた。

初期 終期 名前 備考 死亡時期 関連話
I (*1) アガイア・テティン ルーム星系でハイパークリスタル〈創造の息吹〉を発見。 紀元前18000年頃死亡 惑星小説288巻
(*1) I ミロナ・テティン 母の死後、ひそかに権力を継ぐ 西暦2406年死亡  
II II トリナル・モラト   西暦2406年死亡  
III III プロフト・メイヘト マルティドン脱出後、銀河系へ。 西暦2909年死亡 記念号7巻
IV (*2) ゼノ・コルチン 装置破壊による肉体死亡後、精神はPEWメタルの彫像に宿る。 新銀河暦1552年死亡 2999話
V V ネヴィス・ラタン   西暦2404年死亡  
VI (*2) アセト=ラドル モビーの創造者。その内部で殲滅インパルスを遮蔽。銀河系でアラスに偽装して生活。 消息不明 外伝〈アラス毒〉
VII (*2) ソインテ・アビル 死を偽装した宇宙船の爆発が殲滅インパルスを遮蔽。カシオペア座矮小銀河へ避難。 《光力》を奪いコンドル銀河へ先行 3058話
VIII VI トゼル=バン   西暦2404年、過去界で死亡  
IX (*2) バリム=ナントル 殲滅インパルスで装置破壊。 紀元前7600年頃死亡  
X IV ミラス=エトリン   西暦2405年死亡  
XI (*2) コリン=ウンス 殲滅インパルスで装置破壊。 紀元前7600年頃死亡  
XII VII レグナル=オルトン   西暦2404年死亡  
XIII (*2) コムデン=パルタン 活性装置を他者へ移植、深層睡眠に。怪物〈グレー〉に変容。デュプロ疑惑有。 西暦2842年死亡 ATLAN99話
番外 セラロン・メロタ 活性装置の設計者。エルミゴア、ミロナ・テティンの父。 消息不明 惑星小説288巻
トラヴェルサン12話
番外 エルミゴア ミロナ・テティンの腹違いの姉。 西暦3460年死亡 683話
番外 ネルモ・デリム パラレル・ワンダラーで活性装置14基を受領。 異時間線で非正規扱い 1573話

*1) 紀元前18000年頃、活性装置をマルチデュプリケーターで複製しようとしたミロナの試みでアガイアの装置が爆発。責任転嫁されたセラロン・メロタは銀河系に逃亡する。
*2) 紀元前7600年頃、ファクターIの正体を怪しんだ〈6者会議〉の動きがアセト=ラドルの裏切りで発覚。活性装置を破壊する殲滅インパルスで処刑された。

処刑したはずが、生きてる方が多いじゃなーい。ミロナったらお茶目さん(笑)
というか、遺体が確認されてない以上、あとの2人もいつ復活するかわかったもんじゃないなこれ……。

そもそも、島の王の成り立ちと活性装置の由来については、諸説ある(例えば〈反それ〉が与えた、とか)中、1987年に惑星小説288巻『不死を鍛つ者』(テリド)が刊行され、特殊なハイパークリスタルを発見したレムール人による自力開発、とされた。
一方、1991年の1573話「時間展望」で、テフローダーのネルモ・デリムが14基の活性装置を〈それ〉の使者エラートに与えられ、適切な携行者を選ぶよう命じられる(場面を、ローダンらが目撃する)。最新が常に正なりなローダン・シリーズなので、混乱した〈それ〉がうっかり渡しちゃったということで設定が置き換えられた、と思ったのだが。
1998年刊行のATLANトラヴェルサンで、惑星トラヴェルサンにあった時間ステーションを、セラロン・メロタがアトランの前に使用していた云々で、また元に戻った(か、そもそも違う時間線の話と考えられていた)みたい。時間遡行して、恒星転送機をより早期に“発見”してカラホル(アンドロメダ)移民を進めたり、なんやかやしている。この時代はレヴィアン・パロンが時間遡行してレムール人の〈箱船〉を建造(外伝〈レムリア〉)したり、時間転送機大活躍である。そりゃ時間警察も攻めてくるわ(汗)

さらに、このセラロン・メロタだが、その後の消息がはっきりしない一方で、1万年前の〈銀河の謎〉設置にあたり、フェロルに格子型転送機を持ち込んだ人物であるとか、変な設定が盛られている。死して〈それ〉に吸収されたのか、それとも、いまでもどこかで怪しい活動していたり……(オイ

The rise and fall of Siqim Malkar

――あなた様にお仕えできて、わたくしは幸せです。
《惑星アホアナの元農夫、バンダル》

収縮しつつある宇宙。
決定された滅亡。約束された再生。
秩序と混沌の天秤は、与え、そして奪う――。
シェラ・ナール銀河の王、シリクジム。
彼に与えられた新たな名は、〈七日目の主〉を意味する――
SIQIM MALKAR

プロローグ 農夫バンダル  Bandar, der Bauer

 耕地グライダーのキャノピーから、バンダルはアホアナの大地を見渡した。
 北に向かえば、地平まで平らかな褐色の農地――その中にバンダルの土地もある――が続いている。南に目を転じれば、緑なす丘と、彼方にそびえる雪に覆われた高山が視界を埋める。
 バンダルは、世界を愛していた。
 本来なら、耕地グライダーで畝を切る作業は全自動でまかなえる。ふたりの妻と5人の子をもつバンダルは、農夫の中でも比較的裕福な部類に属する。みずから作業を逐一おこなう必要などないのだが……。
 太陽が中天高くかかった正午のひとときを、こうして過ごすのが、バンダルは好きなのだ。陽炎にゆらぐ大地を、牧神とニンフたちが駈けぬけていく――そんな気がした。
 だが、今日、バンダルの幻想を中断したのは、牧神などではなかった。
 銀色に輝く紡錘状の物体。グライダー前方の地表に浮かび、長軸にそって高速で回転している。
「――作業をやめて、降りよ!」
 アホアナの反対側にすら届きそうな、大音声が轟いた。どこから来るのか、確かなことはわからないが、あの紡錘以外考えられない。

 自由を愛するバンダルは、普段ならば、命令口調の相手を笑い飛ばし、仕事をつづけただろう。頑固な農夫なのだ。しかし、声の響きの何かが、そうさせなかった。かれはグライダーを着地させ、ハッチから外に出た。
 紡錘の回転がゆるやかになり、やがて停止した。それにともなって、光輝も静まった。
 そして、ひとりのアホアノが、姿をあらわした。
 パルバン帝国に住まう種族の中でも、アホアノは短躯で知られている。だが、その男はバンダルよりも、さらに頭ひとつ小さかった。侏儒と言っていいだろう。
 それでも、バンダルは畏怖に凍りついた。目が――銀河のはざまの虚空のように漆黒で冷たい双眸が、かれをとらえて放さなかった。

「わが名を知っているか?」侏儒が訊ねた。
 今回は、普通の音量だった。しっかりとした、よく響く声だ。
「いえ」
「よろしい。おまえはそれを知ることになるが、口にせぬよう気をつけるのだ」
「わたくしに何をお望みですか、閣下?」敬意をこめて、バンダルは訊いた。
「わたしは助言者と代行者を必要としている。そこでおまえを選んだのだ」
 バンダルは混乱した。
「わたくしに何を助言しろとおっしゃるのです、閣下? それに、何をわたくしにおまかせになると?」
「助言するのは、銀河戦略に関する諮問に対して」侏儒が答えた。「まかせるのは、わたしの立案した事項の実現だ」
「わた……わたくしは、銀河戦略についてなど、皆目存じません、閣下」バンダルは訥々と語った。「将軍どころか、兵士ですらないので……」
「おまえには悟性がある」と、侏儒がバンダルの言葉をさえぎって、「知るべきことは教えられる。グライダーはそのままでいい、いますぐにわたしとともに来るがいい」
 畏怖ももののかわ、バンダルの魂のなかで強情さが目をさました。
「閣下、わたくしには、ふたりの妻と5人のこどもがおります。何もかも放り出して、お供することは、かないません」
「おまえの妻子の面倒はみる」侏儒がいった。「城から連絡を入れて、十中八九、二度と会うことはないと説明してやれ」
「城……か…ら……」バンダルはどもった。
 そこで、突然、すべてが理解できた。バンダルは大地に身を投げ出し、両手をひろげて、ひれふした。動揺のあまり、聞き取れないほどの早口で、
尊き大公殿下オベ・アナンボタサル!」これは支配者に対する最上級の尊称である。「大公殿下をそれとわからぬなど、わたくしは不忠者です。何卒、御慈悲の光をくだされたまわんことを。数ならぬ身をつくしてお仕え申し上げます……」

 ……わたしの名はバンダル。かつては、シェラ・ナール銀河の惑星アホアナの一隅で、農夫としての生活を送っていた。
 だが、その日を境に、すべてが変わった。
 帝国最高の科学者たちが、ヒュプノ学習によって、わたしに政略・戦略・戦術・兵站その他さまざまな知識を植えつけた。知るべきことは教えられる――大公殿下の御言葉どおり、わたしは助言者として生まれ変わったのだ。
 そして、わたしは理解した。
 父君の逝去によってパルバン帝国の玉座を継いだばかりの大公ボタサル殿下は、シェラ・ナール銀河統一のため、新たな戦略を必要とされていた。それを立案する際の助言者として、わたしは選ばれた。タイトロニクスのネットワークが、帝国全臣民のなかから、適合者としてわたしを選び出したのだ。
 そして、尊き大公殿下オベ・アナンボタサルは、自らアホアナの一農夫のもとを訪れ、選択の正否を確認し、わたしを助言者に任じた。わたしはその期待にこたえるべく、すべてを捧げることを決意した。

 わが終生仕える御方は、シェラ・ナール銀河、パルパン帝国の大公ボタサル殿下。いみなをシリクジムと申し上げる。
 だが、後の――メーコラーの――人々は、わがあるじを、また別の名で記憶することとなろう。
 七日目の主シキム・マルカー――〈主ヘプタメル〉、と。


――君は戦いには勝利した。だが、心から欲するものは、わが掌中にある。
《ハンガイの支配者、アコス》 


シェラ・ナール南部星域の決戦。
時を同じくしてハンガイから襲来したハウリ艦隊との対決。
ロブダルとなったシリクジムの野望は尽きることがない。

だが、超知性体アイセルの力の集合体を襲った、
凶暴な〈ペンタル軍団〉の脅威に対峙したとき、
はじめての蹉跌がシリクジムに訪れる。


――あなたが望んだままの未来をその手にできるよう、願っておりますよ。
《瞑想教育プログラム、ポリトロス》 


帝国の統治をバンダルに一任し、惑星デリヤバールに隠遁するシリクジム。
だが、運命はかれに休息を許さなかった。
宇宙にひとつの噂が流れていた。
〈七強者〉の寿命が尽きようとしている。
そして、〈白き裂け目〉の彼岸の上位存在が、
天命を継ぐ新たな7人を選び出そうとしている、と――
だが、候補は8人いた。


――忘れるな。その力、誰にもらったかを……
《カオターク、クズポミュル》


愛を捨て、権を選択したシリクジム。
だが、宇宙の滅亡は、すでに決定されていた。
沈黙する〈白き裂け目〉の彼岸の上位存在。
あるいは憤慨し、あるいは絶望する強者たち。
たばかられたと考える彼らの前に、新たな力が顕現する。
無から出現した暗黒の柱は、人の姿へと変じ、
7人に新たな宇宙への再生を約束するが――!?


――わたくしは、殿下を糾弾するために参りました。
《過去の亡霊、エリンダル》


運命は〈七日目の主〉に、いかなる結末を用意しているのか。
そして、かれに忠実につきしたがってきた、
小さきアホアノ、バンダルには――?


おまえもか?
おまえも、わたしを裏切るのか?


新宇宙歴19343年、おとめ座銀河団で発見された、1隻の宇宙艇《ネリマク》。
乗員のいない船内におさめられていた、膨大な記録とは……。
本編に登場しなかったヘクサメロンの内幕を描いた惑星小説358巻のご紹介です。
Private Cosmos 2x (?)
The rise and fall of Siqim Malker
刊行未定!(をい


……という刊行物を準備していました、という〈無限架橋〉に掲載した予告記事。本文もけっこう書いたのよ(汗)
タルカン・サイクルの前日譚にして後日譚。ローダン正篇では回想シーン(戦闘中)のみの出演に終わったヘプタメルと、彼をとりまく人物たちの物語。
なお、練馬区ネリマクは、シリクジムが配偶者に望んで得られなかった、マルハイン銀河女王の名前。
NTRにざまあとか、どれだけなろう小説の悪役を先取りしていたのか…… >シリクジム

アプルーゼの時もそうだったけど、「この宇宙には超知性体は存在しない!」「宇宙のこちら側はすべて死の波動に侵蝕されている!」とかいって、わりと小さな宙域に限定されてるんだよね。まあ、壮大なスケール感は重要かもしれんけど。アイセルさんはどーなったのかにゃあ(棒読み

新ATLANヘフトの概略

ローダンの姉妹シリーズATLANは1969年に正篇と同じヘフト形式の月イチ(正確には4週ごとに1話)刊行でスタート。1年後に隔週刊、1978年には週刊と刊行ペースを上げるが、1988年、850話をもって終了した。
その後、1998年にロベルト・フェルトホフ草案の独立した〈トラヴェルサン・サイクル〉全12話が週刊で刊行され好評を博したのを契機に、2003年にケンタウリ・サイクル全12話が、さらに2004年のオブシディアン・サイクルからは「新ATLANヘフト」として通し番号が振られるようになり、2006年の炎塵サイクルで完結するまで全60話が刊行された。
現在Perrypediaでは各12話の7つのサイクルを「ATLANミニシリーズ」に分類しているが、個人的にはひっくるめて「新ATLANヘフト」と呼んでいる。

現在の正篇、3200話からのフラグメント・サイクルでは、「850年前にアトランがグルエルフィン銀河を訪れた」ことが語られるが、それを含め、正篇に影響を及ぼす設定等もあるので、おおまかなストーリーの流れを概括してみた。

1 トラヴェルサン / Traversan

新銀河暦1290年、惑星トラヴェルサンで島の王の遺産が発見され、急報をうけて駆けつけたアトランが島の王と誤認されたため、時間ステーションの秘密プログラム〈星の露〉が発動。アトランは紀元前5772年に移送されてしまう。現地領主の娘タマレナとねんごろになったアトランは、トラヴェルサンの人々とともに悪逆非道の星区総督の陰謀に立ち向かう。
正篇1900話台で、ギャラクティカム議場を「ちとヤボ用で」と中座してトラヴェルサンへ向かうシーンがある。次に登場するまでに1万年が経過しているとは誰も思うまい(笑)
草案:ロベルト・フェルトホフ

2 ケンタウリ / Centauri

正確にはオメガ・ケンタウリ(球状星団ケンタウルス座ω)。
新銀河暦1225年、アトランは建国まもないアルコン水晶帝国において、レムール人の遺産をめぐる陰謀にまきこまれる。ケンタウルス座ω星団に眠る恒星転送機と意識転送技術を先んじて見出したツォルトラル家当主クレスト=ターロ、そしてコスモクラートのロボット、サムカーもからんで錯綜した事態のいきつく先は――。
この頃は、まだ別れた恋人でもある女帝シータさんが健在なので、アトランも帝国内で比較的自由に行動できた。この事件で発見されたω星団中心部の恒星転送機〈カラグ恒星十二面体〉は、後の正篇、ハイパーインピーダンス上昇により超光速航行技術の衰退した状況で、銀河間移動のための恒星転送機網再稼働の中心的役割を担い、長らく活躍する。
草案:ウーヴェ・アントン

3 オブシディアン / Obsidian

カラグ恒星転送機の事故で、未知の空間〈オブシディアン・ギャップ〉へはじきとばされたアトラン。それは5億年以上昔に、あまたの宇宙に於いて活動した原初の〈大群〉リトラクドゥールムのバックアップ・システムの座。そして、ヴァルガン人女性キサラの協力もあり、アルコン人はω星団が混沌勢力の攻撃で銀河系に擱座したリトラクドゥールムの一部であったことを知る。そして、100万年前銀河系に残留したサイノスのひとり、旧知の山師カリオストロことサルダエンガルが、銀河系を犠牲にリトラクドゥールムの再起動をもくろんでいることを。
ヴァルガン人はATLANシリーズにおけるサイノスやクエリオン人的位置づけの種族で、七強者の城で出てきたマイクロ宇宙との往来を可能とするドルグン転換器を開発した種族の末裔。若き日のアトランはその叛徒の女王、〈黄金の女神〉イシュタルと出会い、一子カパトをもうけている。

4 大法官 / Die Lordrichter

カラグ恒星転送機の制御惑星カラグ鋼鉄界に出現したカピンから、〈ガルブの大法官〉と〈秩序の剣〉について警告をうけたアトラン。キサラとともに、銀河系のサウスサイドに遺されたヴァルガン人の施設で、その尖兵が活動していることをつかむ。〈プシの泉〉ムルロースの破壊には成功したが、すでに回収されたエネルギーは〈ダークスター〉と呼ばれるプロジェクトのため、1600万光年かなたのドゥインゲロー銀河へ移送されていた。
ガルブヨル――ガルベッシュを連想させる――は現在グルエルフィンに侵攻し、カピンに血みどろの内戦をひきおこしているという。

5 ダークスター / Der Dunkelstern

マイクロ宇宙からの暗黒物質に侵された恒星〈ダークスター〉。不死性を求める大法官の〈突破計画〉を阻止するべくドゥインゲロー銀河に進撃したアトランとキサラは、現地のヴァルガン人やカピンの協力を得て、ダークスターの破壊に成功する。

6 イントラワールド / Intrawelt

ドゥインゲロー銀河に構築された直径30万キロの人工空洞惑星イントラワールド。ガルブヨルの叛乱勢力コンタークラフトによれば、そこに隠された〈炎塵〉があれば戦局を好転させうるらしいが、空洞惑星には「物質の泉の彼岸に到達した」者しか立ち入れないという。アトランはキサラを残し、単身イントラワールドへ進入する。
先んじて空洞世界に来訪していた、かつてカオタークの協力者であった〈ソウルイーター〉ペオヌとの競争を制し、アルコン人は謎に満ちた〈炎塵〉を確保する。
ペオヌはカオターク・クズポミュルが蠱毒のように養成したソウルイーターであり、《トレーガー(母艦)》と呼ばれる特殊艦で活動する特殊部隊〈チャンピオン〉の一員だった。チャンピオンは2000話以降の正篇にも2名ほど登場する。また、ヘクサメロンの主ヘプタメルに力を与えたのもクズポミュルである(ただしこの設定は惑星小説のみで正篇には出てこない)。
草案:ミハエル・マルクス・ターナー

7 炎塵 / Flammenstaub

炎塵は服用者に現実改変能力を与える。だがそれは諸刃の剣であり、使いこなせなければ死をもたらすもの。自分にその力は余るとアトランは銀河系への戦略的撤退をはかるが、ガンヤスのペドパイラー船はグルエルフィン銀河を目的地に選んでしまう。
ガンヤス人とタケル人の会戦にまきこまれたアルコン人は、介入したジュクラ人に救出される。ジュクラ氏族を糾合する会合はガルブの親衛隊ザコールとタケル人によって粉砕されるが、会場を脱出したアトランらは山脈に隠された〈家臣〉を発見、脱出した先の自由貿易区の中心ボイシュ・ステーションで瀕死の言葉を伝える者インタプリタから〈永遠のガンヨ〉オヴァロンの意識片を受け入れる。
ガルブヨルはガルベッシュと同じくトロダル――勇猛に戦いぬいた戦士のみがたどりつける死後の世界――を信奉するヴァンカナル銀河の戦士種族集団。14名の大法官と最高大法官、そして頂点に立つ〈秩序の剣ガルボグテラ〉に率いられる。だが、当代の〈秩序の剣〉エミオンは、実は異なる蓋然性平面からの来訪者で、苦痛でしかないこの宇宙での生を終わらせる手段を求めていた。
海星船《フム》での最終決戦でエミオンが異なる存在平面へ放逐された後、新たに〈秩序の剣〉に就任した大法官、タケル人サリラはオヴァロンの意識片を受け入れ、ガルブヨルのヴァンカナル銀河への撤退を開始した。

……本編ではなく、Perrypedia収録のあらすじをざっと眺めただけだが、それだけでも〈永遠のガンヨ〉あたりに誤解のあったことが判明した。
正篇3200話で付帯脳が「前に来たのは800年以上前のこと」とつっこみを入れるのが、最後の炎塵サイクルの事件(新銀河暦1225年)である。ただし、これだけ見ても、正篇1277話で成立したグルエルフィン同盟がどうなったかはっきりしない。インタプリタ(と書くと、某コンパイラを思い出してしまうなw)が出てくるので、15年前に内戦が勃発するまでは基本構造は似通っていたものと想像される。
正篇でパンヤス人のトップが〈永遠のガンヤ〉(ガンヨの女性形)なのは、オヴァロン崇拝が廃れたのか、シラリアの後継たるガンヨが下克上したのかも不明。このへんはおいおい明らかになると思われるが、どうかなあ。

■Perrypedia:ATLAN-Miniserien

異宇宙舞台の宗教対決

前記事「ヘクサメロンの王国」の続きのような話である。

以前Twitterで「GOIはユダヤ教でいう“異教徒”」とつぶやいたことがある。PIGもユダヤ教由来ではないかと思っている話は先ほどツイートした。
また、最近のブログでは、ヴ・アウペルティアのことを“エレメントの主”と書くが、マガンとの電話で「“十戒”をもたらすものだから、キリスト教の神様でしょ?」と話していたのがその理由だが、ごめん、ユダヤ教の神様だね。

なんで突然こんな話をはじめたかというと、タルカン・サイクルの敵が同じユダヤ教の神様がモチーフだからである。1350話に出てくる「ヘクサメロンの書」の歌(あの訳だと完全に散文だけど)にいう〈支配者ヘプタメル〉は、“6日かけて世界を滅ぼす(そして新生させる)”〈七日目の主(Der Herr des Siebten Tages)〉だ。
ドイツ語Herr(支配者)は讃うべき主を意味する。支配者でも間違いではない(むしろ主だとわかりづらい)が、今回は〈主ヘプタメル〉でいかせてもらおう。

エシュラア・マグハアス(二十の地)を統べるとされる組織ヘクサメロン。
その頂点に立つ主ヘプタメル(現地語ではシキム・マルカー)は〈七の日の主(Herr Siebentag)〉とも表現されている(ハヤカワ版は“七番目の日”としているが)が、正確には惑星小説358巻のタイトルの通り〈七日目の主〉である。ヘクサメロンの書の歌を信ずるならば、宇宙(タルカン)のすべてをその身に含有し、七の日に新生した宇宙にただひとり顕在することになる。

で、最初にわざわざユダヤ教、と述べた理由だが、対する側がキリスト教モチーフなんである。
タルカン宇宙を放浪する旅路でローダンは、ハンガイ脱出計画を進行する22種族連合(22はユダヤ教・キリスト教の聖なる数)と遭遇するが、エスタルトゥの消息は知れない。むしろ“主ヘプタメルの勝利の証”を見せつけられる。エスタルトゥはタルカンにも、もういない……。
一方で、テラナーはいみじくも自分が“ヨルダン(Jordan)”と略した存在により〈聖別されし者〉となる。すなわち、ヨルダン川のほとりで聖ヨハネの洗礼を受けたナザレのイエスのごとく――。

1372話「タルカン行き十二の宇宙船」は、ローダン救出のため〈それ〉の援助を得たアトラン率いる12隻の小艦隊が異宇宙へ到達するまでを描くストーリーだが、この数字は十二使徒とみてまちがいない。
そして「ヘクサメロンの王国(これも神の王国のもじりか)」の最後、沸騰するプロト物質の中へ落ちたローダンが新生するくだりは、明らかにキリスト復活がモチーフになっている。これマジやるの? どーすんの? と思ったものだが。

ただ、前回の記事や『カオターク・ミーティング』でも書かれたように、物語はヴルチェクが予言したようには進まなかった。なにせ主ヘプタメル登場まで尺が保たなかった(走召木亥火暴)
ので、“復活”するのもローダンではない。見てみたかったような、こわいような、そんな実現しなかった宗教対決であった。

ヘクサメロンの王国

昔々、の話ではある。
私が時々話のタネに挙げる本のひとつ、シリーズ25周年記念『ワークショップ・ファイル(Werkstattband)』が発売されたのは1986年。1万部限定のペーパーバック〔写真左〕と増補改訂ハードカヴァー版〔同右〕がある。

そして後者に追加収録された記事のひとつが、1986年ザールブリュッケンで開催されたヴェルトコンでの草案コンビ、ヴルチェクとマークによる今後の展開についてのトークの書き起こし、〈ヘクサメロンの王国(Herrschaft des Hexameron)〉だ。
ヴェルトコン開催が9月なので1306話が出たばかり。イベントの模様がLKSに掲載されたのが1315話~19話。この時点で、コンに参加するほどアクティヴなファンには周知の内容だった。公式サイトもフォーラムもまだない(1996年開設)。de.rec.sf.perry-rhodanあたりがどうだったかは、残念ながら知識がない。現存するログでは1993年までしか遡れなかった。

チーム作家、元メンバー、遺族、編集者、断面図解作家らが回想録・こぼれ話・エピソードを寄せた1冊。現在はPerry Rhodan-Chronik I-IVという編年体の資料が刊行されているが、当時公式でこれだけの裏話が出たのは初めてだった。

で、ハヤカワ版も674巻まで到達したし、本格的なネタバレもないし、紹介したいと思ったはいいが。これ、銀本と同フォーマットで20pあるのだ。さすがにいまだと訳すヒマがないので、最後のあたり、ヘクサメロンについてそれらしい言及のある個所をピックアップしてみた。全体の1割程度。
なお、以前Twitterでつぶやいたとおり、完全にこの通りには進まないので、念のため。


EV:
 カルタン人は天の川銀河をこう呼ぶ。「遠き星雲」、彼らの言語で〈サヤアロン〉と。奇妙なことに、彼らは宇宙にも固有名を持っている。〈メーコラー〉、「膨張する巨大なもの」という意味。だが、次の言葉は誰のものだろうか?
『メーコラーの中にしか生命はない。縮みゆくタルカンに潜むは死だけだから!』
 カルタン人でない者がそう言うから、奇妙なのだ。また、アッタル・パニシュ・パニシャことオーグ・アト・タルカンとは?
 カルタン人はまだまだ驚くべきことがある。しかし、ようやくその糸が解けるのは、巨大な門が開き、この宇宙のごく狭いエリアに未曾有の洪水が押し寄せたときとなる。

KM:
 なぜなら、孵卵器ドリフェル反応せざるを得なくなれば、起こるのはまちがいなく、あらゆる想定を超えた大災害である。
 そして、ドリフェルに幾百万と蓄積された蓋然性の未来のひとつが現実となる。
 ドリフェルには自らを護る力がない。かつてプシ定数が上昇した際には、我々が〈深淵〉として知る構造を強化した。これ以上の定数上昇は宇宙的規模のカタストロフィにつながる。あらゆる元素の大洪水がこの宙域に押し寄せ、モラル・コードによって支えられた秩序をかき乱すだろう。。
 ここで〈ヘクサメロン〉を名乗る勢力が登場する。この名は、彼らにとり世界の余命は6日しかないことによる。そして、ドリフェルが反応し始めた瞬間、ペリー・ローダンはヌクレオチドの中におり、なすすべもなく飛ばされてしまうのだ。生命が否定され、死こそがすべての努力の目標とされる領域、滅びこそが新たな生命を生み出すと渇望される場所へと。そして、死後の生ではなく、いまある生のため努力する無力なものたちは、混乱にまきこまれつつヘクサメロンの戒律に絶望的な抵抗をつづけている。

EV:
 すべてが中央集権的に志向され、自然の力そのものが崩壊を助長するこの領域に、ペリー・ローダンは囚われることになる――帰還の可能性などない。アトランは、友を救うためには自らも渾沌たる死のゾーンへと続くしかないと気づく。カルタン人の語る天使のような言葉は誰にも理解できない。〈丸太〉には双子の兄弟が存在することが判明し、オーグ・アト・タルカンは復活すると、戦士崇拝の信徒たちに、ばかげた行いには終止符を打たねばならないと語りかける。
 そして、あらわれた使者たちは告げる:

――ネットウォーカーの終焉を。

KM:
――永遠の戦士たちの滅びを。

EV:
――エスタルトゥの奇蹟の消滅を。

KM:
――ひとつの銀河の誕生を。

EV:
――ひとつの宇宙の死を。

 しかし、アトランは外部の助けがなければ友を救出しえないと悟る。テラナーはシンギュラリティへ突き進む渦に呑み込まれ、沸騰するプロト物質の中へと落ちていくのだ。そして、あらゆる刻印から解きはなたれた意識を持つものとして新生する。

KM:
 〈それ〉が命綱を投げる。ローダンにだけでなく、
――エスタルトゥ十二銀河で危機にあるものたちに、
――苦境に立つ局部銀河群の居住者たちに、
――無から生まれた銀河の、無力な居住者たちに。

EV:
 〈それ〉は力の集合体の支配者としての役割を正しく務めるが、とうとうその存在の謎を明かさねばならない。
 だがそれまでには、克服すべき幾多の脅威がある。死をもたらすものたちは、おのが勢力圏が壊れた砂時計のように漏れ落ちるのを看過しない。自分たちの信ずるところを守りたいのだ。

KM:
 彼らの望むは完全なる万物の死。
 厳しい戦いになるだろう。
 ペリー・ローダンよ、心のままに進むがいい。

ENDE


原文ではヴルチェクはErnst、マールはKlaus(本名)だが、筆名のイニシャルで統一した。
なお、最後の原文は DAS WALTE PERRY RHODAN. で、「神の御心のままに」の常套句のダジャレである(笑)

たぶん、どーにか収縮プロセスを加速させて、宇宙の新生、までやるつもりだったんじゃねーかと思ってるんだけども。それで1500話あたりが「〈それ〉」になったり。
サリクの献身とか、そのへんどー扱うつもりだったのかはともかく、この通りに進んだら、後々何度も出てくる〈騎士のオーラ〉もリセットされて、ローダン・シリーズ全然ちがう話になったんじゃあと思うのだけど。いろいろ残念。

あと、〈深淵〉を強化したとあるが、プシオン網の間違いじゃないかなあ……。

以下、余談。
時代を感じるのは、“これまでの話”をふりかえる中で、マールがメッセンジャーの作用等を詳細に説明していること。そうね、この2年前、大学1年の私は出版されたばかりのブルーバックス『バイオテクノロジー』をテキストに村上教授の講義を受けたもので、まだホントの意味で一般教養ではなかったかな。

オーグ・アト・タルカン

ハヤカワ版で現在進行中のエスタルトゥをめぐる物語も第2部終盤。ブルやローダンがそれぞれの手段でたどりついたラオ=シン四太陽帝国――タルカニウム――の中心フーベイ。オーグ系フーベイ。事ここに到れば、アッタル・パニシュ・パニシャ、オーグ・アト・タルカンとラオ=シン(カルタン人)の関係を疑うものはいまい。

ここいらで、前サイクルから敷かれていた伏線をふりかえってみよう。

それらは皆オファラーである――戦士教団の神話的黎明期の人物、あらゆる師の師の最初のひとり、アッタル・パニシュ・パニシャを除いて。その彫像はすべてのウパニシャドに置かれ、どれも同じ形状をしている。身の丈ほぼ2メートル――原寸大の写しであるかはさだかでないが――およそヒューマノイド型の存在を表している。頭蓋前部は円錐状。先端左右には毛のようなものが数十本、扇状に突き出ており、ヴォルカイルはさらなる知覚器官か触角と考えた。細長い結晶素材は内側から輝くかに見える。

1278話「エルファード人」(マール)

以前Twitterで「おヒゲですにゃん(笑)」と書いたが、あの訳では伏線にならないのである。
(えらそうなこと言ってるが、『エスタルトゥへの道』では遡って解説書いてるからできたことw)

 アッタル・パニシュ・パニシャなるものは一種のスーパー・ストーカーだと想像していた。だが目にしたのはストーカーとはまるでちがう存在だった。ソトやパニシュたちとの類似性などまるでない。人間とも異なるが、ほぼ2メートルのヒューマノイド型をした存在の彫像である。顔は完全に非人間的。口吻部が突き出るように前後に長い。口自体はエスタルトゥ第三の道のシンボルと似ていなくもない、三つ叉の切れ目からなる。その左右に結晶構造を思わせる細く長い針の束が刺さっている。何を意味するのかは謎だ。
 ストーカーが腕を下ろし、我々に像がよく見えるよう脇によけた。「その本来の名はオーグ・アト・タルカン」と、熱意をこめて、「彼こそは恒久紛争の創始者にして最初の永遠の戦士。エスタルトゥの力の集合体すべてのウパニシャドでその立像が尊崇されている。およそ法典の教えに触れたる者、敬愛をしめさず通りすぎることはない」

1291話「眩まされし者たち」(エーヴェルス)

上述のツイートで「ティフが見る時には、口元の描写もあったような……。」と書いたのがこれ。
(原文のhominidはこの時期多く誤用されている。「ヒト科」ではなく「ヒト型ヒューマノイド」)

前回より猫っぽい描写。ただ、この時点でティフラーは惑星カルタンを訪問済みなので、類似に気づかないのはちょっと変。アンティマコス投与前でストーカー愛が強すぎた(笑)のか、それとも彫像がよほどカリカチュア化されてるんだろか。
まあ、気づかれたら、シングヴァよりも全知女性チームの皆さんが大慌てだろうけど。

〈御者となるのは、ネットウォーカーの組織が創設されたと同じ頃、おのが精神材を広めたもの。ふたつのイデオロギーは源を同じくしつつ、これ以上ないほど根本的に異なってしまった〉

1329話「ハイブリッド植物奪還」(ヴルチェク)

これもツイートしたが、事態の御者となる存在は、「精神材≒思想」すなわち(エスタルトゥの)第三の道の哲学の学校を築いたアッタル・パニシュ・パニシャであり、すべてのウパニシャドに置かれた立像には彼の“一部”が込められているというダブルミーニングでもある。

「ウォ・ジング・バオ・アト・タルカン」

1330話「忘却からの脱出」(シェール)

そして、ドリフェルの門からあらわれた“丸太クロッツ”が発したこのメッセージ。その意味と、すでに登場済みであるよく似たお船、全知女性の《ナルガ・サント》との関係とかは、次巻以降で次々と明らかになっていく。ので、お楽しみに?

ローダンーアトランティス終幕近し

3月18日に開幕したミニシリーズ〈ローダン-アトランティス〉が、今週発売の12話「骸詞」で完結を迎える。
いかんせん本編はあまり読めていないのだが、ここらで拾い読みでつかんだ概略だけでもまとめておきたい。

  1. Ben Calvin Hary / Im Land der Sternengötter / 星神の国で
  2. Lucy Guth / Festung Arkonis / 要塞アルコニス
  3. Sascha Vennemann / Fluchtpunkt Venus / 逃走地・金星
  4. Olaf Brill / Der Raumschiffsfriedhof / 宇宙船の墓場
  5. Michelle Stern / Die Kralasenin / クララセンの女
  6. Dietmar Schmidt / In der Methanhölle / メタン地獄にて
  7. Kai Hirdt / Tolcais Totenspiele / トルカイの死人ゲーム
  8. Lucy Guth / Quartams Opfer / クァルタムの献身
  9. Roman Schleifer / Totenstille / 死のしじま
  10. Dietmar Schmidt / Das Talagon / タラゴン
  11. Olaf Brill / Atlantis muss sterben! / アトランティス滅ぶべし!
  12. Ben Calvin Hary / Nekrolog / 骸詞

新銀河暦2069年。大西洋アゾレス諸島の海底ドームをアルコン人ケレン・ダ・マスガダンが購入し、テラ・アルコン植民史博物館として改装する運びとなった。彼は往時アトランの麾下にあったキルス・ダ・マスガダンの子孫。記念式典に招かれ、ドームを訪れるローダンと妻シク・ドルクスタイゲル。新生水晶共和国の顧問として多忙な日々をすごすアトランも姿を見せ、しばし歓談に興ずる旧友たち。
だが、陳列品に混じるある物体を見てアトランの表情が変わった。鎖付きの細長い卵型、活性装置に似ていなくもない〈タラゴン〉は、あるはずのない、あってはいけないもの。そしてアルコン人は、海底ドーム土台内、これまで未発見の部屋に置かれた転送ゲートからあらわれた女性――彼は「ロウェナ」と呼んだ――の凶弾に倒れる。苦しい息の下でアトランの告げた、「タラゴンをゲートの向こうへ送り返せ」という言葉にしたがい、アーチ状転送機を抜けたローダン夫妻だったが……。
実は時間転送機だったゲートを越えたふたりが漂着したのは、紀元前8000年の地球。異時間平面との接触で滅亡する数年前のアルコン植民地、アトランティスであった。

……と、こんな形でスタートしたミニシリーズ。前半6話は、現地人女性カイセイを案内人に帰還の手段を探すローダンたちと、彼らを追うアルコン女性ロウェナを中心にストーリーが展開する。
カイセイはアトランティス住民の小さな村落出身で、遺伝的に難産で母子共に亡くなる血統。幼い頃に姉が村を追われて死ぬさまを目撃し、いままた妊娠した自分も“穢れ”を忌避する村人たちにより追放され、許しをもとめ“神々”の住まいを訪ねるべくさまよっていたところにローダンたちと出会う。シクさん(ハトル人の傍系アトル人)の緑の肌、金色の文様を病気と勘違いし、勝手に共感して仲良くなる(笑)
一方で、3人を追跡するロウェナさんだが、このヒト実はゴノツァル家一門に連なる人物で、オルバナショルIII世治下で両親が処刑され、まだ幼い彼女は助命の条件として家名を捨て皇帝親衛隊クララセンの兵士となった経歴を持つ。現在はオルバナショルを打倒した水晶王子アトランに絶対の忠誠を誓う身であり、ドームにいた“アトランの贋者”を撃ったことにすら罪悪感チクチクだったりして草はえる。アトラン出征中の代行キルスを言葉巧みにあやつったり悪役ムーブをこなしつつ、水晶王子の御ためにこっそり廃棄しようとしたタラゴンをわざわざアトランティスに持ち帰ったローダンたちを許すまじと何度か襲撃するのだけど、身重のカイセイを撃てなかったり、よくクララセンやってこれたなという善人ぶりも発揮する多才さ(笑)
その過程で明らかになるのは、タラゴンがマークスがどこからか入手した“大量破壊兵器”であるという事実。一時休戦の手打ちとしてアトランが譲渡されたものだという。破壊するにもブラックホールのような高圧・高重力下でないと不可能という代物。

そして、アトランティスに出現する“灰色の小人”の軍勢。この時代のアトランに――植民アルコン人であると素性をいつわって――同行して霧セクターのマークスのもとを訪れたローダンが見たものは、メタンズを蹂躙するコバルトブルーの転子状船《輝力》だった。
コバルトブルーの転子状船は、1900話台のロボット・カイロルの乗船にはじまり、後にアラスカのものとなるサンブリ・ユラの《光力》など、コスモクラートの協力者が駆るタイプ。“灰色の小人”……要するに“グレー”だよね……はその乗員のアンドロイドたちである。ローダンもミニシリーズ〈ミッション《ソル》〉でエロイン・ブリゼルと知遇を得ている。
そしてタラゴンとは120万年前、セト・アポフィスの命をうけ局部銀河群に侵攻したガルベッシュの指揮官アムトラニクが混沌の工作員から入手した兵器〈原搬死素ネクロフォル〉だった。超知性体〈それ〉の力の集合体中心部たるタラニス――すなわち、アトランティス――で点火されるはずのものが、移送の失敗で難破していたのをマークスが収容したらしいのだが……。

後半はタラゴン回収をもくろむ《輝力》司令、ライレと同型のロボット・トルカイとの丁々発止のかけひきが続く。そして――
これまでコスモクラートのロボットは、サムカーが贋騎士イグソリアンとの関係をにおわされたくらいで、ライレやカイロルの素性は闇に包まれていた。だが、トルカイはちがう。
地球ともタラゴンとも因縁を持つ彼は、20万年前にロトロン(地球)で遺伝子実験をおこなっていたラサロ直属の部下トシクの息子――タケル人ジョシロン。彼はアトランティスの最高峰アルコンピークス頂上で、タラゴンを解きはなった。あらゆる生命を破滅へと誘うヌクレオチド・ペストが猛威を奮い、世界を死で塗りつぶしていく。力尽きる寸前、ローダンは最後の望みを、運命を乗り越え、息子を産み落としたばかりのカイセイに賭けた……。

最終話「骸詞」は8月19日発売。さあどうなる。

……以下、余談。
序盤からローダンたちに協力する、偏屈者のアルコン人科学者クァルタム・ダ・クェルターマギン。これまでクェルターマギンというと、由緒正しい御貴族様で、陰で陰謀の糸をひいているパターンばかりだったので、ちょっと新鮮(笑)
あと、途中からローダンらに同行している従僕ロボット。一時タラゴンの隠し場所にされたり苦労が絶えない“彼”はRCO型、らしい。ひょっとして、リコ(Rico)なのかな?